説明

シリンジポンプ

【課題】装置を分解せずに必要な洗浄・滅菌ができるシリンジポンプを提供する。
【解決手段】中空のシリンジ1内に円筒形のプランジャ2を挿嵌し、プランジャ2と一体のロッド部3をボールネジ(不図示)でピストン運動させてシリンジ1の吸引・吐出孔11から材料aを吸引・吐出する。シリンジ1は、吸引・吐出孔11の反対側にプランジャ2側面を開放する空室(膨大部)を設けてシリンジ上部Aとそれより大径のシリンジ下部Bに区分し、シリンジ上部Aにおいて材料aを充填し、シリンジ下部Bの空室においてここに移動したプランジャ2を洗浄・滅菌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出材料を計量する容積計量室(シリンジ)と、計量室から材料を押し出すプランジャ(ピストン)を有し、プランジャの押し出し量を制御して材料を定量吐出するためのシリンジポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の生産分野では、シリンジポンプは繰り返し使用するため頻繁に洗浄・滅菌する必要があるが、従来の洗浄・滅菌方法は材料吐出後に、まず、図8(a)に示すように、プランジャ2を引き下げて吸引・吐出孔11から洗浄液または蒸気を吸引し、シリンジ1内に洗浄液または蒸気を充填する。
次に、図8(b)に示すように、プランジャ2を押し上げて吸引・吐出孔11から洗浄液または蒸気を排出する。
この方法ではシリンジ1内面とプランジャ2頂面は洗浄・滅菌されるが、シリンジ1に接触するプランジャ2の側面は洗浄・滅菌できなかった。そのためプランジャ2の側面を洗浄・滅菌するには装置を分解する必要があった。
【0003】
プランジャ2側面を洗浄・滅菌する方法として、例えば特許文献1には、図9に示すように、シリンジ1の内部空間を仕切部材9により前方室Cと後方室Dに区切り、前方室Cに材料を充填する一方、後方室Dに洗浄液または蒸気を流してプランジャ2側面を洗浄・滅菌する方法が開示されている。
しかしこの方法ではシリンジ1がプランジャ2より大径になるため、シリンジ1とプランジャ2の間に隙間ができ、全ての材料が完全に吐出されず、シリンジ1内に材料が残留するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−287831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は以上のような点であり、本発明は装置を分解せずに必要な洗浄・滅菌ができるシリンジポンプを提供することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリンジの液出入側と反対側に当該シリンジと同軸でその内径よりも大きい空室を連接し、洗浄・滅菌時にプランジャを前記空室に移動することを非分解で最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、シリンジの液出入側と反対側に設けた空室にプランジャを移動して洗浄・滅菌するのでプランジャとシリンジの接触面であるプランジャ側面が開放され、従来は装置を分解して行っていたプランジャ側面の洗浄・滅菌が分解しないで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を実施したシリンジポンプの構成図である。
【図2】本発明を実施したシリンジポンプの下部を拡大した断面図である。
【図3】通常吸引・吐出動作の説明図である。
【図4】洗浄動作1の説明図である。
【図5】洗浄動作2の説明図である。
【図6】滅菌動作1の説明図である。
【図7】滅菌動作2の説明図である。
【図8】従来の洗浄・滅菌方法の説明図である。
【図9】特許文献1におけるシリンジポンプの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお図面との関係で、上部や下部などの用語を使用して分かり易くしたが、これらの用語は上下の位置関係を限定するものではない。
【0010】
図1に、本発明を実施したシリンジポンプの構成図を示す。
シリンジポンプ1は、中空のシリンジA内に円柱形のプランジャ2を挿嵌し、プランジャ2と一体のロッド部3をボールネジ(不図示)でピストン運動させてシリンジAの吸引・吐出孔11から材料aを吸引・吐出する。
シリンジAには、吸引・吐出孔11の反対側にプランジャ2側面を開放する空室Bを設けてシリンジAとそれより大径の空室Bに区分し、シリンジAにおいて材料aを充填し、空室Bにおいてここに移動したプランジャ2を洗浄・滅菌する。
【0011】
シリンジAの頂面には吸引・吐出孔11を穿ち、吸引・吐出孔11にT字配管4の合流部を接続する。
T字配管4の枝部は、始端に材料a、洗浄液b、滅菌用蒸気cを供給するポートP1を備え、終端に材料aを吐出し、洗浄液b、滅菌用蒸気cを排出するポートP2を備える。
ポートP1、P2は、それぞれ磁弁V1、V2を介してT字配管4の合流部に接続する。
【0012】
空室Bの側面には供給孔12と排出孔13を穿ち、供給孔12と排出孔13にそれぞれ供給配管5、排出配管6を接続する。
供給配管5は始端に洗浄液bを供給するポートP3を備え、排出配管6は終端に滅菌用蒸気cを排出するポートP4を備える。
ポートP3、P4は、それぞれ磁弁V3、V4を介して空室Bに接続する。
【0013】
電磁弁V1は、これを開けることでポートP1からシリンジA内へ材料aを吸引し、洗浄液b、滅菌用蒸気cを流し込む。
電磁弁V2は、これを開けることでシリンジA内からポートP2へ材料aを吐出し、洗浄液b、滅菌用蒸気cを排出する。
電磁弁V3は、これを開けることでポートP3からシリンジA内へ洗浄液bを流し込む。
電磁弁V4は、これを開けることでシリンジ1内からポートP4へ滅菌用蒸気cを排出する。
【0014】
図2に、本発明を実施したシリンジポンプの下部を拡大した断面図を示す。
シリンジポンプは、プランジャ2のストローク切換手段を備え、通常動作では下死点が、図2(a)に示すように、シリンジAの最下点となり、洗浄・滅菌時は下死点が、図2(b)に示すように、空室Bの最下点に移動する。
洗浄・滅菌時はこのようにプランジャ2を空室Bの広い空間内に移動させることでプランジャ2の頂面と側面が開放され、プランジャ2の全体を洗浄・滅菌できる。
なお、プランジャ2にはプランジャリング7を嵌めてシリンジAの内周面とプランジャ2の外周面を摺動自在にシールする。
また、シリンジ下部B底面の貫通孔14にはOリング8を設けて貫通孔14の内周面とプランジャロッド部3の外周面を摺動自在にシールする。
また、シリンジAと空室Bとの境界部では、シリンジAの開口部周縁をアールもしくはテーパー状に形成してシリンジAへのプランジャ2の再挿入を容易にする。
【0015】
次に動作を説明する。
(1)通常吸引・吐出動作
まず、プランジャ2がシリンジAの上死点にある状態で電磁弁V1、V4を開き、電磁弁V2、V3を閉じる。
次に、プランジャ2を下げてポートP1から材料aを吸引し、シリンジA内に充填する(図3(a)参照)。
次に、プランジャ2がシリンジAの下死点に達したら電磁弁V1、V4を閉じ、電磁弁V2、V3を開く。
次に、プランジャ2を上昇させてポートP2から材料aを吐出する(図3(b)参照)。
【0016】
(2)洗浄動作1(電磁弁V1−V2間)
まず、プランジャ2がシリンジAの上死点にある状態で電磁弁V1、V2を開き、電磁弁V3、V4を閉じる。
次に、ポートP1からシリンジ1内へ洗浄液bを圧送し、電磁弁V1−V2間の配管内を洗浄してポートP2より洗浄液bを排出する(図4参照)。
【0017】
(3)洗浄動作2(シリンジ1内壁、プランジャ2側面)
まず、ポートP1に何も接続しない状態で電磁弁V1、V4を開き、電磁弁V2、V3を閉じる。
次に、プランジャ2を下げて空室Bの下死点に移動させる(図5(a)参照)。
次に、電磁弁V1、V4を閉じ、電磁弁V2、V3を開く。
次に、ポートP3からシリンジポンプ1内へ洗浄液bを圧送し、ポートP2より洗浄液bを排出する(図5(b)参照)。プランジャ2側面は空室Bにおいて洗浄される。
洗浄液bを下から上へ圧送するのはシリンジポンプ1内やT字配管4内にエアが残留するのを防ぐためである。
【0018】
(4)滅菌動作1(電磁弁V1−V2間)
まず、プランジャ2がシリンジAの上死点にある状態で電磁弁V1、V2を開き、電磁弁V3、V4を閉じる。
次に、ポートP1からシリンジポンプ1内へ滅菌用蒸気cを圧送し、電磁弁V1−V2間の配管内を滅菌してポートP2より滅菌用蒸気cを排出する(図6参照)。
【0019】
(5)滅菌動作2(シリンジ1内壁、プランジャ2側面)
まず、ポートP1に何も接続しない状態で電磁弁V1、V4を開き、電磁弁V2、V3を閉じる。
次に、プランジャ2を下げて空室Bの下死点に移動させる(図7(a)参照)。
次に、ポートP1からシリンジポンプ1内へ滅菌用蒸気cを圧送し、ポートP4より滅菌用蒸気cを排出する(図7(b)参照)。プランジャ2側面は空室Bで滅菌される。
滅菌用蒸気cを上から下へ圧送するのは、シリンジポンプ1内やT字配管4内での流速の変化により蒸気が液化し、その水滴が残留するのを防ぐためである。
なお、上記の洗浄動作1及び2や滅菌動作1及び2における洗浄液bや滅菌用蒸気cの流し方、およびそれに伴う電磁弁V1〜V4の開閉方法は一例であって、本発明のシリンジポンプの洗浄方法や滅菌方法を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、装置を分解しないでシリンジポンプの内部を洗浄したり滅菌したりできるので、雑菌や異種材料の混入を嫌う医薬品の生産分野のほか、頻繁な洗浄・滅菌操作が要求される分野に広く利用できる。
【符号の説明】
【0021】
1 シリンジポンプ
11 吸引・吐出孔
12 供給孔
13 排出孔
14 貫通孔
2 プランジャ
3 ロッド部
4 T字配管
5 供給配管
6 排出配管
7 プランジャリング
8 Oリング
9 仕切部材
A シリンジ
B 空室
C 前方室
D 後方室
P1〜4 ポート
V1〜4 電磁弁
a 材料
b 洗浄液
c 滅菌用蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジの液出入側と反対側に当該シリンジと同軸でその内径よりも大きい空室を連接し、洗浄・滅菌時にプランジャを前記空室に移動することを特徴とするシリンジポンプ。
【請求項2】
前記プランジャのストローク切換手段を備えて通常動作時はプランジャの下死点を空室より手前に、洗浄・滅菌時はプランジャの下死点を空室に切換えることを特徴とする請求項1記載のシリンジポンプ。
【請求項3】
前記空室にプランジャを移動した状態で空室側面の供給口から洗浄液を流し込み、シリンジの液出入口から排出して洗浄液を空室側から液出入側に圧送しながらシリンジ内を洗浄することを特徴とする請求項1記載のシリンジポンプ。
【請求項4】
前記空室にプランジャを移動した状態でシリンジの液出入口から滅菌用蒸気を流し込み、空室側面の排出口から排出して滅菌用蒸気を液出入側から空室側に圧送しながらシリンジ内を滅菌することを特徴とする請求項1記載のシリンジポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−12591(P2011−12591A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156930(P2009−156930)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(593022489)岩下エンジニアリング株式会社 (5)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】