説明

ガラス製部材の接着方法及びガラス製部材の接合体

【課題】接合体に熱歪みが発生することを抑制しつつ作業性の良好なガラス製部材の接着方法と、簡便に作製可能でありながら熱歪みの抑制されたガラス製部材の接合体とを提供することを課題としている。
【解決手段】2以上のガラス製部材を接着させるガラス製部材の接着方法であって、接着させる前記ガラス製部材の間に樹脂製部材を配した状態とし、前記ガラス製部材の内の少なくとも一方の背面側から該ガラス製部材を透過させて前記樹脂製部材にレーザー光を照射することによって該樹脂製部材を熱溶融させ、該熱溶融された前記樹脂製部材で前記接着を実施することを特徴とするガラス製部材の接着方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上のガラス製部材を接着させるガラス製部材の接着方法及び2以上のガラス製部材が接着されてなるガラス製部材の接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス製の部材は種々の用途に用いられており、例えば、ガラス板などのガラス製部材は、建築・インテリア分野のみならずフラットディスプレイなどの電気製品にも広く用いられている。
このガラス板は、単独で使用される以外に、2枚を貼り合わせて用いられる場合がある。
例えば、プラズマディスプレイパネルにおいては、前面側と背面側との2枚のガラス板の間に蛍光体を収容させてプラズマ放電によって発光させるべく、この2枚のガラス板を僅かな間隙を設けて配置するとともにガラス板の外周部を低融点ガラスで封着させることが行われている。
すなわち、低融点ガラスフリットを熱溶融させて、2枚のガラス板をその外周部で接着することが行われている。
【0003】
また、従来、防火や断熱などを目的として、2枚のガラス板を貼り合わせた合せガラスが建物の窓や扉の一部を構成すべく用いられており、下記特許文献1には、装飾性を付与した合せガラスを作製すべく2枚のガラス板の間に金属箔を挟んだ状態で誘導加熱を実施してガラス板の内側を溶融させて溶着させる方法が記載されている。
【0004】
しかし、このような接着方法は、ガラスが溶融可能な温度にまでガラス板が加熱されることになるため接着後のプラズマディスプレイパネルや合せガラスといったガラス製部材の接合体に歪みが生じるおそれを有する。
【0005】
なお、合せガラスにおいては、上記のような方法だけではなく、2枚のガラス板の間に接着剤を塗布したプラスチックフィルムを挟んで、この接着剤によってガラス板/プラスチックフィルム/ガラス板の接着一体化を行う方法がその作製方法として採用されたりもしている。
このようにして接着剤を利用してガラス板を貼り合せれば熱による歪みが接合体に発生することを抑制させることができる。
しかし、接着剤による接着は、一般的に長い時間を要する上に、接着剤から発生する揮発性有機成分(VOC)への対策が必要となることが多く良好なる作業性を確保することが難しい。
【0006】
すなわち、従来のガラス板の接着方法は、得られる接合体に熱歪みが発生することを抑制しつつ良好なる作業性を確保することが困難であるという問題を有している。
なお、得られる接合体に熱歪みが発生することを抑制しつつ良好なる作業性を確保することが困難であるという問題は、板状のガラス製部材のみならず種々の形状のガラス製部材に共通する問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−56485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、接合体に熱歪みが発生することを抑制しつつ作業性の良好なガラス製部材の接着方法と、簡便に作製可能でありながら熱歪みの抑制されたガラス製部材の接合体とを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ガラス製部材の接着方法にかかる本発明は、2以上のガラス製部材を接着させるガラス製部材の接着方法であって、接着させる前記ガラス製部材の間に樹脂製部材を配した状態とし、前記ガラス製部材の内の少なくとも一方の背面側から該ガラス製部材を透過させて前記樹脂製部材にレーザー光を照射することによって該樹脂製部材を熱溶融させ、該熱溶融された前記樹脂製部材で前記接着を実施することを特徴としている。
【0010】
また、ガラス製部材の接合体にかかる本発明は、2以上のガラス製部材が接着されてなるガラス製部材の接合体であって、前記ガラス製部材の間に樹脂製部材が配された状態で、前記ガラス製部材の内の少なくとも一方の背面側から該ガラス製部材を透過させて前記樹脂製部材にレーザー光が照射されることによって該樹脂製部材が熱溶融され、該熱溶融された前記樹脂製部材でガラス製部材の前記接着が施されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては樹脂製部材を熱溶融させて、該樹脂製部材でガラス製部材の接着が行われる。
そして、樹脂製部材は、通常、ガラスを溶融状態にさせる温度よりも低温で溶融可能となる。
しかも、本発明においてはガラス製部材を透過させたレーザー光により樹脂製部材が直接加熱されて接着が行われる。
したがって、本発明のガラス製部材の接着方法によれば、ガラス製部材が高温に加熱されることを抑制しつつ接着を行うことができる。
しかも、レーザー光によって短時間に加熱・接着が行われ、接着剤を用いる従来の方法に比べて、簡便に接着を実施することができる。
すなわち、本発明によれば、接合体に熱歪みが発生されることを抑制しつつも簡便なる方法で実施可能なガラス製部材の接着方法と、簡便に作製可能でありながら熱歪みの抑制されたガラス製部材の接合体とが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態のガラス製部材の接合体製造方法を示す側面図。
【図2】他実施形態のガラス製部材の接合体製造方法を示す側面図。
【図3】他実施形態のガラス製部材の接合体製造方法を示す側面図。
【図4】他実施形態のガラス製部材の接合体製造方法を示す側面図。
【図5】他実施形態のガラス製部材の接合体製造方法を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
まず、第1の形態として、表面に樹脂被覆が施された2枚のガラス板を接着させてガラス板接合体(以下、単に「接合体」ともいう)を作製する方法を説明する。
【0014】
図1は、ガラス製部材の接着方法を示す側面図であり、符号10a、10bが表面コートガラス板を表しており、符合50がレーザー光を表している。
この図1にも示されているように、本実施形態における前記表面コートガラス板10a、10bは、板形状のガラス製部材11a、11b(以下、「ガラス板11a」、「ガラス板11b」ともいう)と、このガラス板11a、11bの表面を覆う被覆材12a、12bとによって構成されている。
【0015】
このガラス板11a、11bは特にその素材が限定されるものではなく、例えば、「テンパックス」の商品名で市販されている硬質ホウケイ酸ガラス製板ガラス、「バイコール」の商品名で市販されている96%シリカガラス製板ガラス、「パイレックス」の商品名で市販されているホウケイ酸ガラス製板ガラス、「OA10」として市販の無アルカリガラス製板ガラス、「AF45」の商品名で市販されているアルミノホウケイ酸ガラス製板ガラス、「D263」として市販のバリウムホウケイ酸ガラス製板ガラスをはじめとして、鉛アルカリガラス製板ガラス、ソーダ石灰ガラス製板ガラス、石英ガラス製板ガラスを用いることができる。
【0016】
なお、図1(c)にも示されているように、本実施形態においては上下に重ね合わせた表面コートガラス板10a、10bの被覆材12a、12bを互いに当接させた状態で、その接触界面において被覆材12a、12bを溶融させて接着が行われる。
そして、その際には、一方の表面コートガラス板10aの背面側からレーザー光50が照射されて、このレーザー光50をこの表面コートガラス板10aの内部を通過させることが行われるため、少なくとも、このレーザー光50を通過させる側のガラス板11aについては、レーザー光の波長に対して30%以上の光線透過率を有していることが好ましく、特には、50%以上の光線透過率を有していることが好ましい。
【0017】
なお、「光線透過率」は、下記式(1)によって求められる値である。
透過光強度÷入射光強度×100% ・・・(1)
(ただし、「入射光強度」は、「照射光強度−表面反射光強度」によって求められる。)
【0018】
前記被覆材12a、12bも特にその構成成分を限定するものではないが、ベースとなる樹脂成分が熱可塑性樹脂であることが好ましい。
この熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、トリアセチルセルロース、ノルボルネン樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィンポリマー、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などを採用することができる。
【0019】
また、前記被覆材12a、12bを構成させる成分には上記例示のもの以外の他の成分を含有させることができ、この“他成分”としては、例えば、上記以外の熱可塑性樹脂や、あるいは熱硬化性樹脂といった樹脂成分が挙げられる。
さらには、酸化防止剤、難燃剤、架橋剤、光安定剤、顔料、充填材などの添加剤を挙げることができる。
【0020】
なお、上記のような成分からなる樹脂組成物は、これを有機溶媒で液状化してワニス化したり、あるいは、熱溶融させたりして塗工可能な状態として前記被覆材12a、12bの形成に用いることができ、例えば、前記ガラス板11a、11bの表面に前記ワニスを塗布、乾燥させて前記被覆材12a、12bを形成させることができる。
【0021】
このワニスの作製に用いる有機溶媒としては、被覆材の形成に用いる樹脂成分の種類にもよるが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソプチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、塩化メチレン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、トルエン、ベンゼン、フェノール等の芳香族系溶媒などが挙げられる。
【0022】
なお、前記被覆材12a、12bは、それぞれ、単層である必要はなく、例えば、異なる樹脂組成物によって2層以上の積層構造とすることもできる。
例えば、前記熱可塑性樹脂が用いられてなる樹脂フィルムを接着剤でガラス板の表面に接着して、接着層とフィルム層との積層構造を有する被覆材を形成させることも可能である。
なお、ワニスをガラス板に塗布乾燥させる場合や、この接着層を形成させる場合においては、ガラス板と被覆材との接着をより強固なものとし得る点において、予めガラス板表面をカップリング剤で処理しておくことが好ましい。
【0023】
このカップリング剤処理に用いるカップリング剤としては、ガラス板の表面に被覆される被覆材の樹脂成分の種類などにもよるが、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤などのカップリング剤であれば、例えば、アミノ系カップリング剤、エポキシ系カップリング剤、イソシアネートカップリング剤、ビニル系カップリング剤、メルカプト系カップリング剤、(メタ)アクリロキシ系カップリング剤等が用いられ得る。
このカップリング剤は、ガラス板の表面に0.001μm以上10μm以下の厚みとなるように塗布されることが好ましく、0.001μm以上2μm以下の厚みとなるように塗布されることがさらに好ましい。
【0024】
また、前記接着層の形成に用いられる接着剤としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、ゴム系など熱、紫外線、電子線等で硬化可能なものが挙げられる。
この接着層の厚みとしては、0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上7μm以下であることがより好ましい。
接着層の厚みとして、上記の範囲が好ましいのは、ガラス板と樹脂フィルムとの間に優れた接着力を発揮させ得るためである。
【0025】
その場合には、少なくとも再外層となる部分を、熱可塑性樹脂を用いて形成することでレーザー光50による接着が容易なものとすることができる。
また、前記ガラス板11a、11bと、この被覆材12a、12bとは、その厚みについても特に限定されるものではなく、それぞれの厚みが同一であっても異なっていてもよい。
そして、前記ガラス板は、通常、20μm〜20mmの範囲の内から選択され得る。
なお、被覆材12a、12bは、用いる樹脂の種類などによってその硬度や弾性率を変化させるものの、通常、ガラス板に比べるとはるかに軟質で低弾性となる。
したがって、ある程度以上の厚みとすることで作製される接合体をクッション性(耐衝撃性)に優れたものとすることができる。
【0026】
ガラス板の厚みが上記の範囲の内のいずれかの厚みである場合には、被覆材12a、12bの合計厚みがガラス板の厚みに対して0.4倍以上となるように形成されることで、接合体をクッション性に優れたものとすることができる。
ただし、過度に被覆材12a、12bの厚みを増大させると接合体の熱寸法安定性を低下させるおそれを有する。
したがって、ガラス板の厚みが上記の範囲の内のいずれかの厚みである場合には、被覆材12a、12bの合計厚みはガラス板の厚みに対して4倍以下となるように形成されることが好ましい。
なお、クッション性と熱寸法安定性との両立の観点からは、被覆材の合計厚みを、ガラス板の厚みに対して0.4倍以上3倍以下とすることが好ましく、0.5倍以上2.2倍以下とすることが特に好ましい。
また、必要であれば、2枚のガラス板の内側に位置する側の被覆材の厚みと、外側の被覆材(接合体の表面側)の厚みとを異ならせて接合体を作製することも可能である。
この場合、上記のガラス板の厚みと被覆材の厚みとの比率については、表面コートガラス板10a、10bのそれぞれの上下両方の被覆材の厚みの総合計と、ガラス板の合計厚みとの間において上記のような範囲となっていれば、通常、上記のような効果を期待することができる。
【0027】
そして、このようなガラス板厚みと被覆材厚みとの関係を有するガラス製部材の接合体は、フレキシブルデバイス、照明、ディスプレイ、太陽電池などに好適なものであり、デバイス作製時におけるハンドリング性や、ロールプロセスなどを勘案した際に求められる屈曲性に優れたものとなる。
【0028】
なお、この表面コートガラス板10a、10bどうしをレーザー光50で接着させるのに際して、レーザー光50のエネルギーを被覆材の溶融に有効に作用させるべく、光吸収剤を用いることもできる。
この光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、フタロシアニン系吸収剤、ナフタロシアニン系吸収剤、ポリメチン系吸収剤、ジフェニルメタン系吸収剤、トリフェニルメタン系吸収剤、キノン系吸収剤、アゾ系吸収剤を挙げることができる。
例えば、波長が800〜1200nmのレーザー光を用いる場合であれば、Gentex社から「Clearweld」の商品名で市販の光吸収剤を用いることができる。
【0029】
この光吸収剤は、例えば、有機溶剤などに分散させて塗工液を作製し、表面コートガラス板10a、10bの何れか一方の表面に予め前記塗工液を塗布、乾燥させておくことによって表面コートガラス板10a、10bの接触界面に位置させることができ、この状態でレーザー光50を照射することによってこの界面においてレーザー光50のエネルギーを被覆材の溶融に有用な熱エネルギーに効率よく変換させることができる。
また、例えば、レーザー光50を透過させない下側の表面コートガラス板10bの被覆材12bを構成する樹脂組成物に、予め、この光吸収剤を配合しておくことによっても上記と同様の効果を得ることができる。
なお、通常、塗工液を作製する場合の方が、被覆材を構成する樹脂組成物に配合する場合に比べて使用する光吸収剤の量を節約することができる。
一方で、通常、被覆材を構成する樹脂組成物に配合する場合の方が、塗工液を作製する場合に比べて、塗工に要する手間(塗布、乾燥などの作業)を省くことができ、作業性の観点からは好ましい態様であるといえる。
【0030】
この表面コートガラス板10a、10bどうしを接着させるべく用いるレーザー光50としては、特に限定されるものではなく、例えば、半導体レーザー、ファイバーレーザー、フェムト秒レーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、CO2レーザーなどのガスレーザーが挙げられる。
これらの内でも、安価で且つ面内均一な強度のレーザー光が得られ易い点においては、半導体レーザーやファイバーレーザーが好ましい。
【0031】
また、樹脂自身の分解を防止しつつ溶融を促すことが容易である点において、瞬間的に高いエネルギーを投入するパルスレーザーよりも連続波のCWレーザー(Continuous−Wave Laser)の方が好適である。
また、レーザーの出力、パワー密度、スポットサイズ、照射回数、走査速度などは、被覆材の構成成分(樹脂種等)、厚み、光吸収率などから適宜選択され得る。
【0032】
このレーザー光50及び前記表面コートガラス板10a、10bを用いた接合体の作製方法を以下により具体的に説明する。
まず、表面コートガラス板10a、10bを作製する方法を説明する。
前記ワニスを用いる場合であれば、例えば、このワニスを調製する工程と、前記ガラス板12a、12bのそれぞれにカップリング剤処理を施す工程と、該カップリング剤処理されたガラス板にワニスを塗布乾燥する工程を実施して表面コートガラス板を作製することができる。
【0033】
前記ワニスを調製する工程は、ミキサーなどの従来公知の攪拌装置を用いて実施することができ、前記カップリング剤処理を施す工程は、カップリング剤を適度な濃度で含む希釈液を作製し、スプレーコートやディップコートなどの従来公知の塗布方法で前記希釈液をガラス板に対して塗布し、オーブンなどの乾燥機で乾燥させる方法などが挙げられる。
前記ガラス板にワニスを塗布乾燥する工程においては、コンマコーティングやダイコーティング等のコーティング法、フレキソ印刷等の凸版印刷法、ダイレクトグラビア印刷法等の様々な塗工方法が用いられ得る。
【0034】
また、接着層と樹脂フィルム層とによって被覆材を構成させる場合においては、上記のワニスを調製する工程と同様に接着剤を調製し、カップリング処理が施されたガラス板に、上記のワニスを塗布乾燥する工程と同様にして前記接着剤を塗布し、別途用意した樹脂フィルムとの貼り合せを実施する方法が挙げられる。
あるいは、樹脂フィルム側に接着剤を塗布して、接着層付樹脂フィルムを作製し、これをカップリング処理が施されたガラス板に貼り合せるようにしてもよい。
【0035】
次いで、このようにして2枚の表面コートガラス板10a、10bを作製し、図1(a)に示すように、一方の表面コートガラス板10bを、まずステージ90上に平置き状態にセットする。
前記光吸収剤を利用する場合であれば、例えば、ディスペンサー、インクジェットプリンター、スクリーン印刷、2流体式、1流体式または超音波式スプレー、スタンパーなどの一般的な手法で、この表面コートガラス板10bの上面に光吸収剤を塗布することができる。
そして、図1(b)に示すように、この表面コートガラス板10bの上にもう一方の表面コートガラス板10aを重ね合わせてセットすることで、界面に光吸収剤を配した状態とすることができる。
【0036】
その後、図1(c)に示すように、この上に重ねた表面コートガラス板10aの背面側から、レーザー光50を照射することでこの2枚の表面コートガラス板10a、10bの接触界面部40において被覆材を溶融し、溶着箇所20を形成させる。
しかも、レーザー光50を照射する位置を、接触界面の面方向に移動させることで接触界面に大面積の溶着箇所20を形成させることができる。
例えば、集光レンズによって所望のビームサイズに集光されたスポットビームを、所望の溶接箇所に走査照射することで大面積の溶着が可能となる。
または、ガルバノスキャナーによってレーザーヘッドは固定した状態でビームを走査させることも可能であり、更には回折光学素子といった光学素子の使用によって所望の形状にレーザービームを整形し、無走査によって一括して大面積の溶着を実施することも可能である。
このようにして2つのガラス製部材を接着して1つの接合体30とすることができる。
【0037】
なお、この溶着をより確実に実施させるべく上側の表面コートガラス板10aの上面側から、例えば、板状、四角柱状、円筒状、ボール状の透明ガラス製部材を加圧用の部材として当接させ、下方に向けて加圧しつつ前記溶接を実施させることができる。
このときに加える圧力としては、0.5kgf/cm2以上100kgf/cm2以下とすることが好ましく、1kgf/cm2以上20kgf/cm2以下とすることがさらに好ましい。
また、表面コートガラス板10aの上面に上記のような部材を直接接触させずに接触界面部40に圧力を作用させる方法として、アシストガスを吹き付ける方法が挙げられる。
この際、アシストガスの気体種としては、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガス、空気、窒素ガスなどが用いられ得る。
【0038】
アシストガスの吹き付けは、例えば、レーザー光50の光軸に沿わせて実施してもよく、走査方向前方側または後方側からレーザー光50の照射地点に向けて実施してもよい。
なお、アシストガスのガス圧は、レーザー光50の照射地点に0.01MPa以上5MPa未満の圧力が作用する圧力とされることが好ましい。
アシストガスのガス圧が上記のような範囲内であることが好ましいのは、上記範囲未満では、接着性の向上効果を期待することが難しく、上記範囲を超えている場合には、圧力が過大で表面コートガラス板10aなどを振動させてしまい、位置ズレなどを発生させるおそれを有するためである。
すなわち、アシストガスのガス圧が上記のような範囲内であることが好ましいのは、位置精度が高く、しかも、強度の高い溶着を実施させ得るためであり、このような観点においては、アシストガスのガス圧は、0.1MPa以上2MPa未満であることがさらに好ましい。
【0039】
上記のようなガラス製部材の接合体30の製造方法においては、レーザー光50の照射条件や上記加圧条件を調整して、溶着箇所20における上側の被覆材12aと下側の被覆材12bとの間の界面が消失するような状態で溶着させることが好ましい。
このように界面を消失させることで十分な相溶化がなされ、表面コートガラス板10a、10b間の接着強度の向上を図ることができる。
また、溶着箇所20に界面が形成されないため、例えば、光の透過性などを良好なものとすることもできる。
【0040】
なお、このように界面が消失する程度に十分な加熱を行う場合、被覆材12a、12bを構成する樹脂の種類にもよるが、通常、この接触界面部40において高くとも300℃の温度となるようにすればよく、上下のガラス板11a、11bに高い熱を加えることなくこのガラス板11a、11bどうしが被覆材12a、12bで強固に接着された接合体30を形成させることができる。
しかも、レーザー光50の照射による簡便な方法でガラス板どうしが強固に接合された接合体を形成させることができる。
【0041】
このように、本発明によれば、ガラス製部材の接合体を、該接合体に熱歪みを発生させることを抑制させつつ簡便に作製することができる。
なお、本実施形態においては、ガラス製部材としてガラス板を例示しているが、本発明においては、ガラス製部材をガラス板に限定するものではなく、ガラス棒、ガラス球など種々の形態のガラス製部材を採用可能である。
また、本実施形態においては、ガラス製部材の接着に用いる樹脂製部材を、予めガラス板に被覆された被覆材である場合を例示しているが、本発明は、樹脂製部材の使用態様をこのような場合に限定するものではない。
【0042】
さらには、本実施形態においては、1つの接触界面部40において溶着を実施して、2枚のガラス板11a、11bを接着する場合を例示しているが、例えば、3枚以上のガラス板を重ね合せて接着を行う場合も本発明の意図する範囲である。
【0043】
このような、他の実施形態について以下に説明する。
図2〜4は、本発明の第2〜4の実施形態を示す側面図であり、第1の実施形態と同様の構成を示すものには同じ符号を付している。
【0044】
まず、図2を参照しつつ、第2の実施形態について説明する。
前記第1の実施形態においては、ガラス板11a、11bに予め被覆材12a、12bが被覆された表面コートガラス板10a、10bを用いる場合を説明したが、この第2実施形態においては、樹脂製部材による被覆がなされていないガラス板11a、11bを、樹脂フィルム12cを介して積層し、該樹脂フィルム12cを、上側のガラス板11aの背面側から照射したレーザー光50で溶融させて、その溶融樹脂を上下両方のガラス板11a、11bの表面に接着させることによりガラス板11a、11bどうしを接着させる場合を示したものである。
【0045】
この第2の実施形態におけるガラス製部材の接着方法では、予め被覆材をガラス板に被覆させておく手間を削減すことができ、工程を簡略化させうる。
一方で、ガラス板11a、11bの接着に用いる樹脂製部材として、樹脂フィルム12cを利用することから、用いる樹脂フィルム12cの種類などによっては作業性の低下を招くおそれを有する。
【0046】
例えば、第1の実施形態において示したように、ワニスによってガラス板の表面に被覆材を形成させる場合には、その厚みを数μmの極めて薄いものとすることも容易で、この数μm厚みの樹脂製部材がガラス板に担持された状態となることから、その取り扱いに困難性が生じる可能性は低い。
一方で、この第2の実施形態においては、樹脂製部材として、例えば、10μm以下の厚みの樹脂フィルムを用いようとすると、コシが弱すぎるとともに静電気の作用などによって目的としない場所に付着したりしてハンドリングが悪くなるおそれを有する。
そのことを防止すべく、10μmを超えるような厚みの厚い樹脂フィルムを用いると、この第2の実施形態では、上下のガラス板のそれぞれ接着させるために、樹脂フィルム全体を軟化(溶融)させる必要があるために投入するエネルギーが多大なものとなるおそれを有する。
【0047】
すなわち、第2の実施形態におけるガラス製部材の接着方法では、工程数を減少させうる反面、工程に要する手間を増大させるおそれを有する。
この第2の実施形態において、ガラス板11a、11bにカップリング処理を施したり、溶着時において加圧したりすることで接着強度の向上を図り得る点などについては第1の実施形態と同じである。
【0048】
また、図3に示すように、ガラス板11aの表面を樹脂組成物が用いられてなる被覆材12aで被覆させた表面コートガラス板10aを一方側にのみ用いて、他方をガラス板11bのみとすることもできる。
この第3の実施形態においては、ガラス板の表面に被覆材を被覆する作業を半減させることができるとともに、薄い樹脂フィルムを用いる場合におけるハンドリングの問題も解消可能である。
【0049】
図4は、3枚以上のガラス板を接着させる接着方法(第4の実施形態)について説明するための側面図であり、この第4実施形態においては、3枚の表面コートガラス板10x、10y、10zを用いる点をこれまでの実施形態と相違させている。
そして、これら3枚の表面コートガラス板10x、10y、10zを積層させたものに対しては、例えば、この図4に示すように、上下からレーザー光50’、50”を照射して一括して接着を行うことができる。
すなわち、最も上位に配されている表面コートガラス板10xと、その下の表面コートガラス板10yとの接触界面部40’に対して、上位の表面コートガラス板10xの背面側からレーザー光50’を照射し、溶着部20’を形成させるとともに、最も下位に配されている表面コートガラス板10zとこの表面コートガラス板10zの上の表面コートガラス板10yとの接触界面部40”に対して、下位の表面コートガラス板10zの背面側からレーザー光50”を照射し、溶着部20”を形成させることができる。
【0050】
このような接着方法によれば、3枚以上のガラス板を一度に接着させることができる。
なお、このような接着方法を採用するにあたっては、これまでの実施形態のようにステージ上にガラス板を載置してレーザー光の照射を行うのではなく、下方からのレーザー光50”を照射可能とすべく、3枚の表面コートガラス板10x、10y、10zを積層させたものを透明なガラス板60”上に載置し、このガラス板60”越しにレーザー光50”を照射させるようにすればよい。
また、その場合には、上位の表面コートガラス板10xの上方にも同様のガラス板60’を配置して、下方のガラス板60”と共働させて溶着時における接触界面部40’、40”の加圧を実施させても良い。
【0051】
また、要すれば、図5に示すように、表面コートガラス板10xと、その下の表面コートガラス板10yとの接触界面部40’においてレーザー光のエネルギーを一部吸収させるとともに、残部を透過させ、この真ん中の表面コートガラス板10yと下位に配されている表面コートガラス板10zとの接触界面部40”を同時に溶着させることも可能である(第5実施形態)。
この第5実施形態にかかる方法としては、例えば、下方側の接触界面部40”に上方側の接触界面部40’よりも多くの光吸収剤を配する方法などが挙げられる。
【0052】
なお、この第4、第5の実施形態においても、第3の実施形態と同様に、中央の表面コートガラス板10yを被覆材の設けられていない単なるガラス板に変更して、上下の表面コートガラス板10x、10zの被覆材を利用して3枚のガラス板の接着を行うことも可能である。
あるいは、中央のみを表面コートガラス板とし、上下の表面コートガラス板10x、10zを単なるガラス板に変更して、中央の表面コートガラス板の上面側、下面側のそれぞれの被覆材を利用して3枚のガラス板の接着を行うこともできる。
【0053】
さらに、本発明は、これらの例示によらず種々の改良を施して実施が可能である。
そして、本発明の接着方法によって得られるガラス製部材の接合体は、ガラス製部材どうしの接着強度に優れ、接着時に高い熱が加えられることが抑制されていることから熱歪みが抑制された状態に形成されうる。
【実施例】
【0054】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
ガラス製部材の接合体を作製するために用いた使用材料は以下の通りである。
1)ガラス板
材質「D263」(ホウケイ酸ガラス、ショット社製)、厚み50μm
2)被覆材
材質「ポリエーテルサルフォン樹脂」
3)光吸収剤「Clearweld LD120C」(ジェンテックス社製:100nm厚みでの940nmの波長の光の吸収率40%)
4)加圧部材(ガラス板)
材質「溶融石英ガラス」
【0056】
このような使用材料によるガラス部材の接着方法は以下の通り実施した。
まず、2枚のガラス板に対し、片面に前記被覆材が35μm厚みとなるようにして表面コートガラス板を作製した。
次いで、この表面コートガラス板を、前記被覆材どうしを当接させた状態で重ね合わせ、しかも、その接触界面部に前記光吸収剤を100nmの厚みで配した状態とし、前記加圧部材で3kgf/cm2の圧力で加圧しつつレーザー光を照射して、界面部の溶着を実施した。
具体的には、波長940nm、出力30W、スポット径2mmφのレーザースポットを50mm/sの速度で走査させて溶着を行った。
得られた接合体は一方のガラス板側の被覆材と他方のガラス板側の被覆材との界面が消失された状態となっており、界面部において被覆材を構成している樹脂組成物どうしが十分に相溶化されていることが確認できた。
また、熱歪みなどは見られず、高い接着強度でガラス板どうしが接着されていることが確認できた。
【0057】
(実施例2)
ガラス製部材の接合体を作製するために用いた使用材料は以下の通りである。
1)ガラス板
材質「D263」(ホウケイ酸ガラス、ショット社製)、厚み50μm
2)被覆材
材質「ポリアリレート樹脂」
3)光吸収剤「Clearweld LD120C」(ジェンテックス社製:100nm厚みでの940nmの波長の光の吸収率40%)
4)加圧部材(ガラス板)
材質「溶融石英ガラス」
【0058】
このような使用材料によるガラス部材の接着方法は以下の通り実施した。
まず、2枚のガラス板に対し、片面に前記被覆材が35μm厚みとなるようにして表面コートガラス板を作製した。
次いで、この表面コートガラス板を、前記被覆材どうしを当接させた状態で重ね合わせ、しかも、その接触界面部に前記光吸収剤を100nmの厚みで配した状態とし、前記加圧部材で3kgf/cm2の圧力で加圧しつつレーザー光を照射して、界面部の溶着を実施した。
具体的には、波長940nm、出力50W、スポット径2mmφのレーザースポットを30mm/sの速度で走査させて溶着を行った。
すなわち、被覆材に用いる樹脂種、レーザー出力、レーザースポット走査速度のみを異ならせるのみで、後の条件は実施例1と同じである。
【0059】
この実施例2によって得られた接合体も、一方のガラス板側の被覆材と他方のガラス板側の被覆材との界面が消失された状態となっており、界面部において被覆材を構成している樹脂組成物どうしが十分に相溶化されていることが確認できた。
また、熱歪みなどは見られず、高い接着強度でガラス板どうしが接着されていることが確認できた。
【0060】
以上のようなことからも、本発明に係る接着方法は、接合体に熱歪みが発生することを抑制しながらも良好な作業性を有しており、簡便に作製可能でありながら熱歪みの抑制されたガラス製部材の接合体を作製し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0061】
10a、10b:表面コートガラス板、11a、11b:ガラス板、12a、12b:被覆材、20:溶着部、30:ガラス製部材の接合体、40:接触界面部、50:レーザー光、90:ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のガラス製部材を接着させるガラス製部材の接着方法であって、
接着させる前記ガラス製部材の間に樹脂製部材を配した状態とし、前記ガラス製部材の内の少なくとも一方の背面側から該ガラス製部材を透過させて前記樹脂製部材にレーザー光を照射することによって該樹脂製部材を熱溶融させ、該熱溶融された前記樹脂製部材で前記接着を実施することを特徴とするガラス製部材の接着方法。
【請求項2】
前記樹脂製部材が、接着前の前記ガラス製部材の表面に被覆された被覆材である請求項1記載のガラス製部材の接着方法。
【請求項3】
前記樹脂製部材を構成する樹脂成分として熱可塑性樹脂が用いられている請求項1又は2記載のガラス製部材の接着方法。
【請求項4】
前記レーザー光の照射される位置に、予め光吸収剤を配して前記接着を実施する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のガラス製部材の接着方法。
【請求項5】
2以上のガラス製部材が接着されてなるガラス製部材の接合体であって、
前記ガラス製部材の間に樹脂製部材が配された状態で、前記ガラス製部材の内の少なくとも一方の背面側から該ガラス製部材を透過させて前記樹脂製部材にレーザー光が照射されることによって該樹脂製部材が熱溶融され、該熱溶融された前記樹脂製部材でガラス製部材の前記接着が施されていることを特徴とするガラス製部材の接合体。
【請求項6】
前記樹脂製部材が接着前のガラス製部材のそれぞれの表面に被覆された被覆材であり、該被覆材どうしを当接させ、しかも、その接触界面を消失させた状態となるように前記接着が施されている請求項5記載のガラス製部材の接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−32144(P2011−32144A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182404(P2009−182404)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】