説明

ゴムホース及びゴムホースの製造方法

【課題】補強コード層を容易に形成することができ、かつ、先端側への負荷による基端側の座屈を防止することができるゴムホースの提供。
【解決手段】筒状ゴム膜9に補強コード層10を埋設する。補強コード13でホース中心軸を螺旋状に取り巻きつつホース中心軸方向に複数回往復させる。補強コード13がホース中心軸に対して傾斜しつつ周方向かつ二列に配列される。各列の補強コード13が互いに交差して、補強コード層10を構成する。補強コード層10の形成の自動化が図れる。基端側の補強コード13の傾斜角度(θ1)を小さくして曲げ剛性を大きくし、座屈を防止する。先端側の補強コード13の傾斜角度(θ2)を大きくして曲げ剛性を小さくし、全体として十分に湾曲させる。補強コード層10は、耐圧性などを高めるものであり、専用の補強層やガイドを設ける必要がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートポンプ車のブーム側と先端ホースとの間に介装されるドッキングホースなどのゴムホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、生コンクリートの打設には、生コンクリートの吐出口を高所や遠方に導くためのブームを備えたコンクリートポンプ車を使用することが多い。
【0003】
図7にコンクリートポンプ車の一例を示す。コンクリートポンプ車101は、ブーム102の先端にドッキングホース103を介して先端ホース104を取り付けて構成され、コンクリートポンプ105が圧送する生コンクリートをブーム102に沿って配置した流通管106を流通させて先端ホース104から吐出するようになっている。
【0004】
ブーム104の先端には、ドッキングホース103を沿わせる湾曲形状のホースガイド107が設けられている。このホースガイド107は、ブーム102の先端をほぼ水平に向けた際、ドッキングホース103を全体として下方に向けて90°程度かつ滑らかに湾曲させて、先端ホース104を生コンクリートの打設部位に導くものである。
【0005】
ところで、ホースガイド107は、コンクリートポンプ車101の部品点数を多くして重量を重くしたり、湾曲形状の嵩張りが狭い場所での生コンクリート打設の邪魔になったり、先端ホース104の左右の移動を阻害したりするため、このホースガイド107を省略することが求められる。
【0006】
ただ、単にホースガイド107を省略した場合、先端ホース104やその内部の生コンクリートの重量などの荷重が先端側に負荷されたドッキングホース103は、全体としては下方に向けて90°程度に曲げられるものの、荷重の作用線からの距離が長い基端側に曲げ変形が集中しやすく、ドッキングホース103の基端側に、その円形断面を押し潰したように変形しようとする座屈が生じやすい。
【0007】
このような基端側への曲げ変形の集中を防止する技術として、例えば特許文献1は、多層の補強コード層を設けると共に、その層数を先端側に向かって数段階で減少させることにより、先端側よりも基端側の曲げ剛性を高めるようにした曲げホースを開示している。
【特許文献1】実公昭55−18624(第2頁左欄第6行〜第32行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、補強コード層を形成するには、予めスダレコードをバイアス裁断し、これを手作業で所定の角度及び位置に貼り付けるという作業が必要であり、特に、特許文献1の曲げホースのように補強コード層の層数を多くすると、その分、補強コード層の形成に手間が掛かりやすい。
【0009】
また、特許文献1のような基端側の曲げ変形を抑えるための多層の補強層は、耐圧用の補強層などに追加して設けられるため、補強層全体としての効率が悪い分、コストを高くし、かつ、ゴムホースの肉厚を厚くしてその重量を大きくする。
【0010】
本発明は、補強コード層の形成が容易で、特に、基端側の曲げ変形を抑えるための多層の補強層を設けることなく、先端側への負荷による基端側の座屈を防止することができるゴムホースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るゴムホースは、筒状ゴム膜に補強コード層を埋設したものであり、その補強コード層は、補強コードをホース中心軸に対して傾斜させつつ周方向かつ二列に配列すると共に、各列の補強コードの傾斜方向を互いに交差するよう設定したものである。さらに、補強コードでホース中心軸を螺旋状に取り巻きつつホース中心軸方向に複数回往復することにより、補強コードを周方向かつ二列に配列している。
【0012】
ここで、「補強コードをホース中心軸に対して傾斜させ」とは、ホース中心軸と平行かつ補強コードを通る直線に対して、補強コードを傾斜させることをいい、さらに「補強コードのホース中心軸に対する傾斜角度」とは、ホース中心軸と平行かつ補強コードを通る直線と補強コードのなす角度のことをいう。
【0013】
上記構成によれば、補強コードがホース中心軸を螺旋状に取り巻きつつホース中心軸方向に複数回往復することによって補強コード層を構成するので、この補強コード層の形成には、スダレコードを用いた従来の構造におけるような事前のバイアス裁断を不要にでき、かつ容易に自動化を図ることができる。これにより、従来のゴムホースのようにバイアス裁断したスダレコードを手作業で貼り付けて補強コード層を形成するものよりも、補強コード層の形成を容易にすることができる。
【0014】
さらに、内径や肉厚がホース中心軸方向に沿って変化する円錐台状のゴムホースのように、補強コード層の径が変化する場合であっても、例えば一本又は数本の補強コードでホース中心軸を取り巻くことにより、補強コードを容易に所望の傾斜角度及び間隔で配列して補強コード層を形成することができる。なお、補強コード層は、一層だけであってもよいが、二層以上の補強コード層を設けることもでき、この場合、複数の補強コード層を共通の補強コードによって連続して形成することができる。
【0015】
補強コードのホース中心軸に対する傾斜角度は、ホース中心軸方向の基端側における角度を先端側における角度よりも小さく設定することにより、ゴムホースの基端側の曲げ剛性を先端側の曲げ剛性よりも大きくすることができる。
【0016】
これにより、ゴムホースの基端側を支持して先端側に荷重を負荷する場合に、全体として所望の角度に湾曲させつつ、その曲げ変形の基端側への集中を防止して、基端側の座屈を防止することができる。しかも、補強コード層は、耐圧性などを高めるためのものと兼用することができ、基端側の曲げ変形を抑えるための専用の補強層やガイドを設ける必要がない。ここで、ゴムホースの曲げによる座屈とは、小さな曲げ半径で曲げたゴムホースがその円形断面を押し潰したように変形する挙動のことである。
【0017】
なお、一本又は数本の補強コードでホース中心軸を取り巻いて補強コード層を形成することにより、補強コードの傾斜角度を容易に変化させることができ、各部位における傾斜角度を所望の大きさに設定することができる。
【0018】
また、補強コードのホース中心軸に対する傾斜角度をホース中心軸に沿って徐々に変化するよう設定すれば、ゴムホースの曲げ剛性を徐々に変化させて滑らかに湾曲させることができ、生コンクリートなどの流体をスムーズに流通させることができる。
【0019】
補強コードのホース中心軸に対する傾斜角度を45°〜55°の範囲に設定すれば、内圧やホース中心軸方向の引張力による縮径を生じさせることなく、かつ、適度な曲げ半径でゴムホースを湾曲させることができる。なお、補強コードの傾斜角度を45°未満に設定した場合、ゴムホースの曲げ剛性が大きくなりすぎて、適度な曲げ半径で湾曲させることができず、実用的ではない。一方、補強コードの傾斜角度を55°を超過する角度に設定した場合、内圧やホース中心軸方向の引張力により、補強コードの傾斜角度の変化を伴ってゴムホースが縮径し、生コンクリートなどの流体が詰まりやすい。
【0020】
補強コードを合成繊維コードとすれば、スチールコードなどを採用する場合よりも、コード同士の接触による摩滅を生じにくくすることができるので、補強コードを編み込むようにして配列するのに好適である。
【0021】
補強コード層を螺旋状に取り巻く硬鋼線を埋設してなる耐座屈層を設ければ、補強コード層が基端側への曲げ変形の集中を防止するのに加えて、耐座屈層がゴムホースを断面円形に保とうとするので、より効果的に座屈を防止することができ、さらに、外力による変形をも防止することができる。しかも、硬鋼線が内圧の一部に抵抗するので、基端側などにおいて補強コードの傾斜角度を小さく設定する場合にも、十分な耐圧性を得ることができる。
【0022】
ホース中心軸を螺旋状に取り巻く補強コードは、単数であっても複数であってもよく、補強コードの太さなどを勘案して適宜選択することができる。ホース中心軸を螺旋状に取り巻く単数の補強コードから補強コード層を形成すれば、補強コードの配列を乱すことなく、かつ正確な傾斜角度で配列しやすくすることができる。一方、ホース中心軸を螺旋状に取り巻く複数の補強コードから補強コード層を形成すれば、ホース中心軸方向への少ない往復回数で補強コードを配列することができ、補強コードの配列に要する時間を短くすることができる。
【0023】
ここで、補強コード層がなす筒形状の径及び補強コードの傾斜角度をゴムホースの全長に渡って一定にする場合には、補強コードの間隔も一定にすればよいが、補強コード層の径及び/又は補強コードの傾斜角度をホース中心軸方向に沿って変化させる場合には、補強コードの間隔もホース中心軸方向に沿って変化させるのがよい。特に、ホース中心軸方向の基端側における傾斜角度を先端側における角度よりも小さくするには、基端側における補強コードの間隔を先端側における間隔よりも大きく設定すればよい。
【0024】
なお、複数の補強コードから補強コード層を形成する場合、この複数の補強コードが互いの間隔を変化させながらホース中心軸を取り巻くようにすればよく、さらに、ゴム被覆した補強コードを巻き付ける場合、コード間隔を変化可能なよう各補強コードを独立してゴム被覆するのがよい。
【0025】
ホース中心軸方向の両端に口金を取り付けた構造を採用する場合、補強コードを、その螺旋形状の端部の折り返し位置において、口金に形成した係止部に係止すれば、ゴムホース本体と口金とを締結する手段を設けることなく、両者を強固に止着することができる。これにより、ゴムホース本体と口金とを止着する手間を省略して、ゴムホースの製造の自動化を容易にすることができる。
【0026】
本発明のゴムホースは、先端側に荷重を負荷しつつ、基端側の座屈を防止することができるので、例えば生コンクリートの打設用として、座屈による閉塞を生じさせることなく、全体として所望の角度に湾曲させて使用することができる。特に、ホース中心軸方向の両端に口金が取り付けられ、基端側の口金がコンクリートポンプ車のブーム側に接続されると共に、先端側の口金が先端ホースに接続される生コンクリート打設用のドッキングホースとして、好適に使用することができる。また、基端側の座屈を生じさせることなく先端側を自由に変位させることができるので、先端側から生コンクリートを吐出させて打設する用途に使用することにより、生コンクリート打設の作業性を高めることができる。
【0027】
また、本発明は、筒状ゴム膜に補強コード層を埋設してなるゴムホースの製造方法を提供する。
【0028】
すなわち、本発明は、マンドレルの周りに内面未加硫ゴムを巻き付け、次いで、前記マンドレルを中心軸周りに一定方向に回転させつつ中心軸方向に往復移動させて、前記内面未加硫ゴムの外側に補強コードを螺旋状に巻き付けながら中心軸方向に複数回往復させることにより、補強コードを中心軸に対して傾斜させつつ周方向かつ二列に配列すると共に、各列の補強コードの傾斜方向を互いに交差させて前記補強コード層を形成し、その後、補強コード層の外側に外面未加硫ゴムを配置して、前記内面未加硫ゴム及び前記外面未加硫ゴムを加硫成形することを特徴とするゴムホースの製造方法を提供する。
【0029】
この製造方法によれば、例えば一本の補強コード又は数本の補強コードの束を螺旋状に巻き付けながらホース中心軸方向に一往復させることにより、傾斜方向が互いに交差する一対の補強コード又はその束が配置され、さらに複数回往復させることにより、各方向に傾斜する補強コードがそれぞれ周方向に配列されて、補強コード層を構成する。このように、補強コードを螺旋状に巻き付けながら往復させて補強コード層を形成するので、その自動化を容易に図ることができる。
【0030】
また、補強コードを巻き付けて補強コード層を形成するので、補強コードの傾斜角度を変化させる場合や、さらに、内径や肉厚がホース中心軸方向に沿って変化する円錐台状のゴムホースのように補強コードの巻き付け径が変化する場合であっても、補強コード層を容易に形成することができる。
【0031】
上記の製造方法において、マンドレルの回転速度及び軸方向移動速度を制御することにより、補強コードの中心軸に対する傾斜角度を中心軸に沿って変化させることができる。すなわち、本発明は、上記の製造方法を前提として、以下の製造方法を提供する。
【0032】
前記マンドレルの回転速度及び軸方向移動速度の少なくとも一方を変化させることにより、補強コードの中心軸に対する傾斜角度を中心軸に沿って変化させることを特徴とするゴムホースの製造方法。
【発明の効果】
【0033】
以上のとおり、本発明によると、補強コードでホース中心軸を螺旋状に取り巻きながら、ホース中心軸方向に複数回往復させて補強コード層を構成するので、補強コード層の形成を容易にすることができる。
【0034】
さらに、基端側における補強コードの傾斜角度を先端側における傾斜角度よりも小さく設定することにより、ゴムホースの基端側の曲げ剛性を先端側よりも大きくして、基端側への曲げ変形の集中を防止することができる。これにより、基端側の曲げ変形を抑えるための専用の補強層を設けることなく、ゴムホースを全体として所望の角度に湾曲させつつ、基端側の座屈を防止することができる。その結果、コンクリートポンプ車のドッキングホースを支持するホースガイドなどの省略を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係るゴムホースを実施するための最良の形態について、コンクリートポンプ車に装備するドッキングホースを例示して、図面を用いて説明する。図1は本発明に係るゴムホースとしてのドッキングホースを備えたコンクリートポンプ車の側面図である。図2はドッキングホースを示す図であり、上半分は断面図、下半分は側面図である。なお、図2において、上半分の中央部を内側の層から順に剥がして内部構造を示している。
【0036】
ドッキングホース1は、コンクリートポンプ車2のブーム3の先端に取り付けられて、ブーム3に沿って配置された流通管4と先端ホース5との間に介装され、コンクリートポンプ6が圧送する生コンクリートを先端ホース5から吐出させるものである。このドッキングホース1は、ホース本体7の両端に口金8a、8bを取り付けた構造とされ、基端側の口金8aをブーム3側に接続して、先端側の口金8bを先端ホース5に接続することにより、ホース中心軸方向の基端側を支持されると共に、先端側に先端ホース5や内部の生コンクリートの重量などの荷重を負荷されるようになっている。
【0037】
ホース本体7は、筒状ゴム膜9に、主に耐圧性を高める補強コード層10と、主に耐座屈性を高めるための耐座屈層11と、耐座屈層11を保護する繊維層12とを埋設してなり、筒状の内面ゴム9aの外側に補強コード層10、耐座屈層11、繊維層12及びカバーゴム9bをこの順番で配置して構成される。
【0038】
補強コード層10は、ナイロンコードやポリエステルコードなどの合成繊維コードである補強コード13をホース中心軸に対して45°〜55°の範囲の傾斜角度(θ)で傾斜させつつ、ホース本体7の全長に渡って周方向かつ二列に配列すると共に、各列の補強コード13の傾斜方向を互いに交差するよう設定してなる。この補強コード層10は、一本の補強コード13でホース中心軸及び内面ゴム9aを螺旋状に取り巻きつつホース中心軸方向に複数回往復させることによって形成されている。
【0039】
補強コード13の螺旋形状の端部における折り返し部位は、口金8a、8bに形成された係止部としての突起14に係止されている。突起14は、口金8a、8bの周方向に連続して形成され、この突起14に掛けるようにして補強コード13が折り返されている。これにより、補強コード層10の端部が口金8a、8bに係止され、ホース本体7の両端に口金8a、8bが強固に止着されている。
【0040】
補強コード13の傾斜角度(θ)は、基端側における傾斜角度(θ1)が先端側における傾斜角度(θ2)よりも小さく設定されると共に、その間の傾斜角度(θ)がホース中心軸に沿って徐々に変化するように設定されている。また、補強コード13の間隔は、ホース中心軸方向の基端側における間隔が先端側における間隔よりも大きく設定され、さらに、その間で徐々に変化するよう設定されている。
【0041】
耐座屈層11は、補強コード層10と繊維層12との間に中間ゴム9cを配置すると共に、この中間ゴム9cに、補強コード層10を螺旋状に取り巻く硬鋼線15を埋設してなり、内圧の一部を受け持つと共に、座屈及び外力による変形を防止するようになっている。なお、硬鋼線15の螺旋ピッチは、ホース本体7の全長に渡って一定であってもよく、最も大きい曲げモーメントが作用する基端側において小さくしたものであってもよい。
【0042】
繊維層12は、合繊コードからなり、耐座屈層11を外側から押さえて、ホース本体7を曲げることによる筒状ゴム膜9からの硬鋼線15の飛び出しを防止する。
【0043】
次に、ドッキングホースの製造方法を説明する。図3は補強コードを巻き付ける様子を示す図である。
【0044】
まず、マンドレル16に口金8a、8bを互いに間隔を空けて取り付け、口金8a、8bの周面の突起14よりも内端側に掛かるように、口金8a、8b間のマンドレル16の周りに内面未加硫ゴム17を巻き付ける。
【0045】
次いで、マンドレル16をその中心軸周りに一定方向に回転させつつ中心軸方向に往復移動させることにより、内面未加硫ゴム17の外側に補強コード13を螺旋状に巻き付けながら中心軸方向に複数回往復させる。これにより、補強コード13を中心軸に対して傾斜させつつ周方向かつ二列に配列すると共に、各列の補強コード13の傾斜方向を互いに交差させて補強コード層10を形成する。
【0046】
ここで、内面未加硫ゴム17の外側に補強コード13を巻き付ける様子をより詳しく説明する。図3に示すように、まず、位置を固定したコードガイドから未加硫ゴムで被覆した一本の補強コード13を引き出し、その始点13aを内面未加硫ゴム17の基端付近に配置する。コードガイドから補強コード13を供給しつつ、マンドレル16をその中心軸周りに一定速度で回転させながら基端側に移動させることにより、内面未加硫ゴム17に補強コード13を先端側に向けて螺旋状に巻き付ける。
【0047】
このとき、マンドレル16の軸方向移動速度を徐々に遅くすることにより、中心軸に対する補強コード13の傾斜角度(θ)を基端における傾斜角度(θ1)から先端における傾斜角度(θ2)の範囲で中心軸に沿って徐々に大きくする。具体的に例示すると、補強コード13を周方向に一回巻き付けるごとに傾斜角度(θ)が45°(θ1)から、48°、51°、54°、57°(θ2)の順に徐々に大きくなるようにする。
【0048】
補強コード13の巻き付け位置が内面未加硫ゴム17の先端に達して先端側の口金8bの突起14を越えたとき、マンドレル16を中心軸周りに一定速度で回転させたまま中心軸方向の移動を止めることにより、口金8bに補強コード13を周方向に所定の長さだけ巻き付け、突起14に係止する折り返し部13bとする。
【0049】
マンドレル16を中心軸周りに一定速度で回転させたまま先端側に移動させることにより、傾斜角度(−θ)で内面未加硫ゴム17に補強コード13を基端側に向けて螺旋状に巻き付ける。このとき、マンドレル16の軸方向移動速度を徐々に速くすることにより、補強コード13の傾斜角度(−θ)を先端における傾斜角度(−θ2)から基端における傾斜角度(−θ1)の範囲で中心軸に沿って徐々に小さくする。
【0050】
補強コード13の巻き付け位置が内面未加硫ゴム17の基端に達して基端側の口金8aの突起14を越えたとき、マンドレル16を中心軸周りに一定速度で回転させたまま中心軸方向の移動を止めることにより、口金8aに補強コード13を周方向に所定の長さだけ巻き付けて突起14に係止しつつ、補強コード13の巻き付け位置を始点13aの近傍に導く。これにより、補強コード13がホース中心軸方向に一往復して、傾斜方向が互いに交差する一対の補強コード13が配置される。
【0051】
一往復ごとに補強コード13の巻き付け位置を所定のコードピッチ分だけ周方向にずらしながら、マンドレル16の回転及び軸方向移動を繰り返して、補強コード13を螺旋状に巻き付けながら、その巻き付け位置を複数回往復させる。これにより、各方向に傾斜する補強コード13がそれぞれ周方向に配列されて、補強コード層10が構成される。なお、傾斜角度(θ、−θ)の小さい部位ほど、補強コード13の間隔が大きくなる。
【0052】
なお、マンドレル16の回転速度を一定にして軸方向移動速度を変化させる代わりに、マンドレル16の回転速度を変化させて軸方向移動速度を一定にすることにより、あるいは、マンドレル16の回転速度及び軸方向移動速度を変化させることにより、補強コード13の中心軸に対する傾斜角度(θ)を中心軸に沿って変化させるようにしてもよい。
【0053】
その後、補強コード層10の周りに中間未加硫ゴムを巻き付けると共に、この中間未加硫ゴムに補強コード層10を螺旋状に取り巻く硬鋼線15を埋設して耐座屈層11を形成し、その外側に合繊コードを巻き付けて繊維層12を形成する。さらに、繊維層12の外側に外面未加硫ゴムを配置し、内面未加硫ゴム17、中間未加硫ゴム及び外面未加硫ゴムを加硫成形してドッキングホース1を得る。
【0054】
次に、本発明に係るゴムホースとしてのドッキングホース(本発明品)に下方荷重を負荷したときの様子を従来のドッキングホース(従来品)と比較して説明する。
【0055】
比較するドッキングホースは、いずれも、呼び径が4B(100A)で、内径がφ101.6mm、外径がφ141.8mm、口金8a、8bを含む長さが1030mm、可とう部の長さが657mmである。内面ゴム9aは、ゴム硬さ(Hs)が60の天然ゴムからなり、厚さが8mmである。カバーゴム9bは、ゴム硬さ(Hs)が60の天然ゴムからなり、厚さが2.5mmである。耐座屈層11は、φ4mmの硬鋼線15をコイル状に巻き付けてなり、その螺旋のピッチは全長に渡って18mmである。耐座屈層11の外側に配置する繊維層12は合繊コードからなる。
【0056】
本発明品の補強コード層10は、補強コード13としてのナイロンコードを内面ゴム9aの周りに螺旋状に巻き付けながら中心軸方向に複数回往復させることにより、ホース中心軸に対して傾斜させつつ周方向に配列してなる。ナイロンコードの傾斜角度(θ)は、基端側における45°から先端側における57°まで徐々に変化し、そのコードピッチは、基端側で1.7mm、先端側で1.3mmである。ナイロンコードは、φ0.8mmで、ゴム被覆した厚さが1.3mm、破断強度が200N/本である。
【0057】
従来品の補強コード層は、本発明品と同様、スチールコードをホース中心軸に対して傾斜させつつ周方向に配列したものであるが、スチールコードの傾斜角度(θ)を全長に渡って一定の55°とした。この補強コード層は、内面ゴム9aの外側に、幅(B)が211mmで一定の平行四辺形の帯状プライを螺旋状に、かつ二層に巻き付けて形成している。従来品の他の構成は、本発明品と同じである。
【0058】
図4はドッキングホースに下方荷重を負荷した状態の模式図である。図4に示すように、コンクリートポンプ車2のブーム3を想定した支持部18に、基端側の口金8aを水平方向に向けて取り付けて、先端側の口金8bに、先端ホース5を想定した下方荷重19を取り付け、下方荷重19の負荷によって本発明品及び従来品のドッキングホースを全体として90°に湾曲させた。
【0059】
図4において、Aはドッキングホースの基端から200mmの位置であり、Bはドッキングホースの基端から400mmの位置、Cはドッキングホースの基端から600mmの位置、Dはドッキングホースの基端から800mmの位置である。
【0060】
下方荷重19の重さを徐々に大きくしていったところ、本発明品は、下方荷重19が200kgに至るまで全く座屈を生じなかった。これにより、先端ホース5及びその内部の生コンクリートの重量である150kg程度を十分に上回る下方荷重19に、本発明品が座屈することなく耐えることが確認できた。
【0061】
また、下方荷重19が200kgのときの各部位における曲げ半径は、Aの位置で400mm、Bの位置で350mm、Cの位置で300mm、Dの位置で250mmであった。このように、座屈を防止するよう基端側の曲げ剛性を大きくする分、先端側を曲げ変形しやすくするので、全体として90°に湾曲する。
【0062】
これに対して、従来品は、下方荷重19が80kgのとき、Aの位置に座屈を生じ始め、下方荷重19が120kgに至ったとき、Aの位置における曲げ半径が200mm以下になり完全に座屈した。
【0063】
上記構成によれば、補強コード13を巻き付けることによって補強コード層10を形成するので、スダレコードを用いた補強コード層におけるような事前のバイアス裁断や手作業による貼り付けを不要にできる。これにより、補強コード層10の容易に形成すると共に、その自動化を図ることもでき、単品少量生産する製品にも好適に採用することができる。
【0064】
しかも、マンドレル16を回転速度及び軸方向移動速度を制御するだけの単純な制御で、補強コード13を正確に巻き付けることができるので、ホース本体7が、長尺のもの、ホース中心軸に沿って内径や肉厚が変化する円錐台状のもの、あるいは、ホース中心軸に沿って補強コード13の傾斜角度(θ)が変化するものであっても、補強コード層10を所望の傾斜角度(θ)で容易かつ高精度に形成し、安定的で安価な製品を得ることができる。
【0065】
また、補強コード13を巻き付ける際、その折り返し部13bを口金8a、8bの突起14に係止するので、ホース本体7の両端に口金8a、8bを簡単かつ強固に止着することができ、口金8a、8bの止着をも自動化することができる。
【0066】
補強コード13は、未加硫ゴムで被覆しておくだけでよいので、巻き付け前の補強コード13の加工設備を簡単にすると共に、バイアス裁断などによる材料ロスをなくすことができる。また、補強コード13として合成繊維を採用するので、交差する補強コード13を編み込むように配置した構造であっても、スチールコードにおけるような接触による摩耗を抑えることができる。
【0067】
耐座屈層11の硬鋼線15に、ホース本体7の曲げ変形による座屈や、外力による変形に抵抗させると共に、内圧の一部を受け持たせることができるので、十分な耐座屈性に加えて、十分な耐圧性を得ることができる。
【0068】
また、基端側における補強コード13の傾斜角度(θ1)を先端側における傾斜角度(θ2)よりも小さく設定するようにしている。これにより、曲げモーメントの大きい基端側の曲げ変形を抑えて座屈を防止しつつ、曲げモーメントの小さい先端側の曲げ半径を小さくしてドッキングホース1を全体として柔軟に湾曲させることができる。
【0069】
また、主に耐圧性を高める補強コード層10によって耐座屈性を高めるので、新たな補強層が不要であり、ゴムホースの肉厚や重量が増大することもない。しかも、基端側から先端側までの間における補強コード13の傾斜角度(θ)を徐々に変化させるので、全体を滑らかに湾曲させ、生コンクリートをスムーズに流して閉塞を防止することができる。
【0070】
ここで、ドッキングホースの反力と曲げ半径との関係に与える補強コードの傾斜角度の影響を説明する。図5はドッキングホースの反力と曲げ半径との関係を示す図である。図5において、縦軸は垂直反力又は求心反力で単位はN、横軸は曲げ半径で単位はmmである。(1)は垂直反力と曲げ半径との関係を示す曲線で、(2)は求心反力と曲げ半径との関係を示す曲線であり、それぞれ、補強コード13の傾斜角度(θ)が45°、50°、55°の場合について示している。なお、図5に示す関係は、呼び径が4B(100A)のドッキングホースについてのものである。
【0071】
ここで、垂直反力とは、図6(a)に示すように、基端側と垂直な方向に先端側を変位させたときの先端側の反力であり、求心反力とは、図6(b)に示すように、曲げ中心に向けて先端側を変位させたときの先端側の反力である。実際に使用されるドッキングホースは、垂直反力及び求心反力の両者を受けることになる。
【0072】
図5に示すように、反力が同じであれば、傾斜角度(θ)を大きくするほど曲げ半径を小さくすることができる。また、傾斜角度(θ)を小さくするほど座屈を生じる反力を大きくすることができ、傾斜角度(θ)を大きくするほど座屈を生じる曲げ半径を小さくすることができる。例えば、800Nの垂直荷重を負荷したときの曲げ半径を280mm以下に設定する場合、傾斜角度(θ)を55°にすると、座屈を生じるため、十分に荷重に耐えることができないが、曲げ半径を280mm以下にすることができる。一方、傾斜角度(θ)を45°にすると、剛性が大きい分、曲げ半径が大きくなるが、十分に荷重に耐えることができる。
【0073】
さらに、ホース中心軸方向に沿って傾斜角度(θ)を変化させることにより、異なる傾斜角度(θ)に対応する耐座屈性及び変形性能の長所同士を組み合わせることができる。すなわち、ドッキングホース1の傾斜角度(θ)を基端側で小さく、先端側で大きく設定することにより、図5における各曲線のうち、Zで示す範囲内の状態を組み合わせ、耐座屈性が高くかつ柔軟なドッキングホース1を得ることができる。
【0074】
ドッキングホース1の耐座屈性を高めることにより、コンクリートポンプ車のブーム先端に取り付けていたホースガイドを省略することができ、その分、コンクリートポンプ車の重量を低減することができ、さらに、建物の窓枠からのブームの挿入を可能にするなど、狭い場所での打設を容易にすることができる。また、ドッキングホース1の左右移動がホースガイドによって規制されることがないので、その分、生コンクリートの打設の作業性を向上させることができる。
【0075】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、補強コード13は、その傾斜角度(θ)をホース中心軸に沿って変化させるものに限らず、全長に渡って一定の傾斜角度に設定することもできる。
【0076】
補強コード層10は、単数の補強コード13から形成するだけでなく、例えば数本程度の複数の補強コード13でホース中心軸を螺旋状に取り巻きながら、その巻き付け位置を中心軸方向に複数回往復させて形成することもできる。この場合、一往復ごとに、所定のコード間隔と補強コード13の本数の積に相当する幅だけ、巻き付け位置を周方向にずらせばよい。
【0077】
ここで、補強コード13の傾斜角度(θ)を一定にする場合、複数の補強コード13を互いに所定のコードピッチを維持しながら巻き付ければよい。一方、補強コード13の傾斜角度(θ)を変化させる場合、複数の補強コード13を互いの間隔を変化させながら巻き付ければよく、傾斜角度(θ)を小さくするほど、間隔を大きくすればよい。なお、補強コード13の間隔を変化させるには、各補強コード13を導く複数のガイドローラの間隔を変化させる手法や、複数の補強コード13を共通のガイドローラで導くと共に、このガイドローラを傾斜させてコード間隔を変化させる手法を例示できる。
【0078】
また、補強コード層10は、一層に限らず、複数の補強コード層10を設けることができ、さらに、複数の補強コード層10を共通の補強コード13によって連続して形成することもできる。さらに、耐座屈層11を省略することもでき、補強コード13を被覆する未加硫ゴムを所望の量に設定することにより、外面未加硫ゴムの巻き付けを省略することもできる。
【0079】
また、本発明に係るゴムホースは、基端側を支持され、先端側に荷重を負荷されるものであればよく、コンクリートポンプ車のドッキングホースに限らず、他のコンクリート打設用ホースや、コンクリート打設以外の用途のゴムホースであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係るゴムホースとしてのドッキングホースを備えたコンクリートポンプ車の側面図
【図2】ドッキングホースを示す図であり、上半分は断面図、下半分は側面図
【図3】補強コードを巻き付ける様子を示す図
【図4】ドッキングホースに下方荷重を負荷した状態の模式図
【図5】ドッキングホースの反力と曲げ半径との関係を示す図
【図6】反力の方向を示す図で、(a)は垂直反力の方向を示し、(b)は求心反力の方向を示す
【図7】従来のコンクリートポンプ車の側面図
【符号の説明】
【0081】
1 ドッキングホース
7 ホース本体
8a、8b 口金
9 ゴム膜
10 補強コード層
11 耐座屈層
13 補強コード
14 突起
15 硬鋼線
16 マンドレル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ゴム膜に補強コード層を埋設してなるゴムホースであって、
前記補強コード層は、補強コードをホース中心軸に対して傾斜させつつ周方向かつ二列に配列すると共に、各列の補強コードの傾斜方向を互いに交差するよう設定してなり、
前記補強コードは、ホース中心軸を螺旋状に取り巻きつつホース中心軸方向に複数回往復することにより、周方向かつ二列に配列されたことを特徴とするゴムホース。
【請求項2】
前記補強コードのホース中心軸に対する傾斜角度は、ホース中心軸方向の基端側における角度が先端側における角度よりも小さく設定されたことを特徴とする請求項1に記載のゴムホース。
【請求項3】
前記補強コードのホース中心軸に対する傾斜角度は、ホース中心軸に沿って徐々に変化するよう設定されたことを特徴とする請求項2に記載のゴムホース。
【請求項4】
前記補強コードのホース中心軸に対する傾斜角度は、45°〜55°の範囲に設定されたことを特徴とする請求項2又は3に記載のゴムホース。
【請求項5】
前記補強コードは、合成繊維コードとされたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴムホース。
【請求項6】
前記補強コード層を螺旋状に取り巻く硬鋼線を埋設してなる耐座屈層が設けられたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のゴムホース。
【請求項7】
前記補強コード層は、ホース中心軸を螺旋状に取り巻く単数の補強コードから形成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のゴムホース。
【請求項8】
前記補強コード層は、ホース中心軸を螺旋状に取り巻く複数の補強コードから形成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のゴムホース。
【請求項9】
ホース中心軸方向の両端に口金が取り付けられ、前記補強コードは、その螺旋形状の端部の折り返し位置において、前記口金に形成された係止部に係止されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のゴムホース。
【請求項10】
ホース中心軸方向の両端に口金が取り付けられ、基端側の口金がコンクリートポンプ車のブーム側に接続されると共に、先端側の口金が先端ホースに接続されるドッキングホースとされたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のゴムホース。
【請求項11】
筒状ゴム膜に補強コード層を埋設してなるゴムホースの製造方法であって、
マンドレルの周りに内面未加硫ゴムを巻き付け、次いで、前記マンドレルを中心軸周りに一定方向に回転させつつ中心軸方向に往復移動させて、前記内面未加硫ゴムの外側に補強コードを螺旋状に巻き付けながら中心軸方向に複数回往復させることにより、補強コードを中心軸に対して傾斜させつつ周方向かつ二列に配列すると共に、各列の補強コードの傾斜方向を互いに交差させて前記補強コード層を形成し、その後、補強コード層の外側に外面未加硫ゴムを配置して、前記内面未加硫ゴム及び前記外面未加硫ゴムを加硫成形することを特徴とするゴムホースの製造方法。
【請求項12】
前記マンドレルの回転速度及び軸方向移動速度の少なくとも一方を変化させることにより、補強コードの中心軸に対する傾斜角度を中心軸に沿って変化させることを特徴とする請求項11に記載のゴムホースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−80510(P2008−80510A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259862(P2006−259862)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】