説明

コーティング方法およびコーティングされた物品

【課題】 ターボ機械のブレードやベーンなどにおける、砂塵に関連した疲労に耐久できるように設計されたサーマルバリアコーティングを提供する。
【解決手段】 ターボ機械のブレードやベーンなどの物品を本発明によるサーマルバリアコーティングで被覆する方法が、概ね、物品上に任意選択的にボンディングコート材料を適用し(ステップ12)、この上にサーマルバリアコーティングを適用し(ステップ14)、物品を懸濁液に浸漬し(ステップ16)、コーティング内の樹脂を硬化させ(ステップ18)、物品を乾燥させる(ステップ20)ステップを備える。本発明の金属含有サーマルバリアコーティングにより、ターボ機械の運転時に砂塵が侵入してコーティング表面に溶融付着しても、この溶融砂粒のうち少なくとも一つの成分と反応して新たにシーラント層を形成し、磨耗や破損から物品を効果的に保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーマルバリアコーティング組成、サーマルバリアコーティングの適用方法、およびサーマルバリアコーティングが被覆された物品に関する。さらに具体的には、溶融砂粒の浸入に耐えるように設計されたサーマルバリアコーティング組成、このサーマルバリアコーティングの適用方法、およびこのサーマルバリアコーティングが被覆された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルバリアコーティング(TBC)における砂塵に関連した疲労に起因するターボ機械の劣化は、中東で使用される全てのターボ機械に関する懸念である。砂塵に関連した疲労はサーマルバリアコーティングの早すぎる剥離や、ターボ機械およびこれらの部品の酸化の原因となっている。こうした砂塵に関連する疲労のメカニズムは、溶融した砂粒のサーマルバリアコーティングへの浸入である。コーティングの有効期間中に砂塵がターボ機械に侵入し、サーマルバリアコーティング表面上で凝集して溶融状態となる。溶融した砂粒がサーマルバリアコーティングに浸透してセラミック/金属界面に達する。サーマルバリアコーティングの破損は、砂粒が十分なほどに浸入したサーマルバリアコーティングの熱サイクルに対する変形許容度の低下のみならず、セラミック/金属界面で熱成長酸化物に破壊的に作用する溶融砂粒が組み合わさることにより生じる。
【特許文献1】米国特許第3,542,530号明細書
【特許文献2】米国特許第3,528,861号明細書
【特許文献3】米国特許第3,649,225号明細書
【特許文献4】米国特許第3,754,903号明細書
【特許文献5】米国特許第3,676,085号明細書
【特許文献6】米国特許第4,078,922号明細書
【特許文献7】米国再発行特許発明第32,121号明細書
【特許文献8】米国特許第4,585,481号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
剥離によって生じる、サーマルバリアコーティングの破損は部品表面を自然環境に露出させ、これにより溶融砂粒の破壊的作用と同時にターボ機械部品の酸化を加速させる。
【0004】
その結果、砂塵に関連する疲労に耐えるように設計されたサーマルバリアコーティングが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明により、物品をコーティングする方法が、概ね、(1)物品上にセラミックベースの化合物の層を形成し、(2)概ね約10nm〜約1000nmの直径をもつ金属粒子を約25%〜約50%(体積%)含有する溶液を提供し、(3)セラミックベースの化合物層を前記溶液と接触させ、(4)前記物品を乾燥させることを備える。
【0006】
本発明により、サーマルバリアコーティングが、概ね、セラミックベースの化合物と、金属酸化物と、概ね約10nm〜約1000nmの直径をもつとともに、前記セラミックベースの化合物の少なくとも約25%(重量%)存在する金属と、を含むとともに、前記サーマルバリアコーティングは、セラミックベースの化合物の概ね30%(体積%)以下の空隙率をもつ。
【0007】
本発明により、コーティングされた物品が、概ね、適用されたサーマルバリアコーティングを備えた少なくとも一つの外表面をもつ物品を備えるとともに、前記サーマルバリアコーティングが、概ね、セラミックベースの化合物と、金属酸化物と、前記セラミックベースの化合物の少なくとも約25%(重量%)の金属と、を含み、前記サーマルバリアコーティングが概ね約30%(体積%)以下の空隙率をもつ。
【0008】
本発明により、コーティングが、概ね、少なくとも一つのケイ酸塩とサーマルバリアコーティング組成との反応生成物を含むとともに、前記サーマルバリアコーティング組成が、概ね、セラミックベースの化合物と、金属酸化物と、前記セラミックベースの化合物の少なくとも約25%(重量%)の金属と、を含み、前記サーマルバリアコーティングは、前記サーマルバリアコーティング組成の約30%(体積%)以下の空隙率をもつ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のサーマルバリアコーティングは、溶融砂粒と反応してサーマルバリアコーティング内に反応生成物を含むシーラント層を形成するように設計される。砂粒は概ね、少なくともカルシウムマグネシアアルミナシリケート(以下、「CMAS」と表記)を含み、ナトリウム、鉄、カリウムなど、その他の成分を含むとともに、これは砂の地理的もしくは地質的条件に依存する。
【0010】
本明細書で用いられるように、語句「溶液」は、本発明の方法、組成、コーティング、およびコーティングされた物品の用途に適した、溶液、懸濁液、もしくはその他の変形例を形成する溶媒および少なくとも一つの溶質を意味する。本明細書で用いられるように、語句「金属」は、もともと酸化物の金属として、もしくはもともと塩の金属として存在する金属を意味する。
【0011】
図1を参照すると、本発明の方法の一つを表すフローチャートが示される。ステップ12で、物品が提供され、ボンディングコート材料が任意選択的に被覆される。ボンディングコート材料はMCrAlYの化学組成をもつ。MCrAlYは、Mがニッケル、コバルト、鉄、白金、もしくはこれらの混合物を表し、Crがクロムを表し、Alがアルミニウムを表し、Yがイットリウムを表す公知の金属コーティング系を示す。MCrAlY材料は所定の組成で適用され、堆積処理時に基体と著しく影響し合うことがないため、多くの場合オーバーレイコーティングとして知られる。MCrAlY材料のいくつかの例(限定せず)については、特許文献1に参照されているように、FeCrAlYコーティングを記載する特許文献2を参照されたい。さらに、特許文献3ではMCrAlYコーティングの堆積の前に、基体にクロム層を適用する複合コーティングが記載されている。特許文献4では著しく高い延性をもつNiCoCrAlYオーバーレイコーティングが記載されている一方、特許文献5ではCoCrAlYオーバーレイコーティングが記載されている。特許文献6では、ハフニウムとイットリウムとの組み合わせの存在により改良された抗酸化性を引き出すコバルトベースの構造の合金が記載されている。好ましいMCrAlYボンディングコート組成が特許文献7に記載されており、重量%で、5〜40%のCrと、8〜35%のAlと、0.1〜2.0%のYと、0.1〜7%のSiと、0.1〜2.0%のHfと、残部がNi、Co、およびこれらの混合物よりなるグループから選択されたものからなる重量百分率の組成範囲をもち、これは本出願人に譲渡され、本願の参照となる。また、本出願人に譲渡され、本願の参照となる特許文献8も参照されたい。
【0012】
またボンディングコート材料がAl、PtAlなどを含み、拡散被覆として公知である。さらに、ボンディングコート材料がAl、PtAl、上記のMCrAlYなどを含み、カソードアークコーティングとして公知である。
【0013】
これらのボンディングコート材料は、オーバーレイボンディングコート、拡散ボンディングコート、カソードアークボンディングコートなど(限定せず)の、所望の組成の高密度で、均一、接着性のあるコーティングを作り出すことが可能な、あらゆる方法により適用されうる。この技術としては、拡散処理法(例えば、内側、外側など)、低圧プラズマ溶射、エアプラズマスプレー、スパッタリング、カソードアーク、電子ビーム物理蒸着法、高速プラズマ溶射法(例えば、HVOF、HVAF)、燃焼処理、線材溶射法、レーザビームクラッディング、電子ビームクラッディング、などを、これに限定せず含みうる。
【0014】
ボンディングコート30の粒子の大きさはあらゆる適切な大きさでよく、本実施例では約15ミクロン(0.015mm)から約60ミクロン(0.060mm)の間で、平均粒子サイズが約25ミクロン(0.025mm)である。ボンディングコート30はあらゆる適切な厚さで適用され、本実施例では約5mil(0.127mm)から約10mil(0.254mm)の厚さである。ある実施例では、この厚さは約6mil(0.152mm)から約7mil(0.178mm)である。
【0015】
物品に任意選択的なボンディングコート層を適用した後、図1のステップ14で、物品がサーマルバリア化合物で被覆されてサーマルバリアコーティングを形成する。物品は通常サーマルバリア化合物でコーティングされるあらゆる部品を含み、具体的には、例えばエーロフォイルをもつあらゆる部品、シールをもつあらゆる部品、エーロフォイル、シールなど(限定せず)の、ターボ機械に使用される部品を含む。当業者に周知のようにサーマルバリア化合物はターボ機械応用例で使用されるセラミックベースの化合物を含む。代表的なサーマルバリア化合物は、任意の安定化ジルコン酸塩、任意の安定化ハフニウム酸塩、および前記の化合物のうち少なくとも一つを含む組み合わせなどで、これは例えば、イットリア安定化ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ハフニア、カルシア安定化ハフニア、マグネシア安定化ハフニアなどである。イットリア安定化ジルコニアは7YSZ(登録商標)として市販されている。
【0016】
サーマルバリア化合物は当業者に周知のように任意の複数の処理を用いて物品に被覆される。適切な被覆法は、物理蒸着法(例えば電子ビーム)、溶射(例えば、エアプラズマ、高速フレーム溶射)、スパッタリング、ゾル‐ゲル法、スラリ法、および前記の被覆法の少なくとも一つを備えた組み合わせなど、これに限定せず含む。当業者にとって認識されるように、電子ビーム物理蒸着法を介して被覆されたサーマルバリアコーティングは、隙間のある自由に直立した柱状構造を呈する柱間微小構造を形成し、隙間はすなわち柱状構造の間に形成された気孔や空隙などである。また当業者にとって認識されるように、溶射法を介して被覆されたサーマルバリアコーティングは、溶射法を介して形成された飛沫や微小割れにより、蛇行かつ相互連結した孔隙を呈する。
【0017】
いったんサーマルバリアコーティングが適用されると、図1のステップ16に示すように懸濁液を含む溶液に浸漬される。この懸濁液は、溶媒と、もともと金属酸化物として存在する金属と、少なくとも一つの紫外線硬化性樹脂と、少なくとも一つの分散剤と、これに代えてもしくはこれに加えて、少なくとも一つの界面活性剤と、を含む。サーマルバリアコーティングが隙間のある柱状構造をもつ場合、物品を約68°F(20℃)〜約150°F(66℃)の温度で、はじめ約10torr(0.19psi)〜約100torr(1.9psi)の減圧下で約2分〜約5分間懸濁液に浸漬し、そしてこの段階で大気圧、すなわち760torr(14.7psi)に調節する。サーマルバリアコーティングが蛇行、相互連結した孔隙をもつ場合、物品を約68°F(20℃)〜約150°F(66℃)の温度で、はじめ約10torr(0.19psi)〜約100torr(1.9psi)の減圧下で約2分〜約10分間懸濁液に浸漬し、そしてこの段階で大気圧に調節する。当業者にはこの処理はまた真空含浸法としても知られる。この目的は金属が入り込む空間をつくるためにサーマルバリアコーティングの隙間や孔隙内の空気を抜くことである。空気をさらに抜くためには、例えば懸濁液内で物品を動かして残りの空気を追い出すように、物品を攪拌する。
【0018】
サーマルバリアコーティングが被覆された物品を浸漬した後、図1のステップ18でこのコーティングされた物品を紫外線光エネルギーで処理して金属含有サーマルバリアコーティング内に含まれる紫外線硬化性樹脂を硬化させる。コーティングされた物品は当業者に周知の方法を用いて紫外線光エネルギーで約10秒〜約60秒間処理される。別の方法として、熱硬化性樹脂を利用する場合、コーティングされた物品は、当業者に周知のように、オーブンもしくはこれに類似した適切な装置内で約300°Fの温度で約20分〜約60分間処理される。
【0019】
サーマルバリアコーティングが被覆された物品を硬化させた後、図1のステップ20で余分な溶媒、分散剤や樹脂材料を除去、すなわち蒸発もしくはバーンオフ(燃焼除去)させるように物品を乾燥させる。物品は、当業者に周知の本発明で使用されるのに適した任意の方法を用いて乾燥される。適切な乾燥方法は、空気乾燥、圧力下での乾燥、発熱体の下での乾燥、および前記の方法のうち少なくとも一つを備えた組み合わせなどを含む。物品を乾燥させるのに要する時間は幾つかの要因、特に懸濁液の溶媒に依存する。例えば、金属を含有するサーマルバリアコーティングが被覆された物品は、樹脂材料をバーンオフするために約750°F〜約1600°Fの温度で約10分〜約90分間乾燥される。
【0020】
懸濁液に用いられる適切な溶媒は、水、アルコール、および前記の溶媒のうち少なくとも一つをもつ組み合わせなどを含む。適切な分散剤は、乾燥ステップ時に簡単に蒸発もしくはバーンオフされる有機分散剤を含む。代表的な有機分散剤は、ポリメタクリル酸メチル(「PMMA」としても知られる)、ポリビニルアルコールなど、これに限定せずに含む。前記「少なくとも一つの分散剤」は、懸濁液の約0.25%〜約3%(体積%)存在する。本発明の処理に用いられる適切な金属は、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、およびイットリウムを、これに限定せず含む。これらの適切な金属はもともと同じ金属の酸化物の形で懸濁液内に存在しうる。金属酸化物は解離して、金属粒子として前記の金属を形成する。金属粒子は約10nm〜約1000nmの直径をもつとともに、懸濁液中に約25%〜約50%(体積%)存在する。この金属粒子の大きさにより、金属がサーマルバリアコーティングに浸透して、隙間や蛇行、相互連結した孔隙内に定着することを可能にしている。
【0021】
再び図1を参照すると、物品の乾燥後、所望の金属含有サーマルバリアコーティング特性を達成するために、ステップ22では、ステップ16,18,20が必要なだけ繰り返される。コーティングされた物品の所望の金属含有サーマルバリアコーティング特性は、少なくともサーマルバリアコーティングの隙間もしくは蛇行、相互連結した孔隙内における金属の所望の充填量によって特徴づけられるとともに、金属含有サーマルバリアコーティングの所望の孔隙率を含む。サーマルバリアコーティング内の所望の金属充填量は、サーマルバリアコーティングの約25%〜約100%(重量%)であり、望ましくはサーマルバリアコーティングの約60%〜約70%である。金属含有サーマルバリアコーティングの所望の孔隙率は約30%(体積%)以下であり、望ましくは約20%以下である。
【0022】
紫外線硬化性樹脂は、光開始剤、添加剤、条件剤、モノマー、およびオリゴマーの各々を少なくとも一つずつ含む樹脂である。樹脂は、例えば二重硬化樹脂などの、一つもしくは複数の硬化ステップを要するウレタンベースの樹脂を含む。少なくとも一つの光開始剤は、紫外線と適合する波長の紫外光エネルギーに露出されたときに樹脂の重合を開始する物質を含む。二重硬化樹脂では、2つの開始剤が必要であり、樹脂の重合を促進するために第2の開始剤が加熱を要する。コーティングを硬化させる際、例えば当業者に周知のようにコーティングの柱状構造もしくは微小柱状構造の間や、あるいはコーティング内の特定の深みなどの、樹脂材料に紫外光エネルギーが到達しない部位には二重硬化樹脂が効果的である。少なくとも一つの添加剤は、例えば流動度、湿潤度、色、蛍光、および不粘着性表面の達成といった(限定せず)、一つもしくは複数の樹脂特性を促進させることが可能な充填化学物質を含む。少なくとも一つの条件剤は、例えば樹脂の耐衝撃性や亀裂耐性などの耐久性を向上させることが可能な物質を含む。少なくとも一つのモノマーは、例えばコーティングされた物品表面への樹脂の付着などの、表面物質への付着を提供し向上させることが可能な、少なくとも一つのポリマーの一単位を含む。少なくとも一つのオリゴマーは、樹脂のバックボーンとして認識されるとともに、例えば硬度、伸び率、耐化学性などの(限定せず)、紫外線硬化性樹脂の基本的特性を与える約6個のモノマーユニットから約40個のモノマーユニットのポリマーユニットを含む。別の方法では、当業者に周知のように紫外線硬化性樹脂が少なくとも一つの熱硬化性樹脂に置き換えられうる。
【0023】
図2を参照すると、本発明の別の方法を表すフローチャートが示される。前述の物品が提供され、図2のステップ30,32で先に述べた任意選択的な一つもしくは複数のボンディングコート材料と、前述の一つもしくは複数のサーマルバリア化合物と、が適用される。本願に記載された前述の任意の適切な適用法を用いてサーマルバリアコーティングが適用される。
【0024】
図2のステップ34では、物品が、もともと金属の酸化物として存在する少なくとも一つの金属粒子を含む懸濁液を備えた溶液内に浸漬され、ここで金属が当業者に周知の電気泳動堆積法を用いてサーマルバリアコーティングに適用される。金属粒子に加え、懸濁液はまた、少なくとも一つの溶媒と、少なくとも一つのpH安定剤と、任意選択的に分散剤と、任意選択的に結合剤と、を含む。
【0025】
懸濁液の金属粒子濃度は、固体粒子で懸濁液の約0.001%〜約5%(重量%)であり、望ましくは固体粒子で懸濁液の約0.005%〜約0.05%である。金属粒子は約0.02ミクロン〜約0.2ミクロンの直径をもち、望ましくは約0.05ミクロンの直径をもつ。
【0026】
電気泳動堆積法を通して、懸濁液は約68°F(20℃)〜約120°F(49℃)の温度に保たれるが、68°Fの温度、例えば室温、が望ましい。物品を懸濁液に浸漬する際、懸濁液のpHは金属粒子の等電点を下回る値に保たれる。金属粒子の等電点は当業者に周知の任意の種類の方法を用いて測定される。懸濁液のpH値は約2〜約7に維持されるが、約3〜約4.5のpHが望ましい。
【0027】
本実施例で用いられる適切な溶媒は、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノールなど)、トリクロロエタン、およびこれらの混合物などである。懸濁液のpHレベルは少なくとも一つの酸を添加することにより維持される。本実施例で用いられる適切な酸は、硝酸、塩酸、酢酸、ステアリン酸、およびこれらの混合物などを、これに限定せず含む。金属粒子の凝集や沈降を防ぐための本実施例で用いられる適切な分散剤は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ステアリン酸アンモニウムなど、これに限定せず含む。適切な結合剤は、ポリビニルアルコールなど、これに限定せず含む。
【0028】
金属粒子は懸濁液内で直流の正電荷にバイアスされる。同時に、物品を直流の負電荷にバイアスして、懸濁した金属粒子をサーマルバリアコーティングの表面へと加速させる。その後金属粒子がサーマルバリアコーティングに浸透し、例えばサーマルバリアコーティングの微小構造の隙間や蛇行、相互連結した孔隙に浸透する。一般的な負のバイアス電圧は約50V〜約2000Vの範囲である。電圧が高いほど堆積率が高くなるが、高い電圧は危険をもたらし作業場の安全上の問題を増大させる。
【0029】
図2のステップ36では、金属含有サーマルバリアコーティングで被覆された物品が約68°Fの温度で約1時間〜約20時間、望ましくは約3時間〜約10時間乾燥される。約250°Fまで温度を上昇させることにより、乾燥時間が約0.5時間〜約5時間、望ましくは約1時間〜約2時間短縮される。物品の乾燥後、ステップ38で所望の金属含有サーマルバリアコーティング特性を達成するようにステップ34,36が必要なだけ繰り返される。
【0030】
図2のステップ40では、金属含有サーマルバリアコーティングで被覆された物品が約1950°F〜約2000°Fの温度で約3時間〜約4時間、望ましくは約1975°Fの温度で約4時間、例えば焼結などにより熱処理される。コーティングされた物品の所望の金属含有サーマルバリアコーティング特性は、少なくともサーマルバリアコーティングの隙間もしくは蛇行、相互連結した孔隙内における金属の所望の充填量によって特徴づけられるとともに、金属含有サーマルバリアコーティングの所望の孔隙率を含む。サーマルバリアコーティング内の所望の金属充填量は、サーマルバリアコーティングの約25%〜約100%(重量%)であり、望ましくはサーマルバリアコーティングの約60%〜約70%である。金属含有サーマルバリアコーティングの所望の孔隙率は約30%(体積%)以下であり、望ましくは約20%以下である。
【0031】
図3を参照すると、本発明の別の方法を表すフローチャートが示される。前述の物品が提供され、図3のステップ50,52で、先に述べた任意選択的な一つもしくは複数のボンディングコート材料と、前述の一つもしくは複数のサーマルバリア化合物と、が適用される。本願に記載された前述の任意の適切な適用法を用いてサーマルバリアコーティングが適用される。
【0032】
いったんサーマルバリアコーティングが適用されると、図3のステップ54に示すように水溶液に浸漬される。この水溶液は、溶媒と、もともと金属塩として存在する金属と、を含む。物品は金属塩水溶液中に室温で浸漬されて、金属塩水溶液中に含まれる金属が真空含浸される。隙間のある柱状構造をもつサーマルバリアコーティングを真空含浸する際、物品を約68°F(20℃)〜約150°F(66℃)の温度で、はじめ約10torr(0.19psi)〜約100torr(1.9psi)の減圧下で約2分〜約5分間浸漬し、そしてこの段階で大気圧、すなわち760torr(14.7psi)に調節する。水溶液がサーマルバリアコーティング内への金属の浸透を妨げうる粘性を示す場合、約68°F〜約150°Fの範囲内でより高い温度が利用される。サーマルバリアコーティングが蛇行、相互連結した孔隙をもつ場合、物品を室温で、はじめ約10torr(0.19psi)〜約100torr(1.9psi)の減圧下で約2分〜約10分間懸濁液に浸漬し、そしてこの段階で大気圧に調節する。コーティング内に金属が入り込む空間をつくるべくサーマルバリアコーティングの隙間や孔隙内の空気を抜くために、水溶液内での物品の攪拌のほかに真空含浸が利用される。
【0033】
水溶液に用いられる適切な溶媒は、水、および少なくとも水を含む組み合わせなどである。本発明の処理に用いられる適切な金属は、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、およびイットリウムを、これに限定せず含む。これらの適切な金属は、例えば酢酸ガドリニウム、硝酸ガドリニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムなどのように、もともと同一の金属の塩の形で水溶液中に存在しうる。金属塩は解離して、金属粒子として前記の金属を形成する。金属粒子は約10nm〜約1000nmの直径をもつとともに、水溶液中に約25%〜約50%(体積%)存在する。この金属粒子の大きさにより、金属がサーマルバリアコーティングに浸透して、隙間や蛇行、相互連結した孔隙内に定着することを可能にしている。
【0034】
サーマルバリアコーティングがコーティングされた物品を浸漬した後、図3のステップ56で、溶媒を除去、すなわち蒸発もしくはバーンオフさせるのに必要な所定時間、この浸漬された物品を約300°Fの温度で乾燥させる。溶媒を除去した後、ステップ58で所望の金属含有サーマルバリアコーティング特性を達成するようにステップ54,56が必要なだけ繰り返される。その後図3のステップ60で物品が約300°F(149℃)〜約750°F(399℃)の温度で熱処理されて水溶液から例えば酢酸塩や硝酸塩などの余分な反応物が除去される。コーティングされた物品の所望の金属含有サーマルバリアコーティング特性は、少なくともサーマルバリアコーティングの隙間もしくは蛇行、相互連結した孔隙内における金属の所望の充填量によって特徴づけられるとともに、金属含有サーマルバリアコーティングの所望の孔隙率を含む。サーマルバリアコーティング内の所望の金属充填量は、サーマルバリアコーティングの約25%〜約100%(重量%)であり、望ましくはサーマルバリアコーティングの約60%〜約70%である。金属含有サーマルバリアコーティングの所望の孔隙率は約30%(体積%)以下であり、望ましくは約20%以下である。
【0035】
図4を参照すると、本発明の別の方法を表すフローチャートが示される。物品が提供されて、図4のステップ70,72で任意選択的なボンディングコート材料層と、サーマルバリア化合物と、が適用される。すなわち、前述の物品が提供され、先に述べた任意選択的な一つもしくは複数のボンディングコート材料と、前述のサーマルバリア化合物とが被覆される。任意選択的なボンディングコートおよびサーマルバリアコーティングは、本願に記載された前述の任意の適切な適用法を用いて適用される。
【0036】
いったんサーマルバリアコーティングが適用されると、サーマルバリアコーティングが被覆された物品に、(a)前述の溶媒と、もともと金属酸化物として存在している金属と、少なくとも一つの紫外線硬化性樹脂と、少なくとも一つの拡散剤と、これに代えてもしくはこれに加えて、少なくとも一つの界面活性剤と、を含む前記の懸濁液、もしくは(b)前述の溶媒と、もともと金属塩として存在する金属と、を含む前記の水溶液、のいずれかが吹き付けられる。すなわち、ステップ74a,74bで、前記の懸濁液および前記の水溶液の各々がサーマルバリアコーティングされた物品の少なくともサーマルバリアコーティングの上に本実施例の用途に適した当業者に周知の任意の方法を用いて吹き付けられる。適切なスプレー法は、空気圧スプレー、エアレススプレー、溶射法、エアプラズマスプレー法、高速フレーム溶射法、および前記のスプレー法ののうち少なくとも一つを備えた組み合わせなど、これに限定せず含む。
【0037】
サーマルバリアコーティングが被覆された物品のスプレー後、本明細書で先にも述べたように金属含有サーマルバリアコーティングで被覆された物品が、この金属含有サーマルバリアコーティング内に存在する紫外線硬化性樹脂を硬化させるように紫外光エネルギーで処理される。サーマルバリアコーティングで被覆された物品をステップ76aで硬化させた後、サーマルバリアコーティングに残る余分な反応物を除去するように金属含有コーティングされた物品が乾燥される。例えば、ステップ78a,76bでは、金属含有コーティングされた物品が約10torr〜約100torrの減圧下、約68°F(20℃)〜約150°F(66℃)の温度でコーティングを乾燥させるのに十分な時間、乾燥される。
【0038】
前記の懸濁液を利用する場合、ステップ80aでは、先にも述べたように前記の所望の金属含有特性を達成するためにステップ74a,76a,78aが必要なだけ繰り返される。前記の水溶液を利用する場合、ステップ78bでは、先に述べたように前記の所望の金属含有特性を達成するためにステップ74b,76bが必要なだけ繰り返される。
【0039】
先にも述べたように、金属塩を含む水溶液の使用は、金属含有サーマルバリアコーティングで被覆された物品から余分な反応物を除去するための追加のステップを必要とする。図4のステップ80bでは、物品が約300°F〜約750°Fの温度で熱処理されて水溶液から、例えば酢酸塩や硝酸塩などの余分な反応物が除去される。
【0040】
図4に示す方法を用いてコーティングされた物品を形成する場合、結果として生じる金属含有サーマルバリアコーティングでコーティングされた物品は、サーマルバリアコーティング内にサーマルバリアコーティング重量の約25%〜約100%(重量%)望ましくは約60%〜約70%の所望の金属充填量を含むとともに、これに加え、もしくはこれに代えて、約30%(体積%)以下、望ましくは約20%以下の所望の孔隙率を有する。
【0041】
図5を参照すると、本発明の別の方法を表すフローチャートが示される。物品が提供されて、図5のステップ90,92でサーマルバリアコーティングを形成するように任意選択的なボンディングコート材料と、サーマルバリア化合物と、が適用される。すなわち、前述の物品が提供され、先に述べた任意選択的な一つもしくは複数のボンディングコート材料と、サーマルバリア化合物と、が被覆される。任意選択的なボンディングコートおよびサーマルバリアコーティングは、本願に記載された前述の任意の適切な適用法を用いて適用される。
【0042】
いったんサーマルバリアコーティングが適用されると、サーマルバリアコーティングが被覆された物品は、(a)前述の溶媒と、もともと金属酸化物として存在している金属と、少なくとも一つの紫外線硬化性樹脂と、少なくとも一つの拡散剤と、これに代えてもしくはこれに加えて、少なくとも一つの界面活性剤と、を含む前記の懸濁液、もしくは(b)前述の溶媒と、もともと金属塩として存在する金属と、を含む前記の水溶液、のいずれかで、はけ塗り、すなわち塗装される。すなわち、ステップ94a,94bで、前記の懸濁液および前記の水溶液の各々が、サーマルバリアコーティングされた物品の少なくともサーマルバリアコーティングの上に本実施例の用途に適した当業者に周知の任意の方法を用いてはけ塗り、すなわち塗装される。
【0043】
ステップ94aにおいてサーマルバリアコーティングで被覆された物品をはけ塗り、すなわち塗装した後、本明細書で先にも述べたように金属含有サーマルバリアコーティング内に存在する紫外線硬化性樹脂を硬化させるように、ステップ96aで、金属含有サーマルバリアコーティングで被覆された物品を紫外光エネルギーで処理する。ステップ96aで、金属含有サーマルバリアコーティングで被覆された物品を硬化させた後、サーマルバリアコーティング内に残る余分な反応物を除去するように金属含有コーティングされた物品が乾燥される。
【0044】
図5のステップ98aでは、本明細書で先にも述べたように物品が任意の適切な方法を用いて乾燥される。図5のステップ96bでは、本明細書で先にも述べたように任意の適切な方法を用いて余分な溶媒を除去するように物品が乾燥される。
【0045】
前記の懸濁液を利用する場合、図5のステップ100aでは、先にも述べたように前記の所望の金属含有特性を達成するようにステップ94a,96a,98aが必要なだけ繰り返される。前記の水溶液を利用する場合、図5のステップ98bでは、先に述べたように前記の所望の金属含有特性を達成するようにステップ94b,96bが必要なだけ繰り返される。
【0046】
先にも述べたように、金属塩を含む水溶液の使用は、金属含有サーマルバリアコーティングで被覆された物品から余分な反応物を除去するための追加のステップを必要とする。図5のステップ100bでは、物品が約300°F〜約750°Fの温度で熱処理されて水溶液から、例えば酢酸塩や硝酸塩などの余分な反応物が除去される。
【0047】
図5に示す方法を用いてコーティングされた物品を形成する場合、結果として生じる金属含有サーマルバリアコーティングでコーティングされた物品は、サーマルバリアコーティング内にサーマルバリアコーティング重量の約25%〜約100%(重量%)望ましくは約60%〜約70%の所望の金属充填量を含むとともに、これに加え、もしくはこれに代えて、サーマルバリアコーティング体積の約30%(体積%)以下、望ましくは約20%以下の所望の孔隙率を有する。
【0048】
本発明のすべての方法により結果として生じる生成物は、金属もしくは金属酸化物を含有するサーマルバリアコーティングが被覆された物品である。先にも述べたように、物品は、エーロフォイルをもつあらゆる部品、シールをもつあらゆる部品、エーロフォイル、シールなど(限定せず)の、ターボ機械用途で用いられる部品を含む。当業者に周知のように、一般にシールをもつターボ機械部品もしくはシールにおけるサーマルバリアコーティングは、一般にエーロフォイルをもつターボ機械部品もしくはエーロフォイルにおけるサーマルバリアコーティングよりも、その厚さが一般に厚い。同様に、本発明のコーティングされた物品の金属含有サーマルバリアコーティングは、当業者に周知のようにこれらの工業基準に準拠する。
【0049】
例えば物品は、ブレード、ベーン、ステータ、および中間タービンフレームを含む(限定せず)。さらに別の例として物品は、シール、燃焼器パネル、燃焼室、燃焼器隔壁パネル、ディスク側プレート、および燃料ノズルガイドを含む(限定せず)。
【0050】
一般的に、エーロフォイルを有するコーティングされた物品、もしくはコーティングされたエーロフォイルにおける本発明の金属含有サーマルバリアコーティングは約5mil〜約15milの厚さである。また、一般的に、シールを有するコーティングされた物品、もしくはコーティングされたシールにおける本発明の金属含有サーマルバリアコーティングは約0.5mil〜約50milの厚さである。これらコーティングされた物品におけるサーマルバリアコーティングの厚さの幅は、当業者に将来的に認識され理解されるように物品の特定の用途に依り、拡大もしくは縮小されうる。
【0051】
図6および図7を参照すると、本発明のすべての方法により結果として得られる製品は、任意選択的なボンディングコート層112と、金属含有サーマルバリアコーティングの少なくとも一つの層114と、が被覆された物品110(図6参照)でもよく、もしくは金属含有サーマルバリアコーティングの少なくとも一つの層122が被覆された物品120(図7参照)でもよい。前述のように、物品は、エーロフォイルをもつ任意の部品、シールをもつ任意の部品、エーロフォイル、シールなど(限定せず)といった、ターボ機械用途で用いられる部品を含みうる。当業者に周知のように、シールをもつターボ機械部品、もしくはシールのサーマルバリアコーティングは、一般的にエーロフォイルをもつターボ機械部品、もしくはエーロフォイルのサーマルバリアコーティングよりも厚い。同様に、本発明のコーティングされた物品の金属含有サーマルバリアコーティングは、当業者に周知のようにこれらの工業基準に準拠する。
【0052】
本発明の金属含有サーマルバリアコーティングは、少なくともセラミックベースの化合物と、約10nm〜約1000nmの直径をもつ微粒子を含むとともにコーティング重量の少なくとも約25%(重量%)存在する金属と、金属酸化物と、を含む。金属はコーティングの全体を通して分散し、望ましくは物品の表面からサーマルバリアコーティングの表面まで分散する。金属粒子は望ましくはサーマルバリアコーティングの柱状構造の隙間内、もしくはサーマルバリアコーティングの蛇行、相互連結した孔隙内に分散する。結果として、金属含有サーマルバリアコーティングはコーティングの約30%(体積%)以下の孔隙率をもち、望ましくはサーマルバリアコーティングの約20%以下である。
【0053】
本発明の金属含有サーマルバリアコーティングは、概ね、サーマルバリアコーティング重量の約25%〜約100%(重量%)の金属を含み、望ましくはサーマルバリアコーティング重量の約60%〜約70%の金属を含むとともに、残部はセラミックベースの化合物と金属酸化物とを含む。
【0054】
本発明のサーマルバリアコーティングにおけるセラミックベースの化合物は、任意の安定化ジルコン酸塩もしくは任意の安定化ハフニウム酸塩を含み、これは例えば、イットリア安定化ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ハフニア、カルシア安定化ハフニア、マグネシア安定化ハフニアなどである。金属酸化物は、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、および前記の金属のうち少なくとも一つを含む組み合わせなど、これらに限定しない金属酸化物を含む。金属塩は、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、および前記の金属のうち少なくとも一つを含む組み合わせなど、これらに限定しない金属塩を含む。
【0055】
本発明のサーマルバリアコーティングの金属酸化物は、本発明の処理を酸化環境下で行うことにより形成される。当業者に周知のように、サーマルバリアコーティングは、通常、化学安定性を向上させ耐久性を高めるための金属酸化物を含む。金属酸化物は、単一の金属酸化物、2元系(binary)金属酸化物、3元系(tertiary)金属酸化物、および多元系(poly)金属酸化物(4元系(quaternary)など)を含む。2元、3元、多元系金属酸化物は、例えば2つ以上の金属塩もしくは金属酸化物など、最初に2つ以上の金属が存在することにより形成されることもあり、あるいは本発明の処理時のセラミックベース化合物中に存在する金属と、金属酸化物もしくは金属塩と、の反応生成物として形成されることもある。同様に、単一の金属酸化物は、もともとの金属酸化物、もともとの金属塩の酸化物、セラミックベース化合物の金属の酸化物などとして存在する。
【0056】
本発明のサーマルバリアコーティングは、例えばカルシウムマグネシアアルミナシリケート(以下、「CMAS」と表記)などの、溶融砂粒の少なくとも一つの成分と反応して、サーマルバリアコーティング上もしくはこの内部にシーラント層を形成するように設計されている。結果として、本発明のサーマルバリアコーティング層は使用時には、CMASと本発明の金属含有サーマルバリアコーティング組成の構成成分との少なくとも一つの反応生成物を備える。
【0057】
金属含有サーマルバリアコーティング組成の構成成分は、本明細書に記載された所定量を含む前述の金属、金属酸化物、およびセラミックベースの化合物である。CMASと本発明のサーマルバリアコーティングの金属との反応生成物は、本発明の金属含有サーマルバリアコーティングの有効期間中に複数の反応生成物が形成されうるので、さらに少なくとも一つの反応生成物を含む。例えば、ガドリニウム、酸化ガドリニウム、および7YSZを含む金属含有サーマルバリアコーティングがCMASと反応して、少なくともガドリニア、カルシア、ジルコニア、およびシリカを含んでなるケイ酸オキシアパタイト(silicate oxyapatite)を少なくとももつ反応生成物を形成する。
【0058】
金属がサーマルバリアコーティング全体を通して分散され、溶融砂粒がコーティングされた物品の表面を通して浸透するに従い、本発明の金属含有サーマルバリアコーティング全体を通して一つもしくは複数の反応生成物が形成される。少なくとも一つの反応生成物が金属含有サーマルバリアコーティングを通してシーラント組成物すなわちシーラント層を形成する。金属含有サーマルバリアコーティングが、例えば磨耗、腐食、剥離など、一般的な使用に見合った通常の摩損や破損を受けながらも、結果的なシーラント組成物は依然として残る。したがって、金属含有サーマルバリアコーティングが有効期間中に磨耗していくと、シーラント層は再形成されて損傷を受けていない状態のまま残り、効果的に金属含有サーマルバリアコーティングに取って代わる。また結果的なシーラント層はサーマルバリアコーティングの30%(体積%)以下の所望の孔隙率を示し、望ましくはサーマルバリアコーティングの20%以下の孔隙率を示す。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一方法を示すフローチャート。
【図2】図1の本発明の別の方法を示すフローチャート。
【図3】本発明の別の方法を示すフローチャート。
【図4】本発明の別の方法を示すフローチャート。
【図5】本発明の別の方法を示すフローチャート。
【図6】ボンディングコートおよび本発明の金属含有サーマルバリアコーティングの少なくとも一つの層がコーティングされた物品を示す図。
【図7】本発明の金属含有サーマルバリアコーティングの少なくとも一つの層がコーティングされた物品を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)物品上にセラミックベースの化合物の層を形成し、
(2)約10nm〜約1000nmの直径をもつ金属粒子を約25%〜約50%(体積%)含有する溶液を提供し、
(3)前記セラミックベースの化合物層を前記溶液と接触させ、
(4)前記物品を乾燥させる物品のコーティング方法。
【請求項2】
(5)任意選択的にステップ(3)およびステップ(4)を繰り返すステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項3】
前記セラミックベースの化合物の層を形成する前に、前記物品上に任意選択的にボンディングコート材料の層を形成し、このボンディングコート層の上に前記セラミックベースの化合物層を形成することをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項4】
前記形成ステップが、物理蒸着法、溶射法、スパッタリング、ゾル‐ゲル法、およびスラリ法よりなるグループから選択される方法を用いて前記セラミックベースの化合物を形成することを特徴とする請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項5】
前記物理蒸着法が、電子ビーム物理蒸着法であることを特徴とする請求項4に記載のコーティング方法。
【請求項6】
前記溶射法が、高速フレーム溶射法もしくはエアプラズマ溶射法であることを特徴とする請求項4に記載のコーティング方法。
【請求項7】
前記接触ステップが、もともと金属酸化物として存在する前記金属と、分散剤、紫外線硬化性樹脂、および任意選択的に界面活性剤の各々を少なくとも一つずつと、を含んでなる懸濁液からなる前記溶液中に前記物品を浸漬することを備えてなる請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項8】
前記浸漬が、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、およびこれらの混合物よりなるグループから選択された少なくとも一つの金属を含んだ前記金属酸化物からなる前記溶液中に前記物品を浸漬することを備える請求項7に記載のコーティング方法。
【請求項9】
前記浸漬が、最初に前記物品を約10torr〜約100torrの圧力で約2分〜約5分間浸漬することを備える請求項7に記載のコーティング方法。
【請求項10】
任意選択的にステップ(3)、(4)を繰り返すステップが、前記物品を約14.7psiで浸漬することを備える請求項9に記載のコーティング方法。
【請求項11】
前記接触ステップが、前記物品を約60°F〜約65°Fで浸漬することを備える請求項7に記載のコーティング方法。
【請求項12】
前記物品を、紫外光エネルギーを用いて約10秒〜約60秒間硬化させるステップと、
前記物品を約750°F〜約1600°Fの温度で約10分〜約90分間熱処理するステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載のコーティング方法。
【請求項13】
前記物品を約300°Fの温度で約20分〜約60分間硬化させるステップと、
前記物品を約750°F〜約1600°Fの温度で約10分〜約90分間熱処理するステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載のコーティング方法。
【請求項14】
前記接触ステップが、前記セラミックベースの化合物層に、もともと金属塩の形の金属を含む前記溶液を浸透させることを備える請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項15】
前記浸透が、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、およびこれらの混合物よりなるグループから選択された少なくとも一つの金属を含んだ前記金属塩からなる前記溶液を前記セラミックベースの化合物層に浸透させることを備える請求項14に記載のコーティング方法。
【請求項16】
前記乾燥が、前記セラミックベースの化合物層を約300°Fの温度で脱水することを備える請求項14に記載のコーティング方法。
【請求項17】
前記ステップ(4)後に、前記物品を約300°F〜約750°Fの温度で熱処理することをさらに備えることを特徴とする請求項16に記載のコーティング方法。
【請求項18】
前記接触ステップが、もともと金属塩の形で存在する前記金属を含んだ前記溶液で前記物品をスプレーすることを備える請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項19】
前記スプレーが、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、およびこれらの混合物よりなるグループから選択された少なくとも一つの金属を含んだ前記金属塩からなる前記溶液で、前記物品をスプレーすることを備える請求項18に記載のコーティング方法。
【請求項20】
前記スプレーが、前記コーティングされた物品を前記溶液でエアスプレーもしくは溶射することを特徴とする請求項18に記載のコーティング方法。
【請求項21】
前記スプレーが、最初に前記コーティングされた物品を約10torr〜約100torrの圧力で約2分〜約10分間スプレーすることを備える請求項18に記載のコーティング方法。
【請求項22】
前記接触ステップが、もともと金属塩の形で存在する前記金属を含んだ前記溶液で前記物品をはけ塗りすることを備える請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項23】
前記はけ塗りが、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、およびこれらの混合物よりなるグループから選択された少なくとも一つの金属を含んだ前記金属塩からなる前記溶液で、前記物品をはけ塗りすることを備える請求項18に記載のコーティング方法。
【請求項24】
前記接触ステップが、
もともと金属酸化物として存在する前記金属と、分散剤、結合剤、および酸の各々の少なくとも一つずつと、の懸濁液からなる前記溶液中に前記物品を浸漬するステップと、
前記物品を負にバイアスさせるステップと、
前記懸濁液を正にバイアスさせるステップと、
前記セラミックベースの化合物に前記金属を浸透させるステップと、
前記物品を約1950°F〜約2000°Fの温度で約3時間〜約4時間焼結させるステップと、
を備えてなる請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項25】
前記コーティングされた物品の乾燥が、前記物品を約68°Fの温度で約1時間〜約20時間乾燥させることを特徴とする請求項24に記載のコーティング方法。
【請求項26】
前記コーティングされた物品の乾燥が、前記物品を約250°Fまでの温度で約0.5時間〜約5時間乾燥させることを特徴とする請求項25に記載のコーティング方法。
【請求項27】
サーマルバリアコーティングが設けられた少なくとも一つの外表面をもつ物品からなるコーティングされた物品であって、
前記サーマルバリアコーティングが、セラミックベースの化合物と、金属酸化物と、前記セラミックベースの化合物の少なくとも約25%(重量%)の金属と、を備えるとともに、前記サーマルバリアコーティングの約30%(体積%)以下の孔隙率をもつことを特徴とするコーティングされた物品。
【請求項28】
前記少なくとも一つの外表面と、前記サーマルバリアコーティングと、の間に配置されたボンディングコート層をさらに備えることを特徴とする請求項27に記載のコーティングされた物品。
【請求項29】
前記ボンディングコート層が、MCrAlYの化学組成をもつボンディングコート材料を備えるとともに、前記Mが、ニッケル、コバルト、鉄、およびこれらの混合物よりなるグループから選択される金属であることを特徴とする請求項28に記載のコーティングされた物品。
【請求項30】
前記ボンディングコート層が、アルミニウム、白金、およびこれらの混合物よりなるグループから選択されたボンディングコート材料を備えることを特徴とする請求項28に記載のコーティングされた物品。
【請求項31】
前記ボンディングコート層が、アルミニウム、白金、およびMCrAlYよりなるグループから選択されたボンディングコート材料を備えるとともに、前記MCrAlYの前記Mは、ニッケル、コバルト、鉄、およびこれらの混合物よりなるグループから選択された金属であることを特徴とする請求項28に記載のコーティングされた物品。
【請求項32】
前記セラミックベースの化合物が、イットリア安定化ジルコニア、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ハフニア、カルシア安定化ハフニア、およびマグネシア安定化ハフニアよりなるグループから選択されることを特徴とする請求項27に記載のコーティングされた物品。
【請求項33】
前記金属酸化物が、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、およびこれらの混合物よりなるグループから選択された少なくとも一つの金属の酸化物であることを特徴とする請求項27に記載のコーティングされた物品。
【請求項34】
前記金属が、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、およびこれらの混合物よりなるグループから選択されることを特徴とする請求項27に記載のコーティングされた物品。
【請求項35】
前記物品が、ブレード、ベーン、ステータ、および中間タービンフレームよりなるグループから選択されることを特徴とする請求項27に記載のコーティングされた物品。
【請求項36】
前記サーマルバリアコーティングが、約5mil〜約15milの厚さをもつことを特徴とする請求項35に記載のコーティングされた物品。
【請求項37】
前記物品が、シール、燃焼器パネル、燃焼室、燃焼器隔壁シールド、ディスク側プレート、および燃料ノズルガイドよりなるグループから選択されることを特徴とする請求項27に記載のコーティングされた物品。
【請求項38】
前記サーマルバリアコーティングが、約0.5mil〜約50milの厚さをもつことを特徴とする請求項37に記載のコーティングされた物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−185654(P2007−185654A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348887(P2006−348887)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】