説明

シリコーン樹脂と有機樹脂のハイブリッド複合材

各層に樹脂が含浸されている複数の層を有する繊維強化複合材。前記層は、付加硬化型シリコーン樹脂の層と有機樹脂の層とを組み合わせて含む。前記層は、前記付加硬化型シリコーン樹脂単体よりも昇温状態で高いモジュラス保持性(modulus retention)を有するハイブリッド複合材を形成する。該ハイブリッド複合材の物理的特性は、前記有機樹脂複合材に類似しているが、それよりも高い熱抵抗性と低い発炎燃焼性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂系複合材に関する。詳しくは、本発明は、硬質シリコーンマトリクス樹脂と有機樹脂とを有する樹脂複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化シリコーンマトリクス樹脂複合材は、非構造、半構造及び構造複合材として多くの用途を有する。繊維強化は、しばしば、グラスファイバー織物(woven fiberglass fabric)の形態をとる。織カーボンファイバーマットは、高モジュラス強化媒材を提供するが、それらはグラスファイバーよりも高価である。アラミド、ナイロン、ポリエステル、クオーツファイバー等のその他の繊維組成物も使用可能である。不織マットやルーズな繊維の層等のその他の繊維構造もシリコーン樹脂系複合材用途において使用することができる。
【0003】
複合材用途用として多種のシリコーンマトリクス樹脂が利用可能である。そのような樹脂は、通常、硬化状態において、高度に架橋されたポリマー分子である。それは、かなり良好な弾性率を示す実質的に硬質な材料である。
【0004】
これらの、複層積層構造の、繊維強化シリコーンマトリクス樹脂複合材は、高強度で耐火性を有し、飛行機や船舶の内部等に利用されている。それらは、又、低誘電率、低誘電散逸及び低水分吸収率を必要とする、配線盤やプリント配線回路基板等の電気用途にも使用されている。
【0005】
シルセスキオキサン樹脂は、輸送(自動車、航空、海運)及びその他の産業における産業用途で益々使用されるようになっている。シルセスキオキサン樹脂は、極めて優れた耐熱及び耐火性、並びに、更にそのような用途において望ましい低発煙性と低煙毒とを示す。これらの特性によって、シルセスキオキサン樹脂は、電気積層材、自動車用コンポーネント、航空機の内部及び船舶の内部とデッキ用の繊維強化複合材として魅力的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複合材の分野において、優秀な火炎及び煙特性を示し、しかも、昇温状態でそれらの強度とモジュールとを保持するものが求められている。
【0007】
従って、本発明の課題は、昇温状態で強度とモジュールを保持し、同時に、高い耐熱性と低い発炎燃焼性と、更に、低い発煙/煙毒性をも示す複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
繊維強化複合材は、複数の層を有し、それぞれの層に樹脂が含浸されている。前記複数の層は、付加硬化型又は縮合硬化型シリコーン樹脂の層(単数又は複数)と有機樹脂の層(単数又は複数)とを組み合わせて含む。前記層は、前記シリコーン樹脂単体よりも昇温状態で高いモジュラス保持性(modulus retention)を有し、前記有機樹脂複合材に類似のその他の物理的特性を有するが、それよりも高い熱抵抗性と低い火炎燃焼性を示すハイブリッド複合材を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、複合構造を形成するために、有機樹脂と強化シリコーン樹脂との両方を有する繊維強化複合材に関する。強化シリコーン樹脂は、付加硬化型シリコーン樹脂と縮合硬化型シリコーン樹脂とを含む。好適な強化シリコーン樹脂は、一般に、硬化シルセスキオキサン樹脂を作製するのに使用されるヒドロシリル化反応硬化型組成物により構成される。好適な強化樹脂組成物は、(A)シルセスキオキサンコポリマー、(B)架橋剤としてのシラン又はシロキサンの混合物、(C)複合(compound)触媒、(D)オプションとしての反応抑制剤、及び(E)オプションとしての溶剤、を含む。
【0010】
成分(A)は、実験式RSiO(4−a−b−c)/2を有するユニットにより構成されるシルセスキオキサンコポリマーを含む。ここで、aはゼロ又は正の数、bはゼロ又は正の数、cはゼロ又は正の数、但し、0.8≦(a+b+c)≦3.0であり、成分(A)は、1分子当たり平均で少なくとも2つのR基を有し、各Rは、脂肪族不飽和を有する1価の炭化水素基から独立的に選択され、各Rは各Rは、独立的に、1価の炭化水素基と水素とから選択される。好ましくは、Rは、ビニル又はアリル等のアルケニル基である。通常、RとRは、アルキル基及びアリル基から成るグループから選択される非機能的な基(nonfunctional groups)である。適当なアルキル基は、メチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、そしてイソブチル基を含む。適当なアルキル基はフェニル基を含む。成分(A)用の適当なシルセスキオキサンコポリマーは、(PhSiO3/2.75(ViMeSiO1/2.25によって例示され、ここで、Phはフェニル基であり、Viはビニル基を表し、Meはメチル基を表す。
【0011】
成分(B)は、成分(A)のビニル基と架橋する水素化ケイ素官能基性を有するシラン又はシランおよび/又はシロキサンの混合物である。前記混合物に使用されるシラン又はシロキサンは、少なくとも二つのSi−H又は水素化ケイ素官能基性を有するべきであり、次の一般式で表すことができる。即ち、シランの場合、H、ここで、2≧a又はd≧1、2≧b又はc≧1、a+b=c+d=3、そしてR,R及びRは炭化水素、或いは
Siであり、ここで、a≧2でRとRとはシランの炭化水素である。
シロキサンの場合は、
Si(4c−a−b)/2であり、ここで、a≧2、b≧4、c≧2そしてRは炭化水素である。
【0012】
成分(A)及び(B)は、前記組成物に対して、不飽和基(C=C)に対するケイ素結合水素原子(SiH)のモル比(SiH:C=C)が、1.0:1.0〜1.5:1.0となるような量で添加される。好ましくは、前記比率は、1.1:1.0〜1.5:1.0の範囲である。もしもこの比率が1.0:1.0よりも低くなれば、硬化が不完全となることによって硬化シルセスキオキサン樹脂の特性が損なわれる。前記組成物中の成分(A)及び(B)の量は、1分子当たりのC=C及びSi−H基の数に応じたものとされる。しかし、成分(A)の量は、通常は、前記組成物の50〜90重量%であり、成分(B)の量は、通常は、前記組成物の2〜50重量%である。
【0013】
成分(C)は、ヒドロシリル化触媒である。通常、成分(C)は、前記組成物に対してこの組成物の重量ベースで1〜100ppmの白金を提供するのに十分な量が添加される白金触媒である。前記成分(C)は、塩化白金酸、アルコール溶液の塩化白金酸、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)白金(II)、塩化白金、酸化白金、オレフィン等の有機不飽和化合物を含む白金化合物の錯体(complex)や、Karstedts触媒(即ち、塩化白金酸と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン)、1,3−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、オルガノシロキサンを含む白金化合物の錯体等の不飽和炭化水素基を含むオルガノシロキサンを含む白金化合物の錯体、ここにおいて、錯体がオルガノシロキサン樹脂に埋め込まれている、等の白金触媒によって例示される。特に好適な触媒は、ペンシルバニア州ブリストルのケミカル・テクノロジー社(Chemical Technologies, Inc.)から市販されている1%の白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体である。
【0014】
成分(D)は、通常は、一部組成物が作製される時に添加される、オプションとしての触媒抑制剤を含むことができる。適当な抑制剤は、ここに触媒抑制剤を説明する目的で参考文献として合体する、1969年5月20日のKookootsedes et al.の米国特許第3,445,420号に開示されている。成分(D)は、好ましくは、メチルブチノール又はエチニルシクロヘキサノール等のアセチレン系アルコールである。成分(D)は、より好ましくは、エチニルシクロヘキサノールである。抑制剤のその他の具体例は、ジエチルマレイン酸、フマル酸ジエチル(diethyl fumamate)、ビス(2−メトキシ−1−メチルエチル)マレイン酸、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、エチレンネジアミン、ジフェニルホスフィン、ジフェニルホスファイト、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスホナイト、及びメチルジフェニルホスフィナイトを含む。
【0015】
成分(D)は、前記ヒドロシリル化反応硬化型組成物の0〜0.05重量%で含まれる。成分(D)は、通常、前記硬化型組成物の0.0001〜0.05重量%を占める。成分(D)は、好ましくは、前記硬化性組成物の総量の0.0005〜0.01重量%を占める。成分(D)は、より好ましくは、前記硬化性組成物の総量の0.001〜0.004重量%を占める。
【0016】
成分(A),(B),(C)及び(D)は、前記組成物の10〜99.9重量%である。前記組成物は、更に、当該技術において公知の、反応抑制剤、処理添加剤、又は、その他の成分等の単数又は複数種のオプション成分を含むことができる。
【0017】
成分(A),(B)及び(C)と、任意のオプション成分とを含む前記ヒドロシリル化反応硬化性組成物は、オプションとしての溶剤である成分(E)中で溶解可能である。通常、溶剤の量は、前記硬化型組成物の0〜90重量%、好ましくは、0〜50重量%である。前記溶剤は、メチル、エチル、イソプロピル、及びt−ブチルアルコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素;ヘプタン、ヘキサン、及びオクタン等の脂肪族炭化水素;プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコール n−ブチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル及びエチレングリコール n−ブチレンエーテル等のグリコールエーテル;ジクロロメタン;1,1,1−トリクロロエタン及び塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素;クロロフォルム;ジメチルスルホキシド;ジメチルフォルムアミド;アセトニトリル並びにテトラヒドロフランとすることができる。好適な溶剤はトルエンである。
【0018】
尚、任意のSi−H官能性架橋剤と混合されたシリコーン樹脂を繊維強化複合材のための連続相として使用可能であることが銘記される。そのような繊維強化材は、クオーツ、グラス、グラファイト等の任意の一般的な強化繊維を含むことができる。
【0019】
別実施例において、前記縮合反応硬化型シリコーン樹脂は、以下から成るグループから選択される有機シリコーン組成物を含む、
(I)実験式RSiO(4−a−b−c)/2の有機シリコーン樹脂、ここで、aは正の数値、b及びcはゼロ又は正の数値、但し、0.8≦(a+b+c)≦1.6である。R,R, Rは、水素、水酸基、アルキル、アルケニル、アルコキシ、オキシモ、アルキルオキシモ、アリルオキシモ、アリル、アルキルエポキシド、アリルエポキシド、アルキルカルボキシル、アリルカルボキシル、アルキルエーテル、アリルエーテル、アルキルアミド、アリルアミド、アルキルアミノ、及びアリルアミドラジカルから成るグループから独立的に選択される1価のラジカルである。
(II)(I)の加水分解可能前駆物質。
(III)(II)から形成される加水分解物。
【0020】
又、オプションとして、下記の実験式のシリコーンゴムも含ませることができる。即ち、(R(3−P)SiO1/2)(RSiO2/2−{(R(q−2)SiO2/2)(RSiO2/2}(R(3−p)SiO1/2)、ここで、Rは、アルキル及びアリルラジカルから成るグループから独立的に選択される1価のラジカルであり、各Rは、水素、水酸基、アルケニル、アルコキシ、オキシモ、アルキルオキシモ、アリルオキシモ、アルキルエポキシド、アリルエポキシド、アルキルカルボキシル、アリルカルボキシル、アルキルアミド、アリルアミド、アルキルアミノ、及びアリルアミノラジカルから成るグループから独立的に選択される1価のラジカルであり、pは、1,2又は3、qは、1又は2、xは6以上、そしてyは0〜10である。
【0021】
縮合硬化型用としては、錫、チタン及び亜鉛の金属エステル又はアルコキシドの全てが好適な触媒である。テトラブトキシドチタン、ジブチル錫ジラウレート及び亜鉛オクトアートが周知の具体例である。但し、錫触媒は、本発明の硬化ゴム変性硬質樹脂の熱安定性を低下させる傾向があり、高温用途用には避けるべきである。更に好適性は低いが、それでも使用可能であるのは、硫酸、リン酸、水酸化カリウム、水酸化セシウム、金属シラノラート、生石灰等の、強酸及び塩基である。これらの後者の触媒も同様に、硬化硬質シリコーン鋳造材の熱安定性について妥協できる。又、アミン及び金属炭酸塩及び4級塩基(quaternary bases)も使用可能である。当業者は、水酸化テトラメチルアンモニウム等のある種の4級塩基は、硬化温度にまで加熱された時に、分解して揮発性の副生成物になって、それにより、本発明のシリコーン樹脂/ゴムコポリマーマトリクスから容易に除去される、という利点を有するということを認識するであろう。
【0022】
本発明の複合材に使用されるのに適したタイプの有機樹脂は、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアン酸エステル樹脂、及びシリコーン樹脂、及び前記強化シリコーン樹脂よりも高いガラス遷移温度を有するシリコーン樹脂を含む。
【0023】
好適なビニルエステル樹脂は、Derkane Momentum(登録商標)の商品名で販売されており、これは、硬化剤としての、0.5重量%のベンゾイルペルオキシドと、0.06重量%のジエチルアニリンで硬化可能なエポキシビニルエステル樹脂であって、ダウ・ケミカル社から市販されている。
【0024】
本発明のよって使用される好適なエポキシ樹脂は、Novalac(登録商標)の商品名で販売されており、硬化剤としての35.5重量%のジアミノジフェニルスルホンによって硬化可能なエポキシ樹脂を含み、ダウ・ケミカル社から市販されている。
【0025】
好適なフェノール樹脂は、Cytec Engineered Materials社から市販されているフェノール樹脂/7781グラスファイバープレプレグ材を含む。
【0026】
好適な高ガラス遷移温度樹脂は、式(R1R2SiO1/20.15(R2SiO3/20.75(SiO4/20.10で例示され、ここでR1はビニル基、そしてR2はメチル基又はフェニル基である。SiO4/2のモル比率は5〜30%であり、R1R2SiO1/2の分子率は10〜30%であり、残りはRSiO3/2である。1好適実施例において、式(ViMeSiO1/20.15(PhSiO3/20.75(SiO4/20.10の樹脂が使用される。
【0027】
前記複合材の繊維成分は、通常は、その有利なコストと入手可能性により、ガラス又はカーボンであるが、その他の繊維強化材も多くの用途のために適している。例えば、クオーツファイバーとアラミド、ナイロンとポリエステルファイバーを使用することができる。グラスファイバー織物(woven fiberglass fabric)が、コストが重要な考慮事項である通常の用途のためには好適である。不織(non-woven)繊維マット及び疎な繊維層も適している。
【0028】
前記繊維強化材は、前記複合材のために必要な成分ではあるが、ある種又はタイプの繊維に限定されるものではない。本発明の好適態様において、Hexcel Schwebel社から市販されている7781ガラスファブリックが利用される。そのような織(woven)構造には前記樹脂が容易に含浸し、硬化して本発明の複合材を形成するのに適したプレプレグ材を形成するのに使用可能である。その他の形態及び繊維組成物も、本発明の基本戦略を変えることなく、使用することが可能である。
【0029】
種々の構造の層と前記樹脂を硬化させるための方法が本発明において利用可能である。本発明の複合材は、所望の特性を作り出すように配置された本発明の種々の樹脂を含浸させた複数の繊維層を含むことができる。種々の層構造は以下を含む。強化シリコーン層が複合材表面の外側に配置されるように強化シリコーンと有機層とを交互に配置すること、強化シリコーン樹脂の層で取り囲んで有機層のコアを形成すること、強化シリコーン樹脂の層で取り囲んで有機樹脂の層と硬化シリコーン樹脂の層とを交互に配置したコアを形成すること、又は、ハニカムから成るコアを形成し、このハニカムの両側に有機樹脂含浸層を形成すること。本発明の好適態様に使用される前記ハニカム構造は、アルミ等の金属、紙、ポリマー、又は、壁としての繊維強化ポリマーから形成することができる。ハニカム構造コアの他に、種々のセル構造、例えば、ランダム又は規則的に分散された球、を含むその他の軽量コアを使用することができる。六方構造を有するコアを含むコア構造が好適に使用される。
【0030】
前記有機及び強化シリコーン樹脂の個々の層の厚みと、数とを、互いに異ならせて、種々の複合構造を提供することができる。複合材にとって望ましい複合材の高い火炎抵抗と煙特性を提供するために、前記強化シリコーン樹脂を、好ましくは、複合材外側層として使用する。強化シリコーン樹脂は、強化シリコーン樹脂が予め含浸されたプレプレグ材の層とすることができ、又は、硬化又は未硬化の有機樹脂プレプレグ材の表面に塗布することができる。
【0031】
本発明の樹脂を繊維シートに塗布し、逐次的又は同時に硬化して、本発明の複合材を形成することが可能なプレプレグシートを形成することができる。例えば、同時硬化プロセスにおいて、4〜10の層、好ましくは6〜8の層の有機層のコアを有する複合材構造を、2〜8層の強化シリコーン層と1つの工程において硬化させて、本発明の複合材を形成することができる。或いは、逐次硬化プロセスにおいて、有機樹脂のコアを硬化させ、強化シリコーン樹脂の層をその硬化された有機コアの表面に対してシリコーン樹脂含有強化材を積層することによって、又は、硬化樹脂の表面への噴霧によって、設けることができる。その後、強化シリコーン樹脂を、硬化させて本発明の複合材を形成することができる。
【0032】

【0033】
以下の例は、当業者に対して本発明を例示することを意図するものであって、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0034】
参照例1
【0035】
三点曲げ試験
【0036】
ASTM基準D790−961によってInstron 4500に対して曲げ試験を行った。下記に記載の例において作製された硬化樹脂標本を、帯鋸を使用して、5.08cm × 1.27cmの標本にカットした。次に、これらの標本を、0.25cmの厚みに加工して研磨した。その後、これらの標本を、1mm/分のクロスヘッド速度で3.81cmの支持スパンを使用してテストした。
【0037】
試験中、力−変位曲線を記録した。硬化樹脂の靭性を、応力−ひずみ曲線の下方の面積として得た。曲げ強度を、ピーク力使用して下記のように計算した。
【0038】
S=3PL/2bd
【0039】
ここで、Sは中間スパンでの外側表面の応力、Pは最大荷重、Lは支持スパン、そしてbとdはそれぞれビームの幅と厚みである。最大ひずみを、最大変位使用して下記のように計算した。
【0040】
ε=6Dd/L
【0041】
ここで、εは破断時におけるひずみ、そしてDは最大変位である。荷重−変位曲線の最も勾配が急な最初の直線部分をヤング率とした。
【0042】
参照例2
【0043】
破壊靭性試験
【0044】
平面ひずみ破壊靭性KIcを、ASTM D 5045−96によって得て、臨界ひずみエネルギ放出率GIcを、リニア弾性破壊力学(LEFM)仮定に基づいてKIcから計算した。5.08cm × 0.95cmのサンプルを、帯鋸を使用してカットし、そのサンプルの中心にノッチをカットした。ノッチの根元から幅の約半分まで延出する自然亀裂を、シャープなレーザ刃をノッチ内に軽く打ち付けることによって作り出した。変形の完全な弛緩を許容するべく、試験前に、サンプルを、少なくとも24時間、73℃で調整した。試験の変位率は、3.81cmの支持スパンで10mm/分であった。
【0045】
Ic=(P/(BW1/2))f(x)
【0046】
ここで、Pは最大荷重であり、そして
【0047】
f(x)6x1/2(1.9−x(1−x)(2.15−3.93x+2.7x))/((1+2x)(1−x)3/2
【0048】
ここで、xは、標本幅比に対するプレクラック, a/W、である。試験後、亀裂長さを測定した。0.45〜0.55の値を有する標本のみを有効と見なした。厚みにおけるxの変動は、10%以下であるべきである。試験の有効性を、標本の寸法を、約50拡大した推定可塑領域寸法と比較することによって更に確認した。
【0049】
B,a,(W−a)>2.5(KIc/γ
【0050】
ここで、γは、サンプルの降伏応力である。
【0051】
Icは以下によって計算された、
【0052】
Ic=KIc(1−v)/E
【0053】
ここで、イプシロン、即ち、樹脂のポアソン比、は実験を単純化するために無視された。ポアソン比が0.3のガラス性ポリマーの場合、GIcは約9%強調された。しかし、ポアソン比の2乗の変化は、剛性が類似の樹脂間で通常は小さいことから、GIc値の相対的順位は不明瞭になることはないであろう。
【0054】
参照例3
【0055】
動的機械分析
【0056】
動的機械分析を、TA インスツルメント DMA 2980上で行った。長さ20mm、幅4mm、厚み1mmの標本を、14mm離した2つのグリップに取り付けた。次に、この標本に、1ヘルツの周波数の正弦波引っ張り変位を加えた。張力を測定し、貯蔵(storage)及び損失(loss)モジュラスおよび損失ファクタを計算した。これらの試験は、−150〜400℃の範囲の温度で行われた。全ての試験は、200ml/分のガス流率での窒素環境で行われた。
【0057】
例1
【0058】
種々の複合材構造を、本明細書の上記記載に従って作製した。具体的には、表1にリストされている2672及び233T樹脂等の強化シリコーン樹脂を、表1にリストされている、ビニルエステル、エポキシ樹脂等の種々の有機樹脂と組み合わせて使用した。これら有機樹脂の種々の特性が表2にリストされている。
【0059】
この例に使用される付加硬化型シリコーン樹脂は、種々の架橋剤と架橋された、式(PhSiO3/20.75(ViMeSiO1/20.25のシルセスキオキサン樹脂を含み、縮合硬化型シリコーン樹脂は、平均重合度55の10重量%のポリジメチルシロキサンの分子取り込みによって強化された、式(MeSiO3/20.40(PhSiO3/20.45(PhMeSiO)0.05(PhSiO)0.1の樹脂を含む。
【0060】
異なる温度での試験用に、強化シリコーン樹脂と有機樹脂との種々の層構造を準備した。複合材は、種々の樹脂のプレプレグを準備して積層し、その後同時に硬化して作製、又は、強化シリコーン樹脂を硬化された有機構造に塗布し、その後硬化して逐次に作製された。これらの例のプレプレグは、上述した7781グラスファイバーファブリックであり、これらに適当な有機又は強化シリコーン樹脂が含浸される。
【0061】
前記付加硬化型シリコーン樹脂と、シアン酸エステルの有機樹脂とを有する複合材の同時及び逐次硬化のための硬化サイクルの一例は以下の通りである。第1ハイブリッド積層材は、硬化クオーツ/硬質シリコーン積層材になる同時硬化型クオーツ/シアン酸エステル(CE−3)プレプレグから成る。作製された第2ハイブリッド積層材は、硬化クオーツ/CE−3積層材にスプレーした強靭硬質シリコーン樹脂の薄い層から成る。この付加硬化型シリコーン樹脂が使用された。
【0062】
前記第1ハイブリッド積層材を作るために、製造されたクオーツ/強化硬質シリコーン積層材の一部を使用した。COI−Materials社の4積層の4581 Astroquartz III/CE−3プレプレグを、硬化した積層材上に載置し、室温で真空状態で30分間圧縮した。次に、この積層材を、2つの開放(released)アルミニウムプレート間に置き、シールした。次に、積層材を以下のように袋詰した。
・ ナイロン真空バッグ
・ ポリエステルクロスブリーザー
・ フッ化エチレンポリプロピレン リリースフィルム
・ 開放アルミニウムプレート
・ ハイブリッド積層材
・ 開放アルミニウムプレート
・ テトラフルオロエチレンコーティンググラスファイバークロス(Armalon)
・ ステンレス鋼工具
【0063】
前記積層材の硬化は以下のように行われた。
・ バッグ漏れチェック
・ 5分間で3インチのHg損失を超えない漏れ率
・ 硬化中に完全システム真空とする
・ 100+/−10psiの圧力を加える
・ 華氏5−7°/分で華氏350±5°への傾斜部温度
・ 120分間±5分、華氏350±5°で休止
・ 大気圧へ真空を解除
・ 圧力解除
・ 部分温度が華氏150°以下に到達するまで最大華氏7°/分で冷却
・ 硬化を終了
【0064】
前記第1ハイブリッド積層材を視覚検査したが、強靭硬質シリコーンとシアン酸エステル樹脂との層の間に目立つ結合破壊は見られなかった。
【0065】
前記第2ハイブリッド積層材を、Brtye Technologies, Inc.社の硬化4503 Astroquartz III/BTCy−1A CE 積層材を使用して作製した。複数の4インチx4インチのサンプルを加工し、これらを平坦なアルミニウムプレートに折り返して付着させた(double back taped)。1つのサンプルを、強靭硬質シリコーン樹脂無しの基準積層材としてとっておいた。シリコーン樹脂を、100グラムの樹脂当たり1グラムの触媒と混合した。樹脂を、次に、25重量%のトルエンで希釈した。この混合物を、標準タッチアップガンに装填し、各積層材に対して均等のコーティングで噴霧した。各噴霧パスの完了時に、最後の積層材が残るまで積層材をアルミニウムプレートから除去した。その結果、最後の積層材は、最も多い樹脂を備えるサンプルとなった。樹脂が噴霧されたすべての積層材を、オーブンの中に、華氏350°(摂氏177°)で3時間置いた。硬化後、シリコーン樹脂が十分に硬化し、シアン酸エステルの樹脂に良好に付着していることがわかる。表面亀裂や微小亀裂は見当たらない。
【0066】
二つの代表的方法、同時硬化法と逐次硬化法、によってビニルエステル/シリコーン樹脂ハイブリッド積層材を作製した。これらの同時硬化法と逐次硬化法については既に説明した。シリコーン樹脂とビニルエステル樹脂とが含浸された強化繊維を、設計パターンと、選択された硬化法とに従って積層する。次に、この積層されたプレプレグを、真空バッグ内に封入し、完全真空状態にする。固めを更に良好にするために、これを室温で繰り返すことができる。全てのプレプレグが積層された状態で、完全真空状態にし、これを硬化プロセスを通じて維持する。両方の方法での最終硬化温度は、200℃である。硬化の最初の段階中に、それを過度に搾り出すことなく、良好な樹脂流を達成するために外圧をゆっくりと増加させることが必要であろう。前記複合材サンプルの機械試験結果を表3〜7と図1に示す。表3は、その第1欄において、使用した強化シリコーン樹脂と有機樹脂、更に、その試験温度をリストしている。この欄において、室温以外の試験温度は特定されている。記載の欄では、各樹脂の層の数、更に、使用された硬化のタイプ、即ち、同時又は逐次、が記載されている。表4は、種々の温度に於ける、ビニルエステル樹脂複合材と付加硬化型シリコーン樹脂複合材との物理的特性を記載している。表5は、種々の複合材の短ビームせん断強度の詳細を記載している。表6及び表7は、複合材料の発炎燃焼特性を詳述している。図1は、本発明の種々の複合材の、温度の関数としてのモジュラスのプロットである。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3−1】

【表3−2】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
【表7】

【0074】
上記各表の物理的特性の比較から理解できるように、本発明の複合材は、シリコーン樹脂自身と比較して、昇温状態においてより良好なモジュラス保持性を有する。そして予想外のことに、そのモジュラス保持性は、有機樹脂自身よりも更に良好である。短ビームせん断強度でも類似の傾向が観察される。反復実験によって、そのような予想外の相乗効果が確認される。同時硬化複合材は、境界面における二つの樹脂間の反応がより効果的であることにより、逐次硬化積層材よりもより良好な強度とモジュラスの保持性を示した。
【0075】
表6及び7を参照すると、前記複合材の発煙燃焼性は、ピーク熱放出率、平均熱放出率、及び平均特異的消火領域によって示される発煙とにおいて、有機樹脂複合材よりも良好である。
【0076】
ここに好適実施例を開示したが、当業者は、本発明の範囲内において種々の改変が可能であると理解するであろう。従って、本発明の真の範囲及び内容を決定するためには特許請求の範囲に記載の発明を研究すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】昇温状態での積層材のモジュラス保持性を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各層に樹脂が含浸されている複数の繊維層を有し、
前記複数の層は、強化又は未強化シリコーン樹脂の層と、有機樹脂の層とを組み合わせて含み、付加硬化型シリコーン樹脂単体を使用した複合材よりも、昇温状態でのモジュラス保持性が高いハイブリッド複合材を形成する繊維強化複合材。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂が、以下を含むヒドロシリル化反応硬化型組成物を含む強化シリコーン樹脂を含む請求項1に記載の繊維強化複合材,
(a)シルセスキオキサンポリマー
(b)シランおよび/又はシロキサン架橋化合物の混合物、そして
(c)ヒドロシリル化反応触媒。
【請求項3】
前記シルセスキオキサンポリマーが、コポリマー樹脂を含む請求項2に記載の繊維強化複合材。
【請求項4】
前記コポリマー樹脂が、実験式RSiO(4−a−b−c)/2を有するコポリマー樹脂を含み、ここで、aはゼロ又は正の数、bはゼロ又は正の数、cはゼロ又は正の数、但し、0.8≦(a+b+c)≦3.0であり、成分(A)は、1分子当たり平均で少なくとも2つのR基を有し、各Rは、脂肪族不飽和を有する1価の炭化水素基から独立的に選択され、各Rは各Rは、1価の炭化水素基と水素とから独立的に選択される請求項3に記載の繊維強化複合材。
【請求項5】
前記シルセスキオキサン樹脂が、(PhSiO3/2.75(ViMeSiO1/2.25を含み、ここで、Phはフェニル基、Viはビニル基を表し、Meはメチル基を表す請求項4に記載の繊維強化複合材。
【請求項6】
前記架橋化合物の混合物が、少なくとも二つの水素化ケイ素官能基性を有するシラン又はシロキサンから形成されている請求項2に記載の繊維強化複合材。
【請求項7】
前記複数の繊維層が、アラミド樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、カーボン、ガラス又はクオーツから成るグループから選択される材料の繊維の織物を含む請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項8】
前記有機樹脂が、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアン酸エステル樹脂、及びシリコーン樹脂、及び前記強化シリコーン樹脂よりも高いガラス遷移温度を有するシリコーン樹脂から成るグループから選択される請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項9】
前記複合材が、前記シリコーン樹脂の層と前記有機樹脂の層との交互層を含む請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項10】
前記シリコーン層が、前記複合材の外側層を含む請求項9に記載の繊維強化複合材。
【請求項11】
前記複合材が、シリコーン樹脂層のシェルによって取り囲まれた有機樹脂層のコアを含む請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項12】
前記複合材が、シリコーン樹脂層のシェルによって取り囲まれた、有機層とシリコーン層との交互層のコアを含む請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項13】
前記複合材が、有機及びシリコーン樹脂層によって取り囲まれた、ハニカムのコアを含む請求項1に記載の繊維強化複合材。
【請求項14】
前記シリコーン樹脂は、以下から成るグループから選択される有機シリコーン組成物を含む縮合反応硬化型組成物を含む請求項1に記載の繊維強化複合材,
(I)実験式RSiO(4−a−b−c)/2の有機シリコーン樹脂、ここで、aは正の数値、b及びcはゼロ又は正の数値であり、但し、0.8≦(a+b+c)≦1.6であり、R,R,Rは、水素、水酸基、アルキル、アルケニル、アルコキシ、オキシモ、アルキルオキシモ、アリルオキシモ、アリル、アルキルエポキシド、アリルエポキシド、アルキルカルボキシル、アリルカルボキシル、アルキルエーテル、アリルエーテル、アルキルアミド、アリルアミド、アルキルアミノ、及びアリルアミノラジカルから成るグループから独立的に選択される1価のラジカル、そして
(II)(I)の加水分解可能前駆物質、そして
(III)(II)から形成される加水分解物。
【請求項15】
更に、実験式(R(3−P)SiO1/2)(RSiO2/2−{(R(q−2)SiO2/2)(RSiO2/2}(R(3−p)SiO1/2)を有するシリコーンゴムを含み、
ここで、各Rは、アルキル及びアリルラジカルから成るグループから独立的に選択される1価のラジカルであり、各Rは、水素、水酸基、アルケニル、アルコキシ、オキシモ、アルキルオキシモ、アリルオキシモ、アルキルエポキシド、アリルエポキシド、アルキルカルボキシル、アリルカルボキシル、アルキルアミド、アリルアミド、アルキルアミノ、及びアリルアミノラジカルから成るグループから独立的に選択される1価のラジカルであり、pは、1,2又は3、qは、1又は2、xは6以上、そしてyは0〜10である請求項14に記載の繊維強化複合材。

【図1】
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【公表番号】特表2006−518798(P2006−518798A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503705(P2006−503705)
【出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/004900
【国際公開番号】WO2004/076175
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【出願人】(505318949)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (2)
【Fターム(参考)】