説明

ガラスフィルムの製造方法及び製造装置

【課題】ガラスフィルムの連続割断を高精度に実行可能とする。
【解決手段】成形装置10から引き出されて成形された帯状のガラスフィルムGに初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して初期クラックCを進展させることにより、ガラスフィルムGを長手方向に沿って割断する割断工程とを含む。初期クラック形成工程では、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaに、複数の初期クラックCを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群Cgを形成する。初期クラック群Cgは、複数の突起32を有する突起群33をガラスフィルムGの長手方向端部Gaに押し付けることによって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィルムの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置は、CRTディスプレイから、CRTディスプレイよりも軽量かつ薄型の液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、有機ELディスプレイ(OLED)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)に置き換わりつつあり、これらFPDについては、一層の軽量化が推進されている。そのため、FPDの主要構成部材の一つであるガラス基板については、一層の薄板化(ガラスフィルム化)が要請されている。
【0003】
また、例えば有機ELは、光の三原色をTFTにより明滅させるディスプレイ用途のみならず、単色(例えば白色)のみで発光させてLCDのバックライトや屋内照明の光源等の平面光源としても利用されつつある。有機ELを光源として用いた照明装置は、有機ELを構成するガラス基板が可撓性を有するものであれば、発光面を自由に変形させることが可能である。そのため、この種の照明装置に使用されるガラス基板についても、十分な可撓性確保の観点から、一層の薄板化が推進されている。
【0004】
上記のFPDや照明装置等に使用されるガラス基板を所定サイズに割断する手法としては、ガラス基板の表面又は裏面に、割断予定線に沿って所定深さのスクライブを刻設した後、該スクライブに曲げ応力を作用させてガラス基板を割断するというものが一般的である。しかしながら、かかる手法は、ガラス基板がガラスフィルムの状態まで薄板化された場合には、スクライブを刻設すること自体が非常に困難になるばかりでなく、割断面に形成されるラテラルクラック等の微小欠陥によって著しい強度低下を招くという問題が生じ得る。特に、溶融ガラスから種々の製法により成形された帯状のガラスフィルムは、その幅方向端縁部(耳部とも称される)等を長手方向に沿って割断(連続割断)することが要請される。しかしながら、帯状のガラスフィルムに、連続的な曲げ応力を正確に作用させることは容易ではない。
【0005】
そこで、帯状のガラスフィルムを連続割断する際には、曲げ応力に替えて熱応力を利用することが検討され、あるいは実際に利用されるに至っている。熱応力を利用してのガラスフィルムの連続割断には、例えば以下に示す特許文献1に記載されているようないわゆるレーザー割断法を採用する場合が多く、レーザー割断をオンラインで実行する際には、概ね次のような手順が採用される。まず、成形装置から引き出されて下流側に搬送される帯状のガラスフィルムの長手方向端部に微小なクラック(以下、初期クラックという)を形成した後、初期クラックに向けてレーザーを照射し、初期クラックの周辺部位を局部加熱する。ガラスフィルムの下流側への搬送が進行し、ガラスフィルムがレーザー照射装置の下流側に設置した冷却装置を通過するのに伴って局部加熱された部位が冷却されると、これに伴って生じる熱応力によって初期クラックがガラスフィルムの長手方向(搬送方向後方側)に進展する。これにより、ガラスフィルムが長手方向に沿って割断される。
【0006】
なお、ガラスフィルムの表面に初期クラックを形成するための手法としては、超硬材料で形成された刃(例えばダイヤモンドカッター)を押し付ける手法、レーザーを集光照射する手法等が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−513121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、溶融ガラスから成形される帯状のガラスフィルムは、通常、室温程度の温度にまで冷却されたうえで下流側に順次搬送されるが、冷却中の雰囲気温度差などの影響によってガラスフィルムに幅方向の曲がりが生じる場合がある。幅方向の曲がりが生じた場合、ガラスフィルムは蛇行しながら下流側に搬送される。
【0009】
上記したレーザー割断法によりガラスフィルムを連続割断するには、初期クラックに対してレーザーを正確に照射する必要がある。しかしながら、ガラスフィルムが蛇行しながら下流側に搬送されるような場合には、初期クラックにレーザーを正確に照射することが(初期クラックの形成位置とレーザーの照射位置とを一致させることが)困難である。レーザーが初期クラックからずれた位置に照射されると、ガラスフィルムを連続割断することができないおそれがある。
【0010】
なお、ガラスフィルムをロール状に巻き取っていわゆるガラスロールを得た後、ガラスフィルムを巻き出してこれを長手方向に沿って割断するような場合(オフラインで連続割断を実行する場合)にもレーザー割断法を採用することがあり、このような場合においても、オンラインでレーザー割断を実行する場合と同様に上記の問題が起こり得る。
【0011】
レーザー割断法によるガラスフィルムの割断精度を高めるための手段の一例として、レーザーの照射径を大きくすることが考えられる。しかしながら、割断線を進展させ得る程度の熱応力をガラスフィルムに作用させるためには、高エネルギーのレーザーを照射する必要がある。高エネルギーでかつ照射径の大きいレーザーを照射可能とするには、大型のレーザー照射装置を用いる必要があるが、これでは高額な設備投資が必要となってガラスフィルムの製造コストが増大する。
【0012】
また、初期クラックをレーザー照射位置の極近傍で形成すれば、ガラスフィルムが蛇行しながら下流側に搬送されるような場合でも、ガラスフィルムがクラック形成位置からレーザー照射位置に搬送されるまでの間における幅方向変位量を無視できる程度に小さくすることができるため、レーザー割断法によってもガラスフィルムを長手方向に沿って精度良く割断することができるとも考えられる。しかしながら、レーザー照射装置のレーザー照射部位の周囲には冷却装置などが配設されているので、実質的に初期クラックをレーザー照射位置の極近傍で形成することは困難である。
【0013】
そこで、本発明は、ガラスフィルムが蛇行しながら下流側に搬送されるような場合においても、特段のコスト増を招くことなく、ガラスフィルムの連続割断を高精度に実行することができるガラスフィルムの製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係るガラスフィルムの製造方法は、成形装置から引き出されて成形された帯状のガラスフィルムに初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して初期クラックを進展させることにより、ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断工程とを含むものにおいて、初期クラック形成工程では、ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の他の構成に係るガラスフィルムの製造方法は、ガラスロールから引き出された帯状のガラスフィルムに初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して初期クラックを進展させることにより、ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断工程とを含むものにおいて、初期クラック形成工程では、ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成することを特徴とする。
【0016】
このように、初期クラック形成工程において、ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成すれば、ガラスフィルムが蛇行しながら下流側に搬送されるような場合においても、レーザーが初期クラックに正確に照射される可能性が高まり、ガラスフィルムの連続割断を精度良く実行することが可能となる。ガラスフィルムの長手方向端部に初期クラック群を形成するために必要となる投資は、大型のレーザー照射装置を設置する場合に比べて格段に小額で済む。従って、ガラスフィルムの連続割断を高精度に実行可能とするうえで、特段のコスト増を招くこともない。
【0017】
なお、初期クラック群の幅方向寸法を大きくするほど、初期クラックの形成個数を増大させることができるため、レーザーの照射位置と初期クラックの形成位置とを一致させることができる可能性が高まるが、ガラスフィルムの割断に直接関与しない不要な初期クラックの形成個数も必然的に増大するため、後工程等においてガラスフィルムが破損等する可能性が高くなる。従って、初期クラック群の幅方向寸法はむやみに大きくするのではなく、ガラスフィルムの蛇行量、具体的には、初期クラック群の形成位置からレーザー照射位置に搬送されるまでの間におけるガラスフィルムの幅方向変位量を考慮して適宜設定するのが良い。
【0018】
ガラスフィルムの長手方向端部に初期クラック群を形成するための具体的手段として、複数の突起を有する突起群をガラスフィルムの長手方向端部に押し付ける方法を採用し得る。
【0019】
このようにすれば、ガラスフィルムの長手方向端部に、初期クラック群を容易に形成することができる。また、ガラスが脆性材料であることに鑑みると、突起等の先端鋭利なものをガラスフィルムに押し付ける場合、押圧力を適切に設定しなければ、初期クラックの形成段階でガラスフィルムが破損する可能性が高くなる。これに対し、複数の突起を有する突起群をガラスフィルムの長手方向端部に押し付けることによって初期クラック群を形成するようにすれば、突起1個あたりに作用する押圧力が分散される。そのため、突起群をガラスフィルムに押し付ける際の設定圧力に幅を持たせることができ、押圧力の調整を容易に行うことができる。
【0020】
上記の構成において、ガラスフィルムの長手方向端部に対する突起群の押し付けは、ガラスフィルムの少なくとも長手方向端部を弾性部材で支持した状態で行うようにするのが望ましい。
【0021】
突起群を構成する全ての突起を同一高さ(突出量)に形成することは容易ではなく、突起相互間で高低差が形成されるのはある程度避けられない事態である。そのため、ガラスフィルムを剛体で支持した状態でガラスフィルムに突起群を押し付けると、突起相互間の高低差によって、所定深さ(レーザー割断を実行し得る深さ)の初期クラックを複数形成することができない可能性や、特定の突起からガラスフィルムに作用する押圧力が過大となって、ガラスフィルムが破損する可能性が高まる。これに対し、ガラスフィルムの少なくとも長手方向端部を弾性部材で支持した状態で突起群を押し付けるようにすれば、突起群の押し付け時にガラスフィルムを弾性部材に倣わせ、ガラスフィルムに作用する押圧力を弾性部材で吸収することができる。そのため、突起相互間の高低差を原因とした上記の不具合発生を可及的に防止することができる。
【0022】
なお、ガラスフィルムの少なくとも長手方向端部を弾性部材で支持するための手段としては、例えば、ガラスフィルムに接してガラスフィルムを下流側に搬送する搬送部材をゴムベルトで構成することや、搬送部材の表層部(ガラスフィルムを支持する部分)を弾性材料で形成することが考えられる。
【0023】
上記の構成において、ガラスフィルムの長手方向端部に対する突起群の押し付けは、これを一回のみ行うようにしても良いし、複数回行うようにしても良い。
【0024】
突起群の押し付けを複数回行う方法は、ガラスフィルムを一層薄板化した場合に特に有効な方法である。すなわち、ガラスフィルムを一層薄板化する場合、突起群の押し付けに伴ってガラスフィルムが破損するのを可及的に防止するには、突起群の押圧力を小さくすることが有効であるが、押圧力を小さくするほど所定深さの初期クラックを複数形成することが難しくなる。これに対し、突起群の押し付けを複数回行うようにすれば、押圧力を小さくしても、所定深さの初期クラックの形成個数を増大することが可能となり、ガラスフィルムの連続割断を精度良く実行することが可能となる。
【0025】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係るガラスフィルムの製造装置は、成形装置から引き出されて成形された帯状のガラスフィルムの長手方向端部に初期クラックを形成するクラック形成装置と、クラック形成装置の下流側に設けられ、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して初期クラックを進展させることにより、ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断装置とを備えるものにおいて、クラック形成装置は、ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成するように構成されていることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の他の構成に係るガラスフィルムの製造装置は、ガラスロールから引き出された帯状のガラスフィルムの長手方向端部に初期クラックを形成するクラック形成装置と、クラック形成装置の下流側に設けられ、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して初期クラックを進展させることにより、ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断装置とを備えるものにおいて、クラック形成装置は、ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成するように構成されていることを特徴とする。
【0027】
このような構成を備えたガラスフィルムの製造装置であれば、上記した本発明に係るガラスフィルムの製造方法と同様の効果を享受することができる。
【0028】
上記構成において、クラック形成装置は、ガラスフィルムとの対向部に複数の突起を有する突起群が設けられた初期クラック形成部材と、初期クラック形成部材をガラスフィルムに対して接近及び離反移動可能に支持する支持手段とを備えるものとすることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上に示すように、本発明によれば、ガラスフィルムが蛇行しながら下流側に搬送されるような場合においても、特段のコスト増を招くことなく、ガラスフィルムの連続割断を高精度に実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るガラスフィルムの製造工程の部分概略側面図である。
【図2】ガラスフィルムの長手方向端部を模式的に示す概略平面図である。
【図3】初期クラック形成工程の概略側面図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るガラスフィルムの製造工程の要部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態に係るガラスフィルムの製造工程の部分概略側面図である。同図に示す製造装置1は、成形装置10と、成形装置10から引き出されて成形された帯状のガラスフィルムGを下流側に搬送する搬送装置20と、ガラスフィルムGに初期クラックを形成するクラック形成装置30と、クラック形成装置30の下流側に設置され、ガラスフィルムGの幅方向端縁部等を長手方向に沿って割断する(ガラスフィルムGを連続割断する)割断装置40とを少なくとも備える。割断装置40の下流側には、割断装置40を通過することによって所定の幅寸法に仕上げられたガラスフィルムGを、ロール状に巻き取る巻き取り装置、もしくは幅方向に切断する幅方向切断装置がさらに設けられる(何れも図示省略)。
【0033】
成形装置10は、溶融ガラスを鉛直下方に引き出すことによって帯状のガラスフィルムGを成形するものであり、その内部には、鉛直上方から鉛直下方に向けて成形領域10A、徐冷領域10B及び冷却領域10Cが順に設けられている。成形領域10Aには断面楔状の成形体11が配置され、徐冷領域10B及び冷却領域10Cには、成形されたガラスフィルムGを下流側に搬送するためのローラ体12が所定間隔で配置されている。ローラ体12はガラスフィルムGの表面側と裏面側に対をなして設けられている。
【0034】
かかる構成を具備する成形装置10は、次のようにして帯状のガラスフィルムGを成形する。まず、図示外の溶融窯から成形体11に溶融ガラスが供給されると、成形体11の頂部から溶融ガラスが溢れ出し、溢れ出た溶融ガラスが成形体11の両側面を伝って成形体11の下端で合流することによりガラスフィルムGの成形が開始される。以降、成形体11に溶融ガラスを連続的に供給することにより、帯状のガラスフィルムGが成形される。このようにして成形されたガラスフィルムGは、鉛直下方にそのまま流下し、徐冷領域10Bを通過することによって徐冷され、残留ひずみが除去される。次いで、残留ひずみが除去されたガラスフィルムGが冷却領域10Cを順次通過することにより、ガラスフィルムGは室温程度の温度にまで冷却される。
【0035】
以上で示したガラスフィルムGの成形方法は、いわゆるオーバーフローダウンドロー法である。オーバーフローダウンドロー法では、表面が外気(成形装置10中の雰囲気ガス)に接触しただけの状態でガラスフィルムGの成形が進行することから、ガラスフィルムGに高い平面度を確保することができるという利点がある。そのため、ガラスフィルムGを、例えばFPD用のガラス基板として用いる場合には、表面に微細な素子や配線を精度良く形成し易くなる。
【0036】
冷却領域10Cを通過して成形装置10の下端から排出されたガラスフィルムGは、搬送装置20に移載される。搬送装置20の最上流部には円弧状に湾曲した湾曲搬送部21が設けられており、この湾曲搬送部21に沿ってガラスフィルムGが下流側に搬送されることにより、ガラスフィルムGの進行方向が鉛直方向から水平方向に変換される。湾曲搬送部21の下流端には水平搬送部22が繋がっており、この水平搬送部22に沿って下流側に搬送されるガラスフィルムGは、クラック形成装置30(初期クラック形成工程)及び割断装置40(割断工程)に順次導入される。水平搬送部22は、いわゆる搬送コンベアであり、図3及び図4に示すように、金属材料等の剛体で形成されたコンベアフレーム(定盤)23と、ガラスフィルムGの裏面に接してガラスフィルムGを下流側に搬送する搬送ベルト24とで主要部が構成される。搬送ベルト24は、弾性材料、ここではゴム材料で形成されたゴムベルトであり、その駆動速度は、ガラスフィルムGの引き出し速度(成形速度)と概ね同一に設定される。
【0037】
水平搬送部22に沿って下流側に搬送されるガラスフィルムGの長手方向端部Gaがクラック形成装置30(初期クラック形成工程)に導入されると、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaの表面側角部には、図2に示すように、複数の初期クラックCを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群Cgが形成される。
【0038】
図3にクラック形成装置30(初期クラック形成工程)の概要を示す。クラック形成装置30は、複数の突起32を有する突起群33が設けられたクラック形成部材31と、このクラック形成部材31をガラスフィルムGに対して接近及び離反移動可能(昇降可能)に支持する支持手段34とを主要部として構成される。支持手段34は、クラック形成部材31の上部に下端が連結されたロッド35と、ロッド35の上部に設けられた押圧部材36とを備え、図示外の基枠フレームに取り付けられたブラケット37によって、ロッド35(ロッド35に設けられたクラック形成部材31及び押圧部材36)の昇降移動が案内されるようになっている。押圧部材36は、初期クラック形成部材31に設けた突起群33をガラスフィルムGの長手方向端部Gaに適当な押圧力でもって押し付けるためのものであり、ここではウェイト(重り)を用いている。
【0039】
なお、突起群33を適当な押圧力でもってガラスフィルムGに押し付けるための手段は、上記の構成に限られない。例えば、押圧部材36(ウェイト)に替えて、人力、ばね、空気圧、磁力等を利用して、突起群33をガラスフィルムGに押し付けるようにしても良い。
【0040】
突起群33は、クラック形成部材31のうち、水平搬送部22に沿って下流側に搬送されるガラスフィルムGとの対向部、ここでは、下端面31aと、下端面31aの上流側に隣接して設けられ、上流側に向かって水平搬送部22との離間距離が徐々に拡大する方向に傾斜した傾斜面31bとに形成されている。図3に示すように、下流側に搬送されてくるガラスフィルムGに反り(板厚方向での曲がり)が生じているような場合には、水平搬送部22とガラスフィルムGとの間に隙間が形成されるため、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaに初期クラック群Cgを形成することができない可能性がある。これに対し、下端面31aの上流側に隣接して、上記態様の傾斜面31bを設けておけば、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaが水平搬送部22から離隔した位置にあるような場合においても、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaに初期クラック群Cgを形成し易くなる。このとき、傾斜面31bは上流側に向かって水平搬送部22との離間距離が徐々に拡大する方向に傾斜しており、この離間距離はガラスフィルムGの幅方向でほぼ等距離であることが肝要である。図3において傾斜面31bはほぼ平面で構成されているが、例えば円弧面(軸がガラスフィルムGの幅方向に平行な円柱側面)のようなものであっても良い。なお、本実施形態のように傾斜面31bに突起群33を設ける場合、突起群33は、必ずしも傾斜面31bの全域に設ける必要はなく、下端面31aに隣接した領域にのみ設けるようにしても良い。また、突起群33は、クラック形成部材31の下端面31aにのみ設けるようにしても良い。
【0041】
本実施形態では、無数の粒子(砥粒)を分散させてなる研磨紙(エメリー紙)の研磨面で突起群33を構成している。すなわち、研磨面を水平搬送部22と対向させるようにして、エメリー紙をクラック形成部材31の下端面31a及び傾斜面31bに取り付け固定している。エメリー紙としては、例えば100〜400メッシュのものを使用することができる。突起群33は、エメリー紙以外にも、例えば無数の粒子を結合材で固めた砥石の研磨面で構成することもできるし、クラック形成部材31にエッチング、ブラスト加工等の粗面化処理を施すことによって形成することもできる。
【0042】
ガラスフィルムGの長手方向端部Gaがクラック形成装置30付近に到達し、図示外のガラスフィルム検出手段がガラスフィルムGの長手方向端部Gaを検出すると、クラック形成部材31が下降して、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaがクラック形成部材31の傾斜面31bに接触する。その後、ガラスフィルムGがさらに下流側に搬送されるのに伴って、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaはクラック形成部材31の下端面31aと接触する。このとき、クラック形成部材31の傾斜面31b及び下端面31aに設けた突起群33がガラスフィルムGの長手方向端部Gaに押し付けられることにより、複数の初期クラックCを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群Cgが形成される。そして、クラック形成部材31の下降開始から所定時間経過した後、クラック形成部材31が上昇し、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaへの初期クラック群Cgの形成を終了する。
【0043】
このようにして長手方向端部Gaに初期クラック群Cgが形成されたガラスフィルムGは、水平搬送部22に沿ってさらに下流側に搬送され、ガラスフィルムGを長手方向に沿って割断する割断装置40(割断工程)に導入される。割断装置40は、レーザー照射装置41と、レーザー照射装置41の下流側に設けられた冷却装置42とを備え、以下のようにしてガラスフィルムGを長手方向に沿って割断する。
【0044】
まず、レーザー照射装置41からガラスフィルムGの長手方向端部Gaに形成された初期クラック群Cgに向けてレーザーが照射されると、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaのレーザー被照射部位が局部加熱される。ガラスフィルムGの下流側への搬送がさらに進行し、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaが冷却装置41の対向領域を通過すると、局部加熱された部位が冷却され、これに伴って生じる熱応力によって初期クラックCがガラスフィルムGの長手方向(搬送方向後方側)に進展する。これにより、ガラスフィルムGが長手方向に沿って割断される。
【0045】
レーザー照射装置41(割断工程)に導入されるガラスフィルムGの長手方向端部Gaには、複数の初期クラックCを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群Cgが形成されていることから、徐冷領域10Bや冷却領域10Cの雰囲気温度差などの影響によってガラスフィルムGに幅方向の曲がりが生じ、これに伴ってガラスフィルムGが蛇行しながら下流側に搬送されるような場合においても、レーザーが初期クラックCに正確に照射される可能性が高まり、ガラスフィルムGの連続割断を精度良く実行することができる。そのため、ガラスフィルムGの割断不良の発生頻度が低減され、製品歩留を向上することができる。
【0046】
本発明では、複数の突起32を有する突起群33をガラスフィルムGに押し付けることによってガラスフィルムGに初期クラック群Cgを形成しており、突起群33は、例えば研磨紙(エメリー紙)や砥石の研磨面で構成することができる。従って、ガラスフィルムGの長手方向端部Gaに初期クラック群Cgを形成するために必要となる投資は、大型のレーザー照射装置を設置するような場合に比べて格段に小額で済む。従って、ガラスフィルムGの連続割断を高精度に実行可能とするうえで、特段のコスト増を招くこともない。
【0047】
ガラスは脆性材料であることから、先端鋭利なものをガラスフィルムGに押し付けることによって初期クラックCを形成する場合には、その押圧力を適切に設定しなければ、初期クラックCの形成段階でガラスフィルムGが破損する可能性が高くなる。これに対し、突起群33をガラスフィルムGに押し付けることによって初期クラック群Cgを形成すれば、突起32の一個あたりに作用する押圧力を分散させることができる。そのため、突起群33をガラスフィルムGに押し付ける際の設定圧力に幅を持たせることができ、押圧力の調整を容易に行うことができる。
【0048】
なお、突起群33(初期クラック群Cg)の幅方向寸法を大きくするほど、初期クラックCの形成個数を増大させることができるため、レーザーの照射位置と初期クラックCの形成位置とを一致させることができる可能性が高まる。しかしながらこの場合、ガラスフィルムGを長手方向に沿って割断するのに直接関与しない不要な初期クラックCの形成個数も必然的に増大するため、後工程等においてガラスフィルムGが破損等する可能性が高くなる。従って、突起群33の幅方向寸法はむやみに大きくするのではなく、ガラスフィルムGの蛇行量、すなわち、図2に示すように、ガラスフィルムGが初期クラックCの形成位置(クラック形成装置30の配設位置)からレーザー照射位置(レーザー照射装置41の配設位置)に搬送されるまでの間におけるガラスフィルムGの幅方向変位量δを考慮して適宜設定するのが良い。
【0049】
一例を挙げて説明すると、ガラスフィルムGの下流側への搬送速度(成形速度)V1が80〜250mm/s、ガラスフィルムGの幅方向移動速度(蛇行速度)V2が±0.25〜4mm/s、クラック形成装置30とレーザー照射装置41の離間距離Lが500mmの場合、初期クラックCの形成位置からレーザー照射位置に搬送されるまでの間におけるガラスフィルムGの幅方向変位量δは±0.5〜25mm(図2は「−」の場合のみを示している)となる。従って、この場合には、突起群33の幅方向寸法は1〜50mmに設定する。
【0050】
ところで、突起群33を構成する全ての突起32を同一高さに形成することは難しく、図4からも明らかなように、突起32相互間で高低差が形成されるのはある程度避けられない事態である。そのため、ガラスフィルムGを剛体のみで支持した状態でガラスフィルムGに突起群33を押し付けると、突起32相互間の高低差によって、ガラスフィルムGに所定深さの初期クラックCが形成されない可能性や、特定の突起32からガラスフィルムGに作用する押圧力が過大となって、ガラスフィルムGが破損する可能性が高まる。
【0051】
これに対し、本実施形態では、ガラスフィルムGに接してガラスフィルムGを下流側に搬送する搬送ベルト24をゴムベルトで構成したことから、ガラスフィルムGに対する突起群33の押し付けは、ガラスフィルムGが弾性部材としてのゴムベルトで支持された状態で行われる。そのため、突起群33の押し付け時には、ガラスフィルムGを搬送ベルト24に倣わせ、ガラスフィルムGに作用する押圧力を搬送ベルト24で吸収することができ、突起32相互間の高低差に起因した上記の不具合発生を可及的に防止することができる。搬送ベルト24のみでは突起群33の押し付け時にガラスフィルムGに作用する押圧力を吸収するのが難しいような場合には、搬送ベルト24とコンベアフレーム23との間に、別途の弾性部材(図示せず)を介在させるようにしても良い。図示しない別途の弾性部材は、搬送ベルト24とコンベアフレーム23の間の全域に亘って介設しておく必要はなく、クラック形成装置30の配設位置、さらに言えば、突起群33の直下位置にのみ設けるようにしても良い。
【0052】
以上、本発明に係るガラスフィルムGの製造方法の一実施形態について説明を行ったが、種々の変更を施すことが可能である。例えば、以上で示した実施形態では、ガラスフィルムGに対する突起群33の押し付けを一回のみ行うようにしたが、図5に示すように、上記したクラック形成装置30をガラスフィルムGの長手方向に沿って複数台(図示例は3台)設置し、突起群33の押し付けを複数回(3回)連続して行うようにしても良い。
【0053】
このような方法は、ガラスフィルムGを一層薄板化した場合に有効な方法である。すなわち、ガラスフィルムGを一層薄板化する場合、突起群33の押し付けに伴ってガラスフィルムGが破損するのを可及的に防止するには、突起群33の押圧力を小さくすることが有効であるが、押圧力を小さくするほど所定深さの初期クラックCを複数形成することが、ひいてはガラスフィルムGの連続割断を精度良く実行することが難しくなる。これに対し、突起群33の押し付けを複数回連続して行うようにすれば、押圧力を小さくしても、所定深さの初期クラックCを多数形成することが可能となり、ガラスフィルムGの連続割断を精度良く実行することが可能となる。
【0054】
突起群33の押し付けを複数回行うに際しては、必ずしもクラック形成装置30をガラスフィルムGの長手方向に沿って複数台並べる必要はなく、クラック形成装置30を一台のみ設置した場合でも、突起群33の押し付けを複数回行うことが可能である。
【0055】
また、以上では、いわゆるオーバーフローダウンドロー法により成形した帯状のガラスフィルムGを長手方向に沿って割断するに際して本発明を適用したが、本発明は、オーバーフローダウンドロー法と同様に溶融ガラスから帯状のガラスフィルムGを成形可能なその他の方法、例えばスロットダウンドロー法やフロート法により成形された帯状のガラスフィルムGを長手方向に沿って割断する場合にも適用することができる。さらに、本発明は、固化した二次加工用のガラス母材を加熱して引き延ばすいわゆるリドロー法により成形した帯状のガラスフィルムGを長手方向に沿って割断する場合にも好ましく適用することができる。
【0056】
また、以上では、オンラインでガラスフィルムGを連続割断する場合、すなわち、成形装置10から引き出すことで成形され、搬送装置20によって下流側に(順次)搬送される帯状のガラスフィルムGを連続割断するに際して本発明を適用したが、本発明は、オフラインでガラスフィルムGを連続割断する場合、すなわち、ガラスフィルムGをロール状に巻き取っていわゆるガラスロールを得た後、ガラスフィルムGを引き出してこれを所定幅に連続割断するような場合にも好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ガラスフィルムの製造装置
10 成形装置
20 搬送装置
21 湾曲搬送部
22 水平搬送部
23 コンベアフレーム
24 搬送ベルト
30 クラック形成装置
32 突起
33 突起群
34 支持手段
40 割断装置
41 レーザー照射装置
42 冷却装置
C 初期クラック
Cg 初期クラック群
G ガラスフィルム
Ga 長手方向端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形装置から引き出されて成形された帯状のガラスフィルムの長手方向端部に初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して前記初期クラックを進展させることにより、前記ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断工程とを含むガラスフィルムの製造方法において、
前記初期クラック形成工程では、前記ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成することを特徴とするガラスフィルムの製造方法。
【請求項2】
ガラスロールから引き出された帯状のガラスフィルムの長手方向端部に初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して前記初期クラックを進展させることにより、前記ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断工程とを含むガラスフィルムの製造方法において、
前記初期クラック形成工程では、前記ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成することを特徴とするガラスフィルムの製造方法。
【請求項3】
複数の突起を有する突起群を前記ガラスフィルムの長手方向端部に押し付けることにより、前記初期クラック群を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ガラスフィルムの少なくとも長手方向端部を弾性部材で支持した状態で、前記ガラスフィルムの長手方向端部に前記突起群を押し付けることを特徴とする請求項3に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ガラスフィルムの長手方向端部に対する前記突起群の押し付けを、複数回行うことを特徴とする請求項3又は4に記載のガラスフィルムの製造方法。
【請求項6】
成形装置から引き出されて成形された帯状のガラスフィルムの長手方向端部に初期クラックを形成するクラック形成装置と、該クラック形成装置の下流側に設けられ、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して前記初期クラックを進展させることにより、前記ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断装置とを備えたガラスフィルムの製造装置であって、
前記クラック形成装置は、前記ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成するように構成されていることを特徴とするガラスフィルムの製造装置。
【請求項7】
ガラスロールから引き出された帯状のガラスフィルムの長手方向端部に初期クラックを形成するクラック形成装置と、該クラック形成装置の下流側に設けられ、レーザー照射による局部加熱及び局部加熱後の冷却により発生する熱応力を利用して前記初期クラックを進展させることにより、前記ガラスフィルムを長手方向に沿って割断する割断装置とを備えたガラスフィルムの製造装置であって、
前記クラック形成装置は、前記ガラスフィルムの長手方向端部に、複数の初期クラックを幅方向に集合して配置させてなる初期クラック群を形成するように構成されていることを特徴とするガラスフィルムの製造装置。
【請求項8】
前記クラック形成装置は、前記ガラスフィルムとの対向部に複数の突起を有する突起群が設けられた初期クラック形成部材と、該初期クラック形成部材を前記ガラスフィルムに対して接近及び離反移動可能に支持する支持手段とを備えることを特徴とする請求項6又は7に記載のガラスフィルムの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−46400(P2012−46400A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192468(P2010−192468)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】