説明

クラッチ装置

【課題】クラッチ操作を手動と自動とに任意に選択でき、かつ、構造の大型化を抑制したクラッチ装置を提供する。
【解決手段】クラッチレバー(手動操作子)11の操作に応じて移動する第1プレッシャプレート(手動側押圧部材)25の他側に設けられ、エンジンの回転による遠心力で移動する遠心ウエイト51により作動する第2プレッシャプレート(遠心側押圧部材)27を備え、エンジン回転数が上昇すると遠心ウエイト51が遠心力により第2プレッシャプレート27に作用してトルク伝達を可能とする遠心クラッチ機構55を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動される入力部材から出力部材へのトルク伝達を断続するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車には、ハンドルにクラッチレバーを設け、このクラッチレバーの操作によりエンジンの動力伝達を断続する手動クラッチ装置を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、この種の車両のクラッチ装置には、手動クラッチ装置以外に遠心クラッチ装置も知られている。この遠心クラッチ装置には、エンジン高回転時の変速操作時にシフト軸の中立位置を確保するために、シフトペダルの操作により変速とクラッチの切り替えを同時に行うクラッチ装置、つまり、変速装置と連動する遠心クラッチ装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2008−81023号公報
【特許文献2】特開昭56−52629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、手動クラッチ装置を備えた車両の場合、走行中の駆動力調整、動力伝達の断続、及び、エンジンブレーキ調整を運転者が任意に行うことができる利点があるものの、道路渋滞により発進と停止を頻繁に繰り返す走行状況では、クラッチレバーの操作が煩雑になり、操作上の煩わしさが生じてしまう場合があった。
一方、遠心クラッチ装置を備えた車両の場合には、自動でクラッチ操作を行うため、手動クラッチ装置の上記利点がなく、例えば、任意のエンジン回転数にて発進したり、エンジンブレーキをかけずに走行したり、といったことができなかった。すなわち、従来のクラッチ装置には、自動変速が有する利便性と手動変速が有する操作自由度との両方を具備するものがなかった。
この場合、この手動クラッチ装置と遠心クラッチ装置の両方を組み合わせることが考えられるが、単に組み合わせただけでは、構造の大型化や複雑化を招いてしまう。
【0004】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、クラッチ操作を手動と自動とに任意に選択でき、かつ、構造の大型化を抑制したクラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述課題を解決するため、本発明は、エンジンにより駆動される入力部材に連結され、複数の第1摩擦板が内周面に相対回転不能に係合されるクラッチアウタと、このクラッチアウタの内部に配置され、前記複数の第1摩擦板の間に配置される複数の第2摩擦板が外周面に相対回転不能に係合されると共に、出力部材と一体に回転するクラッチインナと、前記第1及び第2摩擦板を圧接させて前記入力部材から前記出力部材へのトルク伝達を可能とする手動側押圧部材と、手動操作子の操作に応じて前記手動側押圧部材を移動させて前記トルク伝達を断続させる手動式レリーズ機構とを備えるクラッチ装置において、前記手動側押圧部材の他側に設けられ、前記エンジンの回転による遠心力で移動する遠心ウエイトにより作動する遠心側押圧部材を備え、エンジン回転数が上昇すると前記遠心ウエイトが遠心力により前記遠心側押圧部材に作用して前記トルク伝達を可能とする遠心クラッチ機構を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、手動側押圧部材の他側に設けられ、エンジンの回転による遠心力で移動する遠心ウエイトにより作動する遠心側押圧部材を備え、エンジン回転数が上昇すると遠心ウエイトが遠心力により遠心側押圧部材に作用してトルク伝達を可能とする遠心クラッチ機構を備えたので、クラッチ操作を手動と自動とに任意に選択でき、かつ、構造の大型化を抑制することができる。
【0006】
上記構成において、前記クラッチアウタは、前記遠心クラッチ機構が前記トルク伝達を遮断状態のときに前記手動側押圧部材が当接する当接部を有するようにしてもよい。この構成によれば、手動側押圧部材の当接時の位置のばらつきを小さくすることができる。
また、上記構成において、前記クラッチインナは、前記手動側押圧部材と前記遠心側押圧部材との間に位置するクラッチセンタを備え、前記遠心側押圧部材を前記遠心ウエイト側に押圧するリターンスプリングを、前記クラッチセンタの内周に位置するように設けるようにしてもよい。この構成によれば、摩擦板外側にリターンスプリングを設けるものに比して、摩擦板の径方向の大きさを小さくせずにすむ。
【0007】
また、上記構成において、前記リターンスプリングを、皿ばねとし、前記クラッチセンタと前記遠心側押圧部材との間に設けるようにしてもよい。この構成によれば、リターンスプリングのサイズを小さくでき、クラッチセンタと遠心側押圧部材との間のスペースを有効利用して装置全体を小型化できる。
また、上記構成において、前記手動側押圧部材と前記クラッチセンタとに、前記トルク伝達の際に互いに噛み合うカムを設け、これらカムにより、前記出力部材からバックトルクが作用した場合に、前記手動側押圧部材を前記第1摩擦板と前記第2摩擦板との摩擦係合力を低下させる側へ移動させ、前記入力部材から駆動トルクが作用した場合に、前記手動側押圧部材を前記第1摩擦板と前記第2摩擦板との摩擦係合力を低下させる側へ移動させるカム機構を構成してもよい。この構成によれば、手動側押圧部材とクラッチセンタとの間にカム機構を設けることができ、装置全体の大型化を回避できる。この場合、カム機構を手動クラッチ機構側に設けるので、遠心クラッチ機構側に設けた場合に比して、バックトルクの伝達をより低減させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、手動操作子の操作に応じて移動する手動側押圧部材の他側に設けられ、エンジンの回転による遠心力で移動する遠心ウエイトにより作動する遠心側押圧部材を備え、エンジン回転数が上昇すると遠心ウエイトが遠心力により遠心側押圧部材に作用してトルク伝達を可能とする遠心クラッチ機構を備えるようにしたので、クラッチ操作を手動と自動とに任意に選択でき、かつ、構造の大型化を抑制することができる。
また、クラッチアウタは、遠心クラッチ機構がトルク伝達を遮断状態のときに手動側押圧部材が当接する当接部を有するようにしたので、手動側押圧部材の当接時の位置のばらつきを小さくすることができる。
また、クラッチインナは、手動側押圧部材と遠心側押圧部材との間に位置するクラッチセンタを備え、遠心側押圧部材を遠心ウエイト側に押圧するリターンスプリングをクラッチセンタの内周に位置するように設けたので、摩擦板外側にリターンスプリングを設けるものに比して、摩擦板の径方向の大きさを小さくせずにすむ。
【0009】
また、リターンスプリングを、皿ばねとし、クラッチセンタと遠心側押圧部材との間に設けるようにしたので、リターンスプリングのサイズを小さくでき、クラッチセンタと遠心側押圧部材との間のスペースを有効利用して装置全体を小型化できる。
また、手動側押圧部材とクラッチセンタとに、トルク伝達の際に互いに噛み合うカムを設け、これらカムにより、出力部材からバックトルクが作用した場合に、手動側押圧部材を第1摩擦板と前記第2摩擦板との摩擦係合力を低下させる側へ移動させ、入力部材から駆動トルクが作用した場合に、手動側押圧部材を第1摩擦板と第2摩擦板との摩擦係合力を低下させる側へ移動させるカム機構を構成したので、手動側押圧部材とクラッチセンタとの間にカム機構を設けることができ、装置全体の大型化を回避できると共に、カム機構を手遠心クラッチ機構側に設けた場合に比して、バックトルクの伝達をより低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を添付した図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るクラッチ装置を周辺構成と共に示す図である。また、図2〜図5は、クラッチ装置の側断面図を示している。
このクラッチ装置10は、自動二輪車(不図示)のエンジンのクランクシャフト(不図示)から変速機100の主軸を構成するメインシャフト1へ向かう回転動力伝達経路上に設置され、運転者のクラッチ操作に応じて回転動力(トルク)の伝達を遮断及び接続させるものである。
すなわち、自動二輪車には、エンジンの一部を構成するクランクケース2内に、クランクシャフト、メインシャフト及びカウンタシャフト(不図示)が回転自在に支持されており、クランクシャフトには、ドライブギヤが設けられており、メインシャフト1には、図1に示すように、このシャフト1にスリーブ4を介して回転自在に支承されてドライブギヤに噛み合うドリブンギヤ5が設けられている。そして、このドリブンギヤ5とメインシャフト1との間にクラッチ装置10が構成されている。なお、図1中、符号6、7は、メインシャフト1をクランクケース2の壁2A、2Bに回転自在に支持するための左右一対の軸受である。
【0011】
また、自動二輪車の変速機100は、メインシャフト1及びカウンタシャフトに嵌め込まれた複数組のギヤからなるギヤ部100Aを備え、運転者のシフト操作に応じていずれかのギヤを介してメインシャフト1の回転をカウンタシャフトに伝達し、所定の変速比でカウンタシャフトを回転駆動して自動二輪車の後輪を回転駆動させ、これによって、シフト操作に応じて伝達ギヤを切り換えて変速比を変更する。
また、自動二輪車には、図示せぬハンドルにクラッチレバー(手動操作子)11が設けられ、このクラッチレバー11が操作されると(引かれると)、クラッチ装置10がドリブンギヤ5からメインシャフト1への動力伝達を遮断し、カウンタシャフト及び後輪への動力伝達を遮断する。ここで、この自動二輪車においては、従来の一般的な自動二輪車と同様に、メインシャフト1が車両の進行方向に対して直角方向にレイアウトされ、つまり、車幅方向に沿ってレイアウトされている。なお、図中、符号Rは、車両に乗車した運転者から見た右方向(車体右側)を示している。
【0012】
図2に示すように、クラッチ装置10は、メインシャフト1の軸受7よりも外側(図中R側)に延長する軸端部1Aに配設されている。
クラッチ装置10は、入力部材であるドリブンギヤ5に連結されるクラッチアウタ21と、出力部材であるメインシャフト1と一体に回転するクラッチインナ22と、クラッチアウタ21の内周面に相対回転不能に係合される複数のフリクションプレート(第1摩擦板)23と、フリクションプレート23に交互に重ねられ、クラッチインナ22の内周面に相対回転不能に係合される複数のクラッチプレート(第2摩擦板)24と、フリクションプレート23とクラッチプレート24とを圧接させる第1プレッシャプレート(手動側押圧部材)25と、第1プレッシャプレート25をクラッチレバー11の操作に応じて移動させてクラッチ接続(動力伝達状態)を断続させる手動式レリーズ機構26と、第1プレッシャプレート25と対でクラッチ接続を保持させる第2プレッシャプレート(遠心側押圧部材)27とを備えている。
【0013】
クラッチアウタ21は、軽量金属材料であるアルミニウム合金で製造され、ドリブンギヤ5にリベット31によって連結される略円板状の基部21Aと、この基部21Aからメインシャフト1の軸方向(図中R方向)に略筒状に延びる延長筒部21Bとを有し、この延長筒部21Bの内側に、複数のフリクションプレート23がメインシャフト1の軸方向に移動自在に相対回転不能に係合される。このクラッチアウタ21は、ドリブンギヤ5に連結されるため、ドリブンギヤ5と一体に回転する。また、ドリブンギヤ5とクラッチアウタ21の基部21Aとの間には、ドリブンギヤ5とクラッチアウタ21との間の伝達力の急激な立ち上がりを緩和するダンパースプリング32が配置されると共に、ドリブンギヤ5に対してクラッチアウタ21を軸方向に付勢してクラッチアウタ21を位置決め等するための皿ばね33とが配置されている。
【0014】
クラッチインナ22は、SCM浸炭鋼で製造され、出力部材であるメインシャフト1にスプライン結合される略円板状のクラッチセンタ22Aと、このクラッチセンタ22Aの外周部から軸方向前後に延びるクラッチピストン22Bとを備えている。このクラッチインナ22は、メインシャフト1にスプライン結合されるため、メインシャフト1に対して相対回転不能かつ軸方向に自在である。
このクラッチインナ22は、メインシャフト1に対してスリーブ4の後に挿入され、クラッチアウタ21の延長筒部21Bの内側にレイアウトされ、このクラッチインナ22の外周面(クラッチピストン22Bの外周面)に、クラッチアウタ21の延長筒部21Bに設けられた複数のフリクションプレート23と軸方向に交互に配置される複数のクラッチプレート24が相対回転不能に係合される。
メインシャフト1には、このクラッチインナ22を挿入した後、スペーサ8を介してナット9を締結することによって、スリーブ4及びクラッチインナ22の位置決め及び抜け止めが行われる。この場合、図示のように、メインシャフト1の端部がクラッチインナ22のクラッチピストン22B内側にレイアウトされるため、クラッチピストン22B内側のスペースを有効利用してスペーサ8及びナット9がレイアウトされ、メインシャフト1の軸方向(R側)への大型化を回避できる。
【0015】
このメインシャフト1は、軸方向に中空孔1Cを有する中空シャフトに形成されており、このメインシャフト1の中空孔1Cには、リフターピース35が軸方向にスライド自在に挿入され、このリフターピース35にレリーズ軸受36を介して第1プレッシャプレート25が回転自在に支持されている。
この第1プレッシャプレート25は、軽量金属材料であるアルミニウム合金で製造された略円板状に形成され、クラッチインナ22に対して車体外側(R側)にレイアウトされ、フリクションプレート23とクラッチプレート24とを圧接する側に押圧する押圧部材(手動側押圧部材)として機能する。
【0016】
より具体的には、第1プレッシャプレート25は、クラッチアウタ21の延長筒部21Bの内径よりも小径に形成されてクラッチアウタ21の延長筒部21Bの内側に入り込むようにレイアウトされる。また、フリクションプレート23に対向する外周部25Aがフリクションプレート23側に向けて略L字状に屈曲するL字断面形状に形成され、この外周部25Aの背面に形成された段差部25Bと、クラッチアウタ21の延長筒部21Bに設けられたサークリップ(つば部)38との間に、フリクションプレート23とクラッチプレート24とが圧接する側に第1プレッシャプレート25を付勢するクラッチスプリング39が配置される。すなわち、第1プレッシャプレート25の外周部25Aにクラッチインナ22側に凹む段差部25Bを形成し、この段差部25Bをクラッチスプリング39で押圧するように構成することで、クラッチスプリング39をクラッチインナ22寄りに配置でき、その分、メインシャフト1の軸方向(R側)への大型化を回避できる。
【0017】
上記リフターピース35の第1プレッシャプレート25よりも車体外側(R側)には、環状凹部35Aが設けられ、この環状凹部35Aには、アーム部41の先端に設けられたクラッチ作動シャフト42の爪部42Aが引っ掛けられる。このアーム部41は、端部金具43を介してクラッチケーブル44が連結され、このクラッチケーブル44の他端にクラッチレバー11が連結される。そして、図3に示すように、クラッチレバー11が矢印A方向に操作されると(引かれると)、クラッチケーブル44が矢印B方向に引かれてアーム部41が矢印C方向(図中反時計回り方向)に回動する。
図3に示すように、アーム部41が矢印C方向へ回動すると、クラッチ作動シャフト42が矢印D方向に回動し、クラッチ作動シャフト42の爪部42Aがリフターピース35を矢印E方向に移動し、第1プレッシャプレート25を図中R方向(=矢印E方向)に移動させる。
このようにして第1プレッシャプレート25がクラッチスプリング39の付勢力に抗して図中R方向に移動させられると、フリクションプレート23とクラッチプレート24との圧接力が弱められて摩擦係合が解除し、クラッチアウタ21とメインシャフト1との間の動力伝達(トルク伝達)が遮断される。これによって、第1プレッシャプレート25をクラッチレバー11の操作に連動させて動力伝達を遮断する手動式レリーズ機構26が構成される。
なお、クラッチレバー11の操作をクラッチケーブル44を介して手動式レリーズ機構26に伝える場合について説明したが、これに限らず、油圧によって伝えても良く、また、手動式レリーズ機構26も上記のカム式に限らず、ラック&ピニオン式等の他の方式を適用してもよい。
【0018】
図2に示すように、第2プレッシャプレート27は、第1プレッシャプレート25との間にフリクションプレート23とクラッチプレート24とを挟持するように第1プレッシャプレート25の他側に設けられている。より具体的には、第2プレッシャプレート27は、クラッチアウタ21とクラッチインナ22との間のスペース内に収まるように、スリーブ4の外周に軸方向に移動自在に設けられ、メインシャフト1に対して相対回転自在である。この第2プレッシャプレート27は、軽量金属材料であるアルミニウム合金で製造され、メインシャフト1に挿入されたスリーブ4に遊嵌される略筒状の基部27Aと、この基部27Aから外周方向へ延びる略円板状のプレート本体27Bとを有し、この第2プレッシャプレート27の外径が、クラッチアウタ21の延長筒部21Bの内径よりも小径に形成されることによって、クラッチアウタ21の延長筒部21Bの内側であって、クラッチアウタ21の基部21Aとクラッチインナ22のクラッチセンタ22Aとの間の狭いスペース内に軸方向に移動自在に配置される。
【0019】
また、この第2プレッシャプレート27のプレート本体27Bとクラッチセンタ22Aとの間には、皿ばねからなるリターンスプリング45が介挿され、このリターンスプリング45によって、第2プレッシャプレート27がクラッチインナ22から離間する側(R方向の逆方向)へ付勢される。ここで、第2プレッシャプレート27のプレート本体27Bには、メインシャフト1と同軸でクラッチインナ22のクラッチセンタ22A側に向けて突出する外周円形の突出部27Cが一体に形成され、この突出部27Cの外周側にスラスト軸受46が取り付けられ、このスラスト軸受46を介してリターンスプリング45が接触する。このように第2プレッシャプレート27とリターンスプリング45との間にスラスト軸受46を配置したので、リターンスプリング45の付勢力を確実に第2プレッシャプレート27に作用させることができ、かつ、第2プレッシャプレート27とクラッチセンタ22Aとの間に回転差が生じた場合でも、第2プレッシャプレート27とリターンスプリング45との間に生じる回転摩擦を回避することができる。
【0020】
この第2プレッシャプレート27とクラッチアウタ21の基部21Aとの間には、複数個の遠心ウエイト51がメインシャフト1の周方向に間隔を空けて配置され、これら遠心ウエイト51は、エンジンの回転と共に回転するクラッチアウタ21に設けられた半径方向に延在する傾斜溝部21Sに各々収容されてクラッチアウタ21と一体に回転する。また、各遠心ウエイト51をリターンスプリング45の付勢力によって付勢する第2プレッシャプレート27にも、各遠心ウエイト51を半径方向に案内する溝部27Sが設けられ、この遠心ウエイト51を介してクラッチアウタ21と一体に回転するようになっている。
【0021】
上記のように、各遠心ウエイト51には、第2プレッシャプレート27を介してリターンスプリング45の付勢力が作用するので、エンジンがアイドリング回転数程度の低回転(エンジン停止中を含む)の場合、各遠心ウエイト51が傾斜溝部21Sの傾斜面に案内されてメインシャフト1側(内周側)へと移動し、傾斜溝部21Sの最も内周側に位置する(図2参照)。この場合、第2プレッシャプレート27が、フリクションプレート23とクラッチプレート24とを圧接させない位置(以下、非押圧位置という)へと移動し、これらプレート23、24を摩擦係合させず、動力伝達を遮断した状態に保持する。すなわち、エンジン低回転の場合、第2プレッシャプレート27は、リターンスプリング45の付勢力によりクラッチを切断する位置に保持される。
【0022】
一方、エンジン回転数が上昇すると、このエンジンの回転による遠心力が各遠心ウエイト51に作用するため、遠心ウエイト51に作用する遠心力がリターンスプリング45の付勢力を超えると、図4に示すように、各遠心ウエイト51が、リターンスプリング45の付勢力に抗してメインシャフト1の半径方向(外周側)へと移動する。
この場合、遠心ウエイト51が傾斜溝部21Sの傾斜面に沿って移動するので、第2プレッシャプレート27をフリクションプレート23側へ押し出して、フリクションプレート23とクラッチプレート24とを圧接させる側(以下、押圧位置という)へと移動させ、プレート23、24を摩擦係合させて動力伝達状態に切り換える(図4参照)。これによって、この遠心ウエイト51の作用によりクラッチ接続を断続させる遠心クラッチ機構55が構成される。
ここで、本構成では、第2プレッシャプレート27のプレート本体27Bとクラッチプレート24との間に、ジャダースプリング及びスプリングシートからなるスプリング部材28を介挿している。このため、このスプリング部材28により、遠心クラッチ機構55のクラッチ接続時(本実施形態では遠心クラッチ接続時)に出る振動(いわゆるジャダー)を回避することが可能である。
【0023】
このように、エンジンが低回転(アイドリング回転やエンジン停止を含む)の場合は、第2プレッシャプレート27がリターンスプリング45の付勢力によってクラッチ接続を遮断する非押圧位置に移動するので、クラッチレバー11の操作の有無に関係なく、メインシャフト1への動力伝達(トルク伝達)が遮断される。
これに対し、エンジンが運転されて遠心ウエイト51に作用する遠心力がリターンスプリング45の付勢力を超えると、第2プレッシャプレート27がクラッチ接続する押圧位置へと移動するので、クラッチレバー11が操作されていない場合、つまり、手動でクラッチ接続が遮断されていない場合には、メインシャフト1への動力伝達(トルク伝達)を行うクラッチ接続状態に切り換えることができる。
従って、例えば、エンジン回転数をアイドリング回転数から徐々に上げていくと、自動でクラッチ接続され、運転者によるクラッチ操作無しで自動二輪車を発進させることが可能になり、一方、エンジン回転数が高い状態からアイドリング回転数程度まで下げていくと、自動でクラッチ接続が遮断され、クラッチ操作無しでクラッチ接続を遮断する(クラッチを切る)ことができる。
【0024】
一方、遠心クラッチ機構55が作動している場合(遠心クラッチ接続状態の場合)でも、クラッチレバー11が操作されると(引かれると)、図3に示すように、第1プレッシャプレート25を強制移動してフリクションプレート23とクラッチプレート24との摩擦係合が解除されるので、メインシャフト1への動力伝達を遮断でき、つまり、クラッチ接続を解除することができる。
従って、クラッチレバー11を操作しなければ、エンジン回転数に応じて自動でクラッチ接続/遮断を切り換えるいわゆる自動クラッチの状態にすることができ、クラッチレバー11を操作すれば、従来の手動クラッチと同様に任意のタイミングでクラッチ遮断することが可能になり、クラッチ操作を自動と手動とに容易に切り換えることができる。
【0025】
また、本構成のクラッチアウタ21は、図2に示すように、第1プレッシャプレート25の縁部に対向する部分が第1プレッシャプレート25側に突出することにより、エンジンが低回転で遠心クラッチ機構55がクラッチ遮断状態の場合に、クラッチスプリング39で付勢される第1プレッシャプレート25の縁部が当接する当接部21Cが一体に形成されている。このため、遠心クラッチ非接続状態のときは、第1プレッシャプレート25とクラッチアウタ21とが当接し、第1プレッシャプレート25の当接時の位置のばらつきを小さくすることができる。なお、遠心クラッチ接続状態のときは、図5に示すように、第2プレッシャプレート27が軸方向(R方向)へと移動し、フリクションプレート23及びクラッチプレート24を介して第1プレッシャプレート25を軸方向(R方向)へと移動させるので、第1プレッシャプレート25とクラッチアウタ21との間に隙間L1が形成される。また、上記当接部21Cは、クラッチアウタ21の全周に渡って設けてもよいし、所定の間隔を空けて周方向に複数設けるようにしてもよい。
また、この遠心クラッチ機構55では、図5に示すように、遠心ウエイト51による押付力が回転数上昇により要求押付力以上に高くなりすぎないように、クラッチアウタ21側に、遠心ウエイト51の径方向への移動を規制するウエイトローラストッパ21Pを設置又は、クラッチセンタ22A側に、第2プレッシャプレート27の移動を規制するストッパ22Pを設置して押付力が適正となるように制御している。また、ディスク倒れ防止のため、第2プレッシャプレート27とドリブンギヤ5の内周筒部との間にガイド(インロー:第2プレッシャプレート27の倒れ等を回避可能な適正量のすきまとガイド長さ)をもたせている。
【0026】
以上説明したように、本実施形態のクラッチ装置10では、クラッチレバー11の操作に応じて移動する第1プレッシャプレート25の他側に、エンジンの回転による遠心力で移動する遠心ウエイト51により作動する第2プレッシャプレート27を設けて遠心クラッチ機構55を形成したので、クラッチ操作を手動と自動とに任意に選択可能な遠心式・手動式一体クラッチを構成することができる。これにより、走行中の駆動力調整、動力伝達の断続、及び、エンジンブレーキ調整を運転者が任意に行うことができる手動クラッチの利点と、発進と停止を頻繁に繰り返す走行状況での操作上の煩わしさのない自動クラッチの利点との両方を具備したクラッチ装置にすることができる。
【0027】
しかも、本構成では、第2プレッシャプレート27を、第1プレッシャプレート25の他側に設けたので、第1プレッシャプレート25の他側のスペース、つまり、クラッチアウタ21とクラッチインナ22との間の空きスペースを有効利用して第2プレッシャプレート27をレイアウトでき、装置全体の大型化(メインシャフト1の軸方向及び径方向への大型化)を抑制することができる。
より具体的には、この第2プレッシャプレート27を、メインシャフト1側(スリーブ4)に配設すると共に、クラッチアウタ21の延長筒部21Bの内径よりも小径に形成したため、クラッチアウタ21の延長筒部21Bの内側であって、かつ、クラッチアウタ21の基部21Aとクラッチインナ22のクラッチセンタ22Aとの間の狭いスペース内に効率よくレイアウトでき、クラッチアウタ21やクラッチインナ22に、第2プレッシャプレート27との干渉等を避けるための逃げ部を形成する必要がなく、各部品の形状の複雑化及び大型化を回避することができる。
【0028】
また、本構成では、クラッチアウタ21に、遠心クラッチ非接続状態のときに第1プレッシャプレート25が当接する当接部21Cを設けたので、第1プレッシャプレート25の当接時の位置のばらつきを小さくすることができる。
また、本構成では、第2プレッシャプレート27を遠心ウエイト51側に押圧するリターンスプリング45を、クラッチインナ22のクラッチセンタ22Aの内周に位置するように設けたので、フリクションプレート23及びクラッチプレート24のレイアウトに影響を与えることなく、リターンスプリング45をレイアウトできる。このため、仮に摩擦板(フリクションプレート23、クラッチプレート24に相当)外側にリターンスプリングを設けた場合には、リターンスプリングのレイアウトスペースを確保するために摩擦板の径方向の大きさ(最大径等)を小さくしなければならない制約が生じるが、本構成では、このような制約が生じない利点がある。
しかも、本構成のリターンスプリング45は、クラッチセンタ22Aと第2プレッシャプレート27との間に設けた皿ばねであるため、リターンスプリング45のサイズを小さくでき、クラッチセンタ22Aと第2プレッシャプレート27との間の空きスペースを有効利用して装置全体をより小型化できる。
なお、上述したクラッチアウタ21、クラッチインナ22、フリクションプレート23、クラッチプレート24、第1プレッシャプレート25及び第2プレッシャプレート27等は上述した材料に限らず、いずれもアルミニウム合金、鉄素材等の剛性材料を広く適用可能である。
【0029】
<第2実施形態>
図6は第2実施形態に係るクラッチ装置10を示す。
このクラッチ装置10には、第1プレッシャプレート25とクラッチインナ22とにクラッチ装置10が回転動力伝達(トルク伝達)する際に互いに噛み合うカム71、72が設けられており、これらカム71、72により第1プレッシャプレート25をメインシャフト1の軸方向に移動させてフリクションプレート23とクラッチプレート24との摩擦係合力を調整するカム機構70が構成されている。
【0030】
詳述すると、カム機構70は、クラッチインナ22側に突出するように第1プレッシャプレート25に設けられる複数の凸状カム71と、第1プレッシャプレート25側に突出するようにクラッチインナ22に設けられ、凸状カム71が挿入される複数の凹状カム72とを備えている。
これら凸状カム71及び凹状カム72は、第1プレッシャプレート25及びクラッチインナ22の周方向に間隔を空けて設けられ、例えば、120度間隔で設けた場合には3個ずつ配設される。また、図6では、これらカム71、72を第1プレッシャプレート25及びクラッチインナ22に一体に形成した場合を示しているが、これに限らず、これらカム71、72を第1プレッシャプレート25及びクラッチインナ22とは別体の部品で構成し、これら別体部品を圧入等で連結して第1プレッシャプレート25及びクラッチインナ22に連結するようにしてもよい。
【0031】
図7は、凸状カム71及び凹状カム72を周辺構成と共に示す断面図である。
凸状カム71の周方向外端面には、周方向に対し同一方向に傾斜する第1傾斜面81及び第2傾斜面82がそれぞれ形成され、凹状カム72の周方向内端面にも、周方向に対し同一方向に傾斜する第1傾斜面61及び第2傾斜面62がそれぞれ形成されている。ここで、凹状カム72の径方向外端側は開放されている。なお、この凹状カム72の開放は、本実施形態では、径方向外端側に設けられるが、径方向内端側に設けられても径方向両端側に設けられていてもよい。
凸状カム71の第1傾斜面81は、メインシャフト1から逆駆動力(バックトルク)が作用した時に凹状カム72の第1傾斜面91に当接する。各傾斜面81、91は互いに当接した場合に、第1プレッシャプレート25をクラッチインナ22から離間する側へ移動させるカム面に形成されている。すなわち、メインシャフト1から逆駆動力が作用した時に、第1プレッシャプレート25をクラッチインナ22から離間する側へ移動させれば、フリクションプレート23とクラッチプレート24との摩擦係合力を低下させてクラッチ容量を減少させることができる。
【0032】
また、凸状カム71の第2傾斜面82は、ドリブンギヤ5から駆動力が作用した時に凹状カム72の第2傾斜面92に当接する。これらの傾斜面82、92は互いに当接した場合に、第1プレッシャプレート25をクラッチインナ22に近接する側へ移動させるカム面に形成されている。すなわち、ドリブンギヤ5から駆動力が作用した時に、第1プレッシャプレート25をクラッチインナ22に近接する側へ移動させれば、フリクションプレート23とクラッチプレート24との摩擦係合力を増加させてクラッチ容量を増加させることができる。
【0033】
このように、本実施形態のクラッチ装置10では、第1プレッシャプレート25とクラッチインナ22(より具体的にはクラッチセンタ22A)とにカム71、72を設け、これらカム71、72により、メインシャフト1から逆駆動力(バックトルク)が作用した場合に、第1プレッシャプレート25をフリクションプレート23とクラッチプレート24との摩擦係合力を低下させる側へ移動させると共に、ドリブンギヤ5から駆動力が作用した場合に、第1プレッシャプレート25をフリクションプレート23とクラッチプレート24との摩擦係合力を増加させる側へ移動させるカム機構70を設けている。
この構成によれば、このカム機構70を、第1プレッシャプレート25とクラッチインナ22(クラッチセンタ22A)との間の空きスペースを有効利用して設けることができ、装置全体の大型化を回避することができ、本例では、第1実施形態のクラッチ装置とほぼ同じ大きさにすることが可能である。また、上記第1実施形態のクラッチ装置に対して、上記カム71、72を追加するだけの小変更でカム機構70を容易に追加できる。これにより、いわゆるアシスト・スリッパーの機能を備えた遠心式・手動式一体クラッチを簡易に構成することが可能になる。
【0034】
また、本構成では、上記カム機構70を、遠心クラッチ機構55側ではなく、手動クラッチ機構側に設けている。その理由は、仮にカム機構70を遠心クラッチ機構55側に設けた場合には、遠心クラッチ機構55はエンジン回転による遠心力を利用するため、エンジン回転数が高いと、フリクションプレート23とクラッチプレート24との摩擦係合力を低下させるにはスラスト方向に強い力が必要となり、メインシャフト1からの逆駆動力の伝達を大きく低減させるのが難しくなってしまう。これに対し、カム機構70を手動クラッチ機構側に設けた場合には、エンジン回転数が高くても遠心力に影響されないため、メインシャフト1からの逆駆動力の伝達をより低減させることができるからである。
【0035】
また、本構成では、図6に示すように、第1プレッシャプレート25の段差部25Bにスラスト軸受を取り付け、このスラスト軸受に、クラッチスプリング39が接触するように構成している。これによれば、クラッチスプリング39の付勢力を確実に第1プレッシャプレート25に作用させることができ、かつ、カム機構70の作動により第1プレッシャプレート25とクラッチアウタ21との間に回転差が生じた場合でも、スラスト軸受によりクラッチスプリング39に回転摩擦が作用する事態を回避することができる。
【0036】
さらに、本構成では、凸状カム71の第1傾斜面81及び第2傾斜面82を単純平面の傾斜面にするのではなく、軸方向に対する傾斜角度が変化する曲面形状であって、径方向に対する傾斜角度は変化しない曲面形状に形成しており、具体的には、凸状カム71を回転方向の前後に膨出させる所定の曲率R1を有する曲面に形成している。例えば、この曲率R1は、凸状カム71の軸方向長さL2の略10倍に設定される。この場合、凸状カム71の第1及び第2傾斜面81、82は、ワークと回転工具とを平行軸上で同一方向に回転させて回転工具でワークを断続切削するポリゴン加工により形成される。
一方、さらに、凹状カム72の第1傾斜面91及び第2傾斜面92は、径方向に対する傾斜角度が変化する曲面形状であって、軸方向に対する傾斜角度は変化しない曲面形状(図7参照)に形成しており、具体的には、径方向に所定の曲率R2(不図示)を有する曲面に形成し、例えば、この凹状カム72の第1傾斜面91及び第2傾斜面92は、ドリルなどの切削用工具やワークの動作を座標値によって制御・動作させて切削用工具でワークを切削するNC加工により形成される。
【0037】
このように、凸状カム71の第1及び第2傾斜面81、82を軸方向に対する傾斜角度が変化する曲面形状にし、かつ、凹状カム72の第1及び第2傾斜面91、92を径方向に対する傾斜角度が変化する曲面形状にした場合、凸状カム71の第1傾斜面81と凹状カム72の第1傾斜面91との接触を点接触にすることができると共に、凸状カム71の第2傾斜面82と凹状カム72の第2傾斜面92との接触についても点接触にすることができる。
このように点接触させた場合、凸状カム71及び凹状カム72の加工精度にバラツキが生じたとしても、凸状カム71及び凹状カム72の接触面積が変化することがないので、クラッチ容量の可変特性が一定に確保される。また、凸状カム71及び凹状カム72の加工精度のばらつきが許容されるため、高い加工精度を有する工作機械や、加工後の管理基準を厳しく設定した生産管理体制が不要となるので、クラッチ装置10の製造コストを削減することが可能となる。
【0038】
なお、この実施形態では、カム機構70を構成する一対の凸状カム71及び凹状カム72のカム面のいずれも曲面に形成する場合について説明したが、これに限らず、いずれか一方あるいは両方のカム面を平面にしてもよく、凸状カム71及び凹状カム72を点接触させる構成に限らず、線接触、或いは、面接触させる従来のカム形状を適用してもよい。
【0039】
以上、一実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、種々の設計変形を行うことが可能である。例えば、上述の各実施形態では、クラッチスプリング39に皿ばねを用いた遠心式・手動式一体クラッチを構成する場合について説明したが、これに限らず、例えば、図8に示すように、クラッチスプリング39にコイルばねを使用した遠心式・手動式一体クラッチ装置を構成することも可能である。
【0040】
また、上述の各実施形態において、図9に例示する油圧機構110によってクラッチ接続を断続させるようにしてもよい。詳述すると、この油圧機構110は、メインシャフト1内を軸方向に移動自在に通されたプッシュロッド111と、このプッシュロッド111を作動させる油圧シリンダ120と、油圧シリンダ120に油圧を供給するアクチュエータ(不図示)とを備えている。油圧シリンダ120は、クランクケース2の壁2Aに取り付けられたシリンダ本体121と、このシリンダ本体121に移動自在に挿入されてアクチュエータから供給される油圧で移動するピストン122と、ピストン122をプッシュロッド111に押し付けるスプリング123と、パッキン124、125とを備えて構成されている。この構成によれば、アクチュエータから供給される油圧でピストン122を移動することによって、プッシュロッド111を油圧駆動し、このプッシュロッド111によりリフターピース35を移動して手動クラッチの断続を行うことができる。
【0041】
また、上述の各実施形態において、遠心ウエイト51には円筒形状、球形状、或いは振り子形状等を広く適用可能であり、クラッチ装置10の設置箇所はメインシャフト1に限らず、クランクシャフトやその他の中間軸でも可能である。また、クラッチの手動操作子は、クラッチレバー11に限らず、クラッチペダル等の他の操作子であってもよい。
さらに、上述の各実施形態では、本発明を自動二輪車のクラッチ装置に適用する場合について説明したが、これに限らず、ATV(不整地走行車両)、MUV(マルチ・ユーティリティ・ビークル)及びゴルフカート等に分類される三輪車両や四輪車両等の他の車両のクラッチ装置に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1実施形態に係るクラッチ装置を周辺構成と共に示す図である。
【図2】遠心クラッチ非接続・手動クラッチ接続状態のクラッチ装置を示す側断面である。
【図3】遠心クラッチ接続・手動クラッチ非接続状態のクラッチ装置を示す側断面である。
【図4】遠心クラッチ接続・手動クラッチ接続状態のクラッチ装置を示す側断面である。
【図5】図4の一部拡大図である。
【図6】第2実施形態に係るクラッチ装置を示す図である。
【図7】クラッチ装置のカム機構を示す断面図である。
【図8】変形例に係るクラッチ装置を示す側断面図である。
【図9】変形例に係るクラッチ装置を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 メインシャフト
5 ドリブンギヤ
10 クラッチ装置
11 クラッチレバー(手動操作子)
21 クラッチアウタ
22 クラッチインナ
22A クラッチセンタ
23 フリクションプレート(第1摩擦板)
24 クラッチプレート(第2摩擦板)
25 第1プレッシャプレート(手動側押圧部材)
26 手動式レリーズ機構
27 第2プレッシャプレート(遠心側押圧部材)
39 クラッチスプリング
45 リターンスプリング
51 遠心ウエイト
55 遠心クラッチ機構
70 カム機構
71 凸状カム
72 凹状カム
100 変速機
110 油圧機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される入力部材に連結され、複数の第1摩擦板が内周面に相対回転不能に係合されるクラッチアウタと、
このクラッチアウタの内部に配置され、前記複数の第1摩擦板の間に配置される複数の第2摩擦板が外周面に相対回転不能に係合されると共に、出力部材と一体に回転するクラッチインナと、
前記第1及び第2摩擦板を圧接させて前記入力部材から前記出力部材へのトルク伝達を可能とする手動側押圧部材と、
手動操作子の操作に応じて前記手動側押圧部材を移動させて前記トルク伝達を断続させる手動式レリーズ機構とを備えるクラッチ装置において、
前記手動側押圧部材の他側に設けられ、前記エンジンの回転による遠心力で移動する遠心ウエイトにより作動する遠心側押圧部材を備え、エンジン回転数が上昇すると前記遠心ウエイトが遠心力により前記遠心側押圧部材に作用して前記トルク伝達を可能とする遠心クラッチ機構を備えたことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチ装置において、
前記クラッチアウタは、前記遠心クラッチ機構が前記トルク伝達を遮断状態のときに前記手動側押圧部材が当接する当接部を有することを特徴とするクラッチ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクラッチ装置において、
前記クラッチインナは、前記手動側押圧部材と前記遠心側押圧部材との間に位置するクラッチセンタを備え、前記遠心側押圧部材を前記遠心ウエイト側に押圧するリターンスプリングを、前記クラッチセンタの内周に位置するように設けたことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のクラッチ装置において、
前記リターンスプリングを、皿ばねとし、前記クラッチセンタと前記遠心側押圧部材との間に設けたことを特徴とするクラッチ装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のクラッチ装置において、
前記手動側押圧部材と前記クラッチセンタとに、前記トルク伝達の際に互いに噛み合うカムを設け、これらカムにより、前記出力部材からバックトルクが作用した場合に、前記手動側押圧部材を前記第1摩擦板と前記第2摩擦板との摩擦係合力を低下させる側へ移動させ、前記入力部材から駆動トルクが作用した場合に、前記手動側押圧部材を前記第1摩擦板と前記第2摩擦板との摩擦係合力を低下させる側へ移動させるカム機構を構成したことを特徴とするクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−60106(P2010−60106A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228532(P2008−228532)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】