説明

ガラスセラミックスおよびガラスセラミックスの製造方法

【課題】高い密度と高い発光効率を実現したガラス好ましくはシンチレータガラスセラミックスを提供する。
【解決手段】フッ化物結晶を含有し、Eu2+を含有することを特徴とするガラスセラミックス。 該ガラスセラミックスは原ガラスの原料として少なくともAlFを用い、該原料を還元剤を添加しておよび/または還元雰囲気で溶融した後、原ガラスを成形し、該原ガラスを熱処理することにより結晶を析出させることによって作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
X線などの放射線励起でガラスより遥かに高い効率で発光するガラスセラミックスシンチレータとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光や熱、放射線などによる励起によって効率よく蛍光を発する物質を蛍光体というが、このうち特にX線、γ線や荷電粒子などの放射線によって蛍光を発することをシンチレーションと言い、シンチレーション光を発する物質をシンチレータと言う。
シンチレータは用途としてX線、γ線の計測、X線CTやPET(Positron Emission CT)などの医療診断装置、放射線を用いた非破壊検査装置、高エネルギー物理実験の電磁力カロリーメータなどに用いられている。応用にあたって発光量が大きいこと、発光波長における透明性が高いこと、蛍光の減衰が早いこと、放射線照射に強いことなどの特性が要求される。さらに製造コストが安価であること、大きいサイズのものが製造できること、各種形状に簡単に作製できることが望まれている。
【0003】
現在、無機シンチレータとして単結晶、透明なセラミックスおよびガラスが応用されている。単結晶または透明なセラミックスシンチレータは発光効率が高いが、製造過程が煩雑でコストが非常に高い。一方、ガラスシンチレータは製造が容易でコストが安いが、発光効率が低い。
【0004】
特許文献1には発光性ガラスセラミックスが開示されているが、シンチレータ用途としての具体的な構成は開示されていない。当該ガラスセラミックスは結晶相が本発明のガラスセラミックスとは異なっている。
特許文献2にはEu2+を含む蓄光性蛍光ガラスセラミックスが開示されているが、シンチレータ用途としての議論は何らなされていない。当該ガラスセラミックスは結晶相が本発明のガラスセラミックスとは異なっている。
特許文献3にはEu2+を含む輝尽発光性のガラスセラミックスが開示されているが、シンチレータ用途としての議論は何らなされていない。当該ガラスセラミックスは結晶相が本発明のガラスセラミックスとは異なっている。
特許文献4にはEu3+が固溶したフッ化物結晶を含む発光性のガラスセラミックスが開示されているが、シンチレータ用途としての議論は何らなされていない。当該ガラスセラミックスはフッ化物結晶にEu3+が固溶している点で本発明のガラスセラミックスとは相違しており、このガラスセラミックスは放射線の励起によっては発光しない。
【特許文献1】特開平11−240736号公報
【特許文献2】特開2000−281382号公報
【特許文献3】特開2001−19492号公報
【特許文献4】特開2002−145642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は製造が簡単で、しかもガラスより遥かに効率良く発光するガラスセラミックスシンチレータとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究した結果、原ガラスにフッ化物結晶を析出させ、そのフッ化物結晶にEu2+を固溶させたガラスセラミックスが放射線の励起によって高い効率で発光するシンチレータとしての特性を発揮する事を見いだし、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の好適な態様は以下の構成で表わすことが可能である。
(構成1)
フッ化物結晶を含有し、Eu2+を含有することを特徴とするガラスセラミックス。
(構成2)
ガラスセラミックス組成を構成する成分をイオン換算した時の全陽イオンに対する比率でEu2+を0.005〜5mol%含有することを特徴とする構成1に記載のガラスセラミックス。
(構成3)
ガラスセラミックス組成を構成する成分をイオン換算した時、
陽イオンを、全陽イオンに対して、
Si4++Ge4+ 25〜70mol%、
及びAl3++Ga3+ 3〜60mol%、
及びBa2++Ca2++Sr2++Mg2++Zn2+ 5〜50mol%、
の割合で含有し、陰イオンを、全陰イオンに対して、
5〜60mol%、
及びO2− 40〜95mol%、
の割合で含有することを特徴とする構成1または2に記載のガラスセラミックス。
(構成4)
ガラスセラミックス組成を構成する成分をイオン換算した時、
陽イオンを、全陽イオンに対して、
3+ 0〜25mol%、
及び/又は Li+Na+K 0〜10mol%
及び/又は Ti4++Zr4++Sn4++P5+ 0〜15mol%
及び/又は Gd3++La3++Y3++Lu3+ 0〜15mol%
及び/又は Sb3++As3+ 0〜5mol%、
の割合で含有することを特徴とする構成1〜3のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(構成5)
外割のmol%で
Eu、EuF成分のいずれか1種のみの含有量または2種合計の含有量が0.001〜8%であることを特徴とする構成1に記載のガラスセラミックス。
(構成6)
mol%で、
SiO+GeO 30〜75%
及び/又は AlF 0.1〜30%、
及び/又は BaF+CaF+SrF+MgF+ZnF 3〜50%、
の各成分を含有することを特徴とする構成1、2、または5に記載のガラスセラミックス。
(構成7)
mol%で、
0〜20%、
及び/又は Al+Ga 0〜45%、
及び/又は BaO+CaO+SrO+MgO+ZnO+LiO+NaO+KO 0〜40%
及び/又は TiO+ZrO+SnO+P 0〜15%、
及び/又は Gd+La+Y+Lu 0〜10%
及び/又は GdF+LaF+YF+LuF 0〜20%
及び/又は Sb+As 0〜5%、
の割合で各成分を含有することを特徴とする構成5または6に記載のガラスセラミックス。
(構成8)
シンチレータとして用いられることを特徴とする構成1〜7のいずれかに記載のガラスセラミックス。
(構成9)
構成1〜8のいずれかに記載のガラスセラミックスを用いた放射線測定装置。
(構成10)
構成1〜8のいずれかに記載のガラスセラミックスを用いたCT装置。
(構成11)
原ガラスの原料として少なくともAlFを用い、
該原料を還元剤を添加しておよび/または還元雰囲気で溶融した後、
原ガラスを成形し、該原ガラスを熱処理することにより結晶を析出させることを特徴とする構成1〜8に記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成12)
前記原ガラスの原料に対するAlF成分の比率がmol%で0.1〜30%であることを特徴とする構成11に記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成13)
前記還元剤がSi、Al、Znから選ばれる1種以上であることを特徴とする構成11または12に記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成14)
前記還元雰囲気が水素、一酸化炭素、ジボラン、ヒドラジン、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウムからなる群より選択される少なくとも1つからなることを特徴とする構成11または12に記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成15)
バルクまたはファイバー状のガラスを熱処理することにより、フッ化物の結晶を析出させることを特徴とする構成11〜14のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、X線の励起で高効率に発光するため、X線を始め放射線を利用したデバイスに応用できるガラスセラミックス及び該ガラスセラミックスの製造方法を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のガラスセラミックスを構成する成分について、以下に述べる。
【0010】
本発明のガラスセラミックスを構成する成分の含有比率を説明するにあたり、ガラスセラミックスを構成する元素がイオンの状態で存在するものと仮定し、その各々の元素のイオンについての含有比率について議論する。本明細書においてはこの各々の元素のイオンについての含有比率を「イオン換算」と表現する。
本発明においてはEu2+を除き、上述したイオンと異なる価数をとる場合も本発明に求められる物性に与える効果は同じである。従ってEu2+を除き、同種の元素で異なる価数のイオンは同一の物として扱われる。換言すればある価数のイオンで表現されたイオンは同種の元素の異なる価数のイオン全てを意味している。
【0011】
まず、本発明のガラスセラミックスに含まれる陽イオン成分について、ガラスセラミックスに含まれる全陽イオンに対する比率で説明する。
【0012】
Si4+またはGe4+はガラス形成陽イオンであり、安定な原ガラスを得るのに有用な成分である。これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量は25mol%未満では原ガラスが不安定になり易く、所望の結晶相も析出しにくくなるため下限は25mol%が好ましい。より好ましい下限は28mol%であり、最も好ましい下限は30mol%である。
一方、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量は70mol%を超えるとガラスの溶融が困難になり易くなるため上限は70mol%が好ましい。より好ましい上限は65mol%であり、最も好ましい上限は55mol%である。
【0013】
3+はSi4+またはGe4+と同様にガラス形成陽イオンであり、ガラスの融点を下げ、ガラスの安定性と溶融性を改善する効果を有すると共にガラス化範囲の拡大に大きく寄与するので、任意に含有することができる。しかし、その量が25mol%を超えると目的の結晶相が析出しにくくなるので、できるだけ25mol%以下に抑えるべきである。従って含有量は0〜25mol%が好ましく、0〜15mol%がより好ましく、0〜10mol%が最も好ましい。
【0014】
Al3+、およびGa3+はガラスの安定性と溶融性を改善する効果を有し、フッ化物結晶の析出を促進させる効果があるためこれら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量の下限は3mol%であることが好ましい。より好ましい下限は4mol%であり、最も好ましい下限は5mol%である。しかし、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量が60mol%を超えるとかえってガラスの安定性と溶融性が悪くなり易い。従って、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量の上限は60mol%が好ましく、55mol%がより好ましく、50mol%が最も好ましい。
【0015】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Zn2+はフッ化物結晶を析出させるために有用な成分である。これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計の含有量が5mol%未満であるとフッ化物結晶がガラスから析出しにくいため、下限は5mol%が好ましく、10mol%がより好ましく、15mol%が最も好ましい。一方、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量が50mol%を超えるとガラスの安定性が著しく低下し易くなってしまうため上限は50mol%が好ましく、45mol%がより好ましく、40mol%が最も好ましい。
【0016】
Li、Na、Kはガラス化範囲の拡大に寄与すると共にガラスの融点を下げ、ガラスの溶融性を改善する効果があるので、任意に添加し得る成分である。これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量はできるだけ10mol%以下にすべきであり、それを超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり易い。従って上記の効果を得るためには、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量は0〜10mol%が好ましく、0〜5mol%がより好ましく、0〜3mol%の範囲が最も好ましい。
【0017】
Ti4+、Zr4+、Sn4+、P5+はフッ化物結晶相の析出を促進する効果があるので任意に添加し得る成分である。前記の効果を得るための添加量は合計で15mol%以下で十分であり、それを超えるとフッ化物以外の結晶相が析出し易くなる。従って、これら成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計の含有量は0〜15mol%が好ましく、0〜10mol%がより好ましく、0〜6mol%が最も好ましい。
【0018】
La3+、Y3+、Gd3+、Lu3+はフッ化物結晶ホストに固溶し、発光効率の向上に寄与するので任意に添加できるが、それらの合計量が15mol%を超えると、ガラスの安定性が低下し易くなってしまう。従って、これら成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計の含有量は0〜15mol%が好ましく、0〜10mol%がより好ましく、0〜8mol%が最も好ましい。
特に、原料を溶融して原ガラスを得る際にこれらの成分はフッ化物原料の形で導入するのが、フッ化物結晶ホストに固溶して発光効率を向上させる為により効果的である。
【0019】
Eu2+は発光中心としての役割を果たすので、本発明の目的を達成するのに不可欠な成分である。Eu2+はガラスから析出した結晶相に固溶し、X線など放射線の照射により発光する(シンチレーションする)。良好な発光特性を得るためにEu2+の含有量の下限は0.005mol%が好ましく、さらにより良好な発光特性を得ようとするならば0.01mol%がより好ましく、0.05mol%が最も好ましい。一方、含有量が5mol%を超えると濃度消光が発生し易くなってしまう。従って良好な発光特性を得るためにはEu2+の含有量の上限を5mol%にすることが好ましく、さらにより良好な発光特性を得ようとするならば3mol%にすることがより好ましく、2mol%にすることが最も好ましい。
【0020】
Sb3+、As3+はガラス溶融の際の清澄剤として任意に添加し得るが、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量は5mol%以下で十分である。
【0021】
次に、本発明のガラスセラミックスに含まれる陰イオン成分について、ガラスセラミックスに含まれる全陰イオンに対する比率で説明する。
【0022】
2−はガラスの安定化に必要なので、含有量の下限は40mol%であることが好ましく、45mol%とすることがより好ましく、50mol%とすることが最も好ましい。同様にガラスの安定化の観点からO2−の含有量の上限は95mol%とすることが好ましく、90mol%とすることがより好ましく、85mol%とすることが最も好ましい。
【0023】
はフッ化物結晶の析出に欠かせない成分である。フッ化物結晶を析出させる為にはFの含有量の下限は5mol%であることが好ましく、10mol%とすることがより好ましく、15mol%とすることが最も好ましい。一方過度の含有はガラスの安定性が低下し易くなってしまうため、上限は60mol%とすることが好ましく、50mol%とすることがより好ましく、45mol%とすることが最も好ましい。
【0024】
本発明のガラスセラミックスに含まれる上記の陽イオン、陰イオンは以下に述べる酸化物、フッ化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩等の原料によってガラスセラミックス中、言い換えればガラスセラミックスの原ガラス中に導入される。
ガラスを溶融する際には水酸化物中のHや炭酸塩中のCなどはその殆どがそれぞれ水や二酸化炭素等として大気中へ放出される。従って本発明のガラスセラミックスを作製するための原料の組成は、原料を構成する成分を以下に述べる酸化物またはフッ化物に換算した場合のmol%表記で説明する。本発明においてはこの酸化物またはフッ化物含有量のmol%表記を「原料換算」と表現する。換算した組成が下記の組成の範囲であれば、下記の原料以外の原料を用いることも可能である。
【0025】
SiOまたはGeOはガラス形成酸化物で安定な原ガラスを得るのに有用な成分である。これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量は30mol%未満では母ガラスが不安定になるし、所望の結晶相も析出しにくくなるため下限は30mol%が好ましい。より好ましい下限は35mol%であり、最も好ましい下限は38mol%である。一方、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量は75mol%を超えるとガラスの溶融が困難になり易くなるため上限は75mol%が好ましい。より好ましい上限は70mol%であり、最も好ましい上限は60mol%である。
【0026】
はSiOまたはGeOと同様にガラス形成酸化物であり、ガラスの融点を下げ、ガラスの安定性と溶融性を改善する効果を有すると共にガラス化範囲の拡大に大きく寄与するので、任意に含有することができる。しかし、その量が20mol%を超えると目的の結晶相が析出しにくくなるので、20mol%以下に抑えるべきである。従って含有量は0〜20mol%が好ましく、0〜15mol%がより好ましく、0〜10mol%が最も好ましい。
【0027】
Al、およびGaはガラスの安定性と溶融性を改善する効果を有すると同時にフッ化物結晶相の析出を促進する効果があるので、任意に添加できる。しかし、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量が45mol%を超えるとかえってガラスの安定性と溶融性が悪くなり易い。従って、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量は0〜45mol%が好ましく、0〜35mol%がより好ましく、0〜30mol%が最も好ましい。
【0028】
AlFは、ガラスの安定性と溶融性の改善に効果があると同時にフッ化物結晶相の析出を促進する効果が大きいので原料として有用性が高い。その量が0.1mol%未満であると効果が不十分となり易くなるため含有量の下限は0.1mol%であることが好ましい。より好ましい下限は0.5mol%であり、最も好ましい下限は1mol%である。一方、30mol%を超えるとガラスの安定性が悪くなり易くなるため含有量の上限は30mol%が好ましく、25mol%がより好ましく、20mol%が最も好ましい。
【0029】
MgF、CaF、SrF、BaF、ZnFはフッ化物結晶を析出させるために有用な成分である。これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計の含有量が3mol%未満であるとフッ化物結晶がガラスから析出しにくいため、下限は3mol%が好ましく、5mol%がより好ましく、8mol%が最も好ましい。一方、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量が、50mol%を超えるとガラスの安定性が著しく低下し易くなってしまうため上限は50mol%が好ましく、45mol%がより好ましく、40mol%が最も好ましい。
【0030】
MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、LiO、NaO、KO成分はガラス化範囲の拡大に寄与すると共にガラスの融点を下げ、ガラスの溶融性を改善する効果があるので、任意に添加し得る成分である。これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量はできるだけ40mol%以下にすべきであり、それを超えるとガラスの安定性が著しく悪くなり易い。従って上記の効果を得るためには、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量は0〜40mol%が好ましく、0〜30mol%がより好ましく、0〜20mol%の範囲が最も好ましい。
【0031】
TiO、ZrO、SnO、P成分はフッ化物結晶相の析出を促進する効果があるので任意に添加し得る成分であるが、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量15mol%以下で十分である。それを超えるとフッ化物以外の結晶相が析出易くなってしてしまう。従って上記の効果を得るためには、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量は0〜15mol%が好ましく、0〜10mol%がより好ましく、0〜6mol%が最も好ましい。
【0032】
La、Y、Gd、Luは発光特性の向上に寄与するので、任意に添加できる成分であるが、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量が10mol%を超えるとガラスの安定性と溶融性が悪くなり易い。従って上記の効果を得るためには、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量は0〜10mol%が好ましく、0〜8mol%がより好ましく、0〜5mol%が最も好ましい。
【0033】
LaF、YF、GdF、LuFは発光特性の向上に寄与し、フッ化物結晶に固溶して発光効率を向上させるので、任意に添加できる成分であるが、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量が20mol%を超えるとガラスの安定性と溶融性が悪くなり易い。従って上記の効果を得るためには、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種以上を含む場合の合計含有量は0〜20mol%が好ましく、0〜15mol%がより好ましく、0〜10mol%が最も好ましい。
【0034】
Eu、EuFは発光中心としての役割を果たすEu2+を得るために重要である。
Eu、EuFの含有量に関しては他の成分に比べて含有量が微量であるので、原料を構成するその他の成分の合計を100mol%とした時のmol比率(外割)で表現する。
良好な発光特性を得るために、これらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種を含む場合の合計含有量の下限は外割で0.001mol%である事が好ましく、さらにより良好な発光特性を得ようとするならば0.003mol%がより好ましく、0.005mol%が最も好ましい。一方、含有量が8mol%を超えると濃度消光が発生し易くなってしまう。従って良好な発光特性を得るためにはこれらの成分のいずれか1種のみを含む場合の含有量または2種を含む場合の合計含有量の上限を外割で8mol%にすることが好ましく、さらにより良好な発光特性を得ようとするならば6mol%にすることがより好ましく、4mol%にすることが最も好ましい。
Euだけを含有させる場合の含有量の下限は外割で0.001mol%である事が好ましく、上記と同様の理由から0.003mol%がより好ましく、0.005mol%が最も好ましい。一方、上限についても同様の理由から外割で4mol%にすることが好ましく、3mol%にすることがより好ましく、2mol%にすることが最も好ましい。
EuFだけを含有させる場合の含有量の下限は外割で0.002mol%である事が好ましく、上記と同様の理由から0.006mol%がより好ましく、0.01mol%が最も好ましい。一方、上限についても同様の理由から外割で8mol%にすることが好ましく、6mol%にすることがより好ましく、4mol%にすることが最も好ましい。
【0035】
Sb、Asはガラス溶融の際の清澄剤として任意に添加し得るが、これら成分のどちらか1種のみを含む場合の含有量、または2種の合計の含有量は5mol%以下で十分である。
【0036】
本発明のガラスセラミックスシンチレータはフッ化物結晶相を含有することにより高い発光効率を実現する。特に、RF(R=Ba,Sr,Ca,Mg,Zn)結晶相を1種または2種以上含有することにより、より高い発光効率を実現する。
また、例えば上記結晶相はCa1-xBa(1<x<0)等の固溶体でもよい。すなわち上記結晶相中のRはBa,Sr,Ca,Mg,Znのうち複数種固溶しているものでもよい。
【0037】
本発明のガラスセラミックスまたはシンチレータは、以下の方法により製造することができる。すなわち、少なくともAlFを用いた上記の各出発原料を所定量秤量し、均一に混合した後、石英坩堝、アルミナ坩堝、金坩堝または白金るつぼに入れて電気炉で900℃〜1550℃で1〜10時間熔解する。その後、ガラス融液を金型に流し込み、板状のガラスを作製する。あるいは必要に応じてファイバー状に作製する。更にそのガラスを350〜900℃の範囲で0.5〜100時間熱処理を行うことにより、所望の結晶相を析出させ、結晶相とガラス相との両方を含むガラスセラミックスを得る。
発光イオンであるEu2+を含有させるために、Si、Al、Zn等から選ばれる1種以上の還元剤を用いたり、水素、一酸化炭素、ジボラン、ヒドラジン、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウムからなる群より選択される少なくとも1つからなる還元雰囲気で原ガラスを作製するのが好ましい。あるいは還元剤と還元雰囲気を併用しても良い。還元剤は例えばSi、Al、Zn等の金属粉末が使用できる。還元雰囲気としては例えば3%H+97%Nからなる気体を用いることができる。
還元剤を用いたり、還元雰囲気で原ガラスを作製しない場合Eu2+ではなくEu3+が多く含有されてしまい、所望の目的を果たせない。
【0038】
フッ化物結晶を含有するガラスセラミックスにおいてEuを2価のイオン、すなわちEu2+にし、フッ化物結晶に固溶させるためには単に還元剤を用いたりや還元雰囲気で原ガラスを作成するだけではなく、原料としてのAlFの量を上述の範囲に調整することが必要である。
Eu2+を含有する場合、放射線の励起によって青色の発光が認められるが、Eu3+を含有する場合は放射線の励起によっては発光せず、放射線以外の光の励起によって発光する場合でも赤色に発光するので区別することができる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
本発明に係るガラスセラミックスの組成を表1〜表8に示す。表1〜表4はイオン換算で表現した組成であり、表5〜表8は原料換算で表現した組成である。
【0041】
[実施例1]
原料としてSiO、Al(OH)、AlF、CaCO、CaF、Euを使用する。これらの原料に還元剤としてのSiを2mol%加え、SiO=45%、Al=16%、AlF=4%、CaO=12%、CaF=23%、Eu=0.1%(外割)という組成になるように秤量し、均一に混合した後、石英坩堝に入れて電気炉で1380℃で2時間熔解した。その後、ガラス融液を予め温めた鉄板にキャストし、板状のガラスを作製する。こうして得られたガラスをサイズ20mm×20mmに切断し、両面を鏡面研磨した後、それぞれ720℃で12時間と750℃で4時間熱処理を行い、二つのガラスセラミックスサンプルを得た。X線回折パターンを測定したところ、二つのサンプルの中に析出した結晶相は同じくCaF:Eu2+であった。TEM写真の観察より、720℃で12時間熱処理したサンプルに10nmの結晶、750℃で4時間熱処理したサンプルは30nmの結晶がガラスの中に均一に分散していることが判明した。図1に結晶相が析出する前後のX線励起での発光スペクトルを示す。結晶相を有するガラスセラミックスはガラスに比べて数倍も強く発光することが明白である。
[実施例2〜7]
表5に記載した組成となるように原料を秤量した以外は実施例1の方法と同様の方法でガラスセラミックスを作製した。作製されたガラスセラミックスは全てX線励起で強く発光することが確認された。
[実施例8〜14]
表6に記載した組成となるように原料を秤量し、還元剤を使用するのに代えて3%H+97%Nからなる気体を溶融ガラス中にバブリングすることにより導入して還元雰囲気として溶融した以外は実施例1の方法と同様の方法でガラスセラミックスを作製した。作製されたガラスセラミックスは全てX線励起で強く発光することが確認された。
[実施例15〜21]
表7に記載した組成となるように原料を秤量し、還元剤を使用するのに代えて3%H+97%Nからなる気体を炉中に導入し還元雰囲気にて溶融した以外は実施例1の方法と同様の方法でガラスセラミックスを作製した。作製されたガラスセラミックスは全てX線励起で強く発光することが確認された。
[実施例22〜25]
表8に記載した組成となるように原料を秤量し、原料に還元剤としてのSiを2mol%加え、さらに3%H+97%Nからなる気体を炉中に導入し還元雰囲気にて溶融した以外は実施例1の方法と同様の方法でガラスセラミックスを作製した。作製されたガラスセラミックスは全てX線励起で強く発光することが確認された。































【0042】
【表1】


























【0043】
【表2】

























【0044】
【表3】

























【0045】
【表4】



























【0046】
【表5】




























【0047】
【表6】




























【0048】
【表7】



























【0049】
【表8】




























【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るガラスセラミックスは、高い光透明を有し、X線などの放射線の励起でシンチレーションするため、X線をはじめ放射線、紫外線などを利用したデバイス、例えば放射線測定装置、各種CT装置等に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】熱処理前後の実施例1のX線励起での発光スペクトルである。横軸は発光波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物結晶を含有し、Eu2+を含有することを特徴とするガラスセラミックス。
【請求項2】
ガラスセラミックス組成を構成する成分をイオン換算した時の全陽イオンに対する比率でEu2+を0.005〜5mol%含有することを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項3】
ガラスセラミックス組成を構成する成分をイオン換算した時、
陽イオンを、全陽イオンに対して、
Si4++Ge4+ 25〜70mol%、
及びAl3++Ga3+ 3〜60mol%、
及びBa2++Ca2++Sr2++Mg2++Zn2+ 5〜50mol%、
の割合で含有し、陰イオンを、全陰イオンに対して、
5〜60mol%、
及びO2− 40〜95mol%、
の割合で含有することを特徴とする請求項1または2に記載のガラスセラミックス。
【請求項4】
ガラスセラミックス組成を構成する成分をイオン換算した時、
陽イオンを、全陽イオンに対して、
3+ 0〜25mol%、
及び/又は Li+Na+K 0〜10mol%
及び/又は Ti4++Zr4++Sn4++P5+ 0〜15mol%
及び/又は Gd3++La3++Y3++Lu3+ 0〜15mol%
及び/又は Sb3++As3+ 0〜5mol%、
の割合で含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項5】
外割のmol%で
Eu、EuF成分のいずれか1種のみの含有量または2種合計の含有量が0.001〜8%であることを特徴とする請求項1に記載のガラスセラミックス。
【請求項6】
mol%で、
SiO+GeO 30〜75%
及び/又は AlF 0.1〜30%、
及び/又は BaF+CaF+SrF+MgF+ZnF 3〜50%、
の各成分を含有することを特徴とする請求項1、2、または5に記載のガラスセラミックス。
【請求項7】
mol%で、
0〜20%、
及び/又は Al+Ga 0〜45%、
及び/又は BaO+CaO+SrO+MgO+ZnO+LiO+NaO+KO 0〜40%
及び/又は TiO+ZrO+SnO+P 0〜15%、
及び/又は Gd+La+Y+Lu 0〜10%
及び/又は GdF+LaF+YF+LuF 0〜20%
及び/又は Sb+As 0〜5%、
の割合で各成分を含有することを特徴とする請求項5または6に記載のガラスセラミックス。
【請求項8】
シンチレータとして用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガラスセラミックス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のガラスセラミックスを用いた放射線測定装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のガラスセラミックスを用いたCT装置。
【請求項11】
原ガラスの原料として少なくともAlFを用い、
該原料を還元剤を添加しておよび/または還元雰囲気で溶融した後、
原ガラスを成形し、該原ガラスを熱処理することにより結晶を析出させることを特徴とする請求項1〜8に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項12】
前記原ガラスの原料に対するAlF成分の比率がmol%で0.1〜30%であることを特徴とする請求項11に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項13】
前記還元剤がSi、Al、Znから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項11または12に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項14】
前記還元雰囲気が水素、一酸化炭素、ジボラン、ヒドラジン、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウムからなる群より選択される少なくとも1つからなることを特徴とする請求項11または12に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項15】
バルクまたはファイバー状のガラスを熱処理することにより、フッ化物の結晶を析出させることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載のガラスセラミックスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−197249(P2007−197249A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17297(P2006−17297)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】