説明

クラッチ用アクチュエータ

【課題】大きな推力を出力できる小型化が可能なクラッチ用アクチュエータを提供する。
【解決手段】ハウジング1と、モータ2と、モータによるネジ軸4の回転をナット5の直線運動に減速して変換するボールネジ減速機構3と、ハウジングの外部に直線運動としての出力を取り出す出力ロッド50と、ボールネジ減速機構のナットの直線運動を出力ロッドに伝達する第1リンク機構13及び第2リンク機構20とを具備し、第2リンク機構に、出力ロッドの移動を助勢するアシストスプリング21が組み込まれている。ハウジングの固定位置に固定回転ボス10、30が設けられ、その固定回転ボスに第1リンク機構と第2リンク機構が連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな推力を出力できる小型化が可能なクラッチ用アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などのクラッチを断接したり半接合(半切り)したりするクラッチ用アクチュエータとして、特許文献1や特許文献2に記載されたものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたクラッチ用アクチュエータは、電動モータと、その出力回転を減速するウォーム及びホイールからなるすべり歯車減速機構と、このすべり歯車減速機構の出力回転を減速する歯車減速機構と、その歯車減速機構の出力回転によってストロークすると共にそのストロークによってクラッチの断接及び半接合を行う出力ロッドと、その出力ロッドのストロークを助勢するアシストスプリングと、を備えている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたクラッチ用アクチュエータは、電動モータと、その出力回転を減速する歯車減速機構と、この歯車減速機構の出力回転を出力ロッドの直線運動に変換するすべりネジ機構と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−121714号公報
【特許文献2】特開2002−213490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1及び特許文献2に記載のクラッチ用アクチュエータは、歯車減速機構を用いているので減速部が大きくなりがちであった。また、すべり歯車減速機構やすべりネジ機構を用いているので、伝達ロスが大きく、従って小型で高推力を出力させるのが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、大きな推力を出力できる小型化が可能なクラッチ用アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係るクラッチ用アクチュエータは、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) ハウジングと、
該ハウジングに取り付けられた駆動源と、
該駆動源の回転出力軸に連結されたネジ軸、該ネジ軸の外周に設けられたナット、前記ネジ軸及びナットの間に収容された多数のボールを有し、前記ネジ軸の回転運動を前記ナットの直線運動に減速して変換するボールネジ減速機構と、
前記ハウジングの外部に直線運動としての出力を取り出す出力ロッドと、
該ボールネジ減速機構の前記ナットの直線運動を前記出力ロッドに伝達する出力機構と、
を具備すること。
(2) 上記(1)の構成のクラッチ用アクチュエータにおいて、
前記出力機構が、前記出力ロッドの移動を助勢するアシストスプリングを含んでおり、
該アシストスプリングは、前記出力ロッドがその移動範囲の一端側から他端側へ移動するときその方向への移動を助勢し、且つ、その助勢力が、前記出力ロッドが所定のストロークに向けて一端側から他端側へ移動するときに最小から徐々に最大に変化するように、リンク機構に組み込まれていること。
(3) 上記(2)の構成のクラッチ用アクチュエータにおいて、
前記ハウジングの固定位置に固定回転軸が設けられ、
その固定回転軸に、前記ナットの直線運動を前記固定回転軸の回転運動に変換する第1リンク機構が連結されると共に、前記固定回転軸の回転運動を前記出力ロッドの直線運動に変換する第2リンク機構が連結され、その第2リンク機構に前記アシストスプリングが組み込まれていること。
(4) 上記(3)の構成のクラッチ用アクチュエータにおいて、
前記固定回転軸、前記第1リンク機構、及び前記第2リンク機構が、前記ボールネジ減速機構のネジ軸の両側に、それぞれ一対配設されていることを特徴とする請求項3に記載のクラッチ用アクチュエータ。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)の構成のクラッチ用アクチュエータによれば、減速部にボールネジ減速機構を用いているので、小型化を図りながら小さい伝達ロスで大減速を行うことができ、大きな推力を出力ロッドから取り出すことができる。
【0010】
上記(2)の構成のクラッチ用アクチュエータによれば、アシストスプリングにより出力ロッドの移動を助勢することができるので、駆動源の力を小さく抑えながら、大きな推力を出力ロッドから取り出すことができる。特に、アシストスプリングをリンク機構に組み込むことで、アシストスプリングによる助勢力が、特定の出力ロッドのストロークに向けて徐々に大きくなるようにしているので、クラッチ側のスプリングの反力とアシストスプリングによる助勢力とのバランスを考慮して、このクラッチ用アクチュエータをクラッチの操作機構に組み込むことにより、駆動源の出力を最大限に抑制しながら、効率良くクラッチの断続を行うことができる。
【0011】
上記(3)の構成のクラッチ用アクチュエータによれば、ハウジングの固定位置に設けた固定回転軸を境にして、運動を伝達するリンク機構を、第1と第2の2つのリンク機構に分割しており、第1リンク機構はボールネジ減速機構のナットに連結し、第2リンク機構にアシストスプリングを組み込んでいるので、複雑なリンク機構を、系統を分けて単純に組み立てられるようにすることができる。
【0012】
上記(4)の構成のクラッチ用アクチュエータによれば、固定回転軸、第1リンク機構、及び第2リンク機構を、ボールネジ減速機構のネジ軸の両側にそれぞれ一対配設したので、ボールネジ減速機構のナットの動きをアシストスプリングの助勢を受けながら、バランスよく出力ロッドに伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態のクラッチ用アクチュエータの第1の動作状態(常時接続型クラッチの接続時の状態であり、出力ロッドが退縮している時の状態)を示す構成図である。
【図2】同クラッチ用アクチュエータの要部を取り出して示す側面図である。
【図3】同クラッチ用アクチュエータの要部を出力側から見て示す正面図である。
【図4】同クラッチ用アクチュエータの第2の動作状態(常時接続型クラッチの半切断から切断時の状態であり、出力ロッドが伸長している時の状態)を示す構成図である。
【図5】同クラッチ用アクチュエータの中のボールネジ減速機構と第1リンク機構の組立体を取り出して示す構成図である。
【図6】同クラッチ用アクチュエータの中のアシストスプリングを含む第2リンク機構を取り出して示す構成図であり、(a)は、出力ロッドが、アクチュエータ出力とクラッチスプリングのバネ力が釣り合うバランス位置よりも引き込み側で、アシストスプリングと固定軸との直線上よりも引き込まれたストッパ位置にある場合を示し、(b)は、出力ロッドがアシストスプリングと固定軸との直線上にある場合を示す。
【図7】同クラッチ用アクチュエータの中のアシストスプリングを含む第2リンク機構を取り出して示す構成図であり、(a)は、出力ロッドが、アクチュエータ出力とクラッチスプリングのバネ力が釣り合うバランス位置にある場合を示し、(b)は、出力ロッドが全ストローク押し出された位置にある場合を示す。
【図8】本発明の第2実施形態のクラッチ用アクチュエータの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態に係るクラッチ用アクチュエータを図1〜図4を参照して説明する。
【0015】
このアクチュエータは、ハウジング1と、ハウジング1に取り付けられた電動式のモータ(駆動源)2と、ハウジング1の内部に収容され、モータ2の回転出力軸に連結されたネジ軸4、そのネジ軸4の外周に設けられたナット5、ネジ軸4及びナット5の間に収容された多数のボール(図示略)を有し、ネジ軸4の回転運動をナット5の直線運動に減速して変換するボールネジ減速機構3と、ハウジング1の外部に直線運動(矢印A方向の運動)としての出力を取り出す出力ロッド50と、ハウジング1の内部に収容され、ボールネジ減速機構3のナット5の直線運動を出力ロッド50に伝達する第1リンク機構13および第2リンク機構20(出力機構)と、を備えている。第2リンク機構20には、出力ロッド50の移動を助勢するアシストスプリング21が含まれている。この場合、本実施形態では、常時接続式のクラッチの操作機構に当該アクチュエータが組み込まれていることによって、出力ロッド50には、クラッチスプリングのバネ力(相手側スプリング荷重:図7参照)が、出力ロッド50の引っ込み側に向けて加わっている。
【0016】
ハウジング1の所定位置には固定軸11が設けられており、その固定軸11に回動自在に第1、第2の2つの固定回動ボス(固定回動軸)10、30が嵌合されている。これら第1、第2の固定回動ボス10、30は一体に回動することができるように、係合手段31(例えば、互いに嵌り合う凹部と凸部)によって互いに係合されている。
【0017】
第1の固定回動ボス10は、ナット5の直線運動を当該固定回転ボス10の回転運動に変換する第1リンク機構13に連結され、第2の固定回動ボス30は、当該固定回転ボス30の回転運動を出力ロッド50の直線運動に変換する第2リンク機構20に連結されている。
【0018】
ここで、図5に示すように、第1リンク機構13は、ナット5にピン7を介して基端が回動自在に連結された第1リンク6と、この第1リンク6の先端にピン8を介して基端が回動自在に連結され、先端が第1の固定回動ボス10に一体に連結された第2リンク9とから構成されている。
【0019】
また、図6及び図7に示すように、第2リンク機構20は、一方のアームの先端が第2の固定回動ボス30に一体に連結されたL形の第1リンク26と、このL形の第1リンク26の曲がり部にピン27を介して基端が回動自在に連結され、先端が出力ロッド50の基部にピン28を介して回動自在に連結された第2リンク29と、L形の第1リンク26の他方のアームの先端にピン25を介して一端が連結され、他端がハウジング1の固定軸24に回動可能に連結された直線伸縮型のアシストスプリング21と、から構成されている。
【0020】
本実施形態では、固定回転ボス10、30を含めて、第1リンク機構13及び第2リンク機構20は、ボールネジ減速機構3のネジ軸4の両側にそれぞれ一対対称に配設されている。なお、図2に示すように、ネジ軸4と出力ロッド50の位置はずれており、互いに干渉しないようになっている。
【0021】
また、図6及び図7に示すように、アシストスプリング21の固定端(固定軸24の位置)とハウジング1に設けた固定軸11とを結ぶ直線Lに対して、アシストスプリング21の可動側の先端の位置(ピン25の位置)がどこにあるかによって、アシストスプリング21が、L形の第1リンク26に与える付勢力の方向が決まり、ある作動変換点(前記直線L上にピン25がある点)を境にして、出力ロッド50に加わる力の方向が切り替わるようになっている。従って、出力ロッド50が、図6(a)に示す移動範囲の一端側(引き込み側の移動端)から図6(b)に示す作動変換点を超えて、図7(a)に示すように、他端側(押し出し側の移動端)へ移動するときには、アシストスプリング21はその押し出し方向への移動を助勢することができる。
【0022】
この際、図6及び図7に示すように、アシストスプリング21のバネ力によって出力ロッド50を動かす第2リンク機構20が、一対互いに対称に配置されていることによって、アシストスプリング21による助勢力が、出力ロッド50が所定のストローク〔図7(a)に示す位置〕に向けて一端側から他端側へ移動するときに最小から徐々に最大に変化するようになっている。例えば、図6(b)の位置に第2リンク機構20があるとき、ピン25が直線L上にあるために、アシストスプリング21の力は、L形の第1リンク26を回転させる力として全く作用しないが、図6(b)の位置から図7(a)の位置に第2リンク機構20が移動するに従い、徐々にアシストスプリング21の力が、L形の第1リンク26を回転させる力として作用するようになる。そして、図7(a)の位置にあるときに、固定軸24やピン25、27、28などの位置関係から、アシストスプリング21の力を最大に出力ロッド50を押し出す力として反映させることができるようになる。
【0023】
また、このアシストスプリング21による最大のアシスト力を得られる点〔図7(a)に示す出力ロッド50のストローク位置〕で、クラッチが切断できるように設定されており、その点で、クラッチスプリングのバネ力(出力ロッド50を押し込む方向の反力)と、アシストスプリング21による推力(出力ロッド50を押し出す力)とが釣り合うようにバランス位置が決められている。具体的には、本実施形態では、全ストロークが20mmの出力ロッド50において、バランス位置は、出力ロッド20が最も引き込まれた位置〔図6(a)の位置〕から12mmほど突き出した位置に設定されている。なお、出力ロッド20のストローク、荷重設定、及びバランス位置については、任意に設定可能である。
【0024】
常時接続型のクラッチを操作する場合は、クラッチを切断するために出力ロッド50を押し出すときが重要(大きな推力が必要)であり、そのときに、アシストスプリング21による十分なアシスト力(助勢力)が出力ロッド50に伝達されるようになっており、図7(a)の位置に第2リンク機構20が変位したときに、アシストスプリング21だけの力によって、クラッチスプリングの反力に抗して(反力と釣り合って)クラッチプレートを切り離し位置に保持できるようになっている。つまり、この段階では、モータ2の力を全く必要とせずに(モータ2を停止しても)、アシストスプリング21による推力とクラッチスプリングの反力の釣り合いだけで、バランス状態を保っておくことができる。
【0025】
また、図7(a)の位置から図6(b)に示す位置に戻す(出力ロッド50を引き込む)場合は、クラッチスプリングの反力を利用しつつ、モータ2による制御により、アシストスプリング21のバネ力に抗して第2リンク機構20を変位させる。このようにクラッチスプリングの反力を利用することにより、小さなモータ2の力で、出力ロッド50の位置を制御することができる。
【0026】
また、この途中の段階で半クラッチ制御を行うことができ、さらに半クラッチの段階を過ぎることにより、クラッチが完全に接続された状態となる。それまでは、クラッチスプリングの力を利用して、出力ロッド50を引き込むことができるので、モータ2の負荷を最小に抑えることができる。また、図7(a)の位置から図6(b)の位置に近づくにつれて、アシストスプリング21から出力ロッド50に伝わる力は小さくなるので、クラッチの完全係合に伴ってクラッチスプリングの反力が利用できなくなっても、モータ2の小さい力だけで出力ロッド50を図6(b)の位置まで容易に変位させることができる。
【0027】
そして、最終的には、図6(b)に示す作動変換点を越えて、図6(a)に示す位置まで第2リンク機構20を変位させる。そうすると、第2リンク機構20が作動変換点を越えた段階で、アシストスプリング21の力が、今度は出力ロッド50を引き込む方向の力として作用するようになる。
【0028】
次に動作を説明する。
図1の状態からモータ2を回転させると、ボールネジ減速機構3のナット5が図1中右方向に直線移動し、第1リンク機構13の作用で、固定回転ボス10が図5中B方向に回転する。固定回転ボス10がB方向に回転すると、固定軸11上にて固定回転ボス10と固定回転ボス30が互いに係合されているので、固定回転ボス30が同じ方向に回転し、それにより第2リンク機構20のL形の第1リンク26も回転して、その回転が第2リンク29に伝達され、出力ロッド50が図中右方向に直線移動する。その際、アシストスプリング21の先端のピン25の位置が作動変換点を超えること(直線Lの内側にくること)によって、アシストスプリング21のアシスト力が出力ロッド50に加わり始める。
【0029】
第2リンク機構20が図7(a)の位置に近づくに従って、アシストスプリング21のバネ力が大きな推力として出力ロッド50に伝達されるようになり、出力ロッド50が、クラッチスプリングのバネ力に抗してクラッチを切断側に操作する。この段階においては、アシストスプリング21から出力ロッド50に伝達される推力が、クラッチスプリングの反力に十分に拮抗するようになるので、モータ2の力にあまり頼らずに、図7(a)に示す位置まで変位させることができる。そして、最終的に図7(a)の位置まで第2リンク機構20が到達したら、モータ2を停止する。そうすると、アシストスプリング21による推力とクラッチスプリングのバネ力との釣り合いにより、図7(a)のクラッチ切断の状態が保持される。
【0030】
また、図4及び図7(a)のクラッチ切断状態からクラッチを接続する場合は、モータ2を反対方向に回転させる。そうすると、ボールネジ減速機構3のナット5が図4中左方向に直線移動し、第1リンク機構13の作用で、固定回転ボス10、30が図5中C方向に回転する。固定回転ボス30がC方向に回転すると、第2リンク機構20のL形の第1リンク26も回転し、その回転が第2リンク29に伝達され、出力ロッド50が図中左方向に直線移動する。
【0031】
この際、クラッチスプリングによる反力が出力ロッド50を引っ込める方向に作用するので、アシストスプリング21による推力に抗しながら出力ロッド50を小さな力で引っ込めることができて、クラッチを接続状態に移行させることができる。半クラッチ制御を行う場合は、クラッチが完全係合する前の段階でモータ2の電流を調節することにより、出力ロッド50の位置を制御することで行う。その際、アシストスプリング21による推力とクラッチスプリングの反力とが釣り合う点の近くで、出力ロッド50の位置をモータ2により制御することができるので、微妙な制御を小さなモータ2の力だけで行うことができる。
【0032】
そして、最終的には、図6(b)の位置から図6(a)の位置まで、つまり、アシストスプリング21の先端のピン25の位置が作動変換点を越える(直線Lの外側にくる)位置まで第2リンク機構20を作動させる。そうすると、アシストスプリング21の力が、今度は出力ロッド50を引き込む方向の力として作用するようになる。そこで、この力が小さい段階の位置で、第2リンク機構20をハウジング1の内壁などでストップさせる。そうすることにより、図6(a)の状態を保持することができる。
【0033】
このように、実施形態のクラッチ用アクチュエータは、減速部にボールネジ減速機構3を用いているので、小型化を図りながら小さい伝達ロスで大減速を行うことができ、大きな推力を出力ロッド50から取り出すことができる。また、アシストスプリング21により出力ロッド50の移動を助勢することができるので、モータ2の力を小さく抑えながら、大きな推力を出力ロッド50から取り出すことができる。
【0034】
特に、アシストスプリング21を第2リンク機構20に組み込むことで、アシストスプリング21による助勢力が、特定の出力ロッド50のストローク(12mmだけ突出する位置)に向けて徐々に大きくなるようにしているので、クラッチスプリングの反力とアシストスプリング21による助勢力とのバランスを考慮して、このクラッチ用アクチュエータをクラッチの操作機構に組み込むことにより、モータ2の出力を最大限に抑制しながら、効率良くクラッチの断続を行うことができる。従って、モータ2を小型化できて、アクチュエータ全体の小型化に寄与できるメリットも得られる。
【0035】
また、本実施形態のアクチュエータでは、ハウジング1の固定位置に設けた固定回転ボス11を境にして、運動を伝達するリンク機構を、第1と第2の2つのリンク機構13、20に分割しており、第1リンク機構13はボールネジ減速機構3のナット5に連結し、第2リンク機構20にアシストスプリング21を組み込んでいるので、複雑なリンク機構を、系統を分けて単純に組み立てられるようにすることができる。
【0036】
また、本実施形態のアクチュエータでは、固定回転ボス11、第1リンク機構13、及び第2リンク機構20を、ボールネジ減速機構3のネジ軸4の両側にそれぞれ一対対称に配設したので、ボールネジ減速機構3のナット5の動きをアシストスプリング21の助勢を受けながら、バランスよく出力ロッド50に伝えることができ、スムーズな動きを実現できる。
【0037】
図8は本発明の第2実施形態のクラッチ用アクチュエータの構成を示している。
このアクチュエータは、第1リンク機構およびアシストスプリングを含む第2リンク機構を1つだけ設けたものである。
【0038】
このクラッチ用アクチュエータは、ハウジング101と、ハウジング101に取り付けられた電動式のモータ(駆動源)102と、ハウジング101の内部に収容され、モータ102の回転出力軸に連結されたネジ軸104、そのネジ軸104の外周に設けられたナット105、ネジ軸104及びナット105の間に収容された多数のボール(図示略)を有し、ネジ軸104の回転運動をナット105の直線運動(矢印A方向の運動)に減速して変換するボールネジ減速機構103と、ハウジング101の外部に直線運動としての出力を取り出す出力ロッド150と、ハウジング101の内部に収容され、ボールネジ減速機構103のナット105の直線運動を出力ロッド150に伝達する第1リンク機構113および第2リンク機構120(出力機構)と、を備えている。第2リンク機構120には、出力ロッド150の移動を助勢するアシストスプリング121が含まれている。
【0039】
ハウジング101の所定位置には固定軸111が設けられており、その固定軸111に回動自在に第1、第2の2つの固定回動ボス(固定回動軸)110、130が嵌合されている。これら第1、第2の固定回動ボス110、130は一体に回動することができるように係合されている。
【0040】
第1の固定回動ボス110は、ナット105の直線運動を当該固定回転ボス110の回転運動に変換する第1リンク機構113に連結され、第2の固定回動ボス130は、当該固定回転ボス130の回転運動を出力ロッド150の直線運動に変換する第2リンク機構120に連結されている。
【0041】
第1リンク機構113は、ナット105にピン107を介して基端が回動自在に連結された第1リンク106と、この第1リンク106の先端にピン108を介して基端が回動自在に連結され、先端が第1の固定回動ボス110に一体に連結された第2リンク109とから構成されている。
【0042】
また、第2リンク機構120は、一方のアームの先端が第2の固定回動ボス130に一体に連結され且つ曲がり部が出力ロッド150の基部にピン128を介して回動自在に連結された屈曲したリンク126と、このリンク126の他方のアームの先端にピン125を介して一端が連結され、他端がハウジング101の固定軸124に回動可能に連結された直線伸縮型のアシストスプリング121と、から構成されている。
【0043】
この場合も、アシストスプリング121の固定端(固定軸124の位置)とハウジング101に設けた固定軸111とを結ぶ直線Lに対して、アシストスプリング121の可動側の先端の位置(ピン125の位置)がどこにあるかによって、アシストスプリング121が、リンク126に与える付勢力の方向が決まり、ある作動変換点(前記直線L上にピン125がある点)を境にして、出力ロッド150に加わる力の方向が切り替わるようになっている。従って、出力ロッド150が、その移動範囲の一端側(引き込み側の移動端)から作動変換点を超えて他端側(押し出し側の移動端)へ移動するときには、アシストスプリング121はその押し出し方向への移動を助勢することができる。
【0044】
この際、アシストスプリング121による助勢力は、出力ロッド50の移動範囲の途中の所定のストロークに向けて一端側から他端側へ移動するときに最小から徐々に最大に変化するようになっている。また、このアシストスプリング121による最大のアシスト力を得られる点で、クラッチが切断できるように設定されており、その点で、クラッチスプリングのバネ力(出力ロッド150を押し込む方向の反力)と、アシストスプリング121による推力(出力ロッド150を押し出す力)とが釣り合うようにバランス位置が決められている。その部分の設定の仕方は、第1実施形態と同様である。
【0045】
本実施形態は、固定回転ボス110、130を含めて、第1リンク機構113及び第2リンク機構120が1組だけ設けられているものであり、動作は第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0047】
1,101 ハウジング
2,102 モータ(駆動源)
3,103 ボールネジ減速機構
4,104 ネジ軸
5,105 ナット
10,30,110,130 固定回転ボス(固定回転軸)
13,113 第1リンク機構
20,120 第2リンク機構
21,121 アシストスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
該ハウジングに取り付けられた駆動源と、
該駆動源の回転出力軸に連結されたネジ軸、該ネジ軸の外周に設けられたナット、前記ネジ軸及びナットの間に収容された多数のボールを有し、前記ネジ軸の回転運動を前記ナットの直線運動に減速して変換するボールネジ減速機構と、
前記ハウジングの外部に直線運動としての出力を取り出す出力ロッドと、
該ボールネジ減速機構の前記ナットの直線運動を前記出力ロッドに伝達する出力機構と、
を具備することを特徴とするクラッチ用アクチュエータ。
【請求項2】
前記出力機構が、前記出力ロッドの移動を助勢するアシストスプリングを含んでおり、
該アシストスプリングは、前記出力ロッドがその移動範囲の一端側から他端側へ移動するときその方向への移動を助勢し、且つ、その助勢力が、前記出力ロッドが所定のストロークに向けて一端側から他端側へ移動するときに最小から徐々に最大に変化するように、リンク機構に組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ用アクチュエータ。
【請求項3】
前記ハウジングの固定位置に固定回転軸が設けられ、
その固定回転軸に、前記ナットの直線運動を前記固定回転軸の回転運動に変換する第1リンク機構が連結されると共に、前記固定回転軸の回転運動を前記出力ロッドの直線運動に変換する第2リンク機構が連結され、その第2リンク機構に前記アシストスプリングが組み込まれていることを特徴とする請求項2に記載のクラッチ用アクチュエータ。
【請求項4】
前記固定回転軸、前記第1リンク機構、及び前記第2リンク機構が、前記ボールネジ減速機構のネジ軸の両側に、それぞれ一対配設されていることを特徴とする請求項3に記載のクラッチ用アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−190393(P2010−190393A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38060(P2009−38060)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】