説明

グラフェンを主成分とする透明導電膜を備えた転写シートとその製造方法

【課題】量産性に優れる転写シートの提供およびその製造方法の提供にある。
【解決手段】グラフェンからなる透明導電膜層の作成において、平滑性があり触媒となる金属薄膜層を使用することにより、品質の良いグラフェンを作製するとともに、後の金属薄膜除去の工程が簡易となり、量産性のある転写シートおよびその製造方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜層を有する転写シートに関し、特に透明導電膜層としてグラフェンを主成分とする透明導電膜を備えた転写シートとその製造方法、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの通信機器、電子情報機器、液晶ディスプレイ、太陽電池などにおいては、透明性および導電性にすぐれた透明導電フィルムが必要とされている。
【0003】
透明導電フィルムの透明な導電材料には、主に酸化インジウムスズ(ITO)が使用されている。ただし、ITOはレアアースであるインジウムを含むことから、安定供給、環境負荷等の面から代替材料の検討がなされている。
【0004】
ITO代替材料としてはカーボンナノチューブ(CNT)、金属ナノワイヤー等が候補として挙げられている。その一つにグラフェン(Graphene)がある。グラフェンは、炭素原子が隣接する3つの炭素原子と結合し、蜂の巣構造を有する2次元物質である。2004年、A.GeimとK.Novoselovが粘着テープによる高配向グラファイトの機械的剥離により初めて単離し、今まで理論的に予測されたグラフェンの特異な物性が実験的に立証されて以来、多くの研究がなされている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
グラフェンの成膜は、触媒であるシート状のCuの基板(厚み15μm、25μm)を円柱形の反応器に巻きつけ、1000℃で化学気相成長(CVD)によりCu基板上に成膜した後、ロール・ツー・ロール方式が可能な長尺状の基板と貼り付け、そのCu基板をエッチングにより除去する等、多くの工程がかかった(例えば、非特許文献2)。このように、グラフェンの成膜後に多くの工程を要するために、コストがかかるとともに、生成したグラフェン膜にしわや破れ等が生じ、グラフェンの導電性が低下する問題があった。また、一貫したロール・ツー・ロール方式によって、基材上にグラフェン膜を形成する手法はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.S.Novoselov,A.K.Geim et al.,Science,306,666(2004)
【非特許文献2】S.Bae et al.,Nature Nanotech.5,574(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題を解消するためになされ、その目的は、グラフェンを導電材料とする透明導電フィルムを作製するための転写シートと、一貫したロール・ツー・ロール方式によって、基材上にグラフェン膜が形成された転写シートの製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、発明者は鋭意検討した結果、平滑性と離型性のある基体シートの上に、基体シートの平滑性を反映する金属薄膜層を形成し、その上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層を形成した、グラフェンを導電材料とする透明導電物を作製するための転写シートおよびその製造方法を発明するに至った。
【0009】
本発明における上記課題の解決手段を以下に示す。
【0010】
本発明の第1態様は、離型性と平滑性を備える基体シートと、前記基体シートの平滑性を反映するように前記基体シートの上に部分的又は全面に形成される金属薄膜層と、前記金属薄膜層の上に形成されグラフェンを主成分とする透明導電膜層とを備える転写シートである。
【0011】
本発明の第2態様は、前記金属薄膜層の厚さが、0.01〜1μmである転写シートである。
【0012】
本発明の第3態様は、前記基体シート表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1nm≦Ra≦20nmである転写シートである。
【0013】
本発明の第4態様は、前記基体シートが、基体シートと、前記基体シート上に形成される離型層とを備える転写シートである。
【0014】
本発明の第5態様は、前記透明導電膜層の上に、更に接着層を備える転写シートである。
【0015】
本発明の第6態様は、離型性を備える基体シートの上にマスク層を部分的に形成する工程と、前記マスク層と前記離型性を備える基体シートの上に金属薄膜層を形成する工程と、前記マスク層と、前記マスク層の上に形成された前記金属薄膜層を溶媒により剥離除去して、前記基体シートの上に部分的に前記金属薄膜層を形成する工程と、前記基体シートの上に部分的に形成した金属薄膜層の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層を形成する工程とを備える転写シートの製造方法である。
【0016】
本発明の第7態様は、基体シートの上に金属薄膜層を形成する工程と、前記金属薄膜層の上にレジスト層を部分的に形成し、前記金属薄膜層の上に前記レジスト層が形成される箇所と、前記レジスト層が形成されない箇所を形成する工程と、前記レジスト層が形成されない箇所の金属薄膜層を溶媒により剥離除去して、前記基体シートの上に部分的に前記金属薄膜層と前記レジスト層を形成する工程と、前記レジスト層を溶媒を用いて、除去して前記金属薄膜層を表面に露出する工程と、前記表面に露出した金属薄膜層の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層を形成する工程とを備える転写シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の転写シートは、離型性を備える基体シート表面が極めて平滑であり、離型性を備える基体シートの上に形成される金属薄膜層の膜厚が極めて薄いため、基体シート表面の平滑性が反映されて必然的に金属薄膜層表面も極めて平滑となる。したがって、その下地となり触媒でもある金属薄膜層表面が極めて平滑であるから、その上に形成する透明導電膜層はピンホール等の発生が少なく、非常に薄膜の透明導電膜層を形成する場合であっても安定して形成できる効果がある。また、透明導電膜層自体の厚みの均一性も向上する効果がある。これに加え、透明導電膜層を構成するグラフェンは非常に透明性が高いという機能も備える。
【0018】
その結果、本発明の転写シートを用いれば、導電性、透明性に優れた透明導電物を製造できる効果がある。また、厚みの均一性が向上すれば、転写時における透明導電膜層のしわ等の発生も軽減される。さらに、金属薄膜層の膜厚が極めて薄いため、被転写体に接着した後の金属薄膜層の除去工程が簡易となるため、生産性よく高品質の透明導電体を製造できる効果もある。
【0019】
本発明の転写シートは、柔軟性があるグラフェンを主成分とする透明導電膜層を用いているため、柔軟性のある二次元形状の被転写体上に形成できるほか、三次元形状の被転写体にも形成できる効果がある。さらに、転写シートの形成段階において金属薄膜層をパターン化できるので、被転写体上に形成した後に金属薄膜層を除去するだけで、パターン化された透明導電膜層が得られる。したがって、被転写体に形成した後の透明導電膜層のパターン化工程が不要となり工程が大幅に簡略化できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る転写シートの断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施形態に係る転写シートの断面図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施形態に係る転写シートの断面図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施形態に係る転写シートの断面図である。
【図5】図5は、本発明に係る転写シートの製造方法の第1実施形態を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明に係る転写シートの製造方法の第2実施形態を示す断面図である。
【図7】図7は、本発明に係る透明導電物を示す断面図である。
【図8】図8は、本発明に係る透明導電の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
下記で、本発明に係る実施形態を図面に基づいてさらに詳細に説明する。なお、本発明の実施例に記載した部位や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0022】
図1は、この発明の第1実施形態に係る転写シートを示した図である。本発明の転写シート1とは、被転写体10(ニ次元形状のみならず三次元形状も含む)に加圧または加熱等により透明導電膜層4を含む層を転写させることのできるシートをいう。図1を参照して、本発明の転写シート1は、離型性を備える基体シート2、金属薄膜層3、透明導電膜層4、および接着層5から構成されている。本発明の転写シート1は、離型性を備える基体シート2上に部分的に形成された金属薄膜層3があり、その金属薄膜層3に沿って透明導電膜層4があり、その上の最表面に接着層5が設けられている。
【0023】
[基体シート]
離型性を備える基体シート2は、金属薄膜層3や透明導電膜層4を支持するためのものである。離型性を備える基体シートの2の表面は優れた平滑性を備えている。基体シート2の表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1nm≦Ra≦20nmであることが好ましい。これは離型性を備える基体シート2の算術平均粗さ(Ra)が20nmを超えると、離型性を備える基体シート2の上に形成される金属薄膜層3表面の凹凸形状が大きくなり、金属薄膜層3上に生成するグラフェンのグレインサイズが比較的小さくなる等により結晶性が低下し、グラフェンを主成分とする透明導電膜層4の導電性が低下するといった問題が発生し、反対に、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満になると当該基体シート2表面の凹凸形状を均一にすることができず、当該基体シート2の離型性能が低下する問題が発生するため、被転写体に透明導電膜層を転写できなくなるといった問題が発生するからである。なお、該算術平均粗さ(Ra)は、日本工業規格(JIS)B0601−1994に準拠したものである。
【0024】
離型性を備える基体シート2の厚みは、10μm〜500μmであることが好ましい。離型性を備える基体シート2の厚みが、10μm未満であると、離型性を備える基体シート2の剛性が失われるので、離型性を備える基体シート2の上に金属薄膜層3や透明導電膜層4を形成したとき、金属薄膜層3や透明導電膜層4を支持できなくなるといった問題が生じる。しかし、基体シートの厚みとその表面の凹凸には相関性があるので、基体シートの厚みが一定以上に厚くなると、つまり、離型性を備える基体シート2の厚みが500μmを超えると、離型性を備える基体シート2表面の形状が算術平均粗さ(Ra)で20nmを超えてしまい、上述のような問題が生じてしまうためである。
【0025】
離型性を備える基体シート2の材質は、柔軟性と、後述の透明導電膜層4の形成時において生じる熱に耐えうる耐熱性を有する材質であれれば、特に制限はない。そのような耐熱性を有する材質の例としては、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルフィッド、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドイミド、ポリアリレート、高密度ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビル、ポリ塩化ビニリデン、液晶ポリマー等の樹脂などが挙げられる。
【0026】
基体シート2を構成する材質が、離型性を備えていない場合、基体シート2を離型処理するとよい。基体シート2を離型処理する方法としては(1)基体シート2にフッ化炭化水素系化合物の雰囲気で、低圧プラズマ処理する方法、(2)アルゴンとアセトン及び/又はヘリウムからなる雰囲気下で、基体シートに放電プラズマを行う方法、(3)フッ素原子含有ガスと不活性ガスからなる混合ガスの大気圧下で、対向電極面に固体誘電体を設置し、この対向電極間に電界を印加することにより発生させた放電プラズマで、基体シートを離型処理する方法、が挙げられる。
【0027】
[金属薄膜層]
本発明の金属薄膜層3は、透明導電層4の主成分であるグラフェンを離型性を備える基体シート2上に生成するための触媒機能と、基体シート2の平滑性を金属薄膜層3に反映させる機能を備えた層である。金属薄膜層3の材質は、銅、ニッケル、ルテニウム、鉄、コバルト、イリジウム、白金等の金属、これらの合金などが用いられる。離型性を備える基体シート2の平滑性を金属薄膜層3に反映させるという観点から、本発明の金属薄膜層3の厚みは、0.01〜1μmが好ましい。金属薄膜層3の厚みが0.01μm〜1μmの範囲にあると、基体シート2の平滑性を反映できるため、金属薄膜層3の表面が平滑となり、透明導電膜層4を構成するグラフェンのグレインサイズが比較的大きくなり、導電性の良いグラフェン膜を形成することができる。また、金属薄膜層3の厚みが0.01μm〜1μmの範囲にあると、転写シート1を用いて、被転写体と、透明導電膜層4とからなる透明導電体を作成する場合、その一工程である転写シート1から被転写体に金属薄膜層3、透明導電膜層4を転写し、被転写体から金属薄膜層3のみを除去する工程で、金属薄膜層の厚みが従来の厚み(15μm、25μm)に比べ遥かに薄いので、金属薄膜層3を短時間で除去することができる。
【0028】
[透明導電膜層]
本発明の透明導電膜層4は、主成分がグラフェンから構成される層である。主成分がグラフェンから構成されるとは、透明導電膜層を構成する物質のうちで、1層又は複数層のグラフェン膜が重量比で最も多くを占めることを意味する。透明導電膜層4には不純物がふくまれていてもよい。不純物としては、アモルファスカーボン、金属薄膜層4の金属等が挙げられる。金属薄膜層4の金属とは、被転写体への転写後のエッチング工程で残留する成分である。また、透明導電膜層4は、導電性を有し、可視領域の波長の光線透過率が全体として80パーセント以上となるように構成されている。なお、透明導電膜層4の厚みは、グラフェン1層以上9層以下であることが好ましい。10層以上であると透明導電膜層4の透明性が阻害されるからである。透明導電膜層4は、パターンニングされた金属薄膜層3上にのみ化学気相成長法(CVD)などにより形成される。
【0029】
[接着層]
接着層5は、被転写体と転写シート1とを接着するための層であり、必要に応じて転写シート1の表面に形成される。接着層5は、アクリル系またはビニル系樹脂などで構成され、絶縁性を有する。ここでいう絶縁性とは、例えば、本発明により作製した透明導電物11につき、透明導電物11をタッチパネルにした場合の入力操作において、位置検出の誤作動の原因となる、短絡を発生させない程度以上の絶縁性のことをいう。接着層5は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等により転写シート1上に形成される。
【0030】
図2は、この発明の第2実施形態に係る転写シートを示した図である。この実施形態における転写シートの基本的な構成は、第1実施形態に係る転写シートによるものと同様であるので、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0031】
再び、図2を参照して、本発明の転写シート1は、基体シート7と、離型層6と、金属薄膜層3、透明導電膜層4、および接着層5から構成されている。本発明の転写シート1は、基体シート7の上に離型層6が形成され、離型層6の上に部分的に形成された金属薄膜層3があり、その金属薄膜層3に沿って透明導電膜層4があり、その上の最表面に接着層5が設けられている。
【0032】
[基体シート]
基体シート7は、金属薄膜層3や透明導電膜層4等を支持するためのものである。離型性を備えた基体シート2の表面は第1の実施態様の基体シートのように平滑性を有している必要がある。しかし、基体シート7が平滑性を有していない場合、以下で示すように離型層6が必要となる。なお、離型性を備える基体シート2が平滑性を有している場合であっても、離型層6を設けてもよい。
【0033】
[離型層]
離型層とは、転写シート1を用いて、透明導電膜層4などを被転写体に転写し、被転写体から離型性を備える基体シート2を剥離するとき、基体シート7とともに被転写体から剥離される層である。離型層6を基体シート7の上に形成することにより、離型性を備える基体シート2の剥離重さ(剥離に必要な力)を調整することができる。これに加えて、離型層6を基体シート7の上に形成することにより、基体シート7の表面が凹凸となっている場合であっても、離型層6が基体シート7表面の凹凸を埋めるように基体シート上に被覆するので、金属薄膜層3が形成される離型層表面の算術表面粗さ(Ra)を1nm≦Ra≦20nmとすることができる。その結果、第1実施形態に係る転写シートの場合と同様に、グラフェンを主成分とする透明導電膜層4の導電性が低下するといった問題や、離型層の離型性能が低下する問題が発生することがなくなる。離型層6の材質は、透明導電膜層4の形成時において生じる熱に耐えうる耐熱性と所定の離型性を有し、離型層6を基体シート7の上に形成したときに、離型層6の表面が平滑性に優れるようになるものであれば、特に制限はない。離型層6の材質としては、熱硬化性アクリル、熱硬化性ポリエステル、熱硬化性ウレタン、アクリル、エポキシ、メラミン、シリコン、フッ素等の樹脂が挙げられる。離型層6の形成方法としては、ロールコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ダイコート法等による塗布などが挙げられる。
【0034】
図3は、この発明の第3実施形態に係る転写シートを示した図である。この実施形態における転写シートの基本的な構成は、第1実施形態に係る転写シートによるものと同様であるので、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0035】
再び図3を参照して、本発明の転写シート1は、離型性を備える基体シート2と、離型性を備える基体シート2の上に全面にわたって形成される金属薄膜層3と、透明導電膜層4と、接着層5とを備えていてもよい。
【0036】
図4は、この発明の第4実施形態に係る転写シートを示した図である。この実施形態における転写シート1の基本的な構成は、第2実施形態に係る転写シート1によるものと同様であるので、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0037】
再び図4を参照して、本発明の転写シート1は、基体シート7と、離型層6と、離型層6の上に全面にわたって形成される金属薄膜層3と、透明導電膜層4と、接着層5とを備えていてもよい。
【0038】
次に、転写シートの製造方法について説明する。部分的に形成された透明導電膜層を備えた転写シートは、金属薄膜層を部分的に形成する工程と、それに続く透明導電膜層を形成する工程から構成される製造方法により作製される。その製造方法には、2通りの実施形態がある。まず第1実施形態を説明したのちに、第2実施形態を説明する。
【0039】
図5は、本発明に係る転写シートの製造方法の第1実施形態を示すものである。図5を参照して、本発明に係る転写シートの製造方法の第1実施形態は、離型性を備える基体シート2の上にマスク層8を部分的に形成する工程と、マスク層8と離型性を備える基体シート2の上に金属薄膜層3を形成する工程と、マスク層8と、マスク層8の上に形成された金属薄膜層3を溶媒により剥離除去して、離型性を備える基体シート2の上に部分的に金属薄膜層3を形成する工程と、離型性を備える基体シート2の上に部分的に形成した金属薄膜層の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層4を形成する工程とを備えている。
【0040】
図5(a)を参照して、本発明に係る転写シートの製造方法の第1工程では、上記離型性を備える基体シート2の上にマスク層8を部分的に形成する。
【0041】
[マスク層]
本発明のマスク層は、溶媒に可溶な層である。マスク層8の材質としては、ポリビニルアルコール(PVA)や水溶性アクリル樹脂などが挙げられる。そして溶媒としては水溶液やアルコール溶液などが挙げられる。形成方法としては、オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、凸版印刷等の印刷法が挙げられる。後述するフォトレジスト法に比べ、工程数が少ない点が特徴である。
【0042】
図5(b)を参照して、第2工程では、マスク層8と離型性を備える基体シート2の上に金属薄膜層3を形成する。金属薄膜層3を形成する場合においては、離型性を備える基体シート2上に全面にスパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法等により金属薄膜層3を形成する。
【0043】
図5(c)を参照して、第3工程では、マスク層8の上に形成された上記金属薄膜層3を溶媒洗浄により除去して、上記離型性を備える基体シート2の上に部分的に金属薄膜層3を形成する。溶媒としては、水溶液やアルコール類が良く用いられる。
【0044】
図5(d)を参照して、第4工程では、離型性を備える基体シート2の上に部分的に形成した金属薄膜層3の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層4を形成する。金属薄膜層3の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層4を形成する方法としては、化学気相法(CVD法)を用いるが、化学気相法の中でも、マイクロ波プラズマCVD法を用いることが好ましい。
【0045】
マイクロ波プラズマCVDを用いると、発生するプラズマのエネルギー密度の分布を制御することができ、比較的低圧・低温条件でマイクロ波プラズマを用いてグラフェンの成膜を行うことができるので、透明導電膜層4を支持する離型性を備える基体シート2に与えるダメージを減らすことができる。さらに、離型性を備える基体シート2のグラフェンが成膜される側の反対側は、冷却されるので、これによっても、離型性を備える基体シート2のダメージを減らすことができる。このように温度が比較的低い条件下で上記透明導電膜層4を金属薄膜層3を介して離型性を備える基体シート2の上に形成できるため、離型性を備える基体シート2として柔軟性のあるフィルムを用いることができる。その結果、透明導電膜層4形成においてロール・ツー・ロール方式を採用することができるようになり、転写シートを作製する工程をすべてロール・ツー・ロール方式とすることができるため、転写シートの生産性が飛躍的に向上する。
【0046】
マイクロ波プラズマCVDの原料ガスは炭化水素と希ガスの混合ガス等であり、炭化水素としては、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、アセチレン(C2H2)等があり、希ガスとしては、例えば、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等がある。CVD装置のチャンバーを減圧した状態で、装置内の混合ガスによる全圧が10〜400Paとなるようにする。装置内の混合ガスによる全圧が10Pa未満の場合は、反応が進みにくく、反対に、装置内の混合ガスによる全圧が400Paより高い場合には、チャンバー内の温度が高くなるという問題が生じる。なお、この混合ガスに少量の水素ガスを混ぜても良い。また、上述のように、プラズマのエネルギー密度の分布を制御できるので、必要な空間にのみエネルギー密度を適切に設定することにより、装置内の混合ガスによる全圧を比較的低く抑えることができる。これにより、チャンバー内温度も比較的低く抑えることができ、作製する転写シートへの加熱を抑えることができる。CVD装置のチャンバー内の温度は、200〜400℃で行う。チャンバー内温度が200℃より低いと、生成されるグラフェンの結晶性が低下する問題が生じる。反対にチャンバー内温度が400℃より高いと、基体シートが高温により伸縮等を起こす問題が生じる。
【0047】
上記第1工程から第4工程までの工程を経ることによって転写シートを得ることができる。また、上記工程を経ることによって、転写シートにパターン化されたグラフェンを主成分とする透明導電膜を直接的に形成することができるので、グラフェン成膜後の酸化エッチングや電子線によるパターンニング工程を経ることない。さらに、転写シート上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層を形成したので、転写により、所望の被転写体上に極めて容易に透明導電膜を形成することができる。これによりグラフェン生成後の金属基板の溶解や他の基板への転写を経ることがない。以上から、生成したグラフェンが必要以上に傷むことがなく基体シート上および被転写体上に形成できる。
【0048】
なお、必要に応じて第4工程後に、透明導電膜層4を含む表面の全面に接着層5を形成してもよい。接着層5の材質、形成方法は上述の通りである。
【0049】
なお、必要に応じて第1工程前に、基体シートの上に離型層6を形成してもよい。離型層6の材質、形成方法は上述の通りである。
【0050】
図6は、本発明に係る転写シートの製造方法の第2実施形態を示すものである。この実施形態における転写シートの製造方法における基本的な構成は、第1実施形態に係る転写シートの製造方法によるものと同様であるので、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0051】
図6を参照して、本発明に係る転写シートの製造方法の第2実施形態は、離型性を備える基体シート2の上の全面的に金属薄膜層3を形成する工程と、金属薄膜層3の上にレジスト層9を部分的に形成し、金属薄膜層3の上にレジスト層が形成される箇所と、レジスト層が形成されない箇所を形成する工程と、レジスト層9が形成されない箇所の金属薄膜層3を溶媒により剥離除去して、離型性を備える基体シート2の上に部分的に金属薄膜層3とレジスト層9を形成する工程と、レジスト層9を、溶媒を用いて除去して金属薄膜層3を表面に露出する工程と、表面に露出した金属薄膜層3の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層4を形成する工程とを備えている。
【0052】
図6(a)を参照して、本発明に係る転写シートの製造方法の第1工程では、上記離型性を備える基体シート2の上に金属薄膜層3を形成する。
【0053】
[レジスト層]
図6(b)を参照して、第2工程では、金属薄膜層3の上にレジスト層9を部分的に形成し、金属薄膜層3のレジスト層9が形成される箇所と、レジスト層9が形成されない箇所を形成する。レジスト層9の材質としては、フォトレジストにできる樹脂、たとえばノボラック樹脂などを用いることができる。
【0054】
レジスト層9の形成方法は、一般に、フォトレジスト法が採用される。図5で示したマスク層を印刷法により直接的にパターンニングする方法に比べ、光を使うので、より精巧なパターンニングが可能である特徴を有する。まずスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、凸版印刷等の印刷法による全面形成、または上記レジスト層を備えるレジストフィルムを上記基体シートの上の全面に形成された金属薄膜層3に加熱と加圧で貼り合せることにより形成する。レジスト層9を上記方法で形成したのち、上記レジスト層9に光を照射し照射した部分が反応硬化する露光工程を経たのち、光照射されていない部分を除去する現像工程を経て、レジスト層9を部分的に形成する。なお、上記レジスト層9は、ネガ型(露光されると現像液に対し溶解性が低下し、現像後に露光部分が残る)の場合を示したが、ポジ型(露光されると現像液に対し溶解性が増加し、現像後に露光部分が除去される)でもよい。
【0055】
図6(c)を参照して、第3工程ではレジスト層9が形成されない箇所の金属薄膜層3を酸またはアルカリの水溶液などでエッチング除去して、離型性を備えた基体シート2の上に部分的に前記金属薄膜層3と前記レジスト層9を形成する。酸としては塩酸、硫酸、硝酸など、アルカリの水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液などを用いると良い。
【0056】
図6(d)を参照して、第4工程ではレジスト層9を、溶剤を用いて除去して金属薄膜層3を表面に露出する。レジスト層9を除去する溶剤としては、ポジ型の場合、強アルカリである有機第4級塩基の水溶液を用いることができる。有機第4級塩基としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0057】
上記第1工程から第4工程までの工程を経ることによって、マスク層8で金属薄膜層3をパターンニングする場合と比較して、精細なパターニングが可能となる。
【0058】
図7は、この発明の第1および第2実施形態に係る転写シートを用いて製造された透明導電物11を示した図である。図7を参照して、本発明の透明導電物11は、被転写体10と、被転写体10の上に形成された、接着層5、透明導電膜層4から構成されている。
【0059】
[被転写体]
被転写体10は、透明で、導電性を有さず、ある程度の硬さを有する限り、特に制限はなく、フィルム形状のものの他、三次元形状の成形品であっても構わない。被転写体10の材質として、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル、アクリル等がある。フィルム形状の被転写体9の厚みは30〜200μmであることが好ましい。
【0060】
図8は、透明導電物の製造方法を示した図である。図8を(a)〜(c)を参照して、上記透明導電物11は、本発明の転写シート1の透明導電膜層4と金属薄膜層3とを接着層を介して被転写体10に転写したのち、被転写体10から金属薄膜層3のみを除去することで得られる。すなわち、本発明の転写シート1と被転写体10を、加圧または加熱等の条件下で一体化した後、離型性を備える基体シート2を被転写体10から剥離し、金属薄膜層3をエッチング除去することで得られる。
【0061】
実施例1
表面の算術平均粗さ(Ra)が0.4nmである厚み30μmのポリイミドフィルムからなる基体シートの上にポリビニルアルコール樹脂を用いて、マスク層をオフセット印刷法で部分的に形成した。上記マスク層を乾燥した後、スパッタリング法を用いて金属薄膜層(厚み100nmのCu層)を上記基体シートと上記マスク層の上に形成した。その後、水洗により上記マスク層と、上記マスク層の上に形成された金属薄膜層を除去することにより、部分的に形成された金属薄膜層を得た。そして得られたシートをチャンバー内に設置し、チャンバー内のメタンとアルゴンからなる原料ガス(分圧比メタン:アルゴン=1:1)の圧力が一定(360Pa)となるように、チャンバー内への当該原料ガスの流入速度とポンプによる排気速度を調整した。この状態で、マイクロ波プラズマCVDにより380℃、40秒の条件で、グラフェンを主成分とする透明導電膜層を形成した。最後に透明導電膜層の上に全面に接着層を形成し、転写シートを得た。
実施例2
表面の算術平均粗さ(Ra)が17nmである基体シートを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
実施例3
金属薄膜層の厚みを0.02μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
実施例4
金属薄膜層の厚みを0.8μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
実施例5
厚み30μmのポリイミドフィルムからなる基体シートの上にマスク層を形成する前に、上記基体シートの上にフッ素系樹脂を用いて、表面の算術平均粗さ(Ra)が0.2nm離型層を形成したこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
比較例1
表面の算術平均粗さ(Ra)が0.08nmである基体シートを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
比較例2
表面の算術平均粗さ(Ra)が22nmである基体シートを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
比較例3
金属薄膜層の厚みを0.007μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
比較例4
表面の算術平均粗さを20nmおよび金属薄膜層の厚みを1.3μmとしたこと以外は、実施例1と同様の操作をして、転写シートを得た。
比較例5
離型層の表面の算術平均粗さ(Ra)を0.08nmとしたこと以外は、実施例5と同様の操作をして、転写シートを得た。
【0062】
実施例1〜5、比較例1〜5で得られた転写シートをポリエチレンテレフタラートに貼着したのち、基体シートまたは基体シートと離型層を被転写物から剥離した。そして、基体シートまたは離型層の上に付着している残留物の量を比較検討した。すると被転写物の表面に形成されている金属薄膜層のみをエッチング液により除去して、被転写物と透明導電膜層からなる透明導電物1〜5を得た。比較例1〜5で得られた転写シートについても同様に上記操作を行い透明導電物6〜10を得た。
【0063】
基体シートまたは離型層の表面粗さの測定
基体シートまたは離型層の表面粗さは、株式会社小坂研究所製F3500D)を用いて、(JIS)B0601−1994に準ずる方法により測定した。
【0064】
転写シートの評価
実施例1〜5で得られた転写シートを被転写体であるポリエチレンテレフタラートに貼着したのち、基体シートまたは基体シートと離型層を被転写物から剥離し、上記基体シートまたは離型層の上に付着している残留物の量を測定した。その結果、比較例1、5の転写シートを用いた場合を除いて、残留物を肉眼ではほとんど観察できなかった。比較例1、5の転写シートを用いた場合は、それ以外の転写シートを用いた場合と異なり、残留物の存在を発見することができた。
【0065】
透明導電体の評価
透明導電物1〜10について、導電性のばらつき度合いを評価した。評価方法は、パターンニングした透明導電膜層において同一形状の任意の端子間抵抗を10回測定し、得られた抵抗値の平均値および標準偏差を算出した。その結果、抵抗値の平均値は、透明導電物1〜5の方が、透明導電物6〜10よりも小さくなった。抵抗値の標準偏差は、透明導電物1〜5の方が、透明導電物6〜10よりも小さくなった。これから、透明導電物1〜5の方が小さく安定した抵抗値を示すことがわかった。以上より、実施例1〜5の転写シートを使用して得られる透明導電物1〜5は、良好な導電性を有することが分かった。
【符号の説明】
【0066】
1 転写シート
2 離型性を備える基体シート
3 金属薄膜層
4 透明導電膜層
5 接着層
6 離型層
7 基体シート
8 マスク層
9 レジスト層
10 被転写体
11 透明導電物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型性と平滑性を備える基体シートと、
前記基体シートの平滑性を反映するように前記基体シートの上に部分的又は全面に形成される金属薄膜層と、
前記金属薄膜層の上に形成されグラフェンを主成分とする透明導電膜層と、
を備える転写シート。
【請求項2】
前記金属薄膜層の厚さが、0.01〜1μmである請求項1に記載の転写シート。
【請求項3】
前記基体シート表面の算術平均粗さ(Ra)が20nm以下である請求項1〜2記載の転写シート。
【請求項4】
前記基体シートの上に離型層を備える請求項1〜3記載の転写シート。
【請求項5】
前記透明導電膜層の上に接着層を備える請求項1〜4記載の転写シート。
【請求項6】
基体シートの上にマスク層を部分的に形成する工程と、
前記マスク層と前記離型性を備える基体シートの上に金属薄膜層を形成する工程と、
前記マスク層と、前記マスク層の上に形成された前記金属薄膜層を溶媒により剥離除去して、前記基体シートの上に部分的に前記金属薄膜層を形成する工程と、
前記基体シートの上に部分的に形成した金属薄膜層の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層を形成する工程と、
を備える転写シートの製造方法。
【請求項7】
基体シートの上に金属薄膜層を形成する工程と、
前記金属薄膜層の上にレジスト層を部分的に形成し、前記金属薄膜層の上に前記レジスト層が形成される箇所と、前記レジスト層が形成されない箇所を形成する工程と、
前記レジスト層が形成されない箇所の金属薄膜層を溶媒により剥離除去して、前記基体シートの上に部分的に前記金属薄膜層と前記レジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層を溶媒を用いて除去し、前記金属薄膜層を表面に露出する工程と、
前記表面に露出した金属薄膜層の上にグラフェンを主成分とする透明導電膜層を形成する工程と、
を備える転写シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−221695(P2012−221695A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85563(P2011−85563)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】