説明

シリコン切断スラリー廃液の再生処理方法

【課題】ワイヤソーによるシリコンウェハー切削工程で排出されるスラリー廃液からクーラントと砥粒を、効率的に回収する方法を提供する。
【解決手段】 廃スラリーが貯蔵された原料タンク3、廃スラリーと超臨界二酸化炭素流体とを混合してクーラントを抽出する抽出槽5,超臨界流体を減圧してクーラントと二酸化炭素ガスとを分離する気液分離槽6および回収された二酸化炭素を超臨界状態に維持するための圧縮・加熱器4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーによるシリコンウェハー切削工程で排出されるスラリー廃液からクーラントと砥粒を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体単結晶シリコン、太陽電池単結晶シリコンおよび多結晶シリコンなどの加工には、ワイヤソーが使用され、シリコン、セラミック、金属などのブロックを、ワイヤソーによって、切断し、極薄のウェハー状製品を製造するようになっている。このようなワイヤソーでは、精度の高い研削を行うために、砥粒とその砥粒を分散させるクーラントを含む研削剤(スラリー)が使用されている。クーラントには用途によって油系クーラント(鉱物油等)や水系クーラント(水溶性グリコール類等)が用いられている。
【0003】
ワイヤソーは高速で走る多数本の細径のワイヤーにシリコン・インゴットを押しつけ、砥粒とクーラントから成るスラリーを供給しながら切断する装置である。このワイヤソーのスラリーは循環使用されるが、シリコンウェハー切削の回数が増えるに従い、スラリー液中に含まれるシリコン切削屑(シリコン切粉)の量が増え、スラリーの粘度の増加をもたらし、ワイヤソーの切削性能の低下とウェハーの加工精度の劣化を引き起こすことは知られている。このため、通常は液中のシリコン切粉の量が一定量を超えないよう常に遠心分離機などを用いたリサイクル装置でスラリー液を処理し過剰のシリコン屑を含むスラリー廃液を廃棄しながら、必要に応じて新たな切削剤を補給しながら運転を行っている。
【0004】
排出されたスラリー廃液には、砥粒や切削屑やワイヤソーの断片に由来する鉄粉が含まれて、このスラリー廃液は、通常、廃棄処分されている。
【0005】
しかしながら、スラリー廃液中には、まだ使用可能なクーラントや砥粒が含まれており、これを廃棄して新しい砥粒やクーラントを供給することは資源の無駄な消費であり、またかえって砥粒やクーラントの消費量が増大して切削処理のコストを高くさせ、廃棄にともない環境に負担をかけるという問題がある。
【0006】
このため、スラリー廃液から、クーラントや砥粒を回収して再利用するということが検討されている。
【0007】
たとえば特開平9-109144号公報(特許文献1)には、油系スラリー廃液に灯油などの抽出剤で希釈し、比重差で沈降する砥粒(SiC)を回収する方法が開示されている。
【0008】
また、特許第3199159号公報(特許文献2)には、油系スラリー廃液を水で希釈し、液
体サイクロンで分級して砥粒を回収することが開示されている。この方法では、水と油は再利用し、不要スラッジは廃棄している。
【0009】
特開平11-48146号公報(特許文献3)には、スラリー廃液を遠心ろ過法や遠心分離法で固液分離する方法が開示されている。
【0010】
特開2000-334475号公報(特許文献4)には、アミン類を含有する油系スラリー廃液を
、酸性物質添加によって中和するとともに、層分離させて、砥粒を回収する方法が開示されている。
【0011】
特開2002-28866号公報(特許文献5)には、スラリー廃液を遠心分離器で固液分離することが開示され、さらに回収された固形物はホモジナイザーで油を乳化分離し、次に水酸化ナトリウムなどでSiを溶解除去し、さらに塩酸で鉄分を除去し、砥粒を取り出すことが開示されている。
【0012】
特開2003-225700号公報(特許文献6)には、スラリー廃液を遠心分離器で濃縮処理し
、濃縮したスラッジを減圧蒸留乾燥し、固液分離する方法が開示され、蒸留されたクーラントを回収して再利用することが開示されている。
【0013】
特開2004-223321号公報(特許文献7)には、フィルタープレスなどにより分離したス
ラリー廃液に、アルキルスルホン酸ナトリウムなどの捕収剤と起泡剤を配合し、微細気泡を上昇させることによって、SiC粒子を分離することが開示されている。
【0014】
特開2000-254543号公報(特許文献8)には、スラリー廃液を真空式ドラムフィルター
で固液分離する。回収した固形物は篩いにより異物・鉄分を除去し、湿式分級機により砥粒を分級回収することが開示されている。
【0015】
特開2000-117147号公報(特許文献9)および特開平11-172237号公報(特許文献10)には、スラリー液に電場をかけて微粒子に磁気を帯びさせて小さい微粒子(主にSi屑)を電極に付着させて、残りの大きい粒子(主に砥粒SiC)を含むスラリー液は戻す方法が開示されている。なお、電場をかけるため、分散液が誘電液(電気絶縁体)即ち油系分散液に限られる。
【特許文献1】特開平9-109144号公報
【特許文献2】特許第3199159号公報
【特許文献3】特開平11-48146号公報
【特許文献4】特開2000-334475号公報
【特許文献5】特開2002-28866号公報
【特許文献6】特開2003-225700号公報
【特許文献7】特開2004-223321号公報
【特許文献8】特開2000-254543号公報
【特許文献9】特開2000-117147号公報
【特許文献10】特開平11-172237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、これまでのスラリー廃液再生処理で用いられている液体サイクロンや遠心分離器等では、スラリー廃液の砥粒、Si屑の固形分とクーラントを効率的に分離することはできないという問題があり、またスラリー廃液を有機溶媒または水などで希釈したり、フィルタープレスで固液分離した後、強酸や強アルカリまたは水で洗浄し砥粒を回収する方法も試みられているが、大量の有機溶媒、強酸・強アルカリ液または有機溶媒を含む排水の処理がコストと環境に負担が大きく、大抵の場合、産業廃棄物として焼却処分されているのが現状であった。
【0017】
また、特許文献1では、処理に大量の溶媒を使用しており、高コストでもあり、その廃溶媒の処理という新たな環境負荷が発生する。特許文献1および2の処理でもシリコン切粉の固形分にはクーラントが多量に残存し、クーラントの損失が多く、また砥粒表面の洗浄が不十分であり、その切削能力は十分に回復しておらず、そのまま砥粒として使用することが困難であることがある。
【0018】
特許文献3の方法では、スラリー廃液中の砥粒、シリコン切粉の固形分には油がかなり残存し、効率的に分離されていない。従って回収された固形分はさらに溶媒洗浄、アルカリ洗浄などを必要とし、その廃溶媒処理という新たな環境負荷が発生する。さらに、特許文献4の方法でも特許文献3と同様であり、さらに、クーラントの組成も変化していることがある。特許文献5の処理でスラリー廃液の砥粒、シリコン切粉の固形分には油がかな
り残存し、効率的に分離できていない。従って回収された固形分はさらにアルカリ洗浄、酸洗浄などを必要となる。
【0019】
特許文献6では、クーラントを回収することができるが、蒸留操作が必要であるとともに、砥粒にクーラントが残存し、しかも、回収した固形分はそのまま鋳型の塗型剤の骨材として利用されるので、残存クーラントはそのまま損失に繋がる。特許文献7でも、スラリー廃液の砥粒、シリコン切粉の固形分には油がかなり残存し、効率的に分離できず、乾燥することで回収砥粒中には油分が炭化して残り砥粒を充分に回復させることは困難である。特許文献8が特許文献3と同様に、スラリー廃液の砥粒、シリコン切粉の固形分にはクーラントがかなり残存し、効率的な分離ができない。特許文献9および10の方法は、分散液が誘電性を有するものに限定される上、Si屑が付着した砥粒(SiC)はそのまま使用されているので、切削液の性能は少ししか延命できない。
【0020】
さらに、上記した方法は、クーラントまたは砥粒のいずれか一方を回収することを目的としており、その双方を回収、再利用できればその技術的価値は非常に高い。しかしながら、上記方法を単に組み合わせただけでは、遠心分離、フィルタープレス等などの固液分離は効率が悪く(固形分にクーラント20〜30%残留)、また有機溶媒洗浄では危険のほか廃溶媒の処理、水洗浄では有機溶媒を含む排水処理という新たな環境負荷が発生してしまうという問題点もあった。さらに、固液分離し難い砥粒の再生には、有機溶媒や強酸や強アルカリを多く使わざるを得なく、これらの処理も新たな環境負荷を発生させている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このような情況のもと、本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、クーラント抽出の際に、有機溶媒や水などの代わりに、超臨界二酸化炭素流体を利用すれば、クーラントを分離抽出することが可能であり、しかも有機溶媒を使用しない、有機溶媒を含む排水を出さないので環境に悪影響がなく、また回収に使用した二酸化炭素は超臨界状態にすれば何度でも再利用可能なことに着目して、本発明を完成するに至った。さらに、クーラント除去後の固形分には、クーラントがほとんど含まれていないので、シリコン屑などの切削屑と砥粒との凝集が弱く、従来のように酸やアルカリを使用せずとも、弱い超音波照射で容易に分離し砥粒を回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
(1)本発明に係る研磨・切削剤スラリー廃液の再生処理方法は、
クーラントと砥粒を含む使用済み研磨・切削剤スラリー廃液を、
超臨界二酸化炭素流体と接触させ、
該スラリー中のクーラントを二酸化炭素流体に溶解抽出させたのち、
該流体中の二酸化炭素を超臨界状態から気体状態として分離し、クーラントを回収することを特徴とする。
【0023】
(2)本発明に係る研磨・切削剤スラリー廃液の再生処理方法は、クーラントと砥粒を含む使用済み研磨・切削剤スラリー廃液を、
超臨界二酸化炭素流体と接触させ、
該スラリー中のクーラントを二酸化炭素流体に溶解抽出させて、固形物と分離したのち、
(i)該流体中の二酸化炭素を超臨界状態から気体状態として分離し、クーラントを回収し

(ii)固形物を希アルカリ水溶液または希ノニオン界面活性剤水溶液中または水中で、超音波照射して、砥粒のみを分離回収することを特徴としている。
【0024】
(3)気体状態にした二酸化炭素を再度超臨界状態として、再利用する。
【0025】
(4)前記再生処理方法で回収されたクーラントおよび砥粒を含む研磨・切削剤。
【0026】
(5)以下の手段を備えてなる、砥粒とクーラントとを含む研削剤・研磨剤のスラリー廃液から、砥粒およびクーラントを回収する再生処理システム;
(i)二酸化炭素を超臨界流体にするための超臨界手段、
(ii)超臨界二酸化炭素流体と、スラリー廃液とを接触させて、クーラントを超臨界二酸化炭素流体に抽出する抽出手段、
(iii)クーラントを抽出した二酸化炭素流体から、二酸化炭素を気体にして、クーラント
と分別する気液分離手段、
(iv)クーラント抽出後の廃棄物を洗浄分別して、砥粒を回収する、砥粒回収手段。
【発明の効果】
【0027】
従来の方法で使用されていた、フィルタープレス等などの固液分離は効率が悪い(固形分にクーラント20〜30%残留)。また有機溶媒洗浄では危険のほか廃溶媒の処理、水洗浄では有機溶媒を含む排水という新たな環境負荷が発生する。このため、固液分離の悪い砥粒の再生には、有機溶媒や強酸や強アルカリを多く使わざるを得なく、これらの処理も新たな環境負荷を発生させている。
【0028】
これに対し、本発明の方法によれば、有機溶媒も、アルカリ・酸も使用することがない上、スラリー廃液から固形分以外のクーラントをそのまま抽出でき、また固形分への残存も極めて少なくすることができる。
【0029】
したがって、本発明によれば、シリコン切断時に発生するクーラントと砥粒を含む使用済みスラリー廃液からクーラントと砥粒を回収する経済的でかつ、環境に優しい方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0031】
スラリー廃液
本発明で処理される研磨・切削剤スラリー廃液は、ワイヤソーでシリコンなどを切断するときに使用される研削剤、切断された基板表面を研磨する際に使用される研磨剤を回収したものである。また、シリコンウェハーなどの表面研磨する際に使用される、研磨剤ペーストの廃棄物も、本発明で処理される廃棄物に含まれる。したがって、廃液は、スラリーは液状のものであっても、ペースト状のものであってもよい。
【0032】
これらのスラリー廃液中には、研削剤、研磨剤として使用されていた砥粒、クーラント、が含まれている。
【0033】
砥粒としては、微粒アルミナ、コロイダルシリカ、炭化ケイ素、酸化セリウム、酸化ケイ素、ボロンカーバイド、ボロンナイトライド、酸化ジルコニウム、微粒ダイヤモンド、微粒サファイヤから選ばれる少なくとも1種の材料である。これらの粒径、形状は、研磨、研削の目的に応じて適宜選択される。
【0034】
クーラントとしては、鉱物油などの油系クーラント(鉱物油等)や水系クーラント(ポリ水溶性グリコール類、アミン類等)や潤滑剤などが挙げられ、これらは、分散剤、摩耗抑制剤、および冷却剤などとして機能する。またクーラントには、界面活性剤、水や溶剤が含まれていることもある。
【0035】
研削剤、研磨剤では、これらの砥粒は通常、クーラント、潤滑剤に分散されている。
【0036】
このスラリー廃液には、前記砥粒などのほかに、シリコンなどの切削屑、研磨屑、ワイヤソーに由来する鉄粉、さらには破壊された砥粒のかけらも固形分として含まれている。
【0037】
スラリー廃液の組成として、シリコンウェハーの切削を行った場合、一般的には、SiC砥粒50〜55W%、クーラント30〜35W%、Si屑10%、他Fe屑などとなる。
【0038】
超臨界二酸化炭素流体
二酸化炭素は気液共存臨界点31.17℃、7.386MPaを越えると超臨界流体になる。この超臨界流体は、液体でも気体でもある状態であり、密度は液体に近く、拡散係数が液体に比べて著しく高く、さらには、洗浄溶媒として極めて優れた特徴を有している。超臨界二酸化炭素流体は無極性、弱極性油脂などを溶解でき、溶解力は温度・圧力で細かく条件設定できる。また洗浄終了後は減圧のみで二酸化炭素が気化・除去できるためドライプロセスに好適であるとともに、二酸化炭素は、前記条件下で加熱・加圧することで超臨界流体として再利用も可能である。
【0039】
研磨・切削剤スラリー廃液の再生処理方法
本発明では、前記研磨・切削剤スラリー廃液を、かかる超臨界二酸化炭素流体と接触させ、該スラリー中のクーラントを二酸化炭素流体に溶解抽出させる。
【0040】
超臨界二酸化炭素流体には、スラリー中のクーラントは溶解するが、固形分(砥粒、切削屑、鉄粉)は溶解しないので、固液分離ができる。
【0041】
なお、油系クーラントを抽出する場合、臨界点を少し超えた温度で高圧に行くほど効率が高くなる。この場合、超臨界二酸化炭素の溶媒効果で抽出される。
【0042】
一方、水系クーラントを抽出する場合、高温に行くほど、高圧に行くほど効率が高くなる。この場合、超臨界二酸化炭素の溶媒効果は少なく、温度効果の溶解力で抽出される。
【0043】
いずれの場合もスラリーと超臨界二酸化炭素の接触効率が良いほど抽出時間は短くできる。
【0044】
超臨界二酸化炭素流体は、メッシュフィルターなどを通して、流体に混ざった固形分の取り除いたのち、減圧する(たとえば大気圧に戻す)ことによって、二酸化炭素気体とクーラントに分離される。
【0045】
超臨界二酸化炭素は高拡散、高浸透性を有しているので微細構造への進入が容易であり抽出効率が良い。通常廃液中の溶解成分のうち98重量%以上が回収される。またドライプロセスなので抽出されたクーラントは変性もない。
【0046】
回収されたクーラントは、二酸化炭素の残留もなく、特に不純物も含まれていないので、そのまま研磨剤、研削剤に使用でき、また必要に応じて、濃度を調整したり、バージンのクーラントを添加してもよい。
【0047】
他方で、廃スラリーを固液分離させて得られた固形分から、砥粒としての有効成分を回収する。残った固形物中におけるクーラントの残留も非常に少なくなっている。これが固形物の洗浄分別を容易にしており、かつ洗浄液のトータル使用量の低減にも寄与している。
【0048】
超臨界二酸化炭素流体で分離された固形物(砥粒及びSi切粉、Fe屑)は油系スラリー固形物では希薄なアルカリ水溶液、希薄ノニオン界面活性剤水溶液、アルコール類など、水系スラリー固形物では水の中で超音波を照射すると比重の軽いSi切粉や微少な砥粒(砕けた砥粒)やFe屑は水溶液中に混濁浮遊する。超音波としては特に制限されるものではなく、通常、60℃、45KHz程度の出力のものであればよいが、特に制限されない。
【0049】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられ、
アルカリ濃度は2重量%以下、好ましく0.5〜1重量%の範囲にあることが望ましい。
【0050】
ノニオン活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテルサルフェートソーダ塩、アルキルグリコシド、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。ノニオン活性剤の濃度は、2重量%以下、好ましく0.5〜1重量%の範囲
にあることが望ましい。
【0051】
砥粒は重たいので、下層に沈降し、上層には、切削屑、Fe屑、砥粒のかけらなどが分散している。この混濁した上層の水層を捨てる。また水層には磁石を浸しておくとFe屑を回収除去できる。これを数回繰り返すと底部に、砥粒の沈殿のみが残る。これを必要に応じて、水でリンス洗浄して乾燥すれば新品同様の砥粒が回収できる。また洗浄時にフィルターなどで分級しながら行えば、砥粒の回収率を上げることができる。
【0052】
従来の遠心分離、フィルタープレス等でスラリー廃液を単に固液分離しただけでは、その固形物中に20〜30%のクーラントが残存し、それが原因で砥粒表面からSi屑などの切削屑を引き剥がすことが困難であった。これに対し、本発明では、クーラントがほとんど残留していないので、取り出した固形物の砥粒とSi屑などの切削屑との粘着は弱く、非常に簡単な処理で洗浄できる。
【0053】
砥粒およびクーラントの再利用システム
本発明の再利用システムは、以下の手段により、砥粒とクーラントとを含む研削剤・研磨剤のスラリー廃液から、砥粒およびクーラントを回収・再利用する。
(i)二酸化炭素を超臨界流体にするための超臨界手段、
(ii)超臨界二酸化炭素流体と、スラリー廃液とを接触させて、クーラントを超臨界二酸化炭素流体に抽出する抽出手段、
(iii)クーラントを抽出した二酸化炭素流体から、二酸化炭素を気体にして、クーラント
と分別する気液分離手段、
(iv)クーラント抽出後の廃棄物を洗浄分別して、砥粒を回収する、砥粒回収手段。
【0054】
このような再利用システムの概略図を図1に示す。
【0055】
本発明に係る再利用システムは、廃スラリーが貯蔵された原料タンク3、廃スラリーと超臨界二酸化炭素流体とを混合してクーラントを抽出する抽出槽5、超臨界流体を減圧してクーラントと二酸化炭素ガスとを分離する気液分離槽6および回収された二酸化炭素を超臨界状態に維持するための圧縮・加熱器4を備える。超臨界二酸化炭素流体は超臨界状態を維持できる程度の圧力で圧送され、通常逆止め弁(図示せず)によって、逆流しないようになっている。抽出槽5に、超臨界二酸化炭素流体を供給する際には、フィルタを介して、超臨界工程で二酸化炭素流体に含有された固形不純物を除去してもよい。
【0056】
各槽への送給は、逆止め弁を備えた送給ポンプによって配管を介して行われる。
【0057】
抽出槽での超臨界二酸化炭素流体とスラリー廃液との接触は特に制限されるものではないが接触効率を上げる工夫が必要である。例えば撹拌や噴霧による供給などが望ましい。超臨界二酸化炭素流体にクーラントが溶解し、抽出槽5より排出される。
【0058】
排出された回収超臨界二酸化炭素流体は、必要に応じて、フィルタによって、固形物不純物が捕集されたのち、熱交換器や冷却器で冷却し、気液分離槽6内で減圧(通常大気圧下)して、二酸化炭素気体と回収抽出液とに分離される。
【0059】
回収された二酸化炭素は必要に応じて、凝縮・圧縮・加熱器4によって、超臨界状態の流体にして、再利用される。
【0060】
本発明の再生システムによれば、抽出槽5に廃スラリー中の固形分、すなわち、砥粒、
切削屑、鉄粉が残る。抽出槽5中の固形分は、経時的に取り出すことも可能であるが、本発明にかかる再生システムでは、加圧下で連続的に運転されているため、圧損を抑制するため逐次的に、ある程度溜まった段階で、回収することが望ましい。
【0061】
回収された固形分は、上記したような分別操作、すなわち水分散させた後、沈降分離によって、砥粒と切削屑・鉄粉とに分別される。さらに砥粒の大きさに応じて、篩分けしてもよい。さらにまた、抽出槽5内や沈降分離する際に磁石を載置すれば、鉄粉を分別することも可能である。
【0062】
分別された砥粒と回収されたクーラントを混合すれば研削剤、研磨剤を再生することが可能となる。このような再生システムよれば、廃棄されるものは、切削屑、鉄粉、および砥粒の破片であり、従来に比べて廃棄物が少ない。またクーラント、砥粒のいずれも再利用することができる。
【0063】
上記システムで使用される各槽・配管等の装置は、高圧の二酸化炭素が溶媒であるので、高圧設備になり高圧ガス保安法に準拠した設計・運用が必須となる。また上記システムで使用される各槽・配管の大きさは処理量、目的に応じて適宜選択される。
【0064】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0065】
実施例1
第一工程/固液分離工程
シリコン切断の油系スラリー廃液(固形物59wt%、油41wt%)26gを35℃、34MPa、二酸化炭素供給量3リットル/分の条件で超臨界二酸化炭素流体抽出を行う。抽出された油は10.2g、抽出器に残った固形物は15.6g。その固形分の残留油分は4.2%((油/固形分)×100%)とほぼ完全に固液分離できた。
【0066】
実施例2
第一工程/固液分離工程
シリコン切断の油系スラリー廃液(固形物67wt%、油33wt%)26gを33℃、20MPa、二酸化炭素供給量3リットル/分の条件で超臨界二酸化炭素流体抽出を行う。抽出された油は8.5g、抽出器に残った固形物は17.4g。その固形分の残留油分は2.7%((油/固形分)×100%)とほぼ完全に固液分離できた。
【0067】
実施例3
第一工程/固液分離工程
シリコン切断の水系スラリー廃液(固形物58wt%、水系クーラント42wt%)25gを150℃、40MPa、二酸化炭素供給量3リットル/分の条件で超臨界二酸化炭素流体抽出を行う。抽出された油は10g、抽出器に残った固形物は14.1g。その固形分の残留油分は5.1%((油/固形分)×100%)とほぼ完全に固液分離できた。
【0068】
実施例4
第二工程/砥粒再生工程
実施例1において、固液分離工程後、抽出器に残った固形分を15gビーカーに採取する。これに500mlの1%ポリオキシエチレンノニルエーテルサルフェートソーダ塩水溶液を入れ、60℃で45KHzの超音波を照射する。このとき、混濁した水層を廃棄する。この操作を3回繰り返す。なお、かかる操作時には、水層に磁石を浸しておく。さらに水のリンス洗浄を2回繰り返す。ビーカーの底に鶯色のSiC砥粒が沈殿する。
【0069】
回収された砥粒は7.1gであり、新品同様の砥粒であった。
【0070】
回収された砥粒の電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。
【0071】
回収された砥粒は、外観から、SiC特有の鶯色をしており、さらに、SEM写真から、得られた砥粒表面には切削屑は何ら付着していなかった。
【0072】
回収された砥粒の粒度分布を図3に示す。シャープな分布を示していた。なお、粒度分布はレーザー回折式粒度分布測定装置にって測定した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係るスラリー廃液から、砥粒およびクーラントを回収・再利用する再利用システムの概略図を示す。
【図2】実施例4で回収した砥粒の外観を示す写真を示す。
【図3】実施例4で回収した砥粒の粒度分布を示す。
【符号の説明】
【0074】
3…原料タンク
4…圧縮・加熱器
5…抽出槽
6…気液分離槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クーラントと砥粒を含む使用済み研磨・切削剤スラリー廃液を、
超臨界二酸化炭素流体と接触させ、
該スラリー中のクーラントを二酸化炭素流体に溶解抽出させたのち、
該流体中の二酸化炭素を超臨界状態から気体状態として分離し、クーラントを回収することを特徴とする研磨・切削剤スラリー廃液の再生処理方法。
【請求項2】
クーラントと砥粒を含む使用済み研磨・切削剤スラリー廃液を、
超臨界二酸化炭素流体と接触させ、
該スラリー中のクーラントを二酸化炭素流体に溶解抽出させて、固形物と分離したのち、
(i)該流体中の二酸化炭素を超臨界状態から気体状態として分離し、クーラントを回収し

(ii)固形物を希アルカリ水溶液または希ノニオン界面活性剤水溶液中または水中で、超音波照射して、砥粒のみを分離回収すること
を特徴とする研磨・切削剤スラリー廃液の再生処理方法。
【請求項3】
気体状態にした二酸化炭素を再度超臨界状態として、再利用することを特徴とする請求項1または2に記載の研磨・切削剤スラリー廃液の再生処理方法。
【請求項4】
前記請求項2の再生処理方法で回収されたクーラントおよび砥粒を含んでなる研磨・切削剤。
【請求項5】
以下(i)〜(iv)の手段を備えてなる、砥粒とクーラントとを含む研削剤・研磨剤のスラ
リー廃液から、砥粒およびクーラントを回収する再生処理システム;
(i)二酸化炭素を超臨界流体にするための超臨界手段、
(ii)超臨界二酸化炭素流体と、スラリー廃液とを接触させて、クーラントを超臨界二酸化炭素流体に抽出する抽出手段、
(iii)クーラントを抽出した二酸化炭素流体から、二酸化炭素を気体にして、クーラント
と分別する気液分離手段、
(iv)クーラント抽出後の廃棄物を洗浄分別して、砥粒を回収する、砥粒回収手段。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−315099(P2006−315099A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137615(P2005−137615)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(300046821)三徳化学工業株式会社 (9)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】