説明

サスペンション装置

【課題】従来の緩衝器およびゴム部材で生じていた問題を解消することができるサスペンション装置を提供する。
【解決手段】サスペンション装置101は、たとえば緩衝器50、サスペンションスプリング60、アッパシート70、および、ばね1を備えている。ばね1は、ピストン部51の上端部とアッパシート70の下面との間に配置され、緩衝器50からの荷重を受ける弾性部材である。ばね1では、荷重特性にヒステリシスが発生しないから、動的ばね定数を小さくすることができ、これにより高周波帯域や微振幅領域の振動の伝達を抑制することができる。一方、ばね1では、本体部が皿ばね部として機能するから、緩衝器50の軸線垂直方向のばね定数が大きくなり、軸線垂直方向の剛性を大きくすることができる。その結果、乗り心地が良好になるとともに、操縦安定性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器がアッパシートを介して車体に取り付けられるサスペンション装置に係り、特に、車体と緩衝器との間に設けられる弾性部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両では、車輪が路面から衝撃を受けたとき、その衝撃の車体への伝達を抑制する装置としてサスペンション装置が設けられている。サスペンション装置は、緩衝器とサスペンションスプリングを備えている。緩衝器は、車体側に連結されるピストン部と、車輪側に連結されるとともにピストン部を摺動自在に案内するシリンダ部を有している。緩衝器のピストン部およびサスペンションスプリングの車体側端部は、アッパシートを介して車体側に連結される。シリンダ部は、サスペンションアーム等を介して車輪側に連結される。
【0003】
サスペンション装置では、緩衝器を通じた車体への振動伝達を抑制するために、アッパシートとして、弾性部材としてゴム部材を有するアッパサポートが使用されている。アッパサポートでは、複数の筒状部材が設けられ、それら間にゴム部材が形成されている。アッパサポートには、入力分離型のもの(たとえば特許文献1)と入力一体型のもの(たとえば特許文献2,3)がある。
【0004】
入力分離型アッパサポートでは、緩衝器からの荷重が緩衝ゴム部材を介して車体に入力されるとともに、サスペンションスプリングからの荷重が支持ゴム部材を介して車体に入力される。緩衝ゴム部材と支持ゴム部材とは別体であり、車輪から車体への入力荷重は分離される。入力一体型アッパサポートでは、緩衝ゴム部材と支持ゴム部材が一体に形成され、緩衝器からの荷重とサスペンションスプリングからの荷重が、共通のゴム部材を介して車体に入力され、車輪から車体への入力荷重は分離されない。
【0005】
このようなサスペンション装置の緩衝器およびゴム部材には次のような問題があった。
【0006】
緩衝器では、ピストン部がその上端部にロッド有し、ロッドの上端部が車体側に連結され、ロッドの下端部にピストン部が固定されている。ピストン部はその下端部に弁を有している。ピストン部の弁は、シリンダ部内面を摺動し、ロッドは、その周囲に設けられたロッドガイド部のシールを摺動する。緩衝器のシリンダ部には、作動油が封入され、必要に応じてガスが封入されており、作動油が摺動時の弁を通過して抵抗が発生することにより緩衝機能が実現される。
【0007】
しかしながら、緩衝器では、高周波帯域や微振幅領域の振動に対して追従できないため、緩衝機能を実現できない。たとえば、ロッドガイド部のシールとロッド間にスティックスリップが発生した場合、滑らかな動作を行うことができない。その結果、乗り心地が悪くなる。そこで、スティックスリップを防止するために、作動油の基油組成の最適化が図られている(たとえば特許文献4)。
【0008】
また、ピストン部のロッドからの車体の垂直方向の振動は、アッパシートのゴム部材に対してせん断応力として作用することから、乗り心地を良好とすることに加えて、操縦安定性を確保するために、ゴム部材には、車体上下方向(緩衝器の軸線方向)に柔らかいばね特性を示す一方、車体の水平方向(軸線垂直方向)に大きく撓まないばね特性を示すことが要求されている。
【0009】
しかしながら、部材間にゴム部材を配置する形態では、軸線垂直方向/軸線方向のばね定数比を高めるには限界があり、最大2〜3倍程度の特性を得ているに過ぎなかった。そこで、軸線垂直方向/軸線方向のばね定数比を高めるためにゴム部材にインナースリーブ等の別部材を埋設することにより、軸線垂直方向/軸線方向のばね定数比を5倍にすることが提案されている(たとえば特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−172171号公報
【特許文献2】特開2002−54685号公報
【特許文献3】特開2009−196574号公報
【特許文献4】特開2008−163165号公報
【特許文献5】実公平5−11046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように乗り心地を良好とするためには、緩衝器では、作動油に改良により、高周波帯域や微振幅領域でのスティックスリップの防止が図られているが、それで対応することができる高周波帯域や微振幅領域の範囲には限界がある。一方、ゴム部材では、ばね定数比の向上には限界があり、しかも、この場合、ばね定数比の向上に別部材が必要となるため、部品点数が増加し、その構造が複雑になる。
【0012】
したがって、本発明は、従来の緩衝器およびゴム部材で生じていた上記問題を解消することができるサスペンション装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1のサスペンション装置は、緩衝器と、緩衝器が連結されるアッパシートとを備え、緩衝器がアッパシートを介して車体に接続されるサスペンション装置であって、
車体とアッパシートとの間、および、緩衝器とアッパシートとの間の少なくとも一方にばねが設けられ、ばねは、孔部を有する本体部と、本体部の内周部および外周部に設けられた筒状部と、本体部と筒状部との境界部に形成された角部とを備え、本体部は、緩衝器の軸線方向に交差する方向に延在し、筒状部は、本体部の内周部および外周部から相手部材に向けて突出してそこに当接する当接部を備え、角部は、その角度が相手部材から加えられる押圧力に応じて変化するように弾性変形可能であることを特徴とする。なお、ばねが車体とアッパシートとの間に設けられる場合、相手部材は車体およびアッパシート、ばねが緩衝器とアッパシートとの間に設けられる場合、相手部材は緩衝器とアッパシートである。
【0014】
本発明の第1のサスペンション装置では、車体とアッパシートとの間、および、緩衝器とアッパシートとの間の少なくとも一方にばねを設けている。ここで、車両の車輪側からの荷重が緩衝器を通じて車体に入力される場合、その荷重が高周波帯域や微振幅領域の振動であるとき、緩衝器がそのような振動に対して追従できない場合でも、上記のように配置されたばねは次のような機能を有することができるから、荷重変動を抑制することができる。
【0015】
ばねでは、本体部の延在方向は、緩衝器の軸線方向に交差する方向に延在するから、本体部が皿ばね部として機能し、ばねの荷重特性が、皿ばねの特性と同様に略平坦領域を有するように非線形となるので、小さなスペースで大きな荷重を支持することができる。また、角部は、荷重印加時に弾性変形時にはその角度を変化させながら、本体部の端部の外部側に移動することができるから、筒状部における角部と相手部材との間の距離を適宜設定することにより、荷重印加時に筒状部の相手部材近傍の部位の変形を防止することができる。これにより、筒状部の相手部材に対する摺動を防止することができるので、皿ばねとは異なり、筒状部と相手部材との間に摩擦が発生しなく、その結果、ばね荷重特性にヒステリシスが発生しない。このようにばねでは、動的ばね定数を小さくすることができる。したがって、緩衝器でスティックスリップが発生した場合でも、軸線方向のばね定数が小さいばねが上記のように作用する。その結果、高周波帯域や微振幅領域の振動を吸収しても、荷重変動を小さくすることができるから、乗り心地が良好となる。このようにスティックスリップの発生自体を防止することが不要となるから、緩衝器の作動油の基油組成の最適化を図る必要がなくなる。
【0016】
一方、ばね本体部は上記のように皿ばね部として機能するから、緩衝器の軸線方向に直交する方向(以下、軸線垂直方向)のばね定数が大きくなり、軸線垂直方向/軸線方向のばね定数比が高められ、軸線垂直方向の剛性を大きくすることができる。緩衝器の軸線方向の振動がばねに対してせん断応力として作用した場合でも、ばねは軸線垂直方向に撓まないから、操縦安定性を確保することができる。したがって、従来のゴム部材とは異なり、ばね定数比の向上のための別部材が不要となり、部品点数を低減することができる。しかも、この効果は、皿ばね部として機能する本体部に筒状部を設けるという簡単な構成で得ることができる。
【0017】
本発明の第1のサスペンション装置は種々の構成を用いることができる。たとえば緩衝器をアッパシートに固定する固定手段を備え、固定手段とアッパシートとの間に、ばねと同様な構成を有する他のばねが設けられている態様を用いることができる。この態様では、固定手段を通じて緩衝器から入力される荷重を他のばねが受けて、その変動を抑制することができるとともに、車体が車輪と反対側に移動した場合、他のばねはその衝撃を吸収することができる。また、ばねでは、初期状態のばね定数が最小になるとともに、動作中のたわみ量変化が大きいときにばね定数が大きくなるように設定されている態様を用いることができる。この態様では、サスペンション装置の動作において、通常の微振幅時に動的ばね定数の小さな領域を利用し、大振幅時にばね定数が大きくなって緩衝器を効果的に利用することが可能となるので、荷重変動の抑制を効果的に図ることができる。
【0018】
本発明の第2のサスペンション装置は、緩衝器と、緩衝器が連結されるアッパシートとを備え、緩衝器がアッパシートを介して車体に接続されるサスペンション装置であって、アッパシートは、孔部を有する本体部と、本体部の内周部および外周部のうちの少なくとも内周部に設けられた筒状部と、本体部と筒状部との境界部に形成された角部とを備え、本体部は、緩衝器の軸線方向に交差する方向に延在し、筒状部は、本体部の周部から相手部材に向けて突出してそこに当接する当接部と、孔部の径方向の内側あるいは外側に向かって突出するようにして当接部に形成されるとともに、相手部材に取り付けられる取付部とを有し、角部は、その角度が相手部材から加えられる押圧力に応じて変化するように弾性変形可能であることを特徴とする。なお、相手部材は緩衝器と車体である。周部とは、本体部において筒状部が設けられた内周部あるいは外周部のことをいう。
【0019】
本発明の第2のサスペンション装置では、アッパシートが本発明の第1のサスペンション装置のばねと同様な形状をなし、取付部により相手部材に取り付けられるから、本発明の第1のサスペンション装置と同様な効果を得ることができるのはもちろんのこと、部品点数を低減することができるとともに、設置スペースが小さな場合にも、容易に対応することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のサスペンション装置によれば、乗り心地が良好になるとともに、操縦安定性を確保することができる。このような効果は、緩衝器の作動油の基油組成の最適化を図ることなく、ばね定数比の向上のための別部材を用いることなく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置の一部概略構成を表す側断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置の変形例の一部概略構成を表す側断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るサスペンション装置に使用されるばねの構成を表し、(A)は、斜視図、(B)は、部材間に配置した状態にあるばねの側断面図である。
【図4】図3に示すばねの右側部分の動作状態を表し、(A)は、ばねの動作前(点線)と動作時(実線)の側断面図であり、(B)は、ばねの動作時の第1角部および第2角部の拡大側断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置で使用されるばねの実施例の荷重特性の実験結果の一部を表すグラフである。
【図6】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置のばねの初期荷重の設定手法について説明するための図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置の実施例と比較例で得られた振動周波数と荷重変動幅との関係を表す図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置の他の変形例の一部概略構成を表す側断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係るサスペンション装置の概略構成を表し、(A)はサスペンション装置の一部の側断面図、(B)はサスペンション装置に使用されるアッパシートの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)第1実施形態
(1−1)全体構成
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置101の概略構成を表す側断面図である。図2は、本発明の第1実施形態の変形例に係るサスペンション装置101Aを表す側断面図である。
【0023】
サスペンション装置101は、たとえば緩衝器50、サスペンションスプリング60、アッパシート70、および、ばね1を備えている。緩衝器50は、ピストン部51およびシリンダ部52を備えている。ピストン部51の下端部の弁がシリンダ部52内面を摺動する。ピストン部51のロッドは、その周囲に設けられたロッドガイド部(図示略)のシールを摺動する。ピストン部51のロッドの上端部は、ねじ手段等の固定部材81によりアッパシート70に固定される。シリンダ部52の外周部には、サスペンションスプリング60の車輪側端部を受けるフランジ部53が形成されている。シリンダ部52には、作動油等が封入され、作動油等が摺動時の弁を通過して抵抗が発生することにより緩衝機能が実現される。
【0024】
サスペンションスプリング60は、シリンダ部52のフランジ部53とアッパシート70との間に設けられ、たとえばコイルスプリングである。サスペンションスプリング60は、緩衝器50とともに、車輪側からの荷重を受ける。アッパシート70は、ねじ手段等の固定部材82により車体200に固定される。緩衝器50のピストン部51およびサスペンションスプリング60の車体側端部は、アッパシート70を介して車体200に連結される。シリンダ部52は、サスペンションアーム(図示略)等を介して車輪(図示略)に連結される。
【0025】
ばね1は、ピストン部51の上端部とアッパシート70の下面との間に配置され、緩衝器50からの荷重を受ける弾性部材である。この場合、図2に示すサスペンション装置101Aでは、緩衝器50からの荷重を受ける弾性部材として、固定部材81の大径部とアッパシート70の上面との間にばね1(他のばね)がさらに設けている。
【0026】
(1−2)ばねの構成
図3は、ばね1の構成を表し、(A)はばね1の斜視図、(B)は、第1部材111と第2部材112との間に配置されたばね1の右側部分の側断面図である。なお、ばね1がピストン部51の上端部とアッパシート70の下面との間に配置される形態では、ピストン部51が第1部材111、アッパシート70が第2部材112に対応し、ばね1が固定部材81の大径部とアッパシート70の上面との間に配置される形態では、固定部材81の大径部が第1部材111、アッパシート70が第2部材112に対応する。
【0027】
ばね1は、たとえば、ばね鋼や強化材プラスチックからなる。ばね1は、たとえば中心部に孔部10Aが形成された本体部10を備えている。本体部10は、たとえば第1部材111と第2部材112からの押圧力の方向に対して交差する方向に延在している。ばね1は、皿ばねとしての機能を有する皿ばね部である。本体部10は、たとえば下方に向かうに従って傾斜する略円錐形状をなしている。これにより、ばね1は、その荷重特性が、図6に示すように、略平坦領域を有するように非線形となる。また、本体部10は皿ばね部として機能するから、軸線方向に直交する方向(以下、軸線垂直方向)のばね定数が大きい。
【0028】
孔部10Aは、たとえば円形状をなしている。本体部10の内周部には、第1部材111に向けて突出する第1筒状部11(筒状部)が設けられている。第1筒状部11(筒状部)の上端部は、第1部材111に当接する当接部である。本体部10の外周部には、第2部材112に向けて突出する第2筒状部12(筒状部)が設けられている。第2筒状部12の下端部は、第1部材112に当接する当接部である。筒状部11,12はたとえば円筒部である。
【0029】
本体部10と第1筒状部11との境界部には第1角部13が形成され、本体部10と第2筒状部12との境界部には第2角部14が形成されている。第1角部13および第2角部14は、第1部材111と第2部材112からの押圧力に応じて、その角度を変化させるように弾性変形可能である。筒状部11,12の機能は下記で詳述する。
【0030】
ばね1は、プレス成形により各部位を折り曲げて形成することができる。また、各部位を溶接して形成することができる。
【0031】
(1−3)ばねの筒状部の機能
荷重印加時における筒状部11,12の機能について、おもに図4を参照して説明する。図4は、第1部材111と第2部材112の間に設置された1個のばね1の動作状態を表し、(A)は、ばね1の動作前(点線)と動作時(実線)の断面図であり、(B)は、ばね1の動作時の第1角部13および第2角部14の拡大断面図である。なお、図4では、図3(B)と同様に、1個のばね1の右側部分のみを図示している。
【0032】
図4(A)の点線で示すように、第1部材111と第2部材112の間に配置されたばね1に対して、第1部材111から下側方向の荷重を加える。すると、図4(B)の実線で示すように、ばね1は撓んで第1部材111が下方に移動する。図中の符号dは、ばね1のたわみの大きさを示している。
【0033】
本体部10は、第1部材111からの押圧力の方向に交差する方向に延在し、ばね1の上側において、第1筒状部11は、本体部10の内周部から第1部材111に向けて突出してそこに当接している。そのような本体部10と第1筒状部11の境界部に形成した第1角部13は、荷重印加時に第1部材111からの押圧力に応じて角度αが変化するように弾性変形することができる。この場合、第1角部13は、上記のような位置関係にある本体部10と第1筒状部11の境界部に形成された部位であるから、そのような第1角部13は、荷重印加時に角度αを変化させながら、本体部10の内周部の内側(図の左側)に移動することができる。
【0034】
このように荷重印加時に第1角部13は弾性変形することができるので、第1筒状部11が荷重印加時に第1部材111側の不変形部分(図4(B)中の点Sより上側)を有するように第1筒状部11の長さを適宜設定することにより、第1筒状部11の第1部材111側部分の変形を防止することができる。
【0035】
一方、ばね1の下側において、第2筒状部11は、本体部10の内周部から第2部材112に向けて突出してそこに当接している。この場合、第1角部13と同様な機能を有する第2角部14は、荷重印加による弾性変形時に、第2部材112からの押圧力に応じて、角度βを変化させながら、本体部10の外周部の外部側(図の右側)に移動することができる。
【0036】
このように荷重印加時に第2角部14は弾性変形することができるので、第2筒状部12が荷重印加時に第2部材112側の不変形部分(図4(B)中の点Tより下側)を有するように第2筒状部12の長さを適宜設定することにより、第2筒状部12の第2部材112側部分の変形を防止することができる。
【0037】
以上のようにばね1は、筒状部11,12に不変形部分を有するので、ばね1と相手部材との摺動を防止することができる。その結果、ばね1の荷重特性では、図5に示すように、皿ばねで問題となっていたヒステリシスが発生しない。図5は、ばね1の実施例の荷重特性の実験結果の一部を表すグラフである。サスペンション装置101,101Aへのばね1の設置では、図6に示すように、初期状態のばね定数が最小になるとともに、動作時にたわみ量が変化するとばね定数が大きくなるように設定されていることが好適である。
【0038】
(1−4)第1実施形態の動作
サスペンション装置101の動作について図面を参照して説明する。サスペンション装置101,101Aが設けられた車両の車輪が路面から衝撃を受けたとき、サスペンション装置101に荷重が入力される。この場合、荷重は、緩衝器50およびサスペンションスプリング60を介して車体200に入力される。
【0039】
荷重が高周波帯域や微振幅領域の振動であるとき、緩衝器50がそのような振動に対して追従できない場合がある。ここで、図1に示すサスペンション装置101では、ばね1が、図1に示すようにピストン部51の上端部とアッパシート70の下面との間に配置されている。また、図2に示すサスペンション装置101Aでは、ばね1が、固定部材81の大径部とアッパシート70の上面との間にも配置されている。ばね1では、上記のように筒状部11,12と相手部材111,112との間に摩擦が発生しなく、これによりばね1の荷重特性にヒステリシスが発生しない。したがって、動的ばね定数を小さくすることができるから、高周波帯域や微振幅領域の振動時の荷重変動を小さくすることができる。
【0040】
図7は、本発明の第1実施形態に係るサスペンション装置の実施例と比較例で得られた振動周波数と荷重変動幅との関係の実験結果を表す図である。実施例は、ばね1を有する図2に示すサスペンション装置101Aの具体例、比較例は、実施例は、ばね1を有しない以外は実施例と同じ構成を有する具体例を用いた。実験では、ばね1の具体例について、板厚を0.4mm、本体部の高さを3.17mm、本体部の内径(第1筒状部の開口部の径)を13mm、本体部の外径(第2筒状部の開口部の径)を47mm、第2筒状部の高さを5.2mmに設定した。実験では、実施例および比較例のサスペンション装置を加振し、この場合、周波数を50Hz、75Hz、100Hz、125Hzに設定し、各周波数での荷重変動幅(N)を調べた。その結果を図7に示す。図7から判るように、ばねを有する実施例のサスペンション装置では、ばねを有しない比較例のサスペンション装置と比較して、全ての周波数において、荷重変動幅が低減していることを確認した。
【0041】
本実施形態では、緩衝器50でスティックスリップが発生した場合でも、軸線方向のばね定数が小さいばね1が荷重変動を抑制することができるから、乗り心地が良好となる。このようにスティックスリップの発生自体を防止することが不要となるから、緩衝器の作動油の基油組成の最適化を図る必要がなくなる。
【0042】
一方、ばね1では、本体部が上記のように皿ばね部として機能するから、緩衝器50の軸線垂直方向のばね定数が大きくなり、軸線垂直方向/軸線方向のばね定数比を高めることができる。たとえば、軸線垂直方向のばね定数を200N/mm以下、軸線方向のばね定数を2000N/mm以上に設定することができ、軸線垂直方向/軸線方向のばね定数比を10以上に設定することができる。したがって、ばね1では、軸線垂直方向の剛性を大きくすることができるから、緩衝器50の軸線方向の振動がばね1に対してせん断応力として作用した場合でも、ばね1は軸線垂直方向に撓まない。その結果、操縦安定性を確保することができる。よって、従来のゴム部材とは異なり、ばね定数比の向上のための別部材が不要となり、部品点数を低減することができる。しかも、この効果は、皿ばね部として機能する本体部10に筒状部11,12を設けるという簡単な構成で得ることができる。
【0043】
特に、固定部材81の大径部とアッパシート70の上面との間にもばね1を配置する場合、固定部材81を通じて緩衝器50から入力される荷重をばねが受けて、その変動を抑制することができるとともに、車体200が車輪と反対側に移動した場合、ばね1はその衝撃を吸収することができる。また、図6に示すように、ばね1の設置時の初期荷重について、図6に示すように、初期状態のばね定数が最小になるとともに、動作時にたわみ量が大きく変化したときにばね定数が大きくなるように設定することにより、サスペンション装置101の動作において、通常の微振幅時に動的ばね定数の小さな領域を利用し、大振幅時にばね定数が大きくなって緩衝器を効果的に利用することができるので、荷重変動の抑制を効果的に図ることができる。
【0044】
第1実施形態では、サスペンション装置101,101Aを用いて説明したが、これに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。たとえばサスペンション装置におけるばね1の配置形態としては、種々の形態を用いることができる。たとえば図8に示すサスペンション装置101Bでは、車体200とアッパシート70との間にばね1を配置している。サスペンション装置101Bでは、緩衝器50およびサスペンションスプリング60からの荷重が分離されずに、ばね1に入力される。第1実施形態では、必要に応じて、サスペンション装置101,101A,101Bでのばね1の配置形態を適宜組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0045】
(2)第2実施形態
図9は、本発明の第2実施形態に係るサスペンション装置102の概略構成を表し、(A)はサスペンション装置102の一部の側断面図、(B)はサスペンション装置102に使用されるアッパシート70Aの側断面図である。第2実施形態は、第1実施形態のアッパシート70がばね1の構成を有するように変更したアッパシート70Aを用いている点が第1実施形態とは異なる。第2実施形態では、第1実施形態と同様な構成には同符号を付し、その説明は省略している。
【0046】
アッパシート70Aは、本体部90、孔部90A、第1筒状部91、第2筒状部92、第1角部93、および、第2角部94を有している。本体部90はばね1の本体部10に対応し、孔部90Aはばね1の孔部10Aに対応し、第1筒状部91はばね1の第1筒状部11に対応し、第2筒状部92はばね1の第2筒状部12に対応し、第1角部93はばね1の第1角部13に対応し、第2角部94ばね1の第2角部14に対応している。アッパシート70Aの各部位は、ばね1におけるそれに対応する上記部位と同様な構成・作用を有しているから、アッパシート70Aは、図4〜6の特性を有するばね1と同様な特性を示すことができる。
【0047】
第1筒状部91の当接部は、孔部90Aの径方向の内側に向かって突出する取付部95を有している。第2筒状部92の当接部は、孔部10Aの径方向の外側に向かって突出する取付部96を有している。この場合、固定部材81の小径部が孔部90Aを通過し、取付部95が大径部により緩衝器50のピストン部51の上端部に固定される。取付部96には、たとえば孔部(図示略)が形成され、固定部材82が車体200を介して取付部96の孔部に設けられることにより、取付部96が車体200に固定される。
【0048】
ここで、アッパシート70Aでは、筒状部91,92が、ばね1の筒状部11,12と同様に不変形部分を有するから、取付部95,96と相手部材との摺動を防止することができる。したがって、取付部95,96を上記のように相手部材に固定することができる。なお、第2実施形態では、アッパシート70Aの剛性が高いから、筒状部92は設けなくてもよい。
【0049】
第2実施形態では、アッパシート70Aが第1実施形態のばね1と同様な形状をなし、取付部95,96により相手部材に取り付けられるから、第1実施形態と同様な効果を得ることができるのはもちろんのこと、部品点数をさらに低減することができるとともに、設置スペースが小さな場合にも、容易に対応することができる。
【0050】
(3)変形例
以上のように上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。なお、以下の変形例では、上記実施形態と同様な構成要素には同符号を付し、その説明は省略している。
【0051】
本発明の本体部は、たとえば、外周部から内周部に向かって下方に傾斜する円錐状、S字状や、階段状、平坦状をなすことができる。筒状部は、筒状であればよく、その断面形状は多角形でもよく、その側断面形状は、曲線状でもよい。また、本体部および筒状部には、軽量化のためにスリットを形成することができる。また、第1角部および第2角部の形状は、図示の形状に限定されるものではなく、曲面形状等の種々の形状に変更可能である。
【0052】
また、第1筒状部および第2筒状部を本体部の内周部および外周部に形成したが、第1筒状部および第2筒状部のいずれか一方のみに形成してもよい。さらに、当接部は、溶接により相手部材に固定してもよいし、当接部にフランジ部を設けてねじ手段等の固定部材を用いて相手部材に固定してもよい。また、相手部材に凹部を形成し、そこに当接部を係合させることにより固定してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…ばね、10,90…本体部、10A,90A…孔部、11,91…第1筒状部(筒状部)、12,92…第2筒状部(筒状部)、13,93…第1角部(角部)、14,94…第2角部(角部)、50…緩衝器、70,70A…アッパシート、95,96…取付部、101,101A,101B,102…サスペンション装置、111…第1部材、112…第2部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩衝器と、前記緩衝器が連結されるアッパシートとを備え、前記緩衝器が前記アッパシートを介して車体に接続されるサスペンション装置であって、
前記車体と前記アッパシートとの間、および、前記緩衝器と前記アッパシートとの間の少なくとも一方にばねが設けられ、
前記ばねは、
孔部を有する本体部と、
前記本体部の内周部および外周部に設けられた筒状部と、
前記本体部と前記筒状部との境界部に形成された角部とを備え、
前記本体部は、前記緩衝器の軸線方向に交差する方向に延在し、
前記筒状部は、前記本体部の前記内周部および前記外周部から相手部材に向けて突出してそこに当接する当接部を備え、
前記角部は、その角度が前記相手部材から加えられる押圧力に応じて変化するように弾性変形可能であることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記緩衝器を前記アッパシートに固定する固定手段を備え、
前記固定手段と前記アッパシートとの間に、前記ばねと同様な構成を有する他のばねが設けられていることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記ばねでは、初期状態のばね定数が最小になるとともに、動作中のたわみ量変化時にばね定数が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
緩衝器と、前記緩衝器が連結されるアッパシートとを備え、前記緩衝器が前記アッパシートを介して車体に接続されるサスペンション装置であって、
前記アッパシートは、
孔部を有する本体部と、
前記本体部の内周部および外周部のうちの少なくとも内周部に設けられた筒状部と、
前記本体部と前記筒状部との境界部に形成された角部とを備え、
前記本体部は、前記緩衝器の軸線方向に交差する方向に延在し、
前記筒状部は、
前記本体部の前記周部から相手部材に向けて突出してそこに当接する当接部と、
前記孔部の径方向の内側あるいは外側に向かって突出するようにして前記当接部に形成されるとともに、前記相手部材に取り付けられる取付部とを有し、
前記角部は、その角度が前記相手部材から加えられる押圧力に応じて変化するように弾性変形可能であることを特徴とするサスペンション装置。
【請求項5】
前記アッパシートでは、初期状態のばね定数が最小になるとともに、動作中のたわみ量変化時にばね定数が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項4に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
前記当接部は、前記押圧力が変化しても、前記相手部材に対して摺動しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−245942(P2011−245942A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119659(P2010−119659)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】