説明

キャビン付き走行車両

【課題】キャビン室内の空気の共鳴周波数と、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数が一致し難いように構成することが容易にでき、キャビン内で共鳴等が起こってこもり音が発生することを防止できるキャビン付き走行車両を実現する。
【解決手段】走行車体3にキャビンブラケット30を備え、キャビンブラケット30の上面側に弾性部材36を介してキャビン8を支持してあるキャビン付き走行車両において、キャビンブラケット30を、走行車体3との固定部材31と、固定部材31から外方側に延出された高剛性部分Aと、高剛性部分Aの外方側の端部から外方側に延出され高剛性部分Aよりも上下方向の剛性の低い低剛性部分Bとを備えて構成するとともに、キャビンブラケット30の外方側の端部に防振ウエイト40を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビンブラケットの上面側に弾性部材を介してキャビンを支持してあるキャビン付き走行車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術しては、例えば特許文献1に開示されているように、伝動ケース(特許文献1の図1の3)から左右両側方に延出されたキャビンブラケット(特許文献1の図1の16F)の上面側に、防振部材(特許文献1の図1の17)を介してキャビンを支持してあるキャビン付き走行車両や、特許文献2に開示されているように、クラッチハウジング(特許文献1の図1の3a)から左右両側方に延出されたキャビンブラケット(特許文献2の図1の21)の上面側に、防振部材(特許文献2の図1の38)を介してキャビンを支持してあるキャビン付き走行車両が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−233688号公報(図1及び図2参照)
【特許文献2】特開2001−163267号公報(図I及び図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている従来のキャビン付き走行車両においては、制振マス(特許文献1の図1の24)を設けて、キャビン室内の空気の共鳴周波数と、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達された振動の振動数が一致し難いように構成することによって、キャビン内で共鳴等が起こってこもり音が発生することを防止している。また、特許文献2に開示されている従来のキャビン付き走行車両においては、防振用のおもり(特許文献2の図1の51)を設けて、キャビン室内の空気の共鳴周波数と、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数が一致し難いように構成することによって、キャビン内で共鳴等が起こってこもり音が発生することを防止している。
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2に開示されている従来のキャビン付き走行車両においては、キャビンブラケットの固定部材からキャビンブラケットの先端部に亘って略一律な高い剛性になるようにキャビンブラケットが構成されており、キャビンブラケットの固有振動数が固定部材から先端部に亘って略一律に高い値になっていた。そのため、制振マスや防振用のおもりを設けても、キャビンブラケット自体の固有振動数が変化しないため、キャビン室内の空気の共鳴周波数と、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数が一致し難いように構成することが困難であるといった問題があった。
本発明は、キャビン室内の空気の共鳴周波数と、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数が一致し難いように構成することが容易にでき、キャビン内で共鳴等が起こってこもり音が発生することを防止できるキャビン付き走行車両を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、走行車体にキャビンブラケットを備え、前記キャビンブラケットの上面側に弾性部材を介してキャビンを支持してあるキャビン付き走行車両において、次のように構成することにある。
前記キャビンブラケットを、前記走行車体との固定部材と、前記固定部材から外方側に延出された高剛性部分と、前記高剛性部分の外方側の端部から外方側に延出され前記高剛性部分よりも上下方向の剛性の低い低剛性部分とを備えて構成するとともに、前記キャビンブラケットの外方側の端部に防振ウエイトを備える。
【0007】
(作用)
本発明の第1特徴によると、上記構成より、高剛性部分によってキャビンブラケットの強度を確保しながら、エンジンや走行による振動を、剛性が低く固有振動数の低い低剛性部分を介してキャビンに伝達することができ、キャビンブラケットの固有振動数を低く抑えることができると考えられる。また、防振ウエイトによってキャビンブラケットの固有振動数を調節することができると考えられる。その結果、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数を低い値に調節することができると考えられる。
【0008】
具体的に説明すると、例えば図6及び図7に示すように、キャビン内の運転者等にとって耳障りな周波数領域(共鳴周波数領域)における振動伝達率の第1ピーク値(I)を、キャビン内の運転者等にとって耳障りでない周波数の低い領域(I−A,I−B)に調節することができると考えられる。その結果、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数(周波数)を低い値に調節することができると考えられる。
【0009】
(発明の効果)
本発明の第1特徴によると、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数を低い値に調節することができると考えられるため、キャビン室内の空気の共鳴周波数と、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数が一致し難いように構成することが容易にでき、キャビン内で共鳴等が起こってこもり音が発生することを防止できる。
【0010】
[II]
(構成)
本発明の第2特徴は、本発明の第1特徴のキャビン付き走行車両において、次のように構成することにある。
前記低剛性部分の外方側の端部から外方側に延出され前記低剛性部分よりも上下方向の剛性の高い補助高剛性部分を、前記キャビンブラケットに備える。
【0011】
(作用)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴によると、上記構成により、高剛性部分と、低剛性部分と、低剛性部分の外方側の端部から延出された剛性が低剛性部分より高く固有振動数が大きい補助高剛性部分とによって、キャビンブラケットの固有振動数に強弱強の3つの強弱を形成することができ、補助高剛性部分によってキャビンブラケットの固有振動数を部分的に変更できると考えられる。その結果、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数を部分的に変更できると考えられる。
【0012】
具体的に説明すると、例えば図6及び図7に示すように、キャビン内の運転者等にとって耳障りでない周波数の低い領域における振動伝達率の第1ピーク値(I−A,I−B)を移動させないで、キャビン内の運転者等にとって耳障りな周波数領域(共鳴周波数領域)における振動伝達率の第2ピーク値(II−A)を、キャビン内の運転者等にとって耳障りでない周波数の高い領域(II−B)に移動することができる。そのため、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数(周波数)を部分的に変更できると考えられる。
【0013】
(発明の効果)
本発明の第2特徴によると、本発明の第1特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第2特徴によると、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数を部分的に変更できると考えられるため、キャビンブラケット及び防振部材を介してキャビンに伝達される振動の振動数を精度よく調節することができ、キャビン内で共鳴等が起こってこもり音が発生することを更に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔トラクタの全体構成〕
図1〜図3に基づいて、本発明に係るキャビンブラケット30を備えた走行車両の一例であるトラクタの全体構成について説明する。図1は、本発明に係るキャビンブラケット30及び防振ウエイト40を備えたトラクタの全体側面図を示し、図2及び図3は、キャビン8の構造及びキャビン8の搭載構造を示す要部の横断平面図及び側面図をそれぞれ示す。
【0015】
図1に示すように、このトラクタは、左右一対の操向操作及び駆動自在な前輪1と、左右一対の駆動自在な後輪2とを走行車体3に備えた四輪駆動仕様に構成されている。走行車体3の前部に、エンジン4等が内装されたボンネット部5を備え、走行車体3の後部に、ステアリングハンドル6、運転座席7等が内装されたキャビン8を備える。
【0016】
エンジン4の下部から前方に前部フレーム10が延出されており、この前部フレーム10に前輪1を装着する車軸ケース等(図示せず)が支持されている。また、エンジン4から後方にクラッチハウジング11が延出されており、このクラッチハウジング11に運転座席7の下方に位置するミッションケース12が連結されて、エンジン4からの動力が後輪2に伝達されるように構成されている。
【0017】
走行車体3の後部に、左右一対のリフトアームにより構成されたリンク機構13及び動力取り出し軸14を備え、リンク機構13にロータリ耕耘装置等(図示せず)を昇降操作自在に連結し、動力取り出し軸14にロータリ耕耘装置等を連動連結することで、ロータリ耕耘装置等の昇降操作及び駆動ができるように構成されている。
【0018】
図1〜図3に示すように、キャビン8は、キャビンフレーム20と、キャビンフレーム20の前面を覆うフロントガラス16と、キャビンフレーム20の両側面の乗降口に設けられた揺動開閉可能なドア17と、このドア17の後部に設けられたサイドガラス18と、キャビンフレーム20の後面を覆うリアガラス19等を備えて構成されている。
【0019】
キャビンフレーム20は、キャビン8を支持する支持フレーム21と、この支持フレーム21に連結された下部フレーム22等を備えて構成されている。下部フレーム22の前端部、後部及び後端部から左右一対の前縦フレーム23、左右一対の中縦フレーム24及び左右一対の後縦フレーム25がそれぞれ上方に延出されており、この前縦フレーム23、中縦フレーム24及び後縦フレーム25が、それぞれ上部フレーム26に連結されている。キャビンフレーム20を構成する各種フレーム類はパイプ材等を溶接成形することによって構成されている。
【0020】
キャビンフレーム20の上部は、樹脂製でブロー成型によって中空状に構成されたルーフパネル27によって上方から覆われており、このルーフパネル27は、シール部材(図示せず)を介して上部フレーム26に固定されている。キャビンフレーム20の下面側には、キャビン8の床を形成するフロアパネル28が連結されており、キャビンフレーム20後方下部の両側部には、後輪フェンダー29が連結されている。キャビンフレーム20の前部には、ステアリングハンドル6等が連結されており、キャビンフレーム20の後部には、運転座席7が支持されている。
【0021】
キャビンフレーム20を構成する左右の前縦フレーム23に亘って、フロントガラス16が固定されており、キャビンフレーム20の前面がこのフロントガラス16で覆われている。キャビンフレーム20を構成する左右の後縦フレーム25に亘ってリアガラス19が取り付けられており、キャビンフレーム20の後面がこのリアガラス19で覆われている。
【0022】
前縦フレーム23と中縦フレーム24とに亘って形成されたキャビンフレーム20両側面の乗降口に、ドア17がその後端部の軸心周りに揺動開閉自在に取り付けられており、中縦フレーム24と後縦フレーム25とに亘ってサイドガラス18が揺動開閉可能に取り付けられている。
【0023】
図2及び図3に示すように、上記のように構成されたキャビン8は、その前部の左右両側部が弾性部材の一例である防振ゴム36を介してクラッチハウジング11から左右両側方に延出されたキャビンブラケット30に支持されており、その後部の左右両側部に位置する支持フレーム21の下端部に固定された支持ブラケット44が、防振ゴム46を介して後車軸ケース47から延出された後部キャビンブラケット45に支持されている。
【0024】
〔キャビンブラケット及び防振ウエイトの詳細構造〕
図4及び図5に基づいて、本発明に係るキャビンブラケット30及び防振ウエイト40の詳細構造について説明する。図4は、キャビンブラケット30付近の縦断背面図を示し、図5は、キャビンブラケット30付近の底面図を示す。なお、図4及び図5においては、キャビン8の左側前部のキャビンブラケット30等を例に示すが、キャビン8の右側前部のキャビンブラケット30等についても左右の勝手が異なる以外の他の構成は同様である。
【0025】
図4及び図5に示すように、キャビンブラケット30は、クラッチハウジング11に固定する固定部材31と、防振ゴム36を介してキャビン8を支持する支持部材32と、キャビンブラケット30の根元部に設けられた補強部材33と、キャビンブラケット30の先端部に設けられた調節部材34とを溶接で一体形成することによって構成されている。
【0026】
固定部材31には、クラッチハウジング11に設けられたナット部11aにキャビンブラケット30を締め付け固定するための取付穴31aが加工されており、固定部材31をキャビンブラケット30に接当させてボルト35を締め付けることで、キャビンブラケット30をクラッチハウジング11に固定できる。
【0027】
支持部材32には、防振ゴム36を取り付けるためのゴム挿入穴32aと、防振ゴム36をキャビンブラケット30に締め付け固定するためのナット部32bと、位置決めピン取付穴32cと、防振ウエイト取付穴32dが加工されている。
【0028】
防振ゴム36は、連結ボルト38を挿入する筒状部材36aと、ゴム製の防振本体36bと、取付穴が加工されたリング状の取付金具36cとを備えて構成されており、円筒状に形成された防振本体36bの下部を支持部材32のゴム挿入穴32aに挿入し、取付金具36cを支持部材32の上面に接当させて支持部材32のナット部32bにボルト39をねじ込んで締め付け固定することで、防振ゴム36をキャビンブラケット30に固定できる。
【0029】
防振ウエイト40は、材質が比重の重たい鉛で、取付穴40aを設けた平板状に成形されている。防振ウエイト40を下方から支持部材32に接当させて、ボルト41で締め付け固定することで、防振ウエイト40をキャビンブラケット30に固定できるように構成されている。
【0030】
なお、防振ウエイト40は、その枚数を変更することで、キャビンブラケット30の先端部の重量を変更調節可能に構成されている。そのため、例えば、キャビン8やエンジン4等の仕様によって振動特性が異なるトラクタであっても、防振ウエイト40の枚数を変更することで振動特性を変更及び微調節できる。
【0031】
補強部材33は、平板状に形成されて、固定部材31と支持部材32とに亘って前後2箇所に固着されている。補強部材33の形状や固定部材31から外方側に延出された長さは、キャビンブラケット30により支持するキャビン8や運転者等の重量、すなわちキャビンブラケット30が支持する荷重や防振ゴム36の防振特性等に対して設定されている。
【0032】
調節部材34は、平板状に形成されて、支持部材32の下面側の前後2箇所に固着されている。調節部材34の左右方向の長さや取り付け位置は、キャビンブラケット30により支持するキャビン8や運転者等の重量、及びエンジン4等からクラッチハウジング11に伝達される振動特性等に基づいて設定されており、調節部材34の形状や長さを変更することにより、例えばキャビン8やエンジン4の仕様が異なるトラクタであっても、異なる振動特性に応じた好適なキャビン支持構造を実現できる。
【0033】
以上のように、キャビンブラケット30の固定部材31から外方側に延出された補強部材33及びこの補強部材33を設けた位置における支持部材32によって高剛性部分Aが構成されており、高剛性部分Aの外方側の端部から外方側に延出された防振ゴム36を支持する支持部材32によって低剛性部分Bが構成されている。また、調節部材34とこの調節部材34を設けた位置における支持部材32によって補助高剛性部分Cが構成されており、補助高剛性部分Cの外方側の端面に隙間を開けずに防振ウエイト40が取り付けられている。
【0034】
図4及び図5に示すように、キャビンフレーム20の下端面を形成するフロアパネル28の下面側には、皿状の連係部材37が固定されており、この連係部材37を防振ゴム36の上面に接当させて防振ゴム36の筒状部材36aに連結ボルト38を挿入し締め付けて固定することで、キャビン8と防振ゴム36を連結することができ、キャビン8を、防振ゴム36を介してキャビンブラケット30に支持できるように構成されている。
【0035】
以上のようにキャビンブラケット30を構成しキャビン8を支持することにより、キャビンブラケット30の補強部材34によって、キャビン8を支持することによるキャビンブラケット30に作用する曲げモーメントに対するキャビンブラケット30の上下方向の曲げ強度を確保しつつ、上下方向の剛性の低い低剛性部分Bを構成することができる。
【0036】
また、支持部材32の位置決めピン取付穴32cに位置決めピン42を固定した状態で、フロアパネル28に設けた位置決め穴28aを位置決めピン42の先端部に合わせてキャビン8をキャビンブラケット30に搭載することにより、キャビンブラケット30に対するキャビン8の前後左右方向の位置決めが簡易迅速に行えるように構成されている。
【0037】
〔振動伝達状況〕
図6及び図7に基づいて、本発明に係るキャビンブラケット30を装着したトラクタの周波数毎の振動伝達率の一例について説明する。なお、後述する周波数、振動伝達率、共鳴周波数領域等の数値はキャビン8の構造や防振ゴム36の振動特性等によって異なるものであり、その一例として示すものである。
【0038】
図6の横軸は、周波数の大きさ(Hz)を示し、図6の縦軸は、クラッチハウジング11から防振ゴム36までの間のキャビンブラケット30の振動伝達率(無次元の値)、すなわち、防振ゴム36への入力振動(キャビンブラケット30から防振ゴム36の取付金具36cに伝達される振動)をクラッチハウジング11の出力振動(エンジン4等からクラッチハウジング11を介してキャビンブラケット30の固定部材31に伝達される振動)で割った値を示す。なお、入力振動及び出力振動の単位は、加速度又は力の大きさを示す。
【0039】
例えば、振動伝達率=1では、クラッチハウジング11の出力振動が防振されずに防振ゴム36に伝達される。すなわち、同じ周波数で比較した場合、振動伝達率が低い程、防振ゴム36に伝達される振動が小さくなって、防振ゴム36を介してキャビン8に伝達されるエンジン4等からの振動が小さくなる。
【0040】
また、図7の横軸は、周波数の大きさ(Hz)を示し、図7の縦軸は、クラッチハウジング11から連係部材37までの間のキャビンブラケット30の振動伝達率、すなわち、連係部材37への入力振動(キャビンブラケット30から防振ゴム36を介して連係部材37に伝達される振動)をクラッチハウジング11の出力振動(エンジン4等からクラッチハウジング11を介してキャビンブラケット30の固定部材31に伝達される振動)で割った値を示す。なお、図7においては、図6と異なり固有振動数の更に低い防振ゴム36を介した振動伝達率を示すため、図7に比べて振動伝達率の値は小さい値になっている。
【0041】
図6及び図7に示す太線は、上述したキャビンブラケット30を採用したトラクタにおける周波数毎の振動伝達率を測定した値をプロットした曲線を示し、図6及び図7に示す細線は、従来のキャビンブラケット50(図10参照)を採用したトラクタにおける周波数毎の振動伝達率を測定した値をプロットした曲線を示し、図6及び図7に示す点線は、調節部材34を取り付けていないキャビンブラケット30(図8及び図9参照)を採用したトラクタにおける周波数毎の振動伝達率を測定した値をプロットした曲線を示す。
【0042】
図6及び図7の細線で示すように、従来のキャビンブラケット50においては、キャビンブラケット50の剛性が高く固有振動数が大きかったため、周波数が上昇するのに伴って振動伝達率が上昇していき、周波数が250Hz付近で第1ピーク値(I)に達し、周波数が1000Hz付近で第2ピーク値(II)に達するような特性を示していた。
【0043】
図6及び図7の太線で示すように、本発明に係るキャビンブラケット30を採用すると、キャビンブラケット30の剛性が低く抑えられているためキャビンブラケット30の固有振動数が小さい。そのため、周波数が上昇するのに伴って振動伝達率が上昇していき、周波数が90Hz付近で第1ピーク値(I−B)に達し、その後振動伝達率が小さくなってから徐々に上昇し、周波数が600Hz付近で第2ピーク値(II−B)に達する。
【0044】
すなわち、キャビンブラケット30の剛性を低く抑えて防振ウエイト40を取り付けることにより、従来のキャビンブラケット50における振動伝達率の第1ピーク値(I)及び第2ピーク値(II)を、周波数の低い第1ピーク値(I−B)及び第2ピーク値(II−B)に移動することができる。
【0045】
図6及び図7の点線で示すように、調節部材34を取り付けていないキャビンブラケット30を採用すると、キャビンブラケット30の剛性が低く抑えられているためキャビンブラケット30の固有振動数が小さい。そのため、周波数が90Hz付近で振動伝達率が第1ピーク値(I−A)に達し、その後振動伝達率が小さくなって徐々に上昇し、周波数が350Hz付近で振動伝達率が第2ピーク値(II−A)に達する。
【0046】
すなわち、調節部材34が取り付けられていないため、図6及び図7の太線で示すキャビンブラケット30に比べて、周波数が低い領域(100Hz〜400Hz付近)で振動伝達率が大きく、周波数が350Hz付近で第2ピーク値(II−A)に達している。つまり、調節部材34を設けることにより、第1ピーク値(I−A,I−B)を移動させることなく、第2ピーク値をII−AからII−Bに移動させることができる。
【0047】
例えば、トラクタにおいては、エンジン4等からキャビンブラケット30を介してキャビン8に伝達される振動のうち、周波数が100〜500Hzの範囲内の振動(以下共鳴周波数領域と定義する)がキャビン空間の共鳴周波数と共鳴し易く、キャビン内の運転者等にとって耳障りな周波数で、運転環境を悪化させる原因になり易いという実験データが得られている(図示せず)。そのため、剛性を低く抑えたキャビンブラケット30及び防振ウエイト40によって第1ピーク値(I)を100Hz以下(I−B)に移動し、調節部材34によって第2ピーク値(II)を500Hz以上(II−B)に移動させることができ、キャビン内の運転者等にとって耳障りな共鳴周波数領域に振動伝達率の第1及び第2ピーク値が入らないように構成できる。
【0048】
以上より、本発明に係るキャビンブラケット30を採用することにより、図7に示すように、従来のキャビンブラケット50の第1ピーク値(I)や調節部材34が取り付けられていないキャビンブラケット30の第2ピーク値(II−A)のように振動伝達率が高い周波数の領域が、キャビン内の運転者等にとって耳障りな共鳴周波数領域の範囲内において少なくなって、この範囲内における振動伝達率を低い周波数に平均化することができる。その結果、キャビン室内の空気の共鳴周波数と、キャビンブラケット30及び防振ゴム36を介してキャビン8に伝達される固有振動数が一致し難いように構成することができる。
【0049】
〔従来のキャビンブラケットの構造〕
図10は、従来のキャビンブラケット50の構造を示す概略図であり、図10(イ)は、キャビンブラケット50付近の背面図を示し、図10(ロ)は、キャビンブラケット50付近の側面図を示す。
【0050】
図10に示すように、従来のキャビンブラケット50は、断面形状が下向きのコ字状に成形されて、クラッチハウジング11との固定部分からキャビンブラケット50の先端部に亘って、剛性の高い構造が採用されていた。なお、図10に示す従来のキャビンブラケット50の構造が、本発明の説明において比較のために示した図6及び図7のグラフにおける従来のキャビンブラケット50の構造である。
【0051】
[発明の実施の第1別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]においては、キャビンブラケット30に、固定部材31、支持部材32、補強部材33及び調節部材34を備えて構成した例を示したが、図8及び図9に示すようなキャビンブラケット30を採用してもよい。なお、後述する以外の他の構成は、前述の[発明を実施するための最良の形態]と同様である。
【0052】
図8は、キャビンブラケット30付近の縦断背面図を示し、図9は、キャビンブラケット30付近の底面図を示す。なお、図8及び図9においては、キャビン8の左側前部のキャビンブラケット30等を例に示すが、キャビン8の右側前部のキャビンブラケット30等についても左右の勝手が異なる以外の他の構成は同様である。
【0053】
図8及び図9に示すように、キャビンブラケット30は、クラッチハウジング11に固定する固定部材31と、防振ゴム36を介してキャビン8を支持する支持部材32と、キャビンブラケット30の根元部に設けられた補強部材33とを溶接で一体形成することによって構成されている。
【0054】
補強部材33は、縦平板状の帯板をく字状に屈曲させた形状に成形されて、固定部材31から支持部材32のゴム挿入穴32aの中心線の付近に延出されて、固定部材31及び支持部材32の前後2箇所に固着されている。
【0055】
防振ウエイト取付穴32dは、左右方向に長い長穴に加工されており、防振ウエイト40の左右方向の位置を変更調節可能に構成されている。このように構成することで、例えば、キャビン8やエンジン4等の仕様によって振動特性が異なるトラクタであっても、防振ウエイト40の位置を変更することで振動特性を微調節して走行車体3側からキャビン8に伝達される振動を抑制できる。
【0056】
以上のように、キャビンブラケット30の固定部材31から外方側に延出された補強部材33及びこの補強部材33を設けた位置における支持部材32によって高剛性部分Aが構成されており、高剛性部分Aの外方側の端部から外方側に延出された支持部材32によって低剛性部分Bが構成されている。
【0057】
例えば、共鳴周波数領域が低いキャビン付き走行車両において調節部材34を設けないキャビンブラケット30を採用することにより、共鳴周波数領域の範囲内における周波数を低い周波数に平均化しながら、キャビンブラケット30の構造を簡素化することができ、製造コスト削減を図れる。
【0058】
[発明の実施の第2別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、キャビンブラケット30をエンジン4から後方に延出されたクラッチハウジング11に支持した例を示したが、キャビンブラケット30を走行車体3に支持する部材は異なる部材であってもよく、例えば、エンジン4から後方に車体フレーム(図示せず)を延出している走行車両にあっては、車体フレームにキャビンブラケット30を支持する構成を採用してもよい。
【0059】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]においては、キャビン8の前部の左右両側部をキャビンブラケット30によって支持した例を示したが、キャビン8の前後中央部又は後部の両側部を支持する場合においても、上述したキャビンブラケット30の構造を採用できる。
【0060】
前述の[発明を実施するための最良の形態]及び[発明の実施の第1別形態]において示したキャビンブラケット30等の構造は一例として示したものであり、同様の機能を果たすものであれば異なる構造を採用してもよく、例えば、弾性部材の一例として示した防振ゴム36の構造及び取付構造、キャビンブラケット30を構成する固定部材31、支持部材32、補強部材33及び調節部材34の形状及び取付位置、キャビンブラケット30に対する防振ゴム36の取付位置、防振ウエイト40の形状及び取付方法等は異なる形状等であってもよい。
【0061】
[発明の実施の第3別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]、[発明の実施の第1別形態]及び[発明の実施の第2別形態]においては、走行車両の一例としてトラクタにキャビンブラケット30及び防振ウエイト40を備えた例を示したが、キャビン付き走行車両であれば異なる走行車両であっても同様に適用でき、例えば、コンバイン等の農作業車、土木用作業車、建設用作業車等のキャビン付き走行車両においても同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】トラクタの全体左側面図
【図2】キャビンの支持構造を示す横断平面図
【図3】キャビンの支持構造を示す左側面図
【図4】キャビンブラケット付近の縦断背面図
【図5】キャビンブラケット付近の底面図
【図6】周波数と振動伝達率の関係の一例を示すグラフ
【図7】周波数と振動伝達率の関係の一例を示すグラフ
【図8】発明の実施の第1別形態におけるキャビンブラケット付近の縦断背面図
【図9】発明の実施の第1別形態におけるキャビンブラケット付近の底面図
【図10】従来のキャビンブラケットの構造を示す概略図
【符号の説明】
【0063】
3 走行車体
8 キャビン
30 キャビンブラケット
31 固定部材
36 防振ゴム(弾性部材)
40 防振ウエイト
A 高剛性部分
B 低剛性部分
C 補助高剛性部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体にキャビンブラケットを備え、前記キャビンブラケットの上面側に弾性部材を介してキャビンを支持してあるキャビン付き走行車両において、
前記キャビンブラケットを、前記走行車体との固定部材と、前記固定部材から外方側に延出された高剛性部分と、前記高剛性部分の外方側の端部から外方側に延出され前記高剛性部分よりも上下方向の剛性の低い低剛性部分とを備えて構成するとともに、前記キャビンブラケットの外方側の端部に防振ウエイトを備えてあるキャビン付き走行車両。
【請求項2】
前記低剛性部分の外方側の端部から外方側に延出され前記低剛性部分よりも上下方向の剛性の高い補助高剛性部分を、前記キャビンブラケットに備えてある請求項1記載のキャビン付き走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−143209(P2008−143209A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329393(P2006−329393)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】