説明

ガス検出用素子、水素センサ及びガス検出用素子の製造方法

【課題】センサ構造及び製造プロセスが単純で、かつ、応答速度や感度が高いセンサを製造することが可能なガス検出用素子及びこのガス検出用素子を備えた水素センサを提供する。
【解決手段】基板上に設けられる導体又は半導体からなる薄膜上に、水素吸蔵能及び/又は水素放出能の異なる2種類以上の金属を含む金属層を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出用素子に関し、より詳しくは水素ガスを検出する水素センサ用のガス検出用素子及びこのガス検出用素子を備えた水素センサ、並びにガス検出用素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SnO、ZnO、TiO、Fe、Cr等の酸化物半導体による各種ガス、湿度センサが実用化されている。最近は特に、大気環境計測やにおいセンサ用として、数ppmからppb領域にある低濃度で高感度・高選択性のセンサの開発が進められている。一方、燃料電池を代表とする水素エネルギー源の活用技術が注目を集めており、その重要な構成要素として高感度・高速応答性を有する水素センサが求められている。
従来の酸化物半導体型水素センサは、検出時にバルク体の半導体センサの温度を数百℃まで上げる必要があり、応答速度、安全性や消費電力の点で問題が多い。また白金線および微粒子等を用いた接触燃焼式水素センサは、酸化物半導体型水素センサと同様にセンサの温度を数百℃まで上げる必要があり、応答速度、安全性や消費電力の点で問題が多く、また白金等の貴金属の使用量も多い。最近では、白金上での水素の酸化・燃焼熱と熱電変換素子との組み合わせ、タングステン酸塩の酸化・還元によるエレクトロクロミズムや、金属パラジウム薄膜・パラジウムナノ粒子などのパラジウムの水素吸蔵に伴う体積膨張を利用して電気伝導度変化から水素濃度を検出する材料等様々な新規センサが報告されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1には、非酸化物半導体と、この半導体の表面の少なくとも一部に付設された水素吸収体と、からなる水素検出部を備えた水素センサが開示されている。この水素センサは、水素吸収体への水素吸収の有無に対応する抵抗値変化から水素を検出するものである。半導体に非酸化物半導体を用いたことにより、常温でも使用することが可能となっている。
また、特許文献2には、所定の電気特性を有する酸化チタンを主成分とする半導体を備えた水素センサが開示されている。この水素センサは、特許文献1に開示されている水素センサと同様に、常温でも使用することが可能となっている。
【特許文献1】特開2005−315700号公報
【特許文献2】特開2006−003153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、センサ構造の複雑さや耐久性、高感度化等解決すべき課題は多い。特許文献1に開示されている水素センサは、応答速度が低く実用的ではない。また、特許文献2に開示されている水素センサは、常温での使用が可能なものの、応答速度や感度が低く、これらを向上させるためには、100℃以上の高温で紫外線を照射する必要がある。そのため、実用可能なセンサにするためには複雑な構造になってしまう。
【0005】
以上の課題に鑑み本発明は、センサ構造及び製造プロセスが単純で、かつ、応答速度や感度が高いセンサを製造することが可能なガス検出用素子及びこのガス検出用素子を備えた水素センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、基板上に設けられる導体又は半導体からなる薄膜上に、水素吸蔵能及び/又は水素放出能の異なる2種類以上の金属を含む金属層を設けることにより応答速度や感度を向上させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は具体的には以下のものを提供する。
【0007】
(1) 基板上に設けられる導体又は半導体からなる薄膜上に、水素吸蔵能及び/又は水素放出能の異なる2種類以上の金属を含む金属層が設けられているガス検出用素子。
【0008】
従来のガス検出用素子は、水素ガス等の還元性ガスが酸素を半導体層から引き剥がすことにより、酸素にトラップされていた電子が半導体層中に残存して荷電キャリアが存在する領域を変化させ、半導体層の抵抗値を変化させるという作動原理であった。しかし、半導体層は、自身の温度変化によっても抵抗値を変化させることは可能であり、温度変化による抵抗値変化を作動原理とした方が、従来の作動原理よりも高い感度で作動することができる。
【0009】
従って、(1)に記載の発明によれば、ガス検出用素子は、導体又は半導体からなる薄膜を含有する。導体又は半導体を薄膜としたことによって、水素を吸蔵した金属層の燃焼熱を均一に、かつ、高速で伝えることが可能となる。これによって、従来の作動原理よりも高い感度で作動することができる。また、薄膜としたことによって、ガス検出用素子のセンサ構造や製造プロセスを簡略化することが可能となる。
【0010】
また、ガス検出用素子は、水素吸蔵能及び/又は水素放出能の異なる2種類以上の金属を含む金属層を更に含有する。このように異なる性質を有する複数種の金属を含有したことによって、薄膜の温度変化を容易に引き起こすことが可能となる。
【0011】
この2種類以上の金属は、水素吸蔵速度の高い金属と、水素放出速度の高い金属と、の組み合わせであることが好ましい。
水素吸蔵速度の高い金属を含有させたことによって、検知ガス中の水素を短時間に吸着・吸蔵できるため、半導体層表面において雰囲気中の酸素との燃焼を容易にすることにより、半導体層の温度を容易に上昇させることが可能となる。これによって、従来の作動原理よりも高い感度で作動させることが可能となる。
また、水素放出速度の高い金属を含有させたことによって、水素濃度が低くなった場合に、水素を比較的早い段階で放出することが可能となる。これによって応答速度を速く、また水素濃度変化による定量的な抵抗変化を発現することが可能となる。従って、これらを組み合わせて用いたことによって、高い感度で作動させること、応答速度をより速くすること、濃度依存性のある抵抗値変化を発現させることが可能となる。
【0012】
なお、上記の2種類以上の金属は、水素吸蔵速度の高い金属と、水素放出速度の高い金属と、の組み合わせであるが、少なくとも1種類の金属は例えば水素ガスのような可燃性ガスに対する接触燃焼反応(または酸化発熱反応)を生じさせるものであることが好ましい。
【0013】
本発明における「水素吸蔵速度の高い金属」及び「水素放出速度の高い金属」とは、金属中への水素の固溶に対する溶解熱・溶解のエントロピーの差(ΔS)に基づく。例えば、パラジウムと白金の溶解熱・溶解のエントロピーは以下の通りである。
Pd:ΔH=−10kJ/molH、ΔS/R=−7molH
Pt:ΔH=+46kJ/molH、ΔS/R=−7molH
(ΔHはエンタルピーの差であり、上記値は水素原子1モルあたりの値である)
これより水素化(水素の固溶)はパラジウムの方が、はるかに起こりやすいことにはなる。
【0014】
(2) 前記2種類以上の金属は、白金又はその合金と、パラジウム又はその合金と、の組み合わせである(1)に記載のガス検出用素子。
【0015】
パラジウムは水素の吸蔵が比較的早く、また、白金は水素の放出が比較的早い。従って(2)に記載の発明によれば、水素吸蔵性を有する金属として、パラジウム又はパラジウム合金を使用し、水素放出性を有する金属として、白金又はその合金を使用し、これらを組み合わせて使用することによって、より感度が高く、応答速度の高いガス検出用素子を製造することが可能となる。
【0016】
(3) 前記白金又はその合金は、主として前記パラジウム又はその合金上に担持されている(1)又は(2)に記載のガス検出用素子。
【0017】
(3)の発明によれば、白金又はその合金を、パラジウム又はその合金上に担持させたことによって、水素吸蔵速度の高い金属であるパラジウムを還元活性点とすることが可能となる。その結果、パラジウムの上に、白金又はその合金を容易に担持させることが可能となる。このような順番で金属を担持させることにより、応答速度や感度がより高いガス検出用素子を製造することが可能となる。
【0018】
ここで「主として」とは、白金又はその合金の総添加量の5割以上が、パラジウム又はその合金上に担持されていることをいう。パラジウムと白金の担持率は、質量比で10:1から1:5であることが好ましく、5:1から1:1であることがより好ましい。
【0019】
(4) 前記薄膜は、光触媒作用を奏する薄膜である(1)から(3)いずれかに記載のガス検出用素子。
【0020】
(4)の発明によれば、薄膜を、光触媒作用を奏する薄膜としたことによって、水素吸蔵速度の高い金属を薄膜へ容易に担持させることが可能となる。これによって製造プロセスを簡略化することが可能となる。ここで「光触媒作用」とは、光の吸収によって触媒反応を生じさせる作用をいう。
【0021】
(5) 前記薄膜は、酸化チタン薄膜である(1)から(4)いずれかに記載のガス検出用素子。
【0022】
(5)の発明によれば、薄膜を酸化チタン薄膜としたことによって、光触媒反応を促進させることが可能となる。これによって、水素吸蔵速度の高い金属の担持をより促進させることが可能となり、製造プロセスをより簡略化することが可能となる。
【0023】
(6) (1)から(5)いずれかに記載のガス検出用素子と、このガス検出用素子に設けられる一対の電極と、前記電極間の抵抗値の変化を計測する抵抗計測手段と、を備える水素センサ。
【0024】
(7) 前記ガス検出用素子を構成する前記基板の熱容量は、定圧比熱容量で0.4J・K−1・g−1から1.8J・K−1・g−1である(6)に記載の水素センサ。
【0025】
(8) 前記基板は、前記薄膜と接している面と反対側の面に、熱容量を調整する熱容量調整手段を有する(6)又は(7)記載の水素センサ。
【0026】
(9) 基板上に設けられる導体又は半導体からなる薄膜上に、白金又はその合金と、パラジウム又はその合金と、を担持させる工程とを有するガス検出用素子の製造方法。
【0027】
(10) 前記薄膜は、前記金属の担持を促進させる光触媒作用を奏する薄膜である(9)に記載のガス検出用素子。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、導体又は半導体からなる薄膜上に、水素吸蔵能及び/又は水素放出能の異なる2種類以上の金属を含む金属層を設けることにより、応答速度や感度が向上したガス検出用素子を提供することが可能となった。
また薄膜を、光触媒作用を奏する薄膜としたことによって、上記2種類以上の金属を容易に担持させることが可能となる。これによって製造プロセスを簡略化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
本発明に係るガス検出用素子は、基板と、この基板の上に設けられた導体又は半導体からなる薄膜と、所定の金属を含有した金属層を有する。
【0031】
[ガス検出用素子]
図1は本実施形態に係るガス検出用素子を示した図である。このガス検出用素子1は、基板10の表面に、導体又は半導体からなる薄膜20が設けられ、更にこの薄膜20の上に所定の金属を含有する金属層30が形成されているものである。
【0032】
本実施形態において、基板10には大きさ25mm×10mm×1mmのガラス基板を用いた。この基板10は、絶縁性を有する平板であれば特に限定されるものではない。具体的には、SiO等のガラス基板や石英基板、Al等のセラミックス基板、イオンをドープしていない絶縁基板としてのSi基板などの絶縁材料を用いることができる。また、基板10の熱容量は、定圧比熱容量で0.4J・K−1・g−1から1.8J・K−1・g−1であることが好ましく、定圧比熱容量で0.5J・K−1・g−1から1.0J・K−1・g−1であることがより好ましい。
基板10の大きさは特に限定されるものではないが、10mm×5mm×1mmであることが好ましい。
【0033】
また、本実施形態において、薄膜20にはTiOを用いた。この薄膜20の材質は、導体又は半導体であれば限定されるものではないが、光触媒作用を有する酸化物半導体であることが好ましい。酸化物半導体としては、TiO,ZnO,SnO,SnO,Fe,Fe,CeO,Ce,ZrO,CdS,SiC,希土類ドープアルカリ土類チタン酸塩からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種を含有することが好ましい。中でも光触媒反応による還元作用が高いという点でTiOを用いることが好ましい。
薄膜20の厚さは、基板10よりも薄いことが好ましい。具体的には10nmから10000nmであることが好ましく、100nmから1000nmであることがより好ましい。
【0034】
また、本実施形態において、金属層30にはパラジウム及び白金を用いた。この金属層30は水素吸蔵速度の高い金属と、水素放出速度の高い金属と、を含有する。水素吸蔵速度の高い金属としては、パラジウム又はその合金が挙げられる。パラジウムの合金としてはRu、Rh、Au、La、Ti、Zr、Mg、希土類金属、Ca、V等の金属との共担持体が挙げられる。中でも水素吸蔵速度が高くかつ水素吸蔵量が多いという点でパラジウムであることが好ましい。
一方、水素放出速度の高い金属としては、白金又はその合金が挙げられる。白金の合金としては、パラジウムの合金と同様に、Ru、Rh、Au、La、Ti、Zr、Mg、希土類金属、Ca、V等の金属との共担持体が挙げられる。中でも水素放出速度が高くかつ触媒燃焼作用が高いという点で白金であることが好ましい。
【0035】
[ガス検出用素子の製造方法]
本実施形態に係るガス検出用素子1の製造方法としては、まず基板10の表面に、半導体層形成用組成物を塗布する。塗布方法としては、スパッタ法、真空蒸着法、ディップ法等公知の方法が挙げられる。次いで、これを300℃から500℃で1時間から24時間焼成して薄膜20を得る。この薄膜20は、基板10の表面全体を覆うように形成されていても、一部の面を覆うように形成されていてもよい。
なお、半導体層形成用組成物とは、酸化物半導体を形成することが可能な金属塩を有機溶剤に溶解させたものをいう。
【0036】
続いて、薄膜20の表面に所定の金属を含有する金属層30を形成する。この金属層30の形成方法としては、水素吸蔵速度の高い金属ム、及び水素放出速度の高い金属の金属塩又は有機金属化合物を有機溶剤に溶解させた電着溶液に、基板10を浸漬させ紫外光を照射して薄膜20の表面に所定の金属を担持させる方法や、スパッタ法により電着溶液を薄膜20の表面に塗布して紫外光を照射する方法等が挙げられる。
電着溶液としては、水素吸蔵速度の高い金属、及び水素放出速度の高い金属をそれぞれ含有する電着溶液を用いても、これらを混合した電着溶液を用いてもよい。
【0037】
薄膜20の表面に所定の金属を担持させる方法としては、(1)まず水素吸蔵速度の高い金属を担持させ、続いて水素放出速度の高い金属を担持させる方法、(2)まず水素放出速度の高い金属を担持させ、続いて水素吸蔵速度の高い金属を担持させる方法、(3)これらの金属を同時に担持させる方法が挙げられる。中でも、応答速度や感度をより向上させるという観点から(1)に記載の方法であることが好ましい。
【0038】
紫外光の光源としては、発光ダイオード、レーザー、キセノンランプ、水銀ランプ、ブラックライト等公知の光源を用いることが可能である。
【0039】
[水素センサ]
本実施形態に係る水素センサは、上記のガス検出用素子と、このガス検出用素子に設けられる電極と、電極間の抵抗値の変化を計測する抵抗計測手段と、を備える。ガス検出用素子は、通常は周囲の風の流れや周囲の温度変化の影響を受けるのを避けるためにケースに収められている。
本実施形態において、ガス検出用素子の感度を向上させるために、400℃まで昇温可能な電気炉をケースとすることが好ましい。検出時の電気炉内の温度は、100℃から400℃であることが好ましく、200℃から300℃であることがより好ましい。また、このケースには、測定するガスをケース内に導入するためのガス吸入口を有する。ガス吸入口には、通常、金網等を設けて、ケース内に異物が侵入することを防止している。
また、ガス吸入口の対角線上にはガスをケースの外へ導出するためのガス排出口が設けられている。このガス排出口にもガス吸入口と同様に、金網等が設けられている。
【0040】
一対の電極は、ガス検出用素子の長手方向両端部に互いに離間して形成されている。これらの電極は金属層の表面に形成されていることが好ましい。また、電極の材質としては、金、銀、アルミニウム又はこれらの合金等の良導電性の金属が挙げられる。
【0041】
ガス検出用素子の素子電極には、電極用リード線が接続されてケースの外部に引き出されており、半導体層の抵抗値の信号を、外部の抵抗計測手段によって検出している。そして、ガスがガス検出用素子に接触することにより、温度が上昇して抵抗値が変化し、抵抗計測手段によって水素ガス濃度に変換される。抵抗計測手段としては、定電圧源と電流計の組み合わせ、定電圧源・電位差計とブリッジ回路の組み合わせ、デジタルマルチメータ、インピーダンスメータ等、公知の抵抗計測手段が挙げられる。
【0042】
この水素センサを用いて水素ガスを検出する場合、上述のように外部の温度変化による影響を受けないようにガス検出用素子がケースに収められているが、より高い測定精度を安定して得るためにはガス検出用素子を過熱して一定の温度に制御することが好ましい。そのため、ケースには加熱装置が設けられていることが好ましい。加熱装置としては、例えば、電気炉や赤外線ランプ、抵抗発熱体を含有する金属、セラミックス、プラスチックス、ゴム製のブロック・厚膜等が挙げられる。
【0043】
また基板は、薄膜と接している面と反対側の面に、基板の熱容量を調整する熱容量調整手段を更に有している。熱容量調整手段とは、基板の熱平衡がスムーズに行われるように調整する薄膜であって、ある程度の熱伝導度を有していることが好ましい。具体的には、真鍮、アルミニウムおよびその合金、銅などの金属、窒化アルミニウムなどの高熱伝導性セラミックス等、が挙げられる。
【0044】
本実施形態によれば、ガス検出用素子として、基板に光触媒作用を奏する半導体層を用いたことによって、水素吸蔵速度の高い金属(パラジウム)を、光触媒反応により半導体層の表面に容易に担持させることが可能となった。また、担持された、水素吸蔵速度の高い金属を還元活性点とすることが可能となった。その結果、水素吸蔵速度の高い金属の上に、水素放出速度の高い金属(白金)を容易に担持させることが可能となった。このような順番で金属を担持させることにより、応答速度や感度がより高いガス検出用素子を製造することが可能となった。
【0045】
また、本実施形態に係る水素センサにおいて、ガス検出用素子を所定の温度まで昇温することが可能な電気炉内に収めたことによって、外部の温度変化による影響を受けずにガスを検出することが可能となった。また、基板の薄膜と接している面と反対側の面に、基板の熱容量を調整する熱容量調整手段を更に設けたことによって、基板の熱平衡を調整することが可能となった。これによって応答速度や感度がより高い水素センサを製造することが可能となった。
【実施例】
【0046】
[実施例1,2]
基板本体に面積2.5cm×1.0cmのスライドガラスを用いて基板を作成した。半導体層形成用組成物としてチタンイソプロポキシルアセチルアセトナート{[CHCOCH=C(O−)CHTi[OCH(CH]−2プロパノール溶液(TIPAA)}を用いた。これを2−イソプロパノールで希釈して、Ti濃度1.0質量%に調製した。
まず、スライドガラスを中性洗剤で洗浄後、蒸留水ですすぎ、アセトンで10分間超音波洗浄を行い、表面を清浄化した。その後、常温乾燥でアセトンを十分に揮発させ取り除いた。次いで、このスライドガラスを上記の半導体層形成用組成物に浸漬させ(ディップコート)、5mm/秒で引き上げ、3分間常温乾燥させた後に400℃で10分間仮焼させた。これを5回繰り返した。さらにその後500℃で8時間本焼を行い、TiO半導体層を形成させ、本発明に係るガス検出用素子の基板を得た。なお、ディップコート時にスライドガラス両面に膜が作製されるが、片面はエタノールでふき取り、片面だけに半導体層を作製した。
【0047】
続いて金属層を電着法により形成する。水素吸蔵性を有する金属の電着溶液として塩化パラジウム溶液を水で希釈して所定の濃度(20ppm又は40ppm)にしたものに、酸化犠牲としてエタノールを用いた。また水素放出性を有する金属の電着溶液として塩化白金酸(HPtCl)を水で希釈して所定の濃度(20ppm又は40ppm)にしたものに、酸化犠牲としてエタノールを用いた。これらの電着溶液を下記の3通りの方法で電着させた。
(1)まずパラジウム含有電着溶液にてパラジウムを担持させ、続いて白金含有電着溶液にて白金を担持させる方法(試料1)。
(2)これらの金属を同時に担持させる方法(試料2)。
また、紫外光源にはブラックライトを用い、高さを調整することにより、紫外光強度を3.0W/mとして所定の時間(15分ずつ合計30分間又は30分間)、照射を行った。
【0048】
[比較例1,2]
パラジウム含有電着溶液にてパラジウムのみを担持させた以外は、実施例1,2と同様の方法で試料を作成した。これを試料3とした。また、白金含有電着溶液にて白金のみを担持させた以外は、実施例1,2と同様の方法で試料を作成した。これを試料4とした。
【0049】
上記の方法により得られた試料のガス応答性の評価を行った。
電極は上記試料1から4の長手方向両端部に直接銀ペーストを塗布することにより形成した。このときのガス接触面積は以下に示したように1.5cm×1.0cmであった。
【0050】
これらの試料を電気炉中に設定温度で保持し、水素と空気を交互に流通させるか、あるいは、水素濃度を様々に変化させてセンサ特性を評価した。ガス流通量は、総流量で100ml/分である。流通ガスの選択と混合、および流量の調整はガス混合器を用いて行った。ガス流通サイクルについては試料により、様々に設定したために、以後結果を示す際にその都度示すことにする。抵抗値の測定はデジタルマルチメータを用いて行った。電気炉におけるガスの流入、流出口は電気炉の対角線上に位置しており、流入したガスが電気炉内全体に流通するしくみになっている。
【0051】
試料1から4のセンサ特性(空気希釈水素ガス流通による抵抗値変化)の測定結果を図2に示す。試料1(図中:三角データ)および試料2(図中:四角データ)のどちらの試料においても、試料3(図中:菱形データ),試料4(図中:丸データ)と比べ、安定した抵抗値変化を示した。また、水素濃度50%で飽和しており、それ以降は抵抗値の下限値が一致した。水素濃度30%以降はどちらの試料もほとんど同じような抵抗値変化を示している。しかし、濃度10%では試料2よりも試料1の方が、応答性が向上したことが示された。
【0052】
また、水素濃度を変化させて試料1,2のセンサ特性を評価した結果を図3に示す。パラジウムと白金が逐次で担持された試料1(図中:白丸データ)及びパラジウムと白金が同時に担持された試料2(図中:黒丸データ)のどちらの試料においても、薄膜単体よりは安定した抵抗値変化を示した。また、これまでと同様に水素濃度50%で飽和しており、それ以降は抵抗値の下限値が一致した。水素濃度30%以降はどちらの試料もほとんど同じような抵抗値変化を示している。しかし、濃度10%では試料2よりも試料1の方が、応答性が向上した。
【0053】
更に、水素濃度3%から15%の範囲での試料1,2のセンサ特性を評価した結果を図4に示す。どちらの試料においても良好なセンサ特性が得られた。水素濃度に比例して抵抗値が減少し、その後もある一定値で抵抗値が一定となった。また、空気流通時も初期抵抗値まで抵抗値が回復し、そこで一定となっている様子が観察できた。特に低濃度においては、試料2(図中:黒丸データ)では抵抗値が5分間では下がり切らず、一定値となる前に空気流通時の抵抗値の回復が始まっていたのに対し、試料1(図中:白丸データ)では水素濃度3%においても抵抗値が一定となった。濃度8%以降はどちらの試料の抵抗値変化もほぼ同じになっていることから、白金を担持することで、低濃度側のセンサ特性が向上した結果が得られた。
【0054】
試料1と試料3のセンサ特性を評価した結果を図5に示す。この結果より、特に低濃度の3%,5%において、試料1(図中:白丸データ)が水素に対するレスポンスが早く、抵抗値変化幅も大きくなっており、良好なセンサ特性を示した。このことから、白金をパラジウムに担持することにより、低濃度側のセンサ特性が向上していることが示された。
【0055】
[参考例1,2]
パラジウムと白金をそれぞれ単独で担持させた試料のセンサ特性を図6,7に示す。
図6は、パラジウム含有電着溶液の濃度と、紫外線照射時間(電着時間)をそれぞれ変化させて試料を作成し、センサ特性を評価した結果を示した図である。これより抵抗値は空気希釈水素ガス流通時に低下したが、水素濃度50%以上ではどの試料の抵抗値変化も同じとなっていた。また抵抗値が安定するまでにかなりの時間を要することが示された。
【0056】
また、図7は、白金含有電着溶液の濃度を一定(40ppm)にし、紫外線照射時間(電着時間)を変化させて試料を作成してセンサ特性を評価した結果を示した図である。紫外光照射時間(担持時間)15分、30分どちらの試料においても、Pdの時と同様に空気希釈水素ガス流通で抵抗値が減少し、その後空気を流通させることで初期抵抗値にまで回復した。また、照射15分では水素濃度30%まで、照射30分では50%まで抵抗値変化の濃度依存性が確認できた。抵抗値の変化はPd担持と同様に比較的安定しているため、白金を担持させることでTiO薄膜のみに比べセンサ特性は向上しているといえる。また、どちらの照射時間のデータも水素濃度50%以降の抵抗値の下限値が次第に上昇している様子が観察できた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係るガス検出用素子の断面図を示す図である。
【図2】実施例及び比較例の試料のガス応答性を示す図である。
【図3】実施例及び比較例の試料のガス応答性を示す図である。
【図4】実施例及び比較例の試料のガス応答性を示す図である。
【図5】実施例及び比較例の試料のガス応答性を示す図である。
【図6】参考例の試料のガス応答性を示す図である。
【図7】参考例の試料のガス応答性を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ガス検出用素子
10 基板
20 薄膜
30 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられる導体又は半導体からなる薄膜上に、水素吸蔵能及び/又は水素放出能の異なる2種類以上の金属を含む金属層が設けられているガス検出用素子。
【請求項2】
前記2種類以上の金属は、白金又はその合金と、パラジウム又はその合金と、の組み合わせである請求項1に記載のガス検出用素子。
【請求項3】
前記白金又はその合金は、主として前記パラジウム又はその合金上に担持されている請求項1又は2に記載のガス検出用素子。
【請求項4】
前記薄膜は、光触媒作用を奏する薄膜である請求項1から3いずれかに記載のガス検出用素子。
【請求項5】
前記薄膜は、酸化チタン薄膜である請求項1から4いずれかに記載のガス検出用素子。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載のガス検出用素子と、
このガス検出用素子に設けられる一対の電極と、
前記電極間の抵抗値の変化を計測する抵抗計測手段と、を備える水素センサ。
【請求項7】
前記ガス検出用素子を構成する前記基板の熱容量は、定圧比熱容量で0.4J・K−1・g−1から1.8J・K−1・g−1である請求項6に記載の水素センサ。
【請求項8】
前記基板は、前記薄膜と接している面と反対側の面に、熱容量を調整する熱容量調整手段を有する請求項6又は7記載の水素センサ。
【請求項9】
基板上に設けられる導体又は半導体からなる薄膜上に、白金又はその合金と、パラジウム又はその合金と、を担持させる工程とを有するガス検出用素子の製造方法。
【請求項10】
前記薄膜は、前記金属の担持を促進させる光触媒作用を奏する薄膜である請求項9に記載のガス検出用素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−240462(P2007−240462A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66727(P2006−66727)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】