説明

グリーンシート用セラミック粉末、グリーンシートおよびセラミック基板

【課題】低損失を実現するために誘電特性に優れ、850℃以下の低温焼成で銀導体の拡散を抑制可能な緻密なセラミック基板を得るためのグリーンシート用セラミック粉末を提供するものである。
【解決手段】ガラス粉末および無機フィラーを含有するグリーンシート用セラミック粉末であって、前記ガラス粉末が、酸化物を基準として、4〜19重量%の酸化シリコンと、16〜21重量%の酸化アルミナと、31〜34重量%の酸化ホウ素と、22〜39重量%の酸化カルシウムと、1〜6重量%の酸化バリウムと、0.2〜1.0重量%の酸化マグネシウムと、0.5〜3重量%の酸化亜鉛と、0〜1.5重量%の酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの少なくとも一方とからなり全体で100重量%であり、前記酸化マグネシウム、前記酸化カルシウムおよび前記酸化バリウムの合計が29.0〜40.2重量%としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、グリーンシート用セラミック粉末および多層セラミック基板に関する。
【背景技術】
【0002】
高度な情報通信を支える技術として、情報量の多い高周波利用に有効な高集積基板として低温焼成多層セラミック基板が実用化されている。かかる低温焼成多層セラミック基板は、グリーンシート用セラミック粉末から作製されたグリーンシートに導体ペーストを用いて回路パターンを形成した後、複数のグリーンシートを積層一体化して低温焼成した回路配線内蔵の多層基板である。このような低温焼成多層セラミック基板は、グリーンシート(セラミック材料)と導体ペースト(導体材料)とを同時に焼成するため、同時焼成基板とも称せられる。
【0003】
一般的に、低温焼成多層セラミック基板の作製に用いられるグリーンシート用セラミック粉末としては、ガラス成分と、機械強度の向上などを目的としたフィラーとして無機化合物(例えば、アルミナ)との混合物が用いられる。このとき、約1000℃以下で軟化して緻密化するガラス成分を選ぶことによって、金、銀、銀パラジウム、銅などの低抵抗な導体材料を用いることができる。後述のように低抵抗な導体を用いることは高周波信号の伝送時の導体抵抗に起因する導体ロス分を低減できるため、基板(基材と配線から構成される)を低損失化する際に有利である。
【0004】
近年、情報通信分野では、通信機器の増大化とチャンネル数の増加により、使用する電波の周波数帯が高周波化しており、マイクロ波やミリ波帯が用いられてきている。使用する電波の周波数が高くなるほど回路中で電気信号が熱に変わる作用、すなわち伝送損失が大きくなるため、製品の高性能化を目指すユーザーから、高周波帯での伝送損失を少なくすることが求められている。かかる高周波帯における伝送損失に多大な影響を及ぼす因子としては、セラミック基板の誘電特性および導体の電気伝導度が挙げられる。この中でも、セラミック基板の誘電特性はとくに重要であり、高い周波数になるほどその寄与率が高くなる。このため、高周波帯での伝送損失を少なくする観点から、誘電特性に優れた(すなわち、比誘電率εおよび誘電正接tanδが低い)セラミック基板用の基材が得られるグリーンシート用セラミック粉末が求められている。
【0005】
従来のグリーンシート用セラミック粉末としては、例えば、0〜50重量%のアルミナなどの無機フィラーと、50〜100重量%のガラス粉末とからなり、ガラス粉末として、酸化物換算にて、酸化シリコン35〜65重量%、酸化アルミニウム5〜25重量%、酸化ホウ素5〜35重量%、酸化カルシウム35〜65重量%、酸化バリウム0〜5重量%、酸化マグネシウム0〜5重量%、酸化ストロンチウム0〜5重量%、酸化ジルコニウム0.5〜5重量%、酸化チタン0.5〜5重量%、アルカリ元素(リチウム、ナトリウム、カリウム)酸化物0〜15重量%とからなるガラス粉末が用いられていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−143332号公報(2頁、表1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のグリーンシート用セラミック粉末においては、850〜1000℃の焼成で緻密化が可能で、且つ比誘電率εが低く、基材の誘電体損失の小さいセラミック基板を得ることができる。一般に、このようなセラミック基板においては、グリーンシート用セラミック粉末によって作製された基材の表面に焼成前に銀ペーストなどを用いて配線パターンが形成され、基材と配線パターンとを同時に焼成することが行なわれている。このとき、銀ペースト中の銀の微粒子が基材の内部へ拡散したり、焼失したりする現象が起こり、そのため配線パターンが細くなる場合がある。とくに配線幅が100μm以下では、銀の微粒子が拡散や焼失によって消失して断線までいたる場合がある。このような問題を解決するためには、基材の誘電体損失を低下させずに、より低い温度の焼成で緻密化が可能なセラミック粉末が望まれる。
【0008】
このような低温焼成条件で緻密化が可能で低損失特性を得られる可能性があるセラミック粉末の一つとして、高濃度のホウ素組成のガラス組成のガラス成分を想定することができる。しかしながら、ホウ素を高濃度に含有するガラス成分は、通常のガラス組成に比べて、耐酸性、耐アルカリ性に劣る傾向にある。多くの場合、低温焼成基板は、基材と導体との同時焼成を行った後、導体上へのニッケル等のメッキ膜の形成を行う工程を有する。このメッキ工程中には、強酸性、強アルカリ性のメッキ処理液にさらされることになるが、この際に基材ガラスの耐酸性、耐アルカリ性が劣る場合には、基材への浸食が大きく、導体膜の密着性低下や、基材の強度低下が生じるという問題があった。
【0009】
また、低損失特性のためには、アルカリ元素、とくにカリウム、ナトリウムといった元素を含まないことが望まれる。しかしながら、アルカリを含有しない場合には、焼成中の高温下にて銀導体からの基材中への銀の拡散が多くなること、低温焼成では十分な緻密化が得られないという問題があった。つまり、従来のグリーンシート用セラミック粉末では、低損失特性、低温焼成および銀導体の拡散を抑制するための緻密化を同時に満足することが困難であった。
【0010】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、低損失を実現するために誘電特性に優れ(すなわち、比誘電率εおよび誘電正接tanδが低い)、850℃以下の低温焼成で銀導体の拡散を抑制可能な緻密なセラミック基板を得るためのグリーンシート用セラミック粉末を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るグリーンシート用セラミック粉末は、ガラス粉末および無機フィラーを含有するグリーンシート用セラミック粉末であって、
前記ガラス粉末が、酸化物を基準として、
4重量%以上19重量%以下の酸化シリコンと、
16重量%以上21重量%以下の酸化アルミナと、
31重量%以上34重量%以下の酸化ホウ素と、
22重量%以上39重量%以下の酸化カルシウムと、
1重量%以上6重量%以下の酸化バリウムと、
0.2重量%以上1.0重量%以下の酸化マグネシウムと、
0.5重量%以上3重量%以下の酸化亜鉛と、
0重量%より多く1.5重量%以下の酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの少なくとも一方とからなり全体で100重量%であり、
前記酸化マグネシウム、前記酸化カルシウムおよび前記酸化バリウムの合計が29.0重量%以上40.2重量%以下としたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明のグリーンシート用セラミック粉末を用いたグリーンシートにおいては、750〜850℃での低温の焼成が可能であり、誘電特性に優れ(すなわち、比誘電率εおよび誘電正接tanδが低い)、銀導体の拡散を抑制可能な緻密なセラミック基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1におけるグリーンシート用セラミック粉末のガラス成分の組成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における低温焼成セラミック基板の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1に係るグリーンシート用セラミック粉末の原料となるガラス成分の酸化物の重量比を示した組成図である。図1は、実施例1〜14および比較のための比較例1〜10の組成比を示している。図1において、RO計は、酸化物に換算しての、Mg、CaおよびBaの含有量を示している。各酸化物の粉末を図1に示した所定の重量比で混合し、1200〜1500℃で約1時間溶融し、急冷してガラスカレットを得た。このガラスカレットをスタンプミルやボールミルを用いて粉砕し、平均粒径約2μmのガラス粉末を得た。
【0015】
このようにして得られた各組成でのガラス粉末50gと、無機フィラーである平均粒径2μmのアルミナ粉末(純度99%以上)50gとをボールミルを用いて16時間混合してグリーンシート用セラミック粉末を得た。さらに、このグリーンシート用セラミック粉末にポリビニールブチラール、フタル酸ジn−ブチル、トリオレイン、エタノール、ブタノールを適量添加してグリーンシート用セラミック粉末のスラリーを調製した。
【0016】
次に、各組成でのグリーンシート用セラミック粉末のスラリーを用いて、ドクターブレード法によって、幅約500mm、長さ約500mm(の板状の成形体を作製し、この板状の成形体を乾燥して約100μmの厚みを有するグリーンシートを作製した。
【0017】
このようにして得られたグリーンシートを30枚重ねて、90℃の温水中にて、300kg/cmの圧力で15分間の静水圧プレス行なって一体化した後、緻密化温度730〜870℃で20分から1時間、各組成の緻密化に適した温度で焼成することにより低温焼成セラミック基板の試料を作製した。各組成の緻密化温度については、その組成で緻密化されたセラミック基板が得られる最低温度とした。
【0018】
この低温焼成セラミック基板の試料を、冷却剤として水を用いて切削加工を行い、直径約1.3mm長さ約40mmの円柱状の試験サンプルに加工した。この試験サンプルを、共振周波数が約10GHzのTM010共振器を用いる摂動法によって、マイクロ波帯での誘電特性(比誘電率と誘電正接)を評価した。また、各組成の低温焼成セラミック基板試料から長さ30mm幅15mmの板状サンプルを加工し、500ccの蒸留水中で2時間煮沸した後、1分間の超音波洗浄、150℃で2時間の乾燥を行い、煮沸前重量と煮沸乾燥後の重量変化を測定し、その減量値によって耐水性を評価した。
【0019】
図2は、本実施の形態における低温焼成セラミック基板の各組成での緻密化温度、耐水性、比誘電率および誘電正接を示した特性図である。図1および図2から、本実施の形態における実施例1〜15の試料はいずれも、750℃〜850℃にて緻密化が達成され、耐水性が優れ、セラミック基板として実用的に優れたものであった。ここで、純水中での煮沸による減量値を耐水性として示したが、この値が小さいほど、メッキ液に溶けにくい化学的に安定した材料と判断できる。概略、減量値が0.02%以下であれば、実用性有りと判断できる。誘電損失が小さいとは、低温焼成基板用として多用される従来のアルカリ元素を含有した材料が、10GHzでの誘電正接が0.006〜0.007程度であることから、約50%低損失化される0.004以下であれば実用的に低損失性を有すると判断できると考えられるが、さらに、0.002以下であれば、極めて優れた低損失性を有するということが可能であり、従来の1600℃近傍で焼成緻密化して得られる極めて低損失な特性を有する高温焼成タイプのアルミナ基板と実用的に同等な低損失性を有すると考えられる。比誘電率は、誘電特性の一つとして記載したが、使用周波数、用途により適正な値があり一義的に最適値を決めることは難しいが、高周波用途には低い誘電率が電気特性の面で好ましく、セラミック基板用途の場合、5〜7程度であれば、実用上問題はない。
【0020】
実施例1〜15と比較例1〜3とを比較すると、酸化シリコンの含有量は、4重量%以上、19重量%以下が望ましい。酸化シリコンの含有量が19重量%より多いと(比較例3)、ホウ酸が酸化シリコンと溶け合い、ガラス成分の母材中へのホウ酸化合物の生成量が減少して、誘電正接が上昇して低損失性が損なわれると共に、母材の融点が上昇し、850℃以下での焼結が困難となる。そのため、比較例3においては、緻密化温度を870℃に設定している。一方、酸化シリコンの含有量が4重量%未満となると(比較例1、2)、ホウ酸化合物を覆うガラス量が減少し、耐水性が低下するため化学的安定性が損なわれる。
【0021】
酸化ホウ素は、ホウ酸化合物を生成することにより,低損失特性をもたらす。また、同時にガラス成分の母材中に存在することで、母材のガラス状態の維持と低融点化をもたらし、ガラス成分の母材の安定性と低温焼結性をもたらす。実施例1〜15と比較例2、3とを比較すると、酸化ホウ素の含有量としては、31重量%以上、34重量%以下が好適であり、酸化ホウ素の含有量が31重量%未満であると(比較例3)、所望の優れた誘電損失特性が得られない。一方、酸化ホウ素の含有量が34重量%を超えると(比較例2)、ホウ酸化合物量が増加し、耐水性、耐酸性および耐アルカリ性が低下するため、高周波部品で通常行う金メッキ付けなどの製造プロセスを中性に近い環境で行うなど工夫する必要が生ずる。
【0022】
実施例11〜12は、ガラス成分に酸化銅を含んだ場合であり、実施例2よりも緻密化温度が約30℃低くい場合でも、耐水性や誘電正接が同等な値となる。実施例9は、ガラス成分に酸化タングステンを含んだ場合であり、実施例2と同等な耐水性や誘電正接を有している。
【0023】
これに対して、比較例1、2の試料は、誘電正接は小さく良好であるが、耐水性が低い。この理由は、ガラス成分中の酸化シリコン量が少なく、十分なガラス母材が形成されなかったためと推定される。
【0024】
また、比較例3〜8の試料は、いずれも誘電正接が大きく、低損失材として用いる利点が認められない。比較例3、4および6は焼成温度が高いため、配線材料に純銀導体を用いた場合、銀の拡散が生じる恐れがある。比較例5は、耐水性が不足していた。
【0025】
上述のように、本実施の形態のグリーンシート用セラミック粉末を用いたセラミック基板は、ガラス成分にカリウム、ナトリウムを含まないので、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性の高い化学的特性を有するガラス母材中に、低損失なホウ酸化合物が含有される基本構成を有することにより極めて低い損失特性を示すと同時に高いメッキ液適合性を有するものである。かかるガラス母材中の構成成分においては、酸化シリコン酸化アルミニウムおよび酸化ホウ素は、ガラスの基本構成をなす元素である。
【0026】
酸化アルミニウムもまた、本グリーンシート用セラミック粉末のガラス成分の基本構成であり、化学的な安定性を向上させることができる。実施例1〜15と比較例1、2および比較例6とを比較すると、酸化アルミニウムの含有量は16重量%以上、21重量%以下が好ましい。酸化アルミニウムの含有量が16重量%未満(比較例6)であると、化学的な安定性が十分に向上せず、メッキ付けなどの製造プロセスを工夫する必要がある。また、酸化アルミニウムの含有量が21重量%(比較例1、2)を超えると、原料の溶融物からガラス粉末が安定して得られない。
【0027】
アルカリ土類金属元素であるMg、CaおよびBaは、ガラス成分に種々の性質を付与するガラス修飾物質である。適切な量の含有は、セラミック基板の耐水性を向上させると共に、高温粘度の制御に有効である。実施例1〜15と比較例9、10を比較すると、アルカリ土類金属元素を多く含有する比較例9(RO:41.0重量%)では耐水性が低下し、アルカリ土類金属元素の含有量が少ない比較例10(RO:28重量%)では誘電損失が劣化する傾向にある。したがって、本実施の形態における酸化物に換算しての、Mg、CaおよびBaの含有量の合計(RO)は、29重量%以上、40.2重量%以下である。アルカリ土類元素の一部はホウ酸化合物を形成するため、ホウ酸化合物とガラス成分の母材中とに分散して存在するが、アルカリ土類元素酸化物の含有量が25重量%未満であると、グリーンシート用セラミック粉末のスラリーの粘度が高くなる。また、40.2重量%を超えると、原料の溶融物からガラス粉末が安定して得られないか、所望の誘電損失特性が得られない。本実施の形態におけるガラス組成系においては、少なくとも酸化カルシウムを含み、酸化マグネシウム、酸化バリウムを含有した場合に優れた化学的な安定性と低誘電損失特性が得られる。個別の効果は一義的には示しにくいが、酸化マグネシウムにおいては0.2重量%以上、1.0重量%以下、酸化カルシウムにおいては22重量%以上、39重量%以下、酸化バリウムにおいては1重量%以上、6重量%以下の範囲で前記の良好な特性が得られ、この範囲外の組成の場合には、特性的に劣った結果が得られた。酸化ジルコニウムを含有することも耐水性の向上には有効であり、0重量%以上、1.5重量%以下を含有することで、耐水性を高めることができる。1.5重量%よりも多く含有するとガラスカレットの作製の溶融時に溶ける部分と固形で残る部分とが生じ、溶解性にバラツキが大きくなった。
【0028】
軟化温度の低下、良好な粘度や流動性をグリーンシート用セラミック粉末に付与するためにアルカリ元素を含有させると、誘電損失の増大を招き好ましくないが、同様な効果を有するものとして、酸化亜鉛を構成成分として配合することが有効であり、0.5重量%以上、3重量%以下として含有させることで、軟化点を下げることができる。ただし、酸化亜鉛の含有量が3重量%を超えると(比較例3)、低誘電損失特性が損なわれる。
【0029】
本グリーンシート用セラミック粉末のようにアルカリ元素を含まないガラス粉末は、焼成中に導体から拡散する銀に対して影響を受けやすい。多くの場合、銀の拡散により、基材中のガラス成分の軟化点が低温化し、ガラス成分の流動性が高まるが、とくにアルカリ元素を含有しないガラス粉末ではこの傾向が顕著であり、銀拡散部と非拡散部とで基材の収縮挙動に差が生ずる。即ち、銀拡散しやすい導体近傍の基材は、銀拡散が到達しにくい基材内部に比べて、低温から緻密化が進むことになる。このような挙動に対しては酸化タングステンを0重量%以上、2重量%以下の範囲で添加することが、この現象の緩和には有効である。また、この効果により導体周囲に、特にビア周囲に発生しやすい気孔などの欠陥発生の抑制にも有効である。含有量としては、添加により上記緩和効果が有効となるが、2重量%を超えて含有させると(比較例8)誘電特性が低下するため、好ましくない。
【0030】
チタンはガラス粉末に、種々の性質を与えるガラス修飾物質であり、所望の粘度や流動性をガラス粉末に付与することができる。ガラス粉末における酸化チタンの含有は、0重量%以上、1.5重量%以上が上記の特性制御の点で有効であり、含有量が1.5重量%を超えると(比較例6)、所望の誘電特性が得られず、好ましくない。
【0031】
より一層良好な粘度や流動性をガラスに付与する観点からCuOを構成成分として配合することが有効であるとともに、銀拡散に伴うガラスへの着色を抑制することができる。ガラス粉末におけるCuOの含有量は、好ましくは0重量%超過2重量%以下である。CuOの含有量が2重量%を超えると(比較例7)、所望の誘電特性が得られない。
【0032】
以上に加えて、必要に応じて0重量%超過、1.0重量%以下の酸化リチウムを加えることも有効である。リチウムは、アルカリ金属の中でも最も軽い元素であって結合距離も短いため、電気二重極子モーメントの固有振動数が高く、またモーメントの値も小さく、伝送損失の増加も抑制することができる。1重量%を越えて含有すると(比較例7、8)誘電損失の劣化を招く。アルカリ金属酸化物である酸化リチウムは、銀拡散の影響の安定化にも有効である。ナトリウムや、カリウムは、ガラス粉末の性状を安定化するが、それらの含有は誘電損失の増大を招くため好ましくない。
【0033】
本実施の形態におけるグリーンシート用セラミック粉末に用いるガラス粉末は、以上の元素を含有し、全体で100重量%となることを特徴とするガラス粉末である。また、このガラス粉末は、ホウ酸化合物を含有するが、ガラス母材の結晶化が生じないため、がガラス粉末の流動性が高く、従来の結晶相が多く生成するセラミック粉末を用いた基板材料に比べて、低温で速やかに緻密化が進行しやすい。
【0034】
このガラス粉末と組み合わせてグリーンシートを形成する無機フィラーとしては、強度や、熱伝導性などの基板としての必要な特性に応じて、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化珪素、窒化ホウ素から選ばれる1種以上を選択することが有効であるが、強度、コスト、使いやすさの点で酸化アルミニウムを用いることが良好である。
【0035】
また、本実施の形態のグリーンシートは、上記のグリーンシート用セラミック粉末と有機結合材であるポリビニールブチラールおよびフタル酸ジn−ブチルとでシート状に形成されたものである。
【0036】
また、本実施の形態におけるセラミック基板は、上記のグリーンシートを、単層あるいは積層して750〜850℃で焼成して得られるものである。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態2においては、実施の形態1の実施例1によって作製されたグリーンシートに配線を形成して得られるセラミック基板を作製したものである。配線を形成するために用いる銀を含む導体ペーストとしては、例えば、銀あるいは銀パラジウムを含む導体ペーストを用いることができる。
【0038】
セラミックシートの作製までは実施の形態1と同様である。このようにして得られたセラミックシートの表面に、銀を含む導体ペーストを用いて所定のパターンの配線を印刷した。この配線パターンが印刷されたグリーンシートを積層し、プレスして一体化させた後、820℃で焼成して多層セラミック基板を作製した。次に、この多層セラミック基板の表面に露出した配線にニッケルメッキ膜の形成を行なった。具体的には、この多層セラミック基板を塩化パラジウム液に浸漬し、配線部へのパラジウム付着後、ニッケルが溶解したメッキ液に浸漬してニッケル膜の析出を生じさせ、水洗後乾燥させて本実施の形態の多層セラミック基板を完成させた。
【0039】
このようにして作製した多層セラミック基板は、図1の実施例1に示したガラス成分をもつグリーンシートを用いて作製したので、実施の形態1の実施例1と同様に、比誘電率εおよび誘電正接tanδが低い特性が得られた。また、焼成温度を850℃以下の820℃としているので、銀導体の拡散が抑制され、銀の微粒子が拡散や焼失によって配線幅が細くなるような現象は発生しなかった。さらには、ニッケルメッキの工程において、配線の密着性低下や、多層セラミック基板に強度低下は発生しなかった。
【0040】
なお、本実施の形態においては、配線パターンが印刷されたグリーンシートを積層した例を示したが、単層であってもよい。また、多層セラミック基板の場合、内部の配線間を接続するためや、内部の配線から外部の電気的な接続を取るために、ビアを形成してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末および無機フィラーを含有するグリーンシート用セラミック粉末であって、
前記ガラス粉末が、酸化物を基準として、
4重量%以上19重量%以下の酸化シリコンと、
16重量%以上21重量%以下の酸化アルミナと、
31重量%以上34重量%以下の酸化ホウ素と、
22重量%以上39重量%以下の酸化カルシウムと、
1重量%以上6重量%以下の酸化バリウムと、
0.2重量%以上1.0重量%以下の酸化マグネシウムと、
0.5重量%以上3重量%以下の酸化亜鉛と、
0重量%より多く1.5重量%以下の酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの少なくとも一方とからなり全体で100重量%であり、
前記酸化マグネシウム、前記酸化カルシウムおよび前記酸化バリウムの合計が29.0重量%以上40.2重量%以下であることを特徴とするグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項2】
ガラス粉末が、さらに0重量%より多く1.5重量%以下の酸化銅を含有することを特徴とする請求項1記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項3】
ガラス粉末が、さらに0重量%より多く2重量%以下の酸化タングステンを含有することを特徴とする請求項1記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項4】
ガラス粉末が、さらに0重量%より多く1重量%以下の酸化リチウムを含有することを特徴とする請求項1記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項5】
ガラス粉末と無機フィラーとの重量割合が、4:6以上6:4以下であることを特徴する請求項1記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項6】
無機フィラーが、酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化珪素および窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のグリーンシート用セラミック粉末。
【請求項7】
請求項1のグリーンシート用セラミック粉末と有機結合材とからなるグリーンシート。
【請求項8】
請求項7のグリーンシートが単層あるいは積層され、750℃以上850℃以下で焼成されて得られるセラミック基板。
【請求項9】
表面に銀を含む導体ペーストで配線が形成された請求項7のグリーンシートが単層あるいは積層され、750℃以上850℃以下で焼成されて得られるセラミック基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−1206(P2011−1206A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143315(P2009−143315)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】