説明

ガスバリア層構造体

【課題】 特に水蒸気透過量を従来技術のものと比較して少なくでき、電子デバイスのバリア層として最適なガスバリア層構造体を提供する。
【解決手段】 電子デバイス構造にてガスバリア性能を発揮する本発明のガスバリア層構造体6は、不動態化金属の層61と、この不動態化金属の酸化物層62とを順次積層して構成される。不動態化金属は、Al、Cr、Ti、Ni、Fe、Zr及びTaの中から選択されたもの、または、これらの二種以上の合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」という)素子、太陽電池や薄膜リチウム電池等の電子デバイスにて、特に水蒸気に対してガスバリア性能を発揮するガスバリア層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電子デバイスには、大気中の水蒸気や酸素等のガスにより劣化し易いものが含まれ、耐久性を高めるために、特に水蒸気を確実に遮断する構造を電子デバイスに設けておく必要があることは従来から知られている。
【0003】
ここで、特許文献1には、有機EL素子において、この有機EL素子及びその周囲の基板表面を覆うように高分子化合物膜を設けた後、この高分子化合物膜、その縁部及びその周辺の基板表面を覆うように、アルミナ層等からなる無機バリア膜を設けることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、有機発光デバイス(LED)のピクセルアレイを、インジウム(In)などの安定金属層でキャッピングした後、酸素及び水蒸気に対する拡散障壁として機能する、有機ポリマまたは有機金属錯体のいずれかのバッファ層を設けることが開示されている。
【0005】
然しながら、上記従来例のように、酸化物、窒化物の単層や樹脂からバリア層を形成した場合、水蒸気透過量が未だ多く、デバイスの劣化等を確実に防止するのに充分な水蒸気バリア性が得られていないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−134099号公報
【特許文献2】特開平9−185994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、特に水蒸気透過量を従来技術のものと比較して少なくでき、電子デバイスのバリア層として最適なガスバリア層構造体を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、電子デバイス構造にてガスバリア性能を発揮するガスバリア層構造体であって、不動態化金属の層と、この不動態化金属の酸化物層とを順次積層してなることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、不動態化金属の層上に、この不動態化金属の酸化物層を積層することで、不動態化金属の層と酸化物層との合計厚さと同程度の厚さを有する、酸化物や窒化物の単層からなる上記従来例のバリア層と比較して、1/5程度まで水蒸気透過量を低減できることが確認された。これは、不動態化金属の層上にこの酸化物層を積層したときに両者の界面付近に存する酸化物層が改質されて、強い水蒸気バリア性を発揮するようになったものと考えられる。
【0010】
なお、本発明における電子デバイスとは、有機EL素子、太陽電池や薄膜リチウム電池等の特定の機能を持った電子部品をいい、前記例示のものに限定されるものではない。また、前記不動態化金属がAlである場合には、このAl層の厚さが、例えば5nm程度と、不動態化金属の酸化物層と比較して薄くする必要がある。ここで、水蒸気透過量を少なくするには、Al層を厚くすればよいが、Al層の厚さが増えるに従い、絶縁性が低下する。このため、用途によっては不向きなものとなる場合がある。また、本発明が適用される電子デバイスにて光透過性が要求されるような場合にもAl層の厚さを調節する必要がある。
【0011】
本発明においては、前記不動態化金属は、Al、Cr、Ti、Ni、Fe、Zr及びTaの中から選択されたもの、または、これらの二種以上の合金であればよい。
【0012】
また、本発明においては、前記不動態化金属の層と、この不動態化金属の酸化物層とがスパッタリング法により連続して形成されたものであることが好ましい。これによれば、スパッタリング中に酸素の反応ガスを導入するだけで、緻密な膜からなる不動態化層と酸化物膜層とが真空中で連続して形成でき、製作コストや生産性向上の上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のガスバリア層構造体を適用した有機EL素子の構成を説明する図。
【図2】本発明のガスバリア層構造体による水蒸気透過量の測定結果を示す図。
【図3】本発明のガスバリア層構造体にて不動態化層の膜厚を変化させたときのシート抵抗値を示すグラフ。
【図4】本発明のガスバリア層構造体が適用できる薄膜リチウムイオン電池の構成を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明のガスバリア層構造体を有機EL素子に適用した場合を例として、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図1を参照して、D1は、有機EL素子である。有機EL素子D1は、ガラスなどの無機物等の基板1表面に、陽極を構成する第1の表示電極2と、有機化合物から構成される1層以上の有機機能層3と、陰極を構成する第2の表示電極4とを順次積層して構成され、有機機能層3を陽極及び陰極で挟んだ形態である。
【0016】
第1の表示電極2は、例えばITO膜から構成され、EB蒸着法、スパッタリング法などの公知の方法で形成され、フォトリソグラフィー工程で所定形状にパターニングされている。有機機能層3は、公知の構造を有し、例えば、蒸着法によって、銅フタロシアニンからなる正孔注入層と、TPD(トリフェニルアミン誘導体)からなる正孔輸送層と、Alq3(アルミキレート錯体)からなる発光層と、LiOからなる電子注入層とを順次積層して構成される。第2の表示電極4は、例えばAl膜から構成され、EB蒸着法、スパッタリング法などの公知の方法で形成され、フォトリソグラフィー工程で所定形状にパターニングされている。
【0017】
また、有機EL素子D1及びその周囲を含む基板1表面には、高分子化合物膜5と、この高分子化合物膜5、その縁部及びその周辺の基板1表面を覆うバリア膜6とが順次積層されている。そして、このバリア膜6が、水蒸気や酸素等のガスに対してガスバリア性能を発揮する。なお、高分子化合物膜5については、本出願人より特許出願がなされ、出願公開された特開2007−134099号に記載のものを例えば利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0018】
バリア膜6は、不動態化金属の層たるAl層61と、このAl酸化物(Al)層62とを順次積層してなるガスバリア層構造体で構成されている。Al層61と、Al層62とは、同一のスパッタリング装置にて真空中で連続して形成される。即ち、ターゲットとしてAl(99.99%)製のものが装着された公知のスパッタリング装置(図示せず)を用いて成膜される。
【0019】
つまり、スパッタリングによりガスバリア層構造体を形成する当初は、Ar等のスパッタガスのみをスパッタリング装置の真空チャンバ内に導入し、所定電力をターゲットに投入してAlからなるAl層61を形成する。次に、ターゲットへの投入電力やチャンバ圧力等から算出されるスパッタレートから、Al層61が所定厚さに達すると、酸素からなる反応ガスを真空チャンバ内に導入して反応性スパッタリングによりAl層62を所定厚さで形成する。この場合、Al層61の厚さが5nm以下とすることが好ましい。Al層61の厚さが5nmを超えると、絶縁性が低下するという不具合が生じる。
【0020】
次に、本実施形態のガスバリア層構造体6のガスバリア性能を評価するため、次の実験を行った。基板として、厚さ50μmのPET製フィルムを用いた。そして、Al(99.99%)製のターゲットを装着した公知のスパッタリング装置にてこのフィルム表面にAl膜を3nmの膜厚で形成し、引き続き、酸素からなる反応ガスを導入して反応性スパッタリングにて50nmの膜厚でAl層を形成した(発明品)。
【0021】
比較実験として、上記と同一のフィルム表面に、同一のスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリングにて50nmの膜厚でAl層を形成したもの(比較品1)と、上記と同一のフィルム表面に、同一のスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリングにて50nmの膜厚でAl層を形成し、引き続き、酸素の導入を停止して、Al膜を3nmの膜厚で形成したもの(比較品2)とを作製した。
【0022】
図2は、発明品並びに比較品1及び比較品2の水蒸気透過量の測定結果を示す。なお、水蒸気透過量は、圧力上昇法(真空第35巻第3号 317頁(1992))により測定した。これによれば、発明品は、その水蒸気透過量が、5.0×10−2 g/cm/dayであり、従来から広く利用されている比較品1と比較して、1/5倍にできたことが判る。また、発明品と、Al層及びAl層の積層順序の異なる比較品2と比較結果から、保護しようとするもの(基板や有機El素子等のデバイス構造)に対して、Al層、Al層の積層順序の積層体としなければ、充分なガスバリア性を発揮しないことが確認された。
【0023】
次に、本実施形態のガスバリア層構造体6の絶縁性を評価するため、次の実験を行った。基板として、厚さ50μmのPET製フィルムを用いた。そして、Al(99.99%)製のターゲットを装着した公知のスパッタリング装置にてこのフィルム表面にAl膜を所定膜厚で形成し、引き続き、酸素からなる反応ガスを導入して反応性スパッタリングにて50nmの膜厚でAl層を形成した。図3は、Al膜の膜厚を変化させてシート抵抗値(Ω/□)を測定したときのグラフである。尚、シート抵抗値は、四端子四探針法により測定した。これによれば、Al層の膜厚が5nmを超えると、シート抵抗値が急激に低下していくことが確認された。これにより、本実施形態のガスバリア層構造体6を特定のデバイス構造に用いる場合には、Al層の膜厚を考慮する必要があることが判る。
【0024】
以上説明したように、上記実施形態によれば、不動態化金属たるAl層61上に、この不動態化金属の酸化物層たるAl層62を積層することと、これらのAl膜61とAl層62とを同一のスパッタリング装置にて連続して形成することで緻密な膜となることとが相俟って、不動態化金属の層と酸化物層との合計膜厚が同程度の従来例と比較して、水蒸気透過量を大きく低下できる。
【0025】
なお、上記実施形態では、ガスバリア層構造体6を有機EL素子に適用したものを例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図4に示すように、基材上に正極集電層と、結晶化させた正極と、固体電解質層と、負極集電層と、Li負極を順次形成した薄膜リチウムイオン電池D2にて封止膜として本発明のガスバリア層構造体60を適用することができる。
【0026】
また、上記実施形態では、不動態化金属としてAlを用いたものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、Cr、Ti、Ni、Fe、Zr及びTaの中から選択されたもの、または、これらの二種以上の合金であっても、上記効果を奏することができる。この場合、不動態化金属たるCr、Ti、Ni、Fe、ZrやTaの膜厚は、上記と同様、使用するデバイスに応じて適宜設定される。
【符号の説明】
【0027】
D1…有機EL素子、D2…薄膜リチウムイオン電池、6、60…ガスバリア層構造体、61…Al層(不動態化金属の層)、62…Al層(不動態化金属の酸化物層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイス構造にてガスバリア性能を発揮するガスバリア層構造体であって、
不動態化金属の層と、この不動態化金属の酸化物層とを順次積層してなることを特徴とするガスバリア層構造体。
【請求項2】
前記不動態化金属は、Al、Cr、Ti、Ni、Fe、Zr及びTaの中から選択されたもの、または、これらの二種以上の合金であることを特徴とする請求項1記載のガスバリア層構造体。
【請求項3】
前記不動態化金属の層と、この不動態化金属の酸化物層とがスパッタリング法により連続して形成されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のガスバリア層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−83990(P2011−83990A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239071(P2009−239071)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】