説明

ガラス物品の研磨量測定方法

【課題】フロート法で製作されたPDP用のガラス基板などのように、微少な表面研磨が要求されるガラス物品の研磨量を高精度に測定する。
【解決手段】ガラス基板1の表面の一部を保護膜で保護した状態で、研磨パッド6によりガラス基板1の表面を研磨した後、研磨後にガラス基板1の表面に残存する保護膜2を除去し、保護膜2が除去されたガラス基板1の未研磨面1bと、保護膜2が形成されていなかったガラス基板1の研磨面1aとの段差Dから研磨量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の表面の研磨量を測定するための技術に関し、特に、フロート法によって成形されたプラズマディスプレイパネル(PDP)用のガラス基板のように、表面を微量に研磨することが必要なガラス物品の研磨量を測定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPは、互いに対向する前面板と背面板とからなる2枚のガラス基板を構成要素として備えている。そして、これらPDP用のガラス基板には、製造工程の中で、種々の素子や構造体とともに、銀電極が形成されるのが通例である。
【0003】
一方、これらのガラス基板の製造方法としては、大型のガラス基板を大量生産できるという利点から、フロート法が採用される場合が多くなっている。しかしながら、フロート法を採用した場合には、上述のようにガラス基板上に銀電極を形成したときに、電極の銀成分がガラス基板の表面と反応して、銀電極に接したガラス基板の表面層が黄色に変色(黄変)するという事態が生じ得る。そして、前面板を構成するガラス基板に黄変が生じると、その程度によってはPDPの画像の表示性能が著しく悪化し、不良品として取り扱わざるを得ないという不具合を招くおそれがある。
【0004】
このようにガラス基板に黄変が生じる理由は、次の通りである。すなわち、ガラス基板をフロート法で成形する場合、その成形工程でフロートバス内の雰囲気は、溶融錫の酸化や揮発による表面欠陥の発生を抑制するために、水素等の還元性ガスと、窒素等の不活性ガスとの混合ガスで満たされている。そのため、フロートバス内において、溶融ガラスの上面は還元雰囲気に曝され、溶融ガラスの下面は溶融錫と接触した状態となる。その結果、フロート法によって成形されるガラス基板の上下面には錫由来の還元性を有する異質層が形成される。そして、この異質層が形成されたガラス基板の表面に銀電極を形成すると、熱処理の際に、銀成分が異質層に拡散すると共に還元されて金属コロイド化し、ガラス基板に黄変が生じる。したがって、ガラス基板に黄変が生じる原因は、ガラス基板に形成された還元性を有する異質層にある。
【0005】
そこで、PDP用のガラス基板をフロート法で成形した場合には、黄変の原因となる異質層を除去すべく、ガラス基板の表面を研磨するのが通例とされている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
ここで、ガラス基板の表面に形成される異質層も研磨するに連れて次第に除去されていくので、研磨量を多くするに連れて、ガラス基板上に銀電極を形成した場合に生じる黄変の度合は小さくなる。しかしその一方で、研磨量を多くするに連れて研磨時間が長くなると共に、面内を均一に研磨することが困難となる。
【0007】
そのため、ガラス基板の研磨量は、黄変の影響が問題とならない必要最小限の範囲に抑える必要がある。そして、当該数値範囲内で研磨量を管理するためには、研磨量を正確に測定することが必要となり、その測定方法としては、例えば、研磨前のガラス基板の板厚と、研磨後のガラス基板の板厚とをそれぞれ超音波等を用いて個別に測定し、その板厚差から研磨量を測定する方法や、研磨前後のガラス基板の重量差から研磨量を測定する方法などが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−255669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、黄変の影響が問題とならない必要最小限のガラス基板の研磨量としては、一般的には、数百nm〜数μm程度とされている。そのため、研磨量の測定に際しては、当該数値範囲のオーダーの研磨量を正確に測定することが必要となる。
【0010】
しかしながら、例示した上述のガラス基板の研磨量測定方法では、数百nm〜数μm程度のオーダーの研磨量を正確に測定することが困難となる。
【0011】
すなわち、超音波を用いて、研磨前後のガラス基板の板厚の測定を行った場合には、研磨前後の各板厚の測定精度が十分でないため、その板厚差から上記のような数μm以下のオーダーの研磨量を正確に測定することは極めて困難となる。
【0012】
また、研磨前後のガラス基板の重量差から研磨量を測定する場合には、その測定が間接的であるため、研磨量を算出するまでの過程で誤差を含む要因が非常に多い。また、近年のガラス基板の大型化に伴う重量増加により、ガラス基板の重量に比べて遥かに小さい研磨量による重量変化を正確に測定することは困難となる。そのため、この場合にも、上記のような数μm以下のオーダーの研磨量を正確に測定することが実質的に不可能となる。
【0013】
なお、上記では、研磨量を測定する対象となるガラス基板が、フロート法で成形されたPDP用のガラス基板である場合を例に取って説明したが、このようなガラス基板以外であっても微少な表面研磨が要求されるガラス物品であれば、研磨量を測定するに際して、同様の問題が生じ得る。
【0014】
以上の実情に鑑み、本発明は、フロート法で製作されたPDP用のガラス基板などのように、微少な表面研磨が要求されるガラス物品の研磨量を高精度に測定することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために創案された本発明は、ガラス物品の表面の研磨量を測定するガラス物品の研磨量測定方法であって、前記ガラス物品の表面の一部を保護膜で保護した状態で前記ガラス物品の表面を研磨する工程と、前記研磨後に前記ガラス物品の表面に残存する前記保護膜を除去する工程と、前記ガラス物品の表面のうち、前記研磨によって研磨された研磨面と、除去された前記保護膜で保護されていた未研磨面との間に形成される段差から研磨量を測定する工程とを含むことに特徴づけられる。
【0016】
このような方法によれば、例えば研磨パッドなどの研磨手段でガラス物品の表面を研磨する際に、予めガラス物品の一部が保護膜によって保護されるため、保護膜を形成した部分に対応するガラス物品の表面は、未研磨面として残される。一方、保護膜を形成しなかった部分に対応するガラス物品の表面には研磨手段が直接接触するため、当該部分に対応するガラス物品の表面は、研磨手段によって研磨された研磨面となる。そのため、研磨後にガラス物品の表面に残存する保護膜を除去すれば、研磨面と共に、未研磨面がガラス物品の表面に露出した状態となる。そして、未研磨面に対応するガラス物品の厚みは、研磨前後で変化せずに一定となるため、未研磨面と研磨面との間に形成される段差は、実際のガラス物品の研磨量を示すことになる。したがって、当該段差からガラス物品の研磨量を直接測定できるので、研磨量の高精度な測定を実現することが可能となる。なお、当該段差の測定は、例えば触針式段差計などを用いて、簡単且つ正確に行うことができる。
【0017】
上記の方法において、前記保護膜の硬度が、前記ガラス物品の硬度よりも高いことが好ましい。
【0018】
このようにすれば、ガラス物品の表面を研磨している過程で生じる保護膜の磨耗を抑えることができる。したがって、保護膜の厚みを薄くしても、ガラス物品の保護機能を十分に発揮できるという利点がある。
【0019】
この場合、前記保護膜が、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、酸化インジウムスズ(ITO)の中から選ばれた1の材料で形成されていることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、ガラス物品の表面に簡単に保護膜を成膜することができ、しかも、ガラス物品への保護膜の密着性も良好となる。
【0021】
上記の方法において、前記保護膜の膜厚が、0.1〜0.5μmであることが好ましい。
【0022】
すなわち、保護膜の膜厚が、0.1μm未満であると、保護膜の膜厚が薄くなりすぎて、十分な保護機能を発揮できなくなるおそれがある。一方、保護膜の膜厚が、0.5μmを超えると、保護膜が厚くなりすぎて、保護膜に保護されていないガラス物品の表面の研磨効率が低下するおそれがある。また、この場合には、保護膜を形成した部分と、形成しなかった部分の境界にできる段差部分がなだらかになる。そのため、段差計で段差を測定する際に測定距離が必然的に長くなり、ガラスのうねり等を拾って測定精度が低下する可能性が高くなる。したがって、保護膜の膜厚は、上記の数値範囲内であることが好ましく、このようにすれば、研磨効率に影響を与えることなく、保護膜としての保護機能を十分に発揮することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明によれば、ガラス物品の表面を研磨する際に、予めガラス物品の一部が保護膜によって保護されるため、当該保護膜を形成した部分に対応するガラス物品の表面は未研磨面として残される。そのため、研磨後にガラス物品の表面に残存する保護膜を除去すれば、研磨面と未研磨面とがガラス基板の表面に露出した状態となる。そして、未研磨面に対応した部分のガラス物品の厚みは研磨前後で一定であるので、未研磨面と研磨面との間に形成される段差は、実際の研磨量を示すことになる。したがって、未研磨面と研磨面との間の段差を測定すれば、フロート法で成形されたPDP用のガラス基板など、微少な表面研磨が要求されるガラス物品の研磨量であっても、その研磨量を段差から直接的に精度よく測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス物品の研磨量測定方法のフロー図である。
【図2】本実施形態の保護膜形成工程を経たガラス基板の状態を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の研磨工程に利用される研磨装置の一例を示す縦断面図である。
【図4】本実施形態の研磨工程以降の各工程を説明するための図であって、(a)は研磨工程の序盤の状態、(b)は研磨工程の終盤の状態、(c)は保護膜除去工程の直前の状態、(d)は保護膜除去工程の直後の状態および研磨量測定工程の状態をそれぞれ説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下では、ガラス物品が、フロート法で成形されたPDP用のガラス基板(以下、単にガラス基板という)である場合を例にとって説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係るガラス物品の研磨量測定方法は、ガラス基板の表面の一部に保護膜を形成する保護膜形成工程S1と、ガラス基板の表面の一部を保護膜で保護した状態で、研磨パッドによりガラス基板の表面を研磨する研磨工程S2と、研磨後にガラス基板の表面に残存する保護膜を除去する保護膜除去工程S3と、保護膜が除去されたガラス基板の未研磨面と、保護膜が形成されていなかったガラス基板の研磨面との段差から研磨量を測定する研磨量測定工程S4とを含む。
【0027】
保護膜形成工程S1では、例えば、図2に示すように、矩形状のガラス基板1の表面に額縁状に、0.1〜0.5μmの膜厚の保護膜2がスパッタ処理などにより成膜される。そのため、ガラス基板1の周縁部のみが保護膜2によって保護され、ガラス基板1の中心部分は保護膜2によって保護されることなく外部に露出した状態となっている。
【0028】
保護膜2としては、ガラス基板1の硬度よりも高く且つガラス基板1との密着性が良好な材料を選択することが好ましい。また、ガラス基板1を研磨する際には、研磨剤(例えば、酸化セリウムや、酸化アルミニウムなどの研磨スラリー)が供給されるのが通例であるので、保護膜2の材料は、研磨液との反応性が低いものであることがより好ましい。そして、このような条件を満足する保護膜2の材料の具体例としては、例えば、Cr,Mo,ITOなどが挙げられる。
【0029】
研磨工程S2では、上述のように保護膜2が形成されたガラス基板1の表面を機械研磨する。そして、研磨工程S2では、例えば、図3に示すような研磨装置が利用される。
【0030】
詳述すると、図3に示す研磨装置は、回転可能な上定盤3と、回転可能な下定盤4とを上下方向に対向させた状態で配置した構成とされている。上定盤3の下面には、保護膜2を形成した側の面を下方に向けた状態のガラス基板1がフォルダ5を介して保持されている。一方、下定盤4の上面には、例えば、発泡ポリウレタンや、ポリエステル繊維不織布等の比較的弾性のある材料で形成された研磨パッド6が取り付けられている。なお、図中の7は、研磨パッド6に研磨剤を供給する研磨液供給ノズルである。
【0031】
そして、ガラス基板1の研磨を行う際には、上定盤3に荷重を掛けた状態で、上定盤3と下定盤4とを相反回転させることで、上定盤3に保持されたガラス基板1の下面側が研磨パッド6によって研磨されるようになっている。
【0032】
なお、図示例の研磨装置では、上定盤3の回転軸A1と下定盤4の回転軸A2とが互いに一致した態様を例示しているが、下定盤4の回転軸A2に対して上定盤3の回転軸A1を偏移させて、上定盤3を下定盤4に対して偏心させて配置した態様であってもよい。また、研磨装置は、上定盤3に研磨パッド6を取り付けて、下定盤4に板ガラス1を保持する構成のものであってもよい。
【0033】
次に、図4に基づいて、研磨工程S2から研磨量測定工程S4までの各工程を詳細に説明する。なお、図4では、説明の便宜上、保護膜2の膜厚を誇張して図示している。
【0034】
上記の研磨装置などで実行される研磨工程S2では、図4(a)に示すように、研磨パッド6は、ガラス基板1の表面(下面)に押し付けられる。この際、研磨パット6は、上述のように弾性を有する材料で形成されているため、板ガラス1に倣って弾性変形する。そのため、弾性変形した研磨パッド6は、保護膜2の表面と、ガラス基板1の表面との両方に接触した状態となる。したがって、この状態で、研磨パッド6による研磨が進むと、図4(b)に示すように、保護膜2に保護されていないガラス基板1の表面が、研磨パッド6によって研磨され、ガラス基板1の表面中央部に窪み(後述する研磨面1aに相当)が形成される。
【0035】
この際、保護膜2も研磨パッド6によって多少は削り取られるため、図4(a)に示す研磨初期の状態に比べて保護膜2の膜厚は相対的に薄くなるが、保護膜2の硬度がガラス基板1の硬度よりも高く設定されているため、図4(c)に示すように、ガラス基板1の研磨終了段階でもなおガラス基板1の表面に保護膜2が残存するようになっている。そのため、研磨工程S2を実行している間、保護膜2が形成されたガラス基板1の表面部分には、研磨パッド6が直接接触しない状態が維持され、保護膜2が形成されたガラス基板1の表面部分は、未研磨面1bのままの状態で残存する。なお、ガラス基板1の目標研削量よりも、保護膜2の厚みを分厚くした場合には、ガラス基板1の硬度と保護膜2の硬度が同程度であっても、ガラス基板1の研磨終了段階で、ガラス基板1の表面に保護膜2を残存させることができる。
【0036】
そして、保護膜除去工程S3で、ガラス基板1の表面に残存している保護膜2をエッチングなどによって除去することで、図4(d)に示すように、研磨パッド6によって研磨された研磨面1aと共に、保護膜2によって保護されていた未研磨面1bがガラス基板1の表面に露出した状態となる。この未研磨面1bに対応するガラス基板1の板厚は、研磨前後で変化せずに一定となるため、未研磨面1bと研磨面1aとの間に形成される段差Dは、実際の研磨量を示すことになる。したがって、研磨量測定工程S4において、未研磨面1bと研磨面1aとの間の段差Dを、例えば、触針式段差計などによって測定すれば、ガラス基板1の研磨量を直接的に精度よく測定することが可能となる。ここで、「段差D」とは、未研磨面1bと研磨面1aの最底部との間の離間距離とする。
【0037】
なお、研磨条件を同一に設定すれば、ガラス基板1の研磨量を同一に維持することができるので、順次製作されるガラス基板1の中から任意の1枚又は複数枚のガラス基板1を試験片として取り出して、その取り出した試験片に対して、上述の方法で研磨量を測定すれば、同一の研磨条件で研磨される他のガラス基板1の研磨量を正確に管理することが可能となる。そして、取り出した試験片から測定された研磨量が、仮に目的とする研磨量と異なる場合には、目的の研磨量となるように研磨条件を適宜調整すればよい。なお、研磨条件は、例えば、研磨時間や研磨パッドの回転数(定盤の回転数)の変更や、研磨液や研磨パッドの材質の変更などを行うことによって調整される。
【符号の説明】
【0038】
1 ガラス基板
1a 研磨面
1b 未研磨面
2 保護膜
3 上定盤
4 下定盤
5 フォルダ
6 研磨パッド
D 段差
S1 保護膜形成工程
S2 研磨工程
S3 保護膜除去工程
S4 研磨量測定工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス物品の表面の研磨量を測定するガラス物品の研磨量測定方法であって、
前記ガラス物品の表面の一部を保護膜で保護した状態で、前記ガラス物品の表面を研磨する工程と、
前記研磨後に前記ガラス物品の表面に残存する前記保護膜を除去する工程と、
前記ガラス物品の表面のうち、前記研磨によって研磨された研磨面と、除去された前記保護膜で保護されていた未研磨面との間に形成される段差から研磨量を測定する工程とを含むことを特徴とするガラス物品の研磨量測定方法。
【請求項2】
前記保護膜の硬度が、前記ガラス物品の硬度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の研磨量測定方法。
【請求項3】
前記保護膜が、クロム、モリブデン、酸化インジウムスズの中から選ばれた1の材料で形成されていることを特徴とする請求項2に記載のガラス物品の研磨量測定方法。
【請求項4】
前記保護膜の膜厚が、0.1〜0.5μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス物品の研磨量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−125954(P2011−125954A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286258(P2009−286258)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】