説明

ガス分解素子

【課題】 電気化学反応を用いながら、大きな処理能力を得ることができる、ガス分解素子、なかでもとくにアンモニアを提供することを目的とする。
【解決手段】 このガス分解素子は、固体電解質1と、該固体電解質を間に挟むように位置する、アノード2およびカソード5と、で構成されるMEA7と、アノード2に導電接続するセルメット11sと、MEAを加熱するためのヒータ41と、ガスを含む気体をMEAに導入する入口17、MEAを経過させて出す出口19および入口と出口との間の通路P、とを備え、セルメット11sは、通路Pに沿って断続的に配置され、配置されたセルメットの長さは、通路の中間位置15からみて、入口側よりも出口側で長いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分解素子に関し、より具体的には、所定のガスを効率よく分解することができるガス分解素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは農業や工業に不可欠の化合物であるが、ヒトには有害であるので、水中や大気中のアンモニアを分解する方法が、多く開示されてきた。たとえば、高濃度のアンモニアを含む水からアンモニアを分解除去するために、噴霧状のアンモニア水を空気流と接触させて空気中にアンモニアを分離して、次亜臭素酸溶液または硫酸と接触させる方法が提案されている(特許文献1)。また、上記と同じプロセスで空気中にアンモニアを分離して触媒により燃焼させる方法の開示もなされている(特許文献2)。また、アンモニア含有排水を触媒を用いて分解して、窒素と水とに分解する方法が提案されている(特許文献3)。
また、半導体製造装置の廃ガスには、アンモニア、水素等が含まれるのが普通であり、アンモニアの異臭を完全に除去するには、ppmオーダーにまで除害する必要がある。この目的のために、半導体製造装置の廃ガス放出の際にスクラバーを通して、薬品を含む水に有害ガスを吸収させる方法が多く用いられてきた。一方、エネルギーや薬品等の投入なしに、安価なランニングコストを得るために、リン酸型燃料電池でアンモニアを分解する、半導体製造装置の排気ガス処理の提案もされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−31966号公報
【特許文献2】特開平7−116650号公報
【特許文献3】特開平11−347535号公報
【特許文献4】特開2003−45472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の中和剤などの薬液を用いる方法(特許文献1)、燃焼する方法(特許文献2)、触媒を用いた熱分解反応による方法(特許文献3)などによれば、アンモニアの分解は可能である。しかし、上記の方法では、薬品や外部エネルギ(燃料)を必要とし、さらに触媒の定期的交換を要し、ランニングコストが高いという問題がある。また、装置が大掛かりとなり、たとえば既存の設備に付加的に設ける場合に配置が難しい場合も生じる。
リン酸型燃料電池を、化合物半導体製造の排気中のアンモニアの除害に用いる装置(特許文献4)についても、除害能力の向上を阻害する、圧力損失や電気抵抗の増大などを踏み込んで解決する工夫がなされていない。電気化学反応をアンモニア等の除害に用いる場合、圧力損失の増大、高温環境下での電極/集電体間の電気抵抗の増大等を画期的な構造で抑止しない限り、実用レベルの大きな処理能力を得ることができず、ジャストアイデアに留まっている状況にある。
【0005】
本発明は、電気化学反応を用いながら、大きな処理能力を得ることができる、ガス分解素子、なかでもとくにアンモニアを対象とするアンモニア分解素子、これらの分解素子のうち電力を生じる素子を用いた発電装置、および電気化学反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガス分解素子は、ガスを分解するために用いられる。この素子は、固体電解質と、該固体電解質を間に挟むように位置する、第1電極および第2電極と、を有するMEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極接合体)と、第1電極または第2電極に導電接続する多孔質金属体と、MEAを加熱するためのヒータと、ガスを含む気体を、MEAに導入する入口、MEAを経過させて出す出口および入口と出口との間の通路、とを備え、多孔質金属体は、通路に沿って断続的に配置され、該配置された多孔質金属体の長さは、通路の中間位置からみて、入口側よりも出口側で長いことを特徴とする。
【0007】
MEAの主要構成要素である固体電解質はイオンを通すために用いられるが、室温に近いとイオンの透過速度は小さく、実用レベルのガス分解能力を得ることができない。すなわち、一般に、固体電解質でのイオン透過量が反応速度を律速する。このため、MEAを含む電気化学反応装置をヒータ等で300℃〜1000℃に加熱することが行われる。温度は高いほどイオンの透過速度が上昇するので好ましいが、材料に耐熱性の高い材料や構造を用いる必要があり、コスト増をもたらすので、適当な温度に設定する。加熱のためにヒータを用いても、導入される気体は低いため、またヒータの入口端の影響を受けて温度分布は入口付近で低く、中央側へと昇温して高くなり、出口付近でヒータの出口端の影響を受けて低下するのが普通である。すなわち通路において、入口〜中間位置の領域よりも中間位置〜出口の領域のほうが、高い温度分布となる。ガス分解の電気化学反応は、上述のように、温度の高い箇所で高い反応速度を有する。すなわち温度の高い箇所において高い処理能力でガス分解を進行させる。ガス分解反応に伴って生じる電流も、ガス分解が促進される高い温度位置において高くなる。
多孔質金属体は、集電体の機能の他に、分解対象ガスを含む気体の流れの素通りを防ぎ、気体が第1電極または第2電極に接するように、素通り防止の役割を担う。この集電と素通り防止の2つの目的を達成するために、多孔質金属体は、所定レベル以上の気孔率および気孔径を有し、かつ所定レベル以上の導電性を有する。しかしながら、所定レベル以上の気孔率および気孔径を有していても、多孔質金属体が、入口から出口にわたって通路全長に配置されると、深刻な圧力損失の増大を招く。この圧力損失の増大は、電気化学反応によるガス分解素子の処理能力を実用レベルに到達させない大きな要因である。
上記本発明の構成によれば、多孔質金属体を通路に沿って断続配置するので、圧力損失の大幅な低下を防止することができる。そして、入口〜中間位置の領域よりも温度の高い中間位置〜出口の領域に、より多孔質金属体をより長く配置する。このため、電気化学反応が高い速度で進行する領域に狙いをつけて多孔質金属体を配置することになる。この結果、高速で進行する電気化学反応の妨げとならないように電気抵抗を低く抑えながら圧力損失の増大を防止することができる。
ここで、配置された多孔質金属体の長さは、その領域(入口〜中間位置、または中間位置〜出口)における多孔質金属体の長さを足した合計の長さである。
なお、分解対象の所定のガスは、一成分でも二つ以上の成分でもよい。電気化学反応は、二つ以上の成分を分解(電気化学反応)すれば好ましいが、少なくともその所定のガスの一成分を分解すればよい。第2の気体は、単一成分でもよいが、二つ以上の成分を含んでもよい。
【0008】
多孔質金属体は、入口から、少なくとも通路の全長の1/5以上の間隔をあけて配置するのがよい。上述のように、入口付近では、外部から搬送されてきた気体は温度が低く、ヒータの端部の影響もあり、入口付近の通路は温度が低い。このため、ガス分解の反応速度は、入口付近ではガス分解反応の速度は低い。このため、入口付近に多孔質金属体を配置しても、圧力損失の増大に寄与するだけで、集電作用はほとんど発揮されない。入口〜通路全長の1/5程度までの領域では十分高い温度になっていないので、集電体は不要といってよい。上記の構成によって、集電体不要な箇所に多孔質金属体を配置しないことによって、集電機能に支障をきたすことなく圧力損失を小さくすることができる。
【0009】
断続的に配置された多孔質金属体は、トータル長さで、通路の全長の1/10〜5/10となるようにできる。これによって、入口側よりも一層高温になっている出口側に高い配置密度で配置され、短い長さで効果的に集電した上で、圧力損失を小さくすることができる。多孔質金属体のトータル長さが、通路全長の1/10未満では集電を十分に行えず、電気化学反応の進行を妨げる。しかし、5/10を超えると圧力損失が過大になる。
【0010】
断続的に配置される多孔質金属体の気孔平均径を、配置位置を異にする多孔質金属体間で相違させることができる。これによって、たとえば入口に近い(電気化学反応の速度が比較的小さい)側では、気孔の大きい多孔質金属体を配置して圧力損失を小さくしながらある程度の集電能力を持たせ、一方、出口に近い(電気化学反応の速度が大きい)側では、気孔の小さい多孔質金属体を配置して圧力損失をある程度犠牲にしながら比較的大きな集電能力を持たせることができる。
【0011】
多孔質金属体を金属めっき体とすることができる。これによって、気孔率が高い多孔質金属体を得ることができ、圧力損失を抑制することが可能になる。金属めっきによる多孔体は、骨格部を金属(Ni)めっきで形成するので、厚みを薄くした範囲で制御しやすいので、容易に気孔率を大きくすることができる。
【0012】
第1電極または第2電極と多孔質金属体との間に、金属のメッシュシートおよび/または金属ペースト、を配置することができる。
上記の構成によれば、金属のメッシュシートおよび/または金属ペーストと、多孔質金属体とで集電体を構成する。金属のメッシュシートおよび/または金属ペーストを用いない場合、多孔質金属体は例えば第1電極と、直接、接触して導通をとることになる。多孔質金属体と第1電極または第2電極との接触では、接触面積を十分大きくとりにくい。このため、多孔質金属体を、直接、電極に接触させて導通をとる場合、接触抵抗が大きくなり、電極と集電体との間の電気抵抗を増大させる。集電体の電気抵抗の増大は、電気化学反応の能力を減少させる。
これに対して、金属のメッシュシートおよび/なたは金属ペーストを用いると、次のようにして接触抵抗を下げることができる。(1)金属のメッシュシートの場合、一枚のシート状なので電極の面に沿って接触することは自然である。そして、充填度を増すための外力などによって、金属メッシュシートと多孔質金属体とは相互になじみ合って電極側に張り出して電極との接触面積を大きくすることができる。また、金属のメッシュシートと多孔質金属体との接触界面では、樹枝状金属同士が押し合わされ、また相手側の隙間に入り込んで相互に接触するため、接触抵抗は低い状態が維持される。(2)金属ペーストの場合、塗布ままの状態で可塑性があるので、多孔質金属体が少し電極から離れる箇所でも金属ペーストがその間隙を埋めて導電接続を実現することができる。したがって、電極と、多孔質金属体との低抵抗の導電接続を非常に簡単に実現することができる。
上記のように、金属のメッシュシートまたは金属ペーストを用いることで、電極の集電体全体の電気抵抗を小さくすることができる。このため多孔質金属体を、通路に切れ目なく配置するのではなく、断続的に配置することでも、十分小さい電気抵抗の集電体を形成することができる。その結果、多孔質金属体の総長さを小さくすることで、ここを通る気体の圧力損失を小さくすることができる。このとき、電気化学反応が高い速度で起こりやすい、高温部を形成する中間位置〜出口側に、入口側よりも高い配置密度で配置するので効率のよい集電を行うことができる。
金属のメッシュシートとしては、織布、不織布、打ち抜きシートなど何でもよいが、柔軟性、孔径の均一分布などの点で織布とするのが好ましい。金属の材料は、Ni,Ni−Fe、Ni−Co、Ni−Cr、Ni−Wなどが好ましい。また上記の金属をめっき層に持つメッシュシートであってもよい。たとえばFeの織布にNiめっきを施したものでもよい。加熱によって合金化してNi−Fe合金を形成する。これらの金属または合金は、第1電極と接合するとき、比較的容易に、すなわち極めて厳格なシール条件でなくても、当該メッシュシートを形成する金属に対して還元雰囲気を実現しやすく、還元接合を実行しやすくなる。このうちNi−W等については、とくに高い触媒作用を持ち、たとえばアンモニアの分解を促進することができる。
【0013】
MEAは筒状体をなし、第1電極が該筒状体の内面側に、また第2電極が該筒状体の外面側に位置し、第1電極が該通路に面しており、多孔質金属体が通路内に第1電極の集電体として位置する構成をとることができる。筒状体にすることで、素材自体が脆弱なセラミックスからなるMEAを、強度的に安定させ、また加工精度が比較的緩くても加工中に破損することがないものとすることができる。その上で、筒状体の内面側には、通常、通路に高い気密性が求められるアンモニア等の除害対象のガスを含む気体が導入される。筒状体であることによって通路の高い気密性は確保される。また気体は、第1電極の集電体である多孔質金属体の中を通って流れる。上記のようにこの多孔質金属体は、断続的に、かつ中間位置から出口側で、入口側よりも高い配置密度で配置されるので、圧力損失を小さくしながら効率のよい集電をすることができる。
【0014】
筒状体のMEAの中を、多孔質金属体の導電性軸をなすように挿通された中心導電棒を備えることができる。中心導電棒を用いることで、電気抵抗を抑制した上で、気体搬送路や外部配線が集中する筒状MEAの端部をコンパクトにまとめることができる。すなわち小型化してスッキリした構造にすることができる。この結果、「第1電極/第1電極集電体(多孔質金属体、中心導電棒を含む)/外部配線」における電気抵抗を抑制することができる。この結果、ガス分解の電気化学反応を促進させ、処理能力を増大させることができる。そして、ガス分解素子を含む装置の小型化を推進することができる。
【0015】
多孔質金属体については、多孔質金属シートを巻き回して筒状体の内側に配置することができる。多孔質金属体は、所定厚みを有してシート状であり、ミクロ的には樹枝状の金属が延びて連続している。筒状体MEAの内面側に第1電極集電体として多孔質金属体を装入するとき、上記シート状の多孔質金属体を渦巻き状に巻いて渦の軸心を筒状体MEAの軸心に沿うようにして装入する。この渦巻き状多孔質金属体シートの外周面では、らせんの最も外の縁または所定位置の母線部分については筒内面に沿って接触して導電接続をとりやすい。よって簡単に集電体を形成することができる。
【0016】
多孔質金属シートは、中心導電棒に巻き始め位置において溶接によって固定されることができる。これによって多孔質金属シートの中心導電棒への巻き回しを容易にできるようになる。また、多孔質金属シートと中心導電棒との導電接続部での電気抵抗を確実に低くすることができる。
【0017】
多孔質金属体は、気孔径を異にする複数種の多孔質金属シートが巻き回されており、外側の多孔質金属シートの気孔径を、内側の多孔質金属シートの気孔径よりも小さくするのがよい。これによって、第1電極との導電接続を小さい接触抵抗で実現しながら、圧力損失を増大させないようにできる。
【0018】
金属のメッシュシートが第1電極と前記多孔質金属体との間に配置され、該金属のメッシュシートがMEAの端から出た部分を有し、その端から出た部分が中心導電棒に導電接続されているようにできる。これによって、金属のメッシュシートが、第1電極と中心導電棒との間に、多孔質金属体と並列することになる。すなわち多孔質金属体と並列して集電を行うことになる。このため、低い電気抵抗を維持したまま、多孔質金属体の長さを減少させて、より一層圧力損失を低下させることができるようになる。
【0019】
第1電極と第2電極とから電力の取り出して、ヒータに該電力を供給することができる。これによって、エネルギー効率の優れたガス分解を行うことができる。
【0020】
分解対象のガスを、半導体製造装置から排出されるガスであって、少なくともアンモニアを含むガスとすることができる。これによって、第2電極(カソード)で発生させた酸素イオンを第1電極(アノード)に移動させて、第1電極においてアンモニアと酸素イオンとを、金属粒連鎖体による触媒作用、およびイオンによる促進作用のもとで反応させて、さらに反応の結果生じる電子を速やかに移動させることができる。または、固体電解質にプロトン導電性のバリウムジルコネートなどを用いて、第1電極(アノード)でアンモニアを分解して、窒素分子とプロトンと電子とを生じて、プロトンは固体電解質中をカソードへ、また電子は外部回路をカソードへと移動させることもできる。カソードではプロトンと酸素とを反応させて水を生成する。
【0021】
第1電極に第3の気体を導入し、第2電極に第4の気体を導入して、第1電極および第2電極から電力を投入することができる。これによって、電力を消費して分解対象のガスを分解することができる。この場合のガス分解素子は、第1電極と第2電極とで、第3および第4の気体中のガスの電気分解を行うことになる。分解対象のガスと、電気化学反応に与るイオンを供給する気体(NH、VOC、空気(酸素)、HOなど)との電気化学的関係に応じて、電気分解とするか燃料電池とするか、決まる。
【0022】
外部装置へ電力を供給するために燃料電池として機能させることができる。これによって、ガスを除害しながら、発電等を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガス分解素子等によれば、電気化学反応を用いながら大きな処理能力を得ることができる。とくに、高温度の範囲を狙って多孔質金属体を長く配置することで、圧力損失を小さく保ちながら効率よく集電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)本発明の実施の形態1におけるガス分解素子、とくにアンモニア分解素子を示す縦断面図であり、(b)はMEAの通路における温度分布を示す図である。
【図2】図1(a)のガス分解素子のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1のガス分解素子の電気配線系統を示す図である。
【図4】実施の形態1のガス分解素子におけるNiメッシュシートを示し、(a)はNiシートを打ち抜いた形態、(b)はNi線を編んだ形態、を示す図である。
【図5】円筒MEAの端部における、外部配線および気体搬送路の接続形態を示す図である。
【図6】円筒形のカソードの外周面に設けられた、銀ペースト塗布配線とNiメッシュシートとを示す図である。
【図7】銀ペースト塗布配線の表面性状を示す走査型電子顕微鏡像を示し、(a)は画像データであり、(b)はその説明図である。
【図8】アノードにおける電気化学反応を説明するための図である。
【図9】カソードにおける電気化学反応を説明するための図である。
【図10】円筒MEAの製造方法を説明するための図である。
【図11】ガス分解素子の配列形態を示し、(a)は、1つの円筒MEAを用いた場合の構成であり、また、(b)は、(a)に示すものを、複数(12個)、並列に配置した構成を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態2におけるガス分解素子の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態1)
図1(a)は、本発明の実施の形態1における電気化学反応装置であるガス分解素子、とくにアンモニア分解素子10の縦断面図である。図1(b)は、図1(a)の筒状MEA7の内側の通路Pに沿う温度分布を示す図である。また、図2は、図1(a)のII−II線に沿う断面図である。
図1(a)および図2を参照して、このアンモニア分解素子10では、円筒形の固体電解質1の内面を覆うようにアノード(第1電極)2が設けられ、また外面を覆うようにカソード(第2電極)5が設けられて、円筒形MEA7(1,2,5)が形成されている。MEA(Membrane Electrode Assembly)は、膜−電極接合体または膜−電極アセンブリと呼ばれるが、本説明ではMEAで通す。
アノード2は燃料極、またカソード5は空気極と呼ばれることがある。筒状体は、一般には、らせん状やサーペンタイン状などに曲がりくねっていてもよいが、図1の場合は、直円筒形のMEA7である。円筒形MEAの内径は、たとえば20mm程度であるが、適用する装置に応じて、変えるのがよい。本実施の形態のアンモニア分解素子10では、円筒形のMEA7の内筒に、アノード集電体11が配置されている。また、カソード5の外面に巻き付くようにカソード集電体12が配置されている。各集電体は次のとおりである。
<アノード集電体11>:Niメッシュシート11a/断続配置された多孔質金属体11s/中心導電棒11k
Niメッシュシート11aが円筒MEA7の内面側のアノード2に接触して、多孔質金属体11sから中心導電棒11kへと導電を仲介する。多孔質金属体11sは、後述するアンモニアを含む気体の圧力損失を低くするために、気孔率を高くできる金属めっき体、たとえばセルメット(登録商標:住友電気工業株式会社)を用いるのがよい。このあと説明するように、円筒MEAの内面側では、複数の部材で形成される集電体11の全体の電気抵抗を低くしながら、通路Pにおける圧力損失を低くすることが重要なポイントである。
<カソード集電体12>:銀ペースト塗布配線12g+Niメッシュシート12a
Niメッシュシート12aが、円筒MEA7の外面に接触して、外部配線へと導電を仲介する。銀ペースト塗布配線12gは、カソード5における酸素ガスを酸素イオンに分解するのを促進する触媒として作用する銀を含み、かつカソード集電体12の電気抵抗を低くすることに寄与する。カソード5に銀を含ませることも可能であるが、所定の性状の銀ペースト塗布配線12gは、酸素分子を通しながら銀粒子がカソード5に接触して、カソード5内に含まれる銀粒子と同等の触媒作用を発現する。しかも、カソード5に含ませるより安価である。
上記のカソード集電体として機能するNiメッシュシート12aは、銀めっきが施されていてもよく、この銀めっき層は酸素分子の分解を促進する上で望ましい。銀めっき層が酸素分子の分解に対して触媒作用を発揮するので、銀ペースト塗布配線12gを省略できる場合がある。また、Niメッシュシートのままでは酸化されやすいが、銀めっき層により酸素分子を分解することで、酸化を防止することができる。
【0026】
MEAの主要構成要素である固体電解質1はイオンを通すために用いられるが、室温に近いとイオンの透過速度は小さく、実用レベルのガス分解能力を得ることができない。すなわち、一般に、固体電解質1での時間当たりのイオン透過量が反応速度を律速する。このため、MEA7を含む電気化学反応装置をヒータ41等で300℃〜1000℃に加熱することが行われる。温度は高いほどイオンの透過速度が上昇するので好ましいが、材料に耐熱性の高い材料や構造を用いる必要があり、コスト増をもたらすので、適当な温度に設定する。加熱のためにヒータ41を用いた場合でも、導入される気体は低いので、またヒータ41の端部の影響で、通路P内の温度分布は入口付近で低く、中央側へと昇温してゆき、出口付近で少し低下するのが普通である。ガス分解の電気化学反応は、上述のように、温度の高い箇所で高い反応速度を有する。すなわち温度の高い箇所において大きな処理能力でガス分解を進行させる。ガス分解反応に伴って生じる電流も、温度の高い領域において高くなる。
【0027】
多孔質金属体11sは、集電の機能の他に、気体の素通りを防いで気体がアノード2に接するように、気体の流れの素通り防止の役割を担う。この集電と素通り防止の2つの目的を達成するために、多孔質金属体11sは、所定レベル以上の気孔率および気孔径を有し、かつ所定レベル以上の導電性を有する。しかしながら、所定レベル以上の気孔率および気孔径を有していても、多孔質金属体が、入口から出口にわたって通路Pの全長に配置されると、深刻な圧力損失の増大を招く。
【0028】
<本発明の実施の形態における特徴>
図1(a)および(b)を参照して、多孔質金属体またはセルメット11sは、入口17から出口19に到る通路に、断続的に、かつ高温領域に集中的に配置される。MEA7または通路Pにおける温度分布は、入口17〜中間位置15の入口側領域よりも、中間位置15〜出口19の出口側領域のほうが高い。MEA7内に導入される気体の温度は低く、気体がMEA7の内側で所定温度に昇温するのに助走域を必要とする。
図1(a)および(b)に示すように、入口17〜中間位置15の領域よりも温度の高い中間位置15〜出口19により長く、セルメット11sを配置する。したがって、電気化学反応が高い速度で進行する高温域に、セルメット11sが集中的に配置されることになる。一例を挙げると、通路Pの長さの半分をLとして、セルメット1つの長さをdとすると、図1(a),(b)において、セルメット11sは、入口17〜中間位置15の領域では、(0.5d/L)×100%を占め、中間位置15〜出口19の領域では、(2.5d/L)×100%を占める。後者の領域では、前者の領域の5倍の長さを持つ。
セルメット11sのトータル長さは、MEA7の通路の長さの10%〜50%を占める程度でよい。具体的な一例を挙げれば、MEA7の長さを50cm程度とし、1つ4cm程度のセルメット11sを3つ、配置する程度でよい。したがって、セルメット11sのトータル長さは、MEA7の長さの25%足らずとすることができる。
とくに気体が低温状態にある入口15の付近にはセルメット11sは配置しないで、通路Pの長さの1/5程度は間隔をあけてセルメット11sを配置するのがよい。通路Pの長さの1/5程度は最高温度に到達する助走区間とみることができる。
この結果、従来のように通路全体に充填されたセルメットに比べて、圧力損失を大幅に低減することができる。そして、電気化学反応が高い速度で進行する領域に狙いをつけてセルメット11sを配置するので、高速で進行する電気化学反応の妨げとならず、電気抵抗を低く抑えることができる。この結果、電気化学反応を用いて、小型で、大きな処理能力を有するガス分解素子を得ることができる。
【0029】
図3は、固体電解質が酸素イオン導電性である場合における、図1のガス分解素子10の電気配線系統を示す図である。アンモニアを含む気体は、気密性を厳格にして円筒MEA7の内筒、すなわちアノード集電体11が配置されている空間に導入される。円筒MEA7を用いた場合、内面側に気体を通すことから、多孔質金属体11sの使用は不可欠である。圧力損失を低くする点から、上述のように金属めっき体、たとえばセルメットを用いることが重要である。アンモニアを含む気体は、Niメッシュシート11aおよびセルメット11sの空隙を通りながら、アノード2と接触して、下記のアンモニア分解反応をする。酸素イオンO2−は、カソードでの酸素ガス分解反応によって生じ、固体電解質1を通ってアノード2に到達したものである。すなわち陰イオンである酸素イオンが固体電解質を移動する場合の電気化学反応である。
(アノード反応):2NH+3O2−→N+3HO+6e
より詳しくは、一部のアンモニアが、2NH→N+3Hの反応を生じ、この3Hが酸素イオン3O2−と反応して3HOを生成する。
カソード5には空気、とくに酸素ガスが、スペースSを通るように導入され、カソード5において酸素分子から分解した酸素イオンをアノード2に向かって固体電解質1へと送り出す。カソード反応はつぎのとおりである。
(カソード反応):O+4e→2O2−
上記の電気化学反応の結果、電力が発生し、アノード2とカソード5との間に電位差を生じ、カソード集電体12からアノード集電体11へと電流Iが流れる。カソード集電体12とアノード集電体11との間に負荷、たとえばこのガス分解素子10を加熱するためのヒータ41を接続しておけば、そのための電力を供給することができる。ヒータ41への上記電力の供給は、部分的であってもよく、むしろ大部分の場合において、自家発電の供給量はヒータ全体に要する電力の半分以下であることが多い。
繰り返しになるが、上記のガス分解素子では、円筒MEAの内面側のアノード2においては、アノード集電体11の電気抵抗を低くしながら、ここを通る気体の圧力損失を低くすることが、成否の鍵になる。また、カソード側においては、空気は円筒内を通らないが、空気とカソードとの接触箇所の高密度化と、カソード集電体12の低抵抗化が、やはり成否の鍵になる。
【0030】
上記は、陰イオンである酸素イオンが固体電解質1を移動する電気化学反応であるが、固体電解質1に、たとえばバリウムジルコネート(BaZrO)を用いてプロトンをアノード2で発生させて固体電解質1中をカソード5へと移動させる反応も、本発明の望ましい一つの形態である。
プロトン導電性の固体電解質1を用いると、たとえばアンモニアを分解する場合、アノード2でアンモニアを分解してプロトン、窒素分子および電子を生じさせて、プロトンを固体電解質1経由でカソード5へと移動させ、カソード5において酸素と反応して水(HO)を生じさせる。プロトンは酸素イオンと比べて小さいので固体電解質中の移動速度は大きい。このため加熱温度を低くしながら実用レベルの分解容量を得ることができる。固体電解質1の厚みも、強度を確保できる厚みとすることが可能となる。
また、たとえば筒状体MEAを用いてアンモニア分解を行うとき、内側をアノードとした場合、酸素イオン導電性の固体電解質では、水を筒状体の内側(アノード)で生成する反応となる。水は、筒状体MEAの出口付近の温度が低い部分では水滴を形成して圧力損失の原因となる場合がある。これに対して、プロトン導電性の固体電解質を用いると、プロトンと酸素分子と電子とが、カソード(外側)で反応して水を生成する。外側はほぼ開放されているので、出口側の温度の低い箇所で水滴となって付着しても圧力損失を生じにくい。
【0031】
次に、図1(a)に示すガス分解素子10の他の部分の特徴について説明する。
1.アノード集電体のNiメッシュシート11a
図1(a),図2に示すアノード集電体11におけるNiメッシュシート11aは、アノード集電体11の電気抵抗を低下させることを通じて、ガス流れの圧力損失を小さくする点で、重要な要素である。上述のように、アノード集電体11は、アノード2/Niメッシュシート11a/多孔質金属体(セルメット)11s/中心導電棒11k、の導電経路をとる。この中で、Niメッシュシート11aは必須ではなく、Niメッシュシートは用いなくてもよい。たとえばNiメッシュシート11aを用いない場合は、セルメット11sが、直接、アノード2に接触する。この場合、次のように接触抵抗は小さく抑えにくい。セルメット11sは、所定厚みを有してシート状であり、ミクロ的には樹枝状の金属が延びて樹枝間で連続している。筒状体MEAの内面側にアノード集電体としてセルメット11sを装入するとき、上記シート状のセルメットを中心導電棒11kに渦巻き状に巻き回して、中心導電棒11kの軸心を筒状体MEAの軸心に沿うようにして装入する。この渦巻き状シートの外周面では、らせんの最も外の縁または所定位置の母線部分については筒内面に沿って接触しやすいが、それより内側の部分については非同心円ではなくらせん状なので、アノード2から離れやすい。このため、セルメット11sとアノード2との接触面積を十分大きくとりにくい。また、接触圧についても同様に所定の母線部分は十分な接触圧を保つことができるが、それより内側では不十分である。このため、セルメット11sを、直接、アノード2に接触させて導通をとる場合、接触抵抗を小さくしにくい。
これに対して、金属のメッシュシート11aとくにNiメッシュシートを用いると、次のようにして接触抵抗を確実に下げることができる。すなわち、Niメッシュシート11aの場合、一枚のシート状なので第1電極の内筒面に沿って全周で接触することは自然である。そして、筒状体内に充満するように加える外力(圧縮性)および充満させるための材料増の調整などによって、金属メッシュシート11aとセルメット11sとは相互になじみ合ってアノード2側に張り出してアノード2との接触面積を大きくすることができる。また、金属メッシュシート11aとセルメット11sとの接触界面では、樹枝状金属同士が押し合わされ、また相手側の隙間に入り込んで相互に接触するため、接触抵抗は低い状態が維持される。
上記のように、多孔質金属体11sに金属めっき体であるセルメット(登録商標)を用いても、Niメッシュシートを用いない場合、接触抵抗は比較的大きく、ガス分解素子10のカソード集電体12とアノード集電体11との間の電気抵抗は、たとえば4〜7Ω程度あった。これに、上記のNiメッシュシート11aを挿入することによって、1Ω程度以下に下げることができる。すなわち1/4以下程度にすることができる。
【0032】
図4(a),(b)は、Niメッシュシート11aを示す図である。図4(a)は単相のNiシートから打ち抜きによって、メッシュ状にしたものであり、図4(b)はNi線を編むことによって、メッシュ状にしたものである。上記のNiメッシュシート11aには、どちらを用いてもよい。図4では、Niメッシュシート11aは円筒形ではないが、実際のガス分解素子10では、多少、頂部が開いて不完全な円筒形であってもよい。
なお、金属のメッシュシートの材料としてはNiに限定されない。金属のメッシュシートとしては、織布、不織布、打ち抜きシートなど何でもよいが、柔軟性、孔径の均一分布などの点で織布とするのが好ましい。金属の材料は、Ni,Ni−Fe、Ni−Co、Ni−Cr、Ni−Wなどが好ましい。また上記の金属または合金をめっき層に持つメッシュシートであってもよい。たとえばFeの織布にNiめっきを施したものでもよい。加熱によって合金化してNi−Fe合金を形成する。これらの金属または合金は、第1電極と接合するとき、比較的容易に、すなわち極めて厳格なシール条件でなくても、メッシュシートを形成する上記の金属に対して還元雰囲気を実現しやすく、第1電極との還元接合を実行しやすくなる。このうちNi−W等については、とくに高い触媒作用を持ち、たとえばアンモニアの分解を促進することができる。
【0033】
2.中心導電棒11k
本実施の形態では、MEA7が円筒形であり、かつ、アノード集電体11に中心導電棒11kを用いた点に特徴がある。中心導電棒11kは、少なくとも表層にCrを含まない金属で形成するのがよい。たとえばNi導電棒11kとするのがよい。Crを含むステンレススティールを用いた場合、使用中に、アノード2中のセラミックスGDCなどがCr被毒によって機能不全を生じるからである。中心導電棒11kの直径は、特にこだわらないが、円筒固体電解質1の内径の1/9〜1/3程度とするのがよい。たとえば上記内径18mmのとき、2mm〜6mm程度とするのがよい。太くしすぎると流すことのできるガスの最大流量が減少し、細くし過ぎると電気抵抗が大きくなり発電時の電圧低下につながる。多孔質金属体11sは、シート状のもの(セルメットシート)が、中心導電棒11kにらせん状に緊密に巻き付けられ、らせんの状態が維持される。このため、多孔質金属体11sと中心導電棒11kとの界面の電気抵抗は小さい。中心導電棒11kを用いることの利点は次のとおりである。
(E1)アノード2から外部配線に至る間の全体の電気抵抗を低くすることができる。
(E2)従来の円筒MEAを用いた場合の泣き所は、内面側の集電体の外部端子を簡単な構造で、小型にまとめることができない点にあった。円筒MEAの内面側の集電には多孔質金属体は不可欠であるが、この多孔質金属体は端の部分をまとめにくく、小型化された端子部を形成することができなかった。たとえば、多孔質金属の端を引き伸ばして外部との導電接続をはかる場合、ガス分解素子自体が大掛かりになり、商品価値は大きく低下する。また、圧力損失の点でも多孔質金属体の延長は好ましくない。
さらに、円筒MEA7の内側には、アンモニアを含む気体が導入されるので、気密性の高い、気体搬送路と円筒MEA7との接続、およびアノード集電体11と外部配線との接続が重要となる。円筒MEA7の端には、アノード集電体の外部配線への接続部、および、気体搬送路との接続部が、両方ともに設けられる。
中心導電棒11kは、ねじ切りや溝きり等の加工が容易であり、ソリッド棒なので、多少の外部の応力に変形することはなく、安定にその形状を維持することができる。この結果、アノード集電体12と外部配線との接続部を簡単な構造で、しかも小型で実現することができる。
(E3)ガス分解素子10を能率よく稼働させるには300℃〜1000℃に加熱する必要がある。加熱のためのヒータ41は、空気通路の外側に配置するしかない。熱は円筒MEA7の外側から内側へと伝導するが、円筒MEA7の端部も当然、高温になる。高温の端部に高い気密性で、外部配線および気体搬送路を接続させるには、上記の高温では、特殊な耐熱性の樹脂が必要になる。また、ガスによる腐食等も高温になるほど進行が高くなる傾向があるので、耐食性についても、特殊な材料が必要になるおそれがある。この結果、使用可能な樹脂が、非常に高価になるおそれがある。
しかし、中心導電棒11kを用いれば、ヒータ41側の外側から最も遠い位置にあり、しかも容易に軸方向に延ばすことができる。このため、比較的、温度が低い箇所まで延ばした位置で、気密性を高くしながら、外部配線との導電接続、および気体搬送路との接続、を行うことができる。その結果、非常に特殊な樹脂を用いることなく、通常のレベルの耐熱性かつ耐食性の樹脂を用いることができ、経済性を高め、かつ耐久性を向上させることができる。
【0034】
図5は、中心導電棒11kと外部配線11eとの接続形態、および円筒MEA7と気体搬送路53との接続形態を示す図である。円筒MEA7の端には、フッ素樹脂製の管状継ぎ手30が嵌め合わされる。嵌め合わせは、管状継ぎ手30の本体部31から固体電解質1へと延びる締結部31bの内面側に収納されたOリング33が、焼結体であるセラミックスの固体電解質1の外面に当接された状態が維持されるように行う。このため、管状継ぎ手30の締結部31bは、外径がテーパ状に変わるようにされ、そこにねじが切られ、そのねじに環状ねじ32が螺合ざれる。環状ねじを外径が大きくなる方向へと螺合することで、締結部31bは、外面から締め付けられ、Oリング33による気密性を調節することができる。
管状継ぎ手30の本体部31には、気密性を保ってその本体部31を貫通する導電貫通部37cが設けられ、気密性を保つために封止樹脂38等が塗られている。この導電貫通部37cは、円柱棒で、外部配線11eと確実な導電接続を行うためにナット39を螺合させるねじを切っておくのがよい。導電貫通部37cの管内先端には導電線37bが接合されており、この導電線37bの他端には接続板37aが接合されている。
接続板37aと、中心導電棒11kの先端部35との導電接続は、接続器具たとえばドライバを用いて、そのドライバを管状継ぎ手30の突き出し孔部31aを通して、ねじ34を螺合することで、行う。ドライバによるねじ34の締め付けによって、先端部35と接続板37aとの導電接続における電気抵抗(接触抵抗)をほとんどなくすことができる。
また、カソード集電体12のNiメッシュシート12aの端部の外周に、外部配線12eを周回させることで、外部への引き出しを行うことができる。カソード5は、円筒MEA7の外面側に位置するので、アノード集電体11から外部への引き出しほど困難ではない。
気体搬送路53は、弾性変形可能な樹脂等の管を用いるのがよい。その管53を、突き出し孔部31aの外周に嵌め合わせ、締結具47で締結することで、気密性のよい接続を得ることができる。
図5における、アノード集電体11と外部配線11eとの接続、および管状継ぎ手30と気体搬送路45との接続は、ともに非常に簡単かつ小型の構造で実現されている。また、上記の2種類の接続が、ヒータからの熱硫の主流部から外れた位置へと、中心導電棒11kおよびその付属品である先端部35によって離されている。このため、フッ素樹脂という普通の耐熱性樹脂または耐食性樹脂によって、長期間の繰り返し耐久性を確保することができる。また、確認のために付言するが、中心導電棒11kは、多孔質金属体11sと小さい接触抵抗で導電接続することは、上述したとおりである。
【0035】
3.銀ペースト塗布配線12g
従来、カソード5には銀粒子を配置して、銀粒子の触媒作用によって酸素分子の分解速度を向上させるのが普通であった。しかし、カソード5に銀粒子を含ませる構造では、カソード5の価格が高くなり、経済性を低下させる。カソード5に銀粒子を含有させる代わりに、カソード5外面において、銀ペースト塗布層の形態で銀粒子の配線を形成することができる。
図6は、円筒形のカソード5の外周面に設けられた、銀ペースト塗布配線12gとNiメッシュシート12aとを示す図である。銀ペースト塗布配線12gは、銀ペーストをカソード5の外周面に、たとえば図6に示すように帯状の配線を格子状(母線方向+環状方向)に配置する。
この銀ペーストにおいて重要なのは、乾燥後または焼結後に、気孔率の高い多孔質にすることである。図7は銀ペースト塗布配線12gの表面を示すSEM(Scanning Electron Microscopy)像を示し、(a)は画像データであり、(b)はその説明図である。図7に示すように、塗布し乾燥(焼結)した後に多孔質になる銀ペーストは市販されており、たとえば京都エレックス株式会社製のDD−1240などを用いることができる。銀ペースト塗布配線12gを多孔質にすることの重要性はつぎの理由に基づく。
カソード5には酸素分子Oをできるだけ多く供給するのがよく、しかも銀ペーストに含まれる銀粒子は、カソード5におけるカソード反応を促進する触媒作用を有する(図9参照)。銀ペースト塗布配線12gをカソード5に塗布することで、カソード中の酸素イオンを通すLSMなどの金属酸化物と、銀粒子と、酸素分子Oとが接触する箇所(接触箇所)が高密度で生じる。銀ペースト塗布配線12gを多孔質にすることで、多くの酸素分子Oが、多孔質の気孔中に入って上記の接触箇所に触れ、カソード反応を生じやすくなる。
さらに、銀粒子を含む銀ペースト塗布配線12gは、導電性が高いので、Niメッシュシート12aを補助してカソード集電体12における電気抵抗を低くする。このために、銀ペースト塗布配線12gは、上記のように、格子状(母線方向、環状方向)に連続するように設けるのがよい。外側のNiメッシュシート12aは、この銀ペースト塗布配線12gに接触して導通するように巻き付けられる。このNiメッシュシートについても、上述の銀の触媒作用を得るために、銀めっきNiメッシュシートとしてもよい。
要約すると、多孔質になる銀ペースト塗布配線12gによって、(1)カソード反応を促進して、かつ(2)カソード集電体12の電気抵抗を下げることができる。
銀ペースト塗布配線12gは、図6に示すように帯状に格子状に設けてもよいし、またはカソード5の全外周面に形成してもよい。カソード5の全外周面に銀ペースト塗布した場合には、配線とは呼びにくいが、本説明では、全外周面の領域に抜けた領域なく塗布する場合も、銀ペースト塗布配線と呼ぶこととする。このカソード5の全外周面に塗布する場合は、Niメッシュシート12aを省略することができる。
【0036】
さらに各部を構成する材料および構造の特徴について説明する。アノード2(第1電極)、および/または、カソード5(第2電極)を、ニッケル(Ni)を主成分とする金属粒連鎖体と、イオン導電性セラミックスとを含む焼結体とすることができる。
<アノード2>
−構成と作用−
図8は、固体電解質1が酸素イオン導電性の場合における、アノード2の電気化学反応を説明するための図である。アノード2には、アンモニアを含む気体が導入され、気孔2hを通って流れる。アノード2は、表面酸化されて酸化層を有する金属粒連鎖体21と、酸素イオン導電性のセラミックス22とを主成分とする焼結体である。酸素イオン導電性のセラミックス22としては、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム安定化セリア)、LSGM(ランタンガレート)、GDC(ガドリア安定化セリア)などを用いることができる。
金属粒連鎖体21の金属は、ニッケル(Ni)またはNiに鉄(Fe)を含むものとするのがよい。さらに好ましくはTiを2〜10000ppm程度の微量含むものである。(1)Ni自体、アンモニアの分解を促進する触媒作用を有する。また、FeやTiを微量含むことでさらに触媒作用を高めることができる。さらに、このNiを酸化させて形成されたニッケル酸化物は、これら金属単体の促進作用をさらに高めることができる。ただし、アンモニアの分解反応(アノード反応)は還元反応なので、使用前の製品には焼結処理等で生じた酸化層がNi粒連鎖体に形成されていたのが、使用によってアノード中の金属粒連鎖体も還元されて酸化層が消失することになる。しかし、Ni自体の触媒作用は確実にあり、さらに、酸化層がないことをカバーするために、FeやTiをNiに含有させて触媒作用の低下を補うことができる。
上記の触媒作用に加えて、アノードにおいて、酸素イオンを分解反応に参加させている。すなわち、分解を電気化学反応のなかで行う。上記のアノード反応2NH+3O2−→N+3HO+6eでは、酸素イオンの寄与があり、アンモニアの分解速度を大きく向上させる。(3)アノード反応では、自由な電子eが生じる。電子eがアノード2に滞留すると、アノード反応の進行は、妨げられる。金属粒連鎖体21は、ひも状に細長く、酸化層21bで被覆された中身21aは良導体の金属(Ni)である。電子eは、ひも状の金属粒連鎖体の長手方向に、スムースに流れる。このため、電子eがアノード2に滞留することはなく、金属粒連鎖体21の中身21aを通って、外に流れる。金属粒連鎖体21により、電子eの通りが、非常に良くなる。要約すると、本発明の実施の形態における特徴は、アノードにおける次の(e1)、(e2)および(e3)にある。
(e1)ニッケル粒連鎖体、Fe含有ニッケル連鎖体、またはFe,Ti含有ニッケル粒連鎖体による分解反応の促進(高い触媒機能)
(e2)酸素イオンによる分解促進(電気化学反応の中での分解促進)
(e3)金属粒連鎖体のひも状良導体による電子の導通性確保(高い電子伝導性)
上記の(e1)、(e2)および(e3)によって、アノード反応は非常に大きく促進される。
温度を上げて、触媒に分解対象ガスを接触させるだけで、その分解対象ガスの分解は進行する。それは先行文献に開示されており、上記したように周知である。しかし、上記のように、燃料電池を構成する素子において、カソード5からイオン導電性の固体電解質1を経て、酸素イオンを反応に関与させ、その結果、生じる電子を外に導通させることで、分解反応速度は飛躍的に向上する。上記の(e1)、(e2)および(e3)の機能、およびその機能をもたらす構成をもつことが、本発明の大きな特徴である。
なお、上記は固体電解質1が酸素イオン導電性の場合の説明であるが、固体電解質1はプロトン(H)導電性でもよく、その場合、アノード2におけるイオン導電性セラミックス22はプロトン導電性のセラミックス、たとえばバリウムジルコネート等を用いる。
−配合および焼結−
アノード2の酸素イオン導電性の金属酸化物(セラミックス)をSSZとする場合、SSZの原料粉末の平均径は0.5μm〜50μm程度とする。表面酸化された金属粒連鎖体21と、SSZ22との配合比は、mol比で0.1〜10の範囲とする。焼結方法は、たとえば大気雰囲気中で、温度1000℃〜1600℃の範囲に、30分〜180分間保持することで行う。製造方法については、とくに円筒MEA7の製造法に関連づけて、このあと説明する。
【0037】
<金属粒連鎖体21>
−還元析出法−
金属粒連鎖体21は、還元析出法によって製造するのがよい。この金属粒連鎖体21の還元析出法については、特開2004−332047号公報などに詳述されている。ここで紹介されている還元析出法は、還元剤として3価チタン(Ti)イオンを用いる方法であり、析出する金属粒(Ni粒など)は微量のTiを含む。このため、Ti含有量を定量分析することで、3価チタンイオンによる還元析出法で製造されたものと特定することができる。3価チタンイオンとともに存在する金属イオンを変えることで、所望の金属の粒を得ることができる。Niの場合はNiイオンを共存させる。Feイオンを微量加えると、微量Feを含むNi粒連鎖体が形成される。
また、連鎖体を形成するには、金属が強磁性金属であり、かつ所定のサイズ以上であることを要する。NiもFeも強磁性金属なので、金属粒連鎖体を容易に形成することができる。サイズについての要件は、強磁性金属が磁区を形成して、相互に磁力で結合し、その結合状態のまま金属の析出→金属層の成長が生じて、金属体として全体が一体になる過程で、必要である。所定サイズ以上の金属粒が磁力で結合した後も、金属の析出は続き、たとえば結合した金属粒の境界のネックは、金属粒の他の部分とともに、太く成長する。アノード2に含まれる金属粒連鎖体21の平均直径Dは5nm以上、500nm以下の範囲とするのがよい。また、平均長さLは0.5μm以上、1000μm以下の範囲とするのがよい。また、上記平均長さLと平均径Dとの比は3以上とするのがよい。ただし、これら範囲外の寸法を持つものであってもよい。
−酸化層の形成−
表面酸化処理は、アノード2に用いる場合は、還元されるので重要度は少し低下する。表面酸化処理方法はつぎのとおりである。(i)気相法による熱処理酸化、(ii)電解酸化、(iii)化学酸化の3種類が好適な手法である。(i)では大気中で500〜700℃にて1〜30分処理するのがよい。最も簡便な方法であるが、酸化膜厚の制御が難しい。(ii)では標準水素電極基準で3V程度に電位を印加し、陽極酸化することにより表面酸化を行うが、表面積に応じ電気量により酸化膜厚を制御できる特徴がある。しかし、大面積化した場合、均一に酸化膜をつけることは難しい手法である。(iii)では硝酸などの酸化剤を溶解した溶液に1〜5分程度浸漬することで表面酸化する。酸化膜厚は時間と温度、酸化剤の種類でコントロールできるが薬品の洗浄が手間となる。いずれの手法も好適であるが、(i)または(iii)がより好ましい。
望ましい酸化層の厚みは、1nm〜100nmであり、より好ましくは10nm〜50nmの範囲とする。ただし、この範囲外であってもかまわない。酸化皮膜が薄すぎると触媒機能が不十分となる。また、わずかな還元雰囲気でもメタライズされてしまう恐れがある。逆に酸化皮膜が厚すぎると触媒性は充分保たれるが、反面、界面での電子伝導性が損なわれ、発電性能が低下する。
【0038】
<カソード>
−構成および作用−
図9は、固体電解質1が酸素イオン導電性の場合における、カソード5における電気化学反応を説明するための図である。カソード5には、空気とくに酸素分子が導入される。カソード5は、酸素イオン導電性のセラミックス52とを主成分とする焼結体とする。この場合の酸素イオン導電性のセラミックス52として、LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト)などを用いるのがよい。
本実施の形態におけるカソード5では、Ag粒子は銀ペースト塗布配線12gの形態で配置される。この中で、Ag粒子はカソード反応O+4e→2O2−を大きく促進させる触媒機能を有する。この結果、カソード反応は非常に大きい速度で進行することができる。Ag粒子の平均径は、10nm〜100nmとするのがよい。
上記は固体電解質1が酸素イオン導電性の場合の説明であるが、固体電解質1はプロトン(H)導電性でもよく、その場合、カソード5におけるイオン導電性セラミックス52はプロトン導電性のセラミックス、たとえばバリウムジルコネート等を用いるのがよい。
−焼結−
SSZの平均径は0.5μm〜50μm程度のものを用いるのがよい。焼結条件は、大気雰囲気で、1000℃〜1600℃に、30分〜180分間程度保持する。
【0039】
<固体電解質>
電解質1は、固体酸化物、溶融炭酸塩、リン酸、固体高分子などを用いることができるが、固体酸化物は小型化でき、取り扱いが容易なので好ましい。固体酸化物1としては、酸素イオン導電性の、SSZ、YSZ、SDC、LSGM、GDCなどを用いるのがよい。また、上記のように、プロトン導電性のバリウムジルコネートを用いることもできる。
【0040】
<めっき金属体>
アノード2の集電材の重要な一要素である多孔質金属体11sは金属めっき体とするのがよい。多孔質金属体11には金属めっき多孔体とくにNiめっき多孔体、すなわち上述のセルメット(登録商標)を用いるのがよい。Niめっき多孔体は、気孔率を大きくとることができ、たとえば0.6以上0.98以下とすることができる。これによって、内面側電極であるアノード2の集電体の一要素として機能しながら、非常に良好な通気性を得ることができる。気孔率が0.6未満では、圧力損失が大きくなり、ポンプ等による強制循環をするとエネルギー効率が低下し、またイオン導電材等に曲げ変形等を生じて好ましくない。圧力損失を低減し、イオン導電材の損傷を防止するために、気孔率は、0.8以上とするのがよく、更に好ましい範囲として0.9以上とする。一方、気孔率が0.98を超えると電気伝導性が低下して集電機能が低下する。
図1に用いた3つ断続配置されているセルメットについて、たとえば入口17に近いセルメット11sの気孔径、気孔率は大きくして、出口19に近いセルメットおよび中央のセルメットは気孔径、気孔率はそれより小さめにするのがよい。高温域では、反応が高速で進行するので、その領域で気体の滞留時間を長くするのがよい。
また、中心導電棒11kに最初に巻き付けるセルメットシートは気孔径、気孔率は小さいものを用い、それより外側では、気孔径、気孔率がそれより大きめのセルメットシートを用いるのがよい。圧力損失を防ぎながら、電気抵抗の増大を抑え、第1電極(アノード)に気体を接触しやすくする上で好ましい。
【0041】
<円筒MEAの製造方法>
図10により、円筒形MEA7の製造方法の概要について説明する。図10には、アノード2、およびカソード5ごとに、焼成を行う工程を示す。まず、市販されている円筒形固体電解質1を購入して準備する。次いで、カソード5を形成する場合は、所定の流動性を持つようにカソード構成材料を溶媒に溶かした溶液を調整して、円筒形固体電解質の外面に均等になるように塗布する。次いで、カソード5に適切な焼成条件で焼成する。このあとアノード2の形成に移る。図10に示す製造方法の他に、多くのバリエーションがある。焼成回数を1回ですます場合で、図10に示すように、各部分ごとに焼成を行うのではなく、塗布状態のまま、各部分を形成して、最後に、各部分の最大公約数的な条件で焼成を行う。この他、多くのバリエーションがあり、各部分を構成する材料と、目標とする分解効率と、製造経費等を総合的に考えて製造条件を決めることができる。
【0042】
<ガス分解素子の配列>
図11は、ガス分解素子10の配列例を示す図である。図11(a)は、1つの円筒形MEA7を用いた場合のガス除害装置であり、また、図11(b)は、図11(a)に示すものを、複数(12個)、並列に配置した構成のガス除害装置である。1つのMEA7では処理容量が不足する場合に、複数の並列配置は、面倒な加工無しに容量増大をはかることができる。複数のどの円筒形MEA7についても、内面側に、上記のアノード集電体11(11a,11s,11k)を装入し、内面側にアンモニアを含む気体を流す。円筒形MEA7の外面側は、スペースSを設けて高温の空気または高温の酸素に触れさせるようにする。
また、加熱装置であるヒータ41については、複数、並列配置した円筒形MEA7の全体をまとめて結束する態様により、設けることができる。このような全体をまとめて結束する態様をとることで、小型化をはかることができる。
【0043】
(実施の形態2)
図12は、本発明の実施の形態2におけるガス分解素子10の縦断面図である。本実施の形態では、出口19側のNiメッシュシート11aをMEA7の外にまで延び出る部分を形成して、中心導電棒11kに導電接続する。図12では、入口17側でのみ上記延び出る部分が中心導電棒11kに導電接続されているが、逆に出口19側だけでもよいし、入口17側と出口19側との両方で導電接続してもよい。
ただ、出口19側にNiメッシュシート11aを延ばすと、図5に示した外部との接続部材と干渉するので、コンパクトに配置するのが難しい。また、出口19側に長く延ばして温度が低くなる領域に位置する部分があると、アノード2での反応後に水(HO)を生じ、これがNiメッシュシート11aに結露して、圧力損失を増大させるおそれがある。このため、とくに出口19側の温度が低くなるおそれがある場合には、Niメッシュシート11aの中心導電棒11kへの導電接続は、入口17側だけにするのがよい。
導電接続の方法は、抵抗溶接によって簡単に行うことができる。図12においては、Niメッシュシート11aは、抵抗溶接によって中心導電棒11kに溶接されている。抵抗溶接は、中心導電棒11kの全周に溶接してもよいし、抵抗溶接機の容量を抑えて、数点で溶接してもよい。
これによって、Niメッシュシート11aが、アノード2と中心導電棒11kとの間に、セルメット11sと並列することになる。すなわちセルメット11sと並列して集電を行うことになる。このため、低い電気抵抗を維持したまま、セルメット11sの長さを減少させて、より一層圧力損失を低下させることができる。図12の例では、セルメット11sを2つに減らしている。この結果、より一層、全体の電気化学反応の進行を促進させて処理能力を増大させることができる。
【0044】
(その他のガス分解素子)
表1は、本発明のガス分解素子を適用できる他のガス分解反応を例示する表である。ガス分解反応R1は、実施の形態1で説明したアンモニア/酸素の分解反応である。その他、ガス分解反応R2〜R8のどの反応に対しても本発明のガス分解素子は用いることができる。すなわち、アンモニア/水、アンモニア/NOx、水素/酸素/、アンモニア/炭酸ガス、VOC(揮発性有機化合物:volatile organic compounds)/酸素、VOC/NOx、水/NOx、などに用いることができる。また、どの反応においても、第1電極はアノードに限定されず、カソードとしてもよい。カソードもそれに応じて対をなすようにする。
【0045】
【表1】

【0046】
表1は、多くの電気化学反応の一部を例示したにすぎない。本発明のガス分解素子は、その他の多くの反応に適用可能である。たとえば表1は酸素イオン導電性の固体電解質の反応例に限定しているが、上述のように固体電解質をプロトン(H)導電性とする反応例も本発明の有力な実施の形態例である。固体電解質をプロトン導電性としても、固体電解質を透過するイオン種はプロトンになるが表1に示すガスの組み合わせにおいて、結果的にガス分子の分解を実現することは可能である。たとえば(R1)の反応において、プロトン導電性の固体電解質の場合、アンモニア(NH)はアノードで窒素分子、プロトン、および電子に分解し、プロトンは固体電解質中をカソードへと移動する。電子は外部回路をカソードへと移動する。そしてカソードにおいて酸素分子と、電子と、プロトンとが水分子を生成する。結果的にアンモニアが酸素分子と組み合わされて分解されるという点において、固体電解質が酸素イオンである場合と同じである。
【0047】
(その他の適用例)
上記の電気化学反応はガス除害を目的としたガス分解反応である。しかし、ガス除害を主目的としないガス分解素子もあり、本発明のガス分解素子は、そのような、電気化学反応装置、たとえば燃料電池等にも用いることができる。
【0048】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のガス分解素子によれば、電気化学反応を用いることでランニングコストを抑えながら、大きな処理能力を得ることができる、なかでもとくにアンモニアを対象とする円筒MEAによるアンモニア分解素子は、小型で処理能力が高く、処理容量を確保するために高温で使用しながら耐久性にも優れている。
【符号の説明】
【0050】
1 固体電解質、2 アノード、2h アノード中の気孔、5 カソード、5c カソードのイオン導電性セラミックス、10 ガス分解素子、11 アノード集電体、11a Niメッシュシート、11e アノード外部配線、11g Niペースト層、11k 中心導電棒、11s 多孔質金属体(金属めっき体)、12 カソード集電体、12a Niメッシュシート、12e カソード外部配線、12g 銀ペースト塗布配線、15 通路の中間位置、17 入口、19 出口、21 金属粒連鎖体、21a 金属粒連鎖体の芯部(金属部)、21b酸化層、22 アノードのイオン導電性セラミックス、30 管状継ぎ手、31 管状継ぎ手本体部、31a 突き出し孔部、31b 締結部、32 環状ねじ、33 Oリング、34 ねじ、35 中心導電棒の先端部、37a 接続板、37b 導電線、37c 導電貫通部、39 ナット、47 締結具、41 ヒータ、51 分解前排気路、53 分解後排気路、61 制御盤、63 発電電力配線、64 外部電力配線、S 空気スペース、d セルメット(多孔質金属体)の長さ、P 通路、S 空気スペース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを分解するために用いる素子であって、
固体電解質と、該固体電解質を間に挟むように位置する、第1電極および第2電極と、を有するMEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極接合体)と、
前記第1電極または第2電極に導電接続する多孔質金属体と、
前記MEAを加熱するためのヒータと、
前記ガスを含む気体を、前記MEAに導入する入口、前記MEAを経過させて出す出口、および、前記入口と出口との間の通路、とを備え、
前記多孔質金属体は、前記通路に沿って断続的に配置され、該配置された多孔質金属体の長さは、前記通路の中間位置からみて、前記入口側よりも前記出口側で長いことを特徴とする、ガス分解素子。
【請求項2】
前記多孔質金属体は、前記入口から、少なくとも通路の全長の1/5以上の間隔をあけて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のガス分解素子。
【請求項3】
前記断続的に配置された多孔質金属体は、トータル長さで、前記通路の全長の1/10〜5/10となることを特徴とする、請求項1または2に記載のガス分解素子。
【請求項4】
前記断続的に配置された多孔質金属体の気孔平均径が、位置を異にする多孔質金属体間で相違することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項5】
前記多孔質金属体が金属めっき体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項6】
前記第1電極または前記第2電極と前記多孔質金属体との間に、金属のメッシュシートおよび/または金属ペースト、を配置していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項7】
前記MEAは筒状体をなし、前記第1電極が該筒状体の内面側に、また前記第2電極が該筒状体の外面側に位置し、前記第1電極が該通路に面しており、前記多孔質金属体が前記通路内に前記第1電極の集電体として位置していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項8】
前記筒状体のMEAの中を、前記多孔質金属体の導電性軸をなすように挿通された中心導電棒とを備えることを特徴とする、請求項7に記載のガス分解素子。
【請求項9】
前記多孔質金属体については、多孔質金属シートが前記中心導電棒に巻き回されて前記筒状体の内側に配置されていることを特徴とする、請求項8に記載のガス分解素子。
【請求項10】
前記多孔質金属シートは、前記中心導電棒に巻き始め位置において溶接によって固定されていることを特徴とする、請求項9に記載のガス分解素子。
【請求項11】
前記多孔質金属体は、気孔径を異にする複数種の多孔質金属シートが巻き回されており、外側の多孔質金属シートの気孔径が、内側の多孔質金属シートの気孔径よりも小さいことを特徴とする、請求項9または10に記載のガス分解素子。
【請求項12】
前記金属のメッシュシートが前記第1電極と前記多孔質金属体との間に配置され、該金属のメッシュシートが前記MEAの端から出た部分を有し、その端から出た部分が前記中心導電棒に導電接続されていることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項13】
前記第1電極と前記第2電極とから電力を取り出して、前記ヒータに該電力を供給することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項14】
前記分解対象のガスが、半導体製造装置から排出されるガスであって、少なくともアンモニアを含むガスであることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項15】
前記第1電極に第3の気体を導入し、前記第2電極に第4の気体を導入して、前記第1電極および前記第2電極から電力を投入することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項16】
外部装置へ電力を供給するために燃料電池として機能することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載のガス分解素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−255286(P2011−255286A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130555(P2010−130555)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】