説明

クラスター生成装置

【課題】シングルナノサイズのクラスター生成、小さなクラスターサイズ分散性、高いビームフラックスおよび高いクラスタービームエネルギーの達成を可能とする。
【解決手段】レーザアブレーション法によってナノサイズクラスターを生成するクラスター生成装置は、クラスターを生成するクラスターセル11の取出口21に、ラバールノズル13のスロート口31が接続されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、基板上にナノサイズクラスターを堆積させて薄膜を形成するために用いられるクラスター生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーの隆盛とともに、気相中でナノサイズクラスターを生成するクラスター生成装置が種々開発されるようになった。これらの装置の基本技術を大きく分類すれば、(i)分子線エピタキシ法、(ii)CVD法、(iii)スパッタリング法、(iv)ガス中蒸発法がある。これらの方法の中でも、最有力技術として、ガス中蒸発法が注目されている。ガス中蒸発法では、周囲の不活性ガス分圧とは無関係に蒸発という純粋な熱プロセスによってターゲットから単原子あるいは化合物単分子を取り出すことができ、いわば品質の良い単原子または単分子を得ることができる。
【0003】
ガス中蒸発法の一種であるレーザーアブレーション法を用いたクラスター生成装置は公知である。このクラスター生成装置は、クラスター生成室を有しかつクラスターターゲットをその蒸発面がクラスター生成室に臨ませられるように保持するクラスターセルと、蒸発面にレーザを照射してターゲットを蒸発ガス化させるとともに、ターゲットの蒸発により衝撃波を発生させるレーザ光源と、蒸発ガスを不活性ガスの流れにのせて、クラスターを堆積させるための基板に導くように不活性ガスの流れを生じさせる不活性ガス手段とを備えている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
【0004】
このクラスター生成装置では、レーザーアブレーション現象を閉じた空間内で起こし、レーザーアブレーションにおいて発生する衝撃波の反射を利用することによって低分散のシングルナノサイズクラスターを生成することを提案している。具体的には回転楕円体面(クラスターセル)の内部でレーザーアブレーションを起こし、衝撃波が楕円体の焦点に収束することを利用して、反射衝撃波の効果を高めようというものである。
【0005】
このクラスター生成装置によれば、通常の熱蒸発法と比較すると蒸発量が多く、蒸発に伴う蒸発原子の並進運動エネルギーが原子結合のエネルギーに匹敵するほどに大きくなる。しかも、レーザープロセスに付随して衝撃波などの熱的非平衡性の強い流れ場を生じること、その影響で容易にイオン、ラジカル等を生成するなどの特徴を備えている。特に、熱的非平衡性の強さはサイズ分散の小さなシングルナノサイズのクラスターを形成する上で重要な特徴となり得る。
【0006】
一方で、ナノサイズクラスターを元にインテリジェント材料などの新規材料を開発する場合、ナノサイズクラスターの3次元構造化は必須であり、上述したようなナノサイズクラスターをビームとして取り出す技術が要望される。このようなナノサイズクラスタービーム技術を本格的な工業技術に発展させるためには、下記項目が最小限必要である。
【0007】
(1)シングルナノサイズのクラスター生成
(2)小さなクラスターサイズ分散性
(3)高いビームフラックス
(4)高いクラスタービームエネルギー
(1)の「シングルナノサイズのクラスター生成」は、量子サイズ効果を発揮する材料を目標としているわけであるから、基本的な条件である。ここでは、ナノサイズクラスターと言う場合、暗黙のうちにシングルナノサイズクラスターという意味を表している。(2)の「小さなクラスターサイズ分散性」は、ナノサイズクラスターを集積して安定化したマクロ物性の発現するために必須の条件である。これらの2つの条件を、上記公知のクラスター生成装置は満たしている。
【0008】
しかしながら、シングルナノサイズのクラスターが低分散で作れたとしても、次ぎに問題となるのは、(3)の「高いビームフラックス」であり、このことはレーザーアブレーション法に基づくナノ構造材料の作製を工業利用に結びつけるための必須条件となる。
【0009】
レーザー出力を上げ、レーザー照射面積を拡大すれば、理論上ビームフラックスは向上する。即ち、幾何学的相似を保ちながら装置を大型していけば、ビームフラックスも大きくなることは、容易に想像ができる。しかし、この相似的拡大に対しては、レーザー出力の上昇も相当に要求されることとなる。
【0010】
図3は、ターゲット材料を銅とした場合に、確率論的な熱力学計算に基づくレーザー出力密度と材料蒸発量の関係を示すものである(この計算法の詳細は、非特許文献1参照。)。
【0011】
本計算結果によると、レーザー出力密度が6MW/mmくらいまでは蒸発量も急激に贈しているが、その後は高々比例的なのびに留まっている。したがって、レーザー出力密度は6MW/mmに抑えて、あとは照射面積を拡大することによって蒸発量を稼ぐのが得策であろう。しかし、レーザー出力密度を保ちながら照射面積を拡大し蒸発量を稼ぐには、レーザー出力を累乗的に増加させねばならず、技術的にもコスト的にもすぐに限界に達してしまうであろう。
【0012】
そこで、基本に立ち返って、ナノサイズクラスター生成時におけるクラスター化率を上げることを考える。今、レーザー出力密度が6MW/mmの時に2×1016個程度の原子が得られることが図2より分かる。これらの原子から5〜10nm程度の銅ナノサイズクラスターが生成すると考えた場合、その構成原子数は正20面体構造を仮定して4000〜30000程度と見積もることができる。平均して10000とすれば、取出しうるナノサイズクラスターの数は2×1012/(pulse・mm2)となる。しかし、上記クラスター生成装置を用いた実験からの類推によると、実際に得られているビームフラックスの数は10/(pulse・mm2)のオーダーであり、ここには10のオーダーの開きがあることになる。この逆数をクラスター化効率と呼ぶことにすると、このクラスター化効率の低さには種々の原因が考えられる。大雑把に見積もると、下記の原因が相乗効果となって10−6という効率が現れているものと思われる。
【0013】
(a)レーザーがターゲットに届くまでの光損失
(b)照射過程での光損失
(c)計算上、電子励起エネルギーを考慮していないことによる誤差
(d)計算上、融解エンタルピーを考慮していないことによる誤差
(e)デブリ発生による損失
(f)クラスター核生成確率による損失
(g)クラスター成長時における蒸気原子捕獲確率による損失
(h)クラスター取り出し効率の低さによる損失
(i)クラスター取り出し後のスキミング効率の低さによる損失
上記原因のうち、最も奇与が大きいのは(h)の「クラスター取り出し効率の低さによる損失」であると考えられる。これは、レーザーアブレーション現象、及び、反射衝撃波によってナノサイズクラスターを生成した後、クラスターセル内から外部へナノサイズクラスターを取り出す際の効率に関わる。主に、クラスターセル出口からナノサイズクラスターを含むガスが流出する際の縮流係数、ノズル効率、ディフューザ効率などの流体学的効率に関わるものである。
【0014】
図4に、クラスターセル内における中心軸より上半分の領域の流れ状況が示されている。これは、数値計算によって得られたものである。クラスターセルの回転楕円体面で囲まれた空間に対し、取出口は比較的小さい。その径dは、例えば、1mmである。図3からあきらかなように、取出口付近には渦が生じている。渦の中心Cは、クラスターセル中心軸Lから半径方向に所定距離隔てられており、その距離は、取出口の径の数倍程度である。クラスターセル中心軸にそって搬送されるクラスターは、この渦に取り込まれて、取出口から外に出て行き難いことが考えられる。したがって、できる限りこのような渦を無くすことが重要である。
【0015】
最後に、(4)の「高いクラスタービームエネルギー」であるが、これは付着力が強く緻密な薄膜を作製するために必要となる。クラスターセルから流出した後まで超音速流れを維持するようにすれば、さらなるエネルギーの向上が見込まれる。
【特許文献1】特開2001−158956号公報
【特許文献2】特開2002−38257号公報
【非特許文献1】‘Plume dynamics during film and nanoparticles deposition by pulsed laser ablation’ Physics Letters A 302(2002)182-189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
この発明の目的は、シングルナノサイズのクラスター生成、小さなクラスターサイズ分散性、高いビームフラックスおよび高いクラスタービームエネルギーの達成を可能とするクラスター生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明によるクラスター生成装置は、レーザアブレーション法によってナノサイズクラスターを生成する装置であって、クラスターを生成するクラスターセルの取出口に、ラバールノズルのスロート口が接続されているものである。
【0018】
この発明によるクラスター生成装置では、クラスターを生成するクラスターセル内で生成されたクラスターは、ラバールノズルによって超音速域で効率良く取り出される。
【0019】
さらに、ラバールノズルの吹出口を、エジェクタの噴出口が取り囲んでおり、噴出口から所定長さにわたって絞り部が設けられていると、エジェクタの絞り部で高速化されることによってラバールノズルの吹出口の圧力を効果的に減圧することができ、ラバーズノズル内を始動衝撃波が通過し、全体を超音速流れにすることができる。
【0020】
クラスターセルの取出口にラバールノズルを組み合わせ、さらに下流をエジェクタとすることによって、クラスターセル内部から流出する気体の流れ効率が向上させられ、高フラックスを実現することができる。これは、従来クラスター化効率向上のネックとなっていた部分であるが、クラスター化効率を100倍にアップして10−4にすることができる。
【0021】
また、エジェクタに不活性ガス管が接続されており、不活性ガス管に、これの内部にクラスター表面装飾材料を注入する手段が備えられていると、クラスター表面を装飾材料によってコーティングすることができる。そうすると、クラスター同士が付着し合うことが無くなり、そのようなクラスターは、容器等に詰めて保管することができ、クラスター表面から装飾材料を除去することにより、クラスターの再利用が可能となる。
【0022】
また、エジェクタの噴出口に輸送パイプの入口が接続されていると、付着力が強く緻密な薄膜を作製するために必要となるクラスタビームエネルギーを失うことがなく、クラスターセルから流出した後まで超音速流れを維持することができ、さらなるエネルギーの向上が見込まれる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、シングルナノサイズのクラスター生成、小さなクラスターサイズ分散性、高いビームフラックスおよび高いクラスタービームエネルギーの達成を可能とするクラスター生成装置が提供される。
【0024】
また、不活性ガスとエジェクタを組み合わせることで、大気圧中でのクラスター出力が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明の実施の形態を図面を参照しながらつぎに説明する。
【0026】
図1を参照すると、クラスター生成装置は、クラスターセル11、レーザ光源12、ラバールノズル13、エジェクタ14および輸送パイプ15を備えている。
【0027】
クラスターセル11は、回転楕円体面状クラスター生成室(図示略)および取出口21を有しかつクラスターターゲット22をその蒸発面がクラスター生成室に臨ませられるように保持するものである。取出口21は、クラスターセル11の軸線上にあって、ターゲット22と相対させられている。クラスターセル11には、第1ガスパイプ23によって第1不活性ガスが供給されるようになっている。
【0028】
レーザ光源12は、蒸発面にレーザを照射してターゲット22の材料を蒸発ガス化させるとともに、同材料の蒸発により衝撃波を発生させるものである。
【0029】
ラバールノズル13は、クラスターセル11の軸線と一直線上にのびた軸線を有する先広がりテーパ状のもので、スロート口31および吹出口32を有している。スロート口31は、取出口21に接続されている。図2に詳細に示すように、スロート口31の近辺において、縮径部31aから拡径部31bに変化させられている。
【0030】
エジェクタ14は、ラバールノズル13の軸線と同心状に配された二重管状のもので、吹出口32を取り囲んでいる噴出口41を有している。噴出口41から所定長さにわたって流路断面絞り部42が設けられている。エジェクタ14には、第2ガスパイプ43によって第2不活性ガスが供給される。第2ガスパイプ43には注入パイプ44が備えられている。
【0031】
輸送パイプ15は、エジェクタ14と一直線状に並べられかつ噴出口41に接続されている入口51を有している。
【0032】
クラスターセル11には第1ガスパイプ23を通じて第1不活性ガスが供給される。第1不活性ガスは、ヘリウムガスである。ターゲット22の蒸発面に向かって、レーザ光源12からナノ秒パルスのレーザー光が照射される。そうすると、ターゲット材料は、瞬時に蒸発してプルームと呼ばれる蒸気原子塊を形成する。プルームの形成とともに、クラスターセル11内のヘリウムガス中に衝撃波(この衝撃波のうち、取出口21を最初に通り抜けたものが後述の始動衝撃波となる)が発生し、クラスター生成室内面で反射した衝撃波がクラスター生成室内面のなす楕円の焦点で収束する。プルームと収束衝撃波の衝突によってナノサイズクラスターの生成が促進され、クラスターセル11の取出口21付近で比較的大量のナノサイズクラスターが生成される。
【0033】
生成されたナノサイズクラスターは、クラスターセル11内を通過させられるヘリウムガスの流れにのって、取出口21から取出される。取出されたナノクラスターは、ラバールノズル13によって効率良く出射される。このときに、既に始動衝撃波はラバールノズル13中を通過しており、ラバールノズル13内は超音速流れ場を形成している。
【0034】
エジェクタ14には第2不活性ガスパイプを通じて第2不活性ガスが供給される。第2不活性ガスは、ヘリウムガスである。第1不活性ガスおよび第2不活性ガスは、同じものでもよいが、第1不活性ガスの原子量よりも第2不活性ガスの原子量が大であることが好ましい。第2不活性ガスの流れは、エジェクタ14の絞り部42によって高速化され、これにより、ラバールノズル13の吹出口32付近の圧力は、効果的に減圧される。これにより、ラバールノズル13からの超音速流れが維持される。
【0035】
ラバールノズル13の吹出口32から吹出されたナノサイズクラスターは、輸送パイプ15内を超音速を保ったまま搬送されていく。この輸送パイプ15から大気圧中(容器内外どちらでもよい)に放出される。成膜等に用いる場合は、大気等の非清浄雰囲気にさらされないように容器内へ放出すればよい。
【0036】
注入パイプ44を通じて、第2ガスパイプ43内に表面装飾材料が注入される。装飾材料は、融点の低い高分子材料で、液体または気体のどちらの状態でも良い。注入された表面装飾材料は、輸送パイプ15内で冷却され、高い表面活性をもったナノサイズクラスターの表面で凝縮し、これをコーティングする。表面装飾材料をコーティングしたナノサイズクラスターは、表面活性を失って、相互に結合させられることない。ナノサイズクラスターから表面装飾材料を加熱溶融させて、除去すれば、ナノサイズクラスターは、再び活性化させられ、再利用可能となる。
【0037】
一方、真空雰囲気での成膜等を行う場合には、クラスターセル11、ラバールノズル13および被成膜部材を真空容器(成膜チャンバ)内に収めて用いれば良く、この場合、エジェクタ14および輸送パイプ15が不要となり、また、第2不活性ガスおよび表面装飾材料は不要となるが、クラスターセル11から超高速でナノサイズクラスターが放出されることは変わりない。
【0038】
ターゲット22は、次回のレーザーアブレーションまでにモータ等(図示略)によって回転させられるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明によるクラスター生成装置の構成図である。
【図2】同クラスター生成装置のラバールノズルのストロー口近辺の詳細断面図である。
【図3】クラスターを生成するためのレーザー出力密度とターゲット材料蒸発量の関係を示すグラフである。
【図4】従来のクラスター生成装置のクラスターセル内の流れ状況を示す説明図である。
【符号の説明】
【0040】
11 セル
12 レーザー光源
13 ラバールノズル
14 エジェクタ
15 輸送パイプ
21 取出口
31 スロート口
41 噴出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザアブレーション法によってナノサイズクラスターを生成する装置であって、クラスターを生成するクラスターセルの取出口に、ラバールノズルのスロート口が接続されているクラスター生成装置。
【請求項2】
ラバールノズルの吹出口を、エジェクタの噴出口が取り囲んでおり、噴出口から所定長さにわたって絞り部が設けられている請求項1に記載のクラスター生成装置。
【請求項3】
エジェクタに不活性ガス管が接続されており、不活性ガス管に、これの内部にクラスター表面装飾材料を注入する手段が備えられている請求項2に記載のクラスター生成装置。
【請求項4】
エジェクタの噴出口に輸送パイプの入口が接続されている請求項2または3に記載のクラスター生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−113064(P2007−113064A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305201(P2005−305201)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】