説明

キトサン含有多糖、その製造方法及び用途

キトサン含有多糖、その製造方法、それを含む医薬品、食品を提供する。茸を濃苛性アルカリ水溶液中、加熱処理した後、固液分離し、得られた固形分を有機酸水溶液に溶解し、これにアルコール又は苛性アルカリを加えて沈殿を生じさせ、この沈殿を洗浄、乾燥して得られるキトサン含有多糖。このキトサン含有多糖はグルコサミンのホモポリマーと、グルカンが共有結合で結合した化合物であり、グルコサミンとグルコースの構成モル比は1〜5:5〜1であり、分子量約15万、β(1→4)結合及びβ(1→6)結合を含むが、β(1→3)結合を含まない。蛋白質及び還元性多糖を含まない。このキトサン含有多糖は、高血圧、糖尿病等の生活習慣病の予防及び治療に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規なキトサン含有多糖、その製造方法、これを有効成分として含有する医薬組成物及び食品に関する。
【背景技術】
現在に到るまで、カニやエビなど甲殻類のキトサン(以下、カニキトサンという)は、その性質や製造方法について多く研究されているが、茸を代表とする植物性キトサンやその製造法に関しては、研究文献がほとんど見当たらないのが現状である。
黒カビや水カビ、放線菌などの菌類が産生するキトサンについては、いくつかの研究報告があるが、これら菌類の培養が困難であるのと、未知の毒性物質も含有されている可能性が強いことから、菌類が産生するキトサンは、食品や医薬品など人体への安全性が問題となるところには使用できなかった。
一方、腎臓病に効果のあることが知られているマッシュルーム(アガリクスビスポラス)(Agaricus bisporus)の親水性溶媒抽出物(商品名「シャンピニオンエキス」)には、キトサンの主たる成分であるグルコサミンが微量含まれていることがわかっていたが、この微量のグルコサミンが生理学的な意味を持っているのかどうかは不明であった。そして、マッシュルーム(アガリクスビスポラス)をはじめとする茸類からキトサン含有多糖を積極的に製造しようとする試みはこれまでほとんどなされていない。
日本を含むアジア地域では、椎茸;Lentinus edodesやキクラゲ、フクロタケ、しめじ、舞茸は、古来より優れた健康食品として盛んに用いられてきた、医食同源の基本となる食材である。西洋では17世紀よりマッシュルーム(シャンピニオン)(アガリクスビスポラス)が食用として広く供されてきた。
いわゆるマッシュルームあるいはシャンピニオンといえば、本来全ての茸を総称するが、狭い意味では17世紀からパリ近郊の洞窟で栽培されているアガリクスビスポラスを指す。混乱を避けるため、この明細書ではマッシュルームまたはシャンピニオンを「アガリクスビスポラス」、全ての食用茸類を指す場合には、「茸」と呼ぶこととする。
世界におけるアガリクスビスポラスの年間生産量は240〜320万トンで、全世界では栽培茸の30〜38%を、アメリカでは栽培茸の90%を占めている。歴史的には植物性キチンは、アルカリに不溶性の高分子物質として、1811年フランス人の植物学者ブラコノー(Braconnot)によりマッシュルームから初めて抽出された。1859年Rougetは、キチンを水酸化カリウムの濃厚溶液中で加熱すると、有機酸に可溶になることを発見し、1894年、Hoppe−Seylerによって、この物質は「キトサン」と命名された。
1999年〜2000年にロシアの研究者らが黒カビ(Aspergillus niger)からキチン・グルカン化合物を分離している。このキチン・グルカン化合物は15〜20%のグルカンを含有していた。このキチンとグルカンは強固な共有結合で結合しているので、酵素処理でしか完全に分離できない。(非特許文献1及び非特許文献2参照)
1981年に志田らは、椎茸(Lentinus edodes)のアルカリ(24%、5℃)に不溶な骨格グルカンについて報告している。メチル化分析によりグルカン部分の構造は高度に分岐したβ−1,6及びβ−1,3結合を持った糖鎖であることがわかった。このグルカンはキチンと結合して椎茸の内部骨格を形成している。(非特許文献3)
1994年、Hartlandらは、酵母(Saccharomyces cerevisiae)の細胞壁において、アルカリ可溶性の(1−3)βグルカンがキチンと結合して、アルカリに不溶な(1−3)βグルカンになることを見いだしている。(非特許文献4)
茸やカビ類の細胞壁の構成成分は、α(1−3)グルカンとキチンであるといわれているが、これらの菌類の成長過程では多糖類の再構成や再組織化が頻繁に行われている。アガリクスビスポラスの成長サイクルでもαとβの構造の割合が変化すると言われている。増殖過程ではβ(1−4)が、子実体などではβ(1−6)の割合が増えるといわれている。
しかし、現在においても、これらキチンを含む茸の骨格成分は化学的に安定で水や希薄な酸又はアルカリ、有機溶媒には溶けないので、有効利用はほとんどなされていない。その理由の一つが、茸に含まれるキチンがほとんど全ての溶媒に不溶で、生理学的にも不活性で、健康食品や医薬としての有用性がほとんど期待されないことにあった。
茸由来の糖類としては、熱水抽出された椎茸の水溶性成分であるβグルカンに免疫増強作用があることが見出され、免疫増強剤として開発されてきた。また、アガリクスビスポラスに化学の光が当てられたのも最近のことで、リコム社により初めてその熱水抽出物に消臭作用があることが見出され、消臭剤として商品化されている。
その他大部分の茸は、現在においても、カワラタケ、マンネンタケ、レイシ、ブラジル産の“アガリクス”など、そのままの姿で、あるいは極く単純にその熱水抽出物およびその凍結乾燥品が健康食品として供されているにすぎない。
【非特許文献1】 Gamayurova et al.Synthesis of soluble derivatives of chitin−glucan complex.Chemistry and Computational Simulation.Butlerov Communicatios,1999;No.1.
【非特許文献2】 Shabrukova et al.Study of the nature of chitin−glucan complex.Chemistry and Computational Simulation.Butlerov Communicatios,2001;No.4.
【非特許文献3】 Shida,et al.Structure of the alkali−insoluble skeltal glucan of Lentinus edodes.J−Biochem−Tokyo.1981;90(4):1093−1100.
【非特許文献4】 Hartland et al.The linkage of(1−3)−beta−glucan to chitin during cell wall assembry in Saccharomyces cerevisiae.Yeast.1994;10(12):1591−1599.
【発明の開示】
本発明の目的は、新規なキトサン含有多糖を提供することである。
本発明の他の目的は、上記キトサン含有多糖の製造方法を提供することであり、特に、マッシュルーム(アガリクスビスポラス)や椎茸をはじめとする広く食用に供されている安全な茸キチンからキトサン含有多糖を効率よく大量に製造する方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記キトサン含有多糖の用途、特にこれを含有する医薬品、食品を提供することである。
本発明は、以下のとおりである。
1.下記の特性を有するキトサン含有多糖。
(1)構成糖:グルコサミンとグルコースから構成され、その構成モル比が1〜5:5〜1である。
(2)分子量:オストワルド型粘度計により測定した分子量は約5万〜約40万である。また、ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定した分子量は約4万〜約20万である。
(3)構成単位:キトサン部分とグルカン部分から主として構成されている。
(4)結合の種類:β(1→4)結合及びβ(1→6)結合を含むが、β(1→3)結合を含まない。
(5)酵素による分解性:キトサナーゼによりオリゴ糖に分解されるが、セルラーゼにより分解されない。
(6)蛋白質及び還元性多糖:蛋白質及び還元性多糖を含まない。
(7)呈色反応:ヨウ素−澱粉反応に陰性である。
(8)物質の色:無色(白色)である。
(9)溶解性:5〜10質量%の酢酸、リンゴ酸、又はアスコルビン酸水溶液に溶解するが、水、エタノール、pH10以上のアルカリ性水溶液に溶解しない。
2.グルコースとグルコサミンの構成モル比が1:1である上記1記載のキトサン含有多糖。
3.キトサン含有量が18〜72%である上記1又は2記載のキトサン含有多糖。
4.キトサン部分が、グルコサミンのホモポリマーである上記1〜3のいずれか1項記載のキトサン含有多糖。
5.グルカン部分が、グルコースのホモポリマーである上記1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖。
6.茸を25〜50質量%の苛性アルカリ水溶液中、加熱処理した後、固液分離し、得られた固形分を有機酸水溶液に溶解し、これにアルコールを加えるか、又はpH10以上となるように苛性アルカリを加えて沈殿を生じさせ、この沈殿を洗浄、乾燥することを特徴とする上記1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖の製造方法。
7.苛性アルカリ水溶液中の加熱処理の前に、茸をセルラーゼ又はグルカナーゼにより予備処理することを特徴とする上記6記載のキトサン含有多糖の製造方法。
8.茸が、アガリクスビスポラスである上記6又は7記載のキトサン含有多糖の製造方法。
9.茸を25〜50質量%の苛性アルカリ水溶液中、加熱処理した後、粘度を3〜20mPa・sに調整した後、固液分離し、得られた固形分を洗浄、乾燥することを特徴とする上記1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖の製造方法。
10.苛性アルカリ水溶液中、加熱処理した後、水又は酸を加えて粘度を3〜20mPa・sに調整する上記9記載のキトサン含有多糖の製造方法。
11.上記1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖を有効成分として含む医薬組成物。
12.生活習慣病の治療又は予防のための上記10記載の医薬組成物。
13.上記1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖を有効成分として含む食品。
本発明のキトサン含有多糖は、カニキトサンにみられる不純物の蛋白質や含硫アミノ化合物等のアレルギー物質を含まないために、新規の機能性食品材料として有用である。甲殻類、例えば、カニを出発原料とするカニキトサンには、カニ特有の異臭や不快なえぐみがあるが、本発明のキトサン含有多糖には、茸を原料とした場合には茸特有の好ましい香りが含まれており、異臭や不快なえぐみは全くない。その上、本発明のキトサン含有多糖には、グルコサミン以外に50%くらいの多糖類が含まれており、カニキトサンには見られない新たな生理活性が存在している可能性も期待される。
さらにキトサン含有多糖が有利なのは、エビ、カニなどの甲殻類から分離されるキトサンと異なり、その構成糖類がほとんどグルコースからなる多糖類・グルカンであることにある。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
我々は、リコム社で健康食品として供されているアガリクスビスポラス由来のシャンピニオンエキスの成分として、有機酸に可溶でアルカリに不溶な成分のあることに着目し、この物質の分析を試みたところ、キトサンによく似た性質を持つ多糖類が存在することを発見し、鋭意研究の結果、アガリクスビスポラスからキトサンを大量に抽出することに成功した。アガリクスビスポラスより抽出したキトサンは、基本的な性質において甲殻類から抽出されたカニキトサンに類似しているが、グルカン様多糖類を含有する点において、グルコサミンのみから構成される単純なホモポリマーであるカニキトサンとはその成分を異にする新規物質であることがわかった。
以下この明細書において、この新規物質を「キトサン含有多糖」と呼ぶことにする。
キトサンは歴史的には前述したように「mushroom」について発見されたのであるが、その後の研究はもっぱら甲殻類を主として研究が進められ、キトサンといえばカニキトサンを指すものといってもよい。さらにキトサンの定義としては、カニキトサンの場合は、N−アセチルグルコサミンがほぼ100%よりなる単純ポリマーなので、そのアセチル基が80%以上脱アセチル化されたものとされている。しかし、本来のキトサンの定義は、前述した如く、希薄なアルカリに不溶で、希薄な有機酸に可溶な多糖を意味するものである。この定義に従えば、茸のキトサン含有多糖は立派にキトサンのファミリーであるといえよう。
本発明の新規なキトサン含有多糖は広く食用に供されているほとんどの茸類から製造することが出来る。キトサン含有多糖は天然にも微量存在しているが、その大部分がグルカンと強固に結合したキチン質としてしか存在せず、我々が開発した方法により、初めてその全容が明らかとなったものである。
本発明のキトサン含有多糖の製造法を以下詳細に説明する。
本発明のキトサン含有多糖を製造するための原料は、キチン含有多糖を含有するものであれば特に限定されないが、得られたキトサン含有多糖が不快臭や異臭が少ないという観点から植物性の材料が好ましく、特に茸が好ましい。茸の中で好ましいものとしては、アガリクスビスポラス、椎茸、エノキダケ、しめじ、舞茸、なめこ等が挙げられ、特に好ましいものとしては、アガリクスビスポラス、椎茸、エノキダケ、しめじ等が挙げられる。
原料として茸を使用する場合、生鮮物でも乾燥物でも良いが、通常は石突きを除去し、水洗して泥土等の付着物を完全に除去する。ここで良く洗浄しないと不純物が最終製品まで残ってしまう。これを必要によりミキサーやスライサーにかけて粉砕又はスライスした後、高濃度の苛性アルカリ水溶液、好ましくは25〜50質量%の苛性アルカリ水溶液中で、加熱処理する。苛性アルカリとしては苛性ソーダ、苛性カリが好ましい。原料の100質量部(乾燥質量)に対して苛性アルカリ水溶液を好ましくは40〜50質量部加え、好ましくは90〜120℃で0.2〜30時間、さらに好ましくは100〜110℃で1〜10時間加熱処理を行う。
なお、本発明では濃苛性アルカリ水溶液を使用するため、反応容器は、磁器もしくは硬質ガラス製のものを使用することが好ましい。加熱処理は常圧でも減圧又は加圧状態でもよいが通常は常圧で充分である。
また、加熱処理の前に、セルラーゼ、グルカナーゼ、プロテアーゼ等による酵素処理や、冷凍解凍処理を行っても良い。酵素処理は、水に前記酵素を好ましくは0.01〜0.1質量%添加して25℃〜40℃において、2〜24時間行えばよい。酵素処理により、細胞壁あるいは蛋白質が分解され、キトサン含有多糖の製造が容易になる。また、冷凍した後、解凍させると、組織(細胞壁)が破壊されキトサン含有多糖の製造が容易になる。特に、冷凍解凍処理、スライスによる断片化、またはミキサーによる粉砕などの前処理を行うと、茸の繊維質がほぐされ、酵素処理(セルラーゼ処理等)の効率が良くなる。
例えば、前処理をした茸10kgを純水20Lに懸濁し、セルラーゼを6g〜60gくらい加えて、40℃に2時間、60℃に2時間、さらに温度を上げて沸騰するまで加熱する。上記セルラーゼとしては、例えば、Aspergillus niger由来のもの、Bacillus属由来のもの(アルカリ性セルラーゼ)、Tricoderma reesei由来のもの、Anthrobacter由来のもの等が挙げられる。
荒熱を取ってから苛性ソーダまたは苛性カリを最終濃度が50質量%程度になるように加える。このとき、温度が100℃以上に上昇するが、そのまま約2〜4時間くらい加熱を続ける。加熱が終了したら反応容器にそのまま蓋をして一夜放冷する。蓋はアルカリが空気中の炭酸ガスを吸収して劣化しないようにするために必要である。この加熱処理により、キチン含有多糖のアミノ基が脱アセチル化され、キトサン含有多糖が生成する。
アルカリ処理液の上部表面に生成したキトサン含有多糖の層をステンレスの金網(100メッシュ)で、すくい取る。さらにデカントして底部に生成した沈殿も回収する。残りのアルカリ液は、そのまま再度次回のアルカリ処理に使用することが可能である。
得られた混合物を遠心分離、ろ過、デカント等の手段により、固液分離する。得られた固形分はキトサン含有多糖を主成分とするものである。具体的には、固形分すなわち粗製キトサン含有多糖を約2〜10倍量の純水に懸濁し、さらし布等に移し、純水で洗液がほぼ中性になるまでよく洗う。このとき純水を用いることが肝要である。なぜならばここで得られた粗製キトサン含有多糖は水道水などから金属イオンなどの不純物を極めて効率よく吸着するからである。またこのときに洗浄処理を素早く行わないと粘度が高くなり、後の処理工程が困難になる。粘性が上がりすぎたときにはエタノールなどの有機溶媒で処理するのが効果的である。この処理で濾過が容易になる。
次に、水洗した粗製キトサン含有多糖を有機酸水溶液に溶解する。有機酸としては、酢酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられる。有機酸の濃度は好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは5〜10質量%が適当である。溶解は、5〜40℃、0.1〜48時間、通常は室温で一夜放置すれば良い。キトサン含有多糖は高分子なので、溶解に十分な時間が必要なためである。キトサン含有多糖を溶解した溶液から遠心分離、濾過、デカント等により不溶物を除去する。溶液の粘性が高いため、濾過、デカントにはかなりの時間を必要とするので遠心分離が好ましい。
得られた清明なキトサン含有多糖溶液にアルコール(例えば、エタノール、メタノール)、アセトン、又は苛性アルカリ(例えば、苛性ソーダ)を加えてキトサン含有多糖を沈殿させ、回収する。例えば、キトサン含有多糖溶液100質量部に対して苛性ソーダを0.01〜0.5質量部加えると、キトサン含有多糖が沈殿する。これを、遠心分離等により固液分離して純キトサン含有多糖を回収する。エタノール沈殿は濾過が比較的容易なので操作が容易であるが、大量の溶媒を必要とする。キトサン含有多糖の溶液に対して少なくとも2〜3倍容のエタノールが必要である。さらにアルコールで調製したキトサン含有多糖は潮解性が高い傾向がある。また、アセトンやメタノールの使用はキトサンを食品や医薬品、化粧品などに用いる場合には溶媒としては好ましくない。
したがって通常の固液分離工程ではアルカリによる沈殿操作が好ましい。本処理工程を繰り返すことにより不純物を除去することが出来るが、キトサン含有多糖は不純物の吸着力が高いので必要以上に処理を複雑にしない方が好ましい。
一方、大量にキトサン含有多糖を得る場合には、固液分離の手段として、濃アルカリ液の大量遠心分離は危険であり、またかなりの困難を伴う。このような場合には、以下に述べるような「遠心分離を用いない方法」を利用することが望ましい。
すなわち、良く洗浄し、1〜3mm厚にスライスしたマッシュルーム、スライスした椎茸、半切りにしたエノキ、乾燥アガリクスを水に戻したもの等に、アルカリ、例えば、苛性ソーダを最終濃度で40〜60質量%、例えば、50質量%になるように加える。アルカリが良く溶けるように必要に応じて極少量の蒸留水を加えてもよい。80〜120℃で3〜30時間、例えば、110℃以上で、2時間以上、加熱して放冷する。これに必要に応じて等量以上、好ましくは3〜4倍量の蒸留水、もしくは10〜20質量%の無機酸(例えば、塩酸、硫酸)または有機酸(例えば、酢酸、アスコルビン酸、乳酸)を加えて、粘度を3〜20mPa・s、好ましくは5〜10mPa・sに調整する。この状態で一夜静置し、必要に応じてpHを9〜6.5、好ましくは7になるように調整する。次いで、フィルター、例えば、ステンレス製、さらし布製又はチーズクロス製のフィルターで濾過する。
ここで粘性が高くなると、以後の濾過処理工程が困難になるので、粘度があがらないように蒸留水や無機・有機酸の加え方を調整することが肝要である。そのためには試料の一部を用いて予備テストを行ったほうが良い。無機酸又は有機酸を加える場合はpHが9〜6.5、好ましくは7になるように加える。
得られた固形分を蒸留水に再懸濁し、軽く撹拌しながらpHが9〜6.5、好ましくは常に7になるように調整する。再度、濾過またはデカントして蒸留水を加えて塩分濃度とpHが十分に低下するまで上記操作を繰り返す。最後にチーズクロスで濾過し、圧力をかけて脱水し、固形分を凍結乾燥して乾燥品とする。
得られた粗製キトサン含有多糖からキトサン含有多糖を得るのは、操作する量も、アルカリ度も低いので、通常の「遠心分離を用いる方法」が使用できる。すなわち、粗製キトサン含有多糖を5〜10%酢酸に溶解して、十分に撹拌してから遠心分離し、その上清をアルカリで中和して、再度遠心分離し、得られたキトサン分画・沈澱部を水洗いし、さらし布もしくはチーズクロスで濾過、圧搾して水分を少なくしてから凍結乾燥して精製キトサン含有多糖を得る。
本発明のキトサン含有多糖中のキトサン含有量は製造条件によって変わるが通常は5〜80質量%、特に15〜75質量%の範囲にある。
キトサン含有多糖中のキトサンの含有量は、以下の方法により行う。
キトサン含有多糖粉末0.5gを正確に秤量し、これを5容量%酢酸に溶かして正確に100gとする。この溶液1gを200ml容の三角フラスコに正確にはかりとり、脱イオン水30mlを加え、充分攪拌混合する。指示薬として0.1%トルイジンブルー溶液2〜3滴を加え、N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液[COSK)、n=1500以上]で滴定する。脱アセチル化度(すなわちキトサン含有量=グルコサミン含有量)は下記の式に従って求める。
脱アセチル化度=(X/161)/[(X/161)+(Y/203)]×100(%)
X=(1/400)×(1/1000)×f×161×ν
Y=0.5×(1/100)−X
ν=N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液滴定値(ml)
f=N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液のファクター
ファクターfは1.005である。
式を書き直すと
脱アセチル化度=[203X/(203X+161Y)]×100(%)
X=1.005×161×ν(滴定値;ml)
Y=5−X
精製キトサン含有多糖は、必要に応じて上記の希薄な有機酸、例えば1〜5%の酢酸、リンゴ酸、アスコルビン酸などに再溶解してアルカリによる中和沈殿処理を繰り返すことによりさらに精製することが出来る。しかし通常は1回で十分である。可溶性の精製キトサン含有多糖を希薄な有機酸に溶解したままスプレードライもしくは凍結乾燥することにより、白色粉末とすることが出来る。この可溶性キトサン含有多糖は純水に瞬時に溶解する。アルカリ沈殿処理により得られた純キトサン含有多糖は、そのまま凍結乾燥する。このものは純水には溶けないので、希薄な有機酸、例えば、アスコルビン酸もしくはリンゴ酸に溶解してから使用することが出来る。塩酸には溶けにくい。
キトサン含有多糖を用いた医薬品又は食品
本発明のキトサン含有多糖は、血圧、尿糖値、血糖値、尿酸値、総コレステロール値、中性脂肪値等の低下作用を有する。従って、本発明のキトサン含有多糖は、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病、成人病の検査数値改善に大いに効果があり、医薬品又は食品の形態で使用するのに好適である。
本発明のキトサン含有多糖を液剤の形態で使用するには、キトサン含有多糖に、安息香酸ナトリウム、p−オキシ安息香酸メチル、デヒドロ酢酸ナトリウムなどの保存剤、リンゴ酸、アスコルビン酸、クエン酸、酢酸などの溶解補助剤、さらに着色剤、香料、風味剤、グルコース、マンニトールなどの甘味剤などを必要に応じて配合し、さらに蒸留水、生理食塩水などの希釈剤を必要に応じて加えて医薬品又は食品を調製する。
キトサン含有多糖を有効成分とする医薬品は、通常、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、座剤等の固形製剤の形態に調製する。その際、これらの医薬製剤は、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの稀釈剤又は賦形剤を用いて調製される。
錠剤の形態に形成するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えば乳糖、マンニトール、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、澱粉、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロースなどの賦形剤、蒸留水、生理食塩水、単シロップ、ブドウ糖液、澱粉液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、乾燥澱粉、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、澱粉、乳糖などの崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤、酢酸、アスコルビン酸、リンゴ酸などの溶解吸収促進剤、グリセリン、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状硅酸などの吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などがあげられる。さらに錠剤は、必要に応じて糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
丸剤の形態に成形するに際しては、担体としてこの分野で従来公知のものを広く使用でき、例えばブドウ糖、乳糖、マンニトール、澱粉、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤、アラビアゴム末、ゼラチンなどの崩壊剤などが挙げられる。座剤の形態に成形するに際しては、担体として従来公知のものを広く使用でき、例えばカカオ脂、高級アルコールのエステル類、ゼラチンなどが挙げられる。
有効成分として使用するキトサン含有多糖の含有量は特に限定されず広範囲に選択されるが、通常製剤中に1〜90質量%、好ましくは10〜70%質量で含有させるのがよい。
投与量は特に限定されないが、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度などの条件に応じて適宜選択すればよく、体重1kgに対してキトサン含有多糖が0.1〜10mg、好ましくは0.5〜5mgとなる量を一日1〜4回に分けて経口投与する。キトサン含有多糖の含有量が多いと、これが鉄分やビタミンを吸収、包接するために鉄分やビタミンの欠乏症になることがあるが、上記範囲の投与量であればキトサン含有多糖の含有量が比較的低いので、鉄分やビタミンを補う必要はない。
本発明のキトサン含有多糖を含有する食品は特に限定されないが、例えば、スープ、味噌汁、ドリンク、ゼリー、グミ等が挙げられる。これら食品中のキトサン含有多糖の含有量は、好ましくは0.01〜5.0質量%、さらに好ましくは0.02〜1.0質量%、最も好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【実施例】
以下、本発明のキトサン含有多糖の製造法、キトサン含有多糖の生化学的性質を実施例により詳細に説明する。
製造例1(茸キチンの製造)
アガリクスビスポラスの土の付いた石突きを切り落とし、秤量し440gを得た。これに、1%リンゴ酸、0.1%アスコルビン酸を含む水溶液900mlを加え、2回に分けて、ミキサーで30秒間ブレンドした。これを湯煎(100℃)でときどきかき混ぜながら120分間保温した。上記懸濁液の温度は70℃くらいから85℃くらいになった。次いでこの懸濁液を2〜3時間かけてゆっくり吸引濾過した。ロ紙に残ったものをスパーテルでかき取り、残りは純水で洗浄しながら回収した。容量で約600mlの粗キチン懸濁液を得た。これにN−NaOHを600ml加え、60℃で20分間、湯煎加熱して吸引濾過した。同じ濾紙上で、純水、エタノールで洗浄した。
濾紙上に残った粗キチン含有多糖を純水1000mlに懸濁し、この茸キチン含有多糖懸濁液をN−HClで中和し、4500rpmで遠心分離した。沈殿部分の茸キチン分画を、99%エタノールに懸濁し、約1000mlくらいにしてから濾紙を2枚重ねとし、濾過した。エタノール約500mlで洗い、完全に吸引した。精製キチン含有多糖分画の湿質量は約53gであった。これをシリカゲルを敷き詰めたデシケーターに入れて、減圧乾燥して精製キチン含有多糖5.54gを得た。
生鮮アガリクスビスポラス100gあたりの乾燥・精製キチン含有多糖の収量は、1.260gとなる。乾燥したキチン含有多糖の性状は、煎餅状であり、ピンセットで簡単にほぐし、割ることができる。
製造例2(茸キチン含有多糖からキトサン含有多糖の製造)
製造例1で製造したアガリクスビスポラスの乾燥した精製キチン含有多糖4.99gに50%NaOH水溶液200mlを加えて懸濁した。90℃で2時間ときどき撹拌しながら加熱処理を行った。遠心分離(4500rpm、15分、4℃;遠心分離の条件は以下同じ)して、固形分を回収した。この固形分の主成分はキトサン含有多糖である。
これに10%酢酸水溶液1000mlを加えてホモジナイズし、そのまま一夜室温に静置し、キトサン含有多糖を溶解させた。溶液はかなり粘稠である。再度、遠心分離して上清画分を回収した。沈殿画分は、再度10%酢酸水溶液に再溶解しキトサン含有多糖を抽出して上清に加えた。合わせた上清をpH10に調整した。遠心分離し、沈殿画分に純水を1000ml加えて懸濁し、遠心分離し、この操作を3回繰り返した。一回目の洗浄ではpH10、2回目の洗浄でpHは7.5、3回目の洗浄で最終的にpHは約6.5になった。
沈殿を濾紙の上に移して25℃で40時間の減圧乾燥を行った。
全体で1050mg、グルコサミンの含有量が55%のキトサン含有多糖が得られた。
キチン含有多糖1gあたりのキトサン含有多糖の収量は、210mgである。
このキトサン含有多糖を以下の条件で加水分解し、加水分解物を以下の薄層クロマトグラフィー条件で分析したところ、グルコサミンとグルコースがほぼ3:1の割合で検出された。これ以外の単糖類及びガラクトサミンは検出されなかった。薄層クロマトグラフィーにより分析されたグルコサミンの量がポリビニル硫酸法による分析値より高い理由としては、4M−HCl中、100℃の加水分解条件において、グルコサミンに比べてグルコースの生成量が少ないか、さらに加水分解を受けてしまうことなどが考えられる。
キトサン含有多糖の加水分解条件:
4M−HCl中、100℃で3時間
加水分解物の薄層クロマトグラフィー条件:
担体:Whatman 4860−820(厚さ250μm)
展開溶媒:n−ブタノール/ピリジン/0.1M−HCl(5:3:2)
室温で約2時間展開
発色試薬:ジフェニルアミン/アニリン/リン酸
製造例3(スライスしたアガリクスビスポラスからのキトサン含有多糖の製造)
アガリクスビスポラスの土の付いた石突き部分を切り落とし、秤量し546gを得た。これを包丁またはフードプロセッサーで約1mm厚にスライス処理した。1000mlビーカー2個にそれぞれ270gのスライスを入れて、固体のNaOHを270gずつ加えた。15分間ほど静置すると、アガリクスビスポラスがアルカリになじんで容量が減少した。ビーカーを1つにまとめて湯煎で加熱した。撹拌しながら約2時間90℃〜95℃に加熱したのち、室温まで放冷した。
浮いている茸(主成分はキトサン含有多糖である)をアク取り杓文字で注意深く掬い取り、80%エタノールで3回洗った。600〜800mlくらいのエタノールを用いて、10分間くらい軽く撹拌しながら洗った。さらに純水1000mlで2回洗い、酢酸25mlを加えてpHが中性になっているのを確認し、さらに1/10容量の酢酸を加えて室温に一夜放置し、キトサン含有多糖を溶解させた。チーズクロスで濾過し、濾過液を50%NaOHで中和し、キトサン含有多糖を沈澱させた。
生じた沈殿を遠心分離し、酢酸に溶解して4℃に2昼夜(64時間)保存し、キトサン含有多糖を溶解させた。キトサン含有多糖の酢酸溶液(10%酢酸600ml)を遠心分離して上清(pH4.48)を回収した。沈殿分画を10%酢酸(pHは2.18)500mlで再抽出して上清に加えた。上清をまとめて中和(pH10)し、生じたキトサン含有多糖の沈殿を遠心分離して回収した。これを10%酢酸500mlに溶解し、遠心分離し、上清を回収した。再度50%NaOHを加えて中和し、生じた沈殿を遠心分離して回収した。
沈殿に水500mlを加えて懸濁し遠心分離する、という操作を2回行った。褐色の沈殿が得られた。この沈殿をドライアイス/アセトンで凍結して凍結乾燥した。凍結乾燥後の収量は、2702mgであった。キトサン含有多糖中のグルコサミン含有量は19.6%、生鮮茸100gあたりのキトサン含有多糖の収量は495mgであった。
製造例4及び5(オートクレーブ処理とリンゴ酸の添加効果)
生鮮アガリクスビスポラスを石突きを除いて水洗い後、ミキサーで30秒間粉砕した。これを二つに分けて、一つには純水200mlを、もう一つには5%リンゴ酸水溶液200mlを加え、120℃で30分間オートクレーブ処理した後、一昼夜放置した。ガーゼでろ過してから純水に懸濁し200mlとした。
それぞれにNaOH200gを加え、オートクレーブで120℃、30分間、加熱処理を行った。それぞれに純水約200mlを加えて遠心分離した。キトサン含有多糖の沈殿を回収して10%酢酸に溶かした。この溶液を遠心分離して得られた上清を、25%NaOHで中和し、生じたキトサン含有多糖の沈殿を遠心分離した。得られたキトサン含有多糖の沈殿をさらに遠心分離法により純水500mlで3回洗った。純水洗浄を3回行うとpHは約7.5くらいまで低下した。
凍結乾燥し収量とグルコサミンの含有量を測定した。収量はそれぞれ643mg及び713mg、グルコサミンの含有量はそれぞれ71.3%及び37.6%であった。
またグルコサミンの含有量は純水処理でオートクレーブにかけたものが最も高い数値を与えた。
製造例6(セルラーゼ前処理をともなうキトサン含有多糖の製造)
この例では、新鮮なアガリクスビスポラスを原料として、セルラーゼ、濃アルカリ加熱処理を行い、希薄な有機酸に可溶で、アルカリに不溶なキトサン含有多糖を得た。これを凍結乾燥し、粉末約11gを得た。以下、詳細に説明する。
アガリクスビスポラス3.2kgを素早く水洗いし、付着している泥土を完全に除去した。次に、1mm厚にスライスした。このスライスを純水5600mlに懸濁し、セルラーゼ(Aspergillus niger由来のもの、食品用)を12g加えて、40℃に2時間、60℃に2時間、さらに温度を上げて沸騰するまで加熱した。
荒熱を取ってから苛性ソーダを最終濃度が50%になるように加えた。このとき温度が110℃まで上昇したが、そのまま約3時間加熱を続けた。加熱終了後、そのまま蓋をして3日間静置した。次いでアルカリ処理液の上部表面に出来たキトサン含有多糖層をステンレスの金網(100メッシュ)ですくい取った。さらにデカントして底部に生成したキトサン含有多糖の沈殿も回収した。
得られた粗製キトサン含有多糖15gを約300倍量の純水に懸濁し、さらし布に移し、純水で洗液がほぼ中性になるまでよく洗った。洗浄した粗製キトサン含有多糖を10%酢酸にゆっくり1〜2時間かけて溶解した。キトサン含有多糖を溶解した溶液から遠心分離によって不溶物を除去した。得られた清明なキトサン含有多糖の溶液3500mlに10N−NaOH約500mlを加えてキトサン含有多糖を沈殿させ、回収した。沈澱を純水3Lで洗浄し、遠心分離した。得られた精製キトサン含有多糖を凍結乾燥することにより、灰白色粉末10.8gを得た。
表1にキトサン含有多糖製造例2〜6の結果を示す。

(注1)後述するようにこのグルコサミンの含有量(%)という測定値は、キトサン含有多糖の場合には、キトサン含有量そのものを反映していると考えられる。
製造例7(遠心分離を使用しない「粗製キトサン含有多糖」の製造法)
良く洗浄し、1〜3mm厚にスライスしたマッシュルーム、スライスした椎茸、半切りにしたエノキ、乾燥アガリクスを水に戻したものを生換算で各120kgになるように混合し、これに約500kgのNaOHを最終濃度で50%になるように加えた。NaOHが良く溶けるように、100kgの蒸留水を加えた。90〜110℃に、2時間以上、加熱して一夜放冷した。これに5倍量の20質量%クエン酸を加えて、この状態で一夜静置した。pHは8.0であった。翌日、チーズクロス製のフィルターで濾過した。
得られた固形分を蒸留水1000Lに再懸濁し、軽く撹拌しながらpHが常に7になるように調整した。再度、濾過して蒸留水を加えて塩分濃度とpHが十分に低下するまで上記操作を3回繰り返した。最後にチーズクロスで濾過し、圧力をかけて脱水し、固形分を凍結乾燥し約5.6kgの乾燥品を得た。粗製キトサン含有多糖の回収率は、原料を480kgとして、1.2%であった。
粗製キトサン含有多糖5.6kgを10質量%酢酸100Lに溶解して、十分に撹拌してから遠心分離し、その上清を苛性ソーダで中和して、遠心分離し、得られたキトサン分画・沈澱部を水洗いし、チーズクロスで濾過、圧搾して水分を少なくしてから凍結乾燥してキトサン含有多糖1.2kgを得た。
キトサン含有多糖の回収率は原材料に対して0.25%、また粗製キトサン含有多糖の中には20%以上のキトサン含有多糖が含まれていたことになる。
製造例8
製造例7において、アルカリ加熱処理後、5倍量の20質量%クエン酸の代わりに20質量%乳酸2000Lを加えて、この状態で一夜静置したほかは同様の操作を行った。同様の結果が得られた。
製造例9
製造例7において、アルカリ加熱処理後、5倍量の20質量%クエン酸の代わりに20質量%酢酸2000Lを加えて、この状態で一夜静置したほかは同様の操作を行った。同様の結果が得られた。
製剤例1(キトサン含有多糖を含む錠剤)
製造例6で製造したキトサン含有多糖10gに、リンゴ酸10g、アスコルビン酸10gを加えて1000mlの水に溶解し、凍結乾燥して水溶性キトサンを製造した。このものは純水に瞬時に溶解する特性を有する。この凍結乾燥物10gにマンニトール20g、乳糖50g、ポリデキストロース20gを加えて良く混合し、結着剤としてショ糖脂肪酸エステル2gを加えて錠剤を作った。
この錠剤は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、成人病の患者の血圧、尿糖値、血糖値、尿酸値、総コレステロール値、中性脂肪値等の低下作用を有する。
実施例1(精製キトサン含有多糖の成分解析)
製造例6で製造したキトサン含有多糖について以下の分析を行った。
ビューレット法により蛋白質の存在を、アントロン硫酸法により還元多糖の存在を確認したが、蛋白質及び還元多糖はいずれも検出されなかった。
ヨウ素−澱粉反応は陰性であったが、キトサンに固有の茶褐色の呈色がわずかに認められた。
ポリビニル硫酸法及びエルソン・モルガン法によりキトサン含有多糖中のグルコサミン含有量を定量した。近似した測定値を与えた。
β(1→3)グルカンの分析を行ったが、検出限界以下であった。
なお、製造例6において苛性ソーダの代わりにエタノールを使用して沈澱させたキトサン含有多糖は、かなりの潮解性もしくは吸湿性を有する。
製造例1のようにミキサーで粉砕処理した場合、多糖の部分が物理的に削られて短くなり、キトサン部分の量が増え、一方、製造例3のようにスライス処理した場合には多糖の部分が多く、より自然の状態に近い(すなわちキトサン部分の量の多い)キトサン含有多糖が得られるようである。
実施例2(市場でよく見られる茸類中のキトサン含有多糖)
製造例2の方法により、市場で見られる各種の茸を処理してキトサン含有多糖を得た。生鮮茸100gあたりのキトサン含有多糖の含有量(mg)、キトサン含有多糖中のグルコサミンの含有量(質量%)及びキトサン含有多糖の分子量を表2に示す。分子量は、キトサン含有多糖を5%酢酸に溶解して室温に一昼夜静置したもの(キトサン含有多糖濃度0.05%)について、オストワルド型粘度計(柴田2630−1)を用いて測定したものである。ここで分子量は、下記式を用いて計算した。
LogM=(log(1/C*ln(ηrel))+3.05/0.71
ここで、[ηrel]は実験結果から求められた相対粘度である。

(注2)茸は生鮮で約90%の水分を含む。乾物ではこの10倍量のキトサンが得られる。舞茸やなめこから、ほとんどキトサン含有多糖が得られなかったのは、もともとキチン質が少ないためであると考えられる。この実験の結果、エノキ茸、アガリクスビスポラス及び椎茸が、原料の価格や入手も容易で、本発明のキトサン含有多糖の製造原料として適していることがわかる。
実施例3(キトサン含有多糖の成分の解析)
製造例3で製造したキトサン含有多糖及び市販のカニキトサンを、4M−HClで100℃、3時間加熱することにより加水分解を行った。この加水分解物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(Whatman)で展開した。
展開溶剤:ブタノール/プロパノール/塩酸
糖類の発色にはアニリン試薬を用いた。
(Ghebregzabher,M.,Rufini,S.,Sapia,G.M.and Lato.M.1979;J.Chromatography,180,1.及びZweig,G.and Sherma,J.(eds.)1972;CRC Handbook of Chromatography,Vol.1.参照)
対照には、グルコース、ガラクトース、ガラクトサミン、グルコサミン及びN−アセチルグルコサミンを用い、本発明のキトサン含有多糖及びカニキトサンの酸加水分解物を同時に展開した。
カニキトサンの酸加水分解物は、グルコサミンとそのダイマーのスポットを与え、キトサン含有多糖の酸加水分解物は、カニキトサンの酸加水分解物と同様に、グルコサミンとそのダイマーのスポットの他に、グルコースのスポットを与えた。グルコサミンダイマーの量は、カニキトサンの酸加水分解物及びキトサン含有多糖の酸加水分解物ともに、グルコサミンモノマーの量の約10%であった。
製造例3で製造したキトサン含有多糖はグルコースのモーリッシュ反応による呈色反応が製造例2で製造したキトサン含有多糖よりも強く認められた。この結果はグルコサミンの含有量のデータと良く一致している。
また、加水分解物中にグルコサミンとグルコースからなる二糖の存在が認められないので、キトサン含有多糖はグルコサミンとグルコースのキメラ構造を持っていないかその存在量は極めて少ないことが明らかにされた。また、このようなキメラ構造は生合成過程が極めて複雑であることが予想され、そのような構造が存在する可能性は低いと推定される。
キトサン含有多糖のキトサン部分は、グルコサミンのホモポリマーであって、この部分がキトサン含有多糖の物性を支配している。すなわち、キトサン含有多糖においては、この部分が多糖全体の数%であっても、グルコサミンをほぼ100%含む甲殻類のキトサンと同じように、希薄な有機酸に可溶で、アルカリに不溶であるというキトサンとして定義された性質を具備する。このことは、キトサン含有多糖のグルカン部分の親水性が高く、希薄な有機酸に対する溶解性をキトサン部分が担っているためであると考えられる。
実施例4(キトサン含有多糖の分子量及び吸収スペクトル)
製造例3及び6で製造したキトサン含有多糖の分子量は測定条件により変わるが、結果は次のとおりであった。
なお、オストワルド型粘度計を用いた測定は2回行ったものである。

ゲル濾過クロマトグラフィーのゲル担体はセルロファインGCL2000m(生化学工業社製商品名)、溶媒は10%酢酸を使用した。分子量のマーカーとしては、フェリチン(44万)、ガンマグロブリン(16万)、ヘモグロビン(6.45万)、卵白アルブミン(4.6万)、チトクロームC(1.25万)を用いた。製造例6のキトサン含有多糖は単一のピークを与えず、5万〜40万に分散し、中心の分子量は約15万であった。カニキトサンは2万から100万に分散し、中心の分子量は40万であった。
一方、オストワルド型粘度計で、溶媒として0.2M酢酸/0.1M NaCl/4M尿素を用いて分子量を求めると、製造例3のキトサン含有多糖は6万〜13万、製造例6のキトサン含有多糖は14万〜28万、カニキトサンは40万〜58万であった。ここで分子量の計算には、Mark−Houwink−桜田の式[η]=K・Mを用いて計算した。ここで、[η]は実験結果から求められた固有粘度であり、Kとaの値として、それぞれ8.93×10−4と0.71を用いた。
製造例2のキトサン含有多糖について濃度2mg/ml(5%酢酸)で紫外可視吸光度を測定した。236〜239nmに小さなピークが認められた。
本発明のキトサン含有多糖のオストワルド型粘度計で測定される分子量は約5万〜約40万であった。
以上の結果は、本発明のキトサン含有多糖のグルカン部分が、複雑な分岐構造を有するグルコースのホモポリマーであることを示唆している。さらにグルカン部分の親水性が高いこと、β(1−3)グルカンが検出されないこと、セルラーゼによって分解されないことなどから、グルカン部分の構造はβ(1−6)の分岐を多く持ったグリコーゲンやアミロペクチンに似た構造をしていることが推定される。
実施例5(キトサン含有多糖の食感テスト)
本発明の製造例2のキトサン含有多糖及び市販のカニキトサンを、10人の男女各5人にそれぞれ50mgずつ試食させた。試食した全ての人が、カニキトサンの方は不快なえぐみを感じたが、本発明のキトサン含有多糖は、良好な食味で不快な味は全くないと回答した。このことは本発明のキトサン含有多糖が食品に添加しても食味をほとんど損なわないことを示している。
実施例6(キトサン含有多糖摂取による健康診査数値の改善効果)
本発明の製剤例1のキトサン含有多糖製剤(100mg/日)を6ヶ月間、ヒト(54歳:男性)に経口投与し、各種の検査項目についてその改善効果を調べた。結果(キトサン含有多糖の経口投与前後における検査数値の変化(54歳:男性))を表4に示す。

本発明のキトサン含有多糖製剤の長期(6ヶ月)経口投与により、尿糖、血糖値、尿酸などの注意項目において改善効果が認められ、数値は正常値に戻っていた。総コレステロール、中性脂肪の低下、さらに血圧の低下作用も顕著である。
本発明のキトサン含有多糖製剤投与中に、生活態度や環境、体重の変化はなく、健康診査数値の改善が認められたことから、本発明のキトサン含有多糖は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、成人病の検査数値改善に大いに効果があるといえる。
【産業上の利用可能性】
本発明のキトサン含有多糖製造技術を応用することにより、これまで大量に捨てられていたキチン質を含む産業廃棄物、例えば、ビール酵母や抗生物質産生後の放線菌などの微生物固形成分や茸抽出物あるいは各種の果実や植物の残渣、穀物の種皮などから、新規な植物性含量由来のキトサン含有多糖を製造することが可能になる。得られた植物性キトサン含有多糖は、医薬や健康食品などの機能性食品としての利用が期待される。もっとも、これらビールやエタノール製造プラントの産業廃棄物はアミノ酸や核酸、蛋白質などを大量に含んでいて、キトサン含有多糖の精製が煩雑になるため、直接キトサン含有多糖の原料とするよりも、茸のコンポストとして実際に利用されているので、茸として再生産し、それからキトサン含有多糖を製造する方が望ましいと考えられる。その方が純度の高い植物性キトサン含有多糖を容易に得ることが可能になるからである。
本発明のキトサン含有多糖の製造方法は、基本的にはキチンを含む全ての穀物や、植物成分に応用可能で、一般的な有用性が極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性を有するキトサン含有多糖。
(1)構成糖:グルコサミンとグルコースから構成され、その構成モル比が1〜5:5〜1である。
(2)分子量:オストワルド型粘度計により測定した分子量は約5万〜約40万である。
(3)構成単位:キトサン部分とグルカン部分から主として構成されている。
(4)結合の種類:β(1→4)結合及びβ(1→6)結合を含むが、β(1→3)結合を含まない。
(5)酵素による分解性:キトサナーゼによりオリゴ糖に分解されるが、セルラーゼにより分解されない。
(6)蛋白質及び還元性多糖:蛋白質及び還元性多糖を含まない。
(7)呈色反応:ヨウ素−澱粉反応に陰性である。
(8)物質の色:無色(白色)である。
(9)溶解性:5〜10質量%の酢酸、リンゴ酸、又はアスコルビン酸水溶液に溶解するが、水、エタノール、pH10以上のアルカリ性水溶液に溶解しない。
【請求項2】
グルコースとグルコサミンの構成モル比が1:1である請求項1記載のキトサン含有多糖。
【請求項3】
キトサン含有量が18〜72%である請求項1又は2記載のキトサン含有多糖。
【請求項4】
キトサン部分が、グルコサミンのホモポリマーである請求項1〜3のいずれか1項記載のキトサン含有多糖。
【請求項5】
グルカン部分が、グルコースのホモポリマーである請求項1〜4のいずれか1項記載のキトサン含有多糖。
【請求項6】
茸を25〜50質量%の苛性アルカリ水溶液中、加熱処理した後、固液分離し、得られた固形分を有機酸水溶液に溶解し、これにアルコールを加えるか、又はpH10以上となるように苛性アルカリを加えて沈殿を生じさせ、この沈殿を洗浄、乾燥することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖の製造方法。
【請求項7】
苛性アルカリ水溶液中の加熱処理の前に、茸をセルラーゼ又はグルカナーゼにより予備処理することを特徴とする請求項6記載のキトサン含有多糖の製造方法。
【請求項8】
茸が、アガリクスビスポラスである請求項6又は7記載のキトサン含有多糖の製造方法。
【請求項9】
茸を25〜50質量%の苛性アルカリ水溶液中、加熱処理した後、粘度を3〜20mPa・sに調整した後、固液分離し、得られた固形分を洗浄、乾燥することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖の製造方法。
【請求項10】
苛性アルカリ水溶液中、加熱処理した後、水又は酸を加えて粘度を3〜20mPa・sに調整する請求項9記載のキトサン含有多糖の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項12】
生活習慣病の治療又は予防のための請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか1項記載のキトサン含有多糖を有効成分として含む食品。

【国際公開番号】WO2004/033502
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542850(P2004−542850)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012920
【国際出願日】平成15年10月8日(2003.10.8)
【出願人】(591163546)株式会社リコム (7)
【Fターム(参考)】