説明

コンクリート打設用型枠およびそれを用いたコンクリート打設施工方法

【課題】狭小な空間に配置された場合であっても、コンクリート硬化後に施工場所から容易に除去することのできるコンクリート打設用型枠10、およびその型枠を用いたコンクリート打設施工方法を提供する。
【解決手段】コンクリート打設用型枠10を、板状熱可塑性樹脂発泡体20、20と、その間に挟持される電気ヒータのような発熱体30とで構成する。狭小な空間に型枠10を配置し、現場打ちコンクリートを打設する。コンクリート硬化後に、発熱体30に通電して型枠10を加熱する。加熱により板状熱可塑性樹脂発泡体20は少なくとも厚さ方向の寸法が収縮する。それにより、型枠10と打設コンクリートとの間に隙間ができるので、容易に型枠10を狭小な空間から除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設用型枠およびそれを用いたコンクリート打設施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築の分野では、コンクリート構造物の端面となる箇所にコンクリート打設用型枠を作り、現場打ちしたコンクリートの硬化後、型枠を除去するようにしたコンクリート打設施工方法が広く行われている。型枠用に広い空間が用意されている場合には、型枠の建て込みおよび除去を支障なく行うことができる。しかし、既設の構造物と新たに設置すべきコンクリート構造物との間に10mm〜30mm程度の狭小な空間しか存在しない場合に、型枠として板状熱可塑性樹脂発泡体が用いられることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、地震等により橋梁の上部構造物が橋台より落下するのを防止するためのアンカーボルト施工方法が記載されている。図9はそれを説明しており、橋台1にゴム支承台2を介して橋桁3,3等が載置されている橋梁構造において、橋台1にアンカーボルト4を埋設し、変形可能な充填材5,5を内部に充填したアンカーキャップ6を該充填材5,5の間にアンカーボルト4の突出部が挿入されるようにして取り付け、アンカーキャップ6の周囲に補強筋7を外嵌配置した後、橋桁3、3の間の開口部3aから、コンクリート(橋梁コンクリート)8を打設し、コンクリートの硬化によって橋梁コンクリート8にアンカーキャップ6を埋設固定するようにしている。
【0004】
このような構造物において、ゴム支承台2の機能を殺すことなく、かつ地震等により生じる橋桁の橋軸方向および橋軸直角方向の移動を急速に吸収して落橋を確実に防止するには、現場打ちして形成された橋梁コンクリート8と橋台1とは縁切りされ、かつ、アンカーボルト4の露出部に大きな曲げ応力が作用しないように、両者間の隙間は20mm程度の狭いものであることが必要となる。そのために、特許文献1の方法では、コンクリート打設時の橋梁コンクリート用底型枠として、板状の発泡樹脂型枠9を用い、それを橋台1の上に配置した後、コンクリートを打設するようにしている。
【0005】
橋梁コンクリート8と橋台1とはアンカーボルト4の部分を除き完全に縁切りされていることが最も望ましい。しかし、両者間の隙間は20mm程度と狭く、かつ底型枠として配置した板状の発泡樹脂型枠11は広い面積のものであって、その上に橋梁コンクリート8の荷重が上載荷重として作用していることから、それを完全に除去することは容易でない。事実、特許文献1には発泡樹脂型枠9を型枠として配置するという記載はあるが、その除去(脱型)についての記載はない。
【0006】
発泡樹脂型枠9の除去を行うとすれば、掻き出し棒などを用いて物理的に発泡樹脂板を破壊していくか、例えば特許文献2に記載されるような発泡樹脂溶解剤を使用するなどの方法によらざるを得ない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−3826号公報
【特許文献2】特開平8−281627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
狭小かつ広い箇所に配置された発泡樹脂型枠を物理的に破壊しながら除去することは、不可能ではないとしても、多大の労力を必要とし、現実的ではない。発泡樹脂溶解剤を使用する方法は、施工現場から溶接等の火源をなくすことが難しく、溶剤に引火する危険性がある。また、橋台1と橋梁コンクリート8の間のように狭くかつ広い面積がある場合に、発泡樹脂溶解剤を全面に散布することはできず、側面からの浸透によることとなるが、浸透していく時間等を考えると、やはり現実的な解決策ではない。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、狭小な空間に配置された場合であっても、コンクリート硬化後に施工場所から容易に除去することのできるコンクリート打設用型枠、およびその型枠を用いたコンクリート打設施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるコンクリート打設用型枠は、基本的に、発熱体と板状熱可塑性樹脂発泡体とを少なくとも備え、発熱体からの熱により加熱されることで寸法収縮を起こすことを特徴とする。
【0011】
本発明は、熱可塑性樹脂発泡体は加熱により収縮するという事実に基づいている。型枠として必要とされる厚さのコンクリート打設用型枠を用意し、それを施工現場の所要箇所に配置して、コンクリートを打設する。コンクリートが硬化した時点で、発熱体によって板状熱可塑性樹脂発泡体を加熱する。加熱により板状熱可塑性樹脂発泡体は所要に収縮し、硬化したコンクリートとの間に隙間が生じる。それにより、打設したコンクリートの荷重から解放された状態となり、コンクリートの打設箇所からコンクリート打設用型枠を、引き抜き等により容易に除去することができる。加熱に要する時間は極短い時間(例えば1〜2分程度)であり、除去作業も容易なことから、コンクリート打設施工方法を全体として大幅に省力化することができる。
【0012】
本発明で用いる板状熱可塑性樹脂発泡体の樹脂種は、加熱により収縮することを条件に任意のものを選択して用いることができる。例えば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、等のポリスチレン系樹脂;スチレン改質ポリエチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;等を用いることができる。その中でも、少ない加熱で容易に収縮することから、ポリスチレン系樹脂は好ましい。
【0013】
また、樹脂に混入する物理型発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族酸化水素類;シクロペンタン、シクロブタン等の脂肪族環化水素類;アセトンメチルエチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等;二酸化炭素等を用いることができる。
【0014】
本発明で用いる板状熱可塑性樹脂発泡体の発泡倍率は10倍〜80倍程度が好ましい。10倍よりも低倍率のものは加熱による寸法収縮の程度が小さく、収縮型枠として十分な効果を発揮できない。80倍を超えるものは軽量であって作業性もよく、かつ加熱による寸法収縮の程度は大きいが、耐圧縮性が低く、打設したコンクリートの圧力によって変形し、型枠本来の機能を果たせなくなる恐れがあるので好ましくない。より好ましい発泡倍率は30倍〜60倍程度である。水平型枠として使用する場合には、打設したコンクリートによる上載加重が大きく作用するので、低発泡倍率のものを使用する。垂直型枠として使用する場合には、打設したコンクリートから受ける加重は小さくなるので、より高発泡倍率のものを使用することができる。
【0015】
本発明において、加熱源としての発熱体は任意である。型枠本体である板状熱可塑性樹脂発泡体をほぼ均一に加熱することができ、かつ取り扱いも容易なことから、面状発熱体は特に好ましい。線状ヒータを内蔵した面状発熱体でもよく、PTC面状発熱体でもよい。所要の強度を発熱体に与えるために、線状ヒータをシリコンラバーで覆うようにした面状発熱体は特に好ましい。発熱体として面状発熱体を用いる場合、板状熱可塑性樹脂発泡体は面状発熱体の一方の面にのみが積層されていてもよく、双方の面に積層されていてもよい。型枠に求められる厚さ等を勘案していずれかを選択すればよいが、面状発熱体の破損を防止して再使用を確実にするために、双方の面に板状熱可塑性樹脂発泡体を積層した形態のものが推奨される。
【0016】
面状発熱体の発熱を板状熱可塑性樹脂発泡体に分散して全体を迅速かつ均一に加熱するために、面状発熱体と板状熱可塑性樹脂発泡体との間に、アルミシートのような放熱板をさらに配置することは好ましい。この態様は、加熱源として線状ヒータを用いる場合に、特に推奨される。
【0017】
発熱体として、例えば生石灰のように化学反応により発熱する発熱体を用いることもできる。生石灰を板状熱可塑性樹脂発泡体の中に適量だけ分散させておき、打設したコンクリートが硬化した後に、適宜の手段で板状熱可塑性樹脂発泡体中に給水することにより、板状熱可塑性樹脂発泡体に発熱と収縮を生じさせることができる。この場合、打設したコンクリートに含まれる水分により早期に発熱反応が起こらないように、非透水性シートをコンクリート打設用型枠と打設コンクリートとの間に配置することが必要となる。
【0018】
本発明において、発熱体の発熱量に特に制限はないが、0.15W/cm〜0.8W/cm程度が好ましい。0.15W/cmよりも小さい発熱量の場合には、型枠が所要に寸法収縮するまでに長時間を要すると共に、放熱量と発熱量のバランスがくずれて、所望の収縮が生じる温度まで板状熱可塑性樹脂発泡体が加熱されない場合が起こり得る。0.8W/cmを超える発熱量の場合は、周囲からの放熱量に対して発熱量が大きくなりすぎ、板状熱可塑性樹脂発泡体を発火点温度(例えば、400℃〜450℃)まで上昇させてしまう恐れがある。型枠の使用環境と使用する板状熱可塑性樹脂発泡体の樹脂種や発泡倍率等を考慮して最適の発熱量を持つ発熱体を選択する。
【0019】
本発明によるコンクリート打設用型枠において、その平面視での形状と大きさは任意である。一つのコンクリート打設領域全体を1枚のコンクリート打設用型枠で覆うことのできる形状と大きさのものであってもよく、2枚以上のコンクリート打設用型枠でもってコンクリート打設領域全体を覆うような形状と大きさにされたものであってもよい。後者の方が作業性は良好となるので好ましい。
【0020】
本発明は、さらに、コンクリート打設施工方法として、所要箇所に上記したいずれかのコンクリート打設用型枠を配置した後、コンクリートを打設し、コンクリートの硬化後に型枠を加熱し、加熱により寸法収縮を起こした型枠を施工現場から除去することを特徴とするコンクリート打設用型枠を用いたコンクリート打設施工方法をも開示する。
【0021】
その際に、発熱体と板状熱可塑性樹脂発泡体とが予め一体に組み付けられた型枠を施工現場に持ち込んで、所要箇所に配置するようにしてもよく、発熱体としての部材と板状熱可塑性樹脂発泡体としての部材を個々に施工現場に搬入し、適宜積層しながら配置していくようにしてもよい。また、板状熱可塑性樹脂発泡体の寸法収縮時に、現場打ちしたクリートと型枠との分離が容易かつ確実に起こるように、型枠のコンクリートが打設される面に離型剤を塗布するか離型紙を配置しておくことは好ましい施工態様である。また、現場打ちしたコンクリートの打設圧力や骨材等により板状熱可塑性樹脂発泡体に破損が生じる恐れがある場合等には、それを抑制するために、型枠のコンクリートが打設される面側に剛性を有する表面材、例えば合板を配置しておくことは好ましい施工態様である。
【0022】
本発明による施工方法において、型枠を構成する板状熱可塑性樹脂発泡体の加熱温度範囲は60℃〜200℃であることが好ましい。樹脂種によって多少は異なるが、一般に60℃以下の加熱温度では熱可塑性樹脂発泡体は大きな寸法変化、特に板状の熱可塑性樹脂発泡体場合に、厚さ方向の大きな寸法変化が生じないので好ましくない。一方、200℃を超えると熱可塑性樹脂発泡体に溶解が生じる恐れがある。溶解が生じても、厚さ方向の寸法自体は小さくなっており、型枠の除去という所期の目的は達成可能である。しかし、コスト低減の観点から、特に発熱体として面状発熱体を用いる場合の発熱体の再利用性を考慮すると、熱可塑性樹脂発泡体の溶解によって、発熱体と熱可塑性樹脂発泡体との分離回収が困難となるので好ましくない。より好ましい加熱温度範囲は、80℃〜100℃である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、狭小な空間にコンクリート打設用型枠を配置した場合でも、型枠の除去を容易かつ確実に行うことが可能となる。従って、狭小な空間を挟んで完全な縁切りが必要な2つのコンクリート構造物を構築する場合のコンクリート打設用型枠として、またその施工方法として、本発明はきわめて有効に機能する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1〜図5は本発明によるコンクリート打設用型枠のいくつかの異なった形態を説明する図であり、図6は本発明によるコンクリート打設用型枠を用いたコンクリート打設施工方法を橋梁のアンカーボルトの部分に適用した状態を説明するための図であり、図7はそのアンカーボルト部分を模式的に示す斜視図である。また、図8は実施例での試験状態を説明する図である。
【0025】
本発明によるコンクリート打設用型枠10は、基本的に板状熱可塑性樹脂発泡体20と発熱体30とからなる。図1に示すコンクリート打設用型枠10Aでは、板状熱可塑性樹脂発泡体20は発泡倍率50倍程度のポリスチレン発泡体であり、500mm×500mm×10mm(厚さ)の矩形状ポリスチレン発泡体を2枚用いている。発熱体30は線状ヒータ31を発熱源として内蔵する面状発熱体であり、基材32としてシリコンラバーが用いられている。発熱体30の平面視での大きさは板状熱可塑性樹脂発泡体20と同じである。発熱体30には線状ヒータ31に給電するための電源線33が接続している。発熱体30と板状熱可塑性樹脂発泡体20との間には0.5m〜1.0mm程度の厚さのアルミシート等である放熱板40が挟持されている。発熱体30の発熱量は0.6W/cm程度である。
【0026】
板状熱可塑性樹脂発泡体20と発熱体30と放熱板40とは、工場において接着剤等を用いて一体化されていてもよく、それぞれの部材を個々に施工現場に持ち込んで、現場でコンクリート打設用型枠10となるように適宜積層するようにしてもよい。
【0027】
図2に示すコンクリート打設用型枠10Bは、放熱板40を挟持していない点で、図1に示したものと相違する。線状ヒータ31の配置状態によっては、放熱板40がなくてもコンクリート打設用型枠10の全体をほぼ均一に加熱することが可能であり、放熱板40がなくても十分に実用に供しうる。
【0028】
図3に示すコンクリート打設用型枠10Cは、一部に半円状の切り欠き部11を有している点で、上記したものと相違する。このような切り欠き11は、施工現場に突起物等が存在する場合に、その突起物を回避するために形成される。この例では1個の半円形の切り欠き11のみを有しているが、施工現場に応じて適宜の数あるいは形状の切り欠き11を形成する。
【0029】
図4に示すコンクリート打設用型枠10Dは、発熱体30の一方の面にのみ板状熱可塑性樹脂発泡体20が積層されている点で、上記のものと相違する。また、図5に示すコンクリート打設用型枠10Eは、発熱体30の寸法が板状熱可塑性樹脂発泡体20よりも小さく、発熱体30の端縁が露出していない点で、上記のものと相違する。
【0030】
図1〜図5に示したいずれのコンクリート打設用型枠10(10A〜10E)においても、発熱体30に通電することにより、板状熱可塑性樹脂発泡体20は所望の温度にまで加熱される。その加熱により板状熱可塑性樹脂発泡体20は、特にその厚さ方向に寸法収縮を起こし、全体の厚さが薄くなる。そのために、狭小な空間部に本発明によるコンクリート打設用型枠10を配置した状態でコンクリートを打設しても、コンクリート硬化後に発熱体30に通電することにより、板状熱可塑性樹脂発泡体20の厚さが薄くなった分だけ型枠10と硬化したコンクリートとの間に隙間が形成される。そのために、型枠10は荷重から解放され、狭小な空間部から容易に引き抜く等によって除去することができる。除去したコンクリート打設用型枠10はそのままで再使用に供することもできる。
【0031】
上記のコンクリート打設用型枠10を用いる施工の一例を、図6,図7に基づき説明する。この施工例は橋梁部に落橋防止手段としてアンカーボルトを施工する場合の例であり、本発明によるコンクリート打設用型枠10を用いる点を除き、他の施工手順は、図9に基づき説明した従来の落橋防止用のアンカーボルトを施工する方法と同じである。
【0032】
すなわち、橋台1にはゴム支承台2を介して橋桁3,3等が載置され、橋台1には、従来法と同様にして落橋防止手段としてのアンカーボルト4が立設されている。アンカーボルト4の突出部には、好ましくは変形可能な充填材5を内部に持つアンカーキャップ6が取り付けられ、アンカーキャップ6の周囲に補強筋7を配置した後、橋桁3、3の間の開口部3aから橋梁コンクリート8のためのコンクリートが打設される。
【0033】
コンクリートの打設に先立ち、橋梁コンクリート8のための型枠を設置する。周囲型枠には、スペース的にも余裕があるので木製型枠が用いられる。また、橋台1の上には、図7に模式的に示すように、上記した本発明によるコンクリート打設用型枠10が、底型枠として配置される。なお、図7では、変形可能な充填材5とアンカーキャップ6は図示していない。
【0034】
図示の例において、アンカーボルト4が突起物として存在する場所には、図3に示した切り欠き部11を有する2枚のコンクリート打設用型枠10Cが、その切り欠き部11内にアンカーボルト4を収容するようにして、対向配置されている。他の場所には、図2に示すコンクリート打設用型枠10Bが配置されている。
【0035】
このようにして、周囲型枠および底型枠を配置した後、コンクリートを打設する。コンクリートが硬化した後、周囲の木製型枠は従来のようにして取り外す。底型枠である本発明によるコンクリート打設用型枠10B,Cについては、コンクリート硬化後に通電する。それにより、面状発熱体30は発熱し、板状熱可塑性樹脂発泡体20を好ましくは80℃〜100℃にまで加熱する。加熱されることにより、板状熱可塑性樹脂発泡体20には少なくとも厚さ方向の寸法収縮が起こり、橋梁コンクリート8の荷重から解放される。その状態では、すべてのコンクリート打設用型枠10B,Cは容易に除去することが可能となる。型枠の除去後に、橋台1と橋梁コンクリート8との間には、20mm程度の隙間が形成される。
【0036】
本発明によるコンクリート打設用型枠10の使用形態は、上記の実施形態に限られない。狭小な箇所に型枠を配置し、かつ打設したコンクリートの硬化後に配置した型枠を除去して、そこに狭小な空間を確保することが必要とされるような、いずれの施工箇所においても有効に用いることができる。例えば建築の分野では、エキスパンションジョイントを間に配置することが必要とされる2つのコンクリート構造物を隣接して構築するときに、エキスパンションジョイント用の空間を確保するための型枠として本発明によるコンクリート打設用型枠10を効果的に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明によるコンクリート打設用型枠が加熱によって変化する状況を実施例により説明する。
【0038】
[実施例1]
図8aに示すように、発泡倍率50倍のポリスチレン(EPS)発泡体から、300mm×300mm×10mm(厚さ)の2枚の板状ポリスチレン発泡体20,20を作り、それで厚さ2mmの面状発熱体30の両面を挟持して、全体の厚さが22mmの実施例用の型枠10を作った。なお、発熱体30は線状ヒータ31を備えるシリコンラバーヒータ(株式会社八光電気製作所製:型番SBH2177)であり、寸法は300mm×300mm×2mm(厚さ)、発熱量は0.6W/cmである。
【0039】
温度測定のために、発熱体30の中央部の上面と下面、および、上板状ポリスチレン発泡体20aの上面中央部および下板状ポリスチレン発泡体20bの下面中央部に熱電対(図示されない)を取り付けた。図8aに示すように、その状態の型枠10を、左右に配置した高さ20mmの荷重支持棒15,15の間に置いた。図8bに示すように、その上に載荷板16を置き、載荷板16の上に荷重としてコンクリート板17を置いたところ、型枠10は荷重により2mm分だけ押し潰された状態となり、左右の荷重支持棒15,15の間から引き抜きにより除去することはできなかった。
【0040】
シリコンラバーヒータ30に通電して上下の板状ポリスチレン発泡体20a,20bを加熱した。加熱後、1分、2分、3分経過時点での、発熱体30および板状ポリスチレン発泡体20の温度と、各板状ポリスチレン発泡体20の厚さを測定した。板状ポリスチレン発泡体20の厚さを両側縁部で測定しその平均値も算出した。その結果を表1に示す。
【0041】
また、型枠10全体の厚さHの変化を、H=平均板状ポリスチレン発泡体厚さ×2+発熱体30の厚さ、として、さらに、載置板16と型枠10との間に生じた隙間Sを、S=荷重支持棒15の高さ20mm−型枠10の厚さH、として表2に示した。
【0042】
なお、この実施例において、荷重であるコンクリート板17は、実際の施工での現場打ちするコンクリートと仮定することができる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1、表2に示すように、発熱体の発熱により板状ポリスチレン(EPS)発泡体は次第に加熱されていき、加熱と共にその厚さが減少し、実施例用の型枠10の全体の厚さが減少していくのがわかる。
【0046】
[実施例2]
実施例1と同じようにして型枠10を作り、同じようにして左右に配置した荷重支持棒15,15の間に置き、その上に載荷板16を置き、加重17をかけた。型枠10にフックを掛け、2kgの大きさ力を常時引き抜き方向に作用させた。その状態で、通電を開始し、型枠10が荷重支持棒15,15の間から引き抜かれるまでの時間を測定した。また、引き抜かれたときの型枠10の厚さを測定した。その結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表3に示すように、通電開始前は引き抜けなかったものが、1分36秒という短い時間経過後には、荷重支持棒15,15の間から型枠10を引き抜くことができた。このことは、狭小な空間に本発明によるコンクリート打設用型枠10を配置し、その上からコンクリートを打設した場合でも、コンクリート硬化後に、型枠を容易に引き抜くことができることを示しており、本発明の有効性が立証される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明によるコンクリート打設用型枠の一形態を示す斜視図。
【図2】本発明によるコンクリート打設用型枠の他の形態を示す斜視図。
【図3】本発明によるコンクリート打設用型枠のさらに他の形態を示す斜視図。
【図4】本発明によるコンクリート打設用型枠のさらに他の形態を示す斜視図。
【図5】本発明によるコンクリート打設用型枠のさらに他の形態を示す斜視図。
【図6】本発明によるコンクリート打設用型枠を用いたコンクリート打設施工方法を橋梁のアンカーボルトの部分に適用した状態を説明するための図。
【図7】図6に示す橋梁でのアンカーボルト部分を模式的に示す斜視図。
【図8】実施例での試験状態を説明する図。
【図9】アンカーボルトを有する橋梁の従来の施工態様を説明するための図。
【符号の説明】
【0050】
1…橋台、2…ゴム支承台、3…橋桁、4…アンカーボルト、5…充填材、6…アンカーキャップ、7…補強筋、8…橋梁コンクリート、10(10A〜10E)…本発明によるコンクリート打設用型枠、11…型枠に形成した切り欠き部、20…板状熱可塑性樹脂発泡体、30…発熱体、31…線状ヒータ、33…電源線、40…放熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と板状熱可塑性樹脂発泡体とを少なくとも備え、発熱体からの熱により加熱されることで寸法収縮を起こすことを特徴とするコンクリート打設用型枠。
【請求項2】
発熱体が面状発熱体であり、板状熱可塑性樹脂発泡体は面状発熱体の一方または双方の面に積層されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート打設用型枠。
【請求項3】
面状発熱体の発熱を板状熱可塑性樹脂発泡体に分散するための放熱板をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のコンクリート打設用型枠。
【請求項4】
板状熱可塑性樹脂発泡体は板状ポリスチレン発泡体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート打設用型枠。
【請求項5】
所要箇所に請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート打設用型枠を配置した後、コンクリートを打設し、コンクリートの硬化後に型枠を加熱し、加熱により寸法収縮を起こした型枠を施工現場から除去することを特徴とするコンクリート打設用型枠を用いたコンクリート打設施工方法。
【請求項6】
型枠を構成する板状熱可塑性樹脂発泡体の加熱を60℃〜200℃の範囲で行うことを特徴とする請求項5に記載のコンクリート打設用型枠を用いたコンクリート打設施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−177477(P2007−177477A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375962(P2005−375962)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【出願人】(391010183)極東工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】