説明

キャリパブレーキ装置

【課題】流体圧力を制輪子の押付力に変換する機械効率を高めるとともに機械効率の安定化、すなわち制動力の安定化をはかり、制輪子本来の制動力を発揮できるキャリパブレーキ装置を提供する。
【解決手段】キャリパ本体10に支持板8をディスク6に対して進退可能に支持するアンカピン43と、制輪子7をディスク6に押付けるアクチュエータ60とを備え、このアクチュエータ60は、キャリパ本体10に取付けられる弾性膜75と、この弾性膜75によって画成され制動時に流体圧力(空気圧力)が供給される駆動圧力室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装されるピストン65と、このピストン65を支持板8に圧入して結合する結合手段とを備え、制動時に駆動圧力室63に導かれる流体圧力(空気圧力)により弾性膜75が膨らんでピストン65が制輪子7をディスク6に押付ける構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪と共に回転するディスクを挟んで摩擦力を付与するキャリパブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両の油圧ブレーキは空気圧源から供給される空気圧を油圧に変換する空油変換器を搭載し、この空油変換器から油圧配管を介して供給される油圧により油圧式キャリパブレーキ装置を作動させるようになっている。
【0003】
特許文献1、2には、油圧シリンダに供給される油圧によって制輪子を押圧作動する鉄道車両用の油圧式キャリパブレーキ装置が開示されている。
【0004】
近年、鉄道車両に空気圧源から供給される空気圧により作動する空気圧式キャリパブレーキ装置を搭載して、上記の空油変換器と油圧配管を廃止することが望まれている。
【0005】
特許文献3には、鉄道車両の空気圧式アクチュエータを備えるキャリパブレーキ装置が提案されている。
【0006】
この種の空気圧式アクチュエータは、図10〜12の断面図に示すように、キャリパ本体10に取付けられる弾性膜75と、この弾性膜75によって画成される駆動圧力室63と、弾性膜75と制輪子(図示せず)の間に介装されるピストン65とを備え、キャリパ本体10にピストン65を摺動可能に支持するガイド(シリンダ)90を備え、制動時に駆動圧力室63に導かれる空気圧力により弾性膜75が膨らんでピストン65が制輪子をディスク(図示せず)に押付けるようになっている。
【0007】
図10の断面図は、ライニング9の磨耗量が小さく、ピストン65がキャリパアーム12に引き込まれた初期位置にて作動する状態を示している。
【0008】
図11の断面図は、ライニング9の磨耗がある程度進み、ピストン65がキャリパアーム12から所定ストロークだけ押し出された中間位置にて作動する状態を示している。
【0009】
図12の断面図は、ライニング9の磨耗がさらに進み、ピストン65がキャリパアーム12から所定ストロークだけ押し出された最大位置にて作動する状態を示している。
【特許文献1】特開平8−226469号公報
【特許文献2】特開平8−226471号公報
【特許文献3】特開2009−162245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に開示された油圧式ブレーキ装置にあっては、油圧シリンダが制輪子全体を押圧するのではなく、制輪子の一部を押圧するため、この押付け反力によってキャリパ本体が撓んだり、ディスクの回転面に変形が生じた場合に、制輪子の局部的な温度上昇が生じることによって制輪子の摩擦係数が低下し、制輪子本来の制動力を発揮できず、制輪子の偏摩耗が生じるという問題点があった。
【0011】
また、前記の図10〜12に示す空気圧式キャリパブレーキ装置にあっては、ピストン65をガイド90に対して摺接させて支持する構成のため、ディスクと制輪子の摩擦力によりピストン65が傾くことによってピストン65とガイド90の摺接部に大きな力が加わることでピストン65の摺動抵抗が生じ、駆動圧力室63に導かれる空気圧力を制輪子7の押付力に変換する機械効率が低いという問題点があった。
【0012】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、流体圧力を制輪子の押付力に変換する機械効率を高めるとともに機械効率の安定化、すなわち制動力の安定化をはかり、制輪子本来の制動力を発揮できるキャリパブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、車輪と共に回転するディスクを挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、ディスクに摺接して摩擦力を付与する制輪子と、この制輪子を支持する支持板と、車体に支持されるキャリパ本体と、このキャリパ本体に支持板をディスクに対して進退可能に支持するアンカピンと、制輪子をディスクに押付けるアクチュエータとを備え、このアクチュエータは、キャリパ本体に取り付けられる弾性膜と、この弾性膜によって画成され制動時に流体圧力が供給される駆動圧力室と、弾性膜と制輪子の間に介装されるピストンと、このピストンを支持板に圧入して結合する結合手段とを備え、制動時に駆動圧力室に導かれる流体圧力により弾性膜が膨らんでピストンが制輪子をディスクに押付けることを特徴とするものとした。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ピストンが弾性膜と制輪子の間に介装される構成のため、ピストンの配置自由度が高められる。ピストンの配置が適正に行われることにより、制輪子がディスクに対し、平行に近い状態で押圧可能となるため、制輪子の面圧が均一化され、制輪子の摩擦係数が高く保たれ、制輪子本来の制動力が発揮されるとともに、制輪子やディスクの局部的な温度上昇が抑えられることによって制輪子やディスクの偏摩耗が生じることを防止できる。
【0015】
ピストンは、これが結合される支持板によってディスクに対して進退可能に支持される構成のため、キャリパ本体に摺動可能に支持される部位を持つ必要がない。このため、ピストンとキャリパ本体との間に摺動抵抗が生じことなく、駆動圧力室に導かれる流体圧力を効率良く支持板に伝えられる。これにより、アクチュエータの小型軽量化がはかれ、空気圧によって作動するアクチュエータをキャリパ本体の限られたスペースに介装することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態を示すキャリパブレーキ装置の側面図。
【図2】同じくキャリパブレーキ装置の縦断面図。
【図3】同じくピストン及び支持板の側面図及び正面図。
【図4】同じく支持板の二面図。
【図5】同じくピストンの二面図。
【図6】他の実施の形態を示すキャリパブレーキ装置の縦断面図。
【図7】同じくピストン及び支持板の側面図及び正面図。
【図8】同じく支持板、凸部材の二面図。
【図9】同じくピストンの二面図。
【図10】従来例を示す初期位置におけるキャリパブレーキ装置の断面図。
【図11】従来例を示す中間位置におけるキャリパブレーキ装置の断面図。
【図12】従来例を示す最大位置におけるキャリパブレーキ装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態を示すキャリパブレーキ装置1の側面図、図2は図1のA−A線に沿う縦断面図である。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平横方向、Y軸が鉛直方向、Z軸が水平前後方向に延びるものとし、キャリパブレーキ装置1の構成を説明する。
【0019】
鉄道車両に搭載されるキャリパブレーキ装置1は、対の制輪子7の間に車輪5のディスク6を挟持し、車輪5の回転を制動する。
【0020】
図1において、Hは車輪5の中心線であり、20は鉄道車両の図示しない台車(車体)上に固定される支持枠であり、10はこの支持枠20に支持されるキャリパ本体10である。
【0021】
キャリパ本体10は、支持枠20に上下スライドピン31、32によってX軸方向に摺動可能にフローティング支持される。
【0022】
キャリパ本体10は、車輪5のディスク6に跨るようにして延びる対のキャリパアーム12と、左右のキャリパアーム12を結ぶヨーク部13とを有する。
【0023】
右のキャリパアーム12の上下端部にアジャスタ41がアンカボルト42を介してそれぞれ締結される。上下のアジャスタ41はX軸方向に突出するアンカピン43を備える。上下のアンカピン43を介して制輪子7及びその支持板8の両端部がそれぞれ支持される。
【0024】
制輪子7は、ディスク6に摺接する摩擦材としてライニング9を備えるとともに、このライニング9の背部が取付けられる金属製のライニング背板19を備える。
【0025】
キャリパアーム12には、制輪子7を支持する支持板8が取付けられる。この支持板8にはY軸方向に延びるアリ溝8c(図4参照)が形成され、このアリ溝8cに制輪子7のライニング背板19のエッジ部が差し込まれる。
【0026】
上側のアンカピン43には環状段部43aが形成される。支持板8の上端部には環状段部43aに係合する係合穴8aが形成される(図4参照)。
【0027】
下側のアンカピン43には環状溝43bが形成される。支持板8の下端部には環状溝43bに係合する係合凹部8bが形成される(図4参照)。
【0028】
制輪子7は、支持板8の上下端部が各アンカピン43に係合することにより、ディスク6に対して進退可能に支持され、ライニング背板19の上下端部が各アンカピン43に係合することにより、その制動反力が支持される。
【0029】
なお、アジャスタ41はアンカピン43の露出部を覆うゴム製のブーツ(図示せず)が介装され、このブーツによってダストから保護される。
【0030】
制輪子7の交換時、まず、下側のアジャスタ41がキャリパアーム12から取り外され、制輪子7のライニング背板19に対するアンカピン43の係合が解除される。次に、支持板8のアリ溝8cに沿って制輪子7が下方に抜き取られる。次に、新しい制輪子7が支持板8のアリ溝8cに差し込まれる。次に、下側のアジャスタ41がキャリパアーム12に取付けられ、支持板8がアンカピン43が係合して支持されるとともに、ライニング背板19にアンカピン43が係合して制輪子7の抜け止めが行われる。こうして、制輪子7を着脱する作業が支持板8を介して行われる。
【0031】
アジャスタ41はアンカピン43を介して制輪子7をディスク6から離す方向に付勢する戻しバネ44と、制動解除時に制輪子7とディスク6の隙間を略一定に調整する隙間調整機構45を備える。制動解除時に制輪子7は戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離され、隙間調整機構45によってディスク6との隙間Sが略一定に調整される。
【0032】
図示しない左のキャリパアームには、支持レールが一体形成される。この支持レールにはアリ溝が形成され、このアリ溝に左の制輪子のライニング背板が差し込まれる。制輪子は、支持レールに差し込まれるとともに、その上下端がアンカブロックに係合することによって抜け止めされ、左のキャリパアームに固定される。
【0033】
右のキャリパアーム12に支持板8を介して制輪子7をディスク6に押圧するアクチュエータ60が設けられる。アクチュエータ60は、各アジャスタ41の間に配置される。
【0034】
アクチュエータ60は、鉄道車両に搭載される空気圧源からこの駆動圧力室63に供給される空気圧力によって弾性膜75がピストン65を介して制輪子7を押圧作動する。
【0035】
アクチュエータ60は、キャリパアーム12に形成される収容壁12bと、この収容壁12bに取付けられる弾性膜75と、収容壁12bに締結されるカバー92と、収容壁12bとこの弾性膜75とこのカバー92の間に画成される駆動圧力室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装されるピストン65とを備え、駆動圧力室63に導かれる空気圧により弾性膜75が制輪子7をX軸方向に押圧し、制輪子7をディスク6に押付ける。
【0036】
図1に示すように、収容壁12bは、キャリパアーム12を貫通する長円筒面状に形成される。収容壁12bは、ライニング9の広い範囲に対峙する略長円形の断面をもって形成される。
【0037】
なお、これに限らず、収容壁12bは、ライニング9に沿った円弧状の断面をもつ形状としてもよい。
【0038】
キャリパアーム12は、収容壁12bの開口縁部のまわりに延びる環状の取付座12aを有する。取付座12aには複数のネジ穴が所定の間隔を持って形成され、各ネジ穴に螺合するボルト84を介してカバー92が締結される。取付座12aとカバー92との間に弾性膜75の周縁部76が挟持される。
【0039】
カバー92は、取付座12aと同じく略長円形の外形を有する。カバー92は、駆動圧力室63を画成する部位が凹状に窪む皿状に形成される。
【0040】
弾性膜75は、樹脂製弾性材によって形成される。なお、弾性膜75は、樹脂製弾性材に例えばカーボン繊維、ケブラー繊維等の強化材を複合したものを用いてベローズを形成しても良い。また、弾性膜を金属薄板からなるベローズやゴム製チューブやダイヤフラムを用いて形成しても良い。
【0041】
弾性膜75は、取付座12aとカバー92との間に挟持される周縁部76と、収容壁12bに沿って伸縮するベローズ部77と、制輪子7に対峙する押圧部79とを有する。
【0042】
弾性膜75の押圧部79と制輪子7の間にピストン65が介装される。ピストン65は、支持板8に締結され、弾性膜75の動きを制輪子7に伝達する。
【0043】
図3は支持板8及びピストン65の正面図である。中空筒状のピストン65は、X軸方向に延びる長円筒部65aと、Y軸方向とZ軸方向に延びる平板状の頂板部65bとを有する。
【0044】
ピストン65(長円筒部65a)の側面は、長円筒面状の収容壁12bに沿って延びるように形成される。
【0045】
キャリパアーム12の収容壁12bとピストン65の側面の間にはX軸方向に延びる長円筒状の空間が画成され、この空間に弾性膜75のベローズ部77が収められる。ベローズ部77は、収容壁12bに沿って伸縮するようになっている。
【0046】
頂板部65bは、Y軸とZ軸方向に延びる平板状に形成される。弾性膜75の押圧部79は、頂板部65bに当接し、駆動圧力室63に導かれる空気圧力によって頂板部65bを押圧するようになっている。
【0047】
なお、これに限らず、弾性膜75の押圧部79を頂板部65bに接着または締結等により固着しても良い。
【0048】
ピストン65を支持板8に結合する結合手段として、支持板8に形成される3つの凸部8gと、ピストン65に形成される3つのインロー部65gとを設け、各凸部8gに各インロー部65gを圧入する構成とする。
【0049】
図4の(a)は支持板8の側面図であり、(b)は支持板8の正面図である。支持板8の側面8fは、Y軸とZ軸方向に延びる平面状に形成される。支持板8の凸部8gは、側面8fからX軸方向に円柱状に突出される。凸部8gは、支持板8に一体形成される。
【0050】
図5の(a)はピストン65の側面図であり、(b)はピストン65の正面図である。ピストン65の基端面65hは、Y軸とZ軸方向に延びる平面状に形成され、支持板8の側面8fに当接する。
【0051】
ピストン65のインロー部65gは、X軸方向に延びる円筒面状に形成される。インロー部65gは、支持板8の凸部8gに対してシマリバメの関係をもって嵌合する。
【0052】
ピストン65と支持板8の間には3つの断熱空間72が設けられる。この断熱空間72は、ピストン65に形成された凹部65jと支持板8の凸部8gとの間に画成される。断熱空間72によって制輪子7の熱が弾性膜75に伝達されることを抑制する。
【0053】
図1に示すように、キャリパアーム12にはインレット部18が設けられ、このインレット部18に図示しない空気圧源に連通する空気圧配管が接続される。この空気圧源からの加圧空気は図示しない切換弁を介して駆動圧力室63に供給される。切換弁は、図示しないコントローラからの指令に応じて作動し、制動時に空気圧源からの加圧空気を駆動圧力室63に導く一方、制動解除時に大気圧を駆動圧力室63に導く。
【0054】
次に、キャリパブレーキ装置1の作動について説明する。
【0055】
制動時に駆動圧力室63に導かれる空気圧力が高められることにより、弾性膜75が膨らみ、弾性膜75がピストン65を介して制輪子7をディスク6に押圧する。これによって、制輪子7がディスク6に摩擦力を付与し、車輪の回転を制動する。
【0056】
制輪子7は、支持板8の上下端部が各アジャスタ41から突出するアンカピン43に係合することにより、ディスク6に対して進退可能に支持されるとともに、制輪子7の制動反力が支持される。
【0057】
ピストン65は、その各インロー部65gがピストン65の各凸部8gに圧入されることによって支持板8に結合され、支持板8によってディスク6に対して進退可能に支持されるため、前記図10〜12に示す従来装置のようにピストンをキャリパ本体のガイドに対して摺接させて支持する必要がない。これにより、ピストン65は、キャリパ本体10に対する摺動抵抗が生じることがなく、駆動圧力室63に導かれる空気圧力を効率良く支持板8に伝えられる。
【0058】
ライニング9の磨耗が進むのに伴って、ピストン65がキャリパアーム12に押し出される量が変わっても、十分な機械効率が得られる。
【0059】
制動解除時にインレット部18から駆動圧力室63に導かれる圧力が下げられることにより、駆動圧力室63の空気がインレット部18から排出され、ベローズ部77が収縮し、制輪子7が戻しバネ44の付勢力によってディスク6から離される。このとき、ディスク6との隙間Sが隙間調整機構45によって略一定に調整される。
【0060】
アクチュエータ60が空気圧力によって作動するため、鉄道車両に搭載される空油変換器(油圧源)や油圧配管が不要になり、鉄道車両の軽量化がはかれる。
【0061】
なお、これに限らず、弾性膜型キャリパブレーキ装置のアクチュエータとして、駆動圧力室に油圧が導かれる油圧式のものを設けてもよい。この場合、従来の油圧式ピストン型キャリパブレーキ装置に比べてアクチュエータの受圧面積が拡大するため、低い油圧力でアクチュエータに必要な押圧力を確保でき、空油変換器による増圧が不要になり、空油変換器の小型化がはかれる。
【0062】
本実施の形態では、車輪5と共に回転するディスク6を挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、ディスク6に摺接して摩擦力を付与する制輪子7と、この制輪子7を支持する支持板8と、車体(台車)に支持されるキャリパ本体10と、このキャリパ本体10に支持板8をディスク6に対して進退可能に支持するアンカピン43と、制輪子7をディスク6に押付けるアクチュエータ60とを備え、このアクチュエータ60は、キャリパ本体10に取付けられる弾性膜75と、この弾性膜75によって画成され制動時に流体圧力(空気圧力)が供給される駆動圧力室63と、弾性膜75と制輪子7の間に介装されるピストン65と、このピストン65を支持板8に圧入して結合する結合手段とを備え、制動時に駆動圧力室63に導かれる流体圧力(空気圧力)により弾性膜75が膨らんでピストン65が制輪子7をディスク6に押付ける構成とした。
【0063】
上記構成に基づき、ピストン65は、これが結合される支持板8とアンカピン43によってディスク6に対して進退可能に支持されるため、キャリパ本体10に摺動可能に支持される部位を持つ必要がない。このため、ピストン65とキャリパ本体10との間に摺動抵抗が生じることなく、駆動圧力室63に導かれる流体圧力を効率良く支持板8に伝えられる。これにより、アクチュエータ60の小型軽量化がはかれ、空気圧によって作動するアクチュエータ60をキャリパ本体10の限られたスペースに介装することが可能となる。
【0064】
ピストン65が弾性膜75と制輪子7の間に介装される構成のため、ピストン65の配置自由度を高められる。ピストン65の配置が適正に行われることにより、制輪子7のディスク6に対する面圧が均一化され、制輪子7の摩擦係数が高く保たれ、制輪子7本来の制動力が発揮されるとともに、制輪子7やディスク6の局部的な温度上昇が抑えられることによって制輪子7やディスク6の偏摩耗が生じることを防止できる。
【0065】
他の実施の形態として、弾性膜75と制輪子7の間に介装されるピストンを複数に分割しても良い。この場合、弾性膜75が膨らんで複数のピストンが制輪子7をディスク6に押付ける構成のため、この押付け反力によってキャリパ本体10が撓んだり、ディスク6の回転面に変形が生じた場合に、各ピストンが追従して制輪子7をディスク6の回転面に対して平行に押付ける。これにより、制輪子7のディスク6に対する面圧が均一化され、制輪子7の摩擦係数が高く保たれ、制輪子7本来の制動力が発揮されるとともに、制輪子7やディスク6の局部的な温度上昇が抑えられることによって制輪子7やディスク6の偏摩耗が生じることを防止できる。
【0066】
本実施の形態では、キャリパ本体10に支持板8の両端部をディスク6に対して進退可能に支持する対のアンカピン43を備え、駆動圧力室63をこの各アンカピン43の間に配置したため、弾性膜75が膨らんでピストン65及び支持板8が制輪子7をディスク6に押付ける動きが各アンカピン43を介して円滑に行われるとともに、各アンカピン43に挟まれるスペースにおいて弾性膜75の受圧面積を十分に確保し、要求される押圧力を制輪子7の広い範囲に付与することが可能となる。
【0067】
本実施の形態では、アクチュエータ60を挟むように配置される対のアジャスタ41を備え、このアジャスタ41は、アンカピン43を介して制輪子7をディスク6から離す方向に付勢する戻しバネ44と、制動解除時に制輪子7とディスク6の隙間Sを略一定に調整する隙間調整機構45とを備えたため、アンカピン43がアジャスタ41を介して円滑に摺動し、弾性膜75にかかる流体圧力を制輪子7をディスク6に押付ける力に変換する機械効率を高められるとともに、ライニング9の磨耗が進むのに伴って制輪子7とディスク6の隙間Sの調整が自動的に行われる。
【0068】
本実施の形態では、弾性膜75はキャリパ本体10とピストン65の間で拡縮するベローズ部77を有し、キャリパ本体10はこのベローズ部77を囲んで筒面状に延びる収容壁12bを有したため、制動時に駆動圧力室63に導かれる空気圧により弾性膜75のベローズ部77がディスク6と平行方向(Y軸とZ軸を含む方向)に膨らむことが収容壁12bによって規制され、弾性膜75が制輪子7を押圧するのに必要な空気流量を低減し、弾性膜75が制輪子7を押圧して車輪5を制動する応答性を高められる。
【0069】
本実施の形態では、ピストン65と支持板8の間に断熱空間72が設けられるため、断熱空間72によって制輪子7の熱がピストン65と弾性膜75に伝達されることを抑制し、樹脂製弾性材からなる弾性膜75の耐熱性を高められる。これに限らず、ピストン65と支持板8の間に断熱材を介装してもよい。
【0070】
本実施の形態では、キャリパ本体10が上下スライドピン30、32を介して摺動可能にフローティング支持される構造のため、ディスク6に跨るようにして延びる対のキャリパアーム12のうち、一方(右側)のキャリパアーム12のみにアクチュエータ60を設けることが可能となり、キャリパブレーキ装置1の大型化が避けられる。
【0071】
本実施の形態では、ピストン65が支持板8に結合され、アンカピン43により進退可能に支持されるため、ピストン65を摺接させるガイドが不要になり、ピストン65のX軸方向の長さを小さくし、弾性膜75も小型化することができる。これにより、アクチュエータ60の小型軽量化がはかれ、キャリパブレーキ装置1を車両の限られたスペースに介装することが可能となる。また、ピストン65のX軸方向の長さを小さくすることにより、ピストン65の倒れが抑えられるとともに、弾性膜75が小型化することにより、弾性膜75のフリクションを低減でき、機械効率の向上がはかられる。
【0072】
なお、これに限らず、ディスク6に跨るようにして延びる対のキャリパアームの両方にアクチュエータ60を設けてもよい。この場合、キャリパ本体10をX軸方向に摺動可能にフローティング支持する必要がなく、キャリパ本体10は台車(車体)に対して固定される。
【0073】
次に図6〜9に示す他の実施形態を説明する。これは基本的には図1〜5の実施の形態と同じ構成を有し、相違する部分のみ説明する。なお、前記実施の形態と同一構成部には同一符号を付す。
【0074】
ピストン65を支持板8に結合する結合手段として、支持板8に組み付けられる3つの凸部材81と、ピストン65に形成される3つのインロー部65gとを設け、各凸部材81に各インロー部65gを圧入する構成とする。
【0075】
図7は支持板8及びピストン65の正面図である。図8の(a)は支持板8の側面図であり、(b)は支持板8の正面図であり、(c)は凸部材81の側面図であり、(d)は凸部材81の正面図である。支持板8の側面8fにはプレート82が結合され、このプレート82によって凸部材81が支持板8に結合される。凸部材81は、プレート82の穴83から円柱状に突出する部位を有する。
【0076】
図9の(a)はピストン65の側面図であり、(b)はピストン65の正面図である。ピストン65の基端面65hは、Y軸とZ軸方向に延びる平面状に形成され、支持板8の側面8fに当接する。
【0077】
ピストン65のインロー部65gは、X軸方向に延びる円筒面状に形成される。インロー部65gは、凸部材81り外周面に対してシマリバメの関係をもって嵌合する。
【0078】
ピストン65は、プレート82の外周面に嵌合するインロー部65kを有する。インロー部65kは、プレート82の外周面に対してシマリバメの関係をもって嵌合する。
【0079】
プレート82に設けられた穴83よりも凸部材81の外周はわずかに小径とし、ピストン65のインロー部65gと凸部材81の外周の圧入時に、プレート82を挟み込むことで、支持板8、ピストン65を結合してもよい。
【0080】
ピストン65と支持板8の間に3つの断熱空間70と2つの断熱空間71が設けられる。3つの断熱空間70は、ピストン65に形成された凹部65jと凸部材81との間に画成される。2つの断熱空間71は、ピストン65に形成された凹部65mと支持板8との間に画成される。断熱空間70、71によって制輪子7の熱が弾性膜75に伝達されることを抑制する。
【0081】
また、凸部材81を断熱材で形成してもよい。
【0082】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【符号の説明】
【0083】
1 キャリパブレーキ装置
5 車輪
6 ディスク
7 制輪子
8 支持板
8g 凸部
10 キャリパ本体
12 キャリパアーム
12b 収容壁
41 アジャスタ
43 アンカピン
44 戻しバネ
45 隙間調整機構
60 アクチュエータ
63 駆動圧力室
65 ピストン
65g インロー部
72 断熱空間
75 弾性膜
77 ベローズ部
79 押圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するディスクを挟んで摩擦力を付与する車両用キャリパブレーキ装置であって、
前記ディスクに摺接して摩擦力を付与する制輪子と、
この制輪子を支持する支持板と、
車体に支持されるキャリパ本体と、
このキャリパ本体に前記支持板を前記ディスクに対して進退可能に支持するアンカピンと、
前記制輪子を前記ディスクに押付けるアクチュエータとを備え、
このアクチュエータは、
前記キャリパ本体に取付けられる弾性膜と、
この弾性膜によって画成され制動時に流体圧力が供給される駆動圧力室と、
前記弾性膜と前記制輪子の間に介装されるピストンと、
このピストンを支持板に圧入して結合する結合手段とを備え、
制動時に前記駆動圧力室に導かれる流体圧力により前記弾性膜が膨らんで前記ピストンが前記制輪子を前記ディスクに押付けることを特徴とするキャリパブレーキ装置。
【請求項2】
前記キャリパ本体に前記支持板の両端部を支持する対の前記アンカピンを備え、
前記駆動圧力室を前記各アンカピンの間に配置したことを特徴とする請求項1に記載のキャリパブレーキ装置。
【請求項3】
前記弾性膜は前記キャリパ本体と前記ピストンの間で拡縮するベローズ部を有し、
前記キャリパ本体は前記ベローズ部を囲んで筒面状に延びる収容壁を有したことを特徴とする請求項1または2に記載のキャリパブレーキ装置。
【請求項4】
前記ピストンと前記支持板の間に断熱空間が設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のキャリパブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−47429(P2011−47429A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194518(P2009−194518)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】