説明

グリコーゲンを含むヒアルロン酸およびエラスチン産生促進剤

【課題】生体に適合性の物質で、エラスチン、ヒアルロン酸の産生に効果のある物質を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、グリコーゲンは表皮細胞のヒアルロン酸およびエラスチンの産生を促進するが、細胞の数を増やすことに起因するのではなく、細胞を活性化することに因ることを見出し、上記課題を解決した。したがって、本発明は、グリコーゲンを含む、表皮細胞においてヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進するための組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
グリコーゲンのヒアルロン酸およびエラスチン産生促進に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコーゲンは、動物、真菌、酵母および細菌の主な貯蔵多糖である。グリコーゲンは、水に可溶性であり、乳白色の溶液となる。動物のグリコーゲンの分子構造はよく研究されている。天然グリコーゲンは、ブドウ糖(グルコース)のα−1,4−グルコシド結合を介して直鎖状に連結した糖鎖からα−1,6−グルコシド結合で枝分れし、さらにそれも枝分かれして網状構造を形成したホモグルカンである。天然グリコーゲンは、α−1,6−グルコシド結合によって連結された、平均重合度約10〜約14のα−1,4−グルコシド結合鎖から構成されている。天然グリコーゲンの分子量については、色々な説があるが、約10〜約10とされている。天然グリコーゲンは、分子量約10の粒子(β粒子)またはβ粒子の凝集により形成されたさらに大きな粒子(α粒子)として存在する。細菌のグリコーゲンの構造は、動物のグリコーゲンの構造と類似すると考えられる。ある種の植物(たとえばスイートコーン)にもグリコーゲンと類似した構造のグルカンが存在し、植物グリコーゲン(フィトグリコーゲン)と呼ばれる。
【0003】
グリコーゲンの生理作用についてはいくつか知られているが、たとえば、特許文献1(特開2003−321373)は、表皮細胞賦活剤、及びATP産生促進剤を開示し、表皮細胞のATPの産生促進剤としてグリコーゲンを用いることが記載されている。
【0004】
特許文献2(特許第3650295号)は、アコヤ貝由来の化粧原料を開示し、アコヤ貝から得られるグリコーゲンを成分とするコラーゲン合成促進作用を有する化粧原料が記載されている。
【0005】
皮膚は外側から角層、表皮、基底膜および真皮より構成されており、真皮はその中でも最も領域の広い部分であり、表皮ほど細胞が密に詰まっておらず、むしろ細胞外空間が多く、「細胞外マトリックス」と呼ばれる巨大分子の網目構造によって満たされている。この細胞外マトリックスは、真皮内の線維芽細胞等において産生され、ヒアルロン酸やデルマタン硫酸等の酸性ムコ多糖と呼ばれる多糖類と、コラーゲン、エラスチン等の線維性タンパク質で構成されている。細胞外マトリックスは、皮膚の弾力性、はり、みずみずしさ、新陳代謝等に直接的に関わっており、線維芽細胞等における細胞外マトリックスの産生が鈍ると、皮膚の弾力性やみずみずしさが失われ、シワ、小ジワ、肌荒れが発生しやすくなり、皮膚老化がもたらされる一因になる。
【0006】
ヒアルロン酸は、細胞間隙への水分の保持、組織内にジェリー状のマトリックスを形成することに基づく細胞の保持、組織の潤滑性と柔軟性の保持、機械的障害等の外力に対する抵抗、および細菌感染の防止など、多くの機能を有している。昨今、癌転移との関連についても多くの研究がなされている。
【0007】
ヒアルロン酸は皮膚のほか、関節液、硝子体、靱帯等、生体に広く分布しており、ヒアルロン酸の産生促進は、保湿効果向上に加え、関節痛(変形性膝関節症)治療、皮膚のたるみ改善、ドライアイを主とした角結膜上皮障害治療、白内障・角膜移植手術時における前房保持などにも有効である。
【0008】
真皮組織のコラーゲンや弾性線維は、皮膚のしわやはり、たるみに密接に関係しており、たとえば、コラーゲンは皮膚に引っ張り強度を与え、他方、弾性線維は、加圧により一時的に変形した皮膚を復元させる弾性を与えるものである。このような機能を有する弾性線維は、横紋のない線維状構造(micro-fibril)とその間隙を充填する無定形構造を持ち、それぞれフィブリリン(fibrillin)とエラスチン(elastin)とからなっている。このうち、エラスチンは真皮の総タンパク質の約2%を占め、ランダムコイル状のペプチド鎖が鎖間架橋してゴムのように伸縮自在なネットワーク構造を作っている。このように皮膚の弾性は、真皮層に存在する弾性線維の中のエラスチンに依存する度合いが大きい。このため、皮膚におけるエラスチンの減少、変質は、皮膚の柔軟性や弾力性を損なう要因であり、しわ、たるみの発生、肌のはりの低下等の皮膚老化の原因となる。エラスチンの減少に関しては、加齢により線維芽細胞のエラスチン産生は減少することが知られている。また、エラスチンに特異的に作用する酵素エラスターゼの働きは紫外線により活性化するため、紫外線を浴びた皮膚では活性化エラスターゼにより、エラスチンが変質、分解される。
【0009】
従って、皮膚の老化を抑制し、皮膚の弾力を改善するために、エラスチンを増大させるエラスチン産生促進剤等に対する需要が増している。
【0010】
しかし、グリコーゲンがヒアルロン酸やエラスチンの合成に関して効果がある旨の出願は無い。また、発明者の知るところでは、グリコーゲンが表皮ケラチノ細胞のヒアルロン酸やエラスチンの合成に関して効果がある旨の先行文献はない。加えて、発明者の知るところでは、ATPが表皮ケラチノサイトにおけるヒアルロン酸やエラスチンの合成を促進する効果がある旨の先行文献はない。
【0011】
特許文献3および4は、グリコーゲンの合成およびその利用に関する記載があるが、ヒアルロン酸とエラスチンの産生促進効果についてはなんら記載も示唆もしていない
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本国特開2003−321373
【特許文献2】日本国特許第3650295号
【特許文献3】日本国特許第4086312号
【特許文献4】日本国特開2009−227632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
生体に適合性の物質で、エラスチン、ヒアルロン酸の産生に効果のある物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
鋭意検討した結果、本発明者らは、グリコーゲンは表皮細胞のヒアルロン酸およびエラスチンの産生を促進するが、細胞の数を増やすことに起因するのではなく、細胞を活性化することに因ることを見出し、上記課題を解決した。このようなグリコーゲンの効果は容易に考えつくことではなく、また特許文献、非特許文献ともにこのような効果を示す先行文献なく、かかる効果は顕著なものと考えられる。
【0015】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(1)グリコーゲンを含む、表皮細胞においてヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進するための組成物。
(2)前記グリコーゲンは、少なくとも0.0625重量%含まれる、項目1に記載の組成物。
(3)前記グリコーゲンは、酵素合成グリコーゲン(ESG)および天然グリコーゲンからなる群より選択される少なくとも1つを含む項目1または2に記載の組成物。
(4)前記グリコーゲンは、ESGを含む項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
(5)前記成分の産生の促進は、1細胞あたりの産生の促進により達成される、項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
(6)前記成分はヒアルロン酸であり、前記グリコーゲンは少なくとも0.0625重量%〜5.0重量%含まれる項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
(7)前記成分はヒアルロン酸であり、前記グリコーゲンは少なくとも0.125重量%〜2.0重量%含まれる項目1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
(8)前記成分はヒアルロン酸であり、前記グリコーゲンは0.5重量%〜2.0重量%含まれる項目1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
(9)前記成分はエラスチンであり、前記グリコーゲンは少なくとも0.0625重量%〜5.0重量%含まれる項目1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
(10)前記成分はエラスチンであり、前記グリコーゲンは少なくとも0.25重量%〜2.0重量%含まれる項目1〜5または9のいずれか1項に記載の組成物。
(11)グリコーゲンを含む、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬。
(12)薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、項目11に記載の医薬。
(13)薬剤をさらに含む、項目11または12に記載の医薬。
(14)グリコーゲンを含む、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための化粧品。
(15)薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、項目14に記載の化粧品。
(16)ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬を生産する方法であって、グリコーゲンを薬学的に許容可能な賦形剤と混合する工程を包含する方法。
(17)ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための化粧品を生産する方法であって、グリコーゲンを薬学的に許容可能な賦形剤と混合する工程を包含する方法。
(18)ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生を促進する方法であって、該方法は、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生の促進を必要とする患者にグリコーゲンが表皮細胞に送達されるように投与する工程を包含する方法。
(19)ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬を製造するための、グリコーゲンの使用。
(20)ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための、グリコーゲン。
【0016】
これらのすべての局面において、本明細書に記載される各々の実施形態は、適用可能である限り、他の局面において適用されうることが理解される。
【0017】
複数の実施形態が開示されるが、本発明のなお他の実施形態は、以下の詳細な説明から当業者には明らかになるであろう。明らかであるように、本発明は、すべて本発明の技術思想および範囲から逸脱することなく、種々の明白な態様において修飾が可能である。従って、図面および詳細な説明は、事実上例示的であると見なされ、制限的であるとは見なされない。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、グリコーゲンがヒアルロン酸およびエラスチンの産生を増加させることを見出した。このような生体に適合性のある材料がヒアルロン酸およびエラスチンの増加に有用であることを見出したことは医薬品業界における応用が期待され、従来技術にない効果を達成することができると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、酵素合成グリコーゲン(ESG)のケラチノサイトに対するヒアルロン酸産生促進効果を示すグラフである。図1では、各表示された重量%のESGを加えた場合に観察されたヒアルロン酸産生量をコントロールに対する増加率で示す。ESGを0.03125から2.0重量%の範囲でケラチノサイトに24時間作用させた結果、0.03125%からヒアルロン酸産生の促進が観察され、0.0625%以上で有意に産生が促進された。その効果は濃度に依存して増強され、2.0%処理においては約2.5倍にまでヒアルロン酸の産生が増加した。図中のアスタリスクはコントロールに対して統計的有意差があることを示し、1、2、3つは夫々危険率0.05、0.01、0.001以下を表す。
【図2】図2は、ESGのエラスチン産生促進効果を示すグラフである。図2では、各表示された重量%のESGを加えた場合に観察されたエラスチン産生量をコントロールに対する増加率で示す。ESGを0.03125から2.0重量%の範囲でケラチノサイトに24時間作用させた結果、0.03125%からエラスチン産生の促進が観察され、0.0625%以上で有意に産生が促進された。その効果は濃度に依存して増強され、2.0%処理においては約2倍にまでエラスチンの産生が増加した。図中のアスタリスクはコントロールに対して統計的有意差があることを示し、1、2、3つは夫々危険率0.05、0.01、0.001以下を表す。
【図3】図3は、ESGの細胞増殖に対する効果を示すグラフである。ESGは、2.0重量%でケラチノサイトに作用させても、細胞数を増加させないことが理解される。すなわち、本図は、グリコーゲンの実細胞数に対する効果を示すグラフである。
【図4】図4は、酵素合成グリコーゲンと天然グリコーゲンとのヒアルロン酸産生に対する効果の比較を示すデータである。図4では、各表示された種類のグリコーゲンを1.0重量%加えた場合に観察されたヒアルロン酸産生量をコントロールに対する増加率で示す。ESG、イガイグリコーゲン、フィトグリコーゲン(コーン由来)はいずれもヒアルロン酸の産生量を2倍以上に増加させた。図中のアスタリスクはコントロールに対して統計的有意差があることを示し、2、3つは夫々危険率0.01、0.001以下を表す。
【図5】図5は、酵素合成グリコーゲンと天然グリコーゲンとのエラスチン産生に対する効果の比較を示すデータである。図5では、各表示された種類のグリコーゲンを1.0重量%加えた場合に観察されたヒアルロン酸産生量をコントロールに対する増加率で示す。ESG、イガイグリコーゲン、牡蠣グリコーゲンはエラスチンの産生量を夫々約2、1.3、1.8倍に増やした。図中のアスタリスクはコントロールに対して統計的有意差があることを示し、1、3つは夫々危険率0.05、0.001以下を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0021】
(定義)
本明細書では、「グリコーゲン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合のみによって連結されており、分子量が100万Da以上であるものをいう。特に、本発明で用いられるものは、50U/g基質のプルラナーゼを、以下の条件(特許4086312号参照)で作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合のMwが50万Da以上であり、かつ300U/g基質のα−アミラーゼを以下の条件(特許4086312号を参照)で作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合のMwが50万Da以上である糖をいう。
【0022】
プルラナーゼによるテスト法の試験条件:プルラナーゼの活性は、プルランを基質として1分間に1μmolのグルコースに相当する還元力を生成するのに必要な量を1Uとしてあらわされる。プルラナーゼとしては、例えば大和化成株式会社製のBacillus brevis由来の酵素剤であるクライスターゼPLF、あるいはクライスターゼPL45や、Sigma Aldrich製のBacillus acidopullulyticus由来のプルラナーゼ、同社製Klebsilla pneumoniae由来のプルラナーゼなど任意のプルラナーゼを使用できる。反応温度と反応pHは、それぞれの酵素の反応に最も適する温度、pHを選択する。
【0023】
α−アミラーゼによるテスト法の試験条件:α−アミラーゼとしては、ヒト唾液腺由来のα−アミラーゼ(例えばSigma Aldrich社製Type XIII−A)や、ブタすい臓由来のα−アミラーゼ(例えばSigma Aldrich社製Type I−Aを用いることができる。α−アミラーゼの活性1Uは、20℃、pH6.9で、デンプンを基質として、3分間に1.0mgのマルトースを遊離する酵素量として定義される。
【0024】
本明細書において「重量平均分子量(Mw)」、および数平均分子量(Mn)は以下のように説明される。すなわち、グリコーゲンのような高分子は、一般に均一な分子ではなく、種々の大きさの分子の混合物であるため、その分子量は数平均分子量(Mn)もしくは重量平均分子量(Mw)で評価する。Mnは、その系の全質量を、その系に含まれる分子の個数で割ったものである。すなわち数分率による平均である。一方、Mwは重量分率による平均である。完全に均一な物質であれば、Mw=Mnとなるが、高分子は一般に分子量分布を有するためMw>Mnとなる。したがって、Mw/Mnが1より大きいほど、分子量の不均一度が大きい(分子量分布が広い)ということになる。本発明では、グリコーゲンについては、重量平均分子量をおもに使用する。
【0025】
本発明に用いるグリコーゲンは、動物の肝臓や骨格筋で貯蔵されることが知られているものであり、特に限定はされない。その由来としては動物が挙げられるが、植物ないし微生物がグリコーゲンないしグリコーゲンと同様な構造を有する物質を産生することも知られており、これらはすべて本発明のグリコーゲンとして使用することができる。さらに本発明に用いるグリコーゲンを、酵素を用いて合成することもできる。例えば、砂糖とプライマー分子(マルトオリゴ糖やデキストリン等)混合物にスクロースホスホリラーゼ(EC2.4.1.7)とα−グルカンホスホリラーゼ(EC2.4.1.1)およびブランチングエンザイム(EC2.4.1.18)を作用させる方法、および短鎖のアミロースにブランチングエンザイム(EC2.4.1.18)を作用させる方法などがある。これらの方法で合成したグリコーゲンも、天然グリコーゲンと同様の化学的構造、および物理的構造を持つことが知られており、これらの酵素合成グリコーゲンも本発明の方法に使用することができる。また、グリコーゲンを用いる以外に、それらの誘導体を用いても良く、それらの同等物であっても良い。そのような誘導体または同等物の作製は、例えば、以下の方法で行なうことが可能である。
【0026】
本発明のグリコーゲンは、当業者に周知の分離方法、例えば、クロマト分離(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、HPLC)、膜分離等で適当な分子量分布を持つ画分に分離することができる。また、溶媒(例えば、メタノール、エタノール)を用いる沈澱等の方法を、単独で、あるいは組み合わせて用いて適当な分子量分布を持つ画分に分離することができる。また、グリコーゲンを当業者に周知の方法でエーテル化、エステル化、架橋化、およびグラフト化したものを使用することができる。誘導体化の方法としては、通常、澱粉の修飾に用いられる方法が用いられ得る(生物化学実験法19,「澱粉・関連糖質実験法」:中村ら、学会出版センター、1986年273〜303頁)。リン酸化の例としては、本発明のグリコーゲンをジメチルホルムアミド中でオキシ塩化リンと反応させることにより、リン酸化したグリコーゲンを得ることができる。
【0027】
本明細書において「酵素合成グリコーゲン(ESG)」とは、酵素で合成されたグリコーゲンをいう。グリコーゲンを酵素を用いて合成する方法は、たとえば、WO2006/035848号、特許4086312号に記載されている。得られた酵素合成グリコーゲンは、高純度であり分子量や分岐度が制御されている。さらに、酵素合成グリコーゲンの場合、天然グリコーゲンと比較して、各種消化酵素に対する抵抗性が高いという優れた特徴を有する。
【0028】
本明細書でいう酵素合成グリコーゲンはWO2006/035848号記載の酵素合成グリコーゲンを含む。すなわち、これは、グリコーゲンを合成する能力を有するブランチングエンザイムを溶液中で基質に作用させてグリコーゲンを生産する工程により製造されるものであり、該基質が主にα−1,4−グルコシド結合で連結された重合度4以上のα−グルカンであり、該基質が澱粉枝切り物、デキストリン枝切り物または酵素合成アミロースであり、該グリコーゲンの重量平均分子量が100万Da以上であり、該グリコーゲンに50U/g基質のプルラナーゼを60℃で30分作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であり、かつ該グリコーゲンに300U/g基質のα−アミラーゼを37℃で30分作用させた場合に得られる生成物をMALLS法によって分析した場合の重量平均分子量が50万Da以上であるグリコーゲンである。
【0029】
ESGと天然のグリコーゲンとを識別する方法としては、抵抗性でんぷん(Resistant Starch)を測定する手法がある。ESGは、Megazymes社のResistant Starchアッセイキットで定量した時、約20%程度の「Resistant Starch含量である」、と定量される。これは、ESGの分子コア部分に比較的大きな、αアミラーゼに耐性を示す部分があることによる。NSGの場合、そのような耐性のコア部分を持つ分子の割合が少ないため、本キットの定量値は非常に低くなることによって識別できる。
【0030】
MALLS法とは、多角度光散乱検出器と、示差屈折計を検出器として併用したHPLCゲルろ過分析法であり、Takataら、J. Appl. Glycosci. 50巻, 15−20頁、2003年に記述されている。該グリコーゲンの重量平均分子量は、約100万Daから約1億Daであり、より好ましくは約100万Daから約5000万Daであり、より好ましくは約200万Daから約3000万Daであり、さらに好ましくは約300万から約2000Da万であり、さらにより好ましくは、約400万Da〜約800万Da程度であり得、例えば、約400万Da、約500万Da、約600万Da、約700万Da、約800万Da、あるいはこれらの任意の数値の間の範囲のものなどでありうる。グリコーゲン合成に用いる、グリコーゲンを 合成する能力を有するブランチングエンザイムはAquifex aeolicus、Aquifex pyrophilus、Rhodothermus obamensis、Rhodothermus marinus、Bacillus stearothermophilus、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus caldolyticus、Bacillus flavothermus、Bacillus acidocaldarius、Bacillus caldotenax、Bacillus smithii、Thermosynechococcus elongatusおよびEscherichia coliからなる群より選択される細菌に由来し得る。
【0031】
本発明に用いることができる酵素合成グリコーゲンは、天然のグリコーゲンとほぼ同様の大きさと形状を持つ高分子である。さらに、本発明に用いる酵素合成グリコーゲンは、天然のグリコーゲンと比較して、電解質などの不純物含量が少なく、皮膚への安全性が高い。また、分岐結合の分子内での配置が若干異なることから、溶液の経時安定性が高く、酵素や微生物などの生物的分解への耐性が高く、化学的、物理的分解に対する耐性も高い。このような特徴から、各種の補助成分との併用により、本来単独で有する効果を相乗的に高めることができる。酵素合成グリコーゲンの配合量は、任意の量であり得る。
【0032】
本明細書において「表皮細胞」とは、表皮を形成する細胞で、角層、顆粒層、有棘層、基底層に存在する細胞のことである。たとえば、表皮細胞は、表皮ケラチノサイトを含むがこれに限定されない。
【0033】
本明細書において「ヒアルロン酸」(hyaluronic acid)とは、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種であり、ヒアルロナン(hyaluronan)とも呼ばれる。ヒアルロン酸は、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸(GlcNAcβ1−4GlcAβ1−3)の二糖単位が連結した構造をしている。極めて高分子量であり、分子量は100万以上になると言われている。コンドロイチン硫酸など他のグリコサミノグリカンと異なり、硫酸基の結合が見られず、またコアタンパク質と呼ばれる核となるタンパク質にも結合していない。生体内では、関節、硝子体、皮膚、脳など広く生体内の細胞外マトリックスに見られる。とりわけ関節軟骨では、アグリカン、リンクタンパク質と非共有結合し超高分子複合体を作って、軟骨の機能維持に極めて重要な役割をしている。ある種の細菌も同様な構造を持つ糖鎖を合成している。ヒアルロン酸は、実施例に記載した方法のほか、ラテックス凝集法などによって測定することができる。
【0034】
本明細書において「エラスチン」とは、コラーゲンの線維を支える役割を持つ線維であり弾性線維とも呼ばれる。ヒトの真皮の約5%を占め、年齢と共に減少し皺の原因となる。エラスチンは、実施例に記載した方法のほかELISA法などによって測定することができる。
【0035】
本発明の組成物は、医薬のほか、医療デバイス、化粧品、食品、健康食品もしくは機能性食品などとして用いられる。
【0036】
本明細書において「医薬」とは、当該分野でもっとも広義に解釈され、任意の薬を含み、薬事法上の医薬品、医薬部外品等のほか、骨形成による治療または予防を意図する任意の用途の薬剤、組成物等を包含することが理解される。そのような例として、医療分野、歯科分野等における応用が挙げられる。通常、医薬は固体または液体の賦形剤を含むとともに、必要に応じて崩壊剤、香味剤、遅延放出剤、滑沢剤、結合剤、着色剤などの添加剤を含むことができる。医薬品の形態は、錠剤、注射剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、徐放製剤などを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書において「医療デバイス」とは、当該分野でもっとも広義に解釈され、任意のデバイス、機器を含み、薬事法上の医療機器のほか、表皮細胞においてヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進することを意図する任意の用途の装置、デバイス、器具を包含することが理解される。医療デバイスとしては、たとえば、シート、絆創膏、湿布、フィルム、コーティングなどが例示される。
【0038】
本明細書において「化粧品」とは、当該分野で最も広義の意味で用いられ、薬事法上の化粧品のほか、化粧用途の任意の製品等を含むことが理解され、たとえば、化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料やファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、芳香化粧料などを挙げることができる。
【0039】
本明細書において「治療」または「予防」とは、ヒアルロン酸産生またはエラスチンの産生が促進されることによって症状が軽減または治癒する任意の処置、あるいはそのような状態になることを防止する任意の処置をいう。
【0040】
(好ましい実施形態)
本発明の好ましい実施形態を、以下に掲げる。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0041】
1つの局面において、本発明は、グリコーゲンを含む、表皮細胞においてヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進するための組成物を提供する。したがって、本発明は、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進することによって処置しうる任意の疾患、障害または状態の処置または予防のための方法および組成物を提供する。グリコーゲンを哺乳類等の対象に投与し、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生の刺激または強化をもたらす工程によって達成される。
【0042】
本発明で使用されるグリコーゲンは、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生の刺激または強化をもたらすものであれば、どのようなものでも使用しうる。グリコーゲンにヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生の刺激活性があることは従来知られておらず、予想外の効果であるといえる。
【0043】
種々の実施形態において、本発明において使用されるグリコーゲンの含有量の上限(なお、特に断らない限り、グリコーゲンの含有量は、重量%で示す。)は、約20重量%、約19重量%、約18重量%、約17重量%、約16重量%、約15重量%、約14重量%、約13重量%、約12重量%、約11重量%、約10重量%、約9重量%、約8重量%、約7重量%、約6重量%、約5重量%、約4重量%、約3重量%、約2重量%等でありうる。
【0044】
本発明において使用されるグリコーゲンの含有量の下限は、約0.01重量%、約0.02重量%、約0.03重量%、約0.03125重量%、約0.04重量%、約0.05重量%、約0.06重量%、約0.0625重量%、約0.07重量%、約0.08重量%、約0.09重量%、約0.11重量%、約0.12重量%、約0.125重量%、約0.13重量%、約0.14重量%、約0.15重量%、約0.16重量%、約0.17重量%、約0.18重量%、約0.19重量%、約0.2重量%、約0.25重量%、約0.3重量%、約0.4重量%、約0.5重量%、約0.6重量%、約0.7重量%、約0.8重量%、約0.9重量%、約1重量%等でありうる。これらの下限は、本明細書に記載された上限のいずれかの数値と任意に組合されうる。たとえば、このような範囲は、エラスチンの産生に関して、0.25〜2重量%、ヒアルロン酸の産生に関して1重量%〜2重量%など種々であり得るがこれらに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、これらの範囲が好ましいのは、おのおのこれらの範囲で最大限の産生が観察されたからであり、この範囲での添加であれば、安全性にも問題ないという理由も考慮される。
【0045】
ある実施形態において、本発明において使用されるグリコーゲンは、少なくとも0.0625重量%含まれ、たとえば、その上限としては、5.0重量%、好ましくは上限として2.0重量%が挙げられる。
【0046】
ある実施形態において、本発明において用いられるグリコーゲンは、酵素合成グリコーゲン(ESG)および天然グリコーゲンからなる群より選択される少なくとも1つを含む。1つの好ましい実施形態では、グリコーゲンは、ESGを含むことが有利である。理論に束縛されることを望まないが、ESGを用いることが好ましいのは、品質管理が容易であることのほか、ESGが天然のグリコーゲンに比べて、ヒアルロン酸およびエラスチンの両方の産生についてより有利な効果が観察されたからであり、また、安全性に優れているという理由も考慮される。
【0047】
ある実施形態において、本発明のグリコーゲンによる成分の産生の促進は、1細胞あたりの産生の促進により達成される。グリコーゲンは、表皮細胞の有意な増殖効果がないことが本発明において実証されている。そこで、グリコーゲンのヒアルロン酸およびエラスチンの両方の産生の増加効果は、細胞を増殖させる効果によるものではなく、細胞自体のこれらの成分の製造能力を増強させたものであることによることが理解される。
【0048】
1つの実施形態では、本発明のグリコーゲンが産生を増強する成分がヒアルロン酸である場合、グリコーゲンは少なくとも0.125重量%含まれ、たとえば、その上限としては、5.0重量%、好ましくは上限として2.0重量%が挙げられる。
【0049】
別の実施形態では、本発明のグリコーゲンが産生を増強する成分がヒアルロン酸である場合、グリコーゲンは少なくとも0.5重量%含まれる。
【0050】
1つの実施形態では、本発明のグリコーゲンが産生を増強する成分がエラスチンである場合、グリコーゲンは少なくとも0.25重量%含まれ、、たとえば、その上限としては、5.0重量%、好ましくは上限として2.0重量%が挙げられる。
【0051】
別の実施形態では、本発明で使用されるグリコーゲンは、酵素合成グリコーゲン(ESG)を含む。
【0052】
別の実施形態では、本発明で使用されるグリコーゲンは、特許4086312号の方法に基づいて合成可能であり、たとえば、実施例で使用した重量平均分子量7000kDaのもののほか、ESG−5M(重量平均分子量5200kDaの酵素合成グリコーゲン)、ESG−3M(重量平均分子量3200kDaの酵素合成グリコーゲン)、ESGB(重量平均分子量5000kDaの酵素合成グリコーゲン)、イガイグリコーゲン(フランス、Laboratoires Serobiologiques製造、山川貿易株式会社輸入。Sigma Aldrichからも入手可能)、牡蠣グリコーゲン(和光純薬工業株式会社、またはSigma Aldrich、ナカライテスク株式会社などから入手可能)、ウシ肝臓グリコーゲン(ナカライテスク株式会社またはSigma Aldrich)、豚肝臓グリコーゲン、ニワトリ肝臓グリコーゲンなどの動物性グリコーゲン、コーン由来フィトグリコーゲン(キューピー株式会社)等の植物性グリコーゲンなどである。
【0053】
(医薬等)
1つの局面において、本発明は、グリコーゲンを含む、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬を提供する。ここで、本発明の医薬に含まれるグリコーゲンの種々の実施形態としては、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための組成物等に用いられるもの、たとえば、本明細書のこれらの組成物の項において説明されている任意のものを用いることができる。
【0054】
1つの実施形態では、本発明の医薬は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む。本発明の組成物を医薬または医薬品として使用する場合、その投与剤型としては、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、徐放製剤、カプセル剤、注射剤などが挙げられる。該医薬品は賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、香味剤、着色剤、遅延放出剤などの添加剤を含むことができる。経口製剤の場合、賦形剤として、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロースなど、結合剤として、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ポリビニルピロリドン、ブロックコポリマーなど、崩壊剤として、例えば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチンなど、滑沢剤として、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油など、香味剤として、例えばココア末、ハッカ油、桂皮末などが使用できるが、これらに限定されない。必要により、徐放性または腸溶性製剤とするためのコーティングを施すことができる。注射用製剤の場合には、pH調整剤、溶解剤、等張化剤、緩衝化剤などが使用されるが、これらに限定されない。
【0055】
本発明のヒアルロン酸またはエラスチンの産生促進剤は、皮膚外用剤として使用することができる。このような皮膚外用剤に配合する場合、グリコーゲンの配合量(乾燥質量)は外用剤全量中、0.0001〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜10質量%である。0.0001質量%未満であると、本発明の効果が十分に発揮されず、一方、50質量%を超えて配合しても効果のさらなる増加は実質上望めないし、皮膚外用剤への配合も難しくなる傾向にある。したがって、使用されうる配合量としては、表皮細胞においてヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進するために有効な濃度であれば、どのような濃度で皮膚外用剤に含まれていてもよいことが理解される。例示的には、酵素合成グリコーゲンの配合量は、皮膚外用剤全量中の0.01〜30重量%、好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは、0.1〜10重量%である。
【0056】
本発明の皮膚外用剤には上記した成分の他に、通常化粧品や医薬品などの皮膚外用剤に用いられる他の成分、例えば必要に応じて通常皮膚外用剤に配合される添加成分、例えば低級アルコール類・シリコーン類・油脂類・エステル油剤・ステロール類及びその誘導体・炭化水素類等の油性成分、油分、酸化防止剤、界面活性剤、保湿剤、湿潤材、香料、水、色剤、粉末、薬剤、キレート剤、pH調整剤乳化・可溶化剤、増粘・ゲル化剤、防腐剤、殺菌剤、酸・アルカリ、紫外線吸収剤、抗炎症剤、美白剤、溶剤、角質剥離・溶解剤、消炎剤、清涼剤、収瞼剤、高分子粉体、ヒドロキシ酸・ビタミン類及びその誘導体類、糖類及びその誘導体類、有機酸類、酵素類、無機粉体類、などを必要に応じて適宜配合することができるが、これらは本発明の効果を損なわない量的、質的範囲内で使用されなければならない。
【0057】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。またこの皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、浴用剤などの医薬部外品等、特に好適には化粧料に広く適用することが可能であり、その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、液晶系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。医薬部外品であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用が可能である。そして、これらの剤型及び形態に、本発明のヒアルロン酸またはエラスチンの産生促進剤、およびヒアルロン酸またはエラスチンの産生促進剤の採り得る形態が限定されるものではない。
【0058】
皮膚外用剤の剤型をローション、乳液、増粘ゲル系などとする場合、上記の成分の中でも特に、増粘剤のうち、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、カラギナン、ペクチン、クインスシード(マルメロ)抽出物、褐藻粉末などの植物系高分子、キサンタンガム、デキストラン、ブルランなどの微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチンなどの動物系高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシデンプンなどのデンプン類、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸塩、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース、セルロース末などのセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーなどのビニル系高分子、ポリアクリル酸及びその塩、ポリアクリルイミドなどのアクリル系高分子、グリチルリチン酸やアルギン酸などの有機系増粘剤、ベントナイト、ヘクトライト、ラボナイト、珪酸アルミニウムマグネシウム、無水珪酸などの無機系増粘剤などからなる水溶性増粘剤と、アルコールのうち、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールとを配合することが効果を増大させる点で好ましい。配合量は、皮膚外用剤全量中、水溶性増粘剤が0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%であり、低級アルコールが0.3〜35重量%であるが、皮膚外用剤中の酵素合成グリコーゲンと低級アルコールとの配合比(重量比)は、3:1〜1:3とすることが好ましい。
【0059】
本発明の医薬において、含まれていてもよいさらなる医薬は、目的に応じ種々考えられるが、吉草酸酢酸プレドニゾロン、酪酸クロベタゾン、タクロリムス、リンデロン‐VG、硫酸ゲンタマイシン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、ジプルプレドナート、ロキシスロマイシン、イソトレチノイン酸、レチノイン酸、アスコルビン酸、エストラジオール、イオウ、d−カンフル、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸ステアリル、塩化ベンザルコニウム、サリチル酸、酸化亜鉛、尿素、ニコチン酸アミド、ヒノキチオール、塩酸ピリドキシン、レゾルシン、アラントイン、トコフェロール酢酸エステル、ジカプリル酸ピリドキシン、l-メントール、リボフラビン、D−パントテニルアルコール、レゾルシン、コラーゲン、オリザノール、イノシトール、レチノイン酸、上皮細胞増殖因子、αアルブチン、リン酸化オリゴ糖カルシウム、ヘスペリジン、αGヘスペリジン、各種植物オイル、各種植物エキスなどを挙げることができる。
【0060】
本明細書において薬剤等の「有効量」とは、その薬剤が目的とする薬効を発揮することができる量をいう。本明細書において、そのような有効量のうち、最小の濃度を最小有効量ということがある。そのような最小有効量は、当該分野において周知であり、通常、薬剤の最小有効量は当業者によって決定されているか、または当業者は適宜決定することができる。そのような有効量の決定には、実際の投与のほか、動物モデルなどを用いることも可能である。本発明はまた、このような有効量を決定する際に有用である。
【0061】
本明細書において「薬学的に受容可能なキャリア」は、医薬または動物薬のような農薬を製造するときに使用される物質であり、有効成分に有害な影響を与えないものをいう。そのような薬学的に受容可能なキャリアとしては、例えば、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント以下が挙げられるがそれらに限定されない。
【0062】
(医療デバイス等)
別の局面において、本発明は、グリコーゲンを含む、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医療デバイスを提供する。ここで、本発明の医療デバイスに含まれるグリコーゲンの種々の実施形態としては、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための組成物、医薬等に用いられるもの、たとえば、本明細書のこれらの組成物、医薬の項において説明されている任意のものを用いることができる。
【0063】
1つの実施形態では、本発明の医療デバイスは、薬事法上の医療機器に限定されず、広くフィルム、テープ、絆創膏、湿布などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0064】
(化粧品)
別の局面において、本発明は、グリコーゲンを含む、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための化粧品を提供する。ここで、本発明の化粧品に含まれるグリコーゲンの種々の実施形態としては、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための組成物、医薬、医療デバイス等に用いられるもの、たとえば、本明細書のこれらの組成物、医薬、医療デバイスの項において説明されている任意のものを用いることができる。
【0065】
このような化粧品の使用形態は任意であり、薬事法上の化粧品に限定されず、広く理解されるべきであり、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料やファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、芳香化粧料等に用いることができる。
【0066】
また、メーキャップ化粧品であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディーソープ、石鹸等の形態に広く適用可能である。
【0067】
(医薬等の生産方法)
1つの局面において、本発明は、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬を生産する方法であって、グリコーゲンを薬学的に許容可能な賦形剤と混合する工程を包含する方法を提供する。化粧品、医療デバイスなども同様に製造することができる。その場合、薬学的に許容可能な賦形剤に代えて、目的に応じた二次成分を用いることができる。ここで、本発明に含まれるグリコーゲンの種々の実施形態としては、骨形成または骨形成促進のための組成物、医薬、医療デバイス、化粧品等に用いられるもの、たとえば、本明細書のこれらの組成物、医薬、化粧品または医療デバイスの項において説明されている任意のものを用いることができる。
【0068】
(ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生を促進する方法)
1つの局面において、本発明は、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生を促進する方法であって、該方法は、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生の促進を必要とする患者にグリコーゲンが表皮細胞に送達されるように投与する工程を包含する方法を提供する。ここで、本発明に含まれるグリコーゲンの種々の実施形態としては、骨形成または骨形成促進のための組成物、医薬、医療デバイス、化粧品、食品等に用いられるもの、たとえば、本明細書のこれらの組成物、医薬、化粧品、食品または医療デバイスの項において説明されている任意のものを用いることができる。
【0069】
本発明は、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生の促進を必要とする疾患、障害、または状態(たとえば、具体的適用例としては、例えば、肌荒れ改善、シワ予防・防止、関節痛(変形性膝関節症)治療、皮膚のたるみ改善、ドライアイを主とした角結膜上皮障害治療、白内障・角膜移植手術時における前房保持、皮膚の創傷治癒の改善、骨粗しょう症、関節炎、腱鞘炎等の予防・治療、高血圧の予防・治療等の治療のための方法および組成物を提供する。グリコーゲンを哺乳類等の対象に投与し、これらの成分の産生の刺激または強化をもたらす工程によって達成される。また上記症状や疾病、病態等の治療、予防、改善等の生理機能をコンセプトとして、その旨を表示した皮膚外用剤、機能性飲食品、疾病者用食品、特定保健用食品等に応用することができる。
【0070】
本発明の方法において、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生の促進を必要とする患者が対象とされ得、そしてこの患者には、直接の塗布、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、直腸内投与などの適切な投与法を、患者の状態、年齢、性別などに応じて適宜選択される。有効成分の用量は、通常成人の場合1日あたり約0.1mg〜約5,000mgであり、表皮細胞においてヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進するために有効な濃度であればこの範囲に限定されないが、患者の状態、年齢、性別などに応じて適宜選択される。本発明で使用されるグリコーゲンは無毒性ないし低毒性であると考えられる。
【0071】
本発明の処置方法または予防方法において使用される有効成分の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日〜数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回〜1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間〜1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0072】
本発明は、キットなどとして使用されてもよく、その場合、指示書を伴うこともありうる。本明細書において「指示書」は、本発明の治療方法などを医師、患者など投与を行う人に対して記載したものである。この指示書は、本発明の医薬などを例えば、表皮細胞でヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生が促進される条件での投与(たとえば、塗布)の方法を指示する文言が記載されている。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0073】
必要に応じて、本発明の治療では、2種類以上の薬剤が使用され得る。2種類以上の薬剤を使用する場合、類似の性質または由来の物質を使用してもよく、異なる性質または由来の薬剤を使用してもよい。このような2種類以上の薬剤を投与する方法のための疾患レベルに関する情報も、本発明の方法によって入手することができる。
【0074】
(本明細書において用いられる一般的技術)
本明細書において使用される技術は、そうではないと具体的に指示しない限り、当該分野の技術範囲内にある、化粧品製造、細胞科学、医療器具製造技術、製剤技術、微細加工、有機化学、生化学、遺伝子工学、分子生物学、微生物学、遺伝学および関連する分野における周知慣用技術を使用する。そのような技術は、例えば、以下に列挙した文献および本明細書において他の場所おいて引用した文献においても十分に説明されている。本発明で使用される培養方法は、例えば、動物培養細胞マニュアル、瀬野ら編著、共立出版、1993年などに記載され支持されており、本明細書においてこのすべての記載を援用する。
【0075】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0076】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記実施形態にも下記実施例にも限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。以下に示した実施例において使用した試薬、樹脂等は、特に言及しない限り和光純薬、Sigma−Aldrich、フナコシ、キシダ化学、コスモバイオ、ナカライテクス等から得ることができる。
【0078】
(調製実施例)
実施例で使用した酵素合成グリコーゲンは、以下のように製造した。
【0079】
(7000kDaの酵素合成グリコーゲン(ESG)の製造)
デキストリン(MAX1000、松谷化学工業製)を8.5重量%になるように、100mLの0.01重量%の塩化カルシウム水溶液に溶解し、Flavobacteriu由来イソアミラーゼ(合同酒精株式会社)を、基質1gあたり5000単位添加した。50℃で4時間反応を行い、短鎖アミロースに分解した後、温度を65℃に上げ、5mLの1Mクエン酸緩衝液(pH6.7)、Aquifex aeolicus由来ブランチングエンザイム(5000単位/g基質)およびThermus aquaticus由来アミロマルターゼ(2単位/g基質)を添加し、64時間反応させた。反応液のpHを塩酸で約3.5に調製し、100℃15分加熱することによって反応を停止した。この反応液に、100mLのエタノールを添加し、約10,000×gで5分遠心分離することによって、沈殿を回収し、さらに100mLの50%エタノールにより沈殿を3回洗浄した。沈殿を50mLの蒸留水に溶解し、凍結乾燥することにより粉末の酵素合成グリコーゲン(7000kDa)を得た。
【0080】
(実施例1:ヒアルロン酸の産生に対する効果)
本実施例では、各種グリコーゲンのヒアルロン酸の産生に対する効果を測定した。
【0081】
(材料)
使用したグリコーゲン:ESG(調製実施例で調製したもの、7000kDa)
ヒト正常表皮細胞(NHEK)(入手先・クラボウ調製方法凍結細胞を解凍し、100φディッシュに播種しEpilife−KG−2培地で培養した。)
培地:EpiLife−KG−2(クラボウ製)(表皮角化細胞基礎培地;EpiLifeTMにインスリン(10μg/ml)、ヒト組み換え型上皮成長因子(0.1ng/ml)、ハイドロコーチゾン(0.5μg/ml)、ゲンタマイシン(50μg/ml)、アンフォテリシンB(50 ng/ml)、ウシ脳下垂体抽出液(0.4%V/V)を添加した培地)
ヒアルロン酸ELISAキット(生化学バイオビジネス株式会社製)
(方法:ヒアルロン酸産生量の測定)
ヒト正常表皮細胞(NHEK)を2.5x10cells/wellで96well plateに播種し、24時間培養後、夫々のサンプルを含む培地に交換して24時間培養した。培地はEpiLife−KG−2(クラボウ製)を使用した。培養終了後に培地を回収し、培地中のヒアルロン酸量を、ヒアルロン酸ELISAキット(生化学バイオビジネス株式会社製)で測定することで、NHEKのヒアルロン酸産生量を定量した。
【0082】
(結果)
結果を図1に示す。図1では、各表示された重量%のESGを加えた場合に観察されたヒアルロン酸産生量をコントロールに対する増加率で示す。
【0083】
(実施例2:エラスチンの産生に対する効果)
本実施例では、酵素合成グリコーゲンのエラスチンの産生に対する効果を測定した。
【0084】
(材料)
使用した材料は基本的に実施例1と同じである。
【0085】
本実施例では実施例1でのものに加え、エラスチン測定キット:FASTIN ELASTIN Assay Kit(Biocolor製)も用いた。
【0086】
(方法:エラスチン産生量の測定)
ヒト正常表皮細胞(NHEK)を7.5x10cells/well で24 well plateに播種し、24時間培養後、夫々のサンプルを含む培地に交換して72時間培養した。培地はEpiLife−KG−2(クラボウ製)を使用した。培養終了後に培地を回収し、培地中のエラスチン量を、FASTIN ELASTIN Assay Kit(Biocolor製)で測定することで、NHEKのヒアルロン酸産生量を定量した。
【0087】
(結果)
結果を図2に示す。図2では、各表示された重量%のESGを加えた場合に観察されたエラスチン産生量をコントロールに対する増加率で示す。
【0088】
(実施例3)
本実施例では、グリコーゲンが、細胞増殖効果を実質的に有しないことを確認した。
【0089】
(材料)
使用した材料は基本的に実施例1と同じである。
【0090】
(方法)
ヒト正常表皮細胞(NHEK)を1.0x10cells/well で6 well plateに播種し、24時間培養後、夫々のサンプルを含む培地に交換して24時間培養した。培地はEpiLife−KG−2(クラボウ製)を使用した。培養終了後、トリプシン−EDTA溶液で細胞を剥がしで回収し、生細胞オートアナライザー Vi−CELL XR (BECKMAN COULTER製)を使って生細胞数をカウントした。
【0091】
(結果)
結果を図3に示す。このように、グリコーゲンは、表皮細胞の増殖には影響がなかったことが立証され、これにより、ヒアルロン酸およびエラスチンに対する本発明のグリコーゲンの産生促進効果は、細胞あたりでいえることが明らかになった。
【0092】
(実施例4:ESGと天然グリコーゲンとの比較、ヒアルロン酸に対する効果)
本実施例では、基本的に実施例1と同じ方法により、ヒアルロン酸に対する効果がESGと天然のグリコーゲンとで異なるのか調べた。
【0093】
(材料)
使用した材料は基本的に実施例1と同じである。
【0094】
使用したグリコーゲン:ESG(調製実施例で製造したもの、7000kDa)
イガイグリコーゲン(Laboratories Serobiologique社製)
コーン由来フィトグリコーゲン(キューピー株式会社製)
(結果)
結果を図4に示す。図4では、各表示された種類のグリコーゲンを加えた場合に観察されたヒアルロン酸産生量をコントロールに対する増加率で示す。
【0095】
このことから、ESGのみならず、天然のグリコーゲンでも同様にヒアルロン酸産生促進効果があることが判明した。
【0096】
(実施例5:ESGと天然グリコーゲンとの比較、エラスチンに対する効果)
本実施例では、基本的に実施例2と同じ方法により、エラスチンに対する効果がESGと天然のグリコーゲンとで異なるのか調べた。
【0097】
(材料)
使用した材料は基本的に実施例2と同じである。
【0098】
使用したグリコーゲン:ESG(調製実施例で製造したもの、7000kDa)
イガイグリコーゲン(Laboratories Serobiologique社製)
牡蠣グリコーゲン(ナカライテスク)
(結果)
結果を図5に示す。図5では、各表示された種類のグリコーゲンを加えた場合に観察されたヒアルロン酸産生量をコントロールに対する増加率で示す。
【0099】
このことから、ESGのみならず、天然のグリコーゲンでも同様にエラスチン産生促進効果があることが判明した。
【0100】
(実施例6:各種分子量のESG,天然グリコーゲンの測定、細胞レベルの実験)
ヒト正常表皮細胞(NHEK)を2.5x10cells/wellで96well plateに播種し、24時間培養後、図に示した分子量のESGを1%含む培地に交換して24時間培養する。培地はEpiLife−KG−2(クラボウ製)を使用する。培養終了後に培地を回収し、培地中のヒアルロン酸量を、ヒアルロン酸ELISAキット(生化学バイオビジネス株式会社製)で測定することで、NHEKのヒアルロン酸産生量を定量することができる。
【0101】
(実施例7:注射剤の製剤例)
塩化ナトリウム 0.9g
酵素合成グリコーゲン 5g
精製水 100ml
以上の固形成分を精製水に溶解して注射剤とする。
【0102】
(実施例8:化粧品の応用例)
次の処方に従い、常法により化粧水を製造する。
【0103】
【表1】

【0104】
この化粧水により、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0105】
(実施例9)
次の処方に従い、常法により化粧水を製造する。
【0106】
【表2】

【0107】
この化粧水により、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0108】
(実施例10)
次の処方に従い、常法により化粧水を製造する。
【0109】
【表3】

【0110】
この化粧水により、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0111】
(実施例11)
次の処方に従い、常法により乳液を製造する。
【0112】
【表4】

【0113】
この乳液により、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0114】
(実施例12)
次の処方に従い、常法により乳液を製造する。
【0115】
【表5】

【0116】
この乳液により、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0117】
(実施例13)
次の処方に従い、常法によりパウダーを製造する。
【0118】
【表6】

【0119】
このパウダーにより、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0120】
(実施例14)
次の処方に従い、常法によりパックを製造する。

【0121】
このパックにより、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0122】
(実施例15)
次の処方に従い、常法によりパックを製造する。
【0123】
【表8】

【0124】
このパックにより、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0125】
(実施例16)
次の処方に従い、常法によりクリームを製造する。
【0126】
【表9】

【0127】
このクリームにより、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0128】
(実施例17)
次の処方に従い、常法によりハンドクリームを製造する。
【0129】
【表10】

【0130】
このハンドクリームにより、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0131】
(実施例18)
次の処方に従い、常法により頭皮用化粧料を製造する
【0132】
【表11】

【0133】
この頭皮用化粧料により、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0134】
(実施例19)
次の処方に従い、常法により軟膏を製造する。
【0135】
【表12】

【0136】
この軟膏により、エラスチンまたはヒアルロン酸の産生の上昇を検証することができる。
【0137】
実施例8〜19で得られた皮膚外用剤は、全てヒアルロン酸またはエラスチンの産生促進効果を検証することができ、加える成分の性質から皮膚刺激性、感作性が少なく、経時安定性にも優れているということができる。
【0138】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、ヒアルロン酸およびエラスチンの産生を促進するが、細胞の数を増やすことに起因するのではなく、細胞を活性化することに因ることを見出した。このような生体に適合性のある材料がヒアルロン酸およびエラスチンの産生を促進に有用であることを見出したことは医薬品業界における応用が期待され、従来技術にない効果を達成することができる医薬等の分野で産業上の利用性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコーゲンを含む、表皮細胞においてヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の産生を促進するための組成物。
【請求項2】
前記グリコーゲンは、少なくとも0.0625重量%含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記グリコーゲンは、酵素合成グリコーゲン(ESG)および天然グリコーゲンからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記グリコーゲンは、ESGを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記成分の産生の促進は、1細胞あたりの産生の促進により達成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記成分はヒアルロン酸であり、前記グリコーゲンは少なくとも0.0625重量%〜5.0重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記成分はヒアルロン酸であり、前記グリコーゲンは少なくとも0.125重量%〜2.0重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記成分はヒアルロン酸であり、前記グリコーゲンは0.5重量%〜2.0重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記成分はエラスチンであり、前記グリコーゲンは少なくとも0.0625重量%〜5.0重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記成分はエラスチンであり、前記グリコーゲンは少なくとも0.25重量%〜2.0重量%含まれる請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
グリコーゲンを含む、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬。
【請求項12】
薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
薬剤をさらに含む、請求項11に記載の医薬。
【請求項14】
グリコーゲンを含む、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための化粧品。
【請求項15】
薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項14に記載の化粧品。
【請求項16】
ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬を生産する方法であって、グリコーゲンを薬学的に許容可能な賦形剤と混合する工程を包含する方法。
【請求項17】
ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための化粧品を生産する方法であって、グリコーゲンを薬学的に許容可能な賦形剤と混合する工程を包含する方法。
【請求項18】
ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生を促進する方法であって、該方法は、ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生の促進を必要とする患者にグリコーゲンが表皮細胞に送達されるように投与する工程を包含する方法。
【請求項19】
ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための医薬を製造するための、グリコーゲンの使用。
【請求項20】
ヒアルロン酸およびエラスチンからなる群より選択される少なくとも1つの成分の表皮細胞での産生促進のための、グリコーゲン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−62273(P2012−62273A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207294(P2010−207294)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】