説明

シフト切換機構の異常判定装置および異常判定方法

【課題】シフト切換機構の異常をより早期の段階で検出する。
【解決手段】SBW−ECU50は、シフトポジションの切換要求があって(S100にてYES)、エンジン始動後の初回の切換であって(S102にてYES)、かつ、目標ポジションがDポジションでないと(S104にてNO)、Dポジションを目標ポジションに設定するステップ(S108)と、目標ポジションになるようにアクチュエータを制御するステップ(S112)と、実シフトポジションと目標シフトポジションとが対応しないと(S114にてNO)、異常を通知するステップ(S126)と、対応すると(S114にてYES)、シフト信号に基づく目標シフトポジションを再設定するステップ(S116)と、再設定された目標シフトポジションになるようにアクチュエータを制御するステップ(S118)とを含む、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトポジションをアクチュエータにより切り換えるシフト切換機構の異常判定に関し、特に、シフト切換機構の故障を早期の段階で検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転者によるシフトレバーの操作に従いシフトポジションをアクチュエータにより切り換えるシフト切換機構が知られている。
【0003】
このようなシフト切換機構によれば、アクチュエータとしてたとえばシフトポジション切換用の動力源として電動機(たとえば、直流モータ)が用いられるため、自動変速機のシフトポジションを運転者によるシフトレバーの操作力によって直接切り換える一般的な切換機構のように、シフトレバーとシフト切換機構とを機械的に接続する必要がない。そのため、これら各部を車両に搭載する際のレイアウト上の制限がなく、設計の自由度を高めることができる。また、車両への組み付け作業を簡単に行なうことができるという利点がある。
【0004】
一方、シフト切換機構に故障が生じた場合においては、故障を精度よく判定して速やかにフェールセーフ処理を実行する必要がある。
【0005】
たとえば、特開2004−125061号公報(特許文献1)は、運転者の意図に反する車両の挙動を効果的に防ぐことを可能とする自動変速機の制御装置を開示する。この自動変速機の制御装置は、自動変速機の複数の変速レンジに対応した複数の変速レンジ位置を有し、運転者の切換操作により複数の変速レンジ位置の内の一つを目標レンジ位置として選択し、目標レンジ位置を電気信号に変換して目標レンジ位置信号として出力する目標レンジ位置指令手段と、目標レンジ位置信号に応じて自動変速機の実レンジ切換を行なう実レンジ切換手段と、自動変速機の実レンジ位置を電気信号に変換して実レンジ位置信号として検出する実レンジ位置検出手段と、目標レンジ位置信号と実レンジ位置信号とが異なるときに異常と判断する変速異常判断手段と、変速異常判断手段が異常と判断したときに、エンジンの出力軸から自動変速機を介して駆動輪へと至るまでの間の動力伝達経路を切断する動力伝達経路切断手段とを具えることを特徴とする。
【0006】
上述した公報に開示された自動変速機の制御装置によると、目標レンジ位置と実レンジ位置とが一致しない場合に、運転者の意図に反して車両が急発進したり後進するといった事態を防ぐことが可能となる。また、運転者のシフト選択スイッチ操作等によって不一致が解消した場合には、動力伝達経路を再度接続することにより、運転者の意図した変速レンジと変速機側の変速レンジとが一致する変速レンジを用いて車両を移動させることが可能となる。
【特許文献1】特開2004−125061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自動変速機の異常を検出してから動力伝達経路を切断する場合においては、特に冷間時においては油圧の応答遅れの程度が大きくなるため、自動変速機の異常が検出されてから動力伝達経路が切断されるまでに時間を要するという問題がある。そのため、動力伝達経路が完全に切断されるまでに、自動変速機の異常により運転者の意図しないシフトポジションに切り換わって駆動力が発生する可能性がある。その結果、運転者は車両の挙動が正常でないと認識する場合がある。
【0008】
上述した公報に開示された自動変速機の制御装置においては、このような問題について何ら考慮されていないため、解決することができない。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シフト切換機構の異常をより早期の段階で検出するシフト切換機構の異常判定装置および異常判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置は、車両に搭載されたシフト切換機構の異常判定装置である。シフト切換機構は、切換信号に応じて車両の走行状態に対応するシフトポジションを、アクチュエータの駆動により複数のシフトポジションのうちのいずれかのシフトポジションに切換える。この異常判定装置は、切換信号に基づく複数のシフトポジションのうちの第1のシフトポジションの解除時のアクチュエータの駆動が、早くともアクチュエータが駆動可能な状態となった時点の後の最初の駆動であるか否かを判定するための手段と、最初の駆動である場合に、切換信号に基づく切換先の第2のシフトポジションに切換える前に、複数のシフトポジションのうちの第1のシフトポジション以外の他のシフトポジションを経由して切換えるようにアクチュエータを駆動することにより、シフト切換機構においてアクチュエータの駆動後のシフトポジションと切換先のシフトポジションとが異なることによるフェールが生じたか否かを判定するためのフェール判定手段とを含む。第9の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第1の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0011】
第1の発明によると、運転者が車両の運転を開始する際の車両の起動操作によりアクチュエータは駆動可能な状態となる。すなわち、早くともアクチュエータが駆動可能な状態となる時点の後の最初の駆動時とは、車両の停車状態において運転者が車両の運転を開始するための操作を行なっている状態であるといえる。このような場合に、第1のシフトポジション(たとえば、パーキングポジション)から切換先のシフトポジションに切り換える前に他のシフトポジションを経由して切り換えるようにアクチュエータを駆動してシフト切換機構においてアクチュエータの駆動後のシフトポジションと切換先のシフトポジションとが異なることによるフェールが生じたか否かを判定することにより、車両が走行を開始する前の早期の段階でシフト切換機構のフェールを検出することができる。また、車両は停車状態であるため、たとえば、駆動輪への動力伝達を遮断するなどして車両の移動を制限するとともにシフト切換機構のフェールを検出するようにすると、運転者の意図しない車両の挙動が生じることを防止することができる。したがって、シフト切換機構の異常を早期の段階で検出するシフト切換機構の異常判定装置および異常判定方法を提供することができる。
【0012】
第2の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置においては、第1の発明の構成に加えて、複数のシフトポジションは、最初の駆動である場合に、第1のシフトポジションを起点として予め定められた順序で切り換えられる。フェール判定手段は、最初の駆動である場合に、第1のシフトポジションと、最も順序の遅いシフトポジションとの間においてフェールが生じたか否かを判定する。第10の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第2の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0013】
第2の発明によると、第1のシフトポジションと、最も順序の遅いシフトポジションとの間においてフェールが生じたか否かを判定することにより、全てのシフトポジションに対してシフト切換機構の異常を検出することができる。
【0014】
第3の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置においては、第2の発明の構成に加えて、フェール判定手段は、第2のシフトポジションが最も順序の遅いシフトポジションでない場合に、シフトポジションを最も順序の遅いシフトポジションに切り換えるようにアクチュエータを駆動することによりフェールが生じたか否かを判定する。第11の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第3の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0015】
第3の発明によると、第2のシフトポジションが最も順序の遅いシフトポジションでない場合に、シフトポジションを最も順序の遅いシフトポジションに切り換えるようにアクチュエータを駆動してシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定することにより、全てのシフトポジションに対してシフト切換機構の異常を検出することができる。
【0016】
第4の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置は、第1〜3のいずれかの発明の構成に加えて、車両は、エンジンを有する。フェール判定手段は、エンジンの始動後の最初のアクチュエータの駆動が行なわれたことが判定される場合に、シフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する。第12の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第4の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0017】
第4の発明によると、エンジンが搭載される車両においては、停車状態からアクチュエータが駆動可能な状態(たとえば、IGオン)となった後に、エンジンが始動され、その後、運転者の操作によりあるいは自動的にシフトポジションが切り換えられる。このとき、切換先のシフトポジション以外の他のシフトポジションに切り換えるようにアクチュエータを駆動してシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定することにより、車両が走行を開始する前の早期の段階でシフト切換機構のフェールを検出することができる。
【0018】
第5の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置は、第1〜4のいずれかの発明の構成に加えて、他のシフトポジションは、前進走行ポジションを含む。第1のシフトポジションから前進走行ポジションへは、第1のシフトポジションおよび前進走行ポジション以外のシフトポジションをそれぞれ経由して切り換えられる。フェール判定手段は、最初の駆動である場合に、第2のシフトポジションに切り換える前に、前進走行ポジションに切り換えるようにアクチュエータを駆動することによりシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する。第13の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第5の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0019】
第5の発明によると、第1のシフトポジションから前進走行ポジションに切り換えられるようにアクチュエータを駆動することにより、全てのシフトポジションに対してシフト切換機構のフェールを検出することができる。
【0020】
第6の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置においては、第1〜5のいずれかの発明の構成に加えて、第1のシフトポジションは、パーキングポジションである。第14の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第6の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0021】
第6の発明によると、パーキングポジションが解除されて、切換先のシフトポジションにシフトポジションを切り換える前に、他のシフトポジションに切り換えるようにアクチュエータを駆動してシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定することにより、車両が走行を開始する前の早期の段階でシフト切換機構のフェールを検出することができる。
【0022】
第7の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置は、第1〜6のいずれかの発明の構成に加えて、第2のシフトポジションを記憶するための記憶手段と、他のシフトポジションへの切換時にシフト切換機構にフェールが生じていないことが判定される場合に、記憶された第2のシフトポジションに切り換えるようにアクチュエータを制御するための手段とをさらに含む。第15の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第7の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0023】
第7の発明によると、シフト切換機構にフェールの発生が検出されない場合に、記憶されたシフトポジションに切り換えることにより、切換信号に応じたシフトポジションの切換を行なうことができる。
【0024】
第8の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置は、第1〜7のいずれかの発明の構成に加えて、車両の移動を制限するための制限手段をさらに含む。フェール判定手段は、車両の移動を制限するとともにシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する。第16の発明に係るシフト切換機構の異常判定方法は、第8の発明に係るシフト切換機構の異常判定装置と同様の構成を有する。
【0025】
第8の発明によると、たとえば、駆動輪への動力伝達を遮断するなどして車両の移動を予め制限するとともにシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定することにより、シフト切換機構にフェールの発生が検出されたときに、運転者の意図しない車両の挙動が生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0027】
図1は、本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置を備えたシフト制御システム10の構成を示す。本実施の形態に係るシフト制御システム10は、車両のシフトポジションを切り換えるために用いられる。シフト制御システム10は、シフト操作部20と、アクチュエータ部40と、シフト切換機構48と、自動変速機30と、SBW(Shift By Wire)−ECU(Electronic Control Unit)50と、ECT(Electronic Controlled Automatic Transmission)−ECU52と、EFI(Electronic Fuel Injection)−ECU54と、VSC(Vehicle Stability Control)−ECU56と、メータ58と、IGスイッチ62と、エンジン70と、スタータ72とから構成される。
【0028】
シフト操作部20は、Pスイッチ22と、シフトスイッチ24とから構成される。アクチュエータ部40は、アクチュエータ42と、出力軸センサ44と、エンコーダ46とから構成される。
【0029】
上述のような構成において、シフト制御システム10は、電気制御によりシフトポジションを切り換えるシフトバイワイヤシステムとして機能する。具体的にはシフト切換機構48がアクチュエータ42により駆動されてシフトポジションの切り換えを行なう。本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置は、SBW−ECU50により実現される。
【0030】
Pスイッチ22は、シフトポジションをパーキングポジション(以下、「Pポジション」と記載する)とパーキング以外のポジション(以下、「非Pポジション」と記載する)との間で切り換えるためのスイッチであり、スイッチの状態を運転者に示すためのインジケータおよび運転者からの指示を受付ける入力部(いずれも図示せず)を含む。運転者は、入力部を通じて、シフトポジションをPポジションに入れる指示を入力する。入力部はモーメンタリスイッチであってもよい。入力部が受付けた運転者からの指示を示すP指令信号は、SBW−ECU50に送信される。なお、このようなPスイッチ22以外により、非PポジションからPポジションにシフトポジションを切り換えるものであってもよい。さらに、Pポジションと非Pポジションとの間の切換は、たとえば、アクセルペダルあるいはブレーキペダル等への操作に応じて自動的に切り換えるものであってもよい。
【0031】
SBW−ECU50は、シフトポジションをPポジションと非Pポジションとの間で切り換えるために、シフト切換機構48を駆動するアクチュエータ42の動作を制御し、現在のシフトポジションの状態をメータ58のインジケータ(図示せず)に提示する。シフトポジションが非Pポジションであるときに運転者はPスイッチ22の入力部を押下すると、SBW−ECU50はシフトポジションをPポジションに切り換えて、インジケータに現在のシフトポジションがPポジションである旨を提示する。
【0032】
アクチュエータ42は、スイッチドリラクタンスモータ(以下、「SRモータ」と記載する)により構成され、SBW−ECU50からのアクチュエータ制御信号を受信してシフト切換機構48を駆動する。エンコーダ46は、アクチュエータ42と一体的に回転し、SRモータの回転状況を検出する。本実施の形態のエンコーダ46は、A相、B相およびZ相の信号を出力するロータリーエンコーダである。SBW−ECU50は、エンコーダ46から出力される信号を取得してSRモータの回転状況を把握し、SRモータを駆動するための通電の制御を行なう。
【0033】
シフトスイッチ24は、シフトポジションを前進走行ポジション(以下、「Dポジション」と記載する)、後進走行ポジション(以下、「Rポジション」と記載する)、ニュートラルポジション(以下、「Nポジション」と記載する)などのポジションに切り換えたり、またPポジションに切り換えられているときには、Pポジションを解除したりするためのスイッチである。シフトスイッチ24が受付けた運転者からの指示を示す切換信号(以下、シフト信号ともいう)はSBW−ECU50に送信される。すなわち、シフトスイッチ24は、運転者により操作された操作部材(たとえば、シフトレバー)の位置に対応したシフトポジションを示すシフト信号をSBW−ECU50に送信する。SBW−ECU50は、運転者からの指示を示すシフト信号に基づき、アクチュエータ42により、自動変速機30におけるシフトポジションを切り換える制御を行なうとともに、現在のシフトポジションの状態をメータ58に提示する。
【0034】
より具体的には、SBW−ECU50は、シフトスイッチ24から受信するシフト信号に基づくシフトレバーの位置に対応するシフトポジションと、エンコーダ46等により検出される、アクチュエータ42の回転量に基づくシフトポジションとが異なると、シフトレバーの位置に対応するシフトポジションに切り換わるように、アクチュエータ42を駆動する。
【0035】
本実施の形態において、自動変速機30は、有段式自動変速機であるとして説明するが、特にこれに限定されるものではなく、たとえば、無段式自動変速機であってもよい。
【0036】
自動変速機30には、たとえば、マニュアルバルブ等の各種バルブを含む油圧回路が設けられ、油圧回路における油圧変化により、シフトポジションおよび動力伝達状態が変化される。より具体的には、自動変速機30には、遊星歯車機構と、遊星歯車機構の各回転要素(すなわち、サンギヤ、キャリアおよびリングギヤ等)の回転の態様を変化させるブレーキ要素およびクラッチ要素などの摩擦係合要素とが設けられる。
【0037】
マニュアルバルブにはその内部を摺動するようにスプール弁が設けられる。スプール弁が各シフトポジションに対応する位置に移動されると、移動された位置に応じて油圧回路における油圧が変化する。
【0038】
このとき、油圧回路における油圧の変化に応じて、摩擦係合要素における係合力が変化して、自動変速機30は、各シフトポジションに対応した状態に変化する。すなわち、自動変速機30におけるエンジンから駆動輪への動力伝達状態(たとえば、前進、後進、動力遮断のいずれかの状態あるいは変速比)が変化する。これらの摩擦係合要素における係合力は、油圧回路に設けられた各種ソレノイドバルブを用いてECT−ECU52により制御される。
【0039】
自動変速機30は、発進クラッチ32を有する。発進クラッチ32は、車両が発進する際に必ず係合される摩擦係合要素である。発進クラッチ32は、ECT−ECU52の油圧制御信号に応じて係合したり、解放したりする。発進クラッチ32が係合される場合、エンジン70から駆動輪への動力伝達が遮断される。なお、車両が前方側に発進する際に必ず係合される摩擦係合要素と後方側に発進する際に必ず係合される摩擦係合要素とは、異なっていてもよい。
【0040】
シフト切換機構48は、アクチュエータ42に連結されるシャフトを含む。シャフトには、後述するディテントプレートが設けられる。ディテントプレートは、ロッド等を介在させて自動変速機30のマニュアルバルブのスプール弁に連結される。なお、マニュアルバルブのスプール弁は、シャフトに直接連結されるようにしてもよい。
【0041】
シャフトは、アクチュエータ42により回転される。また、シャフトの回転により、スプール弁が各シフトポジション(すなわち、Dポジション、RポジションおよびNポジション)に対応する位置に移動可能となる。
【0042】
すなわち、アクチュエータ42がDポジションに対応する回転位置になると、スプール弁がDポジションに対応する位置に移動される。また、アクチュエータ42がRポジションに対応する回転位置になると、スプール弁がRポジションに対応する位置に移動される。さらに、アクチュエータ42がNポジションに対応する回転位置になると、スプール弁がNポジションに対応する位置に移動される。
【0043】
本実施の形態において、アクチュエータ42は、回転駆動する電動機であるとして説明するが、特に、回転駆動に限定されるものではなく、たとえば、直線駆動するものであってもよい。また、アクチュエータ42は、油圧により作動するものであってもよく、電動機により作動するものに特に限定されるものではない。
【0044】
出力軸センサ44は、シャフト102の回転位置を検出する。具体的には、SBW−ECU50に接続され、シャフト102の回転角度を示す信号(回転位置信号)をSBW−ECU50に送信する。SBW−ECU50は、受信した回転位置を示す信号に基づいてシフトポジションを検出する。SBW−ECU50のメモリには、各シフトポジションに対応する予め定められた出力値の範囲が定められ、SBW−ECU50は、受信したシャフト102の回転角度を示す信号が、各シフトポジションに対応する範囲のいずれに対応するかを判定することにより、現在選択されているシフトポジションを判定する。また、本実施の形態において出力軸センサ44の出力値の変化はシャフト102の回転位置(角度)の変化に対して線形の関係となるものとする。出力軸センサ44は、アクチュエータ42の作動量に対応する物理量であるシャフト102の回転角度を検出するものである。
【0045】
ECT−ECU60は、油温センサ(図示せず)により検出される油温のほか、自動変速機30の状態に関連する物理量(たとえば、タービン回転数、出力軸回転数およびエンジン回転数)に基づいて自動変速機30の変速状態を制御する。
【0046】
EFI−ECU54は、アクセル開度センサ(図示せず)により検出されるアクセル開度のほか、エンジンの状態に関連する物理量(たとえば、水温、吸入空気量等)に基づいて内燃機関であるエンジンの出力を制御する。
【0047】
VSC−ECU56は、ブレーキ圧センサ(図示せず)により検出されるブレーキ油圧のほか、車両の挙動に関連する物理量(たとえば、車輪速)に基づいてブレーキ油圧を制御する。
【0048】
メータ58は、車両の機器の状態やシフトポジションの状態などを提示する。また、メータ58には、SBW−ECU50が発した運転者に対する指示や警告などを表示する表示部(図示せず)が設けられる。
【0049】
エンジン70は、自動変速機30の入力軸に連結される。エンジン70には、エンジン70を始動する際に駆動するスタータ72が設けられる。
【0050】
スタータ72は、EFI−ECU54からのスタータ駆動信号を受信すると駆動を開始して、エンジン70をクランキングさせる(エンジン70の出力軸を回転させる)。EFI−ECU54は、スタータ72の駆動とともに、エンジン70に燃料が供給され、点火するようにエンジン70にエンジン制御信号を送信する。エンジン70は、クランキングの状態において、燃料が供給され、供給された燃料と空気との混合気が点火されることにより始動が開始される。
【0051】
IGスイッチ62への運転者のオン操作により電源リレー(図示せず)がオンされる。電源リレーがオンされると車両に搭載された電気機器に電力が供給され、各電気機器が起動する。本実施の形態においては、IGスイッチ62へのオン操作により、アクチュエータ42への電力供給が可能となり、アクチュエータ42が駆動可能な状態となる。
【0052】
図2は、シフト切換機構48の構成を示す。以下、シフトポジションは、Pポジション、非Pポジション(R、N、Dの各ポジションを含み、さらにDポジションに加えて1速固定のD1ポジションや、2速固定のD2ポジションを含んでも良い)とを含む。
【0053】
アクチュエータ42は、減速機構68を介在させてシャフト102に接続される。すなわち、アクチュエータ42の回転数は、減速機構68により減速されてシャフト102に伝達される。減速機構68は、たとえば、複数のギヤが組み合わされて構成される。
【0054】
シフト切換機構48は、アクチュエータ42により回転されるシャフト102、シャフト102の回転に伴って回転するディテントプレート100、ディテントプレート100の回転に伴って動作するロッド104、自動変速機30の出力軸に固定されたパーキングロックギヤ108、パーキングロックギヤ108をロックするためのパーキングロックポール106、ディテントプレート100の回転を制限してシフトポジションを固定するディテントスプリング110およびころ112を含む。ディテントプレート100は、アクチュエータ42により駆動されてシフトポジションを切り換える。アクチュエータ42には、エンコーダ46が設けられる。エンコーダ46は、アクチュエータ42の回転量に応じた計数値を取得する計数手段として機能する。
【0055】
エンコーダ46は、電動機のロータ上に等間隔に配置された磁石とホールICにより回転動作時にパルス信号を発生させ、ロータ回転角度を検出するセンサである。エンコーダ46は、アクチュエータ42の回転量の増加とともに、カウンタ値を増加させる(あるいは、回転する方向が負方向であるとすると、カウンタ値を減少させる)。エンコーダ46におけるカウンタ値を示す信号(以下、計数信号ともいう)は、SBW−ECU50に送信される。SBW−ECU50は、カウンタ値の増加分あるいは減少分に基づいて、アクチュエータ42の回転量を検出する。あるいは、SBW−ECU50は、カウンタ値の増加分あるいは減少分と減速機構68における減速比とに基づいて、シャフト102の回転量を検出するようにしてもよい。
【0056】
なお、図2の斜視図においては、ディテントプレート100の谷(Pポジション位置)しか示していないが、実際には図2の拡大平面図に示すように、ディテントプレート100には、D、N、R、Pの4つのポジションに対応する4つの谷が存在する。なお、以下においては、D、N、Rの各ポジションを(まとめて)非Pポジションとして、Pポジションと非Pポジションとの切り換えについて説明する。
【0057】
図2は、シフトポジションが非Pポジションであるときの状態を示している。この状態では、パーキングロックポール106がパーキングロックギヤ108をロックしていないので、車両の駆動軸の回転は妨げられない。この状態からアクチュエータ42によりシャフト102を時計回り方向に回転させると、ディテントプレート100を介してロッド104が図2に示す矢印Aの方向に押され、ロッド104の先端に設けられたテーパ部によりパーキングロックポール106が図2に示す矢印Bの方向に押し上げられる。ディテントプレート100の回転に伴ってディテントプレート100の頂部に設けられた二つの谷のうちの一方、すなわち非Pポジション位置120にあったディテントスプリング110のころ112は、山122を乗り越えて他方の谷、すなわちPポジション位置124へ移る。ころ112は、その軸方向に回転可能にディテントスプリング110に設けられている。ころ112がPポジション位置124に来るまでディテントプレート100が回転したとき、パーキングロックポール106は、パーキングロックポール106の突起部分がパーキングロックギヤ108の歯部間に嵌合する位置まで押し上げられる。これにより、車両の駆動軸が機械的に固定され、シフトポジションがPポジションに切り換わる。
【0058】
本実施の形態に係るシフト制御システム10では、シフトポジション切換時にディテントプレート100、ディテントスプリング110およびシャフト102などのシフト切換機構の構成部品に係る負荷を低減するために、SBW−ECU50が、ディテントスプリング110のころ112が山122を乗り越えて落ちるときの衝撃を少なくするように、アクチュエータ42の回転量を制御する。
【0059】
SBW−ECU50は、エンコーダ46で検出された回転量に基づく、アクチュエータ42の回転位置(ディテントプレート100におけるころ112の相対位置)がPポジションに対応する予め定められた範囲内にあるときには、シフトポジションがPポジションであることを判定する。
【0060】
一方、SBW−ECU50は、エンコーダ46で検出された回転量に基づく、アクチュエータ42の回転位置が非Pポジション(たとえば、D、R、Nのいずれか)に対応する予め定められた範囲内にあるときには、シフトポジションが非Pポジションであることを判定する。
【0061】
SBW−ECU50は、エンコーダ46により検出されるカウンタ値に基づいてアクチュエータ42の回転量を検出する。
【0062】
SBW−ECU50は、規制部材により規制されたアクチュエータの回転位置に基づいて、複数のシフトポジションのうちの少なくとも一つのシフトポジションの位置を設定する。したがって、SBW−ECU50は、エンコーダ46により検出されるカウンタ値に基づいてシフトポジションがPポジション、Rポジション、NポジションおよびDポジションのうちのいずれのシフトポジションであるかを判定する。
【0063】
なお、SBW−ECU50は、エンコーダ46に代えてあるいは加えて出力軸センサ44の出力値に基づいてシフトポジションの位置を判定するようにしてもよいし、またはニュートラルスタートスイッチによりシフトポジションの位置を判定するようにしてもよい。
【0064】
以上のような構成を有するシフト制御システム10において、本発明は、SBW−ECU50が、切換信号に基づく複数のシフトポジションのうちのシフトポジション(1)の解除時のアクチュエータ42の駆動が、早くともアクチュエータ42が駆動可能な状態となった時点の後の最初の駆動である場合に、切換信号に基づく切換先のシフトポジション(2)に切り換える前に、複数のシフトポジションのうちのシフトポジション(1)以外の他のシフトポジションを経由して切り換えるようにアクチュエータ42を駆動することによりシフト切換機構48においてアクチュエータ42の駆動後のシフトポジションと切換先のシフトポジションとが異なることによるフェールが生じたか否かを判定する点に特徴を有する。本実施の形態において、シフトポジション(1)は、Pポジションであるとして説明するが、特にPポジションに限定されるものではなく、たとえば、Nポジション等の非走行ポジションであってもよい。
【0065】
また、複数のシフトポジションは、前述の最初の駆動である場合に、シフトポジション(1)を起点として予め定められた順序で切り換えられらる。本実施の形態において、SBW−ECU50は、前述の最初の駆動である場合に、シフトポジション(1)と、最も順序の遅いシフトポジションとの間においてフェールが生じたか否かを判定する。SBW−ECU50は、切換先のシフトポジション(2)が最も順序の遅いシフトポジションでない場合に、シフトポジションを最も順序の遅いシフトポジションに切り換えるようにアクチュエータ42を駆動することによりフェールが生じたか否かを判定する。本実施の形態において、「最も順序の遅いシフトポジション」は、Dポジションである。
【0066】
また、「フェール」とは、アクチュエータ42の内部のロータ、減速機構68のギヤ、自動変速機30内部のマニュアルシャフト、ディテントプレート100およびマニュアルバルブのスプールの機械的な故障によりシフトポジションの切り換えが正常に行なえない状態をいう。
【0067】
図3に、本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置であるSBW−ECU50の機能ブロック図を示す。
【0068】
SBW−ECU50は、入力インターフェース(以下、入力I/Fと記載する)300と、演算処理部400と、記憶部500と出力インターフェース(以下、出力I/Fと記載する)600とを含む。
【0069】
入力I/F300は、IGスイッチ62からのIG信号と、エンコーダ46からのエンコーダ(計数)信号と、出力軸センサ44からの回転位置信号と、シフトスイッチ24からのシフト信号と、Pスイッチ22からのP指令信号とを受信して、演算処理部400に送信する。
【0070】
演算処理部400は、切換要求判定部402と、初回切換判定部404と、目標ポジション判定部406と、ポジション記憶部408と、目標設定部410と、クラッチ解放指示部412と、アクチュエータ制御部(1)414と、実ポジション判定部(1)416と、異常通知部418と、目標再設定部420と、アクチュエータ制御部(2)422と、実ポジション判定部(2)424と、クラッチ制御指示部426とを含む。演算処理部400は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)により実現される。
【0071】
切換要求判定部402は、Pポジションが選択されている場合に、シフト信号に基づいてPポジション以外の他のシフトポジションへの切換要求があるか否かを判定する。なお、切換要求判定部402は、たとえば、Pポジションから他のシフトポジションへの切換要求があることを判定すると切換要求フラグをオンするようにしてもよい。
【0072】
初回切換判定部404は、判定されたPポジションから他のシフトポジションへの切換が、エンジン70が始動した後の初回の切換であるか否かを判定する。たとえば、初回切換判定部404は、エンジン70が始動される毎にオンし、シフトポジションの切換が行なわれるとオフするフラグがオン状態であると、判定されたPポジションから他のシフトポジションへの切換が初回の切換であることを判定するようにしてもよい。
【0073】
なお、本実施の形態において、初回切換判定部404は、エンジン70の始動後の初回の切換を判定したが、特にエンジンの始動後に限定されるものではなく、早くともIGスイッチ62がオンされてアクチュエータ42の駆動可能となった時点の後の初回の切換要求であるか否かを判定すればよい。あるいは、初回切換判定部404は、たとえば、アクチュエータ42がACCの電源リレーがオンすることにより駆動可能となる場合には、ACCオン後の初回の切換であるか否かを判定するようにしてもよい。さらには、初回切換判定部404は、エンジン70の始動後の初回の切換であって、かつ、その日の最初の切換であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0074】
また、初回切換判定部404は、たとえば、エンジンが始動した後の初回の切換であることを判定すると初回切換判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0075】
目標ポジション判定部406は、シフト信号に基づく切換先のシフトポジション(以下、目標シフトポジションと記載する)がDポジションであるか否かを判定する。なお、目標ポジション判定部406は、たとえば、目標シフトポジションがDポジションであることを判定すると、Dポジション判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0076】
ポジション記憶部408は、エンジン始動後の初回のPポジションから切換がであって、かつ、目標シフトポジションがDポジションでない場合に目標シフトポジションを記憶部500に記憶する。なお、ポジション記憶部408は、たとえば、切換要求フラグおよび初回切換判定フラグがオンであって、Dポジション判定フラグがオフである場合に、目標シフトポジションを記憶部500に記憶するようにしてもよい。
【0077】
目標設定部410は、目標シフトポジションが記憶部500に記憶された場合にDポジションを目標シフトポジションとして設定する。クラッチ解放指示部412は、自動変速機30の発進クラッチ32が解放されるようにクラッチ解放指示信号を生成して、出力I/F600を経由してECT−ECU52に送信する。ECT−ECU52は、クラッチ解放指示信号を受信すると発進クラッチ32が解放するように油圧制御信号を生成して、発進クラッチ32の係合力を変更するソレノイドに送信する。なお、クラッチ解放指示部412は、たとえば、車両の前方側の発進時に必ず係合される摩擦係合要素と、後方側の発進時に必ず係合される摩擦係合要素とが異なる場合には、双方の摩擦係合要素を解放するように指示する。
【0078】
アクチュエータ制御部(1)414は、目標シフトポジションが設定され、発進クラッチが解放された場合にエンコーダ信号および/または回転位置信号に基づいて検出される実シフトポジションが設定された目標シフトポジションになるようにアクチュエータ42を制御する。アクチュエータ制御部(1)414は、アクチュエータ制御信号を生成して、出力I/F600を経由してアクチュエータ42に送信する。
【0079】
実ポジション判定部(1)416は、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応するか否かを判定する。具体的には、実ポジション判定部(1)416は、アクチュエータ制御部(1)414によるアクチュエータの駆動に伴なって変化するエンコーダの計数値あるいは出力軸センサにより検出されるシャフトの回転位置に基づいて、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応するか否かを判定する。
【0080】
なお、実ポジション判定部(1)416は、たとえば、アクチュエータ42の駆動を開始してから目標シフトポジションへの移動が完了していると予測される予め定められた時間経過後に実シフトポジションが目標シフトポジションに対応するか否かを判定するようにしてもよいし、シャフト102の回転速度が予め定められた値以下となったときに実シフトポジションが目標シフトポジションに対応するか否かを判定するようにしてもよい。また、実ポジション判定部(1)416は、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応しないことを判定すると、異常判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0081】
異常通知部418は、メータ58等にシフト切換機構48にフェールが発生したことを示す警告表示あるいは警報を行なうことにより運転者にフェールの発生を通知する。異常通知部418は、たとえば、異常判定フラグがオンであると、警告表示信号を生成して、出力I/F600を経由して、メータ58に送信する。
【0082】
目標再設定部420は、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応することが判定されると、記憶部500から記憶されたシフトポジションを目標シフトポジションとして再設定する。なお、目標再設定部420は、たとえば、異常判定フラグがオフであると、記憶されたシフトポジションを目標シフトポジションとして再設定するようにしてもよい。
【0083】
アクチュエータ制御部(2)422は、実シフトポジションが目標再設定部420において再設定された目標シフトポジションになるようにアクチュエータ42を制御する。アクチュエータ制御部(2)422は、アクチュエータ制御信号を生成して、出力I/F600を経由してアクチュエータ42に送信する。
【0084】
実ポジション判定部(2)424は、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応するか否かを判定する。なお、実ポジション判定部(2)424は、たとえば、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応することを判定すると実ポジション判定フラグをオンするようにしてもよい。
【0085】
クラッチ制御指示部426は、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応することを判定した後、実シフトポジションに応じてクラッチ制御の指示を行なう。
【0086】
たとえば、クラッチ制御指示部426は、実シフトポジションがDポジションまたはRポジションであれば、発進クラッチ32を係合するようにクラッチ係合指示信号を生成して、出力I/F600を経由してECT−ECU52に送信する。
【0087】
ECT−ECU52は、クラッチ係合指示信号を受信すると発進クラッチ32あるいは後進側の発進クラッチが係合するように油圧制御信号を生成して、ソレノイドに送信する。
【0088】
また、クラッチ制御指示部426は、実シフトポジションがNポジションである場合には、発進クラッチ32の係合を指示しない。
【0089】
なお、前方側の発進時に必ず係合される摩擦係合要素と後方側の発進時に必ず係合される摩擦係合要素が異なる場合には、実シフトポジションに対応した摩擦係合要素を係合するようにすればよい。
【0090】
なお、クラッチ制御指示部426は、たとえば、実ポジション判定フラグがオンであると、実シフトポジションに対応したクラッチ係合指示信号をECT−ECU52に送信するようにしてもよい。
【0091】
また、本実施の形態において、切換要求判定部402と、初回切換判定部404と、目標ポジション判定部406と、ポジション記憶部408と、目標設定部410と、クラッチ解放指示部412と、アクチュエータ制御部(1)414と、実ポジション判定部(1)416と、異常通知部418と、目標再設定部420と、アクチュエータ制御部(2)422と、実ポジション判定部(2)424と、クラッチ制御指示部426とは、いずれも演算処理部400であるCPU(Central Processing Unit)が記憶部500に記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能するものとして説明するが、ハードウェアにより実現されるようにしてもよい。なお、このようなプログラムは記憶媒体に記録されて車両に搭載される。
【0092】
記憶部500には、各種情報、プログラム、しきい値、マップ等が記憶され、必要に応じて演算処理部400からデータが読み出されたり、格納されたりする。
【0093】
以下、図4を参照して、本実施の形態に係る車両の制御装置であるSBW−ECU50で実行されるプログラムの制御構造について説明する。
【0094】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、SBW−ECU50は、Pポジションから他のシフトポジションへの切換要求があるか否かを判定する。切換要求があると(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS100に戻される。
【0095】
S102にて、SBW−ECU50は、Pポジションからの他のシフトポジションへの切換がエンジン70の始動後の初回の切換であるか否かを判定する。エンジン始動後の初回の切換であることを判定すると(S102にてYES)、処理はS104に移される。もしそうでないと(S102にてNO)、処理はS124に移される。
【0096】
S104にて、SBW−ECU50は、シフト信号に基づいて目標シフトポジションがDポジションであるか否かを判定する。目標シフトポジションがDポジションであると(S104にてYES)、処理はS106に移される。もしそうでないと(S104にてNO)、処理はS124に移される。
【0097】
S106にて、SBW−ECU50は、目標シフトポジションを記憶する。S108にて、SBW−ECU50は、目標シフトポジションとしてDポジションを設定する。S110にて、SBW−ECU50は、発進クラッチ32の解放を指示する。
【0098】
S112にて、SBW−ECU50は、実シフトポジション設定された目標シフトポジションになるようにアクチュエータ42を制御する。S114にて、SBW−ECU50は、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応するか否かを判定する。実シフトポジションが目標シフトポジションに対応することが判定されると(S114にてYES)、処理はS116に移される。もしそうでないと(S114にてNO)、処理はS126に移される。
【0099】
S116にて、SBW−ECU50は、S106にて記憶したシフトポジションを目標シフトポジションとして再設定する。S118にて、SBW−ECU50は、再設定された目標シフトポジションになるようにアクチュエータ42を制御する。
【0100】
S120にて、SBW−ECU50は、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応するか否かを判定する。実シフトポジションが目標シフトポジションに対応することが判定されると(S120にてYES)、処理はS122に移される。もしそうでないと(S120にてNO)、処理はS118に戻される。
【0101】
S122にて、SBW−ECU50は、実シフトポジションに応じてクラッチ制御を指示する。S124にて、SBW−ECU50は、通常処理を実施する。すなわち、SBW−ECU50は、シフト信号に基づく目標シフトポジションと実シフトポジションとが異なる場合に、目標シフトポジションになるようにアクチュエータ42を制御する。S126、SBW−ECU50は、シフト切換機構48の異常の検出を運転者に通知する。
【0102】
以上のような構造およびフローチャートに基づく本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置であるSBW−ECU50の動作について図5を参照しつつ説明する。
【0103】
たとえば、車両が停車中であって、かつ、エンジン70が停止中であって、シフトポジションがPポジションである場合を想定する。運転者がIGスイッチ62をオンすることにより、車両の電源が投入されると、アクチュエータ42への電力の供給が可能な状態となる。すなわち、アクチュエータ42が駆動可能な状態となる。また、運転者によりスタータ72を駆動する操作がなされるとエンジン70が始動する。
【0104】
時間T(0)にて、たとえば、運転者が、エンジン70の始動後に、Nポジションにシフトポジションを移動させるとする。SB−ECU50がNポジションに対応するシフト信号を受信すると、実シフトポジションがPポジションであるため、シフトポジションの切換要求があることが判定される(S100にてYES)。また、エンジン70の始動後の初回の切換であって(S102にてYES)、目標シフトポジションがNポジションであるため(S104にてNO)、シフト信号に基づく目標ポジションがNポジションであることが記憶されて(S106)、Dポジションが目標ポジションとして設定される。さらに、発進クラッチ32の解放が指示され(S110)、シフトポジションがDポジションになるようにアクチュエータ42が制御される。
【0105】
<シフト切換機構が正常である場合>
時間T(0)にて、アクチュエータ42の駆動が開始されると、図5に示すように、シャフト102(ディテントプレート100)の回転角度が増加していく。なお、図5において横軸は時間を示し、縦軸はシャフト102の回転角度を示す。
【0106】
時間T(0)以降において、シャフト102の回転角度は、時間の経過とともにDポジション側に変化していき、図5の破線に示すように、時間T(2)にて、Dポジションに対応する回転角度A(1)となる。このとき、実シフトポジションは、目標シフトポジションに対応するため(S114にてYES)、記憶されたNポジションを目標シフトポジションとして再設定される(S116)。
【0107】
再設定されたシフトポジションになるようにアクチュエータ42が制御されることにより(S118)、シャフト102の回転角度は、Nポジション側に変化していき、時間T(3)にて、Nポジションに対応する回転角度A(2)となる。このとき、実シフトポジションは、目標シフトポジションに対応し(S120にてYES)、実シフトポジションがNポジションであるため、発進クラッチ32の係合は指示されない(S122)。
【0108】
<シフト切換機構が異常である場合>
時間T(0)にて、アクチュエータ42の駆動が開始されると、図5に示すように、シャフト102の回転角度が増加していく。
【0109】
時間T(0)以降において、シャフト102の回転角度は、時間の経過とともにDポジション側に変化していく。時間T(1)にて、自動変速機30のマニュアルバルブにスティックが発生するなどしてシャフト102の回転が制限されると、回転角度A(0)の状態が継続する。このため、実シフトポジションが目標シフトポジションに対応しないため(S114にてNO)、シフト切換機構48の異常の検出が運転者に通知される(S126)。なお、車両の移動に関連するクラッチが解放された状態であるため、シフト切換機構48の異常により運転者の意図しない車両の挙動が生じることが防止される。
【0110】
以上のようにして、本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置によると、エンジン始動後の初回切換時において、Pポジションから切換先のシフトポジションに切り換える前に他のシフトポジションを経由して切り換えるようにアクチュエータを駆動してシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定することにより、車両が走行を開始する前の早期の段階でシフト切換機構のフェールを検出することができる。また、車両は停車状態であるため、発進時に係合される摩擦係合要素を解放して駆動輪への動力伝達を遮断するなどして車両の移動を制限するとともにシフト切換機構のフェールを検出することにより、運転者の意図しない車両の挙動が生じることを防止することができる。したがって、シフト切換機構の異常を早期の段階で検出するシフト切換機構の異常判定装置および異常判定方法を提供することができる。
【0111】
また、PポジションとDポジションとの間においてフェールが生じたか否かを判定することにより、全てのシフトポジションに対してシフト切換機構の異常を検出することができる。
【0112】
さらに、切換先のシフトポジションがDポジションでない場合に、シフトポジションをDポジションに切り換えるようにアクチュエータを駆動してシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定することにより、全てのシフトポジションに対してシフト切換機構の異常を検出することができる。
【0113】
なお、本実施の形態においては、本発明を自動変速機が搭載された車両に適用する場合について説明したが、たとえば、ハイブリッド車両に本発明を適用するようにしてもよい。
【0114】
たとえば、Pポジションの解除時のアクチュエータの駆動が、アクチュエータが駆動可能な状態となった時点の後の最初の駆動である場合に、切換先のシフトポジションに切り換える前に、複数のシフトポジションのうちのPポジション以外の他のシフトポジションに切り換えるようにアクチュエータを駆動することによりシフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定するようにしてもよい。このようにしても、本発明を自動変速機が搭載された車両に適用した場合に発現する効果と同様の効果が発現する。
【0115】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置が搭載された車両の構成を示す図である。
【図2】シフト機構の構成を示す図である。
【図3】本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置であるSBW−ECUの機能ブロック図である。
【図4】本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置であるSBW−ECUで実行されるプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図5】本実施の形態に係るシフト切換機構の異常判定装置であるSBW−ECUの動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0117】
10 シフト制御システム、20 シフト操作部、22 スイッチ、24 シフトスイッチ、30 自動変速機、32 発進クラッチ、40 アクチュエータ部、42 アクチュエータ、44 出力軸センサ、46 エンコーダ、48 シフト切換機構、58 メータ、62 スイッチ、68 減速機構、70 エンジン、72 スタータ、100 ディテントプレート、102 シャフト、104 ロッド、106 パーキングロックポール、108 パーキングロックギヤ、110 ディテントスプリング、120 ポジション位置、122 山、124 ポジション位置、300 入力I/F、400 演算処理部、402 切換要求判定部、404 初回切換判定部、406 目標ポジション判定部、408 ポジション記憶部、410 目標設定部、412 クラッチ解放指示部、418 異常通知部、420 目標再設定部、426 クラッチ制御指示部、500 記憶部、600 出力I/F。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたシフト切換機構の異常判定装置であって、前記シフト切換機構は、切換信号に応じて前記車両の走行状態に対応するシフトポジションを、アクチュエータの駆動により複数のシフトポジションのうちのいずれかのシフトポジションに切換え、
前記切換信号に基づく前記複数のシフトポジションのうちの第1のシフトポジションの解除時のアクチュエータの駆動が、早くとも前記アクチュエータが駆動可能な状態となった時点の後の最初の駆動であるか否かを判定するための手段と、
前記最初の駆動である場合に、前記切換信号に基づく切換先の第2のシフトポジションに切換える前に、前記複数のシフトポジションのうちの前記第1のシフトポジション以外の他のシフトポジションを経由して切換えるように前記アクチュエータを駆動することにより、前記シフト切換機構において前記アクチュエータの駆動後のシフトポジションと切換先のシフトポジションとが異なることによるフェールが生じたか否かを判定するためのフェール判定手段とを含む、シフト切換機構の異常判定装置。
【請求項2】
前記複数のシフトポジションは、前記最初の駆動である場合に、前記第1のシフトポジションを起点として予め定められた順序で切り換えられ、
前記フェール判定手段は、前記最初の駆動である場合に、前記第1のシフトポジションと、最も順序の遅いシフトポジションとの間において前記フェールが生じたか否かを判定する、請求項1に記載のシフト切換機構の異常判定装置。
【請求項3】
前記フェール判定手段は、前記第2のシフトポジションが前記最も順序の遅いシフトポジションでない場合に、シフトポジションを前記最も順序の遅いシフトポジションに切り換えるように前記アクチュエータを駆動することにより前記フェールが生じたか否かを判定する、請求項2に記載のシフト切換機構の異常判定装置。
【請求項4】
前記車両は、エンジンを有し、
前記フェール判定手段は、前記エンジンの始動後の最初のアクチュエータの駆動が行なわれたことが判定される場合に、前記シフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する、請求項1〜3のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定装置。
【請求項5】
前記他のシフトポジションは、前進走行ポジションを含み、
前記第1のシフトポジションから前記前進走行ポジションへは、前記第1のシフトポジションおよび前記前進走行ポジション以外のシフトポジションをそれぞれ経由して切り換えられ、
前記フェール判定手段は、前記最初の駆動である場合に、前記第2のシフトポジションに切り換える前に、前記前進走行ポジションに切り換えるように前記アクチュエータを駆動することにより前記シフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する、請求項1〜4のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定装置。
【請求項6】
前記第1のシフトポジションは、パーキングポジションである、請求項1〜5のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定装置。
【請求項7】
前記異常判定装置は、
前記第2のシフトポジションを記憶するための記憶手段と、
前記他のシフトポジションへの切換時に前記シフト切換機構にフェールが生じていないことが判定される場合に、前記記憶された第2のシフトポジションに切換えるように前記アクチュエータを制御するための手段とをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定装置。
【請求項8】
前記異常判定装置は、前記車両の移動を制限するための制限手段をさらに含み、
前記フェール判定手段は、前記車両の移動を制限するとともに前記シフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する、請求項1〜7のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定装置。
【請求項9】
車両に搭載されたシフト切換機構の異常判定方法であって、前記シフト切換機構は、切換信号に応じて前記車両の走行状態に対応するシフトポジションを、アクチュエータの駆動により複数のシフトポジションのうちのいずれかのシフトポジションに切換え、
前記切換信号に基づく前記複数のシフトポジションのうちの第1のシフトポジションの解除時のアクチュエータの駆動が、早くとも前記アクチュエータが駆動可能な状態となった時点の後の最初の駆動であるか否かを判定するステップと、
前記最初の駆動である場合に、前記切換信号に基づく切換先の第2のシフトポジションに切換える前に、前記複数のシフトポジションのうちの前記第1のシフトポジション以外の他のシフトポジションを経由して切換えるように前記アクチュエータを駆動することにより、前記シフト切換機構において前記アクチュエータの駆動後のシフトポジションと切換先のシフトポジションとが異なることによるフェールが生じたか否かを判定するフェール判定ステップとを含む、シフト切換機構の異常判定方法。
【請求項10】
前記複数のシフトポジションは、前記最初の駆動である場合に、前記第1のシフトポジションを起点として予め定められた順序で切り換えられ、
前記フェール判定ステップは、前記最初の駆動である場合に、前記第1のシフトポジションと、最も順序の遅いシフトポジションとの間において前記フェールが生じたか否かを判定する、請求項9に記載のシフト切換機構の異常判定方法。
【請求項11】
前記フェール判定ステップは、前記第2のシフトポジションが前記最も順序の遅いシフトポジションでない場合に、シフトポジションを前記最も順序の遅いシフトポジションに切り換えるように前記アクチュエータを駆動することにより前記フェールが生じたか否かを判定する、請求項10に記載のシフト切換機構の異常判定方法。
【請求項12】
前記車両は、エンジンを有し、
前記フェール判定ステップは、前記エンジンの始動後の最初のアクチュエータの駆動が行なわれたことが判定される場合に、前記シフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する、請求項9〜11のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定方法。
【請求項13】
前記他のシフトポジションは、前進走行ポジションを含み、
前記第1のシフトポジションから前記前進走行ポジションへは、前記第1のシフトポジションおよび前記前進走行ポジション以外のシフトポジションをそれぞれ経由して切り換えられ、
前記フェール判定ステップは、前記最初の駆動である場合に、前記第2のシフトポジションに切り換える前に、前記前進走行ポジションに切り換えるように前記アクチュエータを駆動することにより前記シフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する、請求項9〜12のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定方法。
【請求項14】
前記第1のシフトポジションは、パーキングポジションである、請求項9〜13のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定方法。
【請求項15】
前記異常判定方法は、
前記第2のシフトポジションを記憶する記憶ステップと、
前記他のシフトポジションへの切換時に前記シフト切換機構にフェールが生じていないことが判定される場合に、前記記憶された第2のシフトポジションに切換えるように前記アクチュエータを制御するステップとをさらに含む、請求項9〜14のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定方法。
【請求項16】
前記異常判定方法は、前記車両の移動を制限する制限ステップをさらに含み、
前記フェール判定ステップは、前記車両の移動を制限するとともに前記シフト切換機構にフェールが生じたか否かを判定する、請求項9〜15のいずれかに記載のシフト切換機構の異常判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−275778(P2009−275778A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126252(P2008−126252)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】