説明

グリセロソームならびに局所適用のための医薬調製物および化粧用調製物におけるその使用

本発明は、グリセロームと命名され、高含量のグリセロールを特徴とする、薬物および化粧品の局所送達のための小胞に関する。本発明はさらに、グリセロソームを含有する、医薬製剤および化粧製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品有効成分および化粧製品(cosmetic products)の製剤に有用な小胞性ナノ構造物ならびに薬物および化粧品の局所送達のためのそれらの適用に関する。本発明において記載されている小胞性ナノ構造物は、それらが高含量のグリセロールを有することから、グリセローム(glycerome)と命名されている。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
局所薬物送達は、経口または非経口送達などの従来の投与経路と比較して、胃腸管における有効成分の分解および初回通過肝代謝を回避し、患者の許容性が高いため、両方とも潜在的に有利である。
【0003】
しかし、皮膚は、2つの層である、より深い層または真皮および外層または表皮からなり、ほとんどの薬物物質の透過が困難な障壁として機能している。
【0004】
より深い層または真皮は、その厚さが0.3から4mmの間であり、血管、毛包脂腺(毛包および脂腺)ならびに皮膚を真の感覚器官にする神経終末が埋め込まれている結合組織からなる。真皮レベルでは、有効成分は、毛細血管壁を横切って循環系の中に入り、種々の組織に到達することができる。皮膚の最も外側の層または表皮は、その厚さが50から150μmの間であり、皮脂膜(hydrolipidic film)によって覆われており、周囲の環境からの微生物および他の外因性分子に対するバリア機能を担っている。ケラチノサイトは、真皮に近い最も内側の層で生じ、角質化と呼ばれる緩やかな分化過程を受けて最後に表面へと移動し、10から30μmの間の厚さを有する、死細胞の角質層(角質層(statum corneum))を形成する、典型的な表皮細胞である。
【0005】
角質層は、有効成分の通過を制限する効果的な障壁として作用し、有効成分の経皮吸収率は、有効成分の角質層への一般的に非常に低い浸透率と相関する。このバリア効果のために、薬物の局所投与は通常、バイオアベイラビリティーの低減につながっている。
【0006】
薬物の皮膚への拡散を改良するために、ジメチルスルホキシド、脂肪酸、プロピレングリコールおよび尿素などの浸透増強剤の使用に基づいた物理化学的方法[Williams ACおよびBarry BW、1992]ならびに数ある中で、イオン導入法、エレクトロポレーションおよび低周波超音波を含む物理学的方法[Lavon IおよびKost J、2004]または物理学的方法と化学的増強剤との両方を組み合わせた適用などの、種々の手法が検討されている。
【0007】
薬物の経皮拡散を改良するための異なる手法は、一般にリポソームを指す小胞性構造物の担体の性質に基づいている。リポソームは、極性の頭部と脂質性の尾部とを有する分子である両親媒性リン脂質を含有する、50〜500nmの微細小胞である。水性の環境では、親水性の頭部は、一列に並んで、水に面する表面を形成しており、一方、水をはじく疎水性の尾部は、一列に並んで、水から離れた表面を形成している。その上、一方の層の疎水性の尾部は、別の層の疎水性の尾部と相互作用して、1つまたは複数の水性のコンパートメントを含有する単層状または多層状の小胞として組織化された、閉じた二重層構造物を形成している。
【0008】
リポソームの物理化学的性質は、調製方法の変化によっておよび/あるいはリポソームの組成物中に種々の物質、例えば、脂質二重層の安定性を高めるコレステロールまたは小胞の表面の電荷を改変し、リポソームの凝集を低減する酸性もしくは塩基性の脂質分子などを含むことによって、容易に改変することができる。
【0009】
親水性化合物は、リポソームの水性のコンパートメント中に可溶化され、疎水性化合物は、脂質二重層の中に入るが、両親媒性分子は、水中にそれらの極性部分が、脂質薄層中に無極性部分が分配される。
【0010】
その上、リポソームを調製するために使用される成分は、安全で、非アレルギー性であり、生体膜と完全に適合性があることによって、リポソームと細胞との相互作用が可能となる。
【0011】
リポソームと細胞との間の相互作用を説明するために、種々の機序が提案されており、それらのうちのいくつかは、一緒に生じている可能性がある。最も可能性が高い機序は、エンドサイトーシスであり、この場合、無傷のリポソームが細胞によって貪食され、リソソームの中に取り込まれ、そこで、脂質二重層のホスホリパーゼ分解によって、薬物が放出される。他の推定上の機序は、リポソーム二重層が細胞膜と融合した後、その物理化学的性質に依存して、細胞質のコンパートメントと細胞膜との間に小胞内容物を分配することによる、脂質物質の交換に基づいている。
【0012】
全身吸収および望まれていない影響を低減することを目指した、真皮および表皮レベルでの目標とされる薬物送達のためのリポソームの使用は、1980年に最初に提案され[Mezei MおよびGulasekharam V、1980;Mezei M、1988]、次いで、多くの著者によって研究されてきた[Lichtenberg DおよびBarenholz Y、1988;Woodle MCおよびPapahdjopoulos D、1989、Sinico C他2005、Manconi M et.al,2006]。いくつかの場合には、リポソームは、毛包および脂腺などの皮膚付属器を経由した、薬物または化粧用薬剤の経皮透過用に使用され得る。このレベルでは、リポソーム組成物および調製技術に依存して、有効成分が、毛細血管壁を横切り、血液循環から種々の組織および器官に到達することができるためである[El Maghraby G.M他、2006]。しかし、ほとんどの場合、従来のリポソームは、皮膚に浸透せずに、むしろ角質層の上層に閉じ込められたままであるため、有効成分の局所投与および/または経皮投与のための担体としてのリポソームの使用は、ほとんどまたは全く価値がない。後に、新規な部類の脂質小胞、すなわち、変形性の脂質小胞およびエソソーム(ethosome)が開発された。この場合は、特定の添加剤が存在することによって、従来のリポソームの物理化学的および機能的な性質が改変され、皮膚のより深い層に薬物をより効率的に送達することができる。
【0013】
変形性または可撓性のリポソーム(Transferomes(登録商標)とも呼ばれる)は、基本的なリン脂質の成分の他に、小胞の脂質二重層を不安定化し、リポソームの変形性を高めて、リポソームにより高い皮膚浸透能力を付与することができる、高い曲率半径を有する単鎖界面活性剤(例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、グリチルリチン酸カリウム、Span60、Span65、Span80、Tween20、Tween60、Tween80の中で選択される)を組み込んでいる[Cevc G、Blume G、1992]。
【0014】
トランスフェロソームは、標準的なリポソームと形態学的には類似していても、機能的には異なっており、それら自体のサイズよりもはるかに小さい孔を通過するのに十分に変形性または可撓性である。トランスフェロソームの作用機序は、無傷の変形性小胞が角質層に入るより優れた能力とそれに続く、小胞からの遊離型薬物分子の拡散を容易にする、細胞間の脂質構造の改変および不安定化との両方に基づいている。
【0015】
しかし、これらの変形性小胞の輸送機序が、一部分は、組み込まれた薬物の物理化学的性質によって決まる可能性があるため、トランスフェロソームの調製は、ケースバイケースで最適化される必要がある[Elsayed MMA他、2006]。
【0016】
薬物および/または化粧製品の担体としてのリポソームの機能を改良するために、リポソームの脂質膜の流動性を高めるための異なる手法は、リン脂質、水および高濃度の、一般に20%から50%の間のエタノールから構成される、エソソームと呼ばれる脂質小胞によって代表される[Touitou E、米国特許第5,716,638号(特許文献1)]。高いエタノール濃度が、エソソームのサイズを減少させ、一般に、薬物の局所投与のための効果的な送達システムにつながる、脂質親和性分子を含む広範囲の有効成分のための、エソソームのカプセル化効率を増加させる[Touitou E他、2000]。
【0017】
エソソームの作用は、恐らく、エタノール、脂質小胞および皮膚脂質の間の相乗的な機序によるものである。この場合は、エタノールが存在することによって、皮膚のより深い層の中により良好に浸透させるための可撓性の特性を有する小胞を提供することができるのみならず、よく知られているその透過増強効果を示すことができる[Williams A、2003]。
【0018】
その他に、皮膚の深層中に浸透したエソソームは、皮膚脂質と融合し、真皮レベルでの薬物の放出および恐らく薬物の経皮吸収を促進することができる。
【0019】
しかし、高含量のエタノールのために、薬物および/または化粧製品のための送達システムとしてのエソソームの使用は、創傷またはそれ以外で負傷した皮膚上に適用した場合に、好ましくないまたは刺激性の影響を及ぼし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5716638号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
(発明の説明)
リポソーム様製剤の開発中に、本発明者らは、驚いたことに、医薬分野および化粧品分野において使用するための、改良された担体特性を有する新規な小胞構造物を見出した。これらの新規な製剤は、グリセロソーム(glycerosome)と呼ばれ、リン脂質および水によって構成されており、高い量のグリセロール(20から35%まで)を含有することを特徴とする。グリセロールは、エソソーム中に含有されるエタノールとは異なり、局所適用のための、無害で且つ完全に許容される化合物である。加えて、当技術分野において知られている[例えば、Fukui M、欧州特許第1013268号;Guilford FT、米国特許出願公開第2006/0099244号およびLeigh S、国際公開第92/18103号におけるような]リポソームとは異なり、本発明のグリセロソームは、特に、局所適用後のエタノールの刺激性の作用を避けるために、エタノールを含まずに調製されることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】5%アシクロビルを担持したグリセロソームの透過型電子顕微鏡法(TEM)分析による画像である。
【図2】小胞の調製後に、種々の時点で測定された、5%アシクロビルを担持したグリセロソーム−Aおよびリポソーム−Aの多分散指数(PI)である。
【図3】市販の5%アシクロビルクリーム(Zovirax(登録商標))と比較した、5%アシクロビルを担持したグリセロソーム−A、グリセロソーム−Bおよびリポソームの透過プロフィールである。実験は、32℃の生理学的温度で維持された新生仔ブタ皮膚由来の分離膜(0.636cm)を備えたフランツセルで、24時間行われている。
【図4】新生仔ブタ皮膚由来の分離膜(0.636cm)を備えたフランツセルで、24時間透過後の、0.2%ジプロピオン酸ベタメタゾンを担持した、25%のグリセロールを含有するグリセロソームおよび従来のリポソームの分配である。
【図5】ビタミンE TPGS水溶液と比較した、10%ビタミンE TPGSを担持した、25%のグリセロールを含有するグリセロソーム−Aおよび従来のリポソームの透過プロフィールである。実験は、新生仔ブタ皮膚由来の分離膜(0.636cm)を備えたフランツセルで、24時間行われた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によるグリセロソームは、そのグリセロール含量が、20%から35%w/wの間、好ましくは20%から30%まで、より好ましくは25%であり、当技術分野において知られている従来のリポソームの調製において一般に使用される、任意の天然または合成のリン脂質から調製することができ、同様に、グリセロソームは、当技術分野において知られている従来のリポソームの調製において一般に使用される、1種または複数種の添加剤を含有することができ、当技術分野において知られている従来のリポソームの調製用に一般に使用される種々の技術のいずれかによって、例えば、参照によって本明細書に組み込まれる以下の出版物および特許:Vemuri S、Rhodes CT. 1995;Cevc G. 2004;Torchilin VP、Weissig V、2003に記載されている方法に従って得ることができる。
【0024】
本発明のさらなる実施形態では、グリセロソームは、有効成分の担体として使用することができ、当技術分野において知られている局所適用のための製剤中に組み込むことができ、かかる製剤には、クリーム剤、乳剤、軟膏剤、ジェル剤、ローション剤、懸濁剤および相当する製剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明によるグリセロソームの例示的な組成物は、以下の表1に報告されている。
【0026】
【表1】



【0027】
リン脂質成分は、天然源によって抽出される1種もしくは複数種のリン脂質または合成もしくは半合成方法によって調製されるリン脂質からなり、これには、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイル−ステアロイルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、大豆由来の水素化および非水素化リン脂質の混合物として、Phospholipon90(p90)、Phospholipon100(p100)、Phospholipon90G(p90G)、Phospholipon90H(p90H)などならびに類似の混合物などが挙げられる。本発明によるグリセロソームの調製において使用されるために、リン脂質が所有すべきである最も関連する性質は、(i)有効成分を組み込むことができる小胞を付与する能力、(ii)生物学的適合性、(iii)代謝分解および(iv)毒性がないことである。
【0028】
変性剤成分は、安定化剤としておよび/またはそれらの電荷を改変するためにグリセロソームに加えられ、コレステロール、ステアリルアミンおよびリン酸ジセチルから選択され得る。
【0029】
吸収増強剤は、ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールおよび脂肪酸から選択することができる。
【0030】
本発明のグリセロソームは、従来のリポソームを調製するための、当技術分野において知られている種々の手法に従って調製することができ、かかる手法には、例えば、Bangham他(1965)によって最初に記載された脂質膜水和法および同原理に基づく方法[Kirby CおよびGregoriadis G、1984];逆相蒸発技術[Skoza F、Papahadjopoulos D、1980;Papahadjopoulos D他、米国特許第4,235,871号;Pick U、1981];超臨界逆相蒸発法[Imura T他、2002]が含まれる。
【0031】
組成物および調製方法によって、本発明のグリセロソームは、単層状脂質小胞(小型もしくは大型)または多層状脂質小胞となり得る。多層状小胞の形態のグリセロソームは、超音波処理もしくは均質化によって、押出成形によってまたは特定の細孔サイズを有する膜を通すろ過によって、単層状小胞に変換することができる。
【0032】
20%w/wを超えるグリセロールを含有するグリセロソームは、より少ないグリセロールを有するもの(例えば10から15%まで)に比べて、いくつかの点でより効果的であることは注目に値する:
a)より高いグリセロール濃度(>20%)は、流動学的性質(例えば粘性)を改良し、その結果として、グリセロソーム小胞系の安定化に正の貢献をする。
【0033】
b)高い転移温度(例えば70〜80℃)を有するリン脂質がグリセロソームを調製するために使用された場合には、20%未満のグリセロール濃度は、室温での(すなわち25℃での)小胞の構築を妨げる。
【0034】
c)低いグリセロール濃度(10〜15%)で調製される小胞は、低減された可撓性および恐らく低減された皮膚透過能力を示す。
【0035】
本発明のグリセロソームは、医薬品または化粧品の対象の有効成分を送達するための担体として使用することができ、かかる関心対象には、アシクロビル(acyclovir)、trans−レチノイン酸、ジプロピオン酸ベタメタゾン、リドカイン、ミノキシジル、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、リファンピシン、ビタミンEおよびビタミンEのエステルまたは脂質親和性誘導体などの脂質親和性化合物ならびに例えば、ジクロフェナクナトリウム、リドカイン塩酸塩、ヒアルロン酸、ビタミンCおよびその誘導体、ビタミンE TPGSなどのビタミンEの可溶性誘導体などの親水性化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明をさらに説明するために、その適用分野を限定することなく、本発明者らは、抗ウイルス薬であるアシクロビルのための、高脂質親和性合成ステロイド化合物であるジプロピオン酸ベタメタゾンのための、ならびに医薬分野において使用されるおよび化粧用調製物における抗酸化剤として使用される天然ビタミンEの水溶性の形態であるd−アルファ−トコフェリルポリエチレングリコール−1000コハク酸エステル(ビタミンE TPGSまたはTocophersolan)のための担体として、グリセロソームの物理化学的および機能的な特性を、従来のリポソームと比較した。この両方は、例1に記載されているように調製された。
【0037】
アシクロビルは、非環式プリンヌクレオシド類似体であり、再発性の口腔顔面病変の局所治療用、特に、1型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)感染によって引き起こされる口唇ヘルペスの症例における局所治療用に使用される。局所治療用のアシクロビル製剤は、Zoviraxという商標名で、5%の有効成分を含有するクリームとして市販されている。
【0038】
表2に示されているように、リン脂質であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)および変性剤であるコレステロールを含有する担体小胞には、2種の濃度の有効成分、すなわち調製物A中には5%アシクロビルをおよび調製物B中には1%アシクロビルを担持させた。
【0039】
【表2】



【0040】
有効成分の閉じ込め効率は、組み込まれなかった量およびゲルろ過カラム上でのグリセロソーム精製中に分離された量を考慮して算出される。実際に、精製されたグリセロソーム調製物中に組み込まれた有効成分の量は、精製された小胞が、Triton−X100またはメタノールの作用によって破壊された後に測定される。次いで、組込み効率(E%)が、以下の方程式に従って、初期のロード量に対する、小胞によって取り込まれた有効成分の百分率として表される
E%=精製された調製物の有効成分の量×100/有効成分の初期のロード量。
【0041】
表3に報告されているように、グリセロームは、従来のリポソームにおける組込みに対して、アシクロビルの著しくより高い組込み効率を示した。
【0042】
【表3】



【0043】
グリセロソームのさらなる利点は、グリセロソームが、調製に使用されるリン脂質のタイプに関係なく、室温で、より好ましくは30℃未満の温度で、または好ましい実施形態では25℃で調製されるという事実によって代表される。これに反して、従来のリポソームを調製するための操作温度は、リン脂質の成分の転移温度(Tc)に相当するかまたはそれよりも高く、いくつかの場合には、例えばTc=70℃を有するDPPCを用いるような場合には、60〜80℃の範囲であり得る。グリセロソーム調製混合物のいかなる加熱も避けることは、組み込まれた有効成分が易熱性(thermolable)であるかまたは加熱時に部分的に分解され得る場合に、明らかな利点を表す。
【0044】
アシクロビルを担持したグリセロソームの偏光光学顕微鏡法による形態学的分析によって、小胞性構造物に同質化できる薄層系の存在を確認するマルタ十字の同定が可能となった[Manosroi A他、2003;Mele S他、2003;Sinico C他、2005]。図1に示されているように、層状小胞性構造物(stuctures)の存在は、グリセロソーム調製物の透過型電子顕微鏡法(TEM)分析によって確認された。
【0045】
調製物の安定性は、小胞の調製後に、種々の時点(最大3週まで)での、光子相関分光法技術による次元解析によって、Ζ電位決定によって、動的レーザー光散乱によっておよび多分散指数を測定することによって検討された。
【0046】
グリセロソームおよびリポソームの平均サイズ(3種の異なる調製物に関して3回算出された)はそれぞれ、約100nmおよび150nmであった。一方、小胞性調製物の均質性を評価するための重要なパラメータを表す多分散指数(PI)を算出したところ、図2に示されているように、リポソームについての平均PI値が0.4であるのに比較して、グリセロソームは0.2の平均PI値を有し、より高い均質性が実証された。グリセロソームのより良好な均質性は、医薬品および化粧品の対象の送達システムにおけるそれらの使用に、特に有用な性質である。
【0047】
その他に、高含量のグリセロールは、従来のリポソームと比較して、グリセロソームのより高い可撓性をもたらした。このことは、表4に示されているように、50nmの細孔サイズのフィルターを通す、調製物の押出成形の前後に、平均粒子サイズおよび多分散指数を測定することによって実証された。
【0048】
【表4】



【0049】
表4の結果は、従来のリポソームが押出成形後に著しいサイズ低減を示したと同時に、多分散指数が増加したことから、従来のリポソームのより高い剛性を明らかに示している。これは、サイズが膜多孔度に匹敵する小胞だけが無傷でろ過され、一方、より大きな小胞は、損傷を受け、部分的に破壊されたという事実に起因するものである。
【0050】
より可撓性のある小胞を使用すると、皮膚深層中への有効成分の浸透力および輸送力を増強することができるため、グリセロソームのより高い可撓性は、局所薬物送達のための担体としてのそれらの適用に、さらに有用な性質を表す[Cevc G、Gebauer D.、2003]。
【0051】
5%アシクロビルを担持したグリセロソームおよびリポソームからの経皮吸収は、皮膚を経由した有効成分の放出および透過であり、垂直型フランツセルで評価された。フランツセルは、新生仔ブタ皮膚由来膜を使用して、局所製剤の経皮吸収を検討するのに適した実験手法である。例6に記載されているように、セルを、恒温浴中32℃の生理学的皮膚温で、最大24時間まで維持した。実験終了時に、フランツセルで膜として使用したブタ皮膚標本を手動で薄片とし、角質層、表皮および真皮を別々に分析し、異なる皮膚層における有効成分の分配を測定した。
【0052】
これらの実験では、5%アシクロビルを担持したグリセロソームおよびリポソームが、局所適用のための市販のアシクロビルクリーム(Zovirax(登録商標)、5%アシクロビルクリーム)と比較され、時間依存性のアシクロビル透過および異なる皮膚層におけるアシクロビル分配に関する結果は、それぞれ図3および表5に示されている。
【0053】
図3の結果によると、従来のリポソーム製剤および市販の5%アシクロビルクリームの両方と比較すると、5%アシクロビルを担持した、25%のグリセロールを含有するグリセロソーム−Bが、より高いインビトロ透過流れ(アシクロビルμg/皮膚cmとして測定される)を示した。特に、グリセロソームからの24時間のアシクロビル透過は、市販のクリーム製剤からの透過に比べて約4倍高かった。図3の結果は、1%アシクロビルを担持したグリセロソーム−Bが、市販のクリーム製剤と比較して、やはり2倍高い全透過流れを生じたことを示しており、このことは、安全性の点から見ると、より低用量で使用することができ、経済的/生産的な観点からすると、有効成分の量を減じることができるという潜在的な利点と考えることができる。
【0054】
24時間透過後の異なる皮膚のコンパートメント間のアシクロビルの分配は、表5に示されているように、小胞製剤の場合には、より高い表皮蓄積を実証しているが、市販のクリームの場合には、多量の有効成分が角質層中に閉じ込められた。真皮および表皮レベルでの蓄積が、異なる製剤間で統計的に有意な差を示さなかったとしても、表5の結果は、流速の差を確認し、グリセロソームの浸透増強能力を強固なものとしている(strengthen)。
【0055】
表5.市販の5%アシクロビルクリーム(Zovirax(登録商標))と比較した、5%アシクロビルを担持したグリセロソームおよびリポソームからの異なる皮膚層における蓄積。実験は、新生仔ブタ皮膚由来の拡散膜(0.636cm)を備えたフランツセルで、24時間行われている。
【0056】
【表5】



【0057】
ジプロピオン酸ベタメタゾンは、局所の抗掻痒作用、抗炎症作用および血管収縮作用のために、軟膏、ローションまたはクリーム製剤として、コルチコステロイドに反応する皮膚炎の局所治療用に使用される、脂質親和性合成コルチコステロイドである。
【0058】
ジプロピオン酸ベタメタゾンの組込み効率は、グリセロソームの方が、従来のリポソームに比べて高く、それぞれ68%および42%の組込み指数値E%を示した。
【0059】
0.2%を担持した、25%のグリセロールを含有するグリセロソーム−Aおよび従来のリポソームの異なる皮膚のコンパートメントにおける分配は、フランツセルで新生仔ブタ皮膚を使用する24時間の拡散実験で検討した。図4に示されている結果は、ジプロピオン酸ベタメタゾンのような高脂質親和性化合物を担持したグリセロソームが、皮膚深層における有効成分の蓄積を増加させたことを実証している。
【0060】
D−アルファ−トコフェリルポリエチレングリコール−1000コハク酸エステル(ビタミンE−TPGSまたはTocophersolan)は、1,000ダルトンのポリエチレングリコールを有するビタミン−Eコハク酸エステルの遊離カルボキシル基のエステル化によって調製される、天然ビタミン−Eの水溶性誘導体である。ビタミンE−TPGSは、医薬製剤中に乳化剤、界面活性剤および吸収増強剤として入る可能性があり、その抗酸化性のために、化粧用製剤およびスキンケア製品中に使用され得る。
【0061】
その両親媒性のために、ビタミンE TPGSは、リポソームの脂質二重層中に閉じ込められる。
【0062】
10%ビタミンE TPGSを担持した、25%のグリセロールを含有するグリセロソーム−Aおよび従来のリポソームのインビトロ拡散を、新生仔ブタ皮膚由来の分離膜を備えたフランツセルで検討し、その結果を図5に示す。24時間透過物が低量(初期にロードされた生成物の約5%に相当する10〜12ミリグラム)であることによって実証されているように、また同一実験条件において、20〜22%のビタミンE TPGSが、最初の4時間内に急にバーストして水溶液から透過したという事実によって実証されているように、両方の製剤は、制御放出の機序を示す透過プロフィールを生じた(図5)。
【0063】
同一の実験において、異なる皮膚コンパートメント中のビタミンE TPGS含量の分析は、表6に示されているように、従来のリポソームおよび水溶液の両方に対して、10%ビタミンE TPGsを担持したグリセロソームから始まる皮膚深層(深い表皮/真皮)での蓄積がより高いことを実証した。
【0064】
【表6】



【0065】
異なる皮膚コンパートメントにおける透過プロフィールと蓄積との間の関係は、小胞性構造物が、ビタミンE TPGSの貯蔵システムとして機能することを実証しており、この効果は、皮膚深層での蓄積をより多量に生じ、バーストしない透過プロフィールを生じるビタミンE TPGSを担持したグリセロソームを用いた場合に、より大きい。
【0066】
ビタミンE TPGS水溶液の場合に観察された、透過中のバースト効果とより少ない皮膚蓄積との組合せは、透過能力がより高いことおよび全身吸収が起こり得ることを示すと考えることができる。
【0067】
結論として、本発明によるグリセロソームは、従来のリポソームおよびクリーム剤、ローション剤、軟膏剤または液剤などの局所投与用の他の従来の製剤と比較して、完全に生体適合性の皮膚浸透増強剤として作用する、より良好な透過プロフィールを示し、それ故に、医薬品有効成分および化粧製品の局所投与のための、高い皮膚透過能力を有し、皮膚への刺激のリスクを伴わない有用な担体である。
【0068】
実際に、本発明に記載されているグリセロソームは、20%から35%の間のグリセロール含量を特徴とし、例えば、口唇ヘルペスまたは他のタイプの皮膚損傷の症例のような皮膚病変の存在下で、局所適用後に刺激または灼熱感を引き起こす可能性がある、エチルアルコールなどの攻撃的な成分を全く含有しない。
【0069】
以下に、いくつかの好ましい実施形態を例示する目的で、本発明の適用分野を限定することなく、実験例を示す。
【実施例】
【0070】
例番号1:グリセロソームおよびリポソームの調製
グリセロームおよびリポソームを、脂質膜水和技術に従って調製した。手短に述べると、計量した脂質成分(リン脂質、コレステロール、疎水性有効成分またはDCPもしくはステアリルアミンなどのイオン性脂質)を、直径1mmのガラスビーズを4〜5ml含有する50ml丸底フラスコを使用して、5mlの有機溶媒(クロロホルムまたはジクロロメタン)に溶解させた。ロータリーエバポレーターを使用して、真空下で、室温にて2時間、溶媒を除去し、フラスコの壁面に、溶媒の痕跡が全くない脂質膜を得た。次いで、5mlのグリセロール水溶液(20%から35%の間のグリセロール濃度)も必要に応じて含有する水溶性有効成分を加え、三日月型プラスチック製撹拌シャフトを、丸底フラスコの内部表面に密着させて使用し、混合物を、10,000rpmで1時間、25℃での機械による撹拌下に維持した。多層状小胞からなる乳剤を、1時間静置させて維持し、次いで、60,000〜65,000kPaに設定したAvestin Emulsiflex C5ホモジナイザーを使用して、高圧で10分間、25℃にて均質化した。ホモジネートした小胞を、Sephadex−G25カラム上でのゲルろ過によって精製し、グリセロームを空隙容量中に溶出させて、組み込まれなかった有効成分から分離した。カラム溶出は、水を用いて実施し、収集された画分を、600nmでのUV比濁分析によって調べ、小胞が豊富な画分を識別した。
【0071】
従来のリポソームの調製は、脂質膜水和を水性緩衝液で(例えばリン酸緩衝生理食塩水で)行うこと以外は、記載されているように行った。その他に、水和段階および次の均質化段階は、リン脂質の成分の転移温度(Tc)(例えば、DPPCはTc=70℃、DMPCはTc=25℃など)に相当するかまたはそれよりも高い温度で実施した。
【0072】
例番号2:グリセロソームの特性決定
グリセロソーム調製物を、透過型電子顕微鏡法(TEM)、偏光光学顕微鏡法(PLM)、光子相関分光法(PCS)によっておよび組込み効率(E%)の測定によって、特性決定した。
【0073】
TEMについては、1滴の小胞分散液を銅製グリッドに適用し、1%リンタングステン酸溶液で染色して調べ、小胞の形成およびそれらの形態学を確認した。
【0074】
小胞の寸法およびΖ電位の測定は、Ζ−電位検出器(Malvern)を備えた動的レーザー光散乱(DLLS)によって行った。
【0075】
初期のロード(100%)に対する、小胞中に組み込まれた薬物の割合に相当するE%値の算出については、Sepadex−G25のカラム上で、水を用いて溶出するゲルろ過によって、担持された小胞を、組み込まれなかった薬物から分離した。
【0076】
例番号3:アシクロビルの定量分析
アシクロビルの定量決定は、英国薬局方に記載されている方法に従って、UV分光光度法によって行った。手短に述べると、アシクロビルを含有するサンプルを、0.5M硫酸に完全に溶解させ、脂質親和性成分を酢酸エチルで抽出し、254nmの波長で検量線と比較して分析した。
【0077】
例番号4:ブタ皮膚の調製
インビトロ透過実験は、新生仔ブタ皮膚標本を使用して行った。これは、地元の食肉処理場から得、動物の死後すぐに切除し、流水下で洗浄し、アルミホイル上に平らに広げ、−20℃で保管したものである。新生仔ブタ皮膚は薄く、厚さが一定であることおよび真皮層の下に脂肪がないことを特徴とする。
【0078】
例番号5:可撓性アッセイ
小胞可撓性は、50nmの細孔サイズのろ過膜を通す小胞ろ過の前後に、平均寸法および多分散指数を測定することからなる押出成形試験によって評価した。
【0079】
例番号6:透過試験および蓄積試験
インビトロ透過試験は、フランツ拡散セルで、500μlの小胞サンプルを上部セルコンパートメントまたはドナーコンパートメントにロードし、撹拌下で実施した。凍結したブタ皮膚の標本を、pH7.4のリン酸緩衝液中、室温で4時間再水和し、小ディスク状に切断し、フランツセルの2つのコンパートメント間に、金属クランプによってしっかりと固定した。各ディスクの使用可能なろ過表面は、0.636cmであった。実験中の連続した時点(0.5、1、2、3、4、5、6、7、8および24時間)で、下部コンパートメントの内容物を完全に抜き取り、皮膚下で気泡が形成されないようにしながら、新たな緩衝液と交換した。有効成分含量が決定するまで、収集したサンプルを4℃で保管した。
【0080】
実験終了時に、皮膚ディスクを風乾した。皮膚に10秒間、Tesafilm接着テープ(40021型)を軽い圧力下で貼り付け、皮膚標本を40°回転させた後、剥離を繰り返すことによって、角質層を取り去った。外科用メスを用いて、表皮から分離した真皮を、次いで小片に切断し、緩衝溶液中で超音波処理によって均質化し、懸濁液をろ過し、ろ過した溶液について、有効成分の定量分析を行った。
【0081】
各実験は、3つのセルを並行して、3つ1組で実施し、少なくとも3回繰り返した。
【0082】
参考文献
【0083】
【表7−1】



【0084】
【表7−2】

【0085】
【表7−3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)20%から35%w/wのグリセロール、
b)1%から10%w/wの少なくとも1種のリン脂質成分、
c)少なくとも1種の医薬品または化粧品として有効な成分
を含む、医薬品および化粧品の局所適用のためのリポソーム様小胞(グリセロソーム)。
【請求項2】
20%から30%、好ましくは25%w/wのグリセロールを含有する、請求項1に記載のグリセロソーム。
【請求項3】
前記リン脂質成分が、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイル−ステアロイルホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、大豆由来の水素化および非水素化リン脂質の混合物から選択される、請求項1に記載のグリセロソーム。
【請求項4】
0から2%w/wの濃度のリン脂質(phospholipic)膜の変性剤および/または0から5%w/wの濃度の皮膚吸収の増強剤をさらに含有する、請求項1から3に記載のグリセロソーム。
【請求項5】
前記リン脂質(phsopsholipid)膜の変性剤が、コレステロール、ステアリルアミン、リン酸ジセチルおよびホスファチジルグリセロール(phopshatidylglycerol)(PG)から選択される、請求項1から4に記載のグリセロソーム。
【請求項6】
前記皮膚吸収の増強剤が、プロピレングリコール、メントールおよび脂肪酸から選択される、請求項1から5に記載のグリセロソーム。
【請求項7】
医薬品または化粧品として有効な成分が、抗ウイルス薬、ビタミンおよびその誘導体、植物性抽出物、抗炎症(antinflammatory)薬、コルチコステロイド、抗生物質、殺真菌薬、抗乾癬薬、アシクロビル、trans−レチノイン酸、ベタメタゾンおよび誘導体、リドカイン、ミノキシジル、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、リファンピシン、ビタミンEおよびビタミンEのエステルまたは脂質親和性誘導体、ジクロフェナクナトリウム、リドカイン塩酸塩、アルカロイド、ヒドロキシ酸、ヒアルロン酸、ビタミンCおよびその誘導体、ビタミンEの可溶性誘導体、ビタミンE TPGS、抗しわおよびアンチエイジング化合物、抗酸化剤、ヘアトリートメント用製品、保湿剤ならびに日焼け止め成分から選択される、請求項1から6に記載のグリセロソーム。
【請求項8】
単層状または多層状の小胞を含むコロイド系が得られるまで、1〜10%w/wのリン脂質、20〜35%のグリセロール、0.1〜10%の有効成分、0〜2%のリン脂質膜変性剤、0〜5%の皮膚吸収増強剤および水を100%まで混合することを含む、請求項1から7に記載のグリセロソームを調製するための方法。
【請求項9】
室温で、好ましくは30℃未満の温度で、より好ましくは25℃の温度で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
局所投与用の医薬組成物または化粧用組成物を調製するための、請求項1から9に記載のグリセロソームの使用。
【請求項11】
前記医薬組成物または化粧用組成物が、クリーム剤、乳剤、軟膏剤(ointment)、ジェル剤、ローション剤または懸濁剤の形態である、請求項10に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−520245(P2012−520245A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553337(P2011−553337)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001428
【国際公開番号】WO2010/102770
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511219489)ピリジェン ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (1)
【氏名又は名称原語表記】PRIGEN S.R.L.
【Fターム(参考)】