説明

コーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金及びその製造方法

【課題】 酸化を防ぐことができ、濡れ性や接合性に優れた高温用のPbフリーZn系はんだ合金及びその製造方法と、そのPbフリーZn系はんだ合金によって接合された実装基板を提供する。
【解決手段】 シート状、ワイヤー状又はボール状であり、Znを80質量%以上含有するPbフリーZn系はんだ合金と、その表面にメッキ法、蒸着法、又はスパッタリング法により形成されたコーティング膜とからなるコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金であって、コーティング膜はAg、Au、Cu及びNiから選らばれた少なくとも1種からなり、コーティング膜の膜厚が0.05〜2.00μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pbを含まないPbフリーのZn系はんだ合金、特に表面を被覆した高温用のPbフリーZn系はんだ合金とその製造方法、及びそのPbフリーZn系はんだ合金を用いて接合された電子基板そして該電子基板が搭載された各種装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に有害な化学物質に関する規制が益々厳しくなってきているが、電子部品を基板に接合するなどの目的で使用されるはんだ材料に関しても例外ではない。特にはんだは古くからPbが主成分として使われ続けているが、既にRohs指令等で規制対象物質になっている。このため、Pbを含まないはんだ(Pbフリーはんだ又は無鉛はんだとも称する)の開発が盛んに行われてきた。
【0003】
電子部品を基板に接合するために用いるはんだは、使用限界温度で分けると、高温用(約260℃〜400℃)と中低温用(140℃〜230℃)に大別される。中低温用はんだに関しては、Snを主成分とするものでPbフリーが実用化されている。例えば、特許文献1には、Snを主成分とし、Agが1.0〜4.0質量%、Cuが2.0質量%以下、Niが0.5質量%以下、Pが0.2質量%以下の無鉛はんだ合金が記載され、また特許文献2にはAgが0.5〜3.5質量%、Cuが0.5〜2.0質量%、残部がSnからなる無鉛はんだが記載されている。
【0004】
一方、Pbを含まない高温用のはんだに関しては、一般的に十分な特性を有するものは提供されていないのが実情である。例えば、特許文献3にはBiを30〜80質量%含むBi/Ag系はんだが開示されているが、液相線温度は400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測される。一般的な電子部品や基板の材料として多用されている熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの作業温度は400℃未満、望ましくは370℃以下であることから、上記の作業温度は接合される電子部品や基板が耐えうる温度を超えていると考えられる。
【0005】
また、特許文献4には、Bi系はんだに関して、Biを含む共昌合金と2元共昌合金を加え、更に添加元素を加えることによって、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能な生産方法が開示されている。しかし、液相線の温度調整のみで4元系以上の多元系はんだになり、更にBiの脆弱な機械的特性については有効な改善がされていない。
【0006】
Zn系はんだについても、同様に実用的な高温用のPbフリーはんだ材料は存在しない。Zn系はんだの場合、Zn自身の還元性が強く自ら酸化してしまうため、濡れ性が非常に悪いことが大きな問題の一つである。例えば、特許文献5には、Alを1〜9質量%、Geを0.05〜1質量%含み、残部がZn及び不可避不純物からなる高温はんだ付け用のZn合金など、数種のZn系はんだ合金が記載されている。これらのZn系はんだ合金は、ZnにAlを添加することにより融点を下げることを基本とし、これにGe又はMgの添加、更にはSn又はInの添加により、融点を一層下げる効果があると述べられている。
【0007】
しかし、上記特許文献5に記載されたZn系はんだは、その組成の範囲内では合金の加工性が十分とは言えず、最も加工性が要求されるワイヤーへの加工は困難な場合が多い。しかも、濡れ性に関しては、上記のごとくZnは酸化し易く、Cu、Niなどに容易に接合できないという問題がある。GeやMgを添加しても、酸化したZnは還元できないため、濡れ性を向上させることは難しい。
【0008】
はんだの濡れ性が大きな問題になる場合、濡れ性を向上させるための手段として、金属をはんだの表面にコーティングすることが検討されている。例えば、特許文献6には、はんだ合金粉末粒子の表面に、当該はんだ合金の構成成分の1種以上によるコーティングを施し、且つ、はんだ合金粉末粒子全体の平均組成を当該はんだ合金の所定の合金組成と等しくした無鉛はんだ合金粉末が記載されている。
【0009】
上記特許文献6の表面コーティングしたZn系はんだ合金粉末では、コーティングにより優れた濡れ広がり性を得ると共に、コーティング材と初期はんだ材の組成を調整することで、リフロー時に均一に混ざって所定の組成となり、はんだ付けが可能になるとしている。しかし、コーティング材と初期はんだ材が均一な合金になるまでには相当な加熱時間を要すると考えられるうえ、実際にはメタライズ層との反応があるため、初期はんだ材とコーティング材のみの反応が起き、これらだけが均一な組成となることはあり得ず、現実的には実施が非常に困難な技術である。
【0010】
また、特許文献7には、Cuを50〜65質量%、Snを15〜29質量%含み、Ag、Bi、In、Znなどを添加した合金を溶融して製造した粒子にSnで表面処理を施した合金粒子であって、合金粒子の平均粒子径が0.1〜20μmの合金粒子が開示されている。この合金粒子は主成分の一つであるSnでコーティングされ、これらが加熱溶融後に初期最低融点よりも高い最低融点になることが記載されている。
【0011】
しかし、上記特許文献7に記載されている5〜6元系組成において、最低融点が上がる組成はごく一部に限られ、更に比較的融点の低いSnによる融点上昇効果は大きくないため、この合金粒子は高温用はんだには適用できない。更に、合金粒子の主成分での表面処理により接合性を向上させるためには、表面処理条件、合金粒子の保管や取り扱い条件、加熱溶融時雰囲気や温度など、非常にシビアな作業と管理が必要であり、コスト的なデメリットが大きく、実用性に乏しい方法であると考えられる。
【0012】
更に特許文献8には、部品の接合面にはんだ層を形成し、はんだ層の表面に酸化防止被覆膜を形成した後、はんだ層と酸化防止被覆膜を介して部品を被接合部品に当接すると共に加熱することによって、部品を被接合部品に接合する方法が記載されている。具体的には、LDチップの接合面に真空蒸着によりインジウム層を形成し、続いて真空状態が保持された状態で真空蒸着により酸化防止被覆膜を被覆した後、LDチップをヒートシンクに接合することが記載されている。
【0013】
しかしながら、上記特許文献8では、酸化防止のために真空蒸着ではんだ層と酸化防止被覆膜を形成する必要があるうえ、はんだ材料は一般的に多元素から形成されているため、蒸着法に限らずメッキ法やスパッタ法を含めても、多元素からなるはんだ層を組成ずれすることなく均一に電子部品等の表面に形成することは不可能である。従って、上記特許文献8の方法は、はんだ材料で電子部品を基板に接合する場合に適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開1999−77366号公報
【特許文献2】特開平8−215880号公報
【特許文献3】特開2002−160089号公報
【特許文献4】特開2006−167790号公報
【特許文献5】特許第3850135号公報
【特許文献6】特開2004−90011号公報
【特許文献7】特許第4342176号公報
【特許文献8】特開2004−174594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記したように、有望な高温用のPbフリーはんだの一つとして、はんだ合金の固相線が約260℃以上のZnを主成分とするZn系はんだ合金がある。しかし、Zn系はんだ合金は、Znの還元性が強く自らが酸化しやすいため表面に強固な酸化膜が生成し、更に接合時には酸素濃度を極力下げた状態でも酸化が進行してしまうため、濡れ性が非常に悪いという問題があった。
【0016】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、Zn系はんだ合金の酸化を防ぐことができ、濡れ性や接合性に優れた高温用のPbフリーZn系はんだ合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明者らは、Zn系はんだ合金の酸化を防ぎ、濡れ性及び接合性を向上させる手段について鋭意検討した結果、Zn系はんだ合金の表面に、電子部品や基板の最上層に使われていて、濡れ性がよいAg、Au、Cu又はNiをコーティングすることによって、酸化防止と同時に濡れ性及び接合性の向上が可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0018】
即ち、本発明が提供するコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金は、Znを80質量%以上含有するPbフリーZn系はんだ合金と、その表面に形成されたコーティング膜とを有し、形状がシート状、ワイヤー状又はボール状であって、該コーティング膜がAg、Au、Cu及びNiから選らばれた少なくとも1種からなり、且つ該コーティング膜の膜厚が0.05〜2.00μmであることを特徴とするものである。
【0019】
本発明は、また、上記したコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金の製造方法として、前記Znを80質量%以上含有するPbフリーZn系はんだ合金をシート状、ワイヤー状又はボール状に加工した後、その表面にAg、Au、Cu及びNiから選らばれた少なくとも1種からなる膜厚0.05〜2.00μmのコーティング膜を、メッキ法、蒸着法、又はスパッタリング法により形成することを特徴とするコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金の製造方法を提供する。
【0020】
更に、本発明は、上記したコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金を用いて、基板上に電子部品が接合されていることを特徴とする実装基板を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、環境に有害とされ、様々の規制を受けているPbを含まず、濡れ性や接合性に優れた高温用のPbフリーZn系はんだ合金及びその製造方法を提供することができる。本発明のPbフリーZn系はんだ合金は、高温での接合時だけでなく搬送その他の取り扱い時の酸化も防ぐことができ、電子部品と基板の接合において十分な接合強度と信頼性が得られるだけでなく、濡れ性及び接合性に優れ、しかも260℃以上のリフロー温度にも十分耐えることができるため、従来不可能であった高温でのはんだ付けが可能となり、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金は、Znを80質量%以上含有するPbフリーZn系はんだ合金と、その表面を覆うように形成されたコーティング膜とで構成されている。上記コーティング膜の材質は、Ag、Au、Cu及びNiから選らばれた少なくとも1種からなる。これらの金属は濡れ性が良いうえ、電子部品や基板の最上層に使われている金属と同種の金属であるために、電子部品や基板との接合性に優れている。
【0023】
本発明で用いるPbフリーZn系はんだ合金では、Znの含有量を80質量%以上とする。その理由は、Znが80質量%未満では、例えば低融点金属を添加した場合、リフロー温度、つまり約260℃以下での液相の割合が多くなりすぎ、リフロー時に電子部品等が固定できずに位置ずれを起こすからである。また、融点の高い元素を添加した場合、液相温度が高くなりすぎて良好な接合ができなくなる。例えば、第2元素としてAlを選定した場合、液相温度が450℃を超えてしまうため良好な接合ができなくなる。
【0024】
このようなPbフリーZn系はんだ合金としては、Zn含有量80質量%以上であれば特に制限はなく、従来から知られているZn系はんだ合金を用いることができる。上記PbフリーZn系はんだ合金の好ましい具体例としては、(1)Znが80質量%以上、Alが0.5〜9.0質量%、残部が不可避不純物からなるZn合金がある。この(1)のZn合金は、主成分のZnに対しAlを添加することにより融点を低下させたものであり、コーティング膜を形成することによりパワーモジュールのSi又はSiCチップの接合等に使用可能となる。
【0025】
また、上記PbフリーZn系はんだ合金の他の好ましい具体例として、(2)Znを80質量%以上、Alを9.0質量%以下含有すると共に、Ge、Mg及びSnから選ばれた少なくとも1種を含有し、各元素の含有量はGeが0.01〜9.0質量%、Mgが0.01〜0.5質量%、Snが0.01〜8.0質量%であり、残部が不可避不純物からなるZn合金がある。
【0026】
この(2)のZn合金は、主成分のZnに対してAlと共に、Ge、Mg及びSnから選ばれた少なくとも1種の元素を添加することで、更に融点を30℃程度低下させたものであり、コーティング膜を形成することにより現在使用されているPbはんだの代替品として、Siチップの接合等に使用することが可能となる。
【0027】
PbフリーZn系はんだ合金の表面を被覆しているコーティング膜の膜厚は、0.05〜2.00μmの範囲とする。コーティング膜の膜厚が0.05μm未満になると、薄すぎて均一に膜形成ができないだけでなく、濡れ性が不十分になるため好ましくない。逆に膜厚が2.00μmを超えると、厚すぎるため形成が難しくなるうえ、材料費や成膜時間がかかりコストアップに繋がり、更には接合時に膜形成金属とはんだ合金で作る合金の割合が高くなり、目標のはんだ組成からずれ易くなるため好ましくない。
【0028】
本発明のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金を製造するには、まず、Znを80質量%以上含有するPbフリーZn系はんだ合金の母合金を製造し、得られた母合金をシート、ワイヤー又はボールの形状に加工する。その後、所定形状に加工したPbフリーはんだ合金の表面に、めっき法、蒸着法、スパッタリング法などにより、Ag、Au、Cu及びNiから選らばれた少なくとも1種をコーティングして、所定形状のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金を得る。
【0029】
PbフリーZn系はんだ合金の表面にコーティング膜を形成する際に、PbフリーZn系はんだ合金の所定形状への加工からコーティング膜の形成までの全工程を真空中又は不活性ガス雰囲気中で処理する必要はない。そのため、PbフリーZn系はんだ合金の表面はコーティング膜形成前に自然酸化され、薄い自然酸化膜が形成される。しかし、このような自然酸化膜がコーティング膜との界面に存在していても、本発明のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金の濡れ性や接合性などに影響を与えることはない。
【0030】
以下、本発明のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金の製造方法を、工程に従って詳しく説明する。まず、PbフリーZn系はんだ母合金を製造するには、溶解法、連続鋳造法、還元拡散法、電解法などの方法を使用する。特に、高周波による電磁誘導作用を利用した高周波溶解法は、使用する装置が小型であるうえ、電磁誘導による渦電流を発生させることで非常に短時間で金属を加熱溶解できるため好ましい。
【0031】
具体的には、まず、各原料金属を所定量秤量する。この際、各原料金属は適当な大きさに加工することが好ましい。原料金属が大きな塊状であると、高融点金属の場合など他の金属との溶融が難しく、溶け残る可能性がある。秤量した各原料金属をグラファイト坩堝に投入し、高周波溶解炉などの加熱溶融装置にセットした後、加熱して各原料金属を溶融する。
【0032】
その際、溶融金属の酸化防止のため、各原料金属を入れた坩堝に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを流す。特に酸化しやすい金属の場合は、不活性ガスに水素などの還元性ガスを10体積%以上混ぜた混合ガスを用いてもよい。ガスの流量は、少なすぎると大気が混入して合金が酸化してしまうため、原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量が好ましいが、多すぎてもコストアップになるため注意することが望ましい。
【0033】
また、加熱温度が高すぎると蒸気圧の高い金属成分が蒸発気化して組成ずれを起こしやすくなり、逆に加熱温度が低いと高融点金属などが十分に溶融せずに偏析してしまう危険がある。このため、加熱温度には十分配慮して溶解する必要がある。原料金属が全て溶融したことを確認し、ガラス棒で溶融金属を撹拌して十分混合する。加熱を停止した後、速やかにグラファイト坩堝を取り出し、溶融金属を所定の鋳型に流し込む。十分に冷却した後、金属が固まったことを確認し、鋳型から取り出してPbフリーZn系はんだ母合金を得る。
【0034】
次に、上記PbフリーZn系はんだ母合金を、シート状、ワイヤー状、ボール状など、所定の形状に加工する。まず、シート状に加工する場合には、圧延機により、はんだ母合金を組成に適した条件で所定の厚みに加工する。その際、インゴットの送り速度が適切でないと、シートが反ったり厚みにバラツキがでたりしてしまうので、速度調整しながら圧延することが望ましい。その後、スリッター加工により所定の幅に裁断し、はんだ母合金シートとする。
【0035】
また、ワイヤー状に加工する場合には、押出機を用いて、はんだ母合金を所定の直径のワイヤーに加工する。押出機は予めはんだ組成に適した温度に加熱しておき、はんだ母合金を油圧で加圧してワイヤー形状に押し出していく。加熱されたワイヤーは酸化が進行し易いため、押出機出口は密閉構造にして不活性ガスを流し、可能な限り酸素濃度を下げた状態とする。ワイヤーの押出速度はワイヤーが断線し又は変形しないように調整し、同時に巻き取りも同じ速度で巻き取る。
【0036】
更に、ボール状に加工する場合には、その方法は特に限定されないが、例えばアトマイズ法等によって、溶融状態のはんだ母合金を気体中や液体中に滴下して成形することができる。液体中でのアトマイズ法は、合金に合わせ液温を調整でき、高品質のボールを得やすく、特に油は調整温度幅が広いため好ましい。金属を溶融させるためのヒーターとしては、短時間で加熱溶融でき、温度制御が容易な高周波溶解式のものがよい。
【0037】
はんだ母合金を加熱溶融する際に溶け残りや偏析が無いように、高融点金属の場合は時間を長く調整する。ノズル先端の蓋を開けると同時に、不活性ガスで溶融した母金属を加圧して吐出させる。吐出圧が低すぎると溶融母合金が詰まって吐出できない場合があり、吐出圧が高すぎると溶融した母金属が大きく歪んでしまい、変形したボールができるため、不活性ガスの吐出圧を適切に調製する必要がある。また、例えば油中でのアトマイズ法では、回収したボールは油が多量に付着しているため洗浄する。
【0038】
上記方法により所定形状に加工されたZn系はんだ合金は、酸化や水分の付着が進行しないように、密閉性のある容器に保管する。次に、PbフリーZn系はんだ合金は、シート状、ワイヤー状、ボール状の各形状に応じた望ましい方法により、表面にコーティング膜を形成する。はんだ合金へのコーティング方法は特に限定されず、形状や膜厚等に応じて適宜選定すればよく、例えば、メッキ法、蒸着法、スパッタ法などを用いることができる。
【0039】
尚、所定形状のはんだ合金にコーティング膜を形成する場合、コーティング膜を均一に且つ密着性よく形成できるように、予め前処理を行うことが好ましい。例えば、所定形状のはんだ合金に付着している異物をエアーブロー等により取り除き、水洗と酸洗浄を数回繰り返した後、速やかに乾燥する。この前処理の間に、はんだ合金の表面に薄い自然酸化膜が形成されるが、このような一般的な金属取り扱い時に形成される程度の酸化膜によってコーティング後のはんだの濡れ性や接合性などに支障をきたすことはない。
【0040】
具体的なコーティング膜の形成について、まず、はんだ合金のシート又はボールに、メッキ法によりコーティング膜を形成する場合を説明する。前処理後のはんだ合金シート又はボールをシアン浴に浸漬し、Ag、Au、Cu又はNiをストライクメッキした後、その上に同種金属のメッキを施す。尚、はんだ合金ボールは、目の細かい籠に入れて処理する。メッキ後のはんだ合金シート又はボールは、付着した溶液を洗い流し、速やかに乾燥する。
【0041】
次に、はんだ合金ワイヤーに蒸着法によりコーティング膜を形成する場合は、ワイヤーや装置が汚染されないように保護手袋及び保護マスク等を着用し、ワイヤーはピンセットで取り扱うことが望ましい。例えば、ガラス板の両端に高さ約10mmの台(複数個所)を固定し、はんだ合金ワイヤーの両端をガラス板両端の台に貼り付け、蒸着装置内にセットする。蒸着用金属を飛ばす方法としては電子ビーム又は抵抗加熱の方法があり、どちらの方法で行ってもよい。
【0042】
例えば電子ビームによる蒸着の場合、アルミナ製の皿(ハースライナー)に蒸着用金属を載せ、装置内をローターリーポンプで10Pa以下まで粗引きした後、ターボ分子ポンプに切り替えて高真空まで真空引きする。真空引きが不十分であると、残っている大気で金属が酸化されて綺麗な金属膜を形成できないため、1.0×10−3Pa以下まで真空度を上げることが好ましい。膜厚で示す蒸着速度については、5Å/秒未満ではコーティングに時間がかかると共に、膜の酸素濃度が高くなる傾向があり、50Å/秒を超えると蒸着速度が速すぎて膜が不均一になるため、5〜50Å/秒が好ましい。
【0043】
本発明のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金は、表面のコーティング膜によって、還元性が強く自らが酸化しやすいZn系はんだ合金の酸化を防ぐことができ、同時に優れた濡れ性及び接合性を具えている。従って、このコーティング膜付きPbフリーはんだ合金を用い、従来不可能であった高温でのはんだ付けにより、十分な接合強度で基板上に電子部品を接合した実装基板を得ることができる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
(PbフリーZn系はんだ母合金の製造)
原料金属として純度99.9質量%以上のZnとAlを準備し、各原料金属の所定量を秤量してグラファイト坩堝に投入し、高周波溶解炉にセットした。溶融金属の酸化を防止するため、坩堝には原料1kg当たり0.8リットル/分のガス流量で不活性ガスのArを流した。
【0045】
次に、原料金属の投入量と各金属の融点を考慮して、原料金属が溶融する温度になるようにコイルに電流を流し、原料金属を加熱溶融した。溶融した原料金属をガラス棒で撹拌して十分混合した後、高周波電源を切り、速やかにグラファイト坩堝を取り出して、溶融金属を所定の鋳型に流し込んだ。十分に冷却して金属が固まった後、得られた板状のPbフリーZn系はんだ母合金を鋳型から取り出した。
【0046】
(PbフリーZn系はんだ合金シートの製造)
上記のごとく製造した厚さ5mmのPbフリーZn系はんだ母合金を、圧延機を用いて、送り速度を調整しながら厚さ0.10mmにまで圧延した。圧延後、スリッター加工により25mmの幅に裁断して、PbフリーZn系はんだ合金シートとした。
【0047】
(PbフリーZn系はんだ合金ワイヤーの製造)
上記のごとく製造したPbフリーZn系はんだ母合金を、押出機を用いて、直径0.80mmのワイヤーに加工した。その際、押出機をはんだ組成に適した温度に予め加熱しておくと共に、押出機出口は密閉構造にして不活性ガスのArを流し、可能な限り酸素濃度を下げて酸化が進まないように配慮した。また、ワイヤーが断線又は変形しないように、ワイヤーの押出速度と巻き取り速度を調整しながら押出加工した。
【0048】
(PbフリーZn系はんだ合金ボールの製造)
上記のごとく製造したPbフリーZn系はんだ母合金を、高周波溶解式の油中アトマイズ法によりボールに成形した。まず、アトマイズ装置のオイルを約320℃に加熱し、ノズルに入れた母合金を200℃/分で昇温し、750℃まで加熱し約10分間保持して溶融させた。次に、ノズル先端の蓋を開けると同時に、吐出圧力を15±0.3kPaに制御した不活性ガスで溶融母合金を加圧して吐出させた。吐出終了後、形成されたボールを装置下部から回収し、揮発性が高いアルコールを用いて撹拌洗浄を7回行い、乾燥機に入れて3時間乾燥させた。
【0049】
(PbフリーZn系はんだ合金シート、ワイヤー及びボールへのコーティング膜の形成)
シート状、ワイヤー状又はボール状のPbフリーZn系はんだ合金を、エアーブローして異物を取り除き、水洗/酸洗浄を数回繰り返し後、速やかに乾燥した。前処理後のはんだ合金シート、ワイヤー又はボールをシアン浴に浸し、Ag、Au、Cu又はNiのいずれかでストライクメッキを行った。引き続き、その上にストライクメッキで使用した金属と同じ金属でメッキを施した。その後、付着した溶液を洗い流し、速やかに乾燥した。
【0050】
上記した方法により、下記表1に示す形状、はんだ組成及びコーティング膜を有する本発明による実施例の試料1〜16のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金を製造した。即ち、試料1〜4はZn−5.0質量%Alの組成のPbフリーZn系はんだ合金シートにメッキ法にてAg、Au、Cu、Niを膜厚0.09μm狙いでコーティングをしたもの、試料5〜8は同じ組成のPbフリーZn系はんだ合金シートに膜厚1.8μm狙いで同様のコーティングしたものである。
【0051】
また、試料9〜12はZn−5.1質量%Alの組成のPbフリーZn系はんだ合金ワイヤーにメッキ法でAg、Au、Cu、Niを膜厚0.09μm狙いでコーティングをしたもの、試料13〜16は同じ組成のPbフリーZn系はんだ合金ワイヤーに膜厚1.8μm狙いで同様のコーティングをしたものである。更に、試料17〜20はZn−5.0質量%Alの組成のPbフリーZn系はんだ合金ボールにメッキ法でAg、Au、Cu、Niを0.09μm狙いでコーティングをしたもの、試料21〜24は同じ組成のPbフリーZn系はんだ合金ボールに膜厚1.8μm狙いでコーティングをしたものである。
【0052】
上記した試料1〜24の本発明によるシート状、ワイヤー状及びボール状の各コーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金について、下記するライン分析によりコーティング膜の膜厚を測定した。得られた測定結果を、形状及びはんだ組成と共に、下記表1に示した。
【0053】
コーティング膜の膜厚測定では、試料を樹脂に埋め込み、研磨機を使用して粗い研磨紙から順に細かいものを用いて研磨し、最後にバフ研磨を行った。その後、EPMA(装置名:SHIMADZU EPMA−1600)を用いてライン分析を行い、膜厚の測定を行った。膜厚の測定は任意の3箇所で、膜厚が薄いものに関しては5箇所で測定し、平均値を採用した。
【0054】
【表1】

【0055】
次に、上記実施例1による試料1〜24の各コーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金について、下記する濡れ性試験、ヒートサイクル試験、大気中耐熱試験を行った。得られた結果を下記2に示した。
【0056】
(濡れ性試験)
Cu板(板厚:約0.80mm)にAgを蒸着(膜厚:約0.10μm)したCu基板を準備した。濡れ性試験(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)のヒーター付き試料載置台に2重のカバーを設け、周囲4箇所から各12リットル/分の流量で窒素を流した。ヒーター温度を430℃に設定し、温度が安定した後、上記Cu基板を載せて25秒間加熱し、次にCu基板上にはんだ合金又はコーティング膜付きはんだ合金の試料を載せて更に25秒加熱した。加熱終了後、試料ごとCu基板をずらして冷却し、十分冷却した後、大気中に取り出した。
【0057】
試験が終了した試料について、はんだ合金がAgを蒸着したCu基板と接合できなかった場合を×、接合できたが濡れの広がりが悪かった場合を△、接合でき且つ濡れの広がりが良好な場合を○と評価した。
【0058】
(ヒートサイクル試験)
上記濡れ性試験で△及び○の評価が得られた試料について、−40℃/150℃の冷却・加熱を1サイクルとして、これを100回、300回及び500回繰り返した。その後、膜厚測定の場合と同様に試料を樹脂に埋め込んで断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により、接合面の観察を行った。接合面に剥れ又ははんだにクラックが入っていた場合を×、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を○と評価した。
【0059】
(大気中耐熱試験)
濡れ性試験で各試料のはんだ合金を接合したCu基板を、オーブンを用いて大気雰囲気中にて160℃で600時間の耐熱試験を行った。試験終了後、試料を取り出して冷却し、上記ヒートサイクル試験と同様に樹脂に埋め込んで断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面を観察した。接合面に剥れ又ははんだにクラックが入っていた場合を×、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合状態を保っていた場合を○と評価した。
【0060】
【表2】

【0061】
[比較例1]
比較例として、原料金属である純度99.9質量%以上のZnとAlを準備し、上記実施例1と同様の方法により、下記に示す形状、はんだ組成及びコーティング膜を有する試料25〜39のコーティング膜無し又はコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金を製造した。即ち、試料25はZn−5.0質量%Alの組成のPbフリーZn系はんだ合金シートであり、表面にコーティングをしていないものである。試料26〜29は同じ組成のPbフリーZn系はんだ合金シートに、メッキ法にてAg、Au、Cu、Niをそれぞれ膜厚3.5μm狙いでコーティングしたものである。
【0062】
また、試料30はZn−5.1質量%Alの組成のPbフリーZn系はんだ合金ワイヤーであり、表面にコーティングをしていないものである。試料31〜34は同じ組成のPbフリーZn系はんだ合金ワイヤーに、メッキ法にてAg、Au、Cu、Niをそれぞれ膜厚3.5μm狙いでコーティングしたものである。
【0063】
更に、試料35はZn−5.0質量%Alの組成のPbフリーZn系はんだ合金ボールであり、表面にコーティングをしていないものである。試料36〜39は同じ組成のPbフリーZn系はんだ合金ボールに、メッキ法にてAg、Au、Cu、Niをそれぞれ膜厚3.5μm狙いでコーティングしたものである。
【0064】
これらの比較例である試料25〜39についても、上記したライン分析によりコーティング膜の膜厚を測定した。得られた測定結果を、形状及びはんだ組成と共に、下記表3に示した。
【0065】
【表3】

【0066】
次に、上記比較例である試料25〜39のコーティング膜無し又はコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金について、上記した濡れ性試験、ヒートサイクル試験、大気中耐熱試験を行った。得られた結果を下記表4に示した。
【0067】
【表4】

【0068】
上記の表1〜4から分るように、本発明の実施例1による試料1〜24は、いずれも濡れ性試験、ヒートサイクル試験、大気中耐熱試験において良好な結果を示した。一方、比較例の試料25、28〜30、33〜35、38〜39はCu基板に接合できず、比較例の試料26、27、31、32、36、37はCu基板に接合できたが、濡れの広がり方は悪く、ヒートサイクル試験と大気中耐熱試験の結果も悪かった。これらの結果より、本発明のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金は、Cu基板との接合性が改善され、信頼性が向上していることが分る。
【0069】
[実施例2]
原料金属である純度99.9質量%以上のZn、Al、Mg、Ge、Snを準備し、上記実施例1と同様の方法により、下記表5に示す形状、はんだ組成及びコーティング膜を有する本発明による試料40〜51のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金を製造した。即ち、これらの試料は、Znを主成分とし、Al、Ge、Mg、Snの少なくとも1種を含有する組成のPbフリーZn系はんだ合金シートに、メッキ法にてAgをそれぞれ膜厚0.25μm狙いでコーティングしたものである。
【0070】
【表5】

【0071】
上記の試料40〜51の各コーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金シートについて、上記実施例1と同様に濡れ性試験、ヒートサイクル試験、大気中耐熱試験を行った。得られた結果を下記表6に示した。
【0072】
【表6】

【0073】
この結果から分るように、本発明による試料40〜48の各コーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金は、各評価において良好な結果を示し、Cu基板との接合性が改善され、信頼性が向上していることが確認できた。一方、試料49〜51はZnを80質量%以上含まない比較例のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金であり、濡れ性試験、ヒートサイクル試験及び大気中耐熱試験の一つ以上で悪い評価であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを80質量%以上含有するPbフリーZn系はんだ合金と、その表面に形成されたコーティング膜とを有し、形状がシート状、ワイヤー状又はボール状であって、該コーティング膜がAg、Au、Cu及びNiから選らばれた少なくとも1種からなり、且つ該コーティング膜の膜厚が0.05〜2.00μmであることを特徴とするコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金。
【請求項2】
請求項1に記載のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金の製造方法であって、前記Znを80質量%以上含有するPbフリーZn系はんだ合金をシート状、ワイヤー状又はボール状に加工した後、その表面にAg、Au、Cu及びNiから選らばれた少なくとも1種からなる膜厚0.05〜2.00μmのコーティング膜を、メッキ法、蒸着法、又はスパッタリング法により形成することを特徴とするコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のコーティング膜付きPbフリーZn系はんだ合金を用いて、基板上に電子部品が接合されていることを特徴とする実装基板。

【公開番号】特開2011−235342(P2011−235342A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110986(P2010−110986)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】