説明

グリコールの分離方法

【課題】 水溶性の無機物とグリコールとを含むグリコール水溶液中からグリコールを高収率で回収し、回収したグリコールを樹脂原料として再利用できるグリコールの分離方法を提供する。
【解決手段】 水溶性の無機物とグリコールとを含むグリコール水溶液中に、非水溶性の無機物を供給し(工程1、2)、グリコール水溶液を動かしながら加熱して、水を蒸発させた濃縮溶液とし(工程3)、得られた濃縮溶液中に、非水溶性の無機物が不溶性である溶剤を供給した後(工程4)、グリコールが溶解した溶剤と無機物とを沈澱又は濾過して(工程5)、グリコールと水溶性の無機物とを分離することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室部材等として適用される不飽和ポリエステル樹脂の原料となるグリコールの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、軽量、高強度であり、錆や腐食に強く、着色が自由、電気絶縁性に優れ、成形が容易であり、大量生産が可能であるという利点を有することから、自動車、航空機、家庭用品の各部材として多用されている。プラスチックの使用量の増加に伴いプラスチックの廃棄量も増加する傾向にあり、環境問題に対応するために、プラスチック廃棄物をリサイクルする技術が開発されている。
【0003】
プラスチック廃棄物のリサイクル技術において、原材料を回収し、プラスチックを再利用するための技術が開発されている。
【0004】
プラスチックの処理方法として、超臨界水を反応媒体とする反応により、プラスチック廃棄物を分解油化して、有用な油状物を回収する方法が提案されている。
【0005】
例えば、反応媒体に超臨界水を用いて、プラスチック廃棄物を高速で分解、油化し、大量に処理する方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法によれば、プラスチック廃棄物の分解により生成した低分子化した油状成分を液体燃料として回収し、再利用している。しかし、この液体燃料は、火力発電プラントでの燃料として使用されることから、最終的にはCO2等の排出は抑制されず、この結果、環境問題を解決するまでには至っていなかった。
【0006】
そこで、プラスチック廃棄物をプラスチックの熱分解温度以下とした亜臨界水を用いて処理し、プラスチックの原料モノマに分解して原料モノマを再利用する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法を用いて、グリコールと不飽和脂肪酸とにより形成される不飽和ポリエステル部と、不飽和ポリエステル部を架橋する架橋部とから構成される不飽和ポリエステル樹脂を亜臨界水により処理すると、原料モノマであるグリコールが生成する。グリコールは、水溶液中に溶存した状態で存在するため、水溶液中に溶存したグリコールを回収するために、蒸留による分離、精製などの処理を行う必要がある。特に、グリコール水溶液中に、不揮発性物質(亜臨界分解に用いるKOH、NaOHなどの水溶性の無機物)が存在する場合には、グリコール水溶液から不揮発性物質を予め除去した上で、蒸留、精製をしてグリコールを回収している。
【特許文献1】特開平10−67991号公報
【特許文献2】特開2004−155964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、亜臨界水により加水分解した後の水溶液中に溶存するグリコールの濃度は数%と低い値であり、また、水とグリコールの相溶性が高いことから、溶剤によってグリコールを抽出することが難しかった。このため、グリコール水溶液中の水分の大部分を蒸留、濃縮してグリコールを回収しなければならなかった。
【0008】
水分の蒸留、濃縮によりグリコールを回収する際に、グリコール水溶液中に水溶性の無機物が存在すると、水溶性の無機物に起因した突沸が生じ、あるいは、グリコール水溶液を収納する密閉容器の内壁に水溶性の無機物が局所的に析出して、密閉容器の内壁表面の温度が上昇して焦げ付きが生じ、これに起因してグリコールの回収率が低下する恐れを有していた。
【0009】
また、グリコール水溶液を濃縮する際に、グリコール水溶液中に含まれる水分を蒸発乾固するが、水分を完全に除去すると密閉容器が焦げ付く恐れを有していた。さらに、グリコール水溶液の濃縮後に、有機溶媒を投入してグリコールを抽出すると、濃縮により析出した水溶性の無機物や、加熱により変質した不純物などの不揮発性物質中にグリコールが含まれてグリコールの抽出が困難となり、グリコールの回収率が低下する恐れを有していた。
【0010】
さらに、水溶性の無機物とグリコールを完全に分離することができず、回収したグリコールに水溶性の無機物の一部が混在する恐れを有していた。この場合に、グリコールを不飽和ポリエステルの原料として再利用しても、水溶性の無機物が合成を阻害する要因となり、回収したグリコールを不飽和ポリエステルの原料モノマとして再利用することが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明のグリコールの分離方法は、水溶性の無機物とグリコールとを含むグリコール水溶液中に、非水溶性の無機物を供給し、グリコール水溶液を動かしながら加熱して、水を蒸発させた濃縮溶液とし、得られた濃縮溶液中に、グリコールのみが溶解する溶剤を供給した後、グリコールが溶解した溶剤と無機物とを沈澱又は濾過して、グリコールと水溶性の無機物とを分離することを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリコールの分離方法によれば、水溶性の無機物とグリコールとを含むグリコール水溶液中からグリコールを高収率で回収し、このグリコールを樹脂原料として再利用して、資源を有効に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係るグリコールの分離方法について説明する。
【0014】
本発明の実施の形態に係るグリコールの分離方法は、水溶性の無機物とグリコールを含むグリコール水溶液から、水溶性の無機物とグリコールとを分離してグリコールを回収する方法である。
【0015】
水溶性の無機物とグリコールを含むグリコール水溶液としては、例えば以下に示すように、不飽和ポリエステル部とその架橋部からなる熱硬化性樹脂を含むプラスチック(例えば、FRP樹脂)を、亜臨界水により加水分解して得られるグリコール水溶液を用いる。
【0016】
まず、不飽和ポリエステル部と架橋部とから形成される不飽和ポリエステル樹脂を含むプラスチックを、不飽和ポリエステル樹脂の熱分解温度未満とした亜臨界水(280℃未満、7MPa以下)を用いて加水分解する。加水分解すると水溶液が得られるが、水溶液中には、不飽和ポリエステル樹脂の原料モノマである多価アルコール(例えば、グリコール)及び有機酸(例えば、フマル酸)と、不飽和ポリエステル樹脂中の架橋部と有機酸の化合物(例えば、スチレンフマレート:スチレンとフマル酸の共重合体)と、が含まれる。
【0017】
次に、得られた水溶液中に塩酸、硫酸、硝酸などを投入し、水溶液のpHを約4に調整した後、水溶液を濾過する。すると、水溶液中から有機酸の化合物が分離されて、多価アルコール(グリコール)、有機酸、水溶性の無機物を含むグリコール水溶液を得ることができる。
【0018】
なお、ここで用いる多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール類を挙げることができる。また、有機酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸及びフマル酸などの脂肪族不飽和二塩基酸を挙げることができる。架橋部を形成する架橋材としては、スチレン、メタクリル酸メチルなどの重合性ビニルモノマを挙げることができる。
【0019】
得られたグリコール水溶液を用いて、図1に示すグリコールの分離方法の手順により、グリコールを回収する。
【0020】
まず、グリコール水溶液から水を蒸発させて、グリコール水溶液を濃縮する(工程1)。濃縮したグリコール水溶液中に、非水溶性の無機物を投入した後(工程2)、非水溶性の無機物とグリコールを含むグリコール水溶液を動かしながら加熱して、
無機物などの不揮発性物質が生じるまで水を除去して蒸発乾固する(工程3)。
【0021】
次に、得られた濃縮溶液中に、溶剤を投入する(工程4)。ここで、投入する溶剤としては、水溶性の無機物が溶解することなく、グリコールのみが溶解する溶剤とすることが好ましい。具体的には、溶剤として、炭素数が1〜5であるアルコール類、エステル類、ケトン類及びエーテル類の中から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0022】
さらに、グリコールが溶解した溶剤と無機物とを沈澱分離又は濾過して(工程5)、グリコールと水溶性の無機物とを分離する。これにより、グリコールを回収する(工程6)。
【0023】
上記工程1では、例えば、得られたグリコール水溶液を図2に示す装置を用いて、グリコール水溶液中に含まれる水を蒸発させて、濃縮した溶液とする。図2に示すように、装置1は、蒸発缶2の周囲にヒータ3が配置される。蒸発缶2内部には攪拌機4が取り付けられ、蒸発缶2の内部と外部には温度センサ5、6が設置される。蒸発缶2上部には配管7を介して凝集液貯留槽8が接続され、配管7上にはコンデンサ9が設置される。蒸発缶2内で蒸発した水分はコンデンサ9で凝縮されて、蒸発した水分を凝集液貯留槽8内に貯めるように構成される。
【0024】
その後、図2に示す装置1から得られた濃縮溶液中に、非水溶性の無機物を投入し、グリコール水溶液を攪拌機で攪拌しながら加熱して、水を蒸発させて濃縮した溶液とする。ここで非水溶性の無機物を投入してグリコール水溶液を動かしながら加熱するため、水溶液の無機物に起因する突沸が生じにくくなり、また、容器の内壁に析出する水溶性の無機物は、非水溶性の無機物によって除去されて内壁に付着しにくくなるため、これに起因するグリコールの回収率低下を防止することができ、グリコールを高収率で回収することが可能となる。
【0025】
ここで、グリコール水溶液を加熱する方法としては、グリコール水溶液を収納した密閉容器内に熱風を供給する方法、グリコール水溶液を収納した密閉容器内を減圧しながら加熱する方法を用いることができる。また、非水溶性の無機物を含むグリコール水溶液を動かす方法としては、密閉容器の内部に攪拌機を取り付けてグリコール水溶液を攪拌機により攪拌する方法、あるいは、グリコール水溶液を収納した密閉容器自体を振動させて、グリコール水溶液を振動させて動かす方法を用いても良い。グリコール水溶液を動かしながら加熱する際に、例えば、以下の図3〜図7に示す装置を用いることができる。
【0026】
図3に示す装置10は、恒温槽11内に密閉容器である蒸発缶12が設置され、蒸発缶12内部に攪拌機13が取り付けられている。蒸発缶12下部には抜き取り配管14が接続され、抜き取り配管14入口に図示しない0.5mmのメッシュと、メッシュ下流に図示しないバルブとが設置されて、蒸発缶12内部の液の抜き取りが可能となっている。蒸発缶12上部には配管15を介して凝集液貯留槽16が接続され、配管15にはコンデンサ17が設置される。
【0027】
図3に示す蒸発缶12内にグリコール水溶液aを入れて、グリコール水溶液aに非水溶性の無機物bを投入する。その後、蒸発缶12全体を図示しない高温槽内に入れて、非水溶性の無機物bを含むグリコール水溶液aを攪拌させながら加熱する。すると、加熱により蒸発された水分は、コンデンサ17で凝縮された後、凝集液貯留槽16に貯留される。
【0028】
図4に示す装置18は、図3に示す装置10の蒸発缶12に空気供給管19を接続し、空気供給管19に空気加熱器20を設置している。図4に示す空気供給管19から蒸発缶12内部に空気を供給し、蒸発速度を上げて処理時間を短縮している。なお、蒸発缶12内部に空気を供給するだけでは蒸発缶12内部の温度が低下する。このため、空気加熱器20により暖めた空気を蒸発缶12に供給することにより、加温すると同時にグリコール水溶液a中の水を蒸発させることが可能となる。
【0029】
図5に示す装置21は、図3に示す装置10のコンデンサ17前段に吸引装置であるブースター22を設置している。ブースター22内に蒸気を入れて、蒸発缶12内部の空気を吸引し、減圧する。なお、ここでは、ブースター22を用いたが、吸引装置はブースター22に限定されず、蒸発缶12内部を減圧できる装置であれば良い。
【0030】
図6に示す装置23は、図3に示す装置10のコンデンサ17入口に湿度を測定する湿度センサ24を設置している。湿度センサ24により、コンデンサ17入口の湿度を計測して蒸発缶12内の雰囲気中の湿度を検出し、コンデンサ17入口の湿度が低下した時に、蒸発缶12の加熱を止める機能を付加したものである。
【0031】
図7に示す装置25は、図3から図6までに示す装置とは異なり、攪拌機を取り付けず、蒸発缶12自身を振動させてグリコール水溶液を振動させて動かすものである。
【0032】
以下、さらに実施例を用いて具体的に説明する。なお、各実施例では、次の方法から得られたグリコール水溶液を用いた。
【0033】
まず、ステンレス製の筒状耐圧容器(内径150mm、深さ350mm、耐圧7MPa)内に、FRP樹脂(プロピレングリコール−無水マレイン酸−スチレン共重合物34wt%、ガラス繊維及び充填材の炭酸カルシウム66wt%)を1.7mmアンダーで粉砕したもの600g、純水2300g、水酸化ナトリウム[NaOH](ナカライテスク)100gを投入した後、蓋をして230℃で120分間加熱して亜臨界水分解を行った。加熱して得られた溶液を室温まで冷却した後、溶液をガラスフィルタ(アドバンテックGC-25)を用いて固液分離し、溶液中から、ガラス繊維、炭酸カルシウムの無機物を含む固形分を除去した。この一連の処理を繰り返した後、濾液に硫酸を加えてpHを4に調整し、析出した狭雑物を分離した。狭雑物を分離した濾液に水酸化ナトリウムを投入して中性とし、中性の溶液を50L集めた。得られたグリコール水溶液中に含まれるプロピレングリコールの濃度は1.2%であった。また、この水溶液には水溶性の無機物として水酸化ナトリウムを含有している。
【0034】
次に、得られたグリコール水溶液を、図2に示す装置1の蒸発缶2内に投入し、グリコール水溶液中の水を蒸発させて5Lまで濃縮し、濃縮したグリコール水溶液とした。
【0035】
実施例1
実施例1では、図3に示す容積10Lの蒸発缶12内部に、濃縮したグリコール水溶液を投入すると共に、非水溶性の無機物として、篩いの目開きが1mmを通過しないサイズの粒状の無機物(河石)5Lを投入した。
【0036】
この蒸発缶12全体を150℃の高温槽内に入れて、蒸発缶12内を暖めた。蒸発した水分は、140℃に保温された配管15を介してコンデンサ17で凝縮されて凝集液貯留槽16に貯められた。
【0037】
蒸発缶12内部の水が無くなったときに、蒸発缶12の加温を止めて室温に冷却した。その後、蒸発缶12内部にメタノール1Lを投入し、攪拌機13を用いて混合した。攪拌後、蒸発缶12下部からメタノール溶液を抜き取り、抜き取ったメタノール溶液を濾過して亜臨界水分解を行った後の液中に溶解していた水酸化ナトリウムを硫酸ナトリウムとして分離した。
【0038】
その後、蒸発缶12内部に、再びメタノール1Lを投入した後、攪拌、濾過という工程を合計3回繰り返した。これにより得られた濾液を回収してグリコール溶液とした。回収したグリコール溶液の総量は、2.65Lであった。
【0039】
実施例2
実施例2では、図4に示す装置18の蒸発缶12内部に、濃縮したグリコール水溶液を投入すると共に、実施例1で用いた粒状の無機物5Lを投入した。
【0040】
その後、空気供給管19を介して空気加熱器20によって暖めた空気を蒸発缶12内部に導入し、蒸発缶12内を暖めた。蒸発缶12内部の水が無くなったときに空気供給管19から空気の供給を止めて、蒸発缶12を冷却した。
【0041】
その後、蒸発缶12内にメタノール1Lを投入した後、攪拌、濾過を行い、実施例1と同様の方法を用いて、グリコール水溶液を回収した。回収されたグリコール溶液の総量は、2.52Lであった。
【0042】
実施例3
実施例3では、図5に示す装置21の蒸発缶12の内部に、濃縮したグリコール水溶液を投入すると共に、実施例1で用いた粒状の無機物5Lを投入した。
【0043】
蒸発缶12内の圧力を6.7kPa、この時の高温槽内の温度を60℃として、グリコール水溶液中の水を蒸発させた。
【0044】
なお、ブースター22には蒸気を導入しているが、この蒸気は、蒸発缶12から引き抜かれた水分と共に、コンデンサ17内に導入された後、凝集される。
【0045】
その後、蒸発缶12内にメタノール1Lを投入した後、攪拌、濾過を行い、実施例1と同様の方法を用いて、グリコール水溶液を回収した。回収されたグリコール溶液の総量は、2.39Lであった。
【0046】
実施例4
実施例4では、図6に示す装置23の蒸発缶12の内部に、濃縮したグリコール水溶液を投入すると共に、実施例1で用いた粒状の無機物5Lを投入した。
【0047】
この蒸発缶12全体を、実施例1と同様の条件を用いて、150℃の高温槽内に入れて蒸発缶12内を暖めた。図6に示す装置10には、コンデンサ17入口に湿度センサ24が設置され、湿度センサ24によって、コンデンサ17入口の湿度が低下したときに、蒸発缶12の加熱を止めたものである。
【0048】
加熱により水分を除去した後、メタノールを投入し、実施例1と同様の方法を用いて処理をした。この結果、回収されたグリコール溶液の総量は、2.71Lであった。
【0049】
実施例5
実施例5では、図7に示す装置25の蒸発缶12(容積10L)の内部に、濃縮したグリコール水溶液を投入すると共に、実施例1で用いた粒状の無機物5Lを投入した。その後、蒸発缶12を150℃の高温槽内に入れて、蒸発缶12自身を回転させて、グリコール水溶液aと無機物bを振動させながら加熱した。蒸発缶12内部の水が無くなった後、加温を止めて室温に冷却した。その後、蒸発缶12内にメタノール1Lを投入し、実施例1と同様の方法を用いて、グリコール水溶液を回収した。回収したグリコール溶液の総量は、2.54Lであった。
【0050】
実施例6〜実施例14
実施例6から実施例14までは、実施例1で用いた溶剤のメタノールを他の溶媒に変えたものであり、溶剤を変えた以外は実施例1と同様の方法を用いてグリコール溶液を回収した。具体的には、実施例6〜実施例8は、エタノール、イソペンチルアルコール、4−メチル−2−ペンタノール(メチルカルビノール)を使用し、実施例9は、ジプロピルエーテルを使用した。また、実施例10〜実施例12は、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸メトキシブチルを使用し、実施例13及び実施例14は、アセトン、メチルイソブチルケトンを使用した。
【0051】
比較例
比較例では、実施例と同様の濃縮したグリコール水溶液を用いて、図8に示す手順によりグリコール溶液を回収した。図8に示すように、まず、濃縮したグリコール水溶液50Lを用いて、このグリコール水溶液を図2に示す蒸発缶2に入れて、90%以上の水を蒸発させて濃縮し(工程10)、合計5Lとなるまで水分を除去した。その後、蒸発缶2内の表面温度を図2に示す温度センサにより150℃で制御しながら、不揮発性物質が生じるまで水分を除去した(工程11)。さらに、1Lのメタノールを加えて(工程12)、濾過した(工程13)。その後、蒸発缶2内に再びメタノールを投入し、加溶媒抽出及び濾過(工程12、13)の工程を合計3回繰り返して濾液を回収し、グリコール溶液とした。回収したグリコール溶液の総量は、3.10Lであった。
【0052】
前述した実施例1〜実施例14及び比較例により回収されたグリコール溶液について、ガスクロマトグラフ分析装置を用いてグリコールの濃度を定性、定量し、グリコールの濃度を求めた。求めたグリコールの濃度に回収したグリコール溶液量を乗じて、下式1からグリコールの回収率を求めた。
【0053】
グリコールの回収率(%)=回収したグリコール量(g)/分離、回収処理前のグリコール量(g)…[式1]
また、無機物などの不揮発分の量は、回収したグリコール溶液を100mL採取して、105℃で乾燥した後、得られた固体を電気炉により600℃で2時間焼き、冷却後恒量にして残さを測定した。得られた残さ量から濃度を算出した。
【0054】
回収された各グリコール溶液の回収量、濃度、無機物などの不揮発分の量及びグリコール回収率を表1、表2に示す。
【表1】

【表2】

【0055】
表1に示すように、比較例のグリコール回収率は42%と低い値であったが、実施例1〜実施例5のグリコールの回収率は、80%以上の高い回収率を示しており、非水溶性の無機物を含むグリコール水溶液を攪拌又は振動させて動かしながら加熱することにより、無機物とグリコールとを分離して、グリコールを高収率で回収できることが判明した。また、溶剤を変えた実施例6〜実施例14においても、グリコールの回収率は高い値を示しており、高収率でグリコールを回収できることが判明した。この結果から、本発明のグリコールの分離方法によれば、不飽和ポリエステル部とその架橋部から成る熱硬化性樹脂を含むプラスチックを亜臨界水により加水分解して得られたグリコールと水溶性の無機物を含むグリコール水溶液中から、無機物などの不揮発性成分の含有を抑制し、再度樹脂原料として再利用できるグリコールを高収率で回収できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係るグリコールの分離方法の手順を説明する図である。
【図2】グリコール水溶液から水を蒸発させる装置の一例を示す図である。
【図3】グリコール水溶液から水を蒸発させる装置の一例を示す図である。
【図4】グリコール水溶液から水を蒸発させる装置の一例を示す図である。
【図5】グリコール水溶液から水を蒸発させる装置の一例を示す図である。
【図6】グリコール水溶液から水を蒸発させる装置の一例を示す図である。
【図7】グリコール水溶液から水を蒸発させる装置の一例を示す図である。
【図8】比較例におけるグリコール水溶液からグリコールを回収する方法の処理手順を説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
1…装置,
2…蒸発缶,
3…ヒータ,
4…攪拌機,
5、6…温度センサ,
7…配管,
8…凝集液貯留槽,
9…コンデンサ,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の無機物とグリコールとを含むグリコール水溶液中に、非水溶性の無機物を供給し、前記グリコール水溶液を動かしながら加熱して、水を蒸発させた濃縮溶液とし、
得られた前記濃縮溶液中に、前記グリコールが溶解し、非水溶性の無機物が不溶性である溶剤を供給した後、グリコールが溶解した溶剤と無機物とを沈澱又は濾過して、グリコールと水溶性の無機物とを分離することを特徴とするグリコールの分離方法。
【請求項2】
前記グリコール水溶液を容器内に収納し、前記容器内に熱風を供給して前記グリコール水溶液を加熱することを特徴とする請求項1記載のグリコールの分離方法。
【請求項3】
前記グリコール水溶液を密閉した容器内に収納し、前記密閉した容器内を減圧しながら前記グリコール水溶液を加熱することを特徴とする請求項1又は2記載のグリコールの分離方法。
【請求項4】
前記グリコール水溶液を収納する容器内の湿度を検出しながら、前記グリコール水溶液を加熱することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のグリコールの分離方法。
【請求項5】
前記グリコール水溶液を容器内に収納し、前記容器を振動させて前記グリコール水溶液を動かしながら加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のグリコールの分離方法。
【請求項6】
前記溶剤として、炭素数が1〜5であるアルコール類、エステル類、ケトン類及びエーテル類の中から選択される少なくとも一種を用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のグリコールの分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−31330(P2007−31330A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215918(P2005−215918)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(591288355)財団法人国際環境技術移転研究センター (53)
【Fターム(参考)】