説明

クロマン化合物およびその製造方法

【課題】daedalinAよりもさらに安定な化合物であって、美白作用、抗酸化作用、活性酸素除去作用などを有する物質を提供すること、および、daedalin Aまたは本発明の化合物を効率的に有機合成する方法を提供することを、本発明の課題とする。
【解決手段】daedalinA の3位、4位の二重結合に水素付加した化合物は、予想外にdaedalin Aよりも安定性、機能性に優れた美白剤、抗酸化剤などの有効成分となることを見いだして、上記課題を解決した。また、daedalinAの有機合成法を改善することにより、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い美白作用および抗酸化作用を有し、かつ、高い安定性を有するクロマン化合物、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肌の黒色化の原因は、肌に蓄積したメラニン色素である。このメラニン色素の合成を阻害する美白剤は、化粧品や食品、医薬品の有効成分として様々な化合物が開発されている。美白作用を示す化合物として、これまでにアルブチンやコウジ酸、ルシノール、アスコルビン酸およびその誘導体が開発されている。アルブチンやコウジ酸、ルシノールのような美白剤は、メラニン合成におけるキー酵素であるチロシナーゼの活性を阻害することで、メラニンの合成を阻害し肌の黒色化を防ぐ。アスコルビン酸やその誘導体はメラニンやメラニン生成における中間体を還元することによりメラニンの蓄積を阻害する。
【0003】
しかしながら、これらの美白剤は、いずれも美白作用が不十分であり、より効果的な美白剤の開発が期待されている。
【0004】
抗酸化剤とは、物質の酸化を阻害する還元作用に優れた物質である。この還元作用により、他の物質の酸化を防ぐことができる。抗酸化剤は、生体に対して大きな損傷を与え、炎症や老化、発癌などの原因となるスーパーオキシドラジカルやヒドロキシラジカルのような活性酸素や過酸化脂質などのラジカルを消去することができる。また、メラニン合成における生合成経路において、抗酸化物質はメラニンやメラニン生成における中間体に対して還元作用を示し、メラニン合成をも阻害する。
【0005】
抗酸化剤として、これまでにいくつかの化合物が開発されている。これまでに開発された抗酸化剤として代表的な化合物にはブチルヒドロキシトルエン(BHT)、α-トコフェロール (ビタミンE) などがある。特にα-トコフェロールは優れた抗酸化活性を示し、化粧品や食品、医薬品の有効成分として多用されている抗酸化剤である。しかし、α-トコフェロールやブチルヒドロキシトルエンは水に不溶な油溶性の化合物であり、水性の製剤への配合は困難である。また、既存の抗酸化剤は安定性にも欠け、着色や変色、においの変化の原因となる。また、既存の抗酸化剤では効果の不十分なものも多い。従って、より効果的で安定な水溶性の抗酸化剤の開発が期待されている。
【0006】
本発明者らは、ホウロクタケ(daedalea dickinsii)の菌糸体が下記の分子構造を持つ化合物 (daedalin A) を比較的多量に生産することを明らかにし、美白作用、抗酸化作用等を併せ持つ水溶性のdaedalin A を、新しいタイプの美白剤や抗酸化剤等として開示している (特許文献1)。
【0007】
【化101】

【0008】
このdaedalin Aは、ホウロクタケ由来であることから、安全に人体に適用できると考えられる。しかしながら、このdaedalinAは、従前の美白剤などの有効成分と比較すると安定ではあるが、長期保存の際に、黄色に変色することが明らかとなった。化粧品などの皮膚外用品の成分に用いる化合物には、より高い安定性が望まれることから、このdaedalinAよりもさらに安定であり、かつ、効果的な、美白作用、抗酸化作用、活性酸素除去作用などを有する物質が求められている。
【0009】
また、daedalinAの製造方法として、本発明者らはホウロクタケの菌糸体の代謝産物より分離する方法を開示している。
【0010】
その他の製造方法としては、非特許文献2において、有機合成によりdaealin Aのラセミ体を製造する方法が開示されている。しかし、非特許文献2に開示されている製造方法は合成収率が低く製造手順も複雑となり、実用的ではない。そのため、より効率的な合成法が求められている。
【0011】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【特許文献1】特開2006-124386
【非特許文献1】SynlettNo.2. 322-324 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、daedalinAよりもさらに安定な化合物であって、美白作用、抗酸化作用、活性酸素除去作用などを有する物質を提供することにある。また、本発明のさらなる課題は、daedalinAまたは本発明の化合物を効率的に有機合成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはホウロクタケ菌糸体による daedalin A の製造方法の向上および、化学変換による daedalin A の機能性の向上、実用的な daedalin A ラセミ体の合成法の確立のための開発に着手した。
【0014】
その結果、daedalin A は,ホウロクタケの菌糸体の成長過程で生産され、成長に応じて他の物質へ代謝(変換)される物質であることを見出した。従って、daedalinA をホウロクタケにより、効率的に生産するにはホウロクタケの菌糸体を一定期間培養後、daedalin A が他の物質に構造変換される前にホウロクタケの菌糸体と代謝生産物質を分離する必要がある。
【0015】
また、daedalinA の3位、4位の二重結合に水素付加した下記の分子構造を持つ化合物は daedalin A よりも安定性、機能性に優れた美白剤、抗酸化剤を提供できることを見出した。
【0016】
【化102】

さらには、daedalinA は有機合成によって得られる daedalin A のラセミ体においても daedalin A と同等の抗酸化作用、美白作用を示すことを見出すとともに、非特許文献1において開示されている既存の合成方法よりも優れたdaedalin A の合成方法を新たに開発し、本発明の完成に至った。
【0017】
したがって、本発明では以下を提供する。
【0018】
(項目1) 以下の構造式:
【0019】
【化201】

を有する化合物。
【0020】
(項目2) 項目1に記載の化合物を含有する美白剤。
【0021】
(項目3) 項目1に記載の化合物を含有する抗酸化剤。
【0022】
(項目4) 項目1に記載の化合物を含有する活性酸素除去剤。
【0023】
(項目5) 項目1に記載の化合物を含有する皮膚外用剤。
【0024】
(項目6) 以下の構造式:
【0025】
【化202】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【0026】
【化203】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、美白剤。
【0027】
(項目7) 以下の構造式:
【0028】
【化204】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【0029】
【化205】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、抗酸化剤。
【0030】
(項目8) 以下の構造式:
【0031】
【化206】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【0032】
【化207】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、活性酸素除去剤。
【0033】
(項目9) 以下の構造式:
【0034】
【化208】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【0035】
【化209】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、皮膚外用剤。
【0036】
(項目10) 以下の構造式:
【0037】
【化210】

に表される化合物を製造する方法であって、以下:
(a)ホウロクタケ (daedalea dickinsii) の菌糸体を10日から50日間培養する工程、
を包含する、方法。
【0038】
(項目11) 以下の構造式:
【0039】
【化211】

に表される化合物を製造する方法であって、以下:
a)ホウロクタケ(daedalea dickinsii) の菌糸体を10日から50日間培養する工程;
b)工程(a)の培養物から、以下の構造式
【0040】
【化212】

に表される化合物を抽出する工程;および、
c)工程(b)で抽出された化合物に水素を付加する工程、
を包含する、方法。
【0041】
(項目12) 以下の構造式:
【0042】
【化213】

に表される化合物のラセミ混合物を製造する方法であって、以下:
(a)パラトルエンスルホン酸と以下の構造式
【0043】
【化214】

に表される化合物とを、1,2-ジクロロエタン中で反応させる工程、
を包含する、方法。
【0044】
(項目13) 以下の構造式:
【0045】
【化215】

に表される化合物のラセミ混合物を製造する方法であって、以下:
(a)パラトルエンスルホン酸と以下の構造式
【0046】
【化216】

に表される化合物とを、1,2-ジクロロエタン中で反応させる工程、
(b)工程(a)で生成された化合物に水素を付加する工程、
を包含する、方法。
【0047】
本発明の化合物は、チロシナーゼ阻害活性、美白作用、抗酸化作用、活性酸素除去作用などを有し、かつ、非常に安定している。従って、本発明の化合物を用いて、チロシナーゼ活性阻害剤、美白剤、抗酸化剤、活性酸素(フリーラジカル)除去剤などを調製することができる。さらには、本発明の化合物は、抗炎症作用をも有するため、抗炎症剤としても有用である。チロシナーゼ活性を阻害する作用により、メラニン合成が阻害され、その結果、美白作用がもたらされる。また、フリーラジカル消去作用は、皮膚の老化を防ぐので、皮膚のシワやタルミなどの改善に有効である。
【発明の効果】
【0048】
本発明によって、美白剤、抗酸化剤、活性酸素除去剤、抗炎症剤、チロシナーゼ阻害剤などの有効成分として優れた化合物が提供される。そのため、本発明によって、優れた美白剤、抗酸化剤、活性酸素除去剤、抗炎症剤、チロシナーゼ阻害剤が提供される。また、この有効成分の効率的な生産方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0050】
(用語の定義)
本明細書において使用される用語「子実体」とは、菌類において胞子を生じる生殖体であって、用語「担胞子体」と互換可能に使用され得る。子嚢菌類および担子菌類では、それぞれ、子嚢果・担子器果のように、菌糸組織からなる種々の形のものをいう。
【0051】
本明細書において使用される用語「菌糸体」は、用語「菌糸」と互換可能に使用され、糸状菌類の栄養体を構成する基本構造であり、多細胞のものと多核体のものがある。菌糸は、胞子の発芽管から発達し、先端成長によって伸長する。
【0052】
本発明において使用する場合、用語「有効量」とは、ヒトが摂取または、ヒトに対して投与した場合に、目的の、美白効果、抗酸化効果、活性酸素除去効果などの本発明の化合物の効果を有意に奏する量をいう。代表的には、本発明の化合物の有効量は、1回の投与あたり、0.1mg〜100mg、好ましくは0.2mg〜50mg、より好ましくは0.5mg〜30mg、さらにより好ましくは0.8mg〜20mg、最も好ましくは1mg〜10mgであるが、これらは、目的の効果および対象の状態に応じて変化し得る。
【0053】
(実験手法)
本発明において美白作用はチロシナーゼ阻害試験、および B16 メラノーマ細胞を用いたメラニン産生抑制試験により確認した。
【0054】
チロシナーゼ阻害試験とは試験物質のチロシナーゼ阻害活性を吸光度の変化より測定する方法である。チロシナーゼは色素沈着の原因となるメラニン合成の律速段階の反応であるチロシンと DOPA ( 3,4-ジハイドロキシフェニルアラニン) の酸化反応を触媒する。よって、このチロシナーゼ活性を阻害する物質はメラニン合成を阻害し、その結果、美白作用がもたらされる。
【0055】
B16メラノーマ細胞を用いたメラニン産生抑制試験とは、試験物質のB16メラノーマ細胞によるメラニン産生抑制効果を測定する試験方法である。メラノーマ細胞内では活発なメラニン合成が行われており、このメラニン合成を阻害する物質は優れた美白効果を示す。
【0056】
本発明の抗酸化作用はDPPHラジカル消去率測定試験により評価した。DPPHラジカル消去率測定試験に用いた1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(以下DPPHと略記する)は分子内に安定なフリーラジカルを持つ。DPPHラジカル消去率測定では、このフリーラジカルの消去率を吸光度の測定により測定する。DPPHラジカル消去活性を持つ物質は、一重項酸素やヒドロキシラジカル、過酸化脂質のラジカルを除去するとともに、炎症や皮膚のシワやタルミなどの老化や細胞の癌化なども防ぐことが期待できる。
【0057】
さらに、本発明に従って、以下の構造式:
【0058】
【化103】

に表される化合物、ならびに、以下の構造式:
【0059】
【化104】

および
【0060】
【化105】

に表される化合物のラセミ混合物、あるいは、これらを1種または2種以上を、皮膚外用剤および食品、医薬品に配合することで優れた美白剤、抗酸化剤、活性酸素除去剤を提供することができる。また、本発明に従って、これらの化合物を効率的に生産することも可能となる。
【0061】
本発明に用いる美白剤および抗酸化剤は、有機合成または特定の菌類から抽出および精製することにより得ることができるが、これらの方法に限定されない。
【0062】
本発明の美白剤および抗酸化剤の有効成分は、ホウロクタケの菌糸体の培養液から、以下に示す方法によっても得ることができるが、これに限定されない。
【0063】
ホウロクタケの菌糸体は、野生もしくは人工栽培の子実体もしくは菌糸体そのもの、もしくは継代培養、凍結、凍結乾燥、乾燥等の手段により保存されている菌体から無菌的に培地上で培養した菌体を用いることができる。
【0064】
ホウロクタケの菌体はいずれであっても良い。例えば、日本国内だけでなく、世界各地に自生している菌体の他、世界各地の保存施設において保存されている菌体を使用することもできる。また、ホウロクタケと近縁の菌種であれば同様に用いることもできる。また人工栽培された子実体の菌体を用いることもできる。
【0065】
菌糸体の培養に用いる培地は、ポテトデキストロース寒天培地、ポテトスクロース寒天培地、ペプトンデキストロース寒天培地、等の寒天培地の他、ポテトデキストロース培地、ポテトスクロース培地、ペプトンデキストロース培地、等の液体培地の他、菌類の培養に使用できる培地であれば、いずれであっても良い。菌糸体の培養方法、培養条件なども特に限定されないが、20〜30℃で10〜50日間、静置培養もしくは通気培養、振とう培養等により培養することで十分成長した菌糸体を用いることが望ましい。
【0066】
野生の子実体または人工栽培された子実体から菌糸体を誘導する場合は、子実体の内部の組織または子実体の胞子から無菌的に上記の培地上で培養することで菌糸体に誘導することができる。また、既に単離され、継代培養、凍結、凍結乾燥、乾燥等の手段により保存されている菌体であれば、そのまま上記の培地上で培養することができる。
【0067】
ホウロクタケの菌糸体の培養液または抽出液、菌糸体そのものから、抽出または各種クロマトグラフィーにより分離、精製することにより、本発明に使用する化合物を得ることができる。ホウロクタケの菌糸体から本発明の化合物を精製または単離する方法は、特に限定されない。いかなる方法においてもホウロクタケの菌糸体から抽出、精製することにより得られるdaedalin Aまたは、daedalin Aに示す化合物を高濃度に含む画分から、水素付加により、以下の構造式
【0068】
【化106】

に表される化合物Aを誘導し、美白剤および抗酸化剤として使用することができる。
【0069】
daedalinA に水素を付加する方法は特に限定されない。好ましい製造方法としては、daedalin A を有機溶媒または水に溶解し、パラジウムカーボンと水素ガスをともに混合し、数時間、室温で反応させることで、ほぼ100 % の収率で daedalin A に水素が付加した化合物A を得ることができる。
【0070】
また、有機合成などの簡便な手段により得られる daedalin A のラセミ体混合物および daedalin A に水素が付加させることで得られる化合物Aのラセミ体混合物であっても、本発明における美白剤や抗酸化剤として使用することができる。
【0071】
本発明に使用するdaedalin A のラセミ体混合物および化合物Aのラセミ体混合物の製造方法は特に限定されない。
【0072】
本発明の製造方法により daedalin A のラセミ体混合物を合成する場合、本発明の好ましい実施形態では以下の工程:
(1)製造に使用する以下の構造式
【0073】
【化107】

を有する化合物1を提供する工程、
(2)化合物1とメタクロロパーベンゾイックアシッド(mCPBA)とを反応させ、以下の構造式:
【0074】
【化108】

を有する化合物2を調製する工程、
(3)上記の化合物2から、以下の構造式:
【0075】
【化109】

で表される化合物3を調製する工程、
を包含する調製法が行われる。
【0076】
本発明の製造方法に使用する化合物1の製造方法は特に限定されない。好ましい製造方法としては、2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒドを50%THF/HOの溶液に溶解し、インジウムと3−クロロ−2−メチル−1−プロペンを加えて反応混合物を得ることができる。反応時間は特に限定されないが、好ましい反応時間は1〜36時間、さらに好ましくは6〜24時間である。その後、ろ過、抽出、溶媒分画、各種クロマトグラフィーなどの分離手法により、化合物1を反応混合物から分離することができる。また化合物1を分離せずに、次の合成反応に使用することもできる。
【0077】
本発明の製造方法に使用する2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒドはCas番号1194−98−5として登録されている。2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒドとしては試薬メーカーから市販されているものをそのまま使用することができる。
【0078】
このようにして得られた化合物1をジクロロメタンに溶解し、メタクロロパーベンゾイックアシッドと反応させることで化合物2を合成することができる。反応温度は特に限定されないが、好ましい反応温度は0〜−5℃である。反応時間についても特に限定されないが、好ましい反応時間は1〜4時間である。その後、ろ過、抽出、溶媒分画、各種クロマトグラフィーなどの分離手法により、化合物2を反応混合物から分離することができる。また化合物2を分離せずに、次の合成反応に使用することもできる。
【0079】
本発明の製造方法に使用するジクロロメタンはCas番号75−09−2として登録されている。ジクロロメタンとしては試薬メーカーから市販されているものをそのまま使用することができる。
【0080】
本発明の製造方法に使用するメタクロロパーベンゾイックアシッドはCas番号937−14−4として登録されている。メタクロロパーベンゾイックアシッドとしては試薬メーカーから市販されているものをそのまま使用することができる。
【0081】
このようにして得られた化合物2を1,2−ジクロロエタンに溶解し、触媒量のパラトルエンスルホン酸を加えて反応させることで、化合物3((±)−daedalinA)をラセミ体で得ることができる。反応温度は特に限定されないが、好ましい反応温度は60〜100℃である。反応時間についても特に限定されないが、好ましい反応時間は2〜8時間である。その後、ろ過、抽出、溶媒分画、各種クロマトグラフィーなどの分離手法により、化合物3を反応混合物から分離することができる。
【0082】
本発明の美白剤および抗酸化剤は、皮膚外用剤および食品、医薬品として使用することができる。皮膚外用剤および食品、医薬品の形状は特に問わない。その投与方法に応じて如何なる形状をも選択することができる。例えば、液状、ゲル状、クリーム状、顆粒状、個体、エアロゾルのような気体などのような形態で使用できる。本発明の美白剤および抗酸化剤として使用する場合、化粧水、クリーム、ゲル、軟膏、乳液、美容液、パック、洗顔料、クレンジング剤、ヘアケア剤、石鹸、浴用剤、シャンプー、リンス、リップスティック、口紅、ファンデーション等の化粧品や医薬部外品、医薬品に配合することができる。
【0083】
本発明の美白剤および抗酸化剤を配合した皮膚外用剤は、油脂類、ロウ類、炭化水素類、シリコーン類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、増粘剤、粉末等の化粧品の基材の他、医薬品および医薬部外品の有効成分、pH調整剤、防腐剤、色素、香料、酸化防止剤、天然エキス等も必要に応じて配合することができる。
【0084】
本発明の化合物を皮膚外用剤として調製する方法としては、周知の手段を用いることができる。代表的な調製法を以下に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0085】
(化粧用クリーム処方物の調製)
化粧用クリームを以下の成分と製法を用いて処方することができる:
・(A)ステアリン酸 8.0(重量%)、
・(B)ステアリルアルコール 4.0(重量%)、
・(C)ステアリン酸ブチル 6.0(重量%)、
・(D)モノステアリン酸グリセリン 2.0(重量%)、
・(E)プロピレングリコール 5.0(重量%)、
・(F)水酸化カリウム 0.4(重量%)、
・(G)防腐剤(パラオキシ安息香酸エステル) 0.1〜0.5(重量%)、
・(H)香料 0.001〜0.1(重量%)、
・(I)酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン) 0.05〜0.15(重量%)、
・(J)エタノール 5.0(重量%)、
・(K)本発明の化合物の有効量、
・(L)上記の残部として添加する精製水。
(製法)
1.上記(A)〜(D)、(E)〜(I)、および(L)の一部を別々に加熱調製し、80℃で混合し、ホモミキサーで攪拌し、その後、50℃まで冷却する。
2.(L)の一部に(J)を添加し、(K)を溶解する。
3.上記1の溶液と2の溶液を混合し、30℃まで冷却する。
【0086】
(乳液処方物の調製)
乳液を以下の成分と製法を用いて処方することができる:
・(A)ステアリン酸 2.0(重量%)、
・(B)セチルアルコール 1.5(重量%)、
・(C)ワセリン 4.0(重量%)、
・(D)スクワラン 5.0(重量%)、
・(E)グリセロールトリ−2−エチルヘキサン酸エステル 2.0(重量%)、
・(F)ソルビタンモノオレイン酸エステル 2.0(重量%)、
・(G)グリセリン 9.0(重量%)、
・(H)水酸化カリウム 0.1(重量%)、
・(I)防腐剤(パラオキシ安息香酸エステル) 0.1〜0.5(重量%)、
・(J)香料 0.001〜0.1(重量%)、
・(K)酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン) 0.05〜0.15(重量%)、
・(L)エタノール 5.0(重量%)
・(M)本発明の化合物の有効量、
・(N)上記の残部として添加する精製水。
(製法)
1.(A)〜(F)、(G)〜(K)、および(N)の一部を別々に加熱調製し、80℃で混合し、ホモミキサーで攪拌し、その後、50℃まで冷却する。
2.(N)の一部に(L)を添加し、(M)を溶解する。
3.上記1の溶液と2の溶液を混合し、30℃まで冷却する。
【0087】
(化粧水の調製)
化粧水を以下の成分と製法を用いて処方することができる:
・(A)POE(20)オレイルアルコールエーテル 0.5(重量%)、
・(B)グリセリン 10(重量%)、
・(C)メチルセルロース 0.2(重量%)、
・(D)防腐剤(パラオキシ安息香酸エステル) 0.1〜0.5(重量%)、
・(E)香料 0.001〜0.1(重量%)、
・(F)酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン) 0.05〜0.15(重量%)、
・(G)エタノール 5.0(重量%)
・(H)本発明の化合物の有効量、
・(I)上記の残部として添加する精製水。
(製法)
上記(A)〜(I)までを均一に溶解する。
【0088】
(パック剤の調製)
パック剤を以下の成分と製法を用いて処方することができる:
・(A)グリセリン 12(重量%)、
・(B)モンモリロナイト 10.0(重量%)、
・(C)酸化チタン 8.0(重量%)、
・(D)カオリン 10.0(重量%)、
・(E)防腐剤(パラオキシ安息香酸エステル) 0.1〜0.5(重量%)、
・(F)香料 0.001〜0.1(重量%)、
・(G)酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン) 0.05〜0.15(重量%)、
・(H)エタノール 5.0(重量%)
・(I)本発明の化合物の有効量、
・(J)上記の残部として添加する精製水。
(製法)
上記(A)〜(J)を均一に溶解する。
【0089】
本発明の美白剤および抗酸化剤を医薬品として用いる場合、薬学的に受容可能なキャリア型(例えば、滅菌キャリア)と組み合わせて処方され得る。「薬学的に受容可能なキャリア」とは、非毒性の個体、または液体の充填剤、希釈液、被包剤、または任意の型の処方補助剤をいう。
【0090】
本発明の化合物を含有する組成物を医薬として使用する場合は、個々の個体、投与方法、投与計画および当業者に公知の因子を考慮に入れ、医療実施基準 (GMP = good medical practice) を遵守する方式で処方および投薬する。従って、本明細書において「有効量」は、このような考慮を行って決定される。
【0091】
治療剤を、経口的、直腸内、非経口的、槽内、膣内、膜腔内、局所的(粉剤、軟膏、ゲル、点滴剤、または経皮パッチによるなど)、口内あるいは経口または鼻腔内スプレーとして投与し得る。本明細書で用いる用語「非経口的」とは、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下および間接内の注射および注入を含む投与方式をいう。
【0092】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0093】
(実施例1:ホウロクタケの子実体から菌糸体の培養)
日本国内で自生するホウロクタケの子実体を採取し、子実体から内部の組織を無菌的に切り出した。この組織をペプトンデキストロース寒天平板培地に移し、25℃で20日間培養した。20日後、成長したホウロクタケの菌糸体を新しい寒天培地移した。この操作を2度繰り返し得られたホウロクタケの菌糸体をペプトンデキストロース液体培地(10l)中で、40日間、25℃で培養した。40日後、培養後の培養液から菌糸体をろ別し、菌糸体を取り除いた。このホウロクタケ培養菌糸体の培養ろ液を減圧濃縮し、濃縮物(50g)を得た。以下にペプトンデキストロース寒天培地とペプトンデキストロース液体培地の組成を示す。
【0094】
(ペプトンデキストロース寒天培地の組成)
ポリペプトン:5g
グルコース:20g
酵母エキス:2g
硫酸マグネシウム七水和物:0.5g
リン酸二水素カリウム:1g
粉末寒天:20g
水:1000g。
【0095】
(ペプトンデキストロース液体培地の組成)
ポリペプトン:5g
グルコース:30g
酵母エキス:2g
硫酸マグネシウム七水和物:0.5g
リン酸二水素カリウム:1g
水:1000g。
【0096】
(実施例2:ホウロクタケ菌糸体の培養ろ液からの活性物質の精製)
ホウロクタケ培養菌糸体の培養ろ液の濃縮物50gを酢酸エチルと水で分配することで、酢酸エチル溶出画分(5g)を得た。この酢酸エチル溶出画分をシリカゲルとしてWakogelC300,150gを使用したシリカゲルクロマトグラフィーにより分離した。溶出溶媒には、10%,20%,30%,40%,50%,60%,70%,80%,90%,100%酢酸エチル/ヘキサン溶出溶媒を450mlずつ使用し、それぞれ10の画分に分離した。
【0097】
得られた画分の内、50%酢酸エチル/ヘキサン画分(0.85g)をシリカゲルとしてWakogelC300,160gを使用したシリカゲルクロマトグラフィーによりさらに分離した。溶出溶媒には30%アセトン/ヘキサンを使用して分離精製することで、下記の化学式
【0098】
【化110】

に示す化合物daedalinAを384mgの収率で得た。
【0099】
(実施例3:スペクトルデータの測定)
参考までにdaedalinAの質量分析(MS)、旋光度、赤外吸収スペクトル(IR)、紫外吸収スペクトル(UV)、核磁気共鳴スペクトル(H−NMR,13C−NMR)スペクトルデータを以下に示す。
【0100】
(スペクトルデータ)
性状:黄色油状物質
質量分析:191.0712[M−H](計算値191.0708:C1111
旋光度:[α]29+15.4°(c1.49,EtOH)
紫外線吸収スペクトル:263nm,ε:2.6×10,λ:333nm,ε:2.4×10
赤外吸収スペクトル(cm−1):3389,2928,2360,2342,1490,1459,1227,1051,816,764,711
核磁気共鳴スペクトル(H−NMR,500.1MHz,CDCl):δ6.67(1H,d,J=8.6Hz),δ6.60(1H,dd,J=2.9Hz,8.6Hz),δ6.50(1H,d,J=2.9Hz),δ6.38(1H,d,J=9.9Hz),δ5.61(1H,d,J=9.9Hz),δ3.68(1H,d,J=11.6Hz),δ3.59(1H,d,J=11.6Hz),δ1.35(1H,s)
核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR,125.8MHz,CDCl3):δ149.8(C),δ146.8(C),δ128.0(CH),δ124.7(CH),δ121.7(C),δ116.8(CH),δ115.8(CH),δ113.2(CH),δ79.0(C),δ68.5(CH),δ22.3(CH
これらのスペクトルデータはこれまでに単離しているdaedalin Aのスペクトルデータと一致した。
【0101】
(実施例4:dadalinAへの水素添加)
21mg(0.11mmol)のdaedalinAをエタノール中に溶解し、パラジウムカーボン(0.1mg,0.01mmol)と水素ガスとともに混合した。8時間後、パラジウムカーボンを除き、得られたエタノール溶液を濃縮した。この濃縮物を、溶出溶媒として50%酢酸エチル/ヘキサンをによるシリカゲルクロマトグラフィーを実施することで、下記の化学式
【0102】
【化111】

に示す化合物Aを100%の収率で得た。
【0103】
(実施例5:スペクトルデータの測定)
参考までに、この化合物Aのスペクトルデータを下記に示す。
性状:無色油状物質
質量分析:HREIMS:194.0949(理論値C1114,194.0943))
旋光度:[α]19−9.9°(c0.21,Acetone)
赤外吸収スペクトル(cm−1):3353,2930,1618,1494,1454,1351,1285,1222,1152,1097,1050,923,898,809,737,705
核磁気共鳴スペクトル(H−NMR,500.1MHz,CDCl):δ6.66(1H,d,J=8.7Hz),δ6.59(1H,dd,J=2.9Hz,8.7Hz),δ6.56(1H,d,J=2.9Hz),δ5.40(1H,brs),δ3.64(1H,d,J=12Hz),δ3.60(1H,d,J=12Hz),δ2.79(1H,ddd,J=6.3Hz,11Hz,14Hz),δ2.68(1H,dt,J=5.2Hz,17Hz),δ2.27(1H,brs),δ1.99(1H,ddd,J=6.1Hz,11Hz,14Hz),δ1.67(1H,ddd,J=4.5Hz,6.2Hz,14Hz),δ1.24(3H,s)
核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR,125.8MHz,CDCl3):δ149.0,δ147.1,δ121.9,δ117.7,δ115.4,δ114.6,δ76.2,δ69.1,δ27.5,δ21.8,δ20.4。
【0104】
(実施例6:化合物Aの安定性の確認)
化合物Aを1mg/mlに調整し50%エタノール水溶液中で6ヶ月、25℃で保存したところ、化合物Aの溶液には着色等の変化は認められなかった。一方、daedalinAを同一条件で同一期間保存したところ、daedalinAには黄色の着色が認められた。従って、化合物Aは溶液中でdaedalinAよりも優れた安定性を示す。
【0105】
(実施例7:基質としてチロシンを使用した場合のチロシナーゼ阻害試験)
化合物Aの美白作用を調べるため、化合物Aについてチロシナーゼ阻害試験を実施した。本試験においては反応基質としてチロシンを使用した。チロシナーゼ阻害試験は以下の試験方法により実施した。基質としてチロシンを使用した化合物Aのチロシナーゼ阻害活性を美白剤として市販されているアルブチンやdaedalinAと比較した。
【0106】
(試験方法)
1.リン酸緩衝液(PH6.8)に、最終添加量としてチロシナーゼが40U/ml,L−チロシンが1mMになるように溶解し、試験物質はジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解後、混合した。
2.混合後、37℃で60分間インキュベートした。
3.475nmの吸光度の値を次式に代入してチロシナーゼ阻害率を算出した。
チロシナーゼ阻害率=100×{(A−B)−(C−D)}/(A−B)
この式において、A,B,C,Dは以下を意味する。
A:コントロール(試験物質無添加)の反応60分後の吸光度
B:コントロール(試験物質無添加)の反応前の吸光度の値
C:試験物質添加試料の反応60分後の吸光度の値
D:試験物質添加試料の反応前の吸光度の値。
【0107】
次の表1に化合物AとdaedalinA、アルブチンの添加量毎のチロシナーゼ阻害活性を示す。
【0108】
【表1】

いずれの化合物も0.4mM,0.2mM,0.1mM,0.05mMの添加量で濃度依存的にチロシナーゼの活性を阻害した。50%阻害活性を示す添加濃度であるIC50を計算すると、それぞれ化合物Aは289μM,daedalinAは194μM,アルブチンは672μMであった。IC50で比較すると化合物Aのチロシナーゼ阻害作用はアルブチンよりも強いが、daedalinAよりも少し弱い阻害作用であった。本試験においてdaedalinAはチロシナーゼの添加により黄色に変色するが、化合物Aには変色は認められず、チロシナーゼに対する安定性はdaedalinAよりも化合物Aの方が優れていることを確認した。
【0109】
(実施例8:基質としてDOPAを使用した場合のチロシナーゼ阻害試験)
次に反応基質としてDOPAを使用してチロシナーゼ阻害試験を実施した。DOPAを使用したチロシナーゼ阻害試験を行うことにより、メラニン合成におけるDOPAからDOPAキノンへの酸化反応に対する披見物質の阻害作用を測定できる。本試験における化合物Aのチロシナーゼ阻害作用をdaedalinA、化合物Aと比較した。
【0110】
(試験方法)
1.リン酸緩衝液(PH6.8)に、最終添加量としてチロシナーゼが20U/ml,L−DOPAが1mMになるように溶解し、試験物質はDMSOに溶解後、混合した。
2.混合後、25℃で30分間インキュベートした。
3.475nmの吸光度の値を次式に代入してチロシナーゼ阻害率を算出した。
チロシナーゼ阻害率=100×{(A−B)−(C−D)}/(A−B)
この式において、A,B,C,Dは以下を意味する。
A:コントロール(試験物質無添加)の反応60分後の吸光度
B:コントロール(試験物質無添加)の反応前の吸光度の値
C:試験物質添加試料の反応30分後の吸光度の値
D:試験物質添加試料の反応前の吸光度の値。
【0111】
次の表2に化合物AとdaedalinA、アルブチンの添加量毎のチロシナーゼ阻害活性を示す。
【0112】
【表2】

本試験においては化合物Aだけが0.2mM,0.4mM,0.8mMの添加濃度で濃度依存的にチロシナーゼ活性を阻害したが、daedalinAとアルブチンは全くチロシナーゼ阻害作用を示さなかった。従って、化合物AだけがDOPAが基質であっても、これらの添加濃度においてチロシナーゼ活性を阻害した。従って、化合物AはdaedalinAやアルブチンよりも効果的な美白作用を示すことが期待できる。
【0113】
(実施例9:化合物AのDPPHラジカル消去試験)
化合物Aの抗酸化作用を調べるため、化合物AについてDPPHラジカル消去試験を実施した。化合物AのDPPHラジカル消去作用をdaeadalinA及び、強い抗酸化剤として市販されているトロロックスと比較した。
【0114】
(試験方法)
1.DPPHをエタノールに溶解し、0.1mmolに調整した。
2.50%エタノール水溶液に溶解した試験物質をトリス塩酸緩衝液(PH7.4)に溶解した。
3.上記1,2の溶液を1対1で混合し、20分間、25℃で暗所において反応させた。
4.517nmの吸光度の値を次式に代入して、DPPHラジカル消去率を算出した。
DPPHラジカル消去率=100×(A−B)/(C−D)
この式において、A,B,C,Dは以下を意味する。
A:試験物質添加試料の反応後の吸光度の値
B:試験物質添加試料のDPPHの代わりにエタノールを添加した時の吸光度の値。
C:コントロール(試験物質無添加)の反応後の吸光度の値。
D:コントロール(試験物質無添加)のDPPHの代わりにエタノールを添加した時の吸光度の値。
【0115】
表3に,化合物Aと daedalin A, トロロックスの添加濃度毎の DPPH ラジカル消去率を示す。
【0116】
【表3】

化合物A のDPPHラジカル消去作用はdaedalin A とほぼ同等であり,トロロックス よりも若干弱いが十分なラジカル消去作用であった。化合物A は十分な効果と安定性を持つ優れた抗酸化剤である。
【0117】
(実施例10:daedalinAのラセミ体((±)−daedalinA)の化学合成)
(±)−daedalinAは以下の合成方法により合成することができる。
2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド(22.5mg,0.16mmol)のTHF/HO(1/1,6.0ml)の溶液にインジウム(18.4mg,0.16mmol)と3−クロロ−2−メチル−1−プロペン(0.05ml,0.48mmol)を順次加えた。室温にて12時間攪拌後、飽和食塩水を加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した後、減圧濃縮することで溶媒を除去した。この濃縮物を50%酢酸エチル/ヘキサン溶液によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物1(31.6mg,0.16mmol)を得た。下記に化合物1を合成するためのスキームを示す。
【0118】
【化112】

次に,化合物1(31.6mg,0.16mM)のジクロロメタン溶液にmCPBA(85.0mg,0.32mmol)を加え、室温にて2時間撹拌した。半飽和Na水溶液を加えて反応を停止し、ジエチルエーテルを用いて抽出した。抽出したジエチルエーテル溶液を飽和NaHCO水溶液、飽和食塩水で順次洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した後、減圧濃縮することで溶媒を除去し,化合物2を含む混合物を得た。この濃縮物を精製することなく次の反応に使用した。下記に化合物2を合成するためのスキームを示す。
【0119】
【化113】

1,2−ジクロロエタンに化合物2を含む濃縮物を溶解し、触媒量のパラトルエンスルホン酸を加え、83℃にて6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後、飽和NaHCO水溶液にて反応を停止し、酢酸エチルにて抽出した。酢酸エチル抽出液を飽和食塩水で洗浄後,硫酸マグネシウムで乾燥し,ろ過した後、減圧濃縮して溶媒を除去した。この濃縮物を50%酢酸エチル/ヘキサン溶液によるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、(±)−daedalinA(11.0mg,0.057mmol)を得た。化合物1から2段階の反応における(±)−daedalinAの反応収率は35%であった。(±)−daedalinAを合成するためのスキームは、
【0120】
【化114】

である。
【0121】
(実施例11:化合物1のスペクトルデータの測定)
参考までに、化合物1のスペクトルデータを下記に示す。
性状:褐色結晶
質量分析:HREIMS:194.0925(理論値C1114,194.0943)
赤外吸収スペクトル(cm−1):3388,2929,1454,1419,1257,1086,1047
核磁気共鳴スペクトル(H−NMR,500.1MHz,CDCl):δ1.31(1H,s),δ1.83(3H,s),δ2.45(1H,dd,J=3.5,14Hz),δ2.61(1H,dd,J=10.5,14Hz),δ4.47(1H,d,J=3.5Hz),δ4.87(1H,dd,J=2.5,10.5Hz),δ4.92(1H,s),δ5.01(1H,s),δ6.52(1H,d,J=3.0Hz),δ6.66(1H,dd,J=3.0,8.5Hz),δ6.75(1H,d,J=8.5Hz),δ7.61(1H,s)
核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR,125.8MHz,CDCl):δ149.4,δ148.5,δ141.7,δ127.2,δ118.0,δ115.5,δ115.1,δ113.7,δ72.4,δ46.2,δ22.2。
【0122】
(実施例12:(±)−daedalinAのスペクトルデータの測定)
参考までに、化合物3((±)−daedalinA)のスペクトルデータを下記に示す。
性状:無色油状物質
質量分析:HREIMS:192.0754(理論値C1114,192.0786)
赤外吸収スペクトル(cm−1):3337,2979,1489,1459,1223,1047
核磁気共鳴スペクトル(H−NMR,500.1MHz,CDCl):δ1.36(3H,s),δ3.60(1H,d,J=11.5Hz),δ3.68(1H,d,J=11.5Hz),δ5.62(1H,d,J=10.0Hz),δ6.39(1H,d,J=10.0Hz),δ6.50(1H,d,J=3.0Hz),δ6.60(1H,dd,J=3.0Hz),δ6.67(1H,d,J=8.5Hz)
核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR,125.8MHz,CDCl):δ149.8,δ146.1,δ127.9,δ124.7,δ121.7,δ116.8,δ115.8,δ113.2,δ79.0,δ68.5,δ22.3。
【0123】
(実施例13反応溶媒による(±)−daedalinAの化学合成の収率)
反応溶媒による(±)−daedalinAの合成収率を調べるため,反応溶媒としてベンゼンまたは、トルエン、ジクロロメタン、ジクロロエタンを使用し、化合物1から(±)−daedalinAを合成した。合成方法は実施例10で記載した方法によって合成した。各種反応溶媒毎に、化合物1から(±)−daedalinAを合成した時の反応収率を比較した。その結果を下表に示す。
【0124】
【表4】

ベンゼンを使用した場合の反応収率は0.5%、トルエンを使用した場合の反応収率は0.6%、ジクロロメタンを使用した場合の反応収率は0.5%と、ジクロロエタンを使用した場合の反応収率(35%)よりも大きく劣り、実用にはそぐわない。
【0125】
従って、化合物2よりdadealinAを得る反応において、反応溶媒として1,2−ジクロロエタンを使用することで(±)−daedalinAを高収率で得ることができる。
【0126】
(実施例14:(±)−daedalinAのチロシナーゼ阻害試験)
(±)−daedalinAの美白作用を調べるため、(±)−daedalinAについてチロシナーゼ阻害試験を実施した。本試験においては反応基質としてチロシンを使用した。チロシナーゼ阻害試験は実施例7に示す試験方法により実施した。(±)−daedalinAのチロシナーゼ阻害作用を美白剤として市販されているアルブチン及びdaedalinAと比較した。
【0127】
次の表4に化合物AとdaedalinA、アルブチンの添加量毎のチロシナーゼ阻害活性を示す。
【0128】
【表5】

本試験から、(±)-daedalinA は市販の美白剤であるアルブチン以上のチロシナーゼ阻害作用を示すと共に、そのチロシナーゼ阻害活性はdaedalin A とほぼ同等であった。従って、簡便な合成法による製造法によって製造できるラセミ体の(±)-daedalin A であっても、光学活性を持つdaedalin A の代替使用が可能である。
【0129】
(実施例15:(±)−daedalinAのDPPHラジカル消去率測定試験)
(±)−daedalinAの抗酸化作用を調べるため、(±)−daedalinAについてDPPHラジカル消去率測定試験を実施した。化合物AのDPPHラジカル消去作用をdaeadalinA及び、強い抗酸化剤として市販されているトロロックスと比較した。
【0130】
【表6】

本試験から、(±)−daedalinAの抗酸化作用はdaedalinAとほぼ同等であった。従って、簡便な合成法による製造法によって製造できるラセミ体の(±)−daedalinAであっても、光学活性を持つdaedalinAの代替使用が可能である。
【0131】
(実施例15:ホウロクタケの培養期間とdaedalinAの生産量の測定)
ホウロクタケの培養期間とdaedalinAの生産量の関係を,HPLC分析により調査した。
(方法)
(i)実施例1に記載した方法で分離したホウロクタケの菌糸体を,実施例1に示すペプトンデキストロース液体培地中で、25℃で静置培養した。
(ii)ホウロクタケの培養開始後10日毎に、ホウロクタケの培養ろ液をサンプリングした。
(iii)50%メタノール水溶液で培養ろ液10%に希釈し、メンブレンフィルターでろ過した。
(iv)このようにして調整した培養ろ液を以下の分析条件でHPLC分析を実施した。
(v)daedalinAの(1mg/ml)におけるHPLC分析の保持時間と吸光度を比較することにより、ホウロクタケの菌糸体が培養液1L中に含有するdaedalinAの含有量(mg)を算出した。
(vi)本試験におけるdaedalinAの生産量は,内部標準物質としてクマリン(1mg/ml)を添加し、このピークを標準として算出した。
(分析条件)
1)カラム:ODSカラム、内径4.6mm、長さ150mm、粒子経5μm
2)移動相:50%メタノール/水
3)流速:0.5ml/min
4)検出器:UV333nm
5)温度:30℃
6)ループ:20μl
7)サンプル:5ml投入。
【0132】
(結果)
上記試験の結果を、以下の表に示す。
【0133】
【表7】

ホウロクタケ菌糸体による daedalin A の生産量を培養期間毎に測定すると、ホウロクタケは 30 日まで培養期間が経過すると daedalin A の生産量は増加するが、30日目以降は時間の経過とともにdaedalin A の含有量は減少する。
【0134】
以上の結果から、daedalinA は、ホウロクタケの菌糸体の成長とともに生産され、その後、菌糸体成長によって代謝分解される物質であると考えられる。
【0135】
従ってdaedalin A を効率よく生産するには、ホウロクタケの菌糸体を一定期間培養後、ホウロクタケ菌糸体の代謝過程で daedalin A が分解される前に、速やかに菌糸体からdaedalin A を分離する必要がある。
【0136】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0137】
ホウロクタケの菌糸体の培養代謝産物中に含有する daedalin A に水素添加することで、より安定性に優れた抗酸化剤、美白剤を提供することができる。
【0138】
また、本発明の合成方法により作成したラセミ体の (±)-daedalin A であっても十分な抗酸化作用と美白作用を示すことを明らかにするとともに,効率的な(±)-daedalinA および daedalin A の製造方法を明らかにした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式:
【化1】

を有する化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を含有する美白剤。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を含有する抗酸化剤。
【請求項4】
請求項1に記載の化合物を含有する活性酸素除去剤。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物を含有する皮膚外用剤。
【請求項6】
以下の構造式:
【化2】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【化3】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、美白剤。
【請求項7】
以下の構造式:
【化4】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【化5】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、抗酸化剤。
【請求項8】
以下の構造式:
【化6】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【化7】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、活性酸素除去剤。
【請求項9】
以下の構造式:
【化8】

に表される化合物のラセミ混合物、または、
以下の構造式:
【化9】

に表される化合物のラセミ混合物を含有する、皮膚外用剤。
【請求項10】
以下の構造式:
【化10】

に表される化合物を製造する方法であって、以下:
(a)ホウロクタケ(daedalea dickinsii) の菌糸体を10日から50日間培養する工程、
を包含する、方法。
【請求項11】
以下の構造式:
【化11】

に表される化合物を製造する方法であって、以下:
a)ホウロクタケ(daedalea dickinsii) の菌糸体を10日から50日間培養する工程;
b)工程(a)の培養物から、以下の構造式
【化12】

に表される化合物を抽出する工程;および、
c)工程(b)で抽出された化合物に水素を付加する工程、
を包含する、方法。
【請求項12】
以下の構造式:
【化13】

に表される化合物のラセミ混合物を製造する方法であって、以下:
(a)パラトルエンスルホン酸と以下の構造式
【化14】

に表される化合物とを、1,2-ジクロロエタン中で反応させる工程、
を包含する、方法。
【請求項13】
以下の構造式:
【化15】

に表される化合物のラセミ混合物を製造する方法であって、以下:
(a)パラトルエンスルホン酸と以下の構造式
【化16】

に表される化合物とを、1,2-ジクロロエタン中で反応させる工程、
(b)工程(a)で生成された化合物に水素を付加する工程、
を包含する、方法。

【公開番号】特開2009−78989(P2009−78989A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247760(P2007−247760)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(300029569)ゲオール化学株式会社 (12)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】