説明

ケイ素化合物

【課題】 撥水、撥油、耐薬品性、すべり性、難付着性、耐摩耗性などの含フッ素有機基が有する特性を固体表面に効率的に付与することのできる新規なケイ素化合物を提供する。
【解決手段】 下記式(1)で示される、含フッ素有機基とアルコキシシリル基とを同時に持つシルセスキオキサン誘導体を提供する
【化1】


化合物(1)において、Aはアルコキシシリルを有する基であり、R1は炭素数1〜40のアルキル、アリール、またはアリールアルキルから独立して選択される基であって、いずれも、任意の少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられている基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面に対して高機能改質能を有することを特徴とする新規なケイ素化合物に関する。なお、「シルセスキオキサン」は、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している化合物を示す類名であるが、本発明においてはシルセスキオキサン構造およびその一部が変形したシルセスキオキサン類似構造の総称として、「シルセスキオキサン」を用いることがある。
【背景技術】
【0002】
これまで、固体表面の高機能改質の点で見ると、テフロン(登録商標)をはじめとして、フッ素もしくは含フッ素有機基を導入することでフッ素特有の性質(撥水、撥油、耐薬品性、すべり性、難付着性、耐摩耗性)を付与する試みが広くなされ、実用化もされている。例えば、特許文献1〜4にはガラスの撥水性を向上させるために、フルオロアルキル基含有化合物や含フッ素ジメチルシロキサン等の化合物をガラス表面に塗布する試みがなされている。ただし、これらの化合物を単に塗布しただけではガラス表面との結合力が弱く、耐候性や耐摩耗性を充分にもたせることはできず、撥水性を長期に亘り維持することは困難であるという問題も抱えていた。
【0003】
上記の問題に対して、固体表面との接着性、密着性の向上を図るために種々のシランカップリング剤の開発がなされ、含フッ素シランカップリング剤も用いられてきた。含フッ素シランカップリング剤は分子中の含フッ素有機基が特性付与を担い、同一分子中の別の官能基が固体表面のヒドロキシル基と反応するように設計されている。ただし、この官能基はアルコキシ基あるいは水溶液中でのシラノール基であるためカップリング剤同士の反応などにより、固体表面上に効果的に均一な含フッ素有機基のコーティングを施しているとは必ずしも言えず、より効果的に含フッ素有機基の特性を施す手法が望まれている。
【0004】
一方、これまで、シルセスキオキサンに関して数多くの研究が行われており、たとえば非特許文献1には、ラダー構造、完全縮合型構造、および不完全縮合型構造のほか、一定の構造を示さない不定形構造などのシルセスキオキサンの存在が記載されている。最近では、完全縮合型構造または不完全縮合型構造を有するシルセスキオキサンに種々の官能基が導入されたシルセスキオキサン誘導体が、ハイブリッドプラスチック社より市販されており、多くの用途が提案されている。
【0005】
シルセスキオキサンの中で、閉じた空間を形成する完全縮合型構造のものについては、その分子中に複数の有機基を保持することが可能である。この点で、完全縮合型のシルセスキオキサンに複数個の機能性官能基を導入することで、これら官能基の特性を効果的に発現させることが可能であると予想される。
【0006】
しかしながら、これまでシルセスキオキサンを用いた固体表面の改質に関して鑑みると、改質樹脂またはシルセスキオキサンブレンド樹脂の使用に限られている。これは、これまでに固体表面に対して適度な反応活性を有する完全縮合型構造のシルセスキオキサンの合成がなされていないためであり、シルセスキオキサンを用いた高機能改質が可能となる化合物の合成が望まれている。
【特許文献1】特開昭58−129082号公報
【特許文献2】特開昭58−142958号公報
【特許文献3】特開昭58−147483号公報
【特許文献4】特開昭60−231442号公報
【非特許文献1】Chem. Rev. 95, 1409 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、固体表面に対して高機能改質能を有することを特徴とする新規なケイ素化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、構造の明確なシルセスキオキサン骨格に複数の含フッ素有機基を担持させることにより、より効率的に含フッ素有機基の特性を付与できると考え、撥水、撥油性を発現する含フッ素有機基と固体表面に対して反応活性基であるアルコキシシリル基とを同時に持つシルセスキオキサン誘導体を見出した。即ち、本発明は下記の構成を有する。
【0009】
[1] 式(1)で示されるケイ素化合物:
【化1】

ここに、Aはアルコキシシリル基を有する基であり;R1は炭素数1〜40のアルキル、アリールおよびアリールアルキルから独立して選択される基であって、いずれも、その少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた基であり;この炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;このアリールアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよい。
【0010】
[2] Aが式(2)で示される基である、[1]に記載のケイ素化合物:
【化2】

ここに、Z1は炭素数2〜10のアルキレンであって、このアルキレンにおける任意の−CH2−は−O−またはフェニレンで置き換えられてもよく;R2は炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルであり;R3は炭素数1〜4のアルキルであり;そして、nは0〜2の整数である。
【0011】
[3] [1]に記載の式(1)におけるR1が炭素数1〜20のフルオロアルキルである、[1]または[2]に記載の化合物。
【0012】
[4] [1]に記載の式(1)におけるR1が2−フルオロエチル、2,2−ジフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル、パーフルオロ−1H,1H,2H,2H−ドデシル、またはパーフルオロ−1H,1H,2H,2H−テトラデシルである、[1]または[2]に記載の化合物。
【0013】
[5] [1]に記載の式(1)におけるR1が3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルまたはトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルである、[1]または[2]に記載の化合物。
【0014】
[6] [1]に記載の式(1)におけるR1が3,3,3−トリフルオロプロピルまたはノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルである、[1]または[2]に記載の化合物。
【0015】
[7] Z1が炭素数2〜8のアルキレンであり;R3がメチル、エチル、プロピルまたは1−メチルエチルであり;そしてnが0または1である、[2]に記載の化合物。
【0016】
[8] Z1が炭素数2〜4のアルキレンであり;R3がメチルまたはエチルであり;そしてnが0または1である、[2]に記載の化合物。
【0017】
[9] [1]に記載の式(1)におけるR1が3,3,3−トリフルオロプロピルであり;式(2)におけるZ1が炭素数2または3のアルキレンであり;R3がメチルであり;そしてnが0である、[2]に記載の化合物。
【0018】
[10]式(3)で示される化合物を原料として用いることを特徴とする式(1−1)で示されるケイ素化合物の製造方法:
【化3】

ここに、R1は炭素数1〜40のアルキル、アリールおよびアリールアルキルから独立して選択される基であって、いずれも、その少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた基であり;この炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;このアリールアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;Z1は炭素数2〜10のアルキレンであって、このアルキレンにおける任意の−CH2
−は−O−またはフェニレンで置き換えられてもよく;R2は炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルであり;Xはハロゲンであり;R3は炭素数1〜4のアルキルであり;そして、nは0〜2の整数である。
【0019】
[11] 式(3)で示される化合物に式(4−1)で示される化合物を反応させることを特徴とする、[10]に記載の製造方法:
【化4】

ここに、R3は式(1−1)におけるR3と同一の意味を有する。
【0020】
[12]式(3)で示される化合物に式(4−2)で示される化合物を反応させることを特徴とする、[10]に記載の製造方法:
【化5】

ここに、R3は式(1−1)におけるR3と同一の意味を有する。
【0021】
[13] [10]に記載の式(1−1)において、R1が2−フルオロエチル、2,2−ジフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル、パーフルオロ−1H,1H,2H,2H−ドデシル、またはパーフルオロ−1H,1H,2H,2H−テトラデシルであり;R3がメチル、エチル、プロピルまたは1−メチルエチルである、[10]〜[12]のいずれか1項に記載の製造方法。
【0022】
[14] [10]に記載の式(1−1)において、R1が3,3,3−トリフルオロプロピルまたはノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルであり;R3がメチルまたはエチルであり;そしてnが0または1である、[10]〜[12]のいずれか1項に記載の製造方法。
【0023】
[15] 式(4−1)で示される化合物の使用量が、式(3)で示される化合物に対するモル比で1〜5倍量であることを特徴とする、[11]に記載の製造方法。
【0024】
[16] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のケイ素化合物を含むシランカップリング剤。
【0025】
[17] [1]〜[9]のいずれか1項に記載のケイ素化合物を含む固体表面処理剤。
【発明の効果】
【0026】
本発明が提供するケイ素化合物は、シルセスキオキサン誘導体であって優れた固体表面改質能を有する。本発明のケイ素化合物は、撥水、撥油機能を発現する含フッ素有機基と同時にアルコキシシリルを有する基とを持つので、これを用いて通常のシランカップリング処理をおこなうことにより、固体表面に効率的にフルオロアルキルの持つ特性(撥水、撥油、耐薬品性、すべり性、難付着性、耐摩耗性)を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
はじめに、本発明で用いる用語について説明する。本発明において、アルキルおよびアルキレンは、いずれも直鎖の基であってよいし分岐された基であってもよい。シクロアルキルおよびシクロアルキレンは、どちらも架橋環構造の基であってもよいし、そうでなく
てもよい。本発明で用いる「任意の」は、位置だけでなく個数についても任意に選択できることを示す。そして、「任意のAはBまたはCで置き換えられてもよい」という表現は、少なくとも1つのAがBで置き換えられる場合と少なくとも1つのAがCで置き換えられる場合とに加えて、少なくとも1つのAがBで置き換えられると同時に、別の少なくとも1つのAがCで置き換えられる場合をも含むことを意味する。式(1)で示される化合物を化合物(1)と表記することがある。他の式で表される化合物についても、同様の簡略化法によって表記することがある。
【0028】
本発明のケイ素化合物は式(1)で示される。
【化6】

式(1)におけるR1は炭素数1〜40のアルキル、アリールおよびアリールアルキルから独立して選択される基であって、いずれも、その少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられている基である。この炭素数1〜40のアルキルおよびアリールアルキル中のアルキレンにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよい。
【0029】
1が少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられているアルキルであるとき、その炭素数は1〜40である。好ましい炭素数は1〜20であり、より好ましい炭素数は1〜14である。
【0030】
炭素数が1〜14であり、そして少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられているアルキルの例は、2−フルオロエチル、2,2−ジフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル、パーフルオロ−1H,1H,2H,2H−ドデシル、およびパーフルオロ−1H,1H,2H,2H−テトラデシルである。
【0031】
1が少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられているアリールであるとき、その好ましい炭素数は6〜10である。なお、アリールはフッ素以外の置換基を有するものであってもよい。
【0032】
少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられているアリールの例は、ペンタフルオロフェニル、4−フルオロフェニル、2,3−ジフルオロ−4−メチルフェニル、2,3−ジフルオロ−4−メトキシフェニル、2,3−ジフルオロ−4−エトキシフェニル、2,3−ジフルオロ−4−プロポキシフェニル、および2,3,5,6−テトラフルオロ−4−ビニルフェニルである。
【0033】
1が少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられているアリールアルキルであるとき、その好ましい炭素数は7〜12であり、この基における任意の−CH2−は−O−、
シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよい。
【0034】
少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられているアリールアルキルの例は、4−フルオロフェニルメチル、2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニルメチル、2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)エチル、3−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)プロピル、2−(2−フルオロフェニル)プロピル、および2−(4−フルオロフェニル)プロピルである。
【0035】
1の特に好ましい例は、3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル、およびトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルである。
【0036】
式(1)におけるAはアルコキシシリルを有する基であり、その好ましい例は式(2)で示される基である。
【化7】

【0037】
式(2)において、R2は炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルである。R2の好ましい例は炭素数1〜8のアルキルまたは炭素数6〜12のアリールである。R2のより好ましい例は炭素数1〜4のアルキルである。R3は炭素数1〜4のアルキルである。R3の好ましい例はメチル、エチル、プロピルおよび1−メチルエチルであり、より好ましい例はメチルおよびエチルである。Z1は炭素数2〜10のアルキレンであり、このアルキレンにおける任意の−CH2−は−O−またはフェニレンで置き換えられてもよい。そして、nは0〜2の整数であり、好ましくは0または1である。
【0038】
Si原子上に有機基を導入するに当たり、加水分解を受けない誘導体を得る方法は、Si−ハロゲンに対してグリニャール試薬を反応させる方法とSi−Hに対して脂肪族不飽和結合を有する化合物を反応させる方法がある。後者は通常ヒドロシリル化反応法と称される。そして本発明においては、原料となる化合物(3)の調製においてヒドロシリル化反応法を採用する方が有利である。即ち、末端に不飽和結合を有する有機基を持つシルセスキオキサンにSi−H官能を持つ化合物をヒドロシリル化反応を用いて結合させる。したがって、Z1は−Z2−C24−で示される基であることが好ましい。即ち、式(2)の好ましい例は式(2−1)で示される基である。
【化8】

式(2−1)において、Z2は単結合または炭素数1〜8のアルキレンであって、このアルキレンにおける任意の−CH2−は−O−またはフェニレンで置き換えられてもよい。式(2−1)におけるR2、R3およびnは、式(2)におけるR2、R3およびnとそれぞれ同一の意味を有する。
【0039】
即ち、Z1の好ましい例は、−C24−、−C36−、−C48−、−C510−、−C612−、−C816、−C24−O−C24−および−C36−O−C36−であり、より好ましい例は−C24−および−C36−である。しかしながら、Z1の選択範囲はこれらに限定されない。
【0040】
本発明により製造されるケイ素化合物は、ケイ素原子上にアルコキシ基を有する。このアルコキシ基は高い加水分解性を有しており、加水分解等により容易に無機化合物との良
好な結合を形成するシランカップリング剤として作用する。このため、ガラス基板をはじめとする固体表面へのコーティングが可能となり、有機化合物と無機化合物とからなる複合化材料の原料として有用である。
【0041】
本発明により製造されるケイ素化合物はシランカップリング剤として、無機微粒子、金属シリコン(シリコンウエハなど)、マイカ、ステンレス、アルミニウム、セラミックス、セメント、紙、ガラス、プラスチック、無機窯業系基板、布帛などの表面処理に用いることが可能である。無機微粒子の例は、SiO2、Al23、MgO、MgCl2、ZrO2、TiO2、B23、CaO、ZnO、BaO、V25、Cr23、およびThOであり、これらを含む混合物であってもよい。これらの原子の複合酸化物、例えばSiO2−MgO、SiO2−Al23、SiO2−TiO2、SiO2−V25、SiO2−Cr23、SiO2−TiO2−MgOなどであってもよい。また公知の磁性体、例えば、鉄、コバルト、ニッケル等の金属およびこれらの合金、Fe3 4 、γ−Fe2 3 、コバルト添加酸化鉄等の金属酸化物、Mn・Znフェライト、Ni・Znフェライト等のフェライト、マグネタイト、ヘマタイトも無機微粒子として使用することが出来る。
本発明により製造されるケイ素化合物をシランカップリング剤として用いる対象はこれらの例に限定されない。
【0042】
次に本発明のケイ素化合物のうち、化合物(1−1)の製造方法について説明する。化合物(1−1)は化合物(3)をアルコキシ化することにより得られる。
【化9】

式(1−1)において、R1は式(1)におけるR1と同一の意味を有し、R2、R3およびnは、式(2)におけるR2、R3およびnとそれぞれ同一の意味を有する。
【化10】

式(3)において、Xはハロゲンであり、その好ましい例は塩素および臭素である。Xの最も好ましい例は塩素である。R1、Z1、R2およびnは式(1−1)中のR1、Z1、R2およびnとそれぞれ同一の意味を有する。
【0043】
化合物(1−1)の製造方法の好ましい例をスキーム1〜3に示す。以下の説明では末端に不飽和結合を有する化合物を例示するが、本発明はこれに限定されない。
【化11】

これらのスキームにおいて、M2は水素または1価のアルカリ金属原子であり、Z2は式(2−1)中のZ2と同一の意味を有する基である。X1はハロゲンであり、好ましくは塩素または臭素であり、より好ましくは塩素である。その他の記号の意味は前記の通りである。
【0044】
スキーム1において、好ましい原料は化合物(a)である。
【化12】

化合物(a)は、トリクロロシラン誘導体を加水分解し、さらに熟成させることで合成することができる。例えば、Frank J. Feherらは、シクロペンチルトリクロロシランを水−アセトン混合溶剤中で、室温下または還流温度下で反応させ、さらに2週間熟成させることにより、式(a)においてR1がシクロペンチルである化合物を得ている(Organometallics, 10,2526-(1991)、Chemical European Journal, 3,No.6,900-(1997))。本発明においてはフルオロアルキルトリクロロシラン誘導体を用いることにより、R1がフルオロアルキル基である化合物(a)を同様に得ることができる。
【0045】
スキーム1で用いるもう1つの好ましい原料は、式(b)で示されるシルセスキオキサン化合物である。
【化13】

式(b)中のM1は1価のアルカリ金属原子である。そして、アルカリ金属の好ましい例はナトリウムおよびカリウムであり、特に好ましい例はナトリウムである。化合物(b)は、3個の加水分解性基を有するシラン化合物を加水分解することにより得られるシルセスキオキサンオリゴマーを、有機溶剤中で1価のアルカリ金属水酸化物と反応させることにより得られる。3個の加水分解性基を有するシラン化合物を、有機溶剤、水およびアルカリ金属水酸化物の存在下で、加水分解、縮合させることによっても得られる。いずれの方法の場合も、短時間、且つ高収率で化合物(b)を製造することができる(国際公開パンフレットWO02/094839を参照)。化合物(b)は、化合物(a)のシラノール基よりも高い反応性を示す。従って、この化合物を原料として用いれば、容易かつ高収率でその誘導体を合成することができる。即ち、本発明の原料としては、化合物(a)よりも化合物(b)の方が好ましい。
【0046】
1が−C36−であり、nが0であり、そしてR3がメチルである化合物(1−3)について、その製造法を詳しく説明する。但し、本発明の化合物はこれに限定されない。
【化14】

【0047】
スキーム1に従い、化合物(a)または化合物(b)に、不飽和結合を有するトリハロゲン化シランである化合物(6−3)を反応させて、化合物(7−3)を得る。
【化15】

【0048】
化合物(a)と化合物(6−3)から化合物(7−3)を合成するには、“Corner-capping reaction"と称される求核置換方法を採用することができる。この求核置換反応に用いる溶剤の選択条件は、化合物(a)および化合物(6−3)と反応しないこと、並びに充分脱水されていることである。溶剤の例は、テトラヒドロフラン、トルエン、メチレンクロライドおよびジメチルホルムアミドである。特に好ましい溶剤は、よく脱水されたメチレンクロライドおよびテトラヒドロフランである。化合物(6−3)の好ましい使用量は、化合物(a)に対するモル比で1〜5倍である。そして、この反応時においては塩化水素が発生するため、この塩化水素を反応系から除去する必要がある。塩化水素を除去する方法に制限はないが、各種の有機塩基を用いることが好ましい。有機塩基としては、副反応を抑制し、目的とする反応が速やかに進行させることができるのであれば、特に限定されるものではないが、ピリジン、ジメチルアニリン、トリエチルアミンおよびテトラメチル尿素が挙げられる。そして、有機塩基の特に好ましい例はトリエチルアミンである。トリエチルアミンの好ましい使用量は、化合物(a)に対するモル比で9〜15倍である。反応温度は、副反応が併発せず、定量的な求核置換反応を進行させることができる温度である。ただ、原料の仕込み時においては、低温条件下、例えば氷浴中で行うことが最も好ましく、その後は室温下で行ってもよい。反応時間は、定量的な求核置換反応が進行するに充分な時間であれば特に制限はなく、通常4時間で化合物(7−3)を得ることができる。
【0049】
化合物(b)に化合物(6−3)を反応させて化合物(7−3)とする反応も、化合物(a)を用いる場合と同様にして実施することができる。化合物(6−3)の好ましい使用量は、化合物(b)に対するモル比で1〜5倍である。この反応においては、塩化水素除去を目的として有機塩基などを使用する必要はない。しかしながら、反応の進行を速やかに行うための触媒的な役割として、有機塩基を用いてもよい。有機塩基としては、副反応を抑制し、目的とする反応が速やかに進行させることができるのであれば、特に限定されるものではない。有機塩基の例はピリジン、ジメチルアニリン、トリエチルアミンおよびテトラメチル尿素である。有機塩基のより好ましい例はトリエチルアミンである。トリエチルアミンを用いる場合には、化合物(b)中のSi−ONaに対する当量比で3〜5倍であることが好ましい。反応に際して用いる溶剤、反応温度および反応時間については化合物(a)を用いる反応の場合と同様である。
【0050】
未反応の原料化合物や溶剤(以下、併せて「不純物」と称することがある)を除去するために蒸留法を適用すると、長時間高温条件下に保持されることによって、目的とする化合物が分解される恐れがある。従って、化合物(7−3)の純度を損ねることなく、不純物を効率的に除去するためには、再結晶操作による精製法や有機溶剤による不純物の抽出法の利用が好ましい。再結晶による精製法は次のように行われる。まず、化合物(7−3)と不純物との混合物を、これらをともに溶解する溶剤に溶解させる。このときの化合物(7−3)の好ましい濃度は、1〜15重量%である。次に、上記溶液を濃縮装置、例えばロータリーエバポレーターによって、減圧条件下、結晶が析出し始めるまで濃縮する。その後、大気圧に戻し、室温または低温条件下に保持する。濾過や遠心分離に付することで、不純物を含む溶剤と析出した固体成分とを分離することができる。もちろん不純物を含む溶剤中には、目的とする化合物も含まれるため、上記操作を繰り返し行うことで、化合物(7−3)の回収率を上げることも可能である。
【0051】
再結晶に用いる好ましい溶剤の選択条件は、化合物(7−3)と反応しないこと、濃縮前の段階において化合物(7−3)および不純物を溶解させること、濃縮時において不純物のみを溶解し化合物(7−3)を効率よく析出させること、比較的低い沸点を有することなどである。このような条件を満足させる好ましい溶剤の例はエステル類や芳香族類である。特に好ましい溶剤は酢酸エチルとトルエンである。そして、さらに精製度をあげるためには、再結晶操作の繰り返し回数を多くすればよい。
【0052】
有機溶剤による不純物の抽出法は次のように行われる。まず、化合物(7−3)と不純物との混合物を不純物のみを溶解する有機溶剤に分散させて、撹拌しながら不純物のみを抽出する。その後濾過または遠心分離により固−液を分離して、化合物(7−3)を得る。化合物(7−3)を溶解せず、不純物のみを溶解する有機溶剤であれば特に制限はないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類が好ましい。抽出時間は、不純物が効率的に除去できるのであれば特に制限はないが、1〜5時間の範囲であることが好ましい。抽出温度は、不純物が効率的に除去できるのであれば特に制限はないが、10〜150℃の範囲が好ましく、より好ましくは10〜50℃であり、最も好ましくは10〜40℃である。そして、さらに精製度をあげるためには、有機溶剤による不純物の抽出操作の繰り返し回数を多くすればよい。
【0053】
化合物(7−3)と下記の化合物(8)とを遷移金属触媒の存在下でヒドロシリル化反応させることにより、化合物(3−3)が得られる。
【化16】

これらの式におけるXおよびR1は、式(3)におけるXおよびR1とそれぞれ同一の意味を有する。
【0054】
ヒドロシリル化反応に用いられる遷移金属触媒の例は、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、パラジウム、モリブデン、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンなどである。これらの中で、白金触媒がより好ましい。これらの触媒は、溶剤に溶解させた均一系触媒、またはカーボンもしくはシリカなどに担持させた固体触媒として使用することができる。ホスフィン、アミン、酢酸カリウムなどを共存させた形態で使用してもよい。遷移金属触媒の好ましい使用量は、化合物(8)中のSi−H基1モルに対して、遷移金属触媒原子として1×10-6〜1×10-2モルである。
【0055】
化合物(7−3)の使用量は、化合物(8)のSi−H基に対する当量比で0.1〜5倍であることが好ましい。ヒドロシリル化反応はほぼ定量的に進む反応であるから、この当量比を大きく変化させる意味はあまりない。しかしながら、未反応化合物として残留する化合物(7−3)あるいは化合物(8)と目的生成物である化合物(3−3)との沸点差が大きい化合物の量を多くすれば、未反応化合物として残留する化合物の減圧留去も容易となる。従って、化合物(7−3)の使用量は、化合物(8)中のSi−H基に対する当量比で、0.5倍であることが好ましい。そして、化合物(3−3)から未反応の原料化合物や溶剤を分離するためには、長時間高温条件下に保持されることによって化合物(3−3)が分解されるのを防ぐために、未反応の原料化合物、たとえば化合物(8)および溶剤を減圧留去させるだけでもよい。
【0056】
化合物(3−3)をアルコキシ化することにより、化合物(1−3)が得られる。ハロゲン化シランをアルコキシ化する反応の好ましい例の1つは、オルト蟻酸トリアルキルを用いる反応である。すなわち、例えば、化合物(3−3)と化合物(4−1−1)との反応である。
【化17】

このアルコキシ化反応に用いる溶剤の選択条件は、化合物(3−3)および化合物(1−3)と反応しないこと、並びに充分脱水されていることである。溶剤の例は、テトラヒドロフラン、トルエン、およびメチレンクロライドである。特に好ましい溶剤は、よく脱水されたテトラヒドロフランである。また、溶剤は特に用いずとも良い。化合物(4−1−
1)の好ましい使用量は、化合物(3−3)に対するモル比で1〜5倍である。反応温度は、副反応が併発せず、定量的な反応を進行させることができる温度である。通常、化合物(3−3)に化合物(4−1−1)を加えると発熱するため、室温下においても反応は進行するが、湯浴中で行うことが最も好ましい。反応時間は、定量的な反応が進行するに充分な時間であれば特に制限はなく、通常、自発熱が収まった時点で目的のケイ素化合物を得ることができる。
【0057】
化合物(1−3)から未反応の原料化合物や溶剤を分離するためには、減圧蒸留を採用することが好ましい。これは、長時間高温条件下に保持されることによって化合物(1−3)が分解されるのを防ぐためである。ただし、化合物(1−3)が高沸点であり、蒸留法が適用できない様な場合は、副生成物および未反応の原料化合物、たとえば化合物(4−1−1)および溶剤を減圧留去させるだけでもよい。
【0058】
ハロゲン化シランをアルコキシ化する反応の好ましい例のもう1つは、アルコールによるアルコーリシス反応である。すなわち、例えば、化合物(3−3)と化合物(4−2−1)との反応である。
【化18】

この反応は通常、アルゴンガスや窒素ガスのような不活性気体雰囲気中で、原料に対して不活性な乾燥した有機溶剤を用いて行う。この反応に用いる溶剤の選択条件は、化合物(3−3)および化合物(1−3)と反応しないこと、並びに充分脱水されていることである。溶剤の例は、テトラヒドロフラン、トルエン、およびメチレンクロライドである。特に好ましい溶剤は、よく脱水されたメチレンクロライドである。また、溶剤は特に用いずとも良い。この反応は定量的に進行する反応であるが、化合物(4−2−1)の使用量は化合物(3−3)に対する当量比で1〜10であることが好ましい。化合物(4−2−1)の使用量を多くすることで、全ての化合物(3−3)を反応させることが可能であるし、反応時間を短くすることもできる。反応は室温下において進行するが、通常、化合物(3−3)に化合物(4−2−1)を加えると強発熱するため、過度の熱を除去するために水浴中で行うことが最も好ましい。反応時間は、定量的な反応が進行するに充分な時間であれば特に制限はなく、通常、自発熱が収まった時点で目的のケイ素化合物(1−3)を得ることができる。
【0059】
反応に際して副生するハロゲン化水素は、副反応を誘発するので、これを除去するために加熱により気化させて系外に排出させる、もしくは、有機塩基を共存させて反応を行う。有機塩基の例は、ピリジン、ジメチルアニリン、トリエチルアミンおよびテトラメチル尿素である。副反応を抑制し、反応を速やかに進行させることができれば、他の有機塩基でもよい。そして、有機塩基の最も好ましい例はトリエチルアミンである。
【実施例】
【0060】
実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。実施例における分子量のデータは、GPC(ゲルパ−ミエーションクロマトグラフィー法)によって求めたポリスチレン換算値である。以下に、GPCの測定条件を示す。
装置:日本分光株式会社製、JASCO GULLIVER 1500 (インテリジェント示差屈折率計 RI-1530)
溶剤:テトラヒドロフラン
流速:1ml/min
カラム温度:40℃
使用カラム:東ソー株式会社製、TSKguardcolumn HXL-L(GUARDCOLUMN)+TSKgel G1000HxL(排除限界分子量(ポリスチレン):1,000)+TSkgel G2000HxL(排除限界分子量(
ポリスチレン):10,000)
較正曲線用標準試料:Polymer Laboratories社製、Polymer Standards (PL), Polystyrene
【0061】
実施例で用いられる記号の意味は次の通りである。
Et:エチル
Pr:プロピル
TFPr:3,3,3−トリフルオロプロピル
NFHe:ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル
TDFOc:トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル
TMS:トリメチルシリル
Mn:数平均分子量
Mw:重量平均分子量
【0062】
[実施例1]
<トリフルオロプロピルトリメトキシシランを原料としたナトリウム結合3,3,3−トリフルオロプロピルシルセスキオキサン化合物の合成>
還流冷却器、温度計および滴下漏斗を取り付けた内容積1リットルの4つ口フラスコに、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(100g)、THF(500ml)、脱イオン水(10.5g)および水酸化ナトリウム(7.9g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら、室温からTHFが還流する温度までオイルバスにより加熱した。還流開始から5時間撹拌を継続して反応を完結させた。その後、フラスコをオイルバスから引き上げ、室温で1晩静置した後、再度オイルバスにセットし固体が析出するまで定圧下で加熱濃縮した。析出した生成物は孔径0.5μmのメンブランフィルターを備えた加圧濾過器を用いて濾過した。次いで、得られた固形物をTHFで1回洗浄し、減圧乾燥機にて80℃、3時間乾燥を行い、74gの無色粉末状の固形物を得た。
【0063】
[実施例2]
<トリメチルシリル基の導入>
滴下漏斗、還流冷却器および温度計を取り付けた内容積50mlの4つ口フラスコに、実施例1で得られた無色粉末状の固形物(1.0g)、THF(10g)およびトリエチルアミン(1.0g)を仕込み、乾燥窒素にてシールした。マグネチックスターラーで撹拌しながら、室温でクロロトリメチルシラン(3.3g)を約1分間で滴下した。滴下終了後、室温で、さらに3時間撹拌を継続して反応を完結させた。ついで純水10g投入し生成した塩化ナトリウムおよび未反応のクロロトリメチルシランを加水分解した。このようにして得られた反応混合物を分液漏斗に移し有機相と水相とに分離し、得られた有機相を脱イオン水により洗浄液が中性になるまで水洗を繰り返した。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮して白色固体の化合物(0.9g)を得た。
得られた白色粉末状の固形物について、GPC、1H−NMR、29Si−NMRおよび13C−NMRにより構造解析を行った。GPCチャートから白色粉末状の固形物は単分散性を示し、その分子量はポリスチレン換算で重量平均分子量1570であり、純度98%であることが確認された。1H−NMRチャートから、トリフルオロプロピル基とトリメチルシリル基が7:3の積分比で存在することが確認された。29Si−NMRチャートから、T構造を示唆するピークが1:3:3の比で3つ、トリメチルシリル基を示唆するピークが12.1ppmに1つ存在することが確認された。13C−NMRチャートでも131〜123ppm、28〜27ppm、6〜5ppmにトリフルオロプロピル基を示唆するピークが存在し、1.4ppmにトリメチルシリル基を示唆するピークが存在することが確認された。質量分析スペクトルの測定結果から、絶対分子量は式(9)に示す構造体の理論分子量と一致した。X線構造解析による結晶構造解析の結果から、式(9)に示す
構造体であることが確認された。これらの結果は、構造解析の対象である無色粉末状の固形物が式(9)の構造を有することを示している。従って、トリメチルシリル化される前の化合物は、式(10)の構造であると判断される。
【化19】

【0064】
[実施例3]
<ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルトリメトキシシランを原料としたナトリウム結合ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルシルセスキオキサン化合物の合成>
還流冷却器、温度計および滴下漏斗を取り付けた内容積200mlの4つ口フラスコに、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルトリメトキシシラン(20.00g)、THF(93.74g)、水酸化ナトリウム(0.93g)および脱イオン水(1.26g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら加熱した。内液温度64.0℃で還流が開始してから5時間撹拌を続けて、反応を終了させた。常圧下で固体が析出するまで反応液を濃縮し、さらに真空乾燥して粘ちょう性の化合物(17.83g)を得た。
【0065】
[実施例4]
<トリメチルシリル基の導入>
滴下漏斗、還流冷却器および温度計を取り付けた内容積50mlの3つ口フラスコに、実施例3で得られた粘ちょう性の化合物(2.0g)、THF(10g)およびトリエチルアミン(0.6g)を仕込み、乾燥窒素にてシールした。マグネチックスターラーで撹拌しながら、室温でクロロトリメチルシラン(1.7g)を約1分間で滴下した。滴下終了後、室温で、さらに4時間撹拌を継続して反応を完結させた。ついで純水10g投入し、生成した塩化ナトリウムおよび未反応のクロロトリメチルシランを加水分解した。このようにして得られた反応混合物を分液漏斗に移し、トルエン30mlを加え、有機相と水相とに分離し、得られた有機相を脱イオン水により洗浄液が中性になるまで水洗を繰り返した。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、ロータリーエバポレーター
で減圧濃縮して粘ちょう性の化合物(1.0g)を得た。
得られた粘ちょう性の化合物について、GPC、1H−NMRおよび29Si−NMRにより構造解析を行った。GPCチャートから粘ちょう性の化合物は単分散性を示し、純度99%であることが確認された。1H−NMRチャートから、ノナフルオロヘキシル基とトリメチルシリル基が7:3の積分比で存在することが確認された。29Si−NMRチャートから、T構造を示唆するピークが1:3:3の比で3つ、トリメチルシリル基を示唆するピークが12.5ppmに1つ存在することが確認された。これらの結果は、構造解析の対象である粘ちょう性の化合物が式(11)の構造を有することを示している。従って、トリメチルシリル化される前の実施例3の化合物は、式(12)の構造であると判断される。
【化20】

【0066】
[実施例5]
<トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシランを原料としたナトリウム結合トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルシルセスキオキサン化合物の合成>
還流冷却器、温度計および滴下漏斗を取り付けた内容積50mlの4つ口フラスコに、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン(4.9g)、THF(15ml)、水酸化ナトリウム(0.2g)およびイオン交換水(0.2g)を仕込み、撹拌子を投入して、75℃のオイルバスで加熱還流した。還流開始から5時間撹拌を継続して反応を完結させた。その後、常圧下で加熱濃縮し、真空乾燥を行い、4.0gの粘ちょう性液体を得た。
【0067】
[実施例6]
<トリメチルシリル基の導入>
内容積50mlの3つ口フラスコに、上記の粘ちょう性液体(2.6g)、THF(10
g)、トリエチルアミン(1.0g)およびトリメチルクロロシラン(3.3g)を仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながら室温で3時間撹拌した。反応終了後、実施例2の構造確認における場合と同様に処理して、1.3gの粘ちょう性液体を得た。
得られた化合物を、GPCにより分析した。測定を行った結果、粘ちょう性液体は単分散であり、その分子量はポリスチレン換算で重量平均分子量3650、純度100%であることが確認された。この結果と実施例2の結果とから総合的に判断して、分析の対象である粘ちょう性液体は式(13)で示されるケイ素化合物であると推定された。従って、実施例5で得られた化合物は、式(14)で示される構造を有することが示唆される。
【化21】

【0068】
[実施例7]
<化合物(10)およびアリルトリクロロシランを原料としたアリル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
窒素雰囲気下、300ml三口フラスコに化合物(10)(17.2g)、モレキュラーシーブス(4A)によって乾燥したトリエチルアミン(2.30g)および乾燥ジクロロメタン(250ml)を仕込んだ。マグネチックスターラーを用い、室温で攪拌しながら化合物(10)を溶解させた後、氷浴を用いて系内温度を3℃とした。この溶液にアリルトリクロロシラン(3.75g、化合物(10)に対して1.4当量)を速やかに加え、氷浴で1時間攪拌した後、さらに室温にて8時間攪拌した。反応終了後、トリエチルアミン−塩酸塩を濾過により除去した。得られた反応液は、水(300ml)による3回の洗浄を行った後、無水硫酸マグネシウム(15g)にて乾燥した。得られた液体成分はロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、白色の粘ちょう物を得た。ここにメタノール150mlおよびジクロロメタン20mlを加えて、固体成分を析出させた。固体成分を十分析出させた後、濾過によって固−液分離を行った。得られた固体を減圧乾燥(400Pa、55℃)して、白色固体を得た(9.84g、収率57%)。
【0069】
得られた個体のGPC測定を行った結果、単一ピークを確認し、不純物等の存在は確認されなかった。以下に示すIR、1H−NMR、13C−NMRおよび29Si−NMRの結果から得られた固体が式(15)で示される構造を有することがわかった。
IR(KBr法)ν=2950(-CH3)、2926(-CH2-)、1638(C=C)、1448(-CH2-)、1423(CH=CH2)、1375(-CH3)、1214(-CF3)、1110(Si-O-Si)、660(CH=CH2)
1H−NMR(400MHz、TMS標準:δ=0.0ppm):5.77-5.66(m、1H、Si-CH2-CH=CH2)、5.03-4.99(m、2H、Si-CH2-CH=CH2)、2.20-2.08(m、14H、Si-CH2-CH2-CF3)、1.69(d、2H、Si-CH2-CH=CH2)、0.96-0.91(m、14H、Si-CH2-CH2-CF3
13C−NMR(100MHz、TMS標準:δ=0.0ppm): 130.5(Si-CH2-CH=CH2)、126.9(Si-CH2-CH2-CF3)、116.1(Si-CH2-CH=CH2)、27.6(Si-CH2-CH2-CF3)、18.8(Si-CH2-CH=CH2)、3.99(Si-CH2-CH2-CF3
29Si−NMR(79MHz、TMS標準:δ=0.0ppm):-67.46、-67.51、-70.2
【化22】

【0070】
[実施例8]
<化合物(10)およびビニルトリクロロシランを原料としたビニル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
アリルトリクロロシランの代わりにビニルトリクロロシランを用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(16)で示される化合物を得ることができる。
【化23】

【0071】
[実施例9]
<化合物(10)および5−ヘキセニルトリクロロシランを原料とした5−ヘキセニル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
アリルトリクロロシランの代わりに5−ヘキセニルトリクロロシランを用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(17)で示される化合物を得ることができる。
【化24】

【0072】
[実施例10]
<化合物(12)およびアリルトリクロロシランを原料としたアリル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>化合物(10)の代わりに化合物(12)を用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(18)で示される化合物を得ることができる。
【化25】

【0073】
[実施例11]
<化合物(12)およびビニルトリクロロシランを原料としたビニル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>化合物(10)の代わりに化合物(12)を用い、アリルトリクロロシランの代わりにビニルトリクロロシランを用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(19)で示される化合物を得ることができる。
【化26】

【0074】
[実施例12]
<化合物(12)および5−ヘキセニルトリクロロシランを原料とした5−ヘキセニル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(10)の代わりに化合物(12)を用い、アリルトリクロロシランの代わりに5−ヘキセニルトリクロロシランを用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(20)で示される化合物を得ることができる。
【化27】

【0075】
[実施例13]
<化合物(14)およびアリルトリクロロシランを原料としたアリル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(10)の代わりに化合物(14)を用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(21)で示される化合物を得ることができる。
【化28】

【0076】
[実施例14]
<化合物(14)およびビニルトリクロロシランを原料としたビニル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(10)の代わりに化合物(14)を用い、アリルトリクロロシランの代わりにビニルトリクロロシランを用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(22)で示される化合物を得ることができる。
【化29】

【0077】
[実施例15]
<化合物(14)および5−ヘキセニルトリクロロシランを原料とした5−ヘキセニル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(10)の代わりに化合物(14)を用い、アリルトリクロロシランの代わりに5−ヘキセニルトリクロロシランを用いる以外は実施例7と同様の操作を行うことにより、式(23)で示される化合物を得ることができる。
【化30】

【0078】
[実施例16]
<化合物(10)を原料としたシラノール含有ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)シルセスキオキサン化合物の合成>
滴下ロート、還流冷却器、温度計および攪拌子を備えた300mlの4つ口フラスコを氷浴中に設置した。この4つ口フラスコに実施例1で得られた化合物(10)5gを入れ、酢酸ブチル(50g)に溶解させた後、酢酸(0.5g)を滴下した。氷浴のまま1時間撹拌した。室温に戻した後、反応液を脱イオン水(100ml)にて洗浄(3回)した。ロータリーエバポレーターを用いて溶剤を留去し、そのまま減圧乾燥(450Pa、50℃、1時間)を行って、粘ちょう性の液体を得た(4.3g)。得られた化合物のGPC測定を行った結果、単一ピークを示し、不純物等の存在は確認されなかった。さらにIRを用いて解析した結果、化合物(10)では観測されなかったシラノール基の存在を示唆する吸収(3400cm-1付近)を確認した。従って、得られた化合物は式(24)で示される構造を有することが示唆された。
【化31】

【0079】
上記の化合物(24)を化合物(10)に代わって出発原料とし、前記実施例7〜9に記載の方法に準じて、トリエチルアミンの存在下にて反応させることで、化合物(15)〜化合物(17)を誘導することができる。
【0080】
[実施例17]
<3−トリクロロシラニルプロピル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
窒素雰囲気下、還流冷却器、温度計を取り付けた100mlの三口フラスコに、化合物(15)(0.90g)を仕込み、乾燥テトラヒドロフラン(6.0ml)を加え溶解した。水浴を用いて系内温度を20℃程度に保ち、ここにトリクロロシラン(TCS,0.4ml、TCS/化合物(15)モル比=4.2)を一括導入した。これに、Pt触媒/キシレン溶液(25μl,Pt含有量:3wt.-%,Pt/Si−Hモル比=9.8x10-4)を添加した。触媒添加後、水浴をはずし、室温にて2.5時間攪拌した。真空ポンプを用いて、反応液中に残留する未反応のTCSを減圧留去した後、減圧乾燥(400Pa、75℃)し、固体(0.98g,収率:98%)を得た。
【0081】
得られた個体の1H−NMR 測定を行い、原料のシグナルの消失および不純物等の存在は確認されないことから得られた固体が式(25)で示される構造を有することがわかった。1H−NMR(400MHz、TMS標準:δ=0.0ppm): 2.26-2.17(m、14H、Si-CH2-CH2-CF3)、1.81-1.77(m、2H、Si-CH2-CH2-CH2-SiCl3)、1.51(t、2H、Si-CH2-CH2-CH2-SiCl3)、1.05-1.01(m、14H、Si-CH2-CH2-CF3)、0.94(t、2H、Si-CH2-CH2-CH2-SiCl3
【化32】

【0082】
[実施例18]
<2−トリクロロシラニルエチル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(16)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(26)で示される化合物を得ることができる。
【化33】

【0083】
[実施例19]
<6−トリクロロシラニルヘキシル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(17)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(27)で示される化合物を得ることができる。
【化34】

【0084】
[実施例20]
<3−トリクロロシラニルプロピル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(18)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(28)で示される化合物を得ることができる。
【化35】

【0085】
[実施例21]
<2−トリクロロシラニルエチル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(19)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(29)で示される化合物を得ることができる。
【化36】

【0086】
[実施例22]
<6−トリクロロシラニルヘキシル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(20)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(30)で示される化合物を得ることができる。
【化37】

【0087】
[実施例23]
<3−トリクロロシラニルプロピル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(21)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(31)で示される化合物を得ることができる。
【化38】

【0088】
[実施例24]
<2−トリクロロシラニルエチル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(22)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(32)で示される化合物を得ることができる。
【化39】

【0089】
[実施例25]
<6−トリクロロシラニルヘキシル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(15)の代わりに化合物(23)を用いること以外は実施例17と同様の操作を行うことにより、式(33)で示される化合物を得ることができる。
【化40】

【0090】
[実施例26]
<3−トリメトキシシラニルプロピル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
アルゴン雰囲気下、50mlフラスコに化合物(25)(3.36g)を収めた。ここにテトラヒドロフラン(4.0ml)、オルトギ酸トリメチル(TMM、1.55g TMM/化合物(25)モル比=5.5)を加え十分に撹拌した。化合物(25)が溶解したことを確認した後、オイルバスを用いて系内温度を65℃に保ち、4時間撹拌した。吸引濾過により、不溶分を除去した後、系を減圧して低沸分の除去を行った。粘ちょう物を得た。ここにメタノールを加えて一晩静置した後、吸引濾過し、さらに減圧乾燥(200Pa、60℃)を行い、白色固体(2.47g,収率:74%)を得た。
【0091】
以下に示すIR、1H−NMR、13C−NMRおよび29Si−NMRの結果から得られた固体が式(34)で示される構造を有することがわかった。
IR(KBr法) ν=2950(-CH3)、2848(Si-OCH3)、1450(-CH2-)、1377(-CH3)、1272(C-0-C)、1216(-CF3)、1102(Si-0-Si)、1091(Si-OCH3)
1H−NMR(400MHz、TMS標準:δ=0.0ppm): 3.56(s、9H、-Si(OCH3)3)、2.20-2.08(m、14H、Si-CH2-CH2-CF3)、1.59-1.51(m、2H、Si-CH2-CH2-CH2- Si(OCH3)3)、0.96-0.90(m、14H、Si-CH2-CH2-CF3)、0.79(t、2H、Si-CH2-CH2-CH2- Si(OCH3)3)、0.72(t、2H、Si-CH2-CH2-CH2- Si(OCH3)3
13C−NMR(100MHz、TMS標準:δ=0.0ppm): 127.1(Si-CH2-CH2-CF3)、50.4(-Si(OCH3)3)、27.7(Si-CH2-CH2-CF3)、16.4(Si-CH2-CH2-CH2- Si(OCH3)3)、15.1(Si-CH2-CH2-CH2- Si(OCH3)3)、12.8(Si-CH2-CH2-CH2- Si(OCH3)3)、4.04(Si-CH2-CH2-CF3
29Si−NMR(79MHz、TMS標準:δ=0.0ppm):-42.6、-65.9、-67.3、-67.6
【化41】

【0092】
[実施例27]
<2−トリメトキシシラニルエチル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(26)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(35)で示される化合物を得ることができる。
【化42】

【0093】
[実施例28]
<6−トリメトキシシラニルヘキシル−ヘプタキス(3,3,3−トリフルオロプロピル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(27)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(36)で示される化合物を得ることができる。
【化43】

【0094】
[実施例29]
<3−トリメトキシシラニルプロピル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(28)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(37)で示される化合物を得ることができる。
【化44】

【0095】
[実施例30]
<2−トリメトキシシラニルエチル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(29)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(38)で示される化合物を得ることができる。
【化45】

【0096】
[実施例31]
<6−トリメトキシシラニルヘキシル−ヘプタキス(ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(30)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(39)で示される化合物を得ることができる。
【化46】

【0097】
[実施例32]
<3−トリメトキシシラニルプロピル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(31)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(40)で示される化合物を得ることができる。
【化47】

【0098】
[実施例33]
<2−トリメトキシシラニルエチル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(32)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(41)で示される化合物を得ることができる。
【化48】

【0099】
[実施例34]
<6−トリメトキシシラニルヘキシル−ヘプタキス(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)オクタシルセスキオキサンの合成>
化合物(25)の代わりに化合物(33)を用いること以外は実施例26と同様の操作を行うことにより、式(42)で示される化合物を得ることができる。
【化49】

【0100】
[実施例35]
<化合物(34)を用いたガラス表面処理>
実施例26で得られる化合物(34)(0.13g)をイソプロピルアルコール(IPA、1.25g)およびジメチルホルムアミド(DMF、1.25g)の混合溶媒に溶解させ処理液を調整した(サンプル液)。サンプル液に純水(0.13g)を加えスターラーを用いて攪拌した。この溶液をアルカリ水溶液によって前処理したスライドガラスにスピンコーター(3000rpm、20秒 / 協栄セミコンダクター株式会社 SPINNER−1H−III)を用いて塗布した。次いで、ホットプレートを用いて塗布したスライドガラスを100℃で1時間焼成した。このスライドガラスについて、液適法により水およびジヨードメタンとの接触角を測定し、2液法(Kaelble−Uy法)により表面自由エネルギーを算出した。結果を表1に示す。
【0101】
[比較例1]
比較例として、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(TFPr−TMOS、0.13g)をイソプロピルアルコール(IPA、1.25g)およびジメチルホルムアミド(DMF、1.25g)の混合溶媒に溶解させ処理液を調整した(比較液)。比較液に純水(0.13g)を加えスターラーを用いて攪拌した。この溶液をアルカリ水溶液によって前処理したスライドガラスにスピンコーター(3000rpm、20秒 /
協栄セミコンダクター株式会社 SPINNER−1H−III)を用いて塗布した。次いで、ホットプレートを用いて塗布したスライドガラスを100℃で1時間焼成した。このスライドガラスについて、液適法により水およびジヨードメタンとの接触角を測定し、2液法(Kaelble−Uy法)により表面自由エネルギーを算出した。結果を表1に示した。なお、参考値として、未処理のガラス基板についての測定値を記載した。
【0102】
【表1】

【0103】
実施例35と比較例1の結果から、化合物(34)を使用することで、顕著な表面自由エネルギーの低減が確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるケイ素化合物:
【化1】

ここに、Aはアルコキシシリル基を有する基であり;R1は炭素数1〜40のアルキル、アリールおよびアリールアルキルから独立して選択される基であって、いずれも、その少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた基であり;この炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;このアリールアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよい。
【請求項2】
Aが式(2)で示される基である、請求項1に記載のケイ素化合物:
【化2】

ここに、Z1は炭素数2〜10のアルキレンであって、このアルキレンにおける任意の−CH2−は−O−またはフェニレンで置き換えられてもよく;R2は炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルであり;R3は炭素数1〜4のアルキルであり;そして、nは0〜2の整数である。
【請求項3】
請求項1に記載の式(1)におけるR1が炭素数1〜20のフルオロアルキルである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1に記載の式(1)におけるR1が2−フルオロエチル、2,2−ジフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル、パーフルオロ−1H,1H,2H,2H−ドデシルもしくはパーフルオロ−1H,1H,2H,2H−テトラデシルである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の式(1)におけるR1が3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルまたはトリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1に記載の式(1)におけるR1が3,3,3−トリフルオロプロピルまたはノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項7】
1が炭素数2〜8のアルキレンであり;R3がメチル、エチル、プロピルまたは1−メチルエチルであり;そしてnが0または1である、請求項2に記載の化合物。
【請求項8】
1が炭素数2〜4のアルキレンであり;R3がメチルまたはエチルであり;そしてnが0または1である、請求項2に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1に記載の式(1)におけるR1が3,3,3−トリフルオロプロピルであり;式(2)におけるZ1が炭素数2または3のアルキレンであり;R3がメチルであり;そしてnが0である、請求項2に記載の化合物。
【請求項10】
式(3)で示される化合物を原料として用いることを特徴とする式(1−
1)で示されるケイ素化合物の製造方法:
【化3】

ここに、R1は炭素数1〜40のアルキル、アリールおよびアリールアルキルから独立して選択される基であって、いずれも、その少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた基であり;この炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;このアリールアルキルにおいて、任意の−CH2−は−O−、シクロアルキレンまたはフェニレンで置き換えられてもよく;Z1は炭素数2〜10のアルキレンであって、このアルキレンにおける任意の−CH2−は−O−またはフェニレンで置き換えられてもよく;R2は炭素数1〜20のアルキル、炭素数6〜20のアリールまたは炭素数7〜20のアリールアルキルであり;Xはハロゲンであり;R3は炭素数1〜4のアルキルであり;そして、nは0〜2の整数である。
【請求項11】
式(3)で示される化合物に式(4−1)で示される化合物を反応させることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法:
【化4】

ここに、R3は式(1−1)におけるR3と同一の意味を有する。
【請求項12】
式(3)で示される化合物に式(4−2)で示される化合物を反応させることを特徴とする、請求項10に記載の製造方法:
【化5】

ここに、R3は式(1−1)におけるR3と同一の意味を有する。
【請求項13】
請求項10に記載の式(1−1)において、R1が2−フルオロエチル、2,2−ジフルオロエチル、3,3,3−トリフルオロプロピル、ノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシル、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル、パーフルオロ−1H,1H,2H,2H−ドデシル、またはパーフルオロ−1H,1H,2H,2H−テト
ラデシルであり;R3がメチル、エチル、プロピルまたは1−メチルエチルである、請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項10に記載の式(1−1)において、R1が3,3,3−トリフルオロプロピルまたはノナフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロヘキシルであり;R3がメチルまたはエチルであり;そしてnが0または1である、請求項10〜12のいずれか1項に記載のケイ素化合物の製造方法。
【請求項15】
式(4−1)で示される化合物の使用量が、式(3)で示される化合物に対するモル比で1〜5倍量であることを特徴とする、請求項11に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のケイ素化合物を含むシランカップリング剤。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のケイ素化合物を含む固体表面処理剤。

【公開番号】特開2007−15977(P2007−15977A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198893(P2005−198893)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】