説明

シクロドデシリデン化合物および樹脂

【課題】
透明かつ耐熱性・耐熱黄変性の高い樹脂およびその原料を提供する。
【解決手段】
シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を含有する樹脂および特定のシクロドデシリデン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無色透明で高い耐熱性と耐熱黄変性を有する樹脂およびその原料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーやIT分野において樹脂素材は必須の素材として広く用いられ、それに対する高性能・高機能化の要請がますます強くなってきている。特に耐熱性や透明性などの基礎物性の向上は、その素材が適用されるシステムの耐久性、信頼性ひいては安全性に大きく寄与するため活発に研究開発が行われている。
【0003】
現在、耐熱性の光学樹脂として工業的に利用されているものに、ポリエステルやポリイミド、ポリカーボネート、エポキシ樹脂などがあり、その大部分は芳香族ポリマーである。これら芳香族ポリマーは、熱や紫外線等の影響により経時的に樹脂の劣化が起こり黄変するという問題を有している。これらの樹脂が黄変することにはさまざまな原因があるが、その中でも主たる原因・メカニズムと考えられているものとして(1)反応促進剤として用いられるアミン等の塩基性物質の残存による分解の促進(2)モノマーに含まれる残存ハロゲン化物による分解の促進(3)ベンゼン環等の芳香環の酸化によって起こる共役系の延長、などが挙げられる。この内、(1)、(2)に関しては、適切な反応促進剤を選定する、或いは十分な精製によりハロゲン濃度を低減させる、といった対策により比較的容易に解決可能である。しかしながら、(3)に関しては芳香族ポリマーの本質的な問題であるため、脂肪族基の導入などにより分子中の芳香環を減少させない限り解決することは困難である。
【0004】
そこで、不飽和結合を含まない様々な脂肪族樹脂に関する研究が行われてきたが、一般的には、脂肪族部位が増加すると共にポリマーの耐熱性(ガラス転移点)が低下してしまう。例えば、脂肪族ジオールとジエチルカーボネートの反応によって得られる脂肪族ポリカーボネートの場合には、通常のビスフェノールA型ポリカーボネートと比較してガラス転移点が低いものしか得られていない(特許文献1)。また、汎用エポキシモノマーであるビスフェノール類の水素化体を利用する手法(特許文献2)が知られているが、やはりガラス転移点が低く、耐熱性の光学樹脂としての使用に耐えるものではないという課題を有している。
【0005】
すなわち、優れた耐熱性、耐久性(耐熱黄変性)を併せ持つ樹脂については、多くの研究者が課題として取り上げ、活発に研究されてきたものの、未だ充分な特性を持つものを見いだすには至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−292603号公報
【特許文献2】特開2001−19742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、透明かつ耐熱性・耐熱黄変性に優れた樹脂およびその原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、シクロドデシリデンビスフェノール残基を構造単位として含む樹脂が、優れた耐熱性と透明性を有していることを見出した。この樹脂は分子中の芳香環含有率を減少させてはいるものの、依然として相当量の芳香環を含んでおり、過酷な条件下にあっては、空気酸化により黄変してしまう可能性を有していた。これを解決するため、この樹脂骨格が持つ耐熱性を保持しつつ、更に耐熱黄変性を向上させるために鋭意検討し、芳香環部位を水素化させ、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を構造単位として含ませることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1]下記構造式1で表される、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を含むことを特徴とする樹脂。
【0010】
【化1】

【0011】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、mは0〜3、nは0〜2の整数である。)
[2]下記構造式2で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【0012】
【化2】

【0013】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、pは0〜3、qは0〜2の整数である。)
[3]下記構造式3で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【0014】
【化3】

【0015】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、rは0〜3、sは0〜2の整数である。)
[4]下記構造式4で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【0016】
【化4】

【0017】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、tは0〜3、uは0〜2の整数である。)
[5]下記構造式5で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【0018】
【化5】

【0019】
(R、R10は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、vは0〜3、wは0〜2の整数である。)
【発明の効果】
【0020】
本発明により、無色透明で高い耐熱性と耐熱黄変性を有する樹脂およびその原料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明樹脂及びその原料について、具体的に説明する。
【0022】
従来の耐熱性ポリマーの場合、分子中に含まれる芳香環の二重結合部分が空気酸化を受け、容易に着色が起こってしまうため、高温下における充分な透明性を確保できなかった。空気酸化による着色を抑制するためには、分子骨格中に脂肪族基を多く導入し、不飽和結合の相対的な存在量を減少させることが有効であるが、直鎖状の脂肪族基を分子構造に導入すると、耐熱性(ガラス転移点)が極端に低下してしまうため、通常、環状の脂肪族基を導入する試みがなされる。発明者等は、芳香族基と環状脂肪族基をともに分子内にもつシクロドデシリデンビスフェノール(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン)を合成し、これを原料としたシクロドデシリデンビスフェノール残基を構造単位として含む樹脂が、ビスフェノールA型樹脂と比較して優れた耐熱性、透明性を有していることを見出した。その耐熱性の高い分子骨格を維持したまま、空気酸化による着色の可能性を抑制するために、芳香環部分を水素化することに着目した。
【0023】
本発明樹脂(下記構造式1)は、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を構造単位として含むものである。
【0024】
【化6】

【0025】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、mは0〜3、nは0〜2の整数である。)
シクロドデシリデンビスヘキサノール残基の含有量については、それが多いほどより優れた性質を発現することができるが、その含有率は炭素数比で20%以上であることが好ましい。より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上である。
【0026】
本発明の樹脂は、無色透明であるが故に、LED封止剤などの耐熱性の要求される光学用途において非常に有効である。ポリエステル等の熱可塑性樹脂の場合には、フィルム状の成型体であれば溶融押出法あるいは溶液製膜法いずれの方法も適用でき、レンズ状の成型体であれば射出成型やプレス成型などを適宜選択して得ることができる。また、エポキシ等の熱硬化性樹脂の場合にはモノマーの混合物を直接金型内に注入した上で加熱・硬化させることにより希望する形、サイズの成型体が得られる。
【0027】
すなわち、本発明のシクロドデシリデン化合物はモノマー、あるいはモノマー原料としての樹脂原料として有用である。
【0028】
本発明樹脂を合成するに当たっては、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を導入するための原料であるモノマーの1つの態様である、シクロドデシリデンビスヘキサノールモノマーや、異なる態様である、シクロドデシリデンビスヘキサノールビスヒドロキシエチルエーテルを求核試薬として、また、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を導入するための原料であるモノマーのさらに異なる態様である、シクロドデシリデンビスヘキサノールビスグリシジルエーテルや、また異なる態様であるシクロドデシリデンビスヘキサノールビスエポキシシクロヘキサンカルボン酸エステルを求電子試薬として、従来の二官能性アルコール類(エチレングリコールなど)やエポキシ類(ビスフェノールAビスグリシジルエーテルなど)を原料とする重合方法を適用することができる。すなわち前者は、ジオールと、エポキシや酸塩化物等の各種求電子試薬との重付加、重縮合、後者は、アルコール等の各種求核試薬によるエポキシの開環付加反応にて本発明の樹脂を合成することができる。
【0029】
例えば求核、求電子試薬としてシクロドデシリデンビスヘキサノールとシクロドデシリデンビスヘキサノールビスグリシジルエーテルを組み合わせた場合には、大部分がシクロドデシリデンビスヘキサノール残基からなるエポキシ樹脂を合成することができ、シクロドデシリデンビスヘキサノールビスヒドロキシエチルエーテルに対する求電子試薬として塩化テレフタロイルを用いることでポリエステルを合成することができる。
【0030】
また、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基の持つ、優れた耐熱性、透明性、耐熱黄変性は、ポリエステルやポリカーボネートといった熱可塑性樹脂にも適用することができる。
【0031】
本発明の樹脂が非常に優れた特性を発現する要因については以下のように考えている。すなわち光学特性については、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を含むことで、脂肪族炭素の割合を効果的に増やす、すなわち芳香環の割合を効果的に減少させることができることによるものであり、且つ耐熱性を併せ持つことに関しては、12員環構造の体積が樹脂構造中のポリマー主鎖間に生じる自由空間体積に合致することによって熱的な分子運動が規制されることに起因するためと考えている。
【0032】
シクロドデシリデンビスヘキサノール残基の前駆体モノマーの原料の1つであるシクロドデシリデンビスヘキサノール(下記構造式2)は、環状ケトンであるシクロドデカノンとフェノール類を原料としてシクロドデシリデンビスフェノールを合成した後、これを固体金属触媒の存在下にて水素化することで合成できる。
【0033】
【化7】

【0034】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、pは0〜3、qは0〜2の整数である。)
シクロドデカノンはニッケル触媒により1,3−ブタジエンを三量化させた後、水素化しシクロドデカンとした上で酸化することにより合成している。三量化反応の際に、原料としてイソプレンを用いることでトリメチルシクロドデカノンを合成でき、これをフェノールと反応させることでRがメチル(炭素数1)のシクロドデシリデンビスフェノールを合成することができる。以下同様に用いるブタジエン誘導体によって種々の置換基Rを有するシクロドデシリデンビスフェノールを合成することができる。
【0035】
フェノール類に関しても、例えばフェノールを用いればベンゼン環上の置換基RがHであるシクロドデシリデンビスフェノールを合成できる。同様にo-メチルフェノールを用いればRがメチル(炭素数1)のシクロドデシリデンビスフェノールを合成でき、以下同様に、用いるフェノール類によって種々の置換基Rを有するシクロドデシリデンビスフェノールを合成することが可能となる。
【0036】
これらを組み合わせることにより、種々の置換基R、Rを有するシクロドデシリデンビスフェノールを経て、それを水素化することによってシクロドデシリデンビスヘキサノール誘導体を合成することができる。シクロヘキサン環上の置換基R、Rに関しては、特に制限はないが水素もしくはメチル基が好ましく、より好ましくは水素である。
【0037】
また、一般的な有機合成の手法を用いることで、種々の員数(10,11,13もしくは14員環など)の環状ケトンを合成することができる。これらケトンとフェノール類からビスフェノールを経由し、水素化することで種々の員数に対応するビスヘキサノールを合成することもできる。
【0038】
本発明樹脂の前駆体モノマーである、シクロドデシリデンビスヘキサノールビスヒドロキシエチルエーテル(下記構造式3)は、シクロドデシリデンビスヘキサノールを原料とし三段階の反応を経て合成できる。
【0039】
【化8】

【0040】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、rは0〜3、sは0〜2の整数である。)
即ち、第一段階においては無水トリフルオロ酢酸及びトリエチルアミンの存在下ジメチルスルホキシドにより酸化することでシクロドデシリデンビスシクロヘキサノンに変化させる(「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J. Org. Chem.)」、1976年、41、p.3329)。続いて、第二段階において、パラトルエンスルホン酸の存在下、ディーン・スタークトラップを用いて水を除去しつつ、エチレングリコールと縮合させることによりケタールを合成する(「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティー(J. Am. Chem. Soc.)」、1986年、108、p.800)。更に、第三段階において水素化ホウ素亜鉛及びクロロトリメチルシランと反応させ、ケタールの五員環を開裂させることにより目的のシクロドデシリデンビスヘキサノールビスヒドロキシエチルエーテルを合成することができる(「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J. Org. Chem.)」、1987年、52、p.2594)。
【0041】
もう一つの前駆体モノマーである、シクロドデシリデンビスヘキサノールビスグリシジルエーテル(下記構造式4)は、水酸化ナトリウム水溶液及び相間移動触媒の存在下でシクロドデシリデンビスヘキサノールとエピクロロヒドリンを反応させることで合成できる。
【0042】
【化9】

【0043】
(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、tは0〜3、uは0〜2の整数である。)
更に、異なる前駆体モノマーであるシクロドデシリデンビスヘキサノールビスエポキシシクロヘキサンカルボン酸エステル(下記構造式5)は、シクロドデシリデンビスヘキサノールを原料とし二段階の反応を経て合成できる。
【0044】
【化10】

【0045】
(R、R10は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、vは0〜3、wは0〜2の整数である。)
即ち、第一段階においてはメチルニトロ安息香酸無水物の存在下、シクロヘキセンカルボン酸と脱水縮合させることによりシクロドデシリデンビスシクロヘキセンカルボン酸エステルを合成する(「ジャーナルオブオーガニックケミストリー(J. Org. Chem.)」、2004年、69、p.1822)。続いて、第二段階において、メタクロロ過安息香酸を用いてシクロヘキセン環のオレフィン部分を酸化することにより目的のシクロドデシリデンビスヘキサノールビスエポキシシクロヘキサンカルボン酸エステルを合成することができる(「ジャーナルオブオーガニックケミストリー(J. Org. Chem.)」、1986年、51、p.2218)。
【0046】
ここで、本発明の樹脂の製造方法の一例を以下に示す。
【0047】
上記シクロドデシリデン化合物を、アミン、イミダゾールまたは酸無水物の存在下で混合し、硬化させることにより本発明の樹脂を得ることができる。
【0048】
具体的に例示すれば、アミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン等の芳香族アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミンがある。
【0049】
また、イミダゾールとしては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等がある。
【0050】
また、酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物等がある。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。樹脂の評価は以下の方法により行った。
【0052】
〔熱特性:融点およびガラス転移点〕
樹脂原料および前駆体の融点(mp)は、目視にて測定した。
【0053】
樹脂のガラス転移点は、DSC(セイコー電子工業(株)製:SSC5200)にて、昇温速度10℃/分、−50℃〜300度の温度範囲で示差熱分析(DSC分析)を行った。
【0054】
〔核磁気共鳴(NMR)〕
化合物の構造はNMRによって確認される。NMRシフト(d)は、百万分率(ppm)で示され選択されたピークのみ与える。
【0055】
実施例1(シクロドデシリデンビスヘキサノールの合成)
攪拌機及び温度計を備えた500mlのオートクレーブ内にシクロドデシリデンビスフェノールを100g、イソプロピルアルコールを200g及び、5重量%ロジウム/95重量%グラファイト(グラファイトの表面積:130m/g)触媒5gを仕込み、水素圧力7Mpa、温度50℃、攪拌数500〜800rpmの条件を保持しながら、3時間還元反応を行った。反応終了後、冷却し、触媒を濾別した後、イソプロピルアルコールをエバポレーターにて減圧下、温度30℃で留去させ、得られた粗生成物をシリカゲルカラム(酢酸エチル/ヘキサン=5/95〜50/50)にて精製し、シクロドデシリデンビスヘキサノールを白色粉末として収率20%で得た。
mp:87〜95℃
H−NMR(CDCl,270MHz):3.55(2H,br,O−CH),2.17(2H,s,OH),0.883−2.02(40H,m,CH
実施例2(シクロドデシリデンビスヘキサノールビスヒドロキシエチルエーテルの合成)
第一段階として、窒素雰囲気下乾燥ジクロロメタン15mlと乾燥ジメチルスルホキシド30mlを撹拌、混合し、アセトン−ドライアイスバス(−78℃)にて−65℃以下まで冷却した。次いで、ジクロロメタン7.5mlと無水トリフルオロ酢酸22.5mlの混合溶液を10分間かけて滴下した。−65℃にて、更に10分間撹拌した後、ジクロロメタン15mlとシクロドデシリデンビスシクロヘキサノール5.47g(15.0mmol)の混合溶液を10分間かけて滴下した。更に、5分間撹拌した後、40分かけて室温まで昇温した。30分間室温にて撹拌し、トリエチルアミン6mlを10分間かけて滴下した後、ジエチルエーテル150mlで希釈し、希塩酸、炭酸ナトリウム水溶液、蒸留水で洗浄した。得られたジエチルエーテル溶液を、硫酸マグネシウムで乾燥し濾過後、溶媒を除去し粗生成物を得た。これを、石油エーテル/ジクロロメタン混合物に溶解した後、シリカゲルのショートカラム中を流すことで目的のシクロドデシリデンビスシクロヘキサノンを収率80%で得た。
【0056】
続いて、第二段階として、窒素雰囲気下ディーン・スタークトラップ及びジムロート冷却管を取り付けた200ml二口ナスフラスコ中にシクロドデシリデンビスシクロヘキサノン2.88g(7.99mmol)、乾燥エチレングリコール1.25g(20.1mmol)、パラトルエンスルホン酸一水和物0.1g(0.581mmol)、乾燥ベンゼン88mlを加え撹拌、混合し、ディーン・スタークトラップにて水を除きながら四時間還流させた。室温まで冷却後、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、脱水、溶媒除去を経てシクロドデシリデンビスシクロヘキサノンビスケタール体を得た。
【0057】
最後に、第三段階として、窒素雰囲気下においてケタール体2.24g(4.99mmol)とジエチルエーテル7mlの混合溶液を、氷水浴に浸漬し0℃に冷却し、順次、水素化ホウ素亜鉛0.15Mジエチルエーテル溶液33ml(5.0mmol)、クロロトリメチルシラン0.756ml(5.98mmol)を加えた。その後、室温まで昇温し24時間撹拌した。希塩酸を加えクエンチした後、酢酸エチル100mlで希釈し蒸留水100mlで三回洗浄した。脱水、溶媒除去後ヘキサン/酢酸エチル混合溶液を溶離液としシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、目的のシクロドデシリデンビスヘキサノールビスヒドロキシエチルエーテルをアモルファス状の白色固体として最終収率20%で得た。
H−NMR(CDCl,270MHz):3.4−3.7(10H,m,O−CH),3.30(2H,s,OH),0.883−2.02(40H,m,CH
実施例3(シクロドデシリデンビスヘキサノールビスグリシジルエーテルの合成)
窒素雰囲気下、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩2.24g(6.6mmol)、水36.5mlを混合後、水浴に浸漬し常温に保ちながら水酸化ナトリウム36.2g(905mmol)を加え激しく撹拌しながら、エピクロロヒドリン275mmolを加えた。これに、シクロドデシリデンビスヘキサノール5.90g(16.2mmol)とジクロロメタン38.8mlの混合溶液を45分かけて滴下した後、9.5時間常温にて撹拌した。その後、ジクロロメタン100mlで希釈し水100ml及び飽和食塩水100mlで洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後溶媒を除き、ヘキサン・酢酸エチル混合溶液を溶離液としシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離しシクロドデシリデンビスヘキサノールビスグリシジルエーテルを無色透明液体として収率12%で得た。
H−NMR(CDCl,270MHz):3.73(2H,q,O−CH−CH(O)),3.44(2H,q,O−CH−CH(O)),3.24(2H,br,シクロヘキサン環のO−CH),3.11(2H,br,オキシラン環のCH),2.79(2H,q,オキシラン環のCH)2.60(2H,q,オキシラン環のCH)0.883−2.09(40H,m,CH
実施例4(シクロドデシリデンビスヘキサノールビスエポキシシクロヘキサンカルボン酸エステルの合成)
第一段階として、窒素雰囲気下、トリエチルアミン9.91g(97.9mmol)、ジクロロメタン22.5mlを混合後、順次、ジメチルアミノピリジン0.367g(3.00mmol)、メチルニトロ安息香酸無水物12.4g(36.0mmol)、シクロヘキセンカルボン酸4.58g(36.3mmol)を加えた。この反応溶液を10分間撹拌した後、シクロドデシリデンビスヘキサノール5.47g(15.0mmol)とジクロロメタン30mlの混合溶液を加えた。室温にて20時間撹拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液50mlを加えた。得られた反応混合物を、ジクロロメタン100mlで希釈した後、水100ml及び飽和食塩水100mlで洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を除き、ヘキサン・酢酸エチル混合溶液を溶離液としシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離し目的のシクロドデシリデンビスヘキサノールビスシクロヘキセンカルボン酸エステルを収率70%で得た。
【0058】
続いて、第二段階として、窒素雰囲気下、シクロドデシリデンビスヘキサノールビスシクロヘキセンカルボン酸エステル3.65g(10.0mmol)とジクロロメタン30mlを混合し氷水にて0℃まで冷却した。ここに、メタクロロ過安息香酸20.7g(120mmol)と乾燥ジクロロメタン7mlの混合溶液をゆっくりと滴下した。0℃のまま2時間撹拌し、反応混合物を濾過した。濾液を、順次、飽和炭酸ナトリウム水溶液45ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液45ml、水45ml、飽和食塩水45mlで洗浄した。硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を除き、ヘキサン・酢酸エチル混合溶液を溶離液としシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離しシクロドデシリデンビスヘキサノールビスエポキシシクロヘキサンカルボン酸エステルをアモルファス状の白色固体として最終収率30%で得た。
H−NMR(CDCl,270MHz):3.78(2H,br,C(O)O−CH),3.23−3.43,(4H,m,オキシラン環のCH),2.30(2H,q,CH−C(O)O−),2.26(4H,d,CH−CH−C(O)O−),0.883−2.02(48H,m,CH
実施例5(ポリエステルの合成)
シクロドデシリデンビスヘキサノールビスヒドロキシエチルエーテル0.994g(2.09mmol)、トリエチルアミン0.6ml、ジメチルアセトアミド(DMAc)1.5mlを混合し溶解した。また、フラスコ上に取り付けた滴下ロート中には塩化テレフタロイル0.424g(2.09mmol)とDMAc1mlを加え混合した。混合後、フラスコを氷水浴で冷却しながら塩化テレフタロイル溶液をゆっくりと滴下した。滴下終了後、浴を除去し、室温で24時間反応させた。反応終了後、25mLの水へ反応液を滴下し、析出物を得た。これを濾別後、60℃で真空乾燥し、本発明のポリエステル樹脂を白色粉末として収率70%で得た。この粉末のDSC測定を行ったところ60−80℃のTgを示した。
H−NMR(CDCl,270MHz):8.14(4H,s,Ar),4.32(4H,t,C(O)O−CH,),3.5−3.7(6H,m,O−CH),0.883−2.02(40H,m,CH
この粉末は、溶融押出法や射出成型等により成型することで無色透明の樹脂に加工することができる。この樹脂は、脂肪族基を多数含んでおり、ポリエチレンテレフタラート(PET)(Tg=70℃)と同程度のガラス転移点を有していながら、PETよりも優れた耐熱黄変性を示した。
【0059】
実施例6(水素化エポキシ樹脂の単独重合)
シクロドデシリデンビスヘキサノールビスグリシジルエーテル66.1mg(0.139mmol)と2−ヘプタデシルイミダゾール(C17z)メタノール溶液(C17z含量0.57mg(9.0μmol、1mol%)を試験管中に加え真空ポンプにて減圧することで溶媒を除去した。次いで、窒素置換により反応系を窒素雰囲気下にした後に250℃まで加熱した。4時間後、加熱をとめ2℃で冷却した後、試験管を割り無色透明の樹脂を回収し、これをメタノール20mlとヘキサン20mlでそれぞれ3回洗浄した。得られた樹脂をスクリュー管中に保管し真空乾燥機で乾燥させ目的の樹脂を収率90%で得た。この樹脂を細かく刻みDSCを測定したところ71.2℃のTgを示した。
【0060】
この樹脂は、脂肪族基を多数含んでおり、同一条件により合成したビスフェノールA型のエポキシ樹脂と同程度のガラス転移点を有していながら、ビスフェノールA型エポキシ樹脂よりも優れた耐熱黄変性を示した。
【0061】
実施例7(シクロドデシリデンビスヘキサノール残基含有エポキシ、アルコール共重合体)
シクロドデシリデンビスヘキサノールビスグリシジルエーテル137.6mg(0.289mmol)とシクロドデシリデンビスヘキサノール52.9mg(0.145mmol)、リカシッドHNA−100(商品名、新日本理化社製:メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物/ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物の混合物、酸無水物当量:179g/eq.)テトラヒドロフラン溶液(酸無水物含量0.66mg(3.69μmol、対エポキシ比1.3mol%)を試験管中に加えた。そこにメチルエチルケトン1mlを加え均一に混合した後、真空ポンプにて減圧することで溶媒を除去した。その後窒素置換により反応系を窒素雰囲気下にした後に250℃まで加熱した。3時間後、加熱をとめ2℃で冷却した。試験管を割り得られた無色透明の樹脂を回収し目的の樹脂を収率90%で得た。この樹脂を細かく刻みDSCを測定したところ60−80℃のTgを示した。
【0062】
この樹脂は、実施例5のエポキシ樹脂と同程度のTgを有しており、硬化剤として酸無水物を用いているため、より優れた耐熱黄変性を示した。
【0063】
実施例8(脂環式エポキシの単独重合)
シクロドデシリデンビスヘキサノールビスエポキシシクロヘキサンカルボン酸エステル300mg(0.490mmol)と2−ヘプタデシルイミダゾール(C17z)メタノール溶液(C17z含量2.01mg(31.7μmol、1mol%)を試験管中に加え真空ポンプにて減圧することで溶媒を除去した。次いで、窒素置換により反応系を窒素雰囲気下にした後に250℃まで加熱した。4時間後、加熱をとめ2℃で冷却した後、試験管を割り無色透明の樹脂を回収し、これをメタノール20mlとヘキサン20mlでそれぞれ3回洗浄した。得られた樹脂をスクリュー管中に保管し真空乾燥機で乾燥させ目的の樹脂を収率90%で得た。この樹脂を細かく刻みDSCを測定したところ80〜100℃のTgを示した。
【0064】
この樹脂は、実施例6のエポキシ樹脂と比較して、20℃程度高いガラス転移点を有していながら、モノマー合成の際に一切ハロゲンを使用していないためより優れた耐熱黄変性を示した。
【0065】
比較例1(ビスフェノールAのポリエステルの合成)
ビスフェノールAビスヒドロキシエチルエーテル1.015g(3.208mmol)、トリエチルアミン0.8ml、ジメチルホルムアミド2.1mlを混合し溶解した。また、フラスコ上に取り付けた滴下ロート中には塩化テレフタロイル0.646g(3.16mmol)とジメチルホルムアミド1mlを加え混合した。混合後、フラスコを氷水浴で冷却しながら塩化テレフタロイル溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後、浴を除去し、室温で24時間反応させた。反応終了後、35mLの水へ反応液を滴下し、析出物を得た。これを濾別後、60℃で真空乾燥し、本発明のポリエステル樹脂を白色粉末として収率70%で得た。この粉末のDSC測定を行ったところ60−80℃のTgを示した。
H−NMR(CDCl,270MHz):8.14(4H,s,テレフタロイル骨格のAr),7.12(4H,d,O−C−CH),6.80(4H,d,O−C−CH−CH),4.32(4H,t,C(O)O−CH,),3.53(4H,t,O−CH),1.64(6H,s,CH
この樹脂は、Tgは60−80℃程度とシクロドデシリデンビスヘキサノールのポリエステルと同程度であったが、主鎖の大部分が芳香環から成っているため空気中にて加熱することにより黄色に変化した。
【0066】
比較例2(グリシジル化ビスフェノールA単独重合)
ビスフェノールAビスグリシジルエーテル276.7mg(0.813mmol)とC17zメタノール溶液(C17z含量3.42mg(11.2μmol、1mol%)を試験管中に加え真空ポンプにて減圧することで溶媒を除去した。その後窒素置換により反応系を窒素雰囲気下にした後に250℃まで加熱した。3時間後、加熱をとめ2℃で冷却した後、試験管を割り褐色の樹脂を回収し、これをメタノール20mLとヘキサン20mLでそれぞれ3回洗浄した。得られた褐色固体をスクリュー管中に保管し真空乾燥機で乾燥させ目的の樹脂を収率90%で得た。この樹脂を細かく刻みDSC測定を行ったところ70.2℃のTgを示した。
【0067】
この樹脂は、Tgは70.2℃とシクロドデシリデンビスヘキサノールのエポキシ樹脂と同程度であったが、主鎖の大部分が芳香環から成っているため空気中にて加熱することにより非常に濃い褐色に変化した。
【0068】
比較例3(グリシジル化水素化ビスフェノールAの単独重合)
水素化ビスフェノールAビスグリシジルエーテル350.1mg(0.993mmol)とC17zメタノール溶液(C17z含量4.15mg(13.5μmol、1mol%)を試験管中に加え真空ポンプにて減圧することで溶媒を除去した。その後窒素置換により反応系を窒素雰囲気下にした後に250℃まで加熱した。3時間後、加熱をとめ2℃で冷却した後、試験管を割り目的の無色透明の樹脂を収率90%で得た。この樹脂を細かく刻みDSC測定を行ったところ20℃〜40℃のTgを示した。
【0069】
この樹脂は、実施例6のエポキシ樹脂と比較して、脂肪族基を多数含んでいるため同程度の耐熱黄変性を示したものの、分子中にシクロドデシリデン骨格を含まないため耐熱性に関しては20℃〜40℃のTgと低い値を示した。
【0070】
以上のように本発明の樹脂は優れた耐熱性と透明性をともに具備している。また、比較例にて明らかなように、その特性がシクロドデシリデンビスヘキサノール残基の極めて特異的な性質に基づくものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式1で表される、シクロドデシリデンビスヘキサノール残基を含むことを特徴とする樹脂。
【化1】

(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、mは0〜3、nは0〜2の整数である。)
【請求項2】
下記構造式2で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【化2】

(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、pは0〜3、qは0〜2の整数である。)
【請求項3】
下記構造式3で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【化3】

(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、rは0〜3、sは0〜2の整数である。)
【請求項4】
下記構造式4で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【化4】

(R、Rは炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、tは0〜3、uは0〜2の整数である。)
【請求項5】
下記構造式5で表されることを特徴とするシクロドデシリデン化合物。
【化5】

(R、R10は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。また、vは0〜3、wは0〜2の整数である。)

【公開番号】特開2011−148972(P2011−148972A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186905(P2010−186905)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】