説明

クロストークが補償されたミクロ音響フィルタ、および補償をする方法

第1および第2のコンバータを有するミクロ音響フィルタが提案され、第1および第2のコンバータの間で電磁性および容量性のクロストークが、追加の結合キャパシタンスと追加の電流ループとを設けることによって補償される。このとき追加の結合キャパシタンスと電流ループは、設計により設定される自然な結合に対して正負記号の点で反対向きに作用し、そのようにしてこれを完全に補償できるように配置される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
SAWフィルタ(SAW = surface aoustic wave)やBAWフィルタ(BAW = bulk acoustic wave)といったミクロ音響フィルタの選択性は、電磁的なクロストークに影響される。最善かつ再現可能な選択性のためには、電磁的なクロストークを、阻止帯域における音響学のレベルよりも下に抑圧することが必要である。
【0002】
クロストークが発生するのは、電極、コンバータ、引込線といった電流を通す2種類の金属被覆がフィルタに存在しており、これらが入力部ないし出力部と接続されており、電磁的に互いに結合されているときである。このような結合は、1つまたは複数の異なる相互作用を含んでいる可能性があり、そのような相互作用は容量性結合、誘導性結合、または導波路結合を介して遠隔作用で行われるか、または、電気接続を介しての直接的な結合部をなしている。クロストークは、音響学によっては規定されない、フィルタの入力部と出力部との間の相互作用につながる。したがってクロストークは伝達関数において、阻止帯域での上述した選択性を劣化させる望ましくない信号である。
【0003】
容量的なクロストークを低減するために、たとえばアースと接続された遮蔽バーのような遮蔽構造を、入力コンバータと出力コンバータの間に配置することが知られている。このような遮蔽バーは、たとえば追加のリフレクタストリップの形態で、またはコンバータの末端で拡張するアースと接続されたコンバータの電極フィンガの形態で、具体化されていてよい。
【0004】
さらに別の選択肢の要諦は、入力コンバータと出力コンバータの間で十分な間隔を保つことにある。
【0005】
対称的/非対称的に作動するSAWフィルタについては、両方の対称の出力接続部のうちの一方が入力コンバータに対して形成する結合キャパシタンスを高めて、両方の出力側の接続部について等しい結合を得て、それにより、補償をする結合キャパシタンスを得ることが提案されている。
【0006】
狭い周波数帯域における電磁的なクロストークの低減および局所的な消去は、経験的な方法により、オンチップレイアウトを変更することによっても可能であるが、これは製造手段によっては高いコストのかかる最適化を必要とすることがある。
【0007】
外部のパッシブネットワークを利用して、同じく電磁的なクロストークを補償することができる。
【0008】
電磁的なクロストークを補償するための上述した公知の方策は、その効果の点で限定されているか、または、高いコストをかけなければ具体化することができない
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の課題は、電磁的なクロストークを低減し、もしくは理想的な場合には完全に補償することができる、簡素な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は本発明によると、請求項1の構成要件を備えるミクロ音響フィルタによって解決される。本発明の好ましい実施形態、ならびにクロストークを低減する方法は、その他の請求項に記載されている。
【0011】
共通の圧電基板の上で具体化された第1および第2のコンバータを有するミクロ音響フィルタが提案される。第1のコンバータはフィルタの入力側と接続されており、第2のコンバータは出力側と接続されている。各々のコンバータは、コンバータの異なる電極と接続された2つの接続パッドを有している。SAWフィルタの場合、両方の接続パッドは音響トラックの同じ側に配置されていてよく、または異なる側に配置されていてよい。音響トラックの同じ側への両方の接続パッドの配置は、たとえば、音響トラックの一方の側のバスバーを音響トラックの他方の側の接続パッドと接続する、延長された電極フィンガによって可能である。
【0012】
さらにミクロ音響フィルタは、第1のコンバータの第1の接続パッドを結合パッドと接続する結合配線を有している。結合パッドは金属面として構成されており、第1のコンバータの第1の接続パッドに対して広い距離を有しているほうの第2のコンバータの接続パッドの近傍に配置されている。
【0013】
このような結合パッドと引込線により、望ましくないが設計によって避けることができない既存の電磁結合と正負記号に関して反対である、追加の電磁結合がフィルタに導入される。望ましくない容量性結合が生じるのは、たとえば通常、互いにもっとも近くで隣接する異なるコンバータの各構造の間であり、通常、第1および第2のコンバータの隣接する接続パッドの間である。
【0014】
結合配線およびこれと組み合わされた結合パッドにより、もっとも近くの隣接する接続パッドと反対向きの極性を通常有する、離れた別の接続パッドとの結合が成立する。第1の接続パッドと、そのもっとも近くの隣接する接続パッドとの間の望ましくない結合が、それによって補償される。
【0015】
結合パッドを適切に寸法決めすることで、および/または結合パッドと第2のコンバータの対応する接続パッドとの間の距離を適当に選択することで、この追加の結合を大きさに関して調整することができる。最善のケースでは、設計により規定される望ましくない結合を、追加的に導入されて反対向きに作用する結合によって、全面的に補償することさえできる。
【0016】
追加の結合パッドにより、入力コンバータと出力コンバータの間の、ないしは第1および第2のコンバータの間の、既存の望ましくない電磁結合の補償だけでなく、第1および第2のコンバータの間の電磁的なクロストークにより引き起こされる現象の補償もすることができる。
【0017】
結合パッドおよびこれに付属する結合配線は、圧電基板の表面にわずかな所要スペースで作成することができ、製作のために高いコストのかかるプロセスを必要としない。結合配線および特に結合パッドの最適化も問題なく可能であり、SAWフィルタまたはBAWフィルタのその他の設計にほとんど左右されずに行うことができる。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、第1および第2のコンバータは遮蔽構造によって分断されている。遮蔽構造は、SAWフィルタの場合にはたとえば互いに結合された両方の第1および第2のコンバータが配置されていてよい音響トラックを横切る、または一般には、互いに結合されたコンバータの接続パッドまたは電極の間に配置された、金属ストリップを含んでいる。遮蔽構造は、第1および第2のコンバータの間の望ましくない容量性のクロストークを低減する。
【0019】
本発明の別の実施形態では、アースと接続されている遮蔽構造の接続パッドのうちの一方は遮蔽パッドとして構成されており、そのために少なくとも部分的に、隣接するコンバータの隣接する接続パッドの回りを通っている。このことは、アースと接続された遮蔽パッドが1つの方向(SAWフィルタの場合には横方向)で、隣接する接続パッドよりも大きい長さを有することを意味している。これに加えて、この遮蔽パッドは、長手方向すなわち音響波の伝搬方向と平行に、隣接する接続パッドと少なくとも部分的に重なり合うような長手方向の長さを有している。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、アースと接続されている遮蔽構造の接続パッドは、隣接する接続パッドを巡って再び音響トラックの方向に案内されるように、遮蔽パッドに向かって延長されていてよい。このようにして、隣接する接続パッドは事実上3の側で延長された遮蔽パッドにより取り囲まれる。
【0021】
結合配線は、金属の導体区域として圧電基板の上に配置されていてよい。SAWフィルタの場合、この導体区域は全面的に音響トラックの範囲外で、結合パッドへと通じることができる。
【0022】
音響トラックを通過するように結合配線を案内し、そのために、たとえば第1のコンバータの第1の接続パッドと接続された電極フィンガを伝搬方向に対して横方向に相応に延長し、別の金属の導体区域とともに基板の上でさらに案内することも可能である。
【0023】
しかしながら、結合配線を少なくとも部分的にボンディングワイヤとして製作することも可能である。
【0024】
別の実施形態では、結合配線は、基板上に直接配置されるのではなく、基板の上方または下方に構成された導体区域を含んでいる。このような導体区域は、たとえばミクロ音響フィルタのハウジング部分、基板の下方、または特にフリップチップ構造の基板の場合には支持基板の上に製作されていてよい。基板上に直接配置されている結合配線の導体区域と、基板上に直接配置されていない導体区域との間の垂直方向の接続は、バンプ、ボンディング接続、ボンディングワイヤ、またはスルーホールコンタクトによって具体化されていてよい。
【0025】
別の実施形態では、SAWフィルタは、第1および第2のコンバータの間の電磁結合が低減されるように構成される。そのためにコンバータのうちの少なくとも一方では、接続パッドへの電流供給部と電流排出部とを含む電流経路、接続パッドそれ自体、ならびに音響学的部分を通って延びている電流経路の部分は、少なくとも基板の表面への投影で見てクロスオーバが構成されるように案内される。このようなクロスオーバにより、第1のループが全面的に閉じられ、第2の電流ループが少なくとも部分的に構成される。これら両方のループは、それぞれ互いに反対向きに電磁場と結合することができる。
【0026】
クロスオーバによって全面的に閉じられるループでは、少なくとも部分的に各ループの間で誘導される磁界と反対向きの磁界が誘導される。このように、両方のループに作用する既存の電磁場は、互いに反対向きに作用する結合効果を電流経路に及ぼし、理想的なケースではこれらの結合効果が互いに完全に補償される。
【0027】
基板表面への両方のループの投影で見たとき、そこには各ループで取り囲まれた第1および第2の面が生じており、これらの面は調整可能な所望の相互比率になっている。そして最善の比率を実現できるのは、たとえば両方のループにより誘導される結合が互いに値に関して一致しているとともに、反対向きの作用に基づいて互いに補償されるときである。
【0028】
別の実施形態では、第2のコンバータの相応の電流経路も、第3のループが構成されるように案内することが提案される。このようにして、各ループにより取り囲まれる基板に投影された面の面積比率を変えることで、第1および第2のコンバータの間で、ならびに第1および第3のループ、ならびに第2および第3のループの間で、電磁結合およびこれに伴ってクロストークを補償することが可能である。
【0029】
別の実施形態では、第2のコンバータの電流経路は、ここでも少なくとも上述した投影で見たときに、電流を通す各導体区域のクロスオーバが生じるように案内される。フィルタは、通常、基板の材料で構成されたチップを含んでいる。このチップはハウジング下側部分または支持基板の上に組み付けられていてよい。チップの上の接続パッドと、ハウジング下側部分または支持基板にある対応する接続面との間の電気接続は、ボンディングワイヤによって行うことができる。その場合、完全に閉じたループとしての少なくとも1つの電流経路の成形は、ボンディングワイヤの相応の案内によって惹起することができる。
【0030】
しかしながらチップを含んでいるフィルタを、チップのフリップチップ実装によって、ハウジング下側部分または支持基板に組み付けることも可能である。このときフリップチップ実装が行われるバンプ接続は、電流経路の垂直方向の導体区域である。そして電流ループを構成するために、ハウジング下側部分または支持基板の上を延びる導体区域が設けられ、この導体区域を介して、基板に投影したときに、所望のクロスオーバを具体化することができる。しかしながら、互いに異なる2つを超える導体平面に配置された導体区域によって、電流経路を具体化することも可能である。別の導体平面は、たとえば基板の下面、支持基板の下面、またはハウジング下側部分の下面に具体化されていてよい。
【0031】
上述した電流経路は、同じコンバータの異なる極性のそれぞれの電極フィンガの間の音響学的部分によって具体化された少なくとも1つの区域を含んでいる。このコンバータが均一に構成されているとき、電流経路はコンバータ面全体にわたって延びている。SAWフィルタの場合、コンバータのうち少なくとも一方が横方向でカスケード化されており、このカスケード化は、コンバータを長手方向で区分するコンバータの少なくとも2つの長手方向区域で相違していると好ましい場合がある。そして電流経路は、実質的に、コンバータの内部で最小のカスケード化度を有する長手方向区域を介して延びている。したがって、カスケード化の異なる長手方向区域へとコンバータを相応に分割することで、電流経路(主電流経路)をコンバータの内部で幾何学的に定義することが可能である。
【0032】
カスケード化段階が最小である長手方向区域が、隣接する第2のコンバータのほうを向く第1のコンバータの端部に配置されていないと好ましい。このようにして、両方のコンバータにおける電流経路の広い間隔によって、結合が最初から低減される。ただし本発明によると、カスケード化度が最小である長手方向区域を、電流経路のクロスオーバによって取り囲まれた、チップの表面に投影したときの面が十分な広さを有するように、長手方向に配置するのが好ましい場合がある。
【0033】
次に、実施例および付属の図面を参照しながら、本発明について詳しく説明する。これらの図面は本発明の図解するためのものにすぎず、したがって模式的なものであり、ディテールに忠実ではなく、縮尺に忠実にも作成されていない。図示しやすくするために、個々の部品がサイズに関してゆがめられて示されている場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】結合パッドへと通じる結合配線を備える、フィルタの2つのコンバータである。
【図2】それぞれ結合パッドへと通じる2つの結合配線を備える2つのコンバータである。
【図3】遮蔽構造が第1および第2のコンバータの間に追加的に配置された、図1に示す2つのコンバータである。
【図4A】遮蔽パッドが延長されている、図3に示す遮蔽構造を備える2つのコンバータである。
【図4B】遮蔽パッドが延長されている、図3に示す遮蔽構造の変形例を有する2つのコンバータである。
【図5】コンバータへの電流供給部がそれぞれ1つのループを構成する、2つのコンバータである。
【図6】フリップチップ方式で支持体にボンディングされたSAWデバイスを示す模式的な断面図である。
【図7】図1の両方のコンバータを備えるフィルタの伝達関数である。
【図8A】図2に示す2つのコンバータを備えるフィルタの伝達関数である。
【図8B】図2に示す2つのコンバータを備えるフィルタの伝達関数である。
【図9】異なる音響トラックに配置された2つのコンバータを結合配線が結合するSAWフィルタである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明の単純な実施形態を示している。図示されているのは、共同でトランスバーサルフィルタを形成し、またはトランスバーサルフィルタの一部をなす、SAWフィルタの2つのコンバータW1およびW2である。ここでは標準フィンガコンバータが図示されているが、コンバータW1,W2は、SPUDT構造またはRSPUDT構造を有することもでき、さらには、FANコンバータまたは加重型コンバータとして製作されていてもよい。第1のコンバータW1は、上側の接続パッドAP11と、下側の接続パッドAP12とを有している。同様に第2のコンバータW2は、上側の接続パッドAP21と下側の接続パッドAP22とを有している。異なるコンバータの直接隣接する接続パッドの間の避けることのできない電磁結合に追加して、たとえば第1のおよび第2のコンバータの両方の上側の接続パッドAP11およびAP21の間の結合に追加して、本発明に基づき、第1のコンバータW1の上側の接続パッドAP11と、第2のコンバータの下側の接続パッドAP22との間で別の結合が生成される。このことは、接続パッドAP22に対して結合キャパシタンスCKを構成する結合パッドKPが、接続パッドAP22の近傍に配置されることによって実現される。場合により構造的に異なる任意の導体区域を含み、ここでは一例として基板上を延びる条導体として図示されている結合配線を介して、結合パッドは、第1のコンバータW1の上側の接続パッドAP11と接続されている。コンバータの上側および下側の接続パッドはそれぞれ異なる極性を有しているので、このような追加の結合キャパシタンスCKにより、直接隣接する両方の接続パッドAP11およびAP21の間の既存の結合の補償が実現される。
【0036】
さらに、この追加の結合キャパシタンスCKの大きさをさまざまな簡単な方策によって変更して、互いに補償をする両方の結合が数値的に等しくなり、そのようにして互いに完全に補償することができるように、適切に調整することが可能である。そのために、結合パッドKPと隣接する接続パッドAP22との間隔を変更することが可能である。しかしながら、両方の結合パッドの相対位置はそのままにしておいて、結合パッドKPの大きさだけを変えるほうがいっそう簡単である。このことは、たとえばフィルタが作成された後での事後的なトリミングによって行うこともできる。
【0037】
さらに、結合パッドへの通電を通じて、すなわち両方のコンバータに対して相対的な結合配線の位置を通じて、さらに別の電磁作用および特に誘導作用を的確に生成することが可能であり、このような作用も、同じく既存の結合を補償するのに利用することができる。
【0038】
図2は、フィルタの別の最適化された実施形態を示しており、そのうちここでも同じく2つのコンバータW1,W2が図示されており、これらはたとえばフィルタの入力コンバータと出力コンバータをなしている。第1の実施例(図1)で説明したのと同様に、ここでも第2のコンバータW2の上側の接続パッドAP21は、結合配線KL1を介して、第1のコンバータW1の下側の接続パッドAP12の比較的近傍に配置されてこれとともに結合キャパシタンスCK1を形成する結合パッドKP1と接続されている。
【0039】
これに加えてこの実施例では、第2の結合パッドKP2と、第2のコンバータの下側の接続パッドAP22との間で形成される、人工的に挿入される別の結合キャパシタンスCK2が具体化される。第2の結合パッドKP2は、延長された電極フィンガを介して、すなわち音響トラックを介して横向きに、第1のコンバータW1の上側の接続パッドAP11と接続されている。これら両方の結合キャパシタンスCK1およびCK2により、互いに遠く距離をおくそれぞれ1組の接続パッドが相互に結合される。キャパシタンスおよびこれに伴って結合を適当に設定することで、両方のコンバータないしフィルタの金属被覆の間に生じするすべての結合を完全に補償することができる。
【0040】
この実施例の変形例では、第2の結合配線KL2を延長された電極フィンガを介してではなく、両方のコンバータの周囲に延びる結合配線を介して、上側の接続パッドAP11に接続することが可能である。ただしそのためには、第1の結合配線KL1のクロスオーバが必要となる。このことは、両方の結合配線の交差領域に電気絶縁材料が配置されることによって、基板上で行うことができる。これは、両方の結合配線のクロスオーバの領域に合わせて相応に構造化された有機または無機の誘電体であってよい。
【0041】
しかしながら、第2の結合配線を少なくとも交差領域で別の平面に案内して、両方の結合配線KL1,KL2の相互の直接的な電気接触を回避することも可能である。第2の平面は、たとえば支持基板、ハウジング部分、または両方のコンバータが上で具体化されている圧電基板の下面であってよい。後者の場合、相応の結合配線を基板エッジを巡るように案内するか、または、圧電基板を通してスルーホールコンタクトにより挿通することが必要である。
【0042】
支持基板またはハウジングの他の平面への移行は、クロスオーバされるべき他の配線の高さを超える高さを有する、バンプまたはその他の導電性の隆起した構造部を介して行うことができる。
【0043】
図3は、図1と同様に、結合パッドKPが結合配線KLを介して第1のコンバータW1の上側の接続パッドと接続された、本発明の別の実施形態を示している。結合パッドKPは下側の接続パッドとともに、すなわち第2のコンバータW2の遠く離れている接続パッドとともに、結合キャパシタンスCKを形成する。
【0044】
容量性のクロストークを補償するこの方策に加えて、本例では、電磁的なクロストークを低減する役目をする遮蔽もさらに具体化されている。この遮蔽構造ASは、両方のコンバータW1、W2の間で音響トラックに対して横向きに延びる、アースと接続された1つまたは複数の金属のストリップで構成されている。
【0045】
遮蔽構造ASのストリップは、コンバータWの電極フィンガよりも広い幅を有しているのが好ましい。これに加えて、遮蔽構造ASの接続パッドは十分に幅広く、かつ長く構成されており、少なくとも、両方のコンバータWの隣接する接続パッドAPの、遮蔽構造ASの方を向いている端部よりも突出するように、ないしは部分的にこれを取り囲むようになっている。
【0046】
音響トラックを介して延びるストリップおよびその拡大された接続パッドで構成される、アースと接続されたこの遮蔽構造だけで、電磁結合により生成されるクロストークの一部を回避するのに十分であり、ないしは、電流によってコンバータ内部で誘導される電磁場を、隣接するコンバータの方向で遮蔽するのに十分である。
【0047】
図4Aは、電磁的なクロストークを回避するためのこのような遮蔽構造ASの発展例を示している。この実施形態では、アースと接続されている遮蔽構造ASの接続パッドは、第1のコンバータW1の隣接する接続パッドAP11の周囲で全面的に案内されている。このようにして、円で図示しているボンディング個所の領域で接続パッドAP11に集中する電磁場が、図3に示す実施例よりもいっそう良好に遮蔽される。
【0048】
これに加えて、ここでも補償性の結合キャパシタンスCKの導入により、容量的な結合が低減される。この結合キャパシタンスは、第1のコンバータW1の下側の接続パッドAP12と、結合回線KLを介して第2のコンバータW2の上側の接続パッドAP21と接続された結合パッドKPとの間で形成される。これら両方の方策により、第1および第2のコンバータの間の容量的なクロストークを完全に補償することができ、また、コンバータの接続パッドAPを相応に遮蔽することで、電磁的なクロストークもほぼ回避することができる。
【0049】
図4Bは、結合配線KLが他方の側でコンバータW1およびW2の周囲に、およびこれに伴って遮蔽構造の周囲に案内される、図4Aの変形例を示している。
【0050】
図9は、少なくとも2つの音響トラックを有するSAWフィルタを取り上げて、本発明の別の実施形態を示している。第1のトラックには、たとえば共振器の一部である、入力部と接続されたコンバータW11が配置されている。このコンバータW11は、2つの接続パッドAPIN1およびAPIN2と接続されている。
【0051】
第1のトラックと並列の第2の音響トラックには、別のコンバータW21からW25が相並んで配置されており、そのうち3つのコンバータW21,W23およびW25は、コンバータW11と電気的に直列につながれている。第2の音響トラックでコンバータW21,W23およびW25と交互に配置されているコンバータW22およびW24は、出力部に付属する接続パッドAPOUT1,APOUT2と接続されている。
【0052】
結合回線KLが、ここでは出力部の接続パッドAPOUT2を、入力部と接続された接続パッドAPIN2の近傍に配置された結合パッドKPと接続している。それにより入力部は、2つの音響トラックを介して、出力部と容量性結合されている。
【0053】
(図示しない)出力部では、結合配線KLは、第2の音響トラックのコンバータまたはリフレクタを通って案内されていてよい。
【0054】
図5は、別の実施形態で、特に誘導性のクロストークないしクロストークにつながる結合を、どのようにしてほぼ完全に補償することができるかを示している。そのために、コンバータの領域における通電すなわち電流経路の厳密な形状は、誘導によって電磁場を生成する電流ループが構成されるように設けられている。通電は、さらに追加のループが少なくとも部分的に形成されるように構成されているのが好ましい。
【0055】
図5には、基板表面に投影した断面積F1を有する完全なループが示されている。さらに少なくとも部分的に、基板表面に投影した断面積F2を有する第2のループが構成されている。クロスオーバに基づき、両方のループについてそれぞれ別の回転方向が生じ、それに伴って反対向きの極性の電磁場が生じる。
【0056】
第1のコンバータW1の領域では、設計によって生じる所定の通電により、別の電磁場を生成する、基板表面に投影した断面積F0を有する別のループが少なくとも萌芽的に形成されている。
【0057】
そして第1のコンバータW1の上の電磁場は、第2のコンバータW2の上で両方の電流ループの誘導効果により形成される両方の電磁場と、互いに反対向きに結合する。そして本発明によると、両方の電流ループにより第2のコンバータW2で形成される断面積F1およびF2の比率を調整して、第1のコンバータにおける電磁場との相応の結合が最善に補償されるようにすることが可能である。そのために通常、第1のコンバータW1から遠く離れているほうのループの断面積が、第1のコンバータW1の近傍に配置された面積F1の第1の電流ループよりも広いことが必要である。
【0058】
コンバータの領域で電流ループを形成するために、電流を通すすべての部分が貢献しており、すなわち、基板上のすべての金属被覆、コンバータW1,W2とその接続パッドAP、ならびに基板上または場合により基板の上方もしくは下方に配置された相応の導体区域が貢献する。このような導体区域の例として、接続パッドAPと接続されたボンディングワイヤBDが図示されている。
【0059】
これに加えて、コンバータの内部で上側の接続パッドから下側の接続パッドへ、もしくはこの逆に流れる電流も通電に貢献するが、ここでは両方のコンバータの両方の部分電極の直接的な電気結合は行われない。電気音響変換ないし音響表面波の励起は、幾何学的に割当可能な電流経路を介して行われる、電流に対応するエネルギー伝達を生じさせる。
【0060】
導体区域、バンプ、およびボンディングワイヤBDを介しての通電は、簡単な仕方で幾何学的に設定できるのに対して、標準フィンガコンバータにおける通電は制御できないのが通常である。それは、そこでは電流がすべてのフィンガを通じて近似的に均等に分散されるからである。しかしながら、コンバータを長手方向区域に区分して、それぞれの長手方向区域でコンバータ構造の異なるカスケード化を創出することが可能である。
【0061】
カスケード化が得られるのは、コンバータが横方向で、すなわち音響表面波の伝搬方向に対して横向きに、互いに直列につながれた2つの部分コンバータに分割されたときである。カスケード化により、部分コンバータのそれぞれの部分電極の間の電圧が引き下げられ、それに伴って励起の強さと当該カスケードを通って流れる電流も引き下げられる。このことは結果として、最小のカスケード化度が設定されたところで電流が最大になることを意味している。
【0062】
図5には、第1のコンバータW1が3つの長手方向セグメントに分割されており、これらは左から右に見て、4倍のカスケードを有する長手方向セグメントと、2倍のカスケードを有する第2の長手方向セグメントと、6倍のカスケードを有する第3の長手方向セグメントである。最小のカスケード化度は、ここでは第2もしくは中央の長手方向セグメントなので、コンバータを横向きに通る電流経路は、主として第2の長手方向セグメントによって行われることになる。図5では、第2のコンバータW2のカスケード化は便宜上鏡像対称に製作されており、それにより、ここでも第2のコンバータW2を通る電流経路は、第2の長手方向セグメントによって行われる。このことは、それによってすでに両方のコンバータの電流経路の距離が広くなり、そのようにして結合が低減されるという別の利点を有している。
【0063】
本発明の1つの実施形態では、相応のコンバータを横向きに通る電流経路がこれ以外の長手方向セグメントを通じて行われるように、長手方向セグメントを変えることができる。このようにして電流経路を変位させ、その際に、それぞれの電流ループの基板表面に投影した断面積Fも変更し、それによって、その際に生成される電磁場の強さを変更することができる。図5の下側部分には、上側部分で適用されているコンバータの電極構造の形態の簡略化された表現すなわちコンバータ構造による表現を、どのようにして具体化できるかが図示されている。
【0064】
図5に示す実施例では、第1および第2のコンバータの間の容量性結合を、結合キャパシタンスの相応の調整によって完全に補償することができる。さらに電流ループを適宜成形することで、誘導性またはその他の形態の電磁的なクロストークも補償することができる。したがって、このような両方のコンバータをベースとするフィルタは、理想的な場合、入力部と出力部の間でクロストークをまったく示さないので、信号伝達にあたって望ましくない周波数領域で外乱信号の発生につながる可能性がある、クロストークによって誘起される信号が伝達関数に現れることもなくなる。
【0065】
図6は、コンバータ構造部WS、導体区域、および接続パッドの形態で具体化される金属被覆が圧電基板SUの上に塗布された、本例では特にSAWフィルタであるミクロ音響フィルタを模式的な断面図で示している。このフィルタはバンプ接続BUを介して、支持基板TSと電気的および機械的に結合されており、コンバータが構成される元となるコンバータ構造部WSは、支持基板TSのほうを向いている基板SUの表面に構成されている。
【0066】
支持基板TSはハウジングの一部であってよく、たとえばその下面または上面に構成されている。しかしながら、実質的に基板上に具体化されているフィルタを、支持基板TSとともに閉止をする適当なカバーによってカプセル封じすることも可能である。この種の構造により、導体区域LAを、支持基板TSのほうを向いている基板SUの表面でも、基板SUのほうを向いている支持基板TSの表面でも、支持基板の内部または下方でも構成することができる。導体区域LASおよびLATをさまざまに異なる平面に配置することで、図5で説明した電流ループが形成されるように、コンバータ構造部への電流の供給と排出を構成することができる。そのために、1つの金属被覆平面から次の金属被覆平面への移行部を、電流経路の形成の役目だけをする別個のバンプの形態で製作することも可能である。金属被覆平面のうち電流経路の成形に寄与するものは、好ましくは多層の支持基板TSの2つの誘電性層の間に配置されていてよい。これに加えて、支持基板TSを通過してその下面に配置されたフィルタの外側接点まで、電気接続を通すことができる。
【0067】
図7は、伝達関数(ここでは散乱パラメータS21の測定された推移)を用いて、容量性のクロストークの低減により得ることができる効果を示している。図面では、図3に示すように構成された結合配線と結合パッドを備えるフィルタが、結合配線と結合パッドを有していない類似の構成のフィルタと対比されている。通過帯域よりも下の周波数領域で、補償される容量性結合の効果が特別に明らかに現れている。既存の極の周波数位置の変位により、補償されたフィルタの曲線(図3)は、結合が補償されないフィルタの曲線よりも明らかに下に位置している。
【0068】
図8Aと8Bは、図5に基づいて構成されたSAWフィルタの伝達関数を、散乱パラメータS21を用いて示しており、図8Aには通過帯域周辺の比較的狭い周波数領域が示されており、図8Bにはこれに加えて上側の阻止領域が示されている。ここにも示されているように、補償される容量性結合および電磁性結合によって、明らかに改善された選択性を観察することができる。ほぼすべての周波数領域で、阻止帯域における減衰は、容量性または電磁性のクロストークが補償されないフィルタの伝達曲線よりも下に位置している。このように、提案される本発明の方策により、容量性および電磁性のクロストークの低減がほぼ完全に可能となり、そのようにして、改善された電圧挙動および特に阻止帯域での改善された選択性を有するフィルタが得られることが示されている。
【符号の説明】
【0069】
AP 接続パッド
AS 遮蔽構造
BD ボンディングワイヤ
BU バンプ
CK 結合キャパシタンス
F0,F1,F2 電流ループ内部の面積
KL 結合配線
KP 結合パッド
LA,LA (金属の)導体区域
SU 圧電基板
TS 支持基板
W1,W2 第1、第2のコンバータ
WS コンバータ構造部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロ音響フィルタにおいて、
共通の圧電基板の上で具体化された第1および第2のコンバータを有しており、
前記第1のコンバータと前記第2のコンバータはそれぞれ2つの接続パッドを有しており、
前記第1のコンバータの第1の接続パッドを結合パッドと接続する結合配線をさらに有しており、
前記結合パッドは金属面として構成されるとともに、前記第1のコンバータの前記第1の接続パッドに対してより大きな間隔を有しているほうの前記第2のコンバータの接続パッドの近傍に配置されているミクロ音響フィルタ。
【請求項2】
前記第1および前記第2のコンバータは少なくとも1つの接続パッドを介してアースと接続された遮蔽構造によって分断されており、
前記遮蔽構造は金属ストリップを含んでおり、該金属ストリップは、互いに結合をする2つのコンバータが配置された、SAWフィルタとして構成されたフィルタの音響トラックを横切って案内されているか、または、互いに結合する2つのコンバータの接続パッドもしくは電極の間に配置されている、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記遮蔽構造の接続パッドは少なくとも部分的に前記コンバータのうちの一方の隣接する接続パッドの回りを通っている、請求項2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記結合配線は、
基板上に延びる金属の導体区域として構成されており、または、
ボンディングワイヤまたはその他の基板の直接上にではなく上方もしくは下方に配置された導体区域として構成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記コンバータのうち少なくとも一方では、前記接続パッドへの電流供給部、前記接続パッドそれ自体、および音響学的部分を介して延びている電流経路の部分を含む、当該コンバータへの電流経路は少なくとも1つのクロスオーバを形成しており、それにより、基板平面に対する電流経路の仮想的な幾何学的投影では完全なループおよび第2のループの少なくとも一部が形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第2のコンバータへの、または当該コンバータを通る電流経路は第3のループを構成しており、
第1と第3のループの間ならびに第2と第3のループの間ではそれぞれ誘導性結合が行われ、
第1および第2のループによって包囲される基板に投影された面は両方の結合が相互に補償されるような相互比率になっている、請求項5に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第1および前記第2のコンバータの中の電流経路または当該コンバータへの電流経路はそれぞれ2つのループを構成しており、それにより、前記第1および前記第2のコンバータの間の誘導性結合が相互に補償される、請求項5または6に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記フィルタは基板の材料から構成されるチップを含んでおり、
前記チップはハウジング下側部分または支持基板に組み付けられており、
前記チップの接続パッドはボンディングワイヤによりハウジング下側部分または支持基板の接続面を介してハウジング下側部分または支持基板の下面にある外部接続部と接続されており、
ループをなすように成形された電流経路は少なくとも部分的に前記ボンディングワイヤを含んでいる、請求項5から7のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記フィルタは基板の材料から構成されるチップを含んでおり、
前記チップはフリップチップ実装によりハウジング下側部分または支持基板に組み付けられており、
前記ループのうちの1つは接続パッド、音響学的部分を介して延びている電流経路の部分、フリップチップ実装、およびハウジング下側部分または支持基板に配置された導体区域によって形成されている、請求項5から7のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項10】
少なくとも一方のコンバータがカスケード化されたSAWフィルタとして構成されており、
前記カスケード化は前記コンバータの少なくとも2つの長手方向区域で相違しており、
音響学的部分によって形成されている前記電流経路の区域は、最小のカスケード化率を有している前記コンバータの長手方向区域を実質的に横向きに延びている、請求項5から9のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項11】
請求項1に記載のミクロ音響フィルタのクロストークを低減する方法において、
最善の減結合が実現されるまで、結合パッドの大きさおよび/または第2のコンバータの遠く離れている接続パッドに対する間隔が変更される方法。
【請求項12】
a)結合パッドが十分な大きさで設けられ、
b)結合を判定するのに適したフィルタ特性が判定され、
c)結合パッドの大きさに対して相対的に少ない値だけ金属の結合パッドの面積が材料剥離によって縮小され、
d)少なくとも1つのフィルタ特性があらためて判定され、
e)当該フィルタ特性が前記方法ステップb)での判定に比べてポジティブに変化しているかどうか判断され、改善が判定された場合には前記方法ステップc)およびd)が反復される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フィルタの伝達関数が判定されて、所与の阻止領域における抑圧が結合を表す目安として援用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記方法ステップb)およびd)で前記フィルタの伝達関数が判定されて、前記フィルタの通過帯域を中心とする所与の周波数領域における前記伝達関数の相転換の数が結合を表す目安として判定され、
前記方法ステップe)で、相転換の数の上昇が起こっているかどうかチェックされ、上昇は減結合の改善として評価される、請求項12または13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−520898(P2013−520898A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554284(P2012−554284)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052136
【国際公開番号】WO2011/101314
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】