説明

ガラス・コーティング

【課題】 熱放射線を反射する層を厚くしないで、可視光線をよく透過する基板コーティングの断熱性を改善すること。
【解決手段】 本発明は、ガラス・コーティングおよびガラス・コーティングを形成するための方法に関する。ガラス・コーティングは、ZnOの第1の層と、その上に堆積されたAgの第2の層からなる。ZnO層上にAg層を塗布する前に、ZnOがイオンにより照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文記載のガラス・コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
建築用ガラスのコーティングは、窓を通して室内に入ってくる光が室外の光と異なるように、日光のある波長または波長範囲を反射または吸収するために行われる。
【0003】
このようなコーティングの重要な機能は、夏に室内があまり熱くならないように、また冬にあまり寒くならないように、熱放射線を反射することである。しかし、この場合、可視光線の透過を有意に低減すべきではない。すなわち、コーティングは、可視光線範囲の放射線をよく透過し、熱または赤外線をよく反射するものでなければならない。
【0004】
この機能を行うコーティング・システムは、低放射率(Low−E)コーティング・システムと呼ばれる。ここで、「E」は「放射率」を意味する。
【0005】
重ねて5つの個々の層が堆積される鉱物ガラスのガラス板を基板として含む、低放射率コーティング・システムは周知である(DE42 113 63 A1)。この基板上には、厚さ400ÅのZnOの第1の層が堆積される。この第1の層上に厚さ90ÅのAgの第2の層が塗布される。第2の層上に堆積された第3の層は、厚さ約15Åの金属TiまたはにNiCrからなる。この第3の層上に厚さ320ÅのZnOの第4の層が塗布される。第4の層上には厚さ70ÅのTiOの第5の層が塗布される。この場合、銀の薄い層は本質的には赤外線を反射する層である。
【0006】
WO95/29883号には、可視光線を透過し赤外線を反射するもう1つのコーティングが開示されている。このコーティングはガラス基板上に塗布され、また、少なくとも5つの層からなる。このガラス基板上には、第1の層として例えば、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等のような酸化物が塗布される。第2の層は銀膜により形成され、第3の層は、スパッタ・プロセス中、下に位置する銀層を保護する金属層である。第3の層上には銀層が酸化するのを防止するためのもう1つの酸化金属層が位置する。第5の層すなわち最後の層は窒化珪素層により形成される。
【0007】
もう1つの周知のコーティング・システムとしては、湾曲窓ガラスに適している断熱コーティング・システムがある(DE 198 50 023 A1=US 618 02 47 B1)。このコーティング・システムは、保護層で囲まれている貴金属の少なくとも1つのコーティングからなる。このようなコーティング・システムは、特にTiO−NiCrO−TiO−Ag−NiCrO−Siから形成することができる。
【0008】
今までのところ、断熱効果の改善は、複雑な二重銀システムまたは分割銀コーティング・システムだけにより行われてきた。
【特許文献1】DE42 113 63 A1
【特許文献2】DE 198 50 023 A1
【特許文献3】US 618 02 47 B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱放射線を反射する層を厚くしないで、可視光線をよく透過する基板コーティングの断熱性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に記載の特徴により達成される。
【0011】
本発明は、ガラス・コーティングおよびこのガラス・コーティングを形成するための方法に関する。ガラス・コーティングは、ZnOの第1の層およびその上に堆積されたAgの第2の層からなる。ZnO層上にAg層を塗布する前に、Zno層がイオンにより照射される。
【0012】
本発明により達成される利点は、特に、銀層が塗布される層の特殊な前処理により、それ以上材料を塗布しなくても、その表面の抵抗を最大20%低減するように、熱放射線を反射する層のエピタキシャル成長に影響を与えることにある。この場合、熱放射線を反射する層は、好適には、銀であることが好ましく、銀が塗布される層は、好適には、ZnOであることが好ましい。このZnOの前処理は、好適には、イオン衝撃により行うことが好ましい。
【0013】
銀には、少量の、すなわち10重量%未満のCu、Al、Nd、In、Yt、Sb、V等を混合することができる。ZnOまたはZnO:Alの代わりに、例えば、NiCr、NiCrO、TiO、TiO、W、WO、WO、Zr、ZrO、ZrOをエピタキシャル成長層用に使用することができる。
【0014】
二重銀または分割銀低放射率コーティング・システムと比較すると、本発明を使用した場合には生産性を向上することができる。何故なら、個々の層の数が少なくてすみ、プロセスが簡単であるからである。この層形成方法は、またコスト・パフォーマンスの点でも優れている。何故なら、ターゲット材料が少なくてすみ、カソードの数が少なくてすむからである。コーティング設備全体を小形にすることができる。コーティング・システムが簡単だと、不合格品が少なくなり、保守作業が簡単になり、支出が少なくてすみ、消耗材料が少なくてすむ。単一銀低放射率コーティング・システムと比較すると、本発明により製造した製品の方が機能の点で優れている。焼戻しを行ったコーティング・システムの場合には、表面抵抗が最大15%低減する。それにより、透過率を0.040未満にすることができ、特に透過性を88%を超えるようにすることができる。
【0015】
図面に本発明の例示としての実施形態を示し、以下にさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、コーティング設備1の略図である。このコーティング設備1は、内部移送ロック・チャンバ2と、第1のコーティング・チャンバ3と、第2のコーティング・チャンバ4と、作業チャンバ5と、第3のコーティング・チャンバ6と、第4のコーティング・チャンバ7と、第5のコーティング・チャンバ8とを備える。
【0017】
基板9は、移送手段(図示せず)により、内部移送ロック・チャンバ2から第1のコーティング・チャンバ3内に移動し、そこでTiOは交流電源10によりスパッタされる。この場合、セラミックTiOは、直流によってもスパッタすることができる。参照番号11は、対応するTiOターゲットを示す。ガラス板であってもよい基板9は、すでにTiO層によりコーティングされていて、この基板9は第2のコーティング・チャンバ4に移送され、そこでZnOターゲット13は、直流電源12を用いてスパッタされる。TiO層上に必要なZnO層が堆積されるとすぐに、基板9は作業チャンバ5内に移送される。この作業チャンバ5内にはイオン源14が位置していて、基板9のZnO層をイオンで放射する。その後で、基板は、第3のコーティング・チャンバ6内に移送され、そこで銀のターゲット16が直流源15によりスパッタされる。
【0018】
銀の下のZnO層は底部阻止層として機能する。この層は銀層の特性に大きく影響する。例えば、この層は銀の層抵抗を低減するが、このことは導電性を改善するのと同じ効果がある。
【0019】
これにより、光を反射する銀の性能が向上する。何故なら、透過率とコーティング・システムの表面抵抗との間には直接的な相関関係があるからである。表面抵抗が低ければ低いほど、コーティングの断熱性がよくなる。
【0020】
下に位置するZnO層を通しての銀の表面抵抗の周知の低減は、本発明によりさらに改善され、それによりZnO層がイオン・ビームで照射される。それにより、銀層の放射率が改善され、可視範囲内の波長に対する高い透過性が同様に改善される。
【0021】
イオンによりZnO表面を修正すると、以降の銀層のエピタキシャル成長に強力に影響する。銀の表面抵抗は、さらに銀を塗布しなくても最大20%低減する。
【0022】
イオン・ビーム源14のイオンは、アルゴン・イオンであっても、および/または酸素イオンであってもよい。イオンの貫通深さは、ZnO層の下の層がイオン照射による影響を受けないようにあまり深いものであってはならない。この理由のために、例えば、電子ビームまたはX線のような他のタイプの放射線は、ZnOの処理には適していない。
【0023】
イオンの線量は、イオン・ビーム源14のガス流を調整することにより、またはイオン・ビーム源14の下の基板9の移送速度を変化させることにより変更することができる。イオンがZnO層に衝突するエネルギーは、加速電圧により設定される。
【0024】
特に、エネルギーを設定することにより、ZnO層の表面の形態を変えることができる。表面の粗さを変えることができ、密度を変更することができる。表面はさらに化学的に活性化することもできるし、非活性化することもできる。またZnO層の表面内に少量のアルゴン原子および/または酸素原子を挿入することもできる。
【0025】
特に、層の表面上において、例えば、一定であるか、ガスのタイプおよびその量(例えば、35sccmAr)、加速電圧(例えば、U=1kV〜U=3kV)、電流(I=0.5A)、および基板からイオン源までの距離(130mm)により決まるイオン電流が加速される。sccmは(60mbar l)/秒を意味する。ここで、lはリットルである。
【0026】
それにより、ガスのタイプ、単位時間当たりのその量、および加速電圧が設定される。電流源の結果としての電流出力は、これらの仕様により決定される。基板9とイオン源14との間の幾何学的距離はいつでも一定である。
【0027】
電力源の電流および電圧は測定装置により入手される。イオン電流の実際のエネルギーを測定することはできない。
【0028】
基板9の速度が、イオン・ビームが基板9に衝突する面積要素当たりの平均時間を決定する。イオンの平均貫通深さが分からないので、体積要素への変換はできない。量的効果は問題ではない。重要なことは表面への効果である。表面の粗さは、明らかに低放射率コーティングの透過率に間接的な影響を持つ。
【0029】
イオン電流が一定に維持され、基板速度が半分になると、平均的に2倍のイオンが同じ平均エネルギーで同じ面積要素に衝突する。それ故、イオン線量が2倍になる。それにより、サンプル上に加わるエネルギーも2倍になる。加速電圧が3倍になると、第1の近似値の平均イオン・エネルギーも3倍になる。
【0030】
それ故、エネルギーは加速電圧と基板速度の逆数値との積になる。
【0031】
処理したZnO層上に銀層をスパッタした後で、基板はコーティング・チャンバ7に移送され、そこで直流源17によりNiCrOターゲットがスパッタされる。コーティング・チャンバ8においては、その後でSiターゲット20が交流源19によりスパッタされる。
【0032】
図2は完全にコーティングされた基板9を示す。比較的厚いTiO層21上に比較的薄いZnO層22が堆積されるのは明らかである。この堆積が行われたZnO層22上に、比較的薄いAg層23が塗布される。このAg層上に非常に薄いNiCrO層24が塗布される。比較的厚いSi層25が、最後の層を形成する。
【0033】
図2は、5つの異なる層21〜25を示すが、本発明にとって重要なのは、実質的には層22および23だけである。それ故、ガラスの2層システム、すなわちZnO−Agにより試験を行った。表1にその結果の要約を示す。すべての試験において、銀層の厚さは正確に同じであり、約7.6nmであった。
【0034】
【表1】

線量およびエネルギーは「任意の単位」で表示してある。分かりやすくするために、すべての値はエネルギー1により基準試験に対して正規化した。キログラム当たりのクーロンによる線量のSI単位、およびニュートン・メートルによるエネルギーのSI単位は測定しなかった。イオン7、イオン1等は、行った試験の試験番号を示す。R/sqは表面抵抗である。
【0035】
7回の試験すべての場合に、ガスとしてアルゴン・ガスを使用した。加速電圧は1または3kVであり、ガス流は20または41sccmであった。基板9が移動した速度V(イオン)は毎秒1〜2メートルであった。イオンの線量は10〜82単位であり、運動エネルギーは21〜123単位であった。
【0036】
ZnOを処理しなかった銀層の表面抵抗は10.8オームであり、ZnOを処理した場合の表面抵抗は少なくとも8%〜27%低減した。
【0037】
また、5つの層からなるコーティングを使用して試験を行った。表2は、明度(color value)および表面抵抗についてのこれらの試験の結果を示す。
【0038】
【表2】

この表の場合、CIE LAB DIN 6174(1976)により、各記号は下記の意味を持つ。
【0039】
Ty=可視光範囲で平均した百分率による透過性
a*=赤−緑軸上の明度
b*=黄−青軸上の明度
RGy=可視範囲内で平均したサンプルのガラス側からの百分率による反射
RFy=可視範囲内で平均したサンプルのコーティング側からの百分率による反射
Haze=半透明
上記データは、焼戻し前のコーティングした基板に関するものである。これらのデータに基づいて、イオン処理後の層抵抗は、イオン処理を行わなかった層の層抵抗と比較すると有意に低減しているのは明らかである。
【0040】
タイプ1、タイプ2、タイプ3は、イオン・エネルギーであり、タイプ1は高エネルギー、タイプ2は中程度のエネルギー、タイプ3は、低エネルギーを示す。
【0041】
下記の表3は、焼戻しを行った後に得られた値を示す。
【0042】
【表3】

すべての場合に、ZnO層をイオンで処理した後に、層抵抗の低減が認められた。反射カラー内の最小カラーのずれは、ZnOの変化した層の厚さまで追跡することができる。
【0043】
下記の表4に示す一連の試験の結果も、透過性および表面抵抗もZnO層のイオン処理により改善されたことを確認している。
【0044】
【表4】

本発明は、上記の例示としての実施形態に限定されないことを理解されたい。例えば、上記酸化物の代わりに、酸素が供給された場合に酸化物だけを形成する金属も反応によりスパッタすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】コーティング設備の略図である。
【図2】基板上の層構造を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線に対してほぼ透明であり、他の層の上に位置する少なくとも1つの赤外放射線反射層を備えるガラス・コーティングであって、前記他の層がイオン照射により処理された層であることを特徴とするガラス・コーティング。
【請求項2】
前記赤外放射線反射層が、少なくとも50%の銀成分を含む材料からなることを特徴とする、請求項1に記載のガラス・コーティング。
【請求項3】
前記赤外放射線反射層が、純粋な銀からなることを特徴とする、請求項2に記載のガラス・コーティング。
【請求項4】
イオン照射により処理された前記層が、少なくとも50%のZnO成分を含む材料からなることを特徴とする、請求項1に記載のガラス・コーティング。
【請求項5】
イオン照射により処理された前記層が、純ZnOからなることを特徴とする、請求項4に記載のガラス・コーティング。
【請求項6】
イオン照射により処理された前記層が、ZnOまたはZnO:AlまたはZn:AlOからなることを特徴とする、請求項1に記載のガラス・コーティング。
【請求項7】
前記イオン照射がArイオンからなることを特徴とする、請求項1に記載のガラス・コーティング。
【請求項8】
前記イオン照射が酸素イオンからなることを特徴とする、請求項1に記載のガラス・コーティング。
【請求項9】
前記イオン照射が、OおよびArの混合物からなることを特徴とする、請求項1に記載のガラス・コーティング。
【請求項10】
基板上にコーティングを形成するための方法であって、
a)第1の層を前記基板上に塗布するステップと、
b)前記第1の層をイオン照射により処理するステップと、
c)前記第1の層上に、赤外放射線を反射する第2の層を塗布するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記第1の層が、主にスパッタリングにより塗布されたZnO層であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の層が、主にスパッタリングにより塗布されたAg層であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ZnO−Ag−NiCrO−Siで処理したイオン照射による層シーケンス・ガラス−TiO−を特徴とするガラス・コーティング。
【請求項14】
ガラス・コーティングを形成するための方法であって、下記のステップ、すなわち、
a)スパッタリングにより前記ガラス上にTiO層を塗布するステップと、
b)スパッタリングにより前記TiO層上にZnO層を塗布するステップと、
c)イオン照射によりZnO層を処理するステップと、
d)スパッタリングにより前記ZnO層上にAg層を塗布するステップと、
e)スパッタリングにより前記Ag層上にNICrO層を塗布するステップと、
f)スパッタリングにより前記NiCrO層上にSi層を塗布するステップとを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−117501(P2006−117501A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13604(P2005−13604)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(502208722)アプライド フィルムズ ゲーエムベーハー アンド コンパニー カーゲー (28)
【Fターム(参考)】