説明

ガスバリア性プラスチック成形体及びその製造方法

【課題】発熱体CVD法を用いて、プラスチック成形体の表面に高いガスバリア性と耐水性とを兼ね備えたガスバリア薄膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】プラスチック成形体91の表面に、密着層81とガスバリア発現層82とを順次有するガスバリア薄膜92を形成するガスバリア性プラスチック成形体90の製造方法において、プラスチック成形体の表面に、発熱体CVD法で、原料ガスとして一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いて、密着層として構成元素の1つがSiである層を形成する工程1を有する。(化1)RSiH(一般式(化1)中、Rはメチル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメチル基を表すか、又は、Rはビニル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメトキシ基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性プラスチック成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形体の表面に酸化物からなる薄膜を形成すると、ガスバリア性を付与できることが知られている。プラズマ化学蒸着法(プラズマCVD法)を用いて、プラスチック容器の内表面に、無機酸化物を主体とするガスバリア性薄膜を積層する方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、プラスチック基板上に、プラズマCVD法により有機金属蒸着層と酸化物層とを順次形成したプラスチック成形品が開示されている(例えば、特許文献2を参照。)。しかし、プラズマCVD法によって酸化物薄膜を形成する方法は、薄膜形成時にプラズマが膜表面に損傷を与え、また、薄膜中の水分子の含有量が多くなりやすく、水溶液中で高いガスバリア性を安定して維持できるプラスチック容器を得ることが難しい。原料ガスを、マイクロ波を含む高周波によりプラズマ化して、プラスチック容器の表面と反応させて薄膜を形成するため、必ず高周波電源及び高周波電力整合装置を必要とし、装置のコストが高額にならざるを得ないという問題を有する。
【0003】
この問題を解決するために、本出願人は、発熱させた発熱体に原料ガスを接触させて分解し、生成した化学種を直接又は気相中で反応過程を経た後に、基材上に薄膜として堆積させる方法、すなわち、発熱体CVD法、Cat‐CVD法又はホットワイヤーCVD法と呼ばれるCVD法(以降、本明細書では、発熱体CVD法という。)を用いて、プラスチック容器の壁面に酸化珪素(SiOx)薄膜又は酸化アルミ(AlOx)薄膜を成膜する技術を提案している(例えば、特許文献3を参照。)。
【0004】
一般に、酸化物薄膜は、プラスチック基板との密着性が炭素膜と比較して低く、用途の範囲が限定されてきた。酸化物薄膜中に炭素が残留するとプラスチック基板との密着を向上できるが、密着性向上のために炭素の残留量を多くすると着色の問題があり、酸化物薄膜の長所とされる無色・透明性が失われかねない。また、酸化物薄膜中に残留する炭素が多くなるほど、プラズマCVD法においては一般的にガスバリア性が低くなる傾向がある。そこで、酸化物薄膜とプラスチック基板との間に炭素の含有量が多い薄膜をごく薄く密着層として形成する技術が知られている(例えば、特許文献4参照。)。この場合、炭素の含有量が多い薄膜の成分がプラスチック基板と混合層を形成する結果、酸化物薄膜をプラスチック基板と強固に密着させることができる。これは、プラズマ中のイオンがプラスチック基板に電気的に誘引されて、プラスチック基板中に侵入しつつプラスチック基板と反応するためであり、原理上全ての炭化水素および珪素含有炭化水素を当該密着層の原料ガスとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−200043号公報
【特許文献2】WO2008/013314号公報
【特許文献3】特開2008−127053号公報
【特許文献4】特開2006−192858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、高いガスバリア性と透明性とを兼ね備えたガスバリア薄膜を、発熱体CVD法を用いて形成する検討事例はあるものの、プラズマCVD法と異なり、プラスチック成形体との高い密着性を、発熱体CVD法を用いて確保できる成膜方法又は原料ガスについての知見はなんら開示されていない。特に、発熱体CVD法においては、プラズマは発生せずイオンの存在は無いか、又は実質無いため、プラズマCVD法のようにプラスチック基板との混合層を形成することは期待できない。
【0007】
本発明の目的は、発熱体CVD法を用いて、プラスチック成形体の表面に、高いガスバリア性と透明性、更に密着性を兼ね備えたガスバリア薄膜を形成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法は、プラスチック成形体の表面に、密着層とガスバリア発現層とを順次有するガスバリア薄膜を形成するガスバリア性プラスチック成形体の製造方法において、前記プラスチック成形体の表面に、発熱体CVD法で、原料ガスとして一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いて、前記密着層として構成元素の1つがSiである層を形成する工程1を有することを特徴とする。
(化1) RSiH
(一般式(化1)中、Rはメチル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメチル基を表すか、又は、Rはビニル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメトキシ基を表す。)
【0009】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、前記密着層の膜厚を、1nm以上とすることが好ましい。薄膜の密着性をより向上させて、ガスバリア性の発現及び安定性を更に高めることができる。
【0010】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、前記密着層上に、発熱体CVD法で、前記ガスバリア発現層としてAl、Si又はTiのうち少なくとも1種を含む酸化物を含有する層を形成する工程2を、前記工程1の後に有することが好ましい。工程1のみの場合よりも、高いガスバリア性を発現することができる。
【0011】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、前記ガスバリア薄膜が、前記ガスバリア発現層上に保護層を更に有し、前記ガスバリア発現層上に、発熱体CVD法で、前記保護層として構成元素の1つがSiである層を形成する工程3を、前記工程2の後に有することが好ましい。ガスバリア発現層の表面を保護して、ガスバリア性の安定性をより高めることができる。
【0012】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、前記保護層の膜厚を、3nm以上とすることが好ましい。前述したとおり、プラスチック成形体のガスバリア性の安定性を高めることができる。好適な例として、水溶液中の物理化学的安定性(以降、本明細書では、耐水性という。)に優れたガスバリア薄膜を得ることができる。耐水性が不十分な場合は、プラスチック成形体が飲料用容器であったとき当該容器のガスバリア性が飲料充填後、徐々に低下していくことになり品質保持上の問題となる。
【0013】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、前記工程2が、前記ガスバリア層を形成するための原料ガスとしてジメチルアルミイソプロポキシドを用い、かつ、発熱体としてタンタル又はモリブデンの少なくともいずれか一方の金属元素を含む材料を用い、該発熱体の発熱温度を、900〜1600℃とすることが好ましい。無色透明で、ガスバリア性が高い成形体を得ることができる。
【0014】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、前記プラスチック成形体が、フィルム、シート又は容器である形態を包含する。
【0015】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体は、本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法で形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、発熱体CVD法を用いて、プラスチック成形体の表面に、高いガスバリア性と透明性、更に密着性を兼ね備えたガスバリア薄膜を形成する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】成膜装置の一形態を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の一例を示す断面図である。
【図3】本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の別の例を示す断面図である。
【図4】シリコン基板上に、実施例4の方法で形成した密着層又はプラズマCVD法によって形成した密着層について、シリコン基板側から密着層側に炭素及び酸素に関してSIMS解析を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0019】
まず、プラスチック成形体の表面にガスバリア薄膜を形成することができる成膜装置について説明する。図1は、成膜装置の一形態を示す概略図である。図1に示す成膜装置は、プラスチック成形体が容器である場合に、該容器の内表面に薄膜を成膜できる装置である。
【0020】
図1に示した成膜装置100は、プラスチック成形体としてのプラスチック容器11を収容する真空チャンバ6と、真空チャンバ6を真空引きする排気ポンプ(不図示)と、プラスチック容器11の内部に挿脱可能に配置され、プラスチック容器11の内部へ原料ガスを供給する、絶縁、かつ、耐熱の材料で形成された原料ガス供給管23と、原料ガス供給管23に支持された発熱体18と、発熱体18に通電して発熱させるヒータ電源20と、を有する。
【0021】
真空チャンバ6は、その内部にプラスチック容器11を収容する空間が形成されており、その空間は薄膜形成のための反応室12となる。真空チャンバ6は、下部チャンバ13と、この下部チャンバ13の上部に着脱自在に取り付けられて下部チャンバ13の内部をOリング14で密閉するようになっている上部チャンバ15とから構成されている。上部チャンバ15には図示していない上下の駆動機構があり、プラスチック容器11の搬入・搬出に伴い上下する。下部チャンバ13の内部空間は、そこに収容されるプラスチック容器11の外形よりも僅かに大きくなるように形成されている。
【0022】
真空チャンバ6の内側、特に下部チャンバ13の内側は、発熱体18の発熱に伴って放射される光の反射を防ぐために、内面28が黒色内壁となっているか、又は内面が表面粗さ(Rmax)0.5μm以上の凹凸を有していることが好ましい。表面粗さ(Rmax)は、例えば表面粗さ測定器(アルバックテクノ(株)製、DEKTAX3)を用いて測定する。内面28を黒色内壁とするためには、黒ニッケルメッキ・黒クロームメッキなどのメッキ処理、レイデント・黒染などの化成皮膜処理、又は、黒色塗料を塗布して着色する方法がある。さらに、冷却水が流される冷却管などの冷却手段29を真空チャンバ6の内部又は外部に設けて、下部チャンバ13の温度上昇を防止することが好ましい。真空チャンバ6のうち、特に下部チャンバ13を対象とするのは発熱体18がプラスチック容器11に挿入されているときに、ちょうど下部チャンバ13の内部空間に収容された状態となるからである。光の反射の防止及び真空チャンバ6の冷却を行うことで、プラスチック容器11の温度上昇と、それに伴う熱変形を抑制できる。さらに、通電された発熱体18から発生した放射光が通過できる透明体からなるチャンバ30、例えばガラス製チャンバを下部チャンバ13の内側に配置すると、プラスチック容器11に接するガラス製チャンバの温度が上昇しにくいため、プラスチック容器11に与える熱的影響をさらに軽減させることができる。
【0023】
原料ガス供給管23は、上部チャンバ15の内側天井面の中央において下方に垂下するように支持されている。原料ガス供給管23には、流量調整器24a,24b,24c又は24dとバルブ25a,25b,25c又は25d及び25eを介して原料ガス33又は必要に応じてキャリアガスが流入される。原料ガス33の供給は、原料ガス33として用いる物質が液体である場合には、バブリング法によって供給することができる。すなわち、原料タンク40a,40b又は40c内に収容された出発原料41a,41b又は41cに、流量調節器24a,24b又は24cで流量制御しながらボンベ42a,42b又は42cからバブリングガスを供給し、出発原料41a,41b又は41cの蒸気を発生させて原料ガス33として供給する。キャリアガスは、ボンベ42dに収容されて、流量調節器24dで流量制御しながら供給される。図1に示す成膜装置において、バルブ25a,25b及び25cを介して供給する原料ガスとして用いる物質が気体である場合には、原料タンク40a,40b又は40cを設けずに、原料ガスをボンベ42a,42b又は42cに充填して流量調整器24a,24b又は24cで流量制御しながら供給する形態に変形をすればよい。
【0024】
原料ガス供給管23は、冷却管を有し、一体に形成されていることが好ましい。このような原料ガス供給管23の構造としては、例えば二重管構造がある。原料ガス供給管23において、二重管の内側管路は原料ガス流路17となっており、その一端は上部チャンバ15に設けられたガス供給口16に接続されていて、その他端はガス吹き出し孔17xとなっている。これにより原料ガスはガス供給口16に接続された原料ガス流路17の先端のガス吹き出し孔17xから吹き出されるようになっている。一方、二重管の外側管路は、原料ガス供給管23を冷却するための冷却水流路27であり、冷却管として役割をなしている。そして、発熱体18が通電され発熱しているとき、原料ガス流路17の温度が上昇する。これを防止するため、冷却水流路27に冷却水が循環している。すなわち、冷却水流路27の一端では、上部チャンバ15に接続された不図示の冷却水供給手段から冷却水の供給がなされ、同時に冷却水供給手段に冷却を終えた冷却水が戻される。一方、冷却水流路27の他端は、ガス吹き出し孔17x付近において封止されていて、ここで冷却水が折り返して戻される。冷却水流路27によって、原料ガス供給管23全体が冷却される。冷却することでプラスチック容器11に与える熱的影響を低減させることができる。したがって、原料ガス供給管23の材質は絶縁体で熱伝導率が大きいものが良い。例えば、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素若しくは酸化アルミニウムを主成分とする材料で形成されたセラミック管であるか、又は、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素若しくは酸化アルミニウムを主成分とする材料で表面が被覆された金属管であることが好ましい。発熱体に安定して通電することができ、耐久性があり、かつ、発熱体で発生した熱を熱伝導によって効率よく排熱させることができる。
【0025】
原料ガス供給管23について、不図示の他形態として、次のようにしてもよい。すなわち、原料ガス供給管を二重管とし、その外側管を原料ガス流路として外側管の側壁に孔、好ましくは複数の孔を開ける。一方、原料ガス供給管の二重管の内側管は、緻密な管で形成し、冷却水流路として冷却水を流す。発熱体は原料ガス供給管の側壁に沿って配線されるが、側壁に沿った部分の発熱体に、外側管の側壁に設けた孔を通った原料ガスが接触し、効率よく化学種を生成させることができる。
【0026】
ガス吹き出し孔17xは、プラスチック容器11の底と離れすぎていると、プラスチック容器11の内部に薄膜を形成することが難しい。本実施形態では、原料ガス供給管23の長さは、ガス吹き出し孔17xからプラスチック容器11の底までの距離L1が5〜50mmとなるように形成することが好ましい。膜厚の均一性が向上する。5〜50mmの距離で均一な薄膜をプラスチック容器11の内表面に成膜することができる。距離が50mmより大きいとプラスチック容器11の底に薄膜が形成しにくくなる場合がある。また、距離が5mmより小さいと原料ガスの吹き出しができにくくなる場合、又は膜厚分布が不均一になる場合がある。この事実は、理論的にも把握することができる。500mlの容器の場合、容器の胴径が6.4cm、常温の空気の平均自由工程λ=0.68/Pa[cm]から、分子流は圧力<0.106Pa、粘性流は圧力>10.6Pa、中間流は0.106Pa<圧力<10.6Paとなる。成膜時のガス圧5〜100Paでは、ガスの流れは中間流から粘性流となり、ガス吹き出し孔17xとプラスチック容器11の底の距離に最適条件があることになる。
【0027】
発熱体18は、発熱体CVD法において、原料ガスの分解を促進する。本実施形態においては、発熱体18は、C,W,Ta,Ti,Hf,V,Cr,Mo,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Ptの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料で構成されることが好ましい。導電性を有することで、通電によりそれ自体を発熱させることが可能となる。発熱体18は配線形状に形成され、原料ガス供給管23の上部チャンバ15における固定箇所の下方に設けた、配線19と発熱体18との接続箇所となる接続部26aに、発熱体18の一端が接続される。そして先端部分であるガス吹き出し孔17xに設けた絶縁セラミックス部材35で支持される。さらに、折り返して、接続部26bに発熱体18の他端が接続される。このように、発熱体18は原料ガス供給管23の側面に沿って支持されているため、下部チャンバ13の内部空間のほぼ主軸上に位置するように配置されることとなる。図1では、発熱体18は、原料ガス供給管23の軸と平行となるように原料ガス供給管23の周囲に沿って配置した場合を示したが、接続部26aを起点として原料ガス供給管23の側面に螺旋状に巻きつけ、ガス吹き出し孔17x付近に固定された絶縁セラミックス35で支持したあと、接続部26bに向けて折り返して戻しても良い。ここで発熱体18は、絶縁セラミックス35に引っ掛けることで原料ガス供給管23に固定されている。図1では、発熱体18は、原料ガス供給管23のガス吹き出し孔17x付近において、ガス吹き出し孔17xの出口側に配置されている場合を示した。これによって、ガス吹き出し孔17xから吹き出た原料ガスは発熱体18と接触しやすくなるため、原料ガスを効率よく活性化させることができる。ここで、発熱体18は、原料ガス供給管23の側面から僅かに離して配置することが好ましい。原料ガス供給管23の急激な温度上昇を防止するためである。また、ガス吹き出し孔17xから吹き出た原料ガス及び反応室12にある原料ガスとの接触機会を増やすことができる。この発熱体18を含む原料ガス供給管23の外径は、プラスチック容器の口部21の内径よりも小さいことが必要である。発熱体18を含む原料ガス供給管23をプラスチック容器の口部21から挿入するためである。したがって、必要以上に発熱体18を原料ガス供給管23の表面から離すと、原料ガス供給管23をプラスチック容器の口部21から挿入するときに接触しやすくなってしまう。発熱体18の横幅は、プラスチック容器の口部21から挿入する時の位置ズレを考慮すると、10mm以上、(口部21の内径−6)mm以下が適当である。例えば、口部21の内径はおおよそ21.7〜39.8mmである。
【0028】
発熱体18を発熱させたときの上限温度は、その発熱体の軟化温度よりも低温とすることが好ましい。軟化温度以上では、発熱体が変形して制御ができない場合がある。上限温度は、発熱体の材料によって異なるが、例えば、モリブデンであれば、2300℃が好ましい。そして、発熱体18がモリブデンであれば、発熱体18を作動させる温度は、500〜2200℃であることが好ましく、より好ましくは、550〜2000℃であり、更に好ましくは、600〜1200℃である。
【0029】
発熱体18は、例えば、通電することで発熱させることができる。図1に示す装置では、発熱体18には、接続部26a,26b及び配線19を介して、ヒータ電源20が接続されている。ヒータ電源20によって発熱体18に電気を流すことで、発熱体18が発熱する。なお、本発明は、発熱体18の発熱方法に限定されない。
【0030】
また、プラスチック容器の口部21から容器の肩にかけてはプラスチック容器11の成形時の延伸倍率が小さいため、高温に発熱する発熱体18が近くに配置されると、熱による変形を起こしやすい。実験によれば、配線19と発熱体18との接続箇所である接続部26a,26bの位置が、プラスチック容器の口部21の下端から10mm以上離さないとプラスチック容器11の肩の部分が熱変形を起こし、50mmを超えると、プラスチック容器11の肩の部分に薄膜が形成しにくくなった。そこで発熱体18は、その上端がプラスチック容器の口部21の下端から10〜50mm下方に位置するように配置されることが良い。すなわち、接続部26a,26bと口部21の下端との距離L2が10〜50mmとなるようにすることが好ましい。容器の肩部の熱変形を抑制できる。
【0031】
また上部チャンバ15の内部空間には、排気管22が真空バルブ8を介して連通されており、図示しない排気ポンプによって真空チャンバ6の内部の反応室12の空気が排気されるようになっている。
【0032】
図1に示す成膜装置は、高周波電源が不要であり、プラズマCVD装置よりも装置が安価となる。ガスバリア薄膜92をプラスチック容器の内表面に形成する装置について説明してきたが、ガスバリア薄膜92をプラスチック容器の外表面に形成するには、例えば、特許文献3の図4に示す成膜装置を用いて行うことができる。また、プラスチック成形体がフィルム又はシートである場合には、例えば、反応室12を円筒状としてその内壁にフィルム又はシートを沿わせて固定することで、フィルム又はシートの表面にガスバリア薄膜92を形成することができる。また、真空チャンバ6内にロール状のフィルム又はシートを繰り出すロールと薄膜が形成されたフィルム又はシートを巻き取るロールとからなる巻取装置を設ける変形をしてもよい。また、成膜装置は、図1に示す装置に限定されず、例えば、特許文献3に示すように種々の変形をすることができる。
【0033】
次に、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法について、図1を参照しながら説明する。図2は、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の一例を示す断面図である。本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法は、プラスチック成形体91の表面(図1では、プラスチック容器11の内表面)に、密着層81とガスバリア発現層82とを順次有するガスバリア薄膜92を形成するガスバリア性プラスチック成形体90の製造方法において、プラスチック成形体91の表面に、発熱体CVD法で、原料ガス33として一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いて、密着層81として構成元素の1つがSiである層を形成する工程1を有する。
(化1) RSiH
(一般式(化1)中、Rはメチル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメチル基を表すか、又は、Rはビニル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメトキシ基を表す。)
【0034】
ガスバリア性プラスチック成形体の製造方法は、工程1の前に、成膜装置へのプラスチック成形体を装着する工程と、反応室の圧力を調整する工程と、発熱体へ通電する工程と、があり、順次説明する。
【0035】
(成膜装置へのプラスチック成形体の装着)
まず、ベント(不図示)を開いて真空チャンバ6内を大気開放する。反応室12には、上部チャンバ15を外した状態で、下部チャンバ13の上部開口部からプラスチック成形体91としてのプラスチック容器11が差し込まれて、収容される。この後、位置決めされた上部チャンバ15が降下し、上部チャンバ15につけられた原料ガス供給管23とそれに固定された発熱体18がプラスチック容器の口部21からプラスチック容器11内に挿入される。そして、上部チャンバ15が下部チャンバ13にOリング14を介して当接することで、反応室12が密閉空間とされる。このとき、下部チャンバ13の内壁面とプラスチック容器11の外壁面との間隔は、ほぼ均一に保たれており、かつ、プラスチック容器11の内壁面と発熱体18との間の間隔も、ほぼ均一に保たれている。
【0036】
(圧力調整工程)
次いでベント(不図示)を閉じたのち、排気ポンプ(不図示)を作動させ、真空バルブ8を開とすることにより、反応室12内の空気が排気される。このとき、プラスチック容器11の内部空間のみならずプラスチック容器11の外壁面と下部チャンバ13の内壁面との間の空間も排気されて、真空にされる。すなわち、反応室12全体が排気される。そして反応室12内が必要な圧力、例えば1.0〜100Paに到達するまで減圧することが好ましい。より好ましくは、1.4〜50Paである。1.0Pa未満では、排気時間がかかる場合がある。また、100Paを超えると、プラスチック容器11内に不純物が多くなり、高いバリア性を付与することができない場合がある。大気圧から、1.4〜50Paに到達するように減圧すると、適度な真空圧とともに、大気、装置及び容器に由来する適度な残留水蒸気圧を得ることができ、簡易にバリア性のある酸化薄膜を形成できる。
【0037】
(発熱体への通電)
次に発熱体18を、例えば通電することで発熱させる。発熱体18の発熱温度は、500℃以上であることが好ましい。より好ましくは、900℃以上であり、更に好ましくは1100℃以上である。また、発熱温度の上限温度は、その発熱体の軟化温度よりも低温とすることが好ましい。軟化温度以上では、発熱体18が変形して制御ができない場合がある。上限温度は、発熱体18の材料によって異なるが、例えば、モリブデンであれば、2300℃が好ましい。より好ましくは、2100℃である。
【0038】
<工程1:密着層形成工程>
(密着層形成用原料ガスの導入)
この後、密着層81を形成するための原料ガス(以降、密着層形成用原料ガスという。)33として、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を供給する。化1中、Rがメチル基であり、かつ、R,Rが水素若しくはメチル基である有機シラン系化合物は、例えば、モノメチルシラン(CHSiH)、ジメチルシラン((CHSiH)、トリメチルシラン((CHSiH)である。化1中、Rがビニル基であり、かつ、R,Rが水素若しくはメトキシ基である有機シラン系化合物は、例えば、ビニルシラン(CHCHSiH)、エテニル(メトキシ)シラン(CHCHSiH(OCH))、ジメトキシビニルシラン(CHCHSiH(OCH)である。この中で、ジメチルシラン、ビニルシラン、エテニル(メトキシ)シラン、ジメトキシビニルシランがより好ましく、ジメチルシラン、ビニルシラン、ジメトキシビニルシランが特に好ましい。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0039】
密着層形成用原料ガス33を、ガス流量調整器24aで流量制御して供給する。さらに、必要に応じてキャリアガスをガス流量調整器24dで流量制御しながら、バルブ25eの手前で密着層形成用原料ガス33に混合する。キャリアガスは、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスである。すると、密着層形成用原料ガス33は、ガス流量調整器24aで流量制御された状態で、又はキャリアガスによって流量が制御された状態で、所定の圧力に減圧されたプラスチック容器11内において、原料ガス供給管23のガス吹き出し孔17xから発熱した発熱体18に向けて吹き出される。このように発熱体18を昇温完了後、密着層形成用原料ガス33の吹き付けを開始することが好ましい。成膜初期から、発熱体18によって十分に活性化された化学種34を生成させることができ、プラスチック成形体との密着性をより高めることができる。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0〜80sccmであることが好ましい。なお、本明細書において、キャリアガスの流量が0sccmとはキャリアガスを用いず液体原料の蒸気圧だけで原料ガスを供給することを意味し、通常、この場合ではガス流量調整器24dは使用されない。より好ましくは、5〜50sccmである。キャリアガスの流量によって、プラスチック容器11内の圧力を10〜30Paに調整することができる。
【0040】
密着層形成用原料ガス33として用いる物質が、液体である場合には、バブリング法で供給することができる。バブリング法に用いるバブリングガスは、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスであり、窒素ガスがより好ましい。すなわち、原料タンク40a内の出発原料41aを、ボンベ42aに充填されたバブリングガスを用いてガス流量調整器24aで流量制御しながらバブリングすると、出発原料41aが気化してバブル中に取り込まれる。こうして、密着層形成用原料ガス33は、バブリングガスと混合した状態で供給される。さらに、キャリアガスをガス流量調整器24dで流量制御しながら、バルブ25eの手前で密着層形成用原料ガス33に混合する。すると、密着層形成用原料ガス33は、キャリアガスによって流量が制御された状態で、所定の圧力に減圧されたプラスチック容器11内において、原料ガス供給管23のガス吹き出し孔17xから発熱した発熱体18に向けて吹き出される。ここで、バブリングガスの流量は、0〜50sccmであることが好ましく、より好ましくは、0〜50sccmである。
【0041】
(密着層の成膜)
密着層形成用原料ガス33が発熱体18と接触するとSiを含有する化学種34が生成される。この化学種34が、プラスチック容器11の内壁に到達することで、構成元素の1つがSiである密着層81を堆積することになる。密着層81の成膜において発熱体18を発熱させて密着層形成用原料ガス33を発熱体18に吹き付ける時間(以降、成膜時間ということもある。)は、0.5〜20秒であることが好ましく、より好ましくは、1.0〜8.5秒である。成膜時の真空チャンバ内の圧力は、例えば1.0〜100Paに到達するまで減圧することが好ましい。より好ましくは、1.4〜50Paである。
【0042】
発熱体CVD法では、プラスチック容器11と形成される薄膜との密着性は非常によい。原料ガス流路17から水素ガスを導入すると、水素ガスは発熱体18との接触分解反応により活性化され、この活性種によってプラスチック容器11の表面のクリーニングが行える。より具体的には、活性化水素H*や水素ラジカル(原子状水素)Hによる水素引き抜き反応やエッチング作用を期待することができ、これらの反応及び作用を薄膜の密着性向上に利用できる。
【0043】
また、原料ガス流路17からNHガスを導入すると、発熱体18との接触分解反応によって生じた活性種により、プラスチック容器11の表面を改質して安定化させる表面処理が行える。より具体的には、表面に対する窒素含有官能基の付加や、プラスチックの高分子鎖の架橋反応を期待することができる。
【0044】
(密着層形成用原料ガスの供給停止)
薄膜が所定の厚さに達したところで、密着層形成用原料ガス33の供給を止める。
【0045】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、密着層81の膜厚を、1nm以上とすることが好ましい。より好ましくは、2nmであり、特に好ましくは、4nmである。密着層81の膜厚が1nm未満では、密着層を形成する十分な効果が得られない場合がある。密着層81の上限値は、特に限定されないが、経済性の観点及び内部応力によるクラック発生を防止する観点で、200nmとすることが好ましく、より好ましくは50nmであり、特に好ましくは10nmである。密着層81の膜厚が200nmを超えても、それ以上の効果はなく、不経済である。
【0046】
<工程2:ガスバリア発現層形成工程>
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、密着層81上に、発熱体CVD法で、ガスバリア発現層82としてAl、Si又はTiのうち少なくとも1種を含む酸化物を含有する層を形成する工程2を、前記工程1の後に有することが好ましい。工程2は、工程1後、大気開放をしないで連続的に行う形態又は工程1後、一旦大気開放して断続的に行う形態のいずれで行ってもよいが、作業効率の点から、連続的に行うことが好ましい。次に、工程2について、工程1と連続的に行う場合について説明する。
【0047】
(ガスバリア発現層形成用原料ガスの導入)
密着層形成用原料ガスの供給を停止後、続けて、ガスバリア発現層82を形成するための原料ガス(以降、ガスバリア発現層形成用原料ガスという。)33を供給する。ガスバリア発現層形成用原料ガス33は、CVD法で用いられている公知の原料ガスのうち、構成元素としてAlを含有する原料、構成元素としてSiを含有する原料又は構成元素としてTiを含有する原料である。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0048】
構成元素としてAlを含有する原料は、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウム、トリターシャリーブトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリセカンダリーブトキシアルミニウム、トリスアセチルアセトネートアルミニウム、トリスジピヴァロイルメタネートアルミニウム、ジメチルアルミイソプロポキシド(DMAIP)、トリキス(トリメチルシロキシ)アルミニウムなどの金属アルミニウムアルコキシドである。この中で、材料コスト及び非自然発火性(安全性)の観点から、金属アルミニウムアルコキシドがより好ましく、DMAIPが特に好ましい。
【0049】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、工程2が、ガスバリア層形成用原料ガスとしてDMAIPを用い、かつ、発熱体18としてタンタル(Ta)又はモリブデン(Mo)の少なくともいずれか一方の金属元素を含む材料を用い、発熱体18の発熱温度を、900〜1600℃とすることが好ましい。無色透明で、ガスバリア性が高い成形体を得ることができる。
【0050】
構成元素としてSiを含有する原料は、例えば、モノメチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ビニルシラン、エテニル(メトキシ)シラン、ジメトキシビニルシランなどの密着層形成用原料ガスとして使用可能な一般式(化1)で表される有機シラン系化合物、ジメトキシ(メチル)シラン、エトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、テトラメトキシシラン、テトラメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、アリルトリメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、トリルエチルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、テトラエトキシシラン、トリメトキシフェニルシラン、γ−グリシドキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、γ−グリシドキシプロピル(トリメトキシ)メチルシラン、γ−メタクリロキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、γ−メタクリロキシプロピル(トリメトキシ)シラン、ジヒドロキシジフェニルシラン、ジフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトライソプロポキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、ポリ(メチルハイドロジェンシロキサン)、モノエチルシラン、ジエチルシラン、トリエチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジメトキシシランである。
【0051】
構成元素としてTiを含有する原料は、例えば、二塩化チタン、三塩化チタン、四塩化チタンなどのハロゲン化チタン、テトラエトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、テトラノルマルブトキシチタニウム、テトラキスジメチルアミドチタニウム(TDMAT)、テトラキス(トリメチルシロキシ)チタンなどの金属チタンアルコキシドである。この中で、材料コスト及び非自然発火性(安全性)の観点から、金属チタンアルコキシドがより好ましく、TDMATが特に好ましい。
【0052】
ガスバリア発現層形成用原料ガス33は、ガス流量調整器24bで流量制御して供給する以外は、密着層形成用原料ガスと同様に、必要に応じてキャリアガスで流量制御しながら供給することができる。さらに、ガスバリア発現層形成用原料ガス33が、液体である場合も、密着層形成用原料ガス33の導入で説明したとおりである。さらに、ガスバリア発現層形成用原料ガス33には、酸化ガスを混合することが好ましい。酸化ガスは、例えば、酸素、オゾン、過酸化水素、水蒸気、亜硝酸ガス、炭酸ガスである。酸化ガスの流量は、特に限定されないが、0〜80sccmであることが好ましい。より好ましくは、5〜50sccmである。ガスバリア発現層92及び原料ガス33の種類によっては反応室12の脱ガス、大気からの残留ガス成分、又はプラスチック成形体11からの脱ガスを酸化ガスとして利用することも可能である。
【0053】
(ガスバリア発現層の成膜)
ガスバリア発現層形成用原料ガス33が発熱体18と接触するとガスバリア発現層形成用原料ガス由来の化学種34が生成される。この化学種34が、プラスチック容器11の内壁に到達することで、密着層81上に、Al、Si又はTiのうち少なくとも1種を含む酸化物を含有するガスバリア発現層82を堆積することになる。ガスバリア発現層82の成膜において成膜時間は、1.0〜20秒であることが好ましく、より好ましくは、1.0〜8.5秒である。成膜時の真空チャンバ内の圧力は、密着層形成時と同様である。
【0054】
(ガスバリア発現層形成用原料ガスの供給停止)
薄膜が所定の厚さに達したところで、ガスバリア発現層形成用原料ガス33の供給を止める。本実施形態では、ガスバリア発現層82の膜厚は、特に限定されないが、ガスバリア性発現効果と、透明性と、密着性及び耐久性などの物理化学的安定性との兼備を図るため、5〜100nmとすることが好ましい。より好ましくは、10〜50nmである。
【0055】
(成膜の終了)
反応室12内を再度排気した後、図示していないリークガスを導入して、反応室12を大気圧にする。この後、上部チャンバ15を開けてプラスチック容器11を取り出す。このようにして得られたガスバリア性プラスチック成形体は、数1で求める、バリア性改良率(Barrier Improvement Factor,以降、BIFという。)を5以上とすることができる。具体例としては、ガスバリア性プラスチック容器の容器容量を2リットル以下とするときの酸素透過度を、0.0030cc/容器/日以下とすることができる。なお、ガスバリア薄膜92を構成する各層の膜厚及び酸素透過度の評価方法は、実施例の欄で示したとおりである。
(数1)BIF=[薄膜未形成のプラスチック成形体の酸素透過度]/[ガスバリア性プラスチック成形体の酸素透過度]
【0056】
<工程3:保護層形成工程>
図3は、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の別の例を示す断面図である。本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、ガスバリア薄膜92が、ガスバリア発現層82上に保護層83を更に有し、ガスバリア発現層82上に、発熱体CVD法で、保護層83として構成元素の1つがSiである層を形成する工程3を、前記工程2の後に有することが好ましい。工程3は、工程2と連続的又は断続的に行うことができるが、作業効率の点から、連続的に行うことが好ましい。具体的には、工程3は、ガスバリア発現層形成用原料ガスの供給停止と成膜の終了との間に行うことが好ましい。次に、工程3について、工程2と連続的に行う場合について説明する。
【0057】
(保護層形成用原料ガスの導入)
ガスバリア発現層形成用原料ガスの供給を停止後、続けて、保護層83を形成するための原料ガス(以降、保護層形成用原料ガスという。)33を供給する。保護層形成用原料ガス33は、ガスバリア発現層形成用原料ガスで例示した構成元素としてSiを含有する原料を用いることができる。特に、密着層形成用原料ガスとして使用可能な一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いることが好ましい。これらは、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0058】
保護層形成用原料ガス33は、ガス流量調整器24cで流量制御して供給する以外は、密着層形成用原料ガスと同様に、必要に応じてキャリアガスで流量制御しながら供給することができる。また、密着層形成用原料ガスと保護層形成用原料ガスとは、同種のものを選択し、ボンベ42aを兼用してもよい。さらに、ガスバリア発現層形成用原料ガス33が、液体である場合も、密着層形成用原料ガス33の導入で説明したとおりである。
【0059】
(保護層の成膜)
保護層形成用原料ガス33が発熱体18と接触するとSiを含有する化学種34が生成される。この化学種34が、プラスチック容器11の内壁に到達することで、ガスバリア発現層82上に、構成元素の1つがSiである保護層83を堆積することになる。保護層83の成膜において成膜時間は、1.0〜20秒であることが好ましく、より好ましくは、1.0〜8.5秒である。成膜時の真空チャンバ内の圧力は、密着層形成時と同様である。
【0060】
(保護層形成用原料ガスの供給停止)
薄膜が所定の厚さに達したところで、保護層形成用原料ガス33の供給を止める。本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、保護層83の膜厚を、3nm以上とすることが好ましい。より好ましくは4nmであり、特に好ましくは6nmである。保護層83の膜厚が3nm未満では、耐水性を向上させる効果が不十分となる場合がある。保護層83の上限値は、特に限定されないが、経済性の観点及び内部応力によるクラック発生の防止の観点から、200nmとすることが好ましく、より好ましくは50nmであり、特に好ましくは10nmである。保護層83の膜厚が200nmを超えても、耐水性をさらに向上させる効果は無く、不経済である。
【0061】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、熱アニール工程を更に有することが好ましい。熱アニール工程は、工程3と同時に行う方法(方法1という。)又は工程3の後に行う方法(方法2という。)がある。方法1は、保護層形成用原料ガス33を供給しながら、保護層83の成膜と同時に熱アニールを行う方法である。方法1では、工程3の発熱体18の発熱温度を工程1又は工程2の発熱温度よりも高く設定する。方法1による熱アニール工程では、発熱体18の発熱温度は、1450℃以上であることが好ましく、1950℃以上であることがより好ましい。1450℃未満では、熱アニール処理の効果が得られない場合がある。また、発熱体18を発熱させる時間は、1.0〜5.0秒であることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0秒である。方法2は、保護層83の成膜を、発熱体18の発熱温度を工程1又は工程2の発熱温度と同じ温度で行い、薄膜が所定の厚さに達したところで、保護層形成用原料ガス33の供給を止め、反応室内を一定時間、排気した後、発熱体18の発熱温度を、工程1又は工程2の発熱温度と同じ温度に維持する。方法2による熱アニール工程では、発熱体18を発熱させる時間は、1.0〜5.0秒であることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0秒である。熱アニール工程を経ることで、ガスバリア膜の酸素透過度をより小さくすることができる。熱アニール工程を経る場合には、熱アニール工程後、発熱体18への通電を終了する。
【0062】
発熱体CVD法は、プラズマCVDなど他の化学蒸着法又は真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着(PVD)法と比べて、装置が単純で、装置自体のコストを抑えることができる。また、発熱体CVD法では、化学種の堆積によってガスバリア薄膜が形成されるため、湿式法と比較して、かさ密度の高い緻密な膜が得られる。
【0063】
工程1及び工程2を経て得たガスバリア性プラスチック成形体90は、図2に示すように、プラスチック成形体91上に、ガスバリア薄膜92を備え、ガスバリア薄膜92は、プラスチック成形体91上に形成されている密着層81と密着層81上に形成されているガスバリア発現層82とを有する。
【0064】
プラスチック成形体91を構成する樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマー樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン‐1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン‐ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂である。これらは、1種を単層で、又は2種以上を積層して用いることができるが、生産性の点で、単層であることが好ましい。また、樹脂の種類は、PETであることがより好ましい。特に注目すべきこととして、PETボトルについては飲料容器としての使用量が極めて多い一方、従来の発熱体CVD法ではシランガス又はトリメチルアルミなど危険性が高く飲料容器製造では事実上実施できなかったことに対し、本発明の方法には安全でしかも飲料容器製造において支障なく実施できる方法が含まれる。
【0065】
プラスチック成形体91は、例えば、容器、フィルム又はシートである。その形状は、目的及び用途に応じて適宜設定をすることができ、特に限定されない。容器としては、蓋、栓若しくはシールして使用する容器、又はそれらを使用せず開口状態で使用する容器を含む。開口部の大きさは、内容物に応じて適宜設定することができる。プラスチック容器は、剛性を適度に有する所定の肉厚を有するプラスチック容器と剛性を有さないシート材によって形成されたプラスチック容器とを含む。本発明は、容器の製造方法に制限されない。内容物としては、例えば、水、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料又は果汁飲料などの飲料、液体、粘体、粉末又は固体状の食品である。また、容器は、リターナブル容器又はワンウェイ容器のどちらであってもよい。フィルム又はシートとしては、長尺なシート状物、カットシートを含む。フィルム又はシートは、延伸又は未延伸であるかを問わない。本発明は、プラスチック成形体91の製造方法に制限されない。
【0066】
プラスチック成形体91の厚さは、目的及び用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。プラスチック成形体91が、例えば、飲料用ボトルなどの容器である場合には、ボトルの肉厚は、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは、100〜350μmである。また、包装袋を構成するフィルムである場合には、フィルムの厚さは、3〜300μmであることが好ましく、より好ましくは、10〜100μmである。プラスチック成形体91が、電子ペーパー又は有機ELなどのフラットパネルディスプレイの基板である場合には、フィルムの厚さは、25〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、50〜100μmである。また、容器を形成するためのシートである場合には、シートの厚さは、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは100〜350μmである。そして、プラスチック成形体91が、容器である場合には、ガスバリア薄膜92は、その内壁面若しくは外壁面のいずれか一方又は両方に設ける。また、プラスチック成形体91が、フィルムである場合には、ガスバリア薄膜92は、片面又は両面に設ける。
【0067】
密着層81を設けることで、プラスチック成形体91とガスバリア薄膜92との密着性を向上させて、ガスバリア性をより高める効果を奏する。この効果は、密着層用原料ガスとして、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いることで、発揮される。密着層81の膜厚は、ガスバリア性及び/又は耐水性を更に向上できる点で、1〜200nmであることが好ましく、より好ましくは2〜50nmであり、特に好ましくは4〜10nmである。密着層81は、構成元素として、Si及びCを含有する。なお、密着層81は、Si及びC以外に、Mo(モリブデン)などの発熱体由来の金属元素、H(水素)、N(窒素)、O(酸素)などのその他の元素を含んでもよい。ただし、密着層81をX線光電子分光分析(XPS分析)によって測定した酸素元素の含有量は、0〜60at%(原子%)であることが好ましい。より好ましくは、0〜55at%であり、更に好ましくは、0〜35at%(原子%)である。密着層81の酸素元素含有量が60at%を超えると、密着性を向上させる効果が不十分となる場合がある。
【0068】
ガスバリア発現層82は、高いガスバリア性を発揮する役割をもつ。ガスバリア発現層82は、構成元素としてAl、Si又はTiのうち少なくとも1種を含む酸化物を含有することが好ましい。このようなガスバリア発現層82の態様は、例えば、酸化アルミニウム(AlOx)を含有する態様、酸化ケイ素(SiOx)を含有する態様、酸化チタン(TiOx)を含有する態様、AlOxとSiOxとを含有する態様、AlOxとTiOxとを含有する態様、SiOxとTiOxとを含有する態様、アルミニウム及びケイ素の複合酸化物(AlSiOx)を含有する態様、アルミニウム及びチタンの複合酸化物(TiAlOx)を含有する態様、ケイ素及びチタンの複合酸化物(TiSiOx)を含有する態様、AlOxとAlSiOxとを含有する態様、AlOxとTiAlOxとを含有する態様、SiOxとAlSiOxとを含有する態様、SiOxとTiSiOxとを含有する態様、TiOxとTiAlOxとを含有する態様、TiOxとTiSiOxとを含有する態様、AlOxとSiOxとTiOxとを含有する態様、アルミニウム、ケイ素及びチタンの複合酸化物(TiAlSiOx)を含有する態様である。ガスバリア発現層82は、酸化物の結晶型及び酸化度に制限されるものではない。ガスバリア発現層82の膜厚は、5〜200nmとすることが好ましい。より好ましくは、10〜50nmである。ガスバリア発現層82は、Al、Si又はTiのうち少なくとも1種及び酸素元素以外に、その他の元素を含んでもよい。その他の元素は、例えば、Mo(モリブデン)などの発熱体由来の金属元素、H(水素)、N(窒素)、C(炭素)である。ただし、ガスバリア発現層82をXPS分析によって測定した炭素元素の含有量は、0〜30at%であることが好ましい。より好ましくは、0〜20at%である。炭素元素の含有量は、30at%を超えると、着色が観察され、用途が限定される場合がある。
【0069】
さらに、工程3を経ることで、図3に示すように、ガスバリア発現層82上に保護層83を更に有するガスバリア薄膜92を備えるガスバリア性プラスチック成形体90を得ることができる。
【0070】
保護層83は、ガスバリア発現層82の表面を保護する役割をもつ。保護層83の膜厚は、3〜200nmとすることが好ましい。より好ましくは4〜50nmであり、特に好ましくは6〜10nmである。保護層83は、構成元素として、Si及びCを含有する。なお、保護層83は、Si及びC以外に、Mo(モリブデン)などの発熱体由来の金属元素、H(水素)、N(窒素)、O(酸素)などのその他の元素を含んでもよい。ただし、保護層83をXPS分析によって測定した酸素元素の含有量は、0〜60at%(原子%)であることが好ましい。より好ましくは、0〜55at%であり、更に好ましくは0〜20at%(原子%)である。保護層83の酸素元素含有量が、60at%を超えると、耐水性を向上させる効果が不十分となる場合がある。
【0071】
プラスチック成形体上に酸化物薄膜を直接形成すると、該酸化物薄膜は、耐水性に劣るため、水溶液中では薄膜にクラック又は剥離が発生してガスバリア性を保持することができないという問題があるところ、プラスチック成形体上に密着層81と酸化物薄膜(ガスバリア発現層82)と保護層83とを順次設け、更に密着層の膜厚を2nm以上、かつ、保護層の膜厚を3nm以上とすることで、耐水性を向上させることができ、水と接触する用途に適したガスバリア性プラスチック成形体とすることができる。
【0072】
本発明者らの実験したところによると、プラスチック成形体91上に直接ガスバリア発現層82の一例として容器の内表面に、Alを含む酸化物を含有するガスバリア発現層を直接形成したプラスチック容器(以降、従来容器という。)のBIFは7であった。一方、容器の内表面に膜厚が1nmの密着層を形成し、該密着層上にAlを含む酸化物を含有するガスバリア発現層を形成したガスバリア性プラスチック容器(以降、本発明容器Aという。)のBIFは9.9になり、ガスバリア性が向上した。本発明容器Aにおいて、密着層の膜厚を4nm以上とした本発明容器Bでは、BIFは25となり、ガスバリア性を更に高めることができた。また、従来容器内にpH4.0又はpH6.8の水溶液を充填すると、次第に膜中にクラック又は剥離などの損傷を生じて、BIFが2.5未満に低下したが、本発明容器Bのガスバリア発現層上に膜厚3nmの保護層を形成した本発明容器C内にpH4.0の水を充填すると、1ヶ月経過後しても、膜は損傷を受けることなく、高いガスバリア性を保持しており、ガスバリア薄膜が耐水性を有していることが確認できた。
【0073】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体は、高いガスバリア性及び透明性を有するため、酸素などの影響を受けて劣化しやすい食品、薬品、医薬品、電子部品などの包装用途として好適である。さらに、密着層及び保護層を所定の膜厚以上とすることで、耐水性を有するガスバリア薄膜となるため、水を含有する食品又は飲料用の包装用途として好適である。
【実施例】
【0074】
次に、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0075】
(実施例1)
プラスチック成形体として、500mlのペットボトル(高さ133mm、胴外径64mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)の内表面に、図1に示す成膜装置を用いてガスバリア薄膜を形成した。ガス流量調整器24a〜24cからガス供給口16の配管は、すべてステンレス製の1/4インチ配管で構成した。ペットボトルを真空チャンバ6内に収容し、1.0Paに到達するまで減圧した。次いで、発熱体18として、φ0.5mm、長さ43cmのモリブデンワイヤーを2本用い、発熱体18に直流電流を8.2V印加し、1100℃に発熱させた。その後、ガス流量調整器24aから密着層形成用原料ガスとしてジメチルシランを供給し、ペットボトルの内表面に密着層として構成元素の1つがSiである層を膜厚が2nmとなるまで堆積させた(工程1)。密着層の成膜において、成膜時の圧力を4Paとし、成膜時間は2秒間とした。続けて、ガス流量調整器24bからガスバリア発現層形成用原料ガスとしてDMAIP及びキャリアガスとして窒素ガスを、バブリング法で供給し、密着層上にAlを含む酸化物を含有するガスバリア発現層を膜厚が30nmとなるまで堆積させた(工程2)。ガスバリア発現層の成膜において、バブリングガスの流量は、5sccmとし、成膜時の圧力を2.4Pa、成膜時間は8.5秒間とした。こうして、ペットボトルの内表面に密着層とガスバリア発現層とを順次有するガスバリア薄膜を形成した。なお、膜厚は、触針式段差計(型式:α‐ステップ、ケーエルエーテン社製)を用いて測定した値である。
【0076】
(実施例2)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、モノメチルシランを用いた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0077】
(実施例3)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、トリメチルシランを用いた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0078】
(実施例4)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、ビニルシランを用いた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0079】
(実施例5)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、ジメトキシビニルシランを用いた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0080】
(実施例6)
実施例1において、密着層の膜厚を1nmとした以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0081】
(実施例7)
実施例1において、密着層の膜厚を4nmとした以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0082】
(実施例8)
実施例1において、密着層の膜厚を200nmとした以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0083】
(実施例9)
実施例1において、ガスバリア発現層形成用原料ガスとして、ジメチルアルミイソプロポキシドに替えて、ビニルシラン(30sccm)を用い、更に酸化ガスとしてオゾン(6sccm)と酸素(54sccm)との混合ガスを用いて、密着層上にガスバリア発現層としてSiを含む酸化物を含有する層を堆積させた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0084】
(実施例10)
実施例1において、ガスバリア発現層形成用原料ガスとして、ジメチルアルミイソプロポキシドに替えて、TDMATを用いて、密着層上にガスバリア発現層としてTiを含む酸化物を含有する層を堆積させた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0085】
(実施例11)
実施例1において、ガスバリア発現層を形成後、続けて、ガス流量調整器24cから保護層形成用原料ガスとしてジメチルシランを供給し、ガスバリア発現層上に保護層として構成元素の1つがSiである層を膜厚が4nmとなるまで堆積させた(工程3)。保護層の成膜において、成膜時の圧力を4Paとし、成膜時間は4秒間とした。こうして、ペットボトルの内表面に密着層とガスバリア発現層と保護層とを順次有するガスバリア薄膜を形成した。
【0086】
(実施例12)
実施例11において、保護層の膜厚を200nmとした以外は、実施例11に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0087】
(実施例13)
実施例11において、密着層の膜厚を2nmとし、かつ、保護層の膜厚を3nmとした以外は、実施例11に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0088】
(実施例14)
実施例11において、密着層の膜厚を2nmとし、かつ、保護層の膜厚を2nmとした以外は、実施例11に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0089】
(実施例15)
実施例11において、密着層の膜厚を1nmとし、かつ、保護層の膜厚を4nmとした以外は、実施例11に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0090】
(実施例16)
実施例1において、ガスバリア発現層形成用原料ガスとして、DMAIPとTDMATとを用いて、密着層上にガスバリア発現層としてAl及びTiを含む酸化物を含有する層を堆積させた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0091】
(実施例17)
実施例1において、ガスバリア発現層形成用原料ガスとして、DMAIPとビニルシランとを用いて、密着層上にガスバリア発現層としてAl及びSiを含む酸化物を含有する層を堆積させた以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0092】
(比較例1)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、フェニルシラン(CSiH)とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0093】
(比較例2)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、ヘキサメチルジシロキサン((CHSiOSi(CH)とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0094】
(比較例3)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、ヘキサメチルジシラザン((CHSiNHSi(CH)とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0095】
(比較例4)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、テトラエトキシシラン(Si(OCHCH)とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0096】
(比較例5)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、テトラエチルシシラン(Si(CHCH)とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0097】
(比較例6)
実施例1において、密着層を形成せず、ペットボトルの内表面に直接ガスバリア発現層を形成した以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0098】
(比較例7)
実施例9において、密着層を形成せず、ペットボトルの内表面に直接ガスバリア発現層を形成した以外は、実施例9に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0099】
(比較例8)
実施例10において、密着層を形成せず、ペットボトルの内表面に直接ガスバリア発現層を形成した以外は、実施例10に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0100】
(比較例9)
実施例16において、密着層を形成せず、ペットボトルの内表面に直接ガスバリア発現層を形成した以外は、実施例16に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0101】
(比較例10)
実施例17において、密着層を形成せず、ペットボトルの内表面に直接ガスバリア発現層を形成した以外は、実施例17に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0102】
(参考例1)
実施例1において、ガスバリア発現層を形成せず、ペットボトルの内表面に密着層だけを形成した以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0103】
(参考例2)
実施例1において、密着層形成用原料ガスとして、ジメチルシランに替えて、ビニルシランを用い、かつ、ガスバリア発現層を形成せず、ペットボトルの内表面に密着層だけを形成した以外は、実施例1に準じてペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を形成した。
【0104】
得られた実施例及び比較例のガスバリア薄膜を備えるペットボトルについて、次の方法で評価を行った。
【0105】
得られた実施例及び比較例のガスバリア薄膜を備えるペットボトルについて、次の方法で評価を行った。
【0106】
(密着性評価)
実施例1〜実施例8及び比較例1〜比較例6において記載した方法によって、密着層及びガスバリア発現層を順次300μm厚のPET基板上に形成した。得られたPET基板サンプルの成膜側を、島津製作所社製エネルギー分散型蛍光X線分析装置EDX−800HSを用いて、真空中にて、測定チャネルAl、15keV、100μA、取込範囲0−20keV、DT%25、積分時間300秒の設定条件にてEDX分析し、いずれもAlの膜成分が含まれることを確認した。その後、30℃の蒸留水に3週間浸漬し、更に、蒸留水でのリンス及び乾燥を行った後に、再度EDX分析を行い、得られたAlの信号強度が、浸漬前の10分の1未満になっていたサンプルは、密着性なしと、10分の1以上保持していたサンプルは密着性ありと判定した。実施例9、実施例17、比較例7及び比較例10において記載した方法によって、密着層及びガスバリア発現層だけを300μm厚のPET基板上に形成した。得られたPET基板サンプルの成膜側のEDX分析において、測定チャネルSiとした以外はAl成分の分析と同じ方法で測定及び判定した。また、実施例10、実施例16、比較例8及び比較例9において記載した方法によって、密着層及びガスバリア発現層だけを300μm厚のPET基板上に形成した。得られたPET基板サンプルの成膜側のEDX分析において、測定チャネルTiとした以外はAl成分の分析と同じ方法で測定及び判定した。
【0107】
(BIF・ガスバリア性能判定)
BIFは、数1において、実施例、比較例又は参考例で得たペットボトルの酸素透過度の値を「ガスバリア性プラスチック成形体の酸素透過度」とし、薄膜未形成のペットボトルの酸素透過度を「薄膜未形成のプラスチック成形体の酸素透過度」として算出した。酸素透過度は、酸素透過度測定装置(型式:Oxtran 2/20、Modern Control社製)を用いて、23℃、90%RHの条件にて測定し、測定開始から24時間コンディションし、測定開始から72時間経過後の値とした。ガスバリア性能の判定は、ペットボトルの内表面に直接ガスバリア発現層を形成した場合のBIFを基準値として、該基準値に対する実施例又は比較例のBIFの変化率(実施例又は比較例のBIF/基準値)を用いて、次の判定基準で行った。なお、薄膜未形成のペットボトルの酸素透過度は、0.0350cc/容器/日であった。BIF及び判定結果を表1に示す。
ガスバリア性能判定基準:
○:BIF/基準値が、1.5以上である(密着層の効果あり)。
△:BIF/基準値が、1.3以上1.5未満である(密着層の効果あり(下限))。
×:BIF/基準値が、1.3未満である(密着層の効果が小さい(不適))。
判定基準において、基準値は、ガスバリア発現層の酸化物の元素がAlである場合には比較例6のBIF、ガスバリア発現層の酸化物の元素がSiである場合には比較例7のBIF、ガスバリア発現層の酸化物の元素がTiである場合には比較例8のBIF、ガスバリア発現層の酸化物の元素がAl及びTiである場合には比較例9のBIF又はガスバリア発現層の酸化物の元素がAl及びSiである場合には比較例10のBIFである。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に示すように、実施例1〜17で使用した密着層の原料ガスは、酸化物薄膜であるガスバリア発現層の密着効果が、実用レベルで十分あることが確認された。また、原料ガスとして(化1)で表される有機シラン系化合物を用いて密着層を形成することによって、基材に直接ガスバリア発現層を形成した場合よりもガスバリア性を向上できることが確認できた。
【0110】
一方、比較例1〜比較例5は、密着層形成用原料ガスとして、(化1)で表される有機シラン系化合物以外の有機シラン系化合物を用いたため、基材に直接ガスバリア発現層を形成する場合と比較して、ガスバリア薄膜の密着性を向上する効果が不十分であった。また、(化1)で表される有機シラン系化合物以外の有機シラン系化合物を用いて密着層を形成した場合では、ガスバリア性を向上する効果が無いことが確認できた。
【0111】
比較例6〜比較例10は、密着層及び保護層を形成しなかったため、基材との密着性が不十分であった。
【0112】
参考例1及び参考例2から、密着層だけを形成してもガスバリア性は発現されないことが確認できた。
【0113】
(混合層の有無)
発熱体CVD法で形成した本発明の密着層とプラズマCVD法で形成した密着層とを比較するために、SIMS解析によって、密着層の深さ方向の炭素及び酸素の組成分析を行った。図4は、シリコン基板上に、実施例4の方法で形成した密着層又はプラズマCVD法によって形成した密着層について、シリコン基板側から密着層側に炭素及び酸素に関してSIMS解析を行った結果を示す図である。ここで、本発明の密着層は、実施例4の密着層だけをシリコン基板上に形成し、シリコン基板側から密着層側に炭素及び酸素に関するSIMS解析を行った。一方、プラズマCVD法で形成した密着層は、実施例4で使用した密着層の原料ガスを用いて、特開平08−53116号公報に開示されるプラズマCVD法によってシリコン基板上に、13.56MHz電源の出力800W、原料ガス流量80sccm、成膜時間2秒の条件で、密着層を形成し、シリコン基板側から密着層側に炭素及び酸素に関するSIMS解析を行った。SIMS解析は、アルバック・ファイ社製 PHI ADEPT−1010を用いて行った。測定条件として、一次イオン種をCsに、一次加速電圧を2.0kVに、検出領域を72μm四方に設定した。
【0114】
図4に示す通り、プラズマCVD法による密着層は、実施例4に係る発熱体CVD法による密着層と比較して、特に、シリコン基板と密着層との界面においてシリコン基板から密着層にかけての元素濃度変化が緩やかであり、基板側に炭素及び酸素のイオンが侵入して混合層を形成しているのに対し、発熱体CVD法による密着層は、特に、シリコン基板と密着層との界面においてシリコン基板から密着層にかけての元素濃度変化がプラズマCVD法による密着層よりも急峻であり、混合層が実質形成されないとする予想を支持する結果が得られた。
【0115】
次に、BIFの判定が実用レベルであった実施例1〜17のペットボトルについて、耐水性を確認する評価を行った。評価方法は、次の通りである。
【0116】
(BIF変化率)
実施例1〜17のペットボトルに、弱酸性水溶液としてpH4.01(25℃)のフタル酸塩pH標準液(品番:168−12145、和光純薬工業社製)490mlを充填し、1ヶ月間、雰囲気温度30℃で放置して耐水性(弱酸性)評価用サンプルとした。また、同様に、中性域水溶液としてpH6.83(25℃)のリン酸塩pH標準液(品番:165−12155、和光純薬工業社製)を用い、耐水性(中性域)評価用サンプルとした。これらのサンプルについて、BIFを求めた。BIF変化率は、充填前のBIFをBIF0、耐水性評価用サンプルのBIFをBIF1(表2において弱酸性水溶液はBIF1a及び中性域水溶液はBIF1nと記載した。)としたとき、数2から得られる数値である。評価結果を表2に示す。
(数2)BIF変化率=BIF1/BIF0
【0117】
(耐水性の判定)
耐水性は、BIF変化率の値に基づいて、次のとおり判定した。判定結果を表2に示す。
あり:BIF変化率が、0.5以上である。
なし:BIF変化率が、0.5未満である。
【0118】
【表2】

【0119】
表2に示すように、実施例1〜実施例10、実施例16及び実施例17は、保護層が形成されていなかったため、耐水性が得られなかった。実施例14は、保護層の膜厚が薄かったため、耐水性が得られなかった。実施例15は、密着層の膜厚が薄かったため、耐水性が得られなかった。実施例11〜実施例13は、密着層及び保護層を有し、かつ、密着層及び保護層の膜厚が十分であったため、耐水性を有するガスバリア薄膜と得ることができた。
【0120】
ガスバリア発現層形成用原料ガスとしてDMAIPを用いた場合に適した発熱体の種類及び発熱体の発熱温度を検討するための追加試験を行った。
【0121】
(実施例18)
実施例4において、発熱体の発熱温度を900℃に変更した以外は、実施例4と同様にしてペットボトルの内表面に密着層及びガスバリア発現層を形成した。
【0122】
(実施例19)
実施例4において、発熱体の発熱温度を1600℃に変更した以外は、実施例4と同様にしてペットボトルの内表面に密着層及びガスバリア発現層を形成した。
【0123】
(実施例20)
実施例4において、発熱体をモリブデンワイヤーに替えて、タンタルワイヤーに変更し、発熱体の発熱温度を900℃に変更した以外は、実施例4と同様にしてペットボトルの内表面に密着層及びガスバリア発現層を形成した。
【0124】
(実施例21)
実施例20において、発熱体の発熱温度を1600℃に変更した以外は、実施例20と同様にしてペットボトルの内表面に密着層及びガスバリア発現層を形成した。
【0125】
(実施例22)
実施例4において、発熱体をモリブデンワイヤーに替えて、白金‐ロジウムワイヤーに変更し、発熱体の発熱温度を900℃に変更した以外は、実施例4と同様にしてペットボトルの内表面に密着層及びガスバリア発現層を形成した。
【0126】
(実施例23)
実施例22において、発熱体の発熱温度を1600℃に変更した以外は、実施例22と同様にしてペットボトルの内表面に密着層及びガスバリア発現層を形成した。
【0127】
(実施例24)
実施例11において、密着層形成用原料ガスとしてジメチルシランに替えて、ビニルシランを用い、保護層形成用原料ガスとしてジメチルシランに替えて、ビニルシランを用い、発熱体の発熱温度を900℃に変更した以外は、実施例11と同様にしてペットボトルの内表面に密着層、ガスバリア発現層及び保護層を順次形成した。
【0128】
(実施例25)
実施例24において、発熱体の発熱温度を1600℃に変更した以外は、実施例24と同様にしてペットボトルの内表面に密着層、ガスバリア発現層及び保護層を順次形成した。
【0129】
(実施例26)
実施例24において、発熱体をモリブデンワイヤーに替えて、タンタルワイヤーに変更した以外は、実施例24と同様にしてペットボトルの内表面に密着層、ガスバリア発現層及び保護層を順次形成した。
【0130】
(実施例27)
実施例26において、発熱体の発熱温度を1600℃に変更した以外は、実施例26と同様にしてペットボトルの内表面に密着層、ガスバリア発現層及び保護層を順次形成した。
【0131】
(実施例28)
実施例24において、発熱体をモリブデンワイヤーに替えて、白金‐ロジウムワイヤーに変更した以外は、実施例24と同様にしてペットボトルの内表面に密着層、ガスバリア発現層及び保護層を順次形成した。
【0132】
(実施例29)
実施例28において、発熱体の発熱温度を1600℃に変更した以外は、実施例28と同様にしてペットボトルの内表面に密着層、ガスバリア発現層及び保護層を順次形成した。
【0133】
実施例18〜29のペットボトルについて、密着性評価及びBIF‐ガスバリア性能判定を行った。評価方法は、前記のとおりである。結果を表3に示す。
【0134】
【表3】

【0135】
実施例18及び実施例19は、発熱体としてモリブデンを用いた場合であり、実施例20及び実施例21は、発熱体としてタンタルを用いた場合であり、また、実施例22及び実施例23は、発熱体として白金とロジウムとの合金を用いた場合である。いずれの実施例も、発熱体の発熱温度を900〜1600℃の範囲とすることで、密着性を有し、かつ、ガスバリア性を向上させる効果が得られた。
【0136】
実施例24及び実施例25は、それぞれ、実施例18及び実施例19のガスバリア発現層上に更に保護層を設けたものであるが、ガスバリア性が更に向上していた。同様に、実施例26及び実施例27は、それぞれ、実施例20及び実施例21のガスバリア発現層上に更に保護層を設けたものであるが、ガスバリア性が更に向上していた。また、実施例28及び実施例29は、それぞれ、実施例22及び実施例23のガスバリア発現層上に更に保護層を設けたものであるが、保護層を設けることによる更なるガスバリア性の向上効果は見られなかった。
【0137】
次に、実施例19,21,23,25,27及び29のペットボトルについて、耐水性を確認する評価として、BIF変化率を求め、耐水性判定を行った。評価方法は、前記のとおりである。結果を表4に示す。
【0138】
【表4】

【0139】
実施例19,21及び23は、保護層が形成しなかったため、耐水性が得られなかった。一方、実施例25,27及び29は、保護層を形成したため、耐水性を有するガスバリア薄膜を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体は、包装材料として適している。また、本発明に係るガスバリア性プラスチック成形体からなるガスバリア性容器は、水、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料などの飲料用容器として適している。
【符号の説明】
【0141】
6 真空チャンバ
8 真空バルブ
11 プラスチック容器
12 反応室
13 下部チャンバ
14 Oリング
15 上部チャンバ
16 ガス供給口
17 原料ガス流路
17x ガス吹き出し孔
18 発熱体
19 配線
20 ヒータ電源
21 プラスチック容器の口部
22 排気管
23 原料ガス供給管
24a,24b,24c,24d 流量調整器
25a,25b,25c,25d,25e バルブ
26a,26b 接続部
27 冷却水流路
28 真空チャンバの内面
29 冷却手段
30 透明体からなるチャンバ
33 原料ガス
34 化学種
35 絶縁セラミックス部材
40a,40b,40c 原料タンク
41a,41b,41c 出発原料
42a,42b,42c,42d ボンベ
81 密着層
82 ガスバリア発現層
83 保護層
90 ガスバリア性プラスチック成形体
91 プラスチック成形体
92 ガスバリア薄膜
100 成膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック成形体の表面に、密着層とガスバリア発現層とを順次有するガスバリア薄膜を形成するガスバリア性プラスチック成形体の製造方法において、
前記プラスチック成形体の表面に、発熱体CVD法で、原料ガスとして一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いて、前記密着層として構成元素の1つがSiである層を形成する工程1を有することを特徴とするガスバリア性プラスチック成形体の製造方法。
(化1) RSiH
(一般式(化1)中、Rはメチル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメチル基を表すか、又は、Rはビニル基を表し、かつ、R,Rは水素若しくはメトキシ基を表す。)
【請求項2】
前記密着層の膜厚を、1nm以上とすることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性プラスチック成形体の製造方法。
【請求項3】
前記密着層上に、発熱体CVD法で、前記ガスバリア発現層としてAl、Si又はTiのうち少なくとも1種を含む酸化物を含有する層を形成する工程2を、前記工程1の後に有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリア性プラスチック成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ガスバリア薄膜が、前記ガスバリア発現層上に保護層を更に有し、
前記ガスバリア発現層上に、発熱体CVD法で、前記保護層として構成元素の1つがSiである層を形成する工程3を、前記工程2の後に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のガスバリア性プラスチック成形体の製造方法。
【請求項5】
前記保護層の膜厚を、3nm以上とすることを特徴とする請求項4に記載のガスバリア性プラスチック成形体の製造方法。
【請求項6】
前記工程2が、前記ガスバリア層を形成するための原料ガスとしてジメチルアルミイソプロポキシドを用い、かつ、発熱体としてタンタル又はモリブデンの少なくともいずれか一方の金属元素を含む材料を用い、該発熱体の発熱温度を、900〜1600℃とすることを特徴とする請求項3に記載のガスバリア性プラスチック成形体の製造方法。
【請求項7】
前記プラスチック成形体が、フィルム、シート又は容器であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のガスバリア性プラスチック成形体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載のガスバリア性プラスチック成形体の製造方法で形成されたことを特徴とするガスバリア性プラスチック成形体。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−149334(P2012−149334A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107291(P2011−107291)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】