説明

コンタクト及びそれを用いたコネクタ、並びにコンタクトの製造方法

【課題】充分な耐摩耗性及び高潤滑性を持つ品質高いコンタクトを提供する。
【解決手段】酸化処理を施してから表面に凹部を形成した上で潤滑剤を塗布した実施例1の試料(基材を加熱により酸化処理して酸化物層が形成されたものを所定の水素イオン濃度に調整された酸性フッ化アンモニウム溶液に浸して表面に微小な複数の凹部の核を形成した後、基材の表面に下地用金属及び凹部,接触用金属のメッキ層を形成してから潤滑剤を塗布して各凹部内に滞留保持させたコンタクト)では、摺動回数が2万回であっても低い動摩擦係数を維持しており、安定した潤滑効果が発揮されるが、酸化処理を施さずに潤滑剤を塗布していない比較例1の試料では動摩擦係数が摺動後にすぐに急上昇し、比較例2のように潤滑剤が塗布された試料でも酸化処理を施さずに表面に凹部を持たない場合には摺動回数が7千回を超えると動摩擦係数が上昇して潤滑効果を示さなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として微小な凹部を有する電気接点部材としてのコンタクト及びそれを用いたコネクタ、並びにコンタクトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コネクタ用コンタクトは、銅や銅合金を基材に使用し、下地用金属としてニッケルメッキ又はニッケル合金メッキ、接触用金属として金又は金合金メッキ、或いはスズメッキ又はスズ合金メッキがメッキ層として施されていることが多く、コネクタを多数回挿抜(抜き差し)するような場合、更に接触用金属のメッキ層上にオイル,ワックス,グリース等の潤滑層を設けることによって、コンタクトの摺動による接触部の表面の摩擦摩耗を防止している。このような潤滑層は、接触用金属のメッキ層を施した後に潤滑剤を溶かした溶液中に基材を浸漬して形成されるか、或いはスプレー,刷毛塗り等により表面に塗布形成されることが普通である。
【0003】
コネクタ用コンタクトの接触部に塗布される潤滑剤は、多数回の嵌合・離脱が行われる長期間に及ぶ使用においても安定した潤滑効果を示し、接触抵抗が不安定になることや接点表面が摩耗されるのを防止できることを主な目的として用いられている。特にICカード用やメモリカード用のコネクタ等では、1万回以上のカードの挿抜(挿入,抜去)後もコンタクトの接触部(接点)表面が摩耗されることなく、安定した低接触抵抗を維持することが要求されている。
【0004】
従来、潤滑剤をコンタクトの表面に塗布する場合、可能な限り潤滑剤が表面に多く残るように塗布量を多くするように工夫されているが、実際には潤滑層の厚さを厚くするとコンタクト以外の部分への付着や汚染が発生したり、電気接点での皮膜抵抗が増大して接触抵抗が高くなる等の不安定性が生じるために表面に厚く塗布するには限界があって結局塗布量を充分に多くすることができないという問題がある他、潤滑剤には流動性があるためにコネクタの嵌合・離脱の状態で長期間保持すること(長期間コネクタを使用すること)により接触部の表面(接点表面)から潤滑層が徐々に流失してしまうという問題や、或いはICカード用コネクタに適用する場合のように1万回以上に及ぶ多数回の挿抜を繰り返すことにより接触部の表面(接点表面)から潤滑層が徐々に拭い去られて消失して潤滑効果の減少・劣化が生じることにより実用に耐えられなくなってしまうという問題があるため、上述したような多数回の挿抜使用には耐えられないのが実態となっている。
【0005】
そこで、このような問題を解消するため、電気接点部材としてのコンタクトに対して潤滑油を用いて耐摩耗性や高潤滑性を持たせる技術として、マイクロカプセルを利用した方法(特許文献1,2参照)や、表面に凹み部を設ける方法(特許文献3参照)が知られている。
【0006】
例えば特許文献1に係る耐摩耗性および摺動性にすぐれた複合めっき金属材料、およびその製造方法の場合、潤滑油を内包したマイクロカプセルをめっき皮膜に分散させ、それが破壊されたときにしみ出す潤滑油により潤滑効果が発揮されるもので、特許文献2に係るコネクタの場合、有機溶媒に不溶の高分子被膜に覆われた潤滑油を利用して相手側コンタクトの接触により高分子被膜が破れることにより、コネクタ接点の耐挿抜性を向上させ得るものとなっている。又、特許文献3に係る摺動部材用硬質皮膜の形成方法の場合、基材上に形成した離脱物質を含む硬質皮膜から離脱物質を離脱させ、硬質皮膜表面に微細な凹部を形成することにより、効率良く潤滑油保持用ピットを有する硬質皮膜を形成できるものとなっている。
【0007】
【特許文献1】特開平6−330392号公報(要約、図2、段落[0023])
【特許文献2】特開平5−266938号公報(要約、図1)
【特許文献3】特開平6−57414号公報(要約、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した電気接点部材に対して潤滑油を用いて耐摩耗性や高潤滑性を持たせるための特許文献1〜特許文献3に係る周知技術の場合、何れも実際には充分な耐摩耗性や高潤滑性を持った品質高い製品を作業性及び生産性良く簡便に製造することが困難となっている。
【0009】
即ち、特許文献1に係る技術の場合、マイクロカプセルの調製やメッキ処理液中にマイクロカプセルを分散させるためにメッキ処理液を改良する必要があり、それらの作業が煩雑である上、周知の場合よりも使用する薬品種数が増えることにより、製造に際しての作業性及び生産性が優れないばかりでなく安全性の面で周知のメッキ工程よりも劣るという問題がある他、マイクロカプセル自体が潤滑油を含む非常に柔らかいものであり、金属に複合メッキした場合の皮膜の硬度は複合メッキしない場合と比べて柔らかくなることにより、表面硬度の低下が生じて耐摩耗性が低下してしまうという問題もある。
【0010】
又、特許文献2に係る技術の場合、特許文献1の場合と同様にマイクロカプセルの調製が必要であって、しかもその材質を選定しなければならず、実施に相当な時間がかかると共に、調製や材質の選定の煩雑であることにより、製造に際しての作業性及び生産性と安全性とが優れないという問題がある。
【0011】
更に、特許文献3に係る技術の場合、メッキ工程前の離脱物質を表面塗布する工程と、メッキ工程後のその離脱物質を離脱させる工程とを要するため、工程が増えて手間がかかることにより、製造に際しての作業性及び生産性が優れないという問題がある。
【0012】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、充分な耐摩耗性並びに高潤滑性を持つ品質高いコンタクト及びそれを適用したコネクタ、並びに周知のメッキ装置やメッキ処理液をそのまま使用できて品質高い製品を作業性及び生産性良く安全にして簡便に製造し得るコンタクトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、相手側電気接触部材との接続に供される接触部を備えた所定形状のコンタクトにおいて、少なくとも接触部を含む一部分又は全体の表面には微小な複数の凹部が形成され、複数の凹部には流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質が滞留保持されたコンタクトが得られる。
【0014】
又、本発明によれば、上記コンタクトにおいて、複数の凹部は、直径が10μm〜100μmの範囲にあり、固体潤滑性微粒子の粒径は1μm以下であるコンタクトが得られる。
【0015】
更に、本発明によれば、上記コンタクトにおいて、潤滑剤は、パラフィン系,オレフィン系,エステル系,エーテル系のオイル,ワックス,グリースの一つ以上を含むものであり、固体潤滑性微粒子は、二硫化モリブデン,PTFE,フッ化グラファイトの一つ以上を含むものであるコンタクトが得られる。
【0016】
加えて、本発明によれば、上記何れか一つのコンタクトにおいて、少なくともスズを含む銅合金材を基材とすると共に、該基材における少なくとも接触部を含む表面に対して下地用金属,及び接触用金属が被覆されて成り、且つ該接触用金属における該接触部を含む表面上に複数の凹部が形成されたコンタクトが得られる。
【0017】
一方、本発明によれば、上記何れか一つのコンタクトの所定数のものをインシュレータ又はハウジングに列設して保持固定して成るコネクタが得られる。
【0018】
他方、本発明によれば、相手側電気接触部材との接続に供される接触部を備えた所定形状のコンタクト材となる少なくともスズを含む銅合金の基材を加熱して酸化処理することで少なくとも該接触部を含む表面に対して酸化物層を形成する酸化処理工程と、基材を水素イオン濃度pHが所定の範囲となるように調整したフッ素化合物溶液に浸すことにより、少なくとも接触部を含む表面に対して酸化物層との化学反応により複数の凹部の核を形成する凹部核形成工程と、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して下地用金属を電解メッキすることにより、少なくとも凹部核形成工程で形成された複数の凹部の核を含む箇所に対してメッキ皮膜の析出に伴って発生する水素ガスの滞留に起因する気泡の生成により微小な複数の凹部を直径が10μm〜100μmの範囲となるように形成する下地用金属及び凹部形成工程と、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して接触用金属を電解メッキ又は無電解メッキすることにより、少なくとも下地用金属及び凹部形成工程で形成された複数の凹部を含む箇所に対してメッキ皮膜により接触のための金属を形成する接触用金属形成工程と、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質を塗布又は浸すことにより、少なくとも接触用金属形成工程で形成された複数の凹部内に該潤滑物質を滞留保持させてコンタクトを得る潤滑物質滞留工程とを有するコンタクトの製造方法が得られる。
【0019】
又、本発明によれば、上記コンタクトの製造方法において、凹部核形成工程では、水素イオン濃度pHにあっての所定の範囲を2〜5の範囲とすると共に、フッ素化合物溶液としてフッ化水素酸,酸性フッ化アンモニウム,酸性フッ化カリウム,フッ化ナトリウムのうちの少なくとも一種以上を含んだものを用い、下地用金属及び凹部形成工程では、下地用金属としてニッケルメッキ又はニッケル合金メッキを用い、接触用金属形成工程では、接触用金属として金メッキ又は金合金メッキ、或いはスズメッキ又はスズ合金メッキを用いるコンタクトの製造方法が得られる。
【0020】
更に、本発明によれば、上記何れかのコンタクトの製造方法において、潤滑物質滞留工程では、潤滑剤としてパラフィン系,オレフィン系,エステル系,エーテル系のオイル,ワックス,グリースの一つ以上を含むものを用いると共に、固体潤滑性微粒子として粒径1μm以下の二硫化モリブデン,PTFE,フッ化グラファイトの一つ以上を含むものを用いるコンタクトの製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のコンタクトの場合、少なくとも接触部を含む一部分又は全体の表面に微小な複数の凹部を形成し、これらの凹部に流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,或いは固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質を滞留保持させることを基本とした上、凹部については、直径が10μm〜100μmの範囲にあり、固体潤滑性微粒子の粒径については、凹部内に滞留保持され易く、且つ潤滑剤に分散され易くなるように、1μm以下であるように規定しているので、多数回の嵌合・離脱の使用においても安定した接触状態が保たれ、充分な耐摩耗性並びに高潤滑性を持つ品質高い製品が得られるようになる。この結果、係るコンタクトの所定数のものをインシュレータ又はハウジングに列設して保持固定することにより、同様に充分な耐摩耗性や高潤滑性を持つ品質高いコネクタが得られるようになる。又、本発明のコンタクトの製造方法の場合、最初に酸化処理工程において、所定形状のコンタクト材となるスズを含んだ銅合金の基材を加熱して酸化処理することで表面に対して酸化物層を形成し、引き続く凹部核形成工程において、基材を水素イオン濃度pHが所定の範囲となるように調整したフッ素化合物溶液に浸して酸化物層との化学反応により複数の凹部の核を形成し、更に下地用金属及び凹部形成工程において、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して下地用金属を電解メッキしてメッキ皮膜の析出に伴って発生する水素ガスの滞留に起因する気泡の生成により微小な複数の凹部を直径が上述した10μm〜100μmの範囲となるように形成した後、接触用金属形成工程において、基材における表面に対して接触用金属をメッキ皮膜により形成した上、最後の潤滑物質滞留工程において、基材における表面に対して流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,或いは固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質を塗布又は浸して各凹部内に潤滑物質を滞留保持させてコンタクトを得るようにしているので、こうした各工程を経て得られるコンタクトは、少なくともスズを含む銅合金材を基材とすると共に、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して下地用金属,及び接触用金属が被覆されて成り、且つ接触用金属における接触部を含む表面上に各凹部が形成される基本構造を持つようになり、又潤滑物質滞留工程では、潤滑剤としてパラフィン系,オレフィン系,エステル系,エーテル系のオイル,ワックス,グリースの一つ以上を含むものを用いると共に、固体潤滑性微粒子として粒径1μm以下の二硫化モリブデン,PTFE,フッ化グラファイトの一つ以上を含むものを用いるために特別な薬品や設備を要することなく、周知のメッキ装置や処理液をそのまま使用できて上述した品質高い製品(コンタクト)を作業性及び生産性良く安全にして簡便に製造し得るようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の最良の形態に係るコンタクトは、相手側電気接触部材との接続に供される接触部を備えた所定形状のものにおいて、少なくとも接触部を含む一部分又は全体の表面には微小な複数の凹部が形成され、各凹部には流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質が滞留保持されたものである。但し、ここでの複数の凹部は、直径が10μm〜100μmの範囲にあり、固体潤滑性微粒子の粒径は凹部の大きさと潤滑剤中に含有される場合の分散性とを考慮して1μm以下であるようにすることが好ましい。ここで使用する潤滑剤は、パラフィン系,オレフィン系,エステル系,エーテル系のオイル,ワックス,グリースの一つ以上を含むものとし、固体潤滑性微粒子は、二硫化モリブデン,PTFE,フッ化グラファイトの一つ以上を含むものとすることが好ましい。係るコンタクトの基本構造は、周知構造の場合と同様に、少なくともスズを含む銅合金材を基材とすると共に、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して下地用金属,及び接触用金属が被覆されて成るものとした上、接触用金属における接触部を含む表面上に各凹部が形成されたものであることが好ましい。
【0023】
即ち、本発明は、コネクタ用コンタクトの接触部の表面に形成した微小な凹部に対して周知の流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,或いは固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質を滞留保持させることにより、繰り返しの挿抜使用条件下にあっても長期的に安定した接触が得られることを見い出したものである。安定した潤滑効果は、微小な凹部に蓄えられた潤滑剤が長期間に及んで保持され、しかも嵌合・離脱時においては接点部分に連続的に供給されて消失を防ぐことにより長期間使用が実現され、固体潤滑性微粒子が凹部に滞留保持された状態では金属同士の直接的な接触を避けて摩擦・摩耗が防止されるために潤滑効果が発現される。従って、係るコンタクトは、少なくとも接触部の表面に形成された各凹部内に潤滑物質が安定して滞留保持されたものであるため、多数回の嵌合・離脱の使用においても安定した接触状態が保たれ、充分な耐摩耗性並びに高潤滑性を持つ品質高い製品となる。
【0024】
本発明のコンタクトの場合、従来から使用されている潤滑剤や固体潤滑性微粒子を使用した上、多数回(1000回〜20000回)の嵌合・離脱を行った使用条件下にあっても、安定した接触状態を保つことができる。因みに、このようなコンタクトは、所定数のものがインシュレータ又はハウジングに列設して保持固定されることにより、コネクタとして構成されるが、係るコネクタにおいても同様に充分な耐摩耗性並びに高潤滑性を持つ品質高いものとなる。
【0025】
図1は、本発明の最良の実施の形態に係るコネクタ用コンタクトにおける表面に形成された微小な凹部を含む組織の電子顕微鏡(SEM)写真(150倍拡大した二次電子像)を示したものである。
【0026】
図1では、コンタクトにおける接触部の表面(接点表面)に微小な凹部が形成された様子を150倍の二次電子像により示している。尚、ここで形成される凹部の直径は概ね10μm〜100μmの範囲内であり、その深さは下地用金属のニッケルメッキ層の厚さに依存した形状を成す。これらの凹部内には流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質が滞留保持されるが、これによって長期間に及んで安定した潤滑効果を示すようになる。
【0027】
因みに、凹部内に潤滑物質を滞留保持させることにより潤滑効果を長く維持できる理由は、以下に示すように考えられる。
【0028】
即ち、流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質を少なくとも接触部を含む一部分又は全体の表面(接点表面)に従来通りに塗布することにより、接点表面に潤滑層が形成されるだけでなく、微小な凹部には余分な潤滑物質が蓄えられ、コンタクトの摺動初期には接点表面の潤滑層により潤滑効果が発揮される。摺動回数の増加に伴って摺動部分では潤滑層が薄くなり始めるが、微小な凹部を多数設けて潤滑剤を多く蓄え、潤滑効果を長期間維持できるようにしておけば、凹部に蓄えられた潤滑剤が新たに供給されるため、摺動部分から潤滑剤が消失することが無くなる。尚、ここで使用する潤滑物質は、上述したような一般に使用されている物質を使用することができる。
【0029】
又、潤滑物質として、特に固体潤滑性微粒子を分散させた潤滑剤を接触部の表面に塗布すると、固体潤滑性微粒子が凹部に保持されて金属同士の直接的な接触を防いで摺動部分の摩擦摩耗を抑制する。この固体潤滑性微粒子は凹部に保持されると接点表面から消失することがないため、長期に及んで安定した潤滑効果が得られる。固体潤滑性微粒子の大きさは、微小な凹部の大きさと潤滑剤への分散性とを考慮し、上述したように凹部の直径10μm〜100μmの範囲に対して直径を1μm以下とするのが望ましい。尚、ここで使用する固体潤滑性微粒子は、上述したような周知のものを使用することができる。
【0030】
以下は、コンタクトの基材として、少なくともスズを含む銅合金材を使用するものとして、接触部の表面に対する微小な凹部を形成する工程を含むコンタクトの製造方法を説明する。
【0031】
コンタクトの製造に先立ち、所定形状の基材の表面からプレス油や人の皮脂等の有機物による汚れを周知の脱脂処理により完全に取り除いておく。
【0032】
そこで、先ず100℃から200℃の温度範囲で基材を加熱して酸化処理することにより少なくとも接触部を含む表面に対して酸化物層を形成する酸化処理工程を実施する。この酸化物層には銅及びスズの化合物が含まれている。加熱の温度範囲として、100℃以下の温度で加熱すると酸化物層の形成に時間がかかり過ぎるために実用的ではなく、又200℃以上の温度ではすぐに厚い強固な酸化物層が形成されて正常なメッキ皮膜の生成を阻害するために好ましくない。従って、100℃から200℃の温度範囲で加熱することが好ましい。因みに、加熱の所用時間は加熱温度に依存するもので、例えば120℃では10時間程度、140℃では1時間程度とするのが適当である。
【0033】
次に、基材を水素イオン濃度pHが2〜5の範囲となるように調整したフッ化水素酸,酸性フッ化アンモニウム,酸性フッ化カリウム,フッ化ナトリウムのうちの少なくとも一種以上を含んだフッ素化合物溶液に浸すことにより、少なくとも接触部を含む表面に対して酸化物層との化学反応により複数の凹部の核を形成する凹部核形成工程を実施する。ここでの水素イオン濃度pHの領域におけるフッ素化合物溶液に基材を浸すと、銅系酸化物は溶解するが、スズ系酸化物は不溶解性の生成物として表面に残留(スズ系酸化物はフッ素化合物溶液により溶解と同時にフッ素イオンとの化学反応により化合物を形成するものと理解される)し、残留物部分に凹部の核が形成される。又、スズ系酸化物以外の酸化物はフッ素イオンと錯体とを形成して溶液中に溶解する。ここで水素イオン濃度pHが2より低いとスズ系酸化物に起因する不溶解性生成物が溶液中に溶解して核ができなくなり、水素イオン濃度pHが5よりも高いとスズ以外の酸化物の溶解が阻害されて引き続く下地用金属及び凹部形成工程でメッキ処理したときにメッキ皮膜の密着性に問題が生じるため、何れも好ましくない。従って、水素イオン濃度pHは2〜5の範囲とするのが好ましい。因みに、基材をフッ素化合物溶液に浸す処理は室温でも可能であるが、スズ系酸化物以外の酸化物の溶解反応が遅いために50℃程度の温度条件下で行う方が良い。
【0034】
引き続き、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して下地用金属としてのニッケルメッキ又はニッケル合金メッキを電気メッキすることにより、少なくとも先の凹部核形成工程で形成された各凹部の核を含む箇所に対してメッキ皮膜の析出に伴って発生する水素ガスの滞留に起因する気泡の生成により微小な複数の凹部を直径が10μm〜100μmの範囲となるように形成する下地用金属及び凹部形成工程を実施する。ここでは、ニッケルメッキ又はニッケル合金メッキの電気メッキにより接触部を含む表面に微小な凹部が形成されるが、これは上述したスズ系酸化物とフッ素イオンとの反応により生成された微小の不溶解性生成物部分にメッキ皮膜の析出と共に発生する水素ガスが滞留することに起因している。即ち、ニッケルメッキ又はニッケル合金メッキを電気メッキしたメッキ皮膜の析出により接触部を含む表面にはニッケルメッキ層が形成されるが、メッキ皮膜の析出に伴って発生する水素ガスが不溶解性生成物部分を核として滞留し、微小な気泡を生成する。この気泡部分にはニッケルメッキ層が生成されずに凹部が形成されることになる。但し、凹部の深さはニッケルメッキ層の厚さに依存し、ニッケルメッキ層の厚さは0.5μm以上を必要とするもので、これ以下の厚さでは凹部が殆ど形成されない。
【0035】
更に、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して接触用金属としての金メッキ又は金合金メッキ、或いはスズメッキ又はスズ合金メッキを電解メッキ又は無電解メッキすることにより、少なくとも先の下地用金属及び凹部形成工程で形成された各凹部を含む箇所に対してメッキ皮膜により接触のための金属を形成する接触用金属形成工程を実施する。ここでは、凹部が形成されたニッケルメッキ層に対して金メッキ又は金合金メッキの何れか、或いはスズメッキ又はスズ合金メッキの何れかの接触用金属を電解メッキ又は無電解メッキにより更に形成するが、この場合、ニッケルメッキ層の凹部の底に極めて薄いメッキが被覆されて凹部が保護される。尚、接触用金属形成工程に先立ち、下地用金属及び凹部形成工程を再度繰り返してメッキ皮膜することにより薄いニッケルメッキ層を加えるようにして凹部の保護を強化することも可能である。
【0036】
最後に、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質を塗布又は浸すことにより、少なくとも接触用金属形成工程で形成された各凹部内に潤滑物質を滞留保持させてコンタクトを得る潤滑物質滞留工程を実施する。但し、ここでは潤滑剤としてパラフィン系,オレフィン系,エステル系,エーテル系のオイル,ワックス,グリースの一つ以上を含むものを用いると共に、潤滑剤中に分散され易い固体潤滑性微粒子として粒径1μm以下の二硫化モリブデン,PTFE,フッ化グラファイトの一つ以上を含むものを用いる。
【0037】
これらの各工程を経て得られるコンタクトにおいては、微小な凹部の数が多い程、潤滑剤を多く滞溜保持できると共に、多くの固体潤滑性微粒子も滞溜保持できるため、より長い期間に及んで潤滑効果を発揮することができる。上述した各工程において、凹部の数は以下に説明する幾つかの手法により増加させることができる。
【0038】
即ち、上述した凹部核形成工程で使用するフッ素化合物溶液におけるフッ素化合物濃度を高めることが挙げられる。フッ素化合物濃度が高ければスズ系酸化物と反応するフッ素イオン量が増加し、不溶解性生成物の生成量が増加するために凹部の形成数が増加する。又、基材をフッ素化合物溶液に浸す時間を長くしても良い。この場合、スズ系酸化物とフッ素イオンとの反応時間が長引くことになり、不溶解性生成物の生成が促進されるために凹部の形成数が増加する。更に、下地用金属及び凹部形成工程で基材にニッケルメッキ層を形成するためのメッキ皮膜を高い電流密度条件で行うことが挙げられる。メッキ皮膜形成を高い電流密度条件で行うと水素ガスの発生量が増加するために凹部の形成数が増加する。
【0039】
因みに、微小な凹部はコンタクトの表面全体ではなく、接触部等の所定の位置に部分的に形成することもできる。この場合、水素イオン濃度pHの異なる2種類のフッ素化合物溶液を用い、コンタクトの基材を水素イオン濃度pHが2〜5の範囲に調整された第1のフッ素化合物溶液に浸すようにした後、凹部を形成しない部分を水素イオン濃度pHが2以下となるように調整された第2のフッ素化合物溶液に浸すようにする。この結果、接触部を含む凹部を形成しようとする所定箇所にだけ不溶解性生成物ができ、最終的に所定箇所に微小な凹部を多数形成することができる。
【0040】
要するに、係る各工程を経て得られるコンタクトは、少なくともスズを含む銅合金材を基材とすると共に、基材における少なくとも接触部を含む表面に対して下地用金属,及び接触用金属が被覆されて成る周知構造を有する以外、接触用金属における接触部を含む表面上に各凹部が形成される基本構造を持つものとなり、且つ少なくとも接触部の表面に形成された微小な凹部内に潤滑物質が滞留保持されていることにより、接触部の接点表面が従来の潤滑層を形成する手法では実現できなかった多数回(1000回〜20000回)の挿抜に及ぶ使用条件下にあっても充分に潤滑効果を維持する品質高い製品となる。又、上述した下地用金属及び凹部形成工程や接触用金属形成工程が従来から行われている一般的なメッキ処理方法を適用でき、特別な薬品や設備を必要とせずに周知のメッキ装置や処理液をそのまま使用し、しかも形状を問うことなく簡単にその表面における接触部を含む部分的又は全面に微小な凹部を形成した上で各凹部内に潤滑物質を滞留保持させて製造することができるので、結果として特許文献1〜特許文献3に代表される周知技術として提案された手法の場合よりも品質高い製品を作業性及び生産性良く安全にして簡便に製造することができる。
【0041】
以下に幾つかの実施例並びに比較例を挙げ、本発明のコンタクトについて、その製造工程を含めて具体的に説明する。
【実施例1】
【0042】
実施例1では、先ず市販のアルカリ性溶液[例えばユケン工業(株)のF−1550等]を用いて陰極電解脱脂したコンタクトの基材としてのばね用リン青銅[C5191−P−1/2H;原田伸銅(株)製]材のU宇型テストピース又は平板クーポンを140℃のオーブン内で1時間加熱して酸化処理することにより酸化物層を形成する酸化処理工程を施した。
【0043】
次に、凹部核形成工程として、酸化物層を形成した基材を水素イオン濃度pHが約4に調整された酸性フッ化アンモニウム溶液20グラム/リットル(g/L)に50℃の温度条件下で20秒間浸漬してその表面に複数の凹部の核を形成した後、引き続いて電解メッキにより下地用金属及び凹部形成工程,接触用金属形成工程を経て基材の表面にメッキ層を形成した。
【0044】
下地用金属及び凹部形成工程では、スルファミン酸ベースの浴に光沢剤を添加したものを電流密度10A/dmで180秒間処理する電解メッキにより下地用金属としてニッケルメッキを基材の表面に約5μmの厚さで形成(そのニッケルメッキ層には上述したように微小な複数の凹部が形成される)し、接触用金属形成工程では、クエン酸ベースの浴に光沢剤を添加したものを電流密度4A/dmで30秒間処理する電解メッキにより接触用金属としてコバルト硬質金メッキを基材の表面に約0.2μmの厚さで形成(そのコバルト硬質金メッキ層は上述したように微小な各凹部を薄く被覆するように形成される)した。
【0045】
更に、潤滑物質滞留工程として、表面にコバルト硬質金メッキ層が形成された基材(U宇型テストピース又は平板クーポン)に対して有機溶剤(n−プロピルブロマイド)を用いて3容量%の濃度に希釈した市販の潤滑物質としての潤滑剤(コンタクトの接触部用でアルファオレフィン系オイルをベースとしたもの)を浸潰処理により塗布し、各凹部内に滞留保持させて実施例1に係るコンタクトを得た。
【実施例2】
【0046】
実施例2では、先の実施例1における凹部核形成工程で使用した酸性フッ化アンモニウム溶液をその濃度が100グラム/リットル(g/L)と異なるものを用いた以外は同様な手順に従って実施例2に係るコンタクトを得た。
【実施例3】
【0047】
実施例3では、先の実施例1における凹部核形成工程で使用した酸性フッ化アンモニウム溶液の浸し処理の時間を120秒とした以外は同様な手順に従って実施例3に係るコンタクトを得た。
【0048】
[比較例1]
比較例1では、先の実施例1における酸化処理工程で加熱による酸化処理を施さなかった基材(U宇型テストピース又は平板クーポン)を用い、潤滑物質滞留工程における潤滑剤の塗布を行わない以外は同様な手順に従って比較例1に係るコンタクトを得た。
【0049】
[比較例2]
比較例2では、比較例1で得られたコンタクトに対し、更に潤滑物質滞留工程における潤滑剤の塗布を行うことにより、比較例2に係るコンタクトを得た。
【0050】
[比較例3]
比較例3では、先の実施例1における凹部核形成工程で使用した酸性フッ化アンモニウム溶液の浸し処理を行わない以外は同様な手順に従って比較例3に係るコンタクトを得た。
【0051】
[比較例4]
比較例4では、先の実施例1における凹部核形成工程で使用した酸性フッ化アンモニウム溶液に対して硫酸を10容量%添加したものを用いて浸し処理した以外は同様な手順に従って比較例4に係るコンタクトを得た。
【0052】
そこで、先ず実施例1〜3及び比較例1〜4に係るコンタクトの試料に関して、基材としての平板クーポンの表面に形成された微小な凹部の数を両面について光学式顕微鏡により50倍程度に拡大して数えると共に、その凹部の形成数をメッキ層の面積で割ることにより単位面積当たりの凹部形成数を算出し、その結果を比較して凹部形成数の評価を行った。
【0053】
次に、実施例1〜3及び比較例1〜4に係るコンタクトの試料に関して、基材としてU宇型テストピースにおける摩擦摩耗試験を行った。図2は、実施例1〜3及び比較例1〜4に係るコンタクトの試料に対する摩擦摩耗試験の様子を説明するために示した斜視模式図である。ここでは、U宇型テストピースの一方(上部のもの)を固定側試料10とし、他方(下部のもの)を実施例1〜3及び比較例1〜4に係る可動側試料20とし、可動側試料20が固定側試料10に対して90度交差して接触しながら摺動するようにして摩擦摩耗試験(潤滑効果)を調べることを示している。但し、摩擦摩耗試験条件は、温度25℃下において摺動距離を往復3mmとし、摺動スピードを1mm/sとし、且つ固定側試料10の可動側試料20に対する接触荷重を0.98Nとした。
【0054】
以上の実施例1〜3及び比較例1〜3に係るコンタクトの試料について、各々条理条件別に凹部形成数及び摩擦摩耗試験の評価結果を総括したものを表1に示す。但し、凹部形成数の判定基準は、多量に凹部が形成されたもの(具体的には20個/cm以上)を◎印で示し、凹部が普通に形成されたもの(具体的には10個/cm程度)を○印で示し、凹部が形成されなかったものを×印で示しており、摩擦摩耗試験の判定基準は、20000回の摺動でも動摩擦係数が低く安定し、潤滑効果が維持されたものを○印で示し、10000回程度摺動させると潤滑効果が無くなったものを△印で示し、摺動開始直後に動摩擦係数が不安定になり、すぐに潤滑効果が無くなったものを×印で示している。又、酸性フッ化アンモニウム溶液の水素イオン濃度pHは、蒸留水を用いて酸性フッ化アンモニウム溶液を10倍に希釈したときの値である。
【0055】
【表1】

【0056】
表1からは、凹部が形成された実施例1〜3に係るコンタクトの試料は、凹部が形成されない比較例1〜3に係るコンタクトの試料と比べて格段に良好な潤滑効果が発揮されていることが判る。
【0057】
図3は、実施例1、並びに比較例1,2に係るコンタクトの試料についての摩擦摩耗試験結果を摺動回数(回)に対する動摩擦係数の関係で示したものである。尚、図3中では、縦軸の動摩擦係数の低い方が高い潤滑効果を持つこと意味している。図3からは、酸化処理を施さずに潤滑物質としての潤滑剤を塗布していない比較例1の試料では動摩擦係数が摺動後にすぐに急激に上昇しており、又比較例2のように潤滑剤が塗布された試料でも酸化処理を施さずに表面に凹部を持たない場合には摺動回数が7000回を超えると動摩擦係数が上昇し始めて潤滑効果を示さなくなるのに対し、酸化処理を施して表面に凹部を形成した上で潤滑物質としての潤滑剤を塗布した実施例1の試料では、摺動回数が20000回であっても低い動摩擦係数を維持しており、安定した潤滑効果が発揮されていることが判る。
【0058】
図4は、上述した実施例1及び比較例4に係るコンタクトの試料についての経時的な摩擦摩耗試験の結果を摺動回数(回)に対する動摩擦係数の関係で示したものである。但し、ここでは各試料を潤滑物質滞留工程において潤滑物質としての潤滑剤の濃度を5容量%として調整してから3ケ月放置した後、上述した場合と同様な手順で摩擦摩耗試験を行った。
【0059】
図4からは、比較例4の試料では摺動回数の少ない回数から徐々に動摩擦係数が大きくなっているのに対し、実施例1の試料では塗布後に直ちに摩擦摩耗の試験を行った場合の結果と比べて初期的な動摩擦係数がやや大きくなっているが、摺動回数が20000回であっても低い動摩擦係数を維持して安定した潤滑効果が発揮されていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の最良の実施の形態に係るコネクタ用コンタクトにおける表面に形成された微小な凹部を含む組織の電子顕微鏡写真を示したものである。
【図2】本発明の実施例1〜3及び比較例1〜4に係るコンタクトの試料に対する摩擦摩耗試験を様子を説明するために示した斜視模式図である。
【図3】本発明の実施例1、並びに比較例1,2に係るコンタクトの試料についての摩擦摩耗試験結果を摺動回数に対する動摩擦係数の関係で示したものである。
【図4】本発明の実施例1及び比較例4に係るコンタクトの試料についての経時的な摩擦摩耗試験の結果を摺動回数に対する動摩擦係数の関係で示したものである。
【符号の説明】
【0061】
10 固定側試料
20 可動側試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手側電気接触部材との接続に供される接触部を備えた所定形状のコンタクトにおいて、少なくとも前記接触部を含む一部分又は全体の表面には微小な複数の凹部が形成され、前記複数の凹部には流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質が滞留保持されたことを特徴とするコンタクト。
【請求項2】
請求項1記載のコンタクトにおいて、前記複数の凹部は、直径が10μm〜100μmの範囲にあり、前記固体潤滑性微粒子の粒径は1μm以下であることを特徴とするコンタクト。
【請求項3】
請求項2記載のコンタクトにおいて、前記潤滑剤は、パラフィン系,オレフィン系,エステル系,エーテル系のオイル,ワックス,グリースの一つ以上を含むものであり、前記固体潤滑性微粒子は、二硫化モリブデン,PTFE,フッ化グラファイトの一つ以上を含むものであることを特徴とするコンタクト。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一つに記載のコンタクトにおいて、少なくともスズを含む銅合金を基材とすると共に、該基材における少なくとも前記接触部を含む表面に対して下地用金属,及び接触用金属が被覆されて成り、且つ該接触用金属における該接触部を含む表面上に前記複数の凹部が形成されたことを特徴とするコンタクト。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一つに記載のコンタクトの所定数のものをインシュレータ又はハウジングに列設して保持固定して成ることを特徴とするコネクタ。
【請求項6】
相手側電気接触部材との接続に供される接触部を備えた所定形状のコンタクト材となる少なくともスズを含む銅合金の基材を加熱して酸化処理することで少なくとも該接触部を含む表面に対して酸化物層を形成する酸化処理工程と、前記基材を水素イオン濃度pHが所定の範囲となるように調整したフッ素化合物溶液に浸すことにより、少なくとも前記接触部を含む表面に対して前記酸化物層との化学反応により複数の凹部の核を形成する凹部核形成工程と、前記基材における少なくとも前記接触部を含む表面に対して下地用金属を電解メッキすることにより、少なくとも前記凹部核形成工程で形成された前記複数の凹部の核を含む箇所に対してメッキ皮膜の析出に伴って発生する水素ガスの滞留に起因する気泡の生成により微小な複数の凹部を直径が10μm〜100μmの範囲となるように形成する下地用金属及び凹部形成工程と、前記基材における少なくとも前記接触部を含む表面に対して接触用金属を電解メッキ又は無電解メッキすることにより、少なくとも前記下地用金属及び凹部形成工程で形成された前記複数の凹部を含む箇所に対してメッキ皮膜により接触のための金属を形成する接触用金属形成工程と、前記基材における少なくとも前記接触部を含む表面に対して流動性を有する潤滑剤,固体潤滑性微粒子,固体潤滑性微粒子を含む潤滑剤の何れか一つによる潤滑物質を塗布又は浸すことにより、少なくとも前記接触用金属形成工程で形成された前記複数の凹部内に該潤滑物質を滞留保持させてコンタクトを得る潤滑物質滞留工程とを有することを特徴とするコンタクトの製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のコンタクトの製造方法において、前記凹部核形成工程では、前記水素イオン濃度pHにあっての前記所定の範囲を2〜5の範囲とすると共に、前記フッ素化合物溶液としてフッ化水素酸,酸性フッ化アンモニウム,酸性フッ化カリウム,フッ化ナトリウムのうちの少なくとも一種以上を含んだものを用い、前記下地用金属及び凹部形成工程では、前記下地用金属としてニッケルメッキ又はニッケル合金メッキを用い、前記接触用金属形成工程では、前記接触用金属として金メッキ又は金合金メッキ、或いはスズメッキ又はスズ合金メッキを用いることを特徴とするコンタクトの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載のコンタクトの製造方法において、前記潤滑物質滞留工程では、前記潤滑剤としてパラフィン系,オレフィン系,エステル系,エーテル系のオイル,ワックス,グリースの一つ以上を含むものを用いると共に、前記固体潤滑性微粒子として粒径1μm以下の二硫化モリブデン,PTFE,フッ化グラファイトの一つ以上を含むものを用いることを特徴とするコンタクトの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−202569(P2006−202569A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11745(P2005−11745)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】