説明

シェル形ころ軸受及びシェル形ころ軸受の製造方法

【課題】外輪の後曲げ工程と高周波焼鈍とシールの芯金とを廃止し、シールの軸方向位置決めを明確化し、保持器の挟み込みなく、製造コストのダウンを図ることを目的とする。
【解決手段】針状ころの外径側軌道面となる円筒部2aの軸方向一端側に途中にシール収納用段部2dを有する径方向内向きに屈曲した鍔部2bを有し、該円筒部2aの軸方向他端側に径方向内向きに折り返された鍔部2cを有するシェル形外輪1と、シェル形外輪1の径方向内向きに屈曲した鍔部2bのシール収納用段部2dの内周面側に圧入して装着された環状のシール5と、シェル形外輪1の径方向内向きに折り返された鍔部2cから挿入され、一端側が段部2dに抜け止めされ、他端側が径方向内向きに折り返された鍔部2cに抜け止めされるよう組み付けられた複数のころ3を保持する保持器4とを備えてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車のスタータ用軸受として用いられるシェル形ころ軸受及びシェル形ころ軸受の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシェル形ころ軸受は、外輪の一端側のみ90°に先曲げして鍔を形成した状態でころを保持した保持器や芯金付きの環状のシールを組み付け、その後に外輪の他端側を後曲げ加工して鍔を形成し、外輪からの保持器や芯金付きの環状のシールの抜け出しを防止するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−99145号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような従来のシェル形ころ軸受では、外輪の一端側のみ先曲げして鍔を形成した状態でころを保持した保持器や芯金付きの環状のシールを組み付け、その後に外輪の他端側を後曲げ加工して鍔を形成するようにしているため、熱処理後の外輪の後曲げ側のみ、曲げ加工時の割れの発生防止として、再度高周波焼鈍を実施したり、或いは後曲げ部のみ防炭処理するなどして硬度を下げているが、コストを増加させる工程が必要であるという問題があった。
また、外輪の後曲げ側に対するこれらの処理を行うことにより、軌道の硬さ低下による寿命低下や、或いは焼鈍不足での曲げ部割れなど二次的な問題が発生する可能性や、後曲げ側の強度不足による圧入方向が規制される等の問題もあった。
さらに、保持器の端部摺動面がシールと接触するために、接触によるシール損傷を防止すべく環状のシールには芯金が必要となり、その分コストが嵩むという問題があった。
また、環状のシールは外輪の端部まで押し込まれるが、組み込み後の軸方向の位置決めがないために、最悪の場合は保持器の挟み込みが発生するという問題があった。
さらにまた、径の大きいころの場合には、環状のシールも径方向のボリュームが大となるため、材料コストが嵩むという問題もあった。
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、外輪の後曲げ工程と高周波焼鈍と環状のシールの芯金とを廃止し、環状のシールの軸方向位置決めを明確化し、保持器の挟み込みなく、製造コストのダウンを図ることができるシェル形ころ軸受及びシェル形ころ軸受の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るシェル形ころ軸受は、ころの外径側軌道面となる円筒部の軸方向一端側にシール収納用段部を途中に設けた径方向内向きに屈曲した鍔部を有し、該円筒部の軸方向他端側に径方向内向きに折り返された鍔部を有するシェル形外輪と、シェル形外輪の径方向内向きに屈曲した鍔部のシール収納用段部の内周面側に圧入して装着された環状のシールと、シェル形外輪の径方向内向きに折り返された鍔部から挿入され、一端側がシール収納用段部に抜け止めされ、他端側が径方向内向きに折り返された鍔部に抜け止めされるよう組み付けられた複数のころを保持する保持器とを備えてなるものである。
前記環状のシールは、芯金無しの弾性材で形成され、外径側に前記シェル外輪のシール収納用段部の内周面に圧入嵌合され、内径側に前記ころの内径側軌道となる軸体に対して接触されるリップとがそれぞれ設けられて構成されている。
【0006】
本発明に係るシェル形ころ軸受の製造方法は、円筒部の軸方向一端側に途中にシール収納用段部を有する径方向内向きに屈曲された鍔部を設け、円筒部の軸方向他端側に径方向内向きに折り返された鍔部を設けて構成されたシェル形外輪の全体に焼き入れを行い、焼き入れされたシェル形外輪の径方向内向きに屈曲された鍔部の途中に設けられたシール収納用段部の内周面に環状のシールの胴体部が接触するように該シールを圧入嵌合し、しかる後に複数のころを保持した保持器を組み込み、その保持器の一端側をシール収納用段部に押圧し、保持器に保持されている複数のころの他端側をシェル形外輪の径方向内向きに折り返された鍔部の内端面に嵌合させてシェル形針状ころ軸受を完成させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明のシェル形ころ軸受及びその製造方法においては、ころの外径側軌道面となる円筒部の軸方向一端側にシール収納用段部を途中に設けた径方向内向きに屈曲した鍔部を有し、該円筒部の軸方向他端側に径方向内向きに折り返された鍔部を有するシェル形外輪と、シェル形外輪の径方向内向きに屈曲した鍔部側に圧入して装着された環状のシールと、シェル形外輪の径方向内向きに折り返された鍔部から挿入され、一端側がシール収納用段部に抜け止めされ、他端側が径方向内向きに折り返された鍔部に抜け止めされるよう組み付けられた複数のころを保持する保持器とを備え、シェル形外輪の径方向内向きに屈曲された鍔部の途中に設けられたシール収納用段部の内周面に環状のシールの胴体部が接触するように該シールを圧入嵌合し、しかる後に複数のころを保持した保持器を組み込み、その保持器の一端側をシール収納用段部に押圧し、保持器に保持されている複数のころの他端側をシェル形外輪の径方向内向きに折り返された鍔部の内端面に嵌合させてシェル形針状ころ軸受を完成させるようにしたので、その後にシェル形外輪の径方向内向きに折り返された鍔部から回転軸を挿入したとしても、環状のシールはシール収納用段部の内周面と回転軸の外周面とによって挟持状態に保持されるため、該シールが芯金無しであってもシール巻き込みが生ぜず、回転軸の引き抜き時に該シールが脱落してしまうことが防止される。
【0008】
また、焼き入れされたシェル形外輪の径方向内向きに屈曲された鍔部の途中に設けたシール収納用段部の内周側にシールを圧入嵌合し、しかる後に複数のころを保持した保持器を組み込むようにしたので、従来行われていた後曲げ部の高周波焼鈍等の工程の削減によるコストダウンを図ることができる。
さらに、シェル形外輪の全体に焼き入れが行われるので、シェル形外輪の強度や硬さが均一となり、複数のころを保持した保持器を組み込んだシェル形外輪への軸の押し切り圧入が可能となる。
さらに、シール収納用段部の高さの分だけ、環状のシールの直径を小さくででき、ボリュームが低減されてコストダウンを図ることができる。
また、環状のシールは、芯金無しの弾性材で形成され、外径側に前記シェル外輪の段部の内周面に圧入嵌合され、内径側に前記ころの内径側軌道となる軸体に対して接触されるリップとがそれぞれ設けられて構成されているので、コストダウンが図れ、複数のころを保持した保持器の後組が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の実施の形態1に係るシェル形ころ軸受としてのシェル形針状ころ軸受の断面図、図2は同シェル形針状ころ軸受のシールを示す断面図、図3は同シェル形針状ころ軸受の製造手順を示す工程図である。
この実施の形態1ではシェル形ころ軸受のひとつとして、シェル形針状ころ軸受を示している。
本発明の実施の形態1に係るシェル形針状ころ軸受1は、シェル形外輪2の内部に複数のころとしての針状ころ3を保持した保持器4を収納していると共に、この保持器4の軸方向一側に環状のシール5を組み込んだ構成である。
このシェル形針状ころ軸受1の内周には、図1において二点鎖線で示すように、針状ころ3の内径側軌道となる回転軸6が挿通される。
【0010】
外輪2は、一枚の金属板をプレス成形することにより円筒形に製作されるものであり、針状ころ3の外径側軌道となる円筒部2aを有し、この円筒部2aの軸方向一端側には途中に環状のシール5を収納するためのシール収納用段部2dを有して径方向内向きに90°屈曲された鍔部2bが設けられており、円筒部2aの軸方向他端側には径方向内向きに180°屈曲、即ち径方向内向きに折り返された鍔部2cが設けられている。
そして、外輪2の径方向内向きに折り返された鍔部2cの内径寸法をAとし、外輪2のの径方向内向きに90°屈曲された鍔部2bの途中のシール収納用段部2dのシール収納の内径寸法をCとし、外輪2に収納される保持器4の外径をBとし、段部2dの軸方向長さ寸法(段部2dの内端から鍔部2bの内端面までの寸法)をDとした場合に、これらの寸法が次の関係になるように設定されている。なお、シール収納用段部2dの高さはEとされる。
C<A、かつC<B、D>シール5の幅寸法
外輪2の鍔部2bはシール5の抜けだしを防止する抜け止めとなっており、シール収納用段部2dは保持器4の一端側の抜け出しを防止する抜け止めとなっている。また、外輪2の鍔部2cは針状ころ3の他端側の抜けだしを防止する抜け止めとなっている。
【0011】
針状ころ3は、保持器4の円周に複数箇所設けられたポケット4aに対して径方向内側に抜け止めされた状態で回転自在に収納されている。
また、環状のシール5は、外径側にシェル形外輪2の鍔1bのシール収納用段部2dに嵌合される環状の胴体部5aが設けられ、内径側に回転軸6に対して接触される2つのリップ5bが設けられてて構成されている。
かかる環状のシール5は、図2に示すように、芯金無しにしてゴムや樹脂などの弾性材のみで形成されている。
このように、シール5を芯金無しにして弾性材のみで形成しているので、芯金を用いる従来例に比べて製造コストを低減できる。
【0012】
次に、本発明の実施の形態1に係るシェル形針状ころ軸受1の製造手順を簡単に説明する。
まず、シェル形外輪2は、低炭素鋼をベースとし、円筒形にプレス成形して円筒部2aを形成する。しかる後に、円筒部2aの軸方向一端側を曲げ加工して途中にシール収納用段部2dを有する径方向内向きに90°屈曲された鍔部2bを設け、さらに円筒部2aの軸方向一端側を曲げ加工して径方向内向きに180°屈曲、即ち径方向内向きに折り返された鍔部2cを設ける。なお、プレス成形でシェル形外輪2の円筒部2aとシール収納用段部2dとを一気成形してもよい。
最後に、上記のように両端が曲げ加工されたシェル形外輪2の全体に焼き入れ処理を行い強度と硬さを付与する。なお、焼き入れは、一般に周知であるから、その説明は省略する。
【0013】
そして、図3の(a)に示す焼き入れされたシェル形外輪2の内部に対して、複数のころ3を保持した保持器4と環状のシール5を組み込むものであるが、まず、シェル形外輪2の径方向内向きに90°屈曲された鍔部2bの途中に設けられた段部2dの内周側に、図3(b)に示すように、シール5の胴体部5aが接触するようにシール5を圧入嵌合する。
次に、シェル形外輪2の内部に複数のころ3を保持した保持器4を組み込む。
このとき、保持器4が樹脂製の場合は保持器4の径方向の肉厚があることにより、ころ3を内外径側へ抜け止めした構造とすることができる。この場合は、保持器4にころ3をセットした状態でシェル形外輪2内に組み込むことができる。
保持器4の一端側がシール収納用段部2dを押圧した状態で、保持器4に保持されている複数のころ3の他端側をシェル形外輪2の径方向内向きに折り返された鍔部2cの内端面に嵌合させる。
そうすると、保持器4に保持されている複数のころ3がシェル形外輪2の各ポケットaに対して径方向内外に抜け止めされた状態で回転自在に収納され、図3の(c)に示すように、シェル形外輪2の内部に対する複数のころ3を保持した保持器4とシール5の組み込みが完了する。
【0014】
この実施の形態1では、円筒部2aの軸方向一端側に途中にシール収納用段部2dを有する径方向内向きに90°屈曲された鍔部2bを設け、円筒部2aの軸方向他端側に径方向内向きに折り返された鍔部2cを設けて構成されたシェル形外輪2の全体に焼き入れを行い、焼き入れされたシェル形外輪2の径方向内向きに90°屈曲された鍔部2bの途中に設けられたシール収納用段部2dの内周面に環状のシール5の胴体部5aが接触するようにシール5を圧入嵌合し、しかる後に複数の針状ころ3を保持した保持器4を組み込み、その保持器4の一端側をシール収納用段部2dに押圧し、保持器4に保持されている複数の針状ころ3の他端側をシェル形外輪2の径方向内向きに折り返された鍔部2cの内端面に嵌合させてシェル形針状ころ軸受1を完成させるようにしたので、その後にシェル形外輪2の径方向内向きに折り返された鍔部2cから回転軸6を挿入したとしても、環状のシール5はシール収納用段部2dの内周面と回転軸6の外周面とによって挟持状態に保持されるため、環状のシール5が芯金無しであってもシール巻き込みが生ぜず、回転軸6の引き抜き時に環状のシール5が脱落してしまうことが防止される。
また、環状のシール5が芯金無しであるので、コストダウンが図れ、複数の針状ころ3を保持した保持器4の後組が可能となる。
また、このとき、C<Aとすることで、シール5のシール収納用段部2dへの組み込み時に径方向の変形の必要がなく、スムーズに組み込みができる。なお、環状のシール5が芯金を有するものでも組み込んで使用することができる。
【0015】
また、焼き入れされたシェル形外輪2の径方向内向きに90°屈曲された鍔部2bの途中に設けたシール収納用段部2dの内周側に環状のシール5を圧入嵌合し、しかる後に複数のころ3を保持した保持器4を組み込むようにしたので、従来行われていた後曲げ部の高周波焼鈍等の工程の削減によるコストダウンを図ることができる。
さらに、シェル形外輪2の全体に焼き入れが行われるので、シェル形外輪2の強度が均一となり、複数の針状ころ3を保持した保持器4を組み込んだシェル形外輪2への回転軸6の押し切り圧入が可能となる。
【0016】
また、C<B,D>シール5の幅とすることで、鍔部2bの途中に設けたシール収納用用段部2dの内周側に環状のシール5を圧入嵌合した場合に、保持器4の端面が環状のシール5と接触することはなく、環状のシール5の芯金の廃止が可能となる。
さらに、シール収納用段部2dの高さEの分だけ、環状のシール5の直径を小さくででき、ボリュームが低減されてコストダウンを図ることができる。
また、本発明のシェル形針状ころ軸受け1は、環状のシール5により外部の異物侵入を確実に防止できるとともに内部の潤滑剤を漏洩させにくくできるので、軸受け性能を長期にわたって安定的に発揮できるなど、長寿命化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1に係るシェル形ころ軸受の断面図。
【図2】同シェル形ころ軸受のシールを示す断面図。
【図3】同シェル形ころ軸受の製造手順を示す工程図。
【符号の説明】
【0018】
1 シェル形針状ころ軸受、2 外輪、2a 外輪の円筒部、2b、2c 鍔部、2d シール収納用段部、3 針状ころ、4 保持器、4a ポケット、5 シール、5a 胴体部、5b リップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ころの外径側軌道面となる円筒部の軸方向一端側にシール収納用段部を途中に設けた径方向内向きに屈曲した鍔部を有し、該円筒部の軸方向他端側に径方向内向きに折り返された鍔部を有するシェル形外輪と、
シェル形外輪の径方向内向きに屈曲した鍔部のシール収納用段部の内周面側に圧入して装着された環状のシールと、
シェル形外輪の径方向内向きに折り返された鍔部から挿入され、一端側が前記段部に抜け止めされ、他端側が径方向内向きに折り返された鍔部に抜け止めされるよう組み付けられた複数のころを保持する保持器と、
を備えたことを特徴とするシェル形ころ軸受。
【請求項2】
前記環状のシールは、芯金無しの弾性材で形成され、外径側に前記シェル外輪の段部の内周面に圧入嵌合され、内径側に前記ころの内径側軌道となる軸体に対して接触されるリップとがそれぞれ設けられているこを特徴とする請求項1記載のシェル形ころ軸受。
【請求項3】
円筒部の軸方向一端側に途中にシール収納用段部を有する径方向内向きに屈曲された鍔部を設け、円筒部の軸方向他端側に径方向内向きに折り返された鍔部を設けて構成されたシェル形外輪の全体に焼き入れを行い、焼き入れされたシェル形外輪の径方向内向きに屈曲された鍔部の途中に設けられたシール収納用段部の内周面に環状のシールの胴体部が接触するように該シールを圧入嵌合し、しかる後に複数のころを保持した保持器を組み込み、その保持器の一端側をシール収納用段部に押圧し、保持器に保持されている複数のころの他端側をシェル形外輪の径方向内向きに折り返された鍔部の内端面に嵌合させてシェル形針状ころ軸受を完成させるようにしたシェル形ころ軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−232219(P2008−232219A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70736(P2007−70736)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】