説明

コークス炉における耐火物のプロファイル測定方法及び前記耐火物の損耗量測定方法

【課題】コークス炉における炉壁および炉底の耐火物の損耗量を簡易な方法で測定可能とするコークス炉における耐火物のプロファイル測定方法および耐火物の損耗量測定方法を提供する。
【解決手段】耐火物を炉壁及び炉底に設置したコークス炉1における耐火物のプロファイル測定方法であって、コークスを押し出した後、耐火物が赤熱している状態で耐火物およびその近傍に配置された基準点を含んで撮像し、該撮像は同一対象に対して撮影角度を異にした複数の画像を撮像するものであり、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉における炉壁および炉底に設置した耐火物のプロファイル測定方法および耐火物の損耗量測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の鉄鋼生産増に伴い、高炉における高出銑比操業では還元材として使用されるコークスの安定供給が必須である。コークスはコークス炉を用いて石炭を乾留することによって製造される。コークス炉において石炭を乾留するためのコークス炭化室は、耐火レンガなどの耐火物によって構築されている。
このようなコークス炉は、25年以上の長期に亘って操業している炉が多く、炉令や機械的外力の作用等に起因して炉壁や炉底の耐火物が損耗し、これら損耗に起因した押し詰まり、押し止りなどのトラブルが発生しやすい。
コークス炉の安定操業のためにはこれらトラブルが発生する前に損耗した耐火物を補修する必要がある。
そのため、耐火物の損耗状態を正しく把握する耐火物の損耗管理が重要になる。
【0003】
現在コークス炉に対して行われている一般的な耐火物の損耗管理方法は、コークスの押し出し後、炉壁、炉底の耐火物について目視で損耗状態を確認して管理する方法が取られている。
特に、炉壁については、乾留中に発生する蒸発したカーボンが炉壁に付着し、直接炉壁耐火物を観察できないので、押し出し後、ドアと装炭孔を開放してカーボンを除去するカーボン焼きをしてから損耗量を目視管理している。
しかしながら、このような目視による管理方法では管理精度としてはかなり低かった。
【0004】
なお、炉内の耐火物の損耗状態を、装置を用いて検査する方法として、カメラを炉内に挿入して炉壁を撮影し、撮影した画像データを解析すると言う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、コークス炉の耐火物ではないが、転炉に内張りされた耐火物の損耗量の管理に関し、例えば特許文献2には、撮影角度の異なる二枚の耐火物画像を撮影し、これらの画像を立体視することで、耐火物の損傷状況を立体的に把握する耐火物の管理方法が開示されている。
また、例えば特許文献3には、特許文献2の観察において、耐火物表面へ2点からの光を照射しながら撮影することで、耐火物の損傷状況を位相差として検出する観察(管理)方法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−218071号公報
【特許文献2】特開昭62−238993号公報
【特許文献3】特開昭63−55444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コークス炉においては、炭化室内の温度が低下すると耐火物レンガが熱収縮によって割れるため、常時700〜800℃以上に維持する必要がある。
このため、特許文献1に記載のもののように、炭化室内にカメラを挿入して炉壁を撮影する方法では、装置を熱から保護するための冷却手段が必要となり、装置の複雑化、高コスト化という問題がある。また、装置を炉内に挿入して撮影するため、炭化室という狭い空間で、カメラを移動しなければならず、測定にも時間を要するという問題がある。
【0007】
また、特許文献2、3のものは、コークス炉を対象としておらず、これらの文献に記載した技術をそのままコークス炉に適用できないことに加えて、以下のような問題がある。
特許文献2、3のいずれのものも、耐火物修復前における炉内耐火物の損傷状態を把握できるだけであり、耐火物の損耗量(損耗深さ)を定量的に把握することはできない。耐火物の損耗量(損耗深さ)を定量的に把握できないとすれば、損耗量(損耗深さ)に起因して生ずる押し詰まり、押し止りなどのトラブルを確実に回避するための炉内耐火物の管理を適切に行うことはできない。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、コークス炉における炉壁および炉底の耐火物の損耗量を簡易な方法で測定可能とするコークス炉における耐火物のプロファイル測定方法および耐火物の損耗量測定方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、上記の課題を解決するために、以下の点につき検討を行なった。
コークス炉の炭化室は、例えば炉高さが約6m、窯幅が約0.45m、炉長が約16mであり、高さが高く、奥行きが大きいのに対して、炉壁間の距離が短いという極めて狭い空間である。
(a)このような狭い空間を形成する壁体のプロファイルを測定するにはいかにすべきか。
【0010】
(b)また、コークス炉における耐火物の損耗量を定量的に測定するためには、耐火物が損耗した修復前の状態と、耐火物の修復を行なった修復後の状態のそれぞれの状態における耐火物のプロファイルを取得する必要がある。しかし、修復後の状態と修復前の状態では時間の経過があり、常時カメラを同位置に設置しておくことは現実的ではない。このことから、修復前と修復後で撮像対象の同一場所を把握するにはいかにすべきか。
(c)この点、修復前と修復後で位置の変化のない基準点を設けることが考えられるが、撮像対象である耐火物が赤熱状態にある場合には、撮影に際して基準点となるものとの輝度の差が大きいことを考慮する必要があるが、この点をどうすべきか。
発明者は、このような種々の解決課題に対して、鋭意検討を行ってその解決策を見出して本発明を完成したものであり、具体的には以下の構成を備えたものである。
【0011】
(1)本発明に係るコークス炉における耐火物のプロファイル測定方法は、耐火物を炉壁及び炉底に設置したコークス炉における前記耐火物のプロファイル測定方法であって、コークスを押し出した後、前記耐火物が赤熱している状態で前記耐火物およびその近傍に配置された基準点を含んで撮像し、該撮像は同一対象に対して撮影角度を異にした複数の画像を撮像するものであり、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出することを特徴とするものである。
【0012】
同一対象に対して撮影角度を異にした複数の画像を撮像し、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出するようにしたので、撮影角度を異にした複数の画像が撮像できるかぎりプロファイルの算出が可能であり、炭化室という狭い空間に対しても適用できる。
また、基準点を含んだ画像データから耐火物のプロファイルを算出するようにしたので、この基準点に基づいて耐火物が損耗していない状態のプロファイルとの比較が可能となり、それによって耐火物の損耗量を定量的に知ることができる。
なお、耐火物が損耗していない状態のプロファイルは、例えば当該コークス炉の設計図、耐火物を修復した状態を撮像した撮像データなど種々のものから取得できる。この場合、コークス炉操業後の修復前データ取得工程における基準点との関係を明確にしておく。
【0013】
なお、基準点を含んで撮像するとは、基準点と耐火物とを同時に撮像する場合、基準点と耐火物というそれぞれの対象に対して別個に焦点を合わせて複数回に分けて撮像する場合の両方を含む。
【0014】
なお、耐火物が赤熱している状態とは、コークスを押し出したあと耐火物が高温のために目視で赤色にみえるような状態をいい、表面温度でいうならば700℃以上の状態をいう。
【0015】
(2)また、上記(1)に記載のものにおける撮像は、赤熱した前記耐火物の輝度に合わせて撮像した第1データと、基準点の輝度に合わせて撮像した第2データを合成して耐火物と基準点の両方を含む画像データを取得する合成工程を含むことを特徴とするものである。
【0016】
(3)また、上記(1)または(2)に記載の基準点は、窯口の鉄皮上の特定点と、耐火物の目地の特定点であることを特徴とするものである。
【0017】
(4)本発明に係るコークス炉における耐火物の損耗量測定方法は、耐火物を炉壁及び炉底に設置したコークス炉における前記耐火物の損耗量測定方法であって、前記耐火物の修復を行なった状態で前記耐火物のプロファイルを算出する工程と、前記コークス炉からコークスを押出した後、前記耐火物が赤熱している状態で前記耐火物およびその近傍に配置された基準点を含んで撮像し、該撮像は同一対象に対して撮影角度を異にした複数の画像を撮像するものであり、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出する工程と、それらのプロファイルの差から前記耐火物の損耗量を演算する工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0018】
(5)また、上記(4)に記載のものにおいて、耐火物の修復を行なった状態で前記耐火物のプロファイルを取得する工程は、前記耐火物およびその近傍に配置された基準点を含んで撮像し、該撮像は同一対象に対して撮影角度が異なる複数の画像を撮影するものであり、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出する工程であることを特徴とするものである。
【0019】
(6)また、上記(4)または(5)に記載のものにおいて、耐火物が赤熱している状態での撮像は、赤熱した前記耐火物の輝度に合わせて撮像した第1データと、基準点の輝度に合わせて撮像した第2データを合成して耐火物と基準点の両方を含む画像データを取得する合成工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コークスを押出した後、炉外から耐火物のプロフィール測定が可能になるので、耐火物の管理を簡易にかつ確実、適切に行なうことできる。これによって、耐火物の損耗による押し詰まり、押し止りなどのトラブルを確実に回避するための炉内耐火物の管理を適切に行うことができ、安定的にコークスを生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の一実施の形態に係るコークス炉における耐火物の損耗量測定方法を説明するための図であり、炭化室3における炉壁の耐火物を撮影している状態を模式的に示している。図2は図1における矢視A−A線断面図である。
【0022】
コークス炉1の炭化室3は、例えば高さが約6m、幅が約0.45m、長さ(奥行き)が約16mであり、高さと奥行きがある狭い空間である。
本実施の形態における耐火物5の損耗量測定方法は、このような狭い空間における耐火物5を炉外に設置したカメラ7によって撮像して、その損耗量を求めるものであり、具体的には以下のような構成からなるものである。
【0023】
本実施の形態に係る耐火物5の損耗量測定方法は、コークス炉1における耐火物5の修復を行なった状態で耐火物5を、基準点を含んで撮影して画像データを取得する修復状態データ取得工程と、取得された修復状態データに基づいて修復状態の耐火物5のプロファイルを算出する修復状態プロファイル算出工程と、コークス炉1からコークスを押出し、耐火物5の表面に付着したカーボンを燃焼させた後、該耐火物5を、基準点を含んで撮影して画像データを取得する修復前データ取得工程と、取得された修復前データに基づいて修復前状態の耐火物5のプロファイルを算出する修復前プロファイル算出工程と、修復状態プロファイルと修復前プロファイルの両プロファイルの差から耐火物5の損耗量を演算する耐火物損耗量演算工程と、を有している。
以下、各工程を、図面を参照して説明する。
【0024】
<修復状態データ取得工程>
修復状態データ取得工程は、修復状態にある炉壁の耐火物5を撮影して画像データを取得する工程である。
図1に示すように、撮像対象となる炭化室3の窯口側の外側にデジタル式の3Dカメラ7を設置する。3Dカメラ7としては、撮像対象を立体画像処理のできるデジタルカメラであればよく、例えばコマツエンジニアリング製DigiCats StereoProfiler SP-50などのように2個のカメラを所定の距離だけ離して一つのボックスに収納したようなものを用いる。
この3Dカメラ7は同一対象に対して撮像角度を異にした複数の画像を撮像できるものである。
【0025】
なお、撮影に使用する3Dカメラ7は精密機器であるため、3Dカメラ7を熱から保護するために、特に後述する修復前状態の撮影時は遮熱板や冷却装置などを設けるようにするのが望ましい。
【0026】
撮像の対象となる炭化室3は、修復後の状態においては、炉壁9が平坦な平面になっており、図2における矢視B−B断面図である図3に示すように、平断面においては炉壁9を表す線が直線状になっている。
【0027】
撮影に際しては、修復状態を撮像したデータによるプロファイルと、後述する修復前状態を撮像したデータによるプロファイルの両プロファイルのそれぞれのプロファイルを構成する各位置を対応させるための基準となる点を含むように撮像する。基準点は、修復状態の撮影時と修復前状態の撮影時の二つの時点において変化のないものである必要がある。
本実施の形態では、図2の一部を拡大して示す図4に示すように、窯口に設置されている鉄皮11の上下の2点13a、13bと、耐火物5である耐火物レンガの目地の特定点13cとの3点を基準点とし、これらを含むようにして3Dカメラ7によって炉壁の耐火物5を撮影する。なお、基準点は撮像目的で設置したものでなくても、既存の構造物の特定部位などを基準点として代用してもよい。
撮影によって得られた画像データは、パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という。)のメモリに入力されて記憶される。
【0028】
なお、炭化室3は炉長(奥行き)が長いので、窯口にある基準点13a、13bと、炉内の耐火物5を同時に撮像できない場合には、基準点13a、13bと耐火物5とを2回に分けて撮像し、これらを合成するようにしてもよい。
また、炭化室3は図2に示すように、高さ方向で約6mもあるため、撮像は高さ方向で例えば6分割して行う。この場合、図2に示すように、上下で一部を重ねるようにすることで、容易に合成することができる。
また、炭化室3は長さ(奥行き)も長いので、コークス排出側と押出し機側の両側から撮影するようにする。
【0029】
撮影は狭い隙間に対して、炉外から行うものであるが、カメラレンズの光軸と壁面とが平行でなく、一定の角度が形成できれば、撮像は可能であり、撮像できれば、後述するように、平面三角法の原理に基づくプロファイルの算出は可能である。
なお、炭化室3の炉壁9の損耗に関し、炭化室3の上部に炉長方向に複数箇所設けられた装炭孔15(図1参照)から石炭が挿入されることに起因して、コークス排出側の最も窯口に近い装炭孔15の下方の炉壁9(コークス側窯口から約3m炉内に入った位置の炉壁9)の損耗が最も激しいことが発明者の調査で分かったため、この位置を中心に撮像することで、炉内の最も損耗の激しい箇所の損耗状態を知ることができる。したがって、炉壁9における上記の部位を撮像することで、補修タイミングを知ることができ、この部位のみを撮像するのも炉壁損耗状態の管理には有効な方法である。
【0030】
<修復状態プロファイル算出工程>
修復状態プロファイル算出工程は、撮像した修復状態の画像データに基づいて耐火物5のプロファイルを作成する工程である。この工程は、PCにおいて、CPUが所定のプログラムを実行することによって行なわれる(以下に説明する「修復前プロファイル算出工程」及び「耐火物損耗量演算工程」も同様である。)。具体的には以下の処理が行なわれる。
【0031】
まず、撮像データを解析するための空間的な座標を作成する(図5参照)。座標の作成方法は、まず原点となる点として例えば一方のカメラの設置点Cを決め、原点の図中右方向に向かってx軸を設定し、もう一つのカメラの設置点Bがx軸上にあるようにする。原点を通りx軸に直角な方向をy軸とする。また、原点を通り、紙面に直交する方向をz軸とする。
空間座標ができると、撮像したコークス炉1の耐火物5のデジタルデータを解析して、耐火物5の表面を空間座標に表示することによって、耐火物5のプロファイルを作成する。このデジタルデータの解析によるプロファイルの作成原理については、後述の修復前プロファイル算出工程において説明する。
【0032】
<修復前データ取得工程>
修復前データ取得工程は、炭化室3からコークスを押出した後、該耐火物5を、基準点を含んで撮像して画像データを取得する工程である。撮像に際しては、炭化室3のドアならびに装炭孔15を開放して耐火物5の表面に付着したカーボンを燃焼させて耐火物5を露出させてから行うのが望ましい。
この場合も前述の修復状態の撮像と同様にして、3つの基準点13a、13b、13cを含んで耐火物5を撮像する。しかし、この場合には、耐火物5が赤熱している状態にあり、耐火物5の輝度と炉外にある基準点13a、13bの輝度が違いすぎるため、耐火物5と基準点13a、13bを同時に撮影しても、両方を撮像することができない。つまり、3Dカメラ7の露出を耐火物5に合わせると、炉外の基準点13a、13bが暗くて撮像できず、逆に3Dカメラ7の露出を炉外の基準点13a、13bに合わせると耐火物5の部分がハレーションを起こして撮像できない。
そこで、以下のようにする。
【0033】
まず、炉外の基準点13a、13bを撮像するのに適した状態に3Dカメラ7を調整して、この基準点13a、13bを含んで耐火物5を撮像する。この撮像状態を示したのが、図6である。この状態では、基準点13a、13bは撮像できるが、耐火物5は明るすぎて撮像できない。図6では撮像できるものを実線で示し、撮像できないものを破線で示している。
【0034】
次に、上述の3Dカメラ7を動かさずに、赤熱した耐火物5を撮像するのに適した状態、たとえばフィルタを設置した状態にして、前記と同様に基準点13a、13bを含んで耐火物5を撮像する。この撮像状態を示したのが、図7である。この状態では、耐火物5は撮像できるが、基準点13a、13bは暗すぎて撮像できない。
次に、上記の2つの画像データを合成することによって、炉外の基準点13a、13b及び基準点13cを含んだ耐火物5の画像データを合成する。この合成データを示したのが図8である。
この画像の合成処理は、PCのCPUが所定のプログラムを実行することによって行なわれる。
【0035】
<修復前プロファイル算出工程>
修復前プロファイル算出工程は、合成されたデジタルデータを解析して耐火物5の表面を空間座標に表示することによって、コークス押出し後における耐火物5のプロファイルを、修復状態プロファイルと同様に空間座標に作成する工程である。
以下、デジタルデータの解析によるプロファイルを作成する原理について、図9に基づいて説明する。
【0036】
図9は図5で示した座標上に、損耗状態にある耐火物5の一部を示したものである。図9において、C点が原点であり、一方のカメラの位置である。B点はx軸上にあってC点から距離aだけ離れた点であり、もう一方のカメラの位置である。A点は耐火物5上の任意の点である。耐火物5のプロファイルを作成するには、A点の座標が分かればよい。
【0037】
平面三角法で、一辺aと角B、Cが得られれば、角Aと辺の長さbとcは以下の式で与えられる。
A=π−(B+C)
b=asinB/sinA
c=asinC/sinA
【0038】
上記の関係を利用してA点の座標を求めるには以下のようにする。
2点B、Cから耐火物5を撮像し、耐火物上の点Aに対して画像解析によって∠B、∠Cを求める。点Cを座標の原点とすると、点Aの座標は以下のようになる。
A(x,y)=A(bcosC,bsinC)
同様にして、点A´の座標は以下のようになる。
A´(x´,z´)=A´(b´cosC´,b´sinC´)
∠C´は、C´=C+ΔCと考え、基準点からの変位ΔCをデジタルデータの画像解析によって求めることで得られる。また、画像解析ではZ方向の情報が含まれるので、これも同様に解析することで、三次元座標A(x,y,z)を得ることができる。これを多くの点で繰り返すことによって、耐火物表面の三次元的な凸凹を測定することができる。
本実施の形態におけるプロファイル作成方法は、このような原理に基づいているので、炉壁9の耐火物5を撮像できる限り、プロファイルを求めることができ、狭い空間の撮像にも適用できる。
【0039】
<耐火物損耗量演算工程>
耐火物損耗量演算工程は、修復状態プロファイルと修復前プロファイルの両プロファイルの差から耐火物5の損耗量を演算する工程である。
修復状態のプロファイルと修復前状態のプロファイルは、同一の基準点を含んでおり、同一の空間座標に表示できるので、これを重ね合わせることができる。そして、プロファイルの各位置における両者の差を求めることによって、耐火物5の損耗量を求めることができる。図10は断面図において二つのプロファイルを重ね合わせた状態を示しており、破線が修復状態を示し、実線が修復前状態を示している。
図10において、二つのプロファイルの差、例えば矢印で示した部分が損耗量である。
【0040】
炉壁耐火物の場合には、損耗量(損耗深さ)の最大値が20mm以上あった場合には、補修してその損耗を埋める。炉壁耐火物がこの損耗量よりも大きくなると、その部分にコークスが入り込んでしまい、押し出す際の抵抗となるため、押し止りあるいは押し詰まりが発生することになる。
なお、補修は、耐火物5を補修する方法であれば、どのような方法を採用してもよい。例えば、炉壁耐火物については溶射、乾式(ドライ)吹付け、セミドライ吹付け、湿式吹付け方法などが挙げられる。
【0041】
以上のように、本実施の形態によれば、修復前の耐火物5の損耗量を定量的に知ることができるので、耐火物5の管理を確実かつ適切に行なうことできる。これによって、耐火物5の損耗による押し詰まり、押し止りなどのトラブルを確実に防ぐことができ、コークスの生産効率の向上に資することができる。
しかも、修復前状態においては耐火物5が赤熱している状態において撮像ができ、かつ撮影自体はごく短時間で出来るので、操業に影響を与えることなく、実施ができる。
【0042】
また、上記の実施の形態においては、基準点として3点を含むように撮像しているので、修復を行なった状態を撮像して得られた画像データと修復前状態を撮像して得られた画像データの2つの画像データに3次元的な差異がある場合にも、両方の画像データの比較が可能となる。
もっとも、これら2つの状態における画像データに1次元的または2次元的な差異しかないような場合には、基準点は1点または2点であってもよい。
【0043】
なお、上記の実施の形態では修復した状態の耐火物5のプロファイルを得るために撮影行為を行なっているが、修復した状態と同じ状態、すなわち耐火物5に損耗がない状態の耐火物5のプロファイルは、例えば当該コークス炉1の設計図などによって取得することが可能なので、そのような場合には設計図などから得られる耐火物5のプロファイルと、修復前の炭化室3を撮像して得られた画像データから算出されるプロファイルとを比較することで、耐火物5の損耗量を知ることができる。もっとも、この場合にも2つのプロファイルを比較するには基準点が必要となるので、修復前状態の撮影時にはこの比較が可能となるような基準点を含むようにする必要がある。
【0044】
また、上記の説明は炭化室3の炉壁9について説明したが、炉底についても炉壁9と同様にして耐火物5の損耗量を測定することができる。
炉底の撮影に際しては、コークス側窯口において昇降台車上にカメラ7を設置し、斜め上方から炉底を撮像する。この場合の基準点としては、例えば鉄扉の両角と、炉内耐火物5の目地の特定点とする。
炉底の撮影に際しても、押し出し機側、コークス排出側の両方から撮影するようにする。
なお、炉底の場合には、最大損耗深さが30mm以上になった場合に、溶射、乾式(ドライ)吹付け、セミドライ吹付け、湿式吹付け、投げ込み材などの補修によって、その損耗部分を補修する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態に係るコークス炉における耐火物の厚み測定方法を説明するための図である。
【図2】図1における矢視A−A線断面図である。
【図3】図2における矢視B−B線断面図である。
【図4】図2の一部を拡大して示す図である。
【図5】画像データを解析するための座標の説明図である。
【図6】補修前状態のコークス炉の撮像方法の説明図である。
【図7】補修前状態のコークス炉の撮像方法の説明図である。
【図8】補修前状態のコークス炉の撮像方法の説明図である。
【図9】デジタルデータの解析によるプロファイルの作成原理の説明図である。
【図10】炉壁の損耗量の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 コークス炉
3 炭化室
5 耐火物
7 3Dカメラ
9 炉壁
11 鉄皮
13a、13b、13c 基準点
15 装炭孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物を炉壁及び炉底に設置したコークス炉における前記耐火物のプロファイル測定方法であって、
コークスを押し出した後、前記耐火物が赤熱している状態で前記耐火物およびその近傍に配置された基準点を含んで撮像し、該撮像は同一対象に対して撮影角度を異にした複数の画像を撮像するものであり、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出することを特徴とするコークス炉における耐火物のプロファイル測定方法。
【請求項2】
前記撮像は、赤熱した前記耐火物の輝度に合わせて撮像した第1データと、基準点の輝度に合わせて撮像した第2データを合成して耐火物と基準点の両方を含む画像データを取得する合成工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のコークス炉における耐火物のプロファイル測定方法。
【請求項3】
基準点は窯口の鉄皮上の特定点と、耐火物の目地の特定点であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコークス炉における耐火物のプロファイル測定方法。
【請求項4】
耐火物を炉壁及び炉底に設置したコークス炉における前記耐火物の損耗量測定方法であって、
前記耐火物の修復を行なった状態で前記耐火物のプロファイルを算出する工程と、
前記コークス炉からコークスを押出した後、前記耐火物が赤熱している状態で前記耐火物およびその近傍に配置された基準点を含んで撮像し、該撮像は同一対象に対して撮影角度を異にした複数の画像を撮像するものであり、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出する工程と、それらのプロファイルの差から前記耐火物の損耗量を演算する工程と、を備えたことを特徴とするコークス炉における耐火物の損耗量測定方法。
【請求項5】
前記耐火物の修復を行なった状態で前記耐火物のプロファイルを取得する工程は、前記耐火物およびその近傍に配置された基準点を含んで撮像し、該撮像は同一対象に対して撮影角度が異なる複数の画像を撮影するものであり、その画像データを取得して前記耐火物のプロファイルを算出する工程であることを特徴とする請求項4に記載のコークス炉における耐火物の損耗量測定方法。
【請求項6】
耐火物が赤熱している状態での撮像は、赤熱した前記耐火物の輝度に合わせて撮像した第1データと、基準点の輝度に合わせて撮像した第2データを合成して耐火物と基準点の両方を含む画像データを取得する合成工程を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のコークス炉における耐火物の損耗量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−68765(P2009−68765A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237431(P2007−237431)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000199821)JFE炉材株式会社 (42)
【Fターム(参考)】