説明

ゴム組成物、その製造方法並びにそれらから得られる加硫された複合材料

【課題】HNBRを当該支持体材料上に直接、強化材を前処理する必要なく、加硫可能にする組成物を提供する。
【解決手段】以下の成分:
a)0.1〜98.4質量%のHNBRゴム、
b)0.1〜20質量%のペルオキシド架橋系及び
c)0.5〜40質量%のレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂
を含有する組成物によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素化ニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、ペルオキシド架橋系及びレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂を含有する組成物、該HNBR組成物の製造方法、接着促進剤としてのHNBR組成物の使用並びに本発明による組成物を含有する多層生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
未処理織物及び強化材のための接着基剤として使用できる組成物に関して高い需要がある。未処理織物及び強化材は、例えば溶液からの被覆過程(含浸工程)によるか又はラテックス浸漬を使用することによって接着目的のための特別な表面処理がなされていない織物及び強化材であると解される。支持体材料とゴムの表面間の結合は、複合材料系において欠点とならないように十分に強力でなければならない。
【0003】
ゴムと未処理の支持体材料との直接的な反応、かつ引き続いてのペルオキシド架橋は先行技術では知られていない。類似の直接接着法は、バイエルAG社によって刊行されたゴム工業のためのハンドブック、第2版、1991年、第500頁(Handbuch fuer die Gummiindustrie, 2nd Edition, 1991, p. 500)に記載される唯一の硫黄で加硫可能な系、例えばポリクロロプレン及びニトリルゴムである。該方法をHNBRをベースとするペルオキシド加硫系で使用することは従来開示されていない。
【0004】
ペルオキシド架橋されるべき本来のゴムを支持体材料に良好に結合させることを保証するために、該支持体材料は前処理しなければならない。前処理のために該支持体材料を、例えばいわゆる上塗り層の適用のためにラテックス又は溶液で処理する。かかる上塗り層は幾つかの化学的に異なる成分を有する。これらは一般にポリクロロプレン、ポリビニルピリジン、ポリブタジエン又はポリブタジエンコポリマー(アクリロニトリル、スチレンからなる群から選択される)又は前記のポリマーの混合物からなる群から選択されるゴムからなる。更にしばしばラテックス添加樹脂、例えばレゾルシノール樹脂と硬化剤、例えばホルムアルデヒド(又はホルムアルデヒド供与体)及び場合によりシラン化合物と混合することが好適である。かかるラテックスはRFLラテックス(レゾルシノール−ホルムアルデヒドラテックス)と呼称される。
【0005】
支持体材料をラテックス中に浸漬させ、乾燥させ、かつ完全に反応させ、次いで本来のゴムを前処理された支持体材料上で加硫する。加硫は硫黄又は硫黄系及びペルオキシドの両方で実施できる。
【0006】
ポリブタジエン又はポリブタジエンコポリマー、ポリクロロプレン又はポリビニルピリジンをベースとする慣用のラテックスで含浸された織物は、ペルオキシド架橋されたゴム(製造の次の工程で使用される)を使用する場合に、特に老化後に明らかな欠点を示す。
【0007】
老化特性を改善するために、EP−B10252264号及び米国特許第5,176,781号明細書は従って、部分的に水素化されたHNBRをベースとし、かつ/又は慣用のラテックスとRFL系との組み合わせのラテックスの使用を開示している。
【0008】
こうして得られ、かつペルオキシド加硫可能なゴム混合物への接着のために活性化された支持体材料の製造のために、幾つかの効果的な浸漬サイクル又は含浸サイクルがしばしば必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】EP−B10252264号
【特許文献2】米国特許第5,176,781号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Handbuch fuer die Gummiindustrie, 2nd Edition, 1991, p. 500
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、HNBRを当該支持体材料上に直接、強化材を前処理する必要なく、加硫可能にする組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は
a)0.1〜99.4質量%のHNBRゴム、
b)0.1〜20質量%のペルオキシド架橋系及び
c)0.5〜40質量%のレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂
を含有する組成物に関する。
【0013】
本発明による組成のHNBRゴムは10〜50質量%のニトリル基含量を有してよい。
【0014】
本発明による組成物は更に充填剤及び添加剤を含有してもよい。
【0015】
本発明による組成物は、更なる充填剤及び添加剤の他に0〜40質量%の金属アクリレート及び/又はメタクリレートを含有してもよい。
【0016】
本発明はまた本発明による組成物を製造するために、成分a)、b)及びc)を混合する方法を提供する。
【0017】
また本発明による組成物を支持体材料と一緒に加硫した複合材料の製造方法を提供する。
【0018】
また該複合材料の製造方法において、支持体材料はポリアミド、ポリエステル、ポリアラミド、レーヨン又はガラスからなる群から選択される織物又はコードの形であってよい。
【0019】
また本発明は本発明による組成物及び支持体材料の加硫によって得られる複合材料を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による組成物及び支持体材料の加硫によって得られる複合材料は歯付ベルト、Vベルト、コンベヤベルト、ホース、バッグ、メンブレン、タイヤ、空気バネ及びゴム筋からなる群から選択できる。
【0021】
本発明による組成物は0.1〜99.4質量%のHNBRゴムを含有する。20〜70質量%、より有利には30〜60質量%が有利である。HNBRゴムという表現は本願では、単純なHNBRゴム並びにカルボキシル化されたHNBRゴム(HXNBR)及びまたブタジエン、アクリロニトリル及び他のアクリルモノマー又はビニルモノマーの水素化HNBRコポリマーを意味すると解される。HNBRゴムは高度に水素化されたニトリル−ブタジエン又はニトリル−ブタジエンコポリマーゴムである。高度に水素化されたとは、1000個の炭素原子あたりに40個未満の二重結合、有利には1000個の炭素原子あたりに15個未満の二重結合、より有利には1000個の炭素原子あたりに0.2〜15個の二重結合の範囲であるHNBRゴム中の二重結合含量を意味すると解される。本発明による組成物のためのHNBRゴムは、HNBRゴムの総含量に対して、有利には10〜50質量%、有利には15〜39質量%、より有利には20〜36質量%の範囲のニトリル基含量を有する。
【0022】
NBRゴムの部分的及び/又は完全な水素添加はDE−A2539132号、DE−A3329974号、DE3056008号、DE−A3046251号、EP−A111412号及びWO−A01/77185号に記載されている。HNBRゴムは溶液で製造され、該溶液は後に固体ゴムに変換される。
【0023】
HNBRゴムを製造するために使用するニトリル−ブタジエンゴムは有利にはモノマー単位のランダム分布を有する。NBRゴムの製造のための適当なモノマーは当業者に公知の、アクリロニトリル及びブタジエンとエマルジョン中で共重合可能な全ての不飽和モノマーである。アクリロニトリル及びブタジエンをベースとする及びアクリロニトリル、ブタジエン、ビニルモノマー及びアクリレート又はメタクリレートエステル及びそれらの遊離酸をベースとするコポリマーが有利である。
【0024】
共重合のために有利な不飽和モノマーはビニルベンゼン、例えばスチレン、ジビニルベンゼン、メチルスチレン、メタクリロニトリル、アクリレート、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート及びメタクリレート、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート及びそれらの遊離酸、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸を含む。
【0025】
本発明による組成物は0.1〜20質量%、有利には3〜15質量%のペルオキシド架橋系を含有する。該ペルオキシド架橋系はフリーラジカル生成剤を、有利にはアクチベーターと組み合わせて含有する。架橋系中のアクチベーターの割合は全体として0〜95質量%、有利には20〜70質量%である。架橋系中のフリーラジカル生成剤の割合は全体として、5〜100質量%、有利には30〜80質量%である。例えばトリアリルイソシアヌレート及びトリアリルシアヌレート、ジアクリレート及びトリアクリレート、シス−1,2−ポリブタジエン、m−N′,N−フェニレンジマレイミドなどをアクチベーターとして使用してよい。トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートが有利である。
【0026】
フリーラジカル生成剤として、ベンゼン中での10時間半減期が80℃より高い前記の化合物を使用する。ペルオキシドフリーラジカル生成剤、例えばジ−t−ブチルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシイソプロピルベンゼン、ジベンゾイルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシドなどが有利である。
【0027】
また本発明による組成物は0.5〜40質量%、有利には3〜15質量%のレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂を含有する。該レゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂は、フェノール誘導体とホルムアルデヒド及び/又はホルムアルデヒド供与体との縮合生成物として得られる直接接着剤である。有利なレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂は、例えば製品、例えばユニロイヤル(Uniroyal)社からのBondingagent R6(R)、バイエルAG社からの製品ファミリーCohedur(R)及びVulkadur(R)を含む。レゾルシノールは、有利にはフェノール又はフェノール誘導体成分として使用される。ヘキサメトキシメチルメラミンのような化合物はしばしばホルムアルデヒド成分として使用される。レゾルシノール−ホルムアルデヒド系は個々の成分の形(例えばバイエルAG社からのCohedur RL(R))でも又は予備縮合された形(例えばVulkadur (R))でも使用できる。反応性及び接着特性に更に、適当な触媒(シリカ、例えばVulkasil A1(R)(半活性沈降ケイ酸ナトリウムアルミニウム、pH10〜12、表面積60m/g)、バイエルAG社からのVulkasil N1(R)(活性沈降シリカ、pH7、表面積130m/g))の添加によって影響を及ぼすことができる。本発明による組成物は、0〜75質量%の更なる充填剤及び添加剤を含有してよい。これらは、本発明による組成物の全組成に対して、有利には5〜75質量%、より有利には30〜60質量%の量で使用される。充填剤及び添加剤は、加硫ゴム複合材料の分野で使用され、かつバイエルAG社によって刊行されたゴム工業のためのハンドブック、第2版、1991年に記載される当業者に公知のあらゆる充填剤及び添加剤であると解される。カーボンブラック、シリカ、無機酸化物、安定剤、可塑剤、加工助剤、老化防止剤が有利である。
【0028】
本発明による組成物の全組成に対して0〜40質量%、有利には5〜30質量%の更なる金属アクリレート及び/又はメタクリレートは有利には本発明による組成物に添加される。有利な金属(メタ)アクリレートは亜鉛ジアクリレート及び亜鉛ジメタクリレートである。
【0029】
本発明による組成物の製造のために、成分a)、b)及びc)を一緒に混合する。当業者に公知の装置、例えば内部ミキサ及びローラを混合のために使用する。混合物の製造は当業者に公知の温度で実施される。40〜140℃の温度範囲が有利である。
【0030】
また本発明は支持体材料及び本発明による組成物からなる複合材料の製造方法を提供する。
【0031】
支持体材料は、繊維材料から構成されるあらゆる繊維及びコードであると解される。繊維材料はコットン、レーヨン、ポリアミド繊維、例えばポリカプロラクタム、ポリ(デカメチレンカルボキサミド)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミドなど)、ポリアミド繊維(ポリ(m)−フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(p)−フェニレン−イソフタルアミドなど)、ポリエステル繊維、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(シクロヘキサン 1,4−ジメチレンテレフタレートなど、ガラス繊維、スチールコードからなる群から選択される。ポリアミド、ポリエステル、ポリアラミド、レーヨン及びガラスからなる群から構成される繊維材料が有利である。
【0032】
係る複合材料の製造のために本発明による組成物を120〜220℃、有利には150〜200℃の温度で、かつ0.5〜50バール、有利には2〜20バールの圧力で支持体材料と一緒に加硫する。加硫は、得られる複合材料の形状を規定する当業者に公知の圧力中で実施される。
【0033】
タイヤ、コンベヤベルト、全ての種類のベルト、例えば歯付ベルト、Vベルト、強化ホース、例えば耐火ホース、ゴム引布、空気バネ及びゴム筋からなる群から選択される複合材料を製造できる。
【0034】
こうして得られる複合材料は老化においても支持体及びゴムの間の良好な接着に優れている。得られる複合材料は良好な耐熱性及び良好な耐油性並びに良好な機械的特性、例えば引張強度及び破断点伸びを有する。これらの複合材料は、支持体材料の前処理のための高価な浸漬プロセスを必要としないので慣用の複合材料よりも、簡単かつより経済的に製造できるという利点を有する。
【実施例】
【0035】
本発明によるものでない比較混合物及びそれから得られる比較例を#で印した。
【0036】
表1
強化材料のための接着混合物として使用するための種々の配合物のための配合表。該混合物の成分は使用されるHNBRゴム(Therban)の全量に対する部で示している。
【0037】
【表1】

【0038】
バイエル社からのTherban VPKA8889(水素化されたアクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸ターポリマー(HXNBR))
バイエル社からのTherban C3446(水素化されたアクリロニトリル−ブタジエンコポリマー(HNBR))
ラインシェミー(Rheinchemie)社からのRhenofit DDA−70(70%のジフェニルアミン誘導体(ドライリキッド))
デグサ社からのCorax N550カーボンブラック、FEF(高速押出炉)
バイエル社からのCohedur RL(45.5%レゾルシノール、45.5%のCohedur A、700.9%ジブチルフタレート)
クレイ(Cray)社からのSartomer Saret S633、遅延剤を添加した金属ジアクリレート
シル+ザイルアッヒャー(Schill+Seilacher)社からのStruktol ZP1014、過酸化亜鉛(分散剤を有する約55%の無塵の過酸化亜鉛)、XNBR及びHNBR加硫のための促進剤
リーデル デ ハエン(Riedel de Haen)AG社からのステアリン酸アルミニウム
テファク(Tefac)社からのTefacid RG(ステアリン酸)
アクゾ−ノーベル社からのPerkadox 14−40B−gr10(ジ−(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%)
該混合物の製造のために、前記成分を混合ローラ上で以下の順序で混合する:ゴム、カーボンブラック、亜鉛ジアクリレート、安定剤、ペルオキシド及び加工助剤。ローラは60℃の温度を有する。
【0039】
表2
加硫前の混合物の特性の物理試験の結果
【表2】

【0040】
表3
室温で強化材を使用しない場合の組成物の加硫物の特性の物理試験の結果。加硫は180℃で30バールにおいて20分間実施した。
【0041】
【表3】

【0042】
表4
種々の編織物への接着の試験結果。剥離強度を23℃においてDIN53530に従って100mm/分の取り出し速度で測定した。ポリアミド織物、市販のHNBR−RFLラテックスで被覆された前記と同一のポリアミド織物並びにレーヨン織物からなる混合物1〜9の剥離強度をDIN53530に記載される剥離試験片で試験した。該試験片を180℃で30バールにおいて30分間加硫した。
【0043】
【表4】

ゴムの破断
**繊維と混合物の間の転移点での破断
本発明は前記に説明の目的で詳細に記載したが、かかる詳細は単に説明を目的とするものであり、種々の変更はここで当業者によって本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、特許請求の範囲によって制限される場合を除いてなされると解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分:
a)0.1〜98.4質量%のHNBRゴム、
b)0.1〜20質量%のペルオキシド架橋系及び
c)0.5〜40質量%のレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂
を含有する組成物。
【請求項2】
0〜40質量%の金属アクリレート及び/又はメタクリレートを更に含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
成分a)、b)及びc)を混合する、請求項1記載の組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の組成物を支持体材料と一緒に加硫する、複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の組成物及び支持体材料の加硫によって製造される複合材料。

【公開番号】特開2011−38119(P2011−38119A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264050(P2010−264050)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【分割の表示】特願2004−43479(P2004−43479)の分割
【原出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(504419760)ランクセス ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (58)
【氏名又は名称原語表記】Lanxess Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】D−51369 Leverkusen, Germany
【復代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
【Fターム(参考)】