説明

シリンダ装置

【課題】コロイダルダンパとして機能するシリンダ装置の実用性を向上させる。
【解決手段】ハウジング40とピストン42とによって区画形成されたチャンバ54の内部に、多孔質体100および第1作動液76を密封容器78に密封したコロイド密封体72を収容したものであり、その密封容器78を、容器本体80の胴体部82全体と開口部84の一部とに多孔質体100および第1作動液76が入れられた状態で、開口部84に栓体86を挿入してそれら多孔質体100および第1作動液76を密閉し、その開口部84内の残部を第1作動液76で満たした状態で蓋体48によって開口部84を塞ぐようにして組み立てる。多孔質体100および第1作動液76を密封する際に栓体86によって多孔質体100が押さえつけられるため、多孔質体100の分散を防止するとともに、その栓体86によって密封容器78内への空気の混入を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対動作する2つの物の間に設けられたシリンダ装置に関し、特に、細孔を有する多孔質体と作動液とが収容されてコロイダルダンパとして機能するシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献に記載されているシリンダ装置は、疎水化多孔質シリカゲル等の多孔質体と作動液とが混合されたコロイド溶液を内部に収容しており、多孔質体が有する細孔への作動液の流入・流出に伴って、伸縮するように構成されている。そして、その細孔に対し、作動液が表面張力の作用下で繰り返し流入・流出することにより、外部から加えられたエネルギを散逸させて、ダンパとして機能するように構成されている。内部にコロイド溶液を収容するシリンダ装置は、コロイダルダンパと呼ばれ、上述したような特性を有している。そのコロイダルダンパは、例えば、エネルギの散逸量が振幅に依存した大きさになることなど、従来の液圧式ダンパにはない特徴を有しており、種々の分野への応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−44732号公報
【特許文献2】特開2008−309250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載のコロイダルダンパとして機能するシリンダ装置は、未だ開発途上であり、改良の余地を多分に残すものとなっている。そのため、種々の改良を施すことによって、そのコロイダルダンパとして機能するシリンダ装置の実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いコロイダルダンパとして機能するシリンダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のシリンダ装置は、ハウジングとピストンとによって区画形成されたチャンバの内部に、多孔質体および第1作動液を自身の内部に密封する密封容器を含んで構成され、その密封容器の可撓部が変形することによって内容積の変化を許容するコロイド密封体が収容されたものであり、その密封容器が、(A)容器本体と、(B)多孔質体および第1作動液の一部が容器本体の胴体部全体と開口部の一部とに入れられた状態で開口部に挿入され、それら多孔質体および第1作動液の一部を容器本体の内部に密閉する栓体と、(C)開口部を塞ぎ、その開口部内において自身と栓体との間に区画形成された空間に前記第1作動液の残部を密閉する蓋体とを含んで構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
多孔質体の比重が作動液の比重とほぼ同じあるいは小さい場合、多孔質体が作動液に浮かんでしまう場合がある。そのような場合、それら多孔質体および作動液を密封する際に、風等によって多孔質体が散ってしまったり、その空間内に空気が混入してしまったりするという問題がある。本発明のシリンダ装置は、多孔質体および第1作動液を密封する容器を用意し、その容器内に密封する際に上記栓体によって多孔質体が押さえつけられるため、多孔質体の分散を防止するとともに、その栓体によって空気の混入を抑えることが可能となっている。そのような利点を有することで、本発明のシリンダ装置は、実用性の高いものとなる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0008】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、その請求項1に(2)項の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1または請求項2に(3)項の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに(4)項の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(7)項および(8)項の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれか1つに(9)項および(10)項の技術的特徴を付加したものが請求項6に、それぞれ相当する。
【0009】
(1)相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、
前記2つの物の他方に連結されて前記ハウジング内を摺動可能なピストンと、
前記ハウジングと前記ピストンとによって区画形成されたチャンバの内部に収容され、(A)多数の細孔を有する多孔質体および第1作動液と、(B)可撓性のある可撓部を有して前記多孔質体および前記第1作動液を自身の内部に密封する密封容器とを含んで構成され、前記密封容器の前記可撓部が変形することによって内容積の変化を許容するコロイド密封体と、
前記チャンバの内部でかつ前記コロイド密封体の外部に充填された第2作動液と
を備え、
前記2つの物の相対動作に応じて、前記多孔質体の細孔に対して前記第1作動液が流入・流出することにより、それら2つの物の相対動作を減衰させることで、コロイダルダンパとして機能するシリンダ装置であって、
前記密封容器が、
前記可撓部が形成された胴体部と、筒状の開口部とを有し、前記多孔質体および前記第1作動液を内部に収容するために主体となる容器本体と、
前記多孔質体および前記第1作動液の一部が前記胴体部全体と前記開口部の一部とに入れられた状態で前記開口部に挿入され、それら多孔質体および第1作動液の一部を前記容器本体の内部に密閉する栓体と、
前記容器本体の前記開口部を塞ぎ、前記開口部内において自身と前記栓体との間に区画形成された空間に前記第1作動液の残部を密閉する蓋体と
を含んで構成されたシリンダ装置。
【0010】
本項に記載されている、多孔質体と作動液とが混合されたコロイド溶液が内部に収容されたシリンダ装置は、コロイダルダンパと呼ばれ、多孔質体が有する細孔に対し、表面張力の作用下で作動液が繰り返し流入・流出することにより、外部から加えられたエネルギを散逸させるように構成されるものである。そのようなコロイダルダンパにおいては、例えば、多孔質体と作動液とを密封する際に、空気が混入してしまうという問題がある。特に、多孔質体の比重が作動液の比重よい小さいあるいは同じ程度であると、作動液に多孔質体が浮いてしまい、より多くの空気が混入してしまう虞がある。また、そのような場合には、作動液に浮いている多孔質体が風等によって散ってしまう虞もある。
【0011】
本項に記載のシリンダ装置は、コロイド溶液が密封容器に密封されるものを前提としており、その密封容器内に多孔質体および第1作動液の一部が入れられた状態で、それらが上記栓体によって密封されている。つまり、本項のシリンダ装置においては、容器内に密封する際に、蓋体によって開口部を塞ぐ前に、栓体によって多孔質体を押さえつけることが可能である。そのことにより、蓋体のみによって開口部を塞ぐ場合に比較して、多孔質体の分散を防止するとともに、栓体によって空気を排出させて空気の混入量を抑えることが可能となっている。
【0012】
本項に記載の「栓体」は、多孔質体を押さえつけるために、少なくとも多孔質体の通過を禁止するものであればよい。したがって、栓体は、第1作動液や空気の通過を禁止するものであってもよく、それらの通過を許容するものであってもよい。具体的には、例えば、栓体として、ゴム製のものや、フェルト製のフィルタ等を採用可能である。なお、栓体は、開口部に挿入される際には、空気を追い出すこと等のために開口部内を移動できるようにされることが望ましい。一方、コロイド溶液を密閉した後は、その位置に留まって動かないようにされることが望ましい。そのため、栓体は、例えば、後に詳しく説明するように、弾性変形可能なものとされて、弾性変形されつつ開口部内に挿入され、自身の弾性力によって動かないようなものとすることができる。また、本項に記載の「蓋体」は、開口部を塞いで容器本体を密封するためのものであるため、全てのものの通過を禁止するものとすることができる。
【0013】
本項に記載の「密封容器」は、コロイド溶液を密封した状態を保持しつつ、多孔質体への第1作動液の流入・流出によるコロイド溶液の体積の変化を許容するものである。つまり、本項に記載のシリンダ装置は、相対動作する2つの物の相対動作に応じて、コロイド密封体の内容積が変化する、換言すれば、コロイド密封体の体積が変化するように構成されている。なお、その密封容器は、自身の変形に対して復元する力を発生させるものであってもよく、その復元する力を発生させないものであってもよい。その密封容器には、例えば、袋状のもの,伸縮性を有するもの,弾性を有するものなど、種々のものを採用可能である。また、密封容器は、それの材料も特に限定されず、ゴムや金属などによって形成したものを採用可能である。
【0014】
本項に記載のシリンダ装置には、「多孔質体」および「第1作動液」が混合されたコロイド溶液が用いられる。それら「多孔質体」および「第1作動液」の種類は、特に限定されないが、互いに親和性が低く、容易に結合しにくいものどうしであること、平たく言えば、多孔質体が第1作動液に溶けにくいことが望ましい。その「多孔質体」には、nm(ナノメータ)オーダの細孔を有するμm(マイクロメータ)オーダの粒状物(マイクロ粒子)を採用可能であり、例えば、疎液性を有して第1作動液に容易に溶けないものや、疎液性の物質により被覆されたものを採用することが可能である。具体的には、例えば、その多孔質体には、シリカゲル,アエロゲル,セラミックス,ゼオライト,多孔質ガラス,多孔質ポリスチレン等を採用可能である。また、「第1作動液」には、例えば、水,水と不凍剤(エタノール,エチレングリコール,プロピレングリコール,グリセリン等)との混合液,水銀,溶融金属等を採用可能である。なお、水は表面張力が比較的大きいため、第1作動液として水を採用した場合には、多孔質体の細孔に水が流入・流出する際に、その大きな表面張力によって、大きな力を発生させるコロイダルダンパとなる。なお、第1作動液に水を用いる場合には、上述したように、多孔質体には、親水性の低いものや、疎水化処理されたものを用いることが望ましい。
【0015】
本項に記載の「第2作動液」は、チャンバの内部でかつコロイド密封体の外部に存在する。つまり、本項のシリンダ装置は、ハウジングおよびピストンに加わる力を、第2作動液を介してコロイド密封体に伝達するように構成されている。その「第2作動液(容器外作動液)」と、上記の「第1作動液(容器内作動液)」とは、同一の液体であってもよく、性質において互いに異なる液体であってもよい。なお、ハウジングおよびピストンに加えられた力のコロイド密封体への伝え易さという観点からすれば、上記の第2作動液には、粘度の高いものを採用することが望ましい。
【0016】
(2)前記栓体が、
前記容器本体の前記開口部に挿入された状態において、前記多孔質体と前記第1作動液の通過を禁止し、かつ、空気の通過を許容するものである(1)項に記載のシリンダ装置。
【0017】
本項に記載の態様は、栓体が空気を通すフィルタに限定されている。本項に記載の栓体を用いれば、その栓体を開口部に挿入する際に、多孔質体および第1作動液の一部を密閉する空間から空気を追い出すことができるため、本項に記載のシリンダ装置は、空気の混入量の少ないシリンダ装置となる。
【0018】
(3)前記栓体が、
弾性変形可能なものとされ、弾性力によって前記開口部の内側に留まって、前記多孔質体および前記第1作動液の一部を密閉するものである(1)項または(2)項に記載のシリンダ装置。
【0019】
本項に記載の「栓体」を用いれば、コロイド密封体を組み付ける際に、栓体を弾性変形させつつ押し込んで、開口部に挿入することが可能である。つまり、開口部と栓体との隙間から空気を追い出しつつ栓体を挿入することができるため、本項に記載のシリンダ装置は、空気の混入量の少ないシリンダ装置となる。
【0020】
(4)前記容器本体の前記開口部が、断面形状が一定な筒状に形成され、
前記栓体が、その開口部の断面形状と同じ断面形状を有するものとされた(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0021】
本項に記載の態様は、開口部の形状に限定が加えられている。本項の態様においては、容器本体の開口部の断面形状が一定であるために、その開口部に栓体を挿入する際に、スムーズに挿入することができる。
【0022】
(5)前記容器本体の前記胴体部が、筒状に形成された(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0023】
本項に記載の態様は、密封容器の形状に限定が加えられている。換言すれば、本項の態様は、コロイド密封体が、概して筒状のものとされている。したがって、本項の態様のシリンダ装置、コロイド密封体のハウジング内への収まりがよく、すっきりした構成のものとされている。
【0024】
(6)前記胴体部に形成された前記可撓部が、蛇腹状のものである(5)項に記載のシリンダ装置。
【0025】
本項に記載の態様は、密封容器の形状に限定が加えられており、蛇腹状の可撓部が伸縮するようになっている。つまり、本項の態様は、コロイド密封体が伸縮するようにして、コロイド密封体の体積が変化するように構成されている。本項の態様においては、例えば、可撓部が伸縮する方向がピストンの摺動する方向と同じになるように、コロイド密封体をハウジング内に収容することで、コロイド密封体の伸縮時にハウジングの内壁に当接させないようにすることができる。
【0026】
(7)前記ハウジングが、
内部を前記ピストンが摺動する筒体と、その筒体の端部を塞ぐ閉塞体とを含んで構成された(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0027】
本項に記載の態様は、ハウジングの構成が具体化されている。本項に記載の「閉塞体」は、ハウジングの内部に収容した第2作動液の漏れを防止すべく、筒体の開口を密閉するためのものであり、蓋であっても、栓であってもよい。
【0028】
(8)前記ハウジングの前記閉塞体と、前記密封容器の前記蓋体とが、一体的に形成された(7)項に記載のシリンダ装置。
【0029】
本項に記載の態様は、例えば、閉塞体および蓋体が、単一の部材とされた態様や、シリンダ装置の組付時における一部品とされた態様とすることができる。例えば、閉塞体と蓋体とが一体化されたものを容器本体に組み付けて、コロイド密封体を完成させ、そのコロイド密封体を含むユニットを、筒体に組み付けるようにすることで、簡単に組み立て可能なシリンダ装置が実現する。なお、シリンダ装置の組立の簡素化という観点からすれば、閉塞体および蓋体が単一の部材とされることが望ましい。
【0030】
なお、本項に記載のシリンダ装置は、コロイド密封体がハウジングの端部に固定されたものとなる。本項の態様においては、コロイド密封体が、ピストンと当接しないようにすることが可能であり、ハウジング内におけるピストンの摺動の妨げとなることを防止することができる。
【0031】
(9)前記第1作動液が、水である(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0032】
(10)前記多孔質体が、疎水化処理された疎水化多孔質体である(9)項に記載のシリンダ装置。
【0033】
上記2つの項に記載の態様は、コロイド溶液の構成に限定が加えられている。先にも述べたように、水は表面張力が大きいため、コロイダルダンパの作動液として好適である。そして、作動液を水とした場合には、多孔質体は、疎水性を有するものであることが望ましく、後者の態様は、その望ましい態様である。本項の態様においては、多孔質体が疎水性を有するものであるために、その多孔質体の比重によっては、第1作動液である水に浮きやすい。したがって、本項の態様においては、栓体によって疎水化多孔質体と水とを容器本体内に密閉する構成の密封容器が、特に有効である。
【0034】
(11)前記第2作動液が、オイルである(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【0035】
本項に記載の態様は、第2作動液が限定されたものであり、その第2作動液として、例えば、鉱物油や、合成油であるシリコンオイル等を採用可能である。本項の態様と、先に述べた第1作動液を水とした態様とを合わせた構成のシリンダ装置を考える。一般的に、オイルの粘度は水の粘度より高いため、ハウジングおよびピストンに加わる力を、コロイド密封体に効率的に伝達することが可能である。また、例えば、本シリンダ装置が、上方側に位置する物を支持するような構成である場合には、チャンバ内の圧力は比較的高くなる。つまり、そのようなシリンダ装置においては、チャンバ内を高圧に保持するために、ハウジングに設けられるシールの密封性を確保する必要がある。粘度の高いオイルは、シールから漏れにくく、上記のようなチャンバ内を高圧に保持する必要のあるシリンダ装置において、特に有効である。また、一般的に、オイルは、潤滑性も良好であり、ハウジング内におけるピストンの摺動を円滑なものとすることが可能である。
【0036】
また、一般的に、オイルの凝固温度は、水の凝固温度より低い。例えば、第2作動液が凝固し始めると、ハウジングおよびピストンに加わる力に対して、コロイド密封体に伝達される力が変動してしまう虞がある。しかしながら、本項の態様によれば、その凝固しにくいオイルによって、ハウジングおよびピストンに加わる力をコロイド密封体に確実に伝達することが可能である。
【0037】
さらに、一般的に、オイルの熱伝導率は、水の熱伝導率より低い。コロイド溶液内の水は、外気温の低下によって凝固する虞があるが、コロイド密封体をオイルで覆うように構成することによって、熱伝導率の低いオイルによってコロイド溶液内の水の温度が外部に逃げることを抑え、水が凝固することを防止することが可能である。
【0038】
(21)(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のシリンダ装置を組み立てるシリンダ装置組立方法であって、
前記コロイド密封体を組み立てる密封体組立工程を含み、
その密封体組立工程が、
前記容器本体の前記胴体部および前記開口部の一部に、前記多孔質体および前記第1作動液を入れるコロイド注入工程と、
前記開口部に前記栓体を挿入して、その栓体と前記容器本体とによって区画形成された密閉空間内に前記多孔質体および前記第1作動液の一部を密閉するコロイド密閉工程と、
内部に第1作動液と同じ作動液を満たした作動液槽内に、前記コロイド密閉工程によって前記多孔質体および前記第1作動液の一部が内部に密閉された状態の前記容器本体を入れ、その作動液槽内において、前記蓋体によって前記開口部を塞ぐ蓋体組付工程と
を含むシリンダ装置組立方法。
【0039】
本項に記載の態様は、カテゴリを上記シリンダ装置の組立方法としたものである。詳しく言えば、本項に記載のシリンダ装置組立方法は、コロイド密封体の組立方法に特徴を有するものである。本項の組立方法によれば、蓋体のみによって開口部を塞ぐ場合に比較して、多孔質体の分散を防止するとともに、コロイド密封体内への空気の混入量を抑えることが可能である。
【0040】
(22)前記ハウジングが、
内部を前記ピストンが摺動する筒体と、その筒体の端部を塞ぐ閉塞体と、それら筒体と閉塞体との間に介在してそれら筒体と閉塞体との間を液密に封止するシールとを含んで構成され、
当該シリンダ装置組立方法が、
前記ピストンおよび前記密封体組立工程によって組み立てられた前記コロイド密封体を前記ハウジングの前記筒体に挿入するとともにその筒体内を前記第2作動液で満たした状態で、前記筒体の端部を前記閉塞体によって塞ぐことにより、当該シリンダ装置を組み立てるシリンダ組立工程を含み、
そのシリンダ組立工程において、前記筒体の端部を前記閉塞体で塞ぐ際、前記シールが前記筒体と前記閉塞体との両者に接してからさらに前記筒体と前記閉塞体の一方を他方に締め付けることによって生じる前記チャンバの容積変化に起因した前記ピストンの変位を考慮し、前記筒体の端部を前記閉塞体で塞いだ後の前記ピストンの位置が設定された位置となるように前記ピストンを前記筒体内に配置して前記締め付けを行うことを特徴とする(21)項に記載のシリンダ装置組立方法。
【0041】
ハウジングを組み立てる過程において、筒体の開口を閉塞体によって塞ぐ場合を考える。第2作動液が収容されるハウジングの液密を確保するために、筒体と閉塞体との間には、シールが介在させられる。そして、筒体に閉塞体を組み付ける際、筒体に対する閉塞体の位置が、シールが機能する位置まで達すると、その時点でハウジングの液密が確保されることになる。筒体に対して閉塞体をしっかりと組み付けるためには、さらに、閉塞体と筒体とを締め付ける必要がある。しかしながら、ハウジングの液密が確保された時点から、さらに締め付けるためには、チャンバ内の圧力を増加させるか、その締め付けによって減少するチャンバ内の容積変化分を別の機構等により増加させる必要がある。
【0042】
本項に記載のシリンダ装置組立方法においては、筒体と閉塞体との締め付けによるチャンバの容積の減少が、筒体に挿入されたピストンの移動によって打ち消されることになる。詳しく言えば、ピストンの移動によってピストンが筒体の外部に突出し、その突出によるチャンバの容積の増加によって、筒体と閉塞体との締め付けによるチャンバの容積の減少が打ち消されることになる。そして、本項のシリンダ装置組立方法においては、ピストンが、上記筒体と閉塞体との締め付けによるピストンの変位を考慮して、筒体に挿入されている。平たく言えば、筒体に対してピストンが多めに挿入されている。そのため、上記の筒体に対する閉塞体の組付時にピストンが移動しても、シリンダ装置の組付完了時におけるピストンのハウジングに対する位置が設定された位置とされるのである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】請求可能発明の実施例であるシリンダ装置を一構成要素とした車両用サスペンション装置の正面図である。
【図2】請求可能発明の実施例であるシリンダ装置の正面断面図である。
【図3】図2に示す多孔質体を模式的に示す断面図である。
【図4】従来から知られている簡便な構成のコロイダルダンパの正面断面図である。
【図5】図4に示すコロイダルダンパにおけるストロークとチャンバ内の圧力との関係を示す図である。
【図6】請求可能発明の実施例であるシリンダ装置におけるストロークと密封容器内の圧力との関係を示す図である。
【図7】請求可能発明の実施例であるシリンダ装置を3つのパーツに分割した状態を示す図である。
【図8】図7に示したベローズAssy(コロイド密封体)の組立方法を示す図である。
【図9】図7に示した3つのパーツを組み付ける方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、請求可能発明の代表的な実施形態を、実施例として、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0045】
<サスペンション装置の構成>
本実施例のシリンダ装置10は、図1に示すように、車両用サスペンション装置の一構成要素とされている。その車両用サスペンション装置は、車両が有する車輪12の各々に対応して設けられる独立懸架式のものであり、マルチリンクサスペンション装置とされている。サスペンション装置は、それぞれがサスペンションアームである第1アッパアーム20,第2アッパアーム22,第1ロアアーム24,第2ロアアーム26,トーコントロールアーム28を備えている。5本のアーム20,22,24,26,28のそれぞれの一端部は、車体に回動可能に連結され、他端部は、車輪12を回転可能に保持する車輪保持部材としてのアクスルキャリア30に回動可能に連結されている。それら5本のアーム20,22,24,26,28により、アクスルキャリア30は、車体に対して一定の軌跡に沿った上下動が許容されている。本シリンダ装置10は、車体の一部であるタイヤハウジングに設けられたマウント部32と、上記第2ロアアーム26との間に配設されている。
【0046】
図2に、シリンダ装置10の正面断面図を示す。シリンダ装置10は、概して円筒状のハウジング40と、そのハウジング40に対して摺動可能に配設されたピストン42とを備えている。ハウジング40は、ピストン42を摺動させる筒体としてのチューブ44と、そのチューブ44の上端部を塞ぐ上蓋46と、チューブ44の下端部を塞ぐ底蓋48とを含んで構成されている。また、ピストン42は、ピストン本体50を有しており、そのピストン本体50が、ハウジング40の内部を、自身を挟んで2つのチャンバである上室52と下室54とに区画している。ピストン42は、さらに、ピストンロッド58を有しており、そのピストンロッド58は、下端部においてピストン本体50に連結されるとともに、ハウジング40の上蓋46から延び出している。そして、ピストンロッド58は、上端部において防振ゴム60を含んで構成されるアッパサポート62を介してマウント部32の下面側に連結されている。一方、ハウジング40は、それの下端部において、ブシュ64を介して第2ロアアーム26に連結されている。
【0047】
つまり、ハウジング40と、ピストンロッド58およびそれに連結されたピストン42とは、車体(マウント部32)と車輪12(アクスルキャリア30)との接近・離間に応じて軸線方向に相対移動可能とされている。換言すれば、シリンダ装置10は、車体と車輪12との接近・離間に応じて伸縮可能とされているのである。
【0048】
ちなみに、シリンダ装置10は、カバーチューブ66を備えており、そのカバーチューブ66は、上記ピストンロッド58およびハウジング40の上部を収容し、外部からの塵埃,泥等の侵入を防止するようにされている。
【0049】
ハウジング40の内部には、コロイド溶液70を密封したコロイド密封体72が設けられている。そのコロイド溶液70は、疎水化多孔質シリカゲル74と、第1作動液としての水76とが混合されたものである。コロイド密封体72は、それら疎水化多孔質シリカゲル74および水76と、それらを密封する密封容器78とを含んで構成されるものである。
【0050】
その密封容器78は、疎水化多孔質シリカゲル74および水76を収容するための主体となる容器本体としてのベローズケース80を有している。そのベローズケース80は、金属製のものであり、概して円筒状の胴体部82と、その胴体部82の外径より小さな外径の開口部84とを有している。胴体部82は、蛇腹状に形成されており、その胴体部82が伸縮することで、ベローズケース80が伸縮するようになっている。また、そのベローズケース80は、開口部84の外周面に雄ねじが形成されており、その雄ねじがハウジング40の底蓋48に形成された雌ねじと螺合することで、開口部84が塞がれている。さらに、ベローズケース80の開口部84には、パッキン86が嵌入されており、そのパッキン86によって、疎水化多孔質シリカゲル74および水76が、ベローズケース80内に密閉されている。ちなみに、パッキン86は、フェルト製のフィルタ状のものであり、疎水化多孔質シリカゲル74および水76の通過を禁止し、空気の通過は許容するものとなっている。なお、そのパッキン86が設けられていることによるシリンダ装置10の特徴については、後に詳しく説明する。以上のような構成から、密封容器78は、容器本体としてのベローズケース80と、そのベローズケース80の内部に疎水化多孔質シリカゲル74および水76を密閉する栓体としてのパッキン86と、ベローズケース80の開口部84を塞ぐ蓋体としての底蓋48とを含んで構成されている。その底蓋48は、チューブ44の端部を閉塞させる閉塞体として機能するだけでなく、容器本体の開口部84を塞ぐ蓋体としても機能するものとなっており、シリンダ装置10の構成が簡素化されている。
【0051】
図3に、疎水化多孔質シリカゲル82の1つの粒子の断面図を模式的に示す。疎水化多孔質シリカゲル粒子100は、外径Dが数μm〜数十μmオーダで、かつ、細孔102の内径dが数nm〜数十nmオーダの球形シリカゲル粒子を、それの表面(細孔内も含む)を疎水性物質で疎水化処理したものである。つまり、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の各々が、多孔質体として機能するものとなっている。
【0052】
下室54には、上記コロイド密封体72が収容された状態で、第2作動液としての鉱物油110が充填されている。また、上室52にも、鉱物油110が充填されている。先に述べたピストン本体50には、それを軸方向に貫通し、上室52と下室54とを連通させる複数の連通路112が設けられている。つまり、ハウジング40に対するピストン42の摺動に伴って上室52および下室54の容積が変化する場合に、上記連通路112によって、上室52と下室54との間で、鉱物油110の流通が許容されるのである。ちなみに、後に詳しく説明するが、ハウジング40の内部は高圧になるため、ハウジング40の上端部の蓋部、および、下端部の蓋部には、鉱物油110の漏れを防止するために、複数の高圧シール114,116が設けられている。特に、ピストンロッド58が摺動する上端部の蓋部には、そのピストンロッド58の摺動面に接する2つのシール116が設けられている。それら2つのシール116の間にグリースが密封されており、シール性が高められている。
【0053】
シリンダ装置10は、車体と車輪との接近離間動作を規制する機構、いわゆるバウンドストッパ、および、リバウンドストッパを有している。具体的には、バウンドストッパは、カバーチューブ66の内側の上端に貼着された環状の緩衝ゴム140を含んで構成され、ハウジング40の上端部が、緩衝ゴム140を介してカバーチューブ66に当接するように構成されている。また、リバウンドストッパは、ハウジング40の上方側の蓋部の下面に貼着された環状の緩衝ゴム142を含んで構成され、ピストン42の上面とハウジング40の上方側の蓋部とが、緩衝ゴム142を介して当接するように構成されている。
【0054】
<コロイダルダンパとしての特性>
i)一般的なコロイダルダンパの特性
上述したように、本サスペンション装置は、シリンダ装置10を主体として構成され、そのシリンダ装置10は、コロイド溶液70を内部に収容するコロイダルダンパである。そのシリンダ装置10のコロイダルダンパとしての機能について、以下に詳しく説明する。まず、本シリンダ装置10について説明する前に、図4に示す簡便な構成のコロイダルダンパ150を例に、コロイダルダンパの一般的な特性について、図5をも参照しつつ詳しく説明する。コロイダルダンパ150は、ハウジング152と、そのハウジング152内を摺動するピストン154とを含んで構成されるシリンダ装置156を備えている。そして、コロイダルダンパ150は、それらハウジング152とピストン154とによって形成されるチャンバ158内に、多孔質体160と作動液162とが混合されたコロイド溶液164が充填されたものである。
【0055】
図5は、ハウジング152とピストン154との相対動作量S(シリンダ装置156のストローク)と、チャンバ158の内圧pとの関係を示す図である。コロイダルダンパ150において、シリンダ装置156を収縮させる力が外部から加わると、まず、チャンバ158内の作動液162の液圧が大きく(急な勾配で)上昇する(図5における(I)の範囲)。作動液162の液圧が、ある高さ付近まで上昇すると、作動液162は、その作動液162の表面張力に抗して多孔質体160の細孔に流入し始め、加わる力の大きさに比例した量だけ作動液162が流入することになる(図5における(II)の範囲)。その多孔質体160への作動液162の流入によって、コロイド溶液164の容積が減少し、シリンダ装置156が収縮するようにストロークすることになる。つまり、作動液162の流入量とチャンバ158の容積変化とは等しいのであり、作動液162の流入量とシリンダ装置156のストロークとは、リニアな関係にあると言える。また、作動液162の流入量が多くなれば、チャンバ158の内圧も大きくなる。つまり、図5における(II)の範囲に示すように、シリンダ装置156のストロークSと、チャンバ158の内圧pとは、リニアな関係となっている。そして、作動液162が、流入できる限界付近まで多孔質体160内に流入すると、作動液の162の液圧が大きく上昇し始めるのである(図5における(III)の範囲)。
【0056】
次に、シリンダ装置156に加えていた力を取り除くと、作動液162の液圧が大きく(急な勾配で)低下する(図5における(IV)の範囲)。その後、作動液162の液圧が低下すると、多孔質体160の細孔から作動液162が流出するのである(図5における(V)の範囲)。その多孔質体160からの作動液162の流出によって、コロイド溶液164の容積が増加し、シリンダ装置156が伸張するようにストローク動作することになる。なお、この図5における(V)の範囲に示す作動液162が流出する場合も、作動液162が流入するときと同様に、シリンダ装置156のストロークSと、チャンバ158の内圧pとは、リニアな関係となっている。
【0057】
多孔質体160と作動液162との間の状態を、それら多孔質体160と作動液162との間の接触角を用いて説明すれば、多孔質体160へ作動液162が流入する際に接触角が大きく、多孔質体160から作動液162が流出する際に接触角が小さくなる。そのため、図5に示したように、作動液流入時(収縮時)のチャンバ158の内圧と、作動液流出時(伸張時)のチャンバ158の内圧とには、差が生じる。つまり、図5に示すように、シリンダ装置156のストロークSの変化に対するチャンバ158の内圧pの変化に、ヒステリシスが生じるのである。そして、そのことによって、コロイダルダンパ150は、エネルギを散逸して2つの相対動作する物の相対動作を減衰させる構成とされている。ちなみに、図5のヒステリシスによって囲まれた部分の面積が、散逸したエネルギに相当する。
【0058】
ii)本シリンダ装置のコロイダルダンパとしての特性
本シリンダ装置10は、コロイド溶液70が密封容器78内に密封されているが、外部から加えられた力は、鉱物油110を介してコロイド密封体72に伝達される。そして、コロイド密封体72は、自身に力が加わると、密封容器78内に収容された水76の液圧が上昇する。その水76の液圧が、ある高さまで上昇すると、その水76は、表面張力に抗して疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102内に流入する。それに伴って、密封容器78は収縮しつつ、コロイド密封体72は、体積が減少することになるのである。一方、自身に加わる力がなくなると、水76の液圧が低下し、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102から水76が流出する。それに伴って、密封容器78は伸張しつつ、コロイド密封体72は、体積が増加することになる。つまり、本シリンダ装置10も、上述したコロイダルダンパ150と同様の特性を有している。なお、図6に、本シリンダ装置10のストロークSと、コロイド密封体72の内圧pとの関係を示す。
【0059】
<本シリンダ装置の機能>
i)サスペンションスプリングとしての機能
本シリンダ装置10は、上述したように、サスペンション装置の構成要素の主体となるものである。まず、本シリンダ装置10は、サスペンションスプリングとしての機能を有するものとなっている。シリンダ装置10は、マウント部32と第2ロアアーム26との間に配設され、自身に対応する車輪12の分担荷重(いわゆる、1Wである)を受けて、収縮することになる。シリンダ装置10が収縮する際、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102に水76がある量だけ流入し、コロイド密封体72内の圧力が上昇する。そして、シリンダ装置10は、そのコロイド密封体72の内圧に依存して発生させる力によって、車輪の分担荷重を受け持つことになる。
【0060】
本シリンダ装置10は、図6に示すように、本シリンダ装置10は、ストロークが許容される範囲において、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102からすべての水76が流出しないように、かつ、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水76の流入量が流入できる限界値には達しないように構成されている。その図6からも分かるように、コロイド密封体72が収容された下室54の容積が減少するようにストロークする場合、平たく言えば、シリンダ装置10が収縮するようにストロークする場合に、コロイド密封体72の内圧pが、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水76の流入量に比例した大きさとなる。なお、疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水76の流入量は、ピストンロッド58のハウジング40内への進入した体積分に等しい。つまり、コロイド密封体72の内圧pは、シリンダ装置10のストローク量(車体と車輪保持部材との相対動作量)に比例した大きさとなっている。したがって本シリンダ装置10は、リバウンドストッパおよびバウンドストッパによって定まるシリンダ装置10の全ストローク範囲において、1Wを受け持つ力を発生させていると考えることができる。
【0061】
ちなみに、本シリンダ装置10は、コロイド密封体72の内圧pが疎水化多孔質シリカゲル粒子100の細孔102への水76の流入量に比例する範囲内でストロークするような構成とするために、コロイド密封体72に収容される疎水化多孔質シリカゲル74の量(体積)と水76の量(体積)が定められている。まず、シリンダ装置10において、標準状態(例えば、車両に一人も乗車しておらず、かつ、何も積載しておらず、さらに、水平面上において停車している状態)における中立位置から、バウンド方向にストローク量Sb,リバウンド方向にストローク量Srだけストロークできるようにすると、シリンダ装置10の上室52と下室54とを合わせた容積変化ΔVは、フルバウンド時とフルリバウンド時とで、次式のように求まる。
ΔV=A・(Sb+Sr
ここで、Aは、ハウジング40内の圧力がピストン42に作用する面積である受圧面積であり、シリンダ装置10においては、ピストンロッド58の断面積が相当する。
【0062】
そして、本シリンダ装置10においては、この容積変化ΔVに等しい量の水76が疎水化多孔質シリカゲル74に流入できる必要がある。つまり、疎水化多孔質シリカゲル74の容積に対する疎水化多孔質シリカゲル74の水76を流入できる限界値の比をηとすれば、疎水化多孔質シリカゲル74の必要最低量(体積である)VSminが、次式によって定まる。
Smin=ΔV/η
なお、疎水化多孔質シリカゲル74は、疎水化処理の際に、全てが疎水化されずに吸水性を有するシリカゲルが残ってしまう場合がある。例えば、疎水化処理を行った全量に対する、疎水化されなかったシリカゲルの量を除いた疎水化されたシリカゲルの量の割合を、疎水化率βと定義すれば、その疎水化率のばらつき等に対応するために、実際の疎水化多孔質シリカゲル86の量(体積である)VSは、次式によって決められ、疎水化多孔質シリカゲル86のその必要最低量VSminより多くされている。
S=VSmin/β
また、疎水化多孔質シリカゲル74の量VSに対して、水76の量VFは、ΔV以上であればよいため、本シリンダ装置10においては、VF=VSとされている。
【0063】
ii)ショックアブソーバとしての機能
本シリンダ装置10において、中立位置からの1サイクルの動作におけるコロイド密封体72の内圧の変化を、シリンダ装置10のストロークSとの関係で示せば、図6に示す二点鎖線のようになる。シリンダ装置10は、先に説明した一般的なコロイダルダンパ150と同様に、作動液流入時(収縮時)のコロイド密封体72の内圧と、作動液流出時(伸張時)のコロイド密封体72の内圧とに差が生じ、図6に示すように、シリンダ装置10のストロークSの変化に対するコロイド密封体72の内圧pの変化に、ヒステリシスが生じる。そして、その図6の二点鎖線によって囲まれた面積が、1サイクルの動作において散逸したエネルギに相当する。つまり、本シリンダ装置10は、車体と車輪12との相対動作を減衰させることになるのであり、ショックアブソーバとして機能することとなる。
【0064】
<本シリンダ装置の組立方法>
先に述べたように、本シリンダ装置10は、疎水化多孔質シリカゲル74および水76を密封する密封容器78が、内部に栓体としてのパッキン86を含んで構成されるものとなっている。そのパッキン86は、本シリンダ装置10を組み立てる際に、効を奏するものであるため、以下に、本シリンダ装置10の組立方法について、詳しく説明する。本シリンダ装置10は、図7に示すように、大きく分けて、3つのパーツを組み付けたものとなっている。それら3つのパーツは、ハウジング40を構成するチューブ44,ピストン42とハウジング40を構成する上蓋46とを含んで構成されるピストンAssy180,コロイド密封体72とハウジングを構成する底蓋48とを含んで構成されるベローズAssy182である。まず、ベローズAssy182の組立方法、つまり、コロイド密封体72の組立方法について、図8を参照しつつ、詳しく説明する。
【0065】
i)コロイド密封体組立工程
ベローズAssy182を組み立てる最初の工程は、コロイド溶液70をベローズケース80に入れるコロイド注入工程である。つまり、ベローズケース80、先に説明した量の疎水化多孔質シリカゲル74、および、水76が準備される。そして、図8(a)に示すように、ベローズケース80内に、それら疎水化多孔質シリカゲル74および水76が入れられる。なお、それら疎水化多孔質シリカゲル74および水76がベローズケース80内に入れられた状態において、ベローズケース80の開口部84の中間までがそれら疎水化多孔質シリカゲル74および水76で満たされるように、水76の量が調整されている。ちなみに、疎水化多孔質シリカゲル74は、表面が疎水化処理され、それの比重が比較的小さいものであるため、水76の上に浮いた状態となっている。
【0066】
次の工程は、ベローズケース80内に入れた疎水化多孔質シリカゲル74および水76を密閉するコロイド密閉工程である。具体的には、図8(b)に示すように、ベローズケース80内にパッキン86を挿入する工程である。パッキン86は、先にも述べたように、疎水化多孔質シリカゲル74および水76の通過を禁止するとともに、空気の通過を許容するフィルタである。また、パッキン86は、開口部84の内径より僅かに大きな外径とされた円板状のもので、弾性変形可能なものである。つまり、パッキン86は、弾性を有し、その弾性力によって開口部84の内部に留まれるようになっている。そのようなパッキン86を開口部84に徐々に挿入していけば、ベローズケース80とパッキン86とによって形成される空間から空気を追い出していくことになる。したがって、このパッキン86の挿入によって疎水化多孔質シリカゲル74および水76をベローズケース80内に密閉した状態において、空気が混入されないようになっている。
【0067】
次に、図8(c)に示すように、内部を水で満たした水槽190が準備される。そして、その水槽190内に、パッキン86によって疎水化多孔質シリカゲル74および水76が密閉されたベローズケース80が入れられ、ベローズケース80の開口部84におけるパッキン86と開口端との間の空間が、水で満たされる。次いで、図8(d)に示すように、水槽190内において、蓋体としての底蓋48がベローズケース80に組み付けられる。底蓋48は、円筒形の物であり、その内周面に雌ねじが形成されている。そして、その雌ねじを開口部84の外周面に形成された雄ねじに螺合させ、開口部84が塞がれる。なお、底蓋48の先端には、シール192が設けられており、そのシール192がベローズケース80の段差部に当接することにより、密封容器78の内部の液密が確保される。ちなみに、そのシール192がベローズケース80に当接してからのねじの締め付けは、ベローズケース80の胴体部82が伸張することによって許容されるため、密封容器78の内圧が高くなってねじを締め付けることができない事態となることはない。つまり、この蓋体組付工程においても、ベローズケース80内に空気が混入することはない。したがって、コロイド密封体72は、空気の混入がないものとなっているのである。
【0068】
ここで、例えば、上記のパッキン86を用いずに、容器本体を蓋体で塞ぐような場合を考える。この場合、疎水化多孔質シリカゲル74および水76を容器本体の開口部の端部まで満たし、蓋体によってその開口部を塞ぐことになる。先にも述べたように、疎水化多孔質シリカゲル74は水76に浮いてしまうため、その状態で蓋体によって開口部を塞いでも、空気が混入してしまう。また、容器本体に、疎水化多孔質シリカゲル74および水76を満たすと、開口部の端部に多孔質シリカゲル74があり、風等によって散ってしまう虞がある。つまり、密封容器78に収容する疎水化多孔質シリカゲル74の量が減ってしまうことになるのである。それに対して、上記のように組み立てられたコロイド密封体72は、底蓋48によって開口部84を塞ぐ前に、パッキン86によって疎水化多孔質シリカゲル74を押さえつけるため、上述したように空気が混入することもなく、また、疎水化多孔質シリカゲル74の量が減ってしまうこともないのである。
【0069】
ii)シリンダ組立工程
次に、上記のように組み立てられたベローズAssy182と、ピストンAssy180とを、チューブ44に組み付ける方法について、図9を参照しつつ、詳しく説明する。まず、ピストンAssy180を、チューブ44に組み付ける。そのピストンAssy180は、上蓋46にピストンロッド58を貫入したものであり、チューブ44に組み付ける際には、図9(a)に示すように、ピストン本体50がチューブ44に挿入され、上蓋46によってチューブ44の上端が塞がれる。詳しくは、チューブ44の上端部の内周面には雌ねじが形成されるとともに、上蓋46の外周面には雄ねじが形成されており、それらを螺合させることによって、チューブ44の上端はピストンAssy180によって塞がれる。(ピストン挿入工程)
【0070】
次に、内部を第2作動液である鉱物油で満たした鉱物油槽200が準備される。そして、図9(b)に示すように、その鉱物油槽200内に、チューブ44とピストンAssy180とが組み付けられたものが入れられ、チューブ44の内部が、鉱物油で満たされる。(筒体内充填工程)
【0071】
次いで、鉱物油槽200内において、チューブ44にベローズAssy182が組み付けられる。チューブ44に組み付ける際には、図9(c)に示すように、密封容器78がチューブ44内に挿入され、閉塞体としての底蓋48によってチューブ44の下端が塞がれる。詳しくは、チューブ44の下端部の内周面には雌ねじが形成されるとともに、底蓋48の外周面には雄ねじが形成されており、それらを螺合させることによって、チューブ44の下端はベローズAssy182によって塞がれる。(閉塞体組付工程)
【0072】
また、底蓋48の下端には、シール114が設けられており、そのシール114がチューブ44の内周面に当接することにより、チューブ44の内部の液密が確保される(図9(c)に示した状態)。ちなみに、そのシール114がチューブ44に当接してからのねじの締め付けは、ピストン本体50が上蓋46に向かって移動すること、つまり、ピストンロッド58が外部に突出することによって許容され、ハウジング40の内圧が高くなってねじを締め付けることができない事態となることはない。なお、本シリンダ装置10は、組立が完了して車両に組み付ける前においては、図9(d)に示すように、ハウジング40とピストン42との相対位置がフルリバウンドした位置となるように設計されている。したがって、そのフルリバウンドした位置におけるピストンロッド58の外部の長さを標準突出長LSとすれば、シール114がチューブ44の内周面に当接する時点のピストンロッド58の長さであるロッド突出長Lは、その標準突出長LSより短くされている。より詳しく言えば、シール114がチューブ44に当接してからねじの締め付けが完了するまでに、チューブ44内にベローズAssy182が入り込むことになる体積に基づいて、ピストン42の移動量が推定され、上記ロッド突出長Lが決められている。例えば、フルリバウンドした位置で、ベローズAssy182を組み付けようとすると、シール114がチューブ44に当接した後、ハウジング40の内圧が高くなって、ねじを締め付けることができない事態となるが、この組立方法によれば、そのような事態となることはない。
【0073】
ちなみに、上記のシリンダ組立工程による組立方法は、ピストンAssy180を組み付けた後に、ベローズAssy182を組み付けるものであったが、ベローズAssy182を組み付けた後に、ピストンAssy180を組み付けるものであってもよい。この場合には、上蓋46に設けられたシール114がチューブ44の内周面に当接する時点におけるロッド突出長を、上述したロッド突出長Lとすればよい。
【符号の説明】
【0074】
10:シリンダ装置(コロイダルダンパ) 12:車輪 26:第2ロアアーム 30:アクスルキャリア(車輪保持部材) 32:マウント部(車体の一部) 40:ハウジング 42:ピストン 44:チューブ(筒体) 46:上蓋 48:底蓋(蓋体,閉塞体) 50:ピストン本体 52:上室 54:下室(チャンバ) 58:ピストンロッド 70:コロイド溶液 72:コロイド密封体 74:疎水化多孔質シリカゲル 76:水(第1作動液) 78:密封容器 80:ベローズケース(容器本体) 82:胴体部 84:開口部 86:パッキン(栓体) 100:疎水化多孔質シリカゲル粒子(多孔質体) 102:細孔 110:鉱物油(第2作動液) 112:連通路 114,116:高圧シール 180:ピストンAssy 182:ベローズAssy 190:水槽 192:シール 200:鉱物油槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対動作する2つの物の一方に連結されるハウジングと、
前記2つの物の他方に連結されて前記ハウジング内を摺動可能なピストンと、
前記ハウジングと前記ピストンとによって区画形成されたチャンバの内部に収容され、(A)多数の細孔を有する多孔質体および第1作動液と、(B)可撓性のある可撓部を有して前記多孔質体および前記第1作動液を自身の内部に密封する密封容器とを含んで構成され、前記密封容器の前記可撓部が変形することによって内容積の変化を許容するコロイド密封体と、
前記チャンバの内部でかつ前記コロイド密封体の外部に充填された第2作動液と
を備え、
前記2つの物の相対動作に応じて、前記多孔質体の細孔に対して前記第1作動液が流入・流出することにより、それら2つの物の相対動作を減衰させることで、コロイダルダンパとして機能するシリンダ装置であって、
前記密封容器が、
前記可撓部が形成された胴体部と、筒状の開口部とを有し、前記多孔質体および前記第1作動液を内部に収容するために主体となる容器本体と、
前記多孔質体および前記第1作動液の一部が前記胴体部全体と前記開口部の一部とに入れられた状態で前記開口部に挿入され、それら多孔質体および第1作動液の一部を前記容器本体の内部に密閉する栓体と、
前記容器本体の前記開口部を塞ぎ、前記開口部内において自身と前記栓体との間に区画形成された空間に前記第1作動液の残部を密閉する蓋体と
を含んで構成されたシリンダ装置。
【請求項2】
前記栓体が、
前記容器本体の前記開口部に挿入された状態において、前記多孔質体と前記第1作動液の通過を禁止し、かつ、空気の通過を許容するものである請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記栓体が、
弾性変形可能なものとされ、弾性力によって前記開口部の内側に留まって、前記多孔質体および前記第1作動液の一部を密閉するものである請求項1または請求項2に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
前記容器本体の前記開口部が、断面形状が一定な筒状に形成され、
前記栓体が、その開口部の断面形状と同じ断面形状を有するものとされた請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【請求項5】
前記ハウジングが、
内部を前記ピストンが摺動する筒体と、その筒体の端部を塞ぐ閉塞体とを含んで構成され、
その閉塞体と、前記密封容器の前記蓋体とが、一体的に形成された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のシリンダ装置。
【請求項6】
前記第1作動液が、水であり、前記多孔質体が、疎水化処理された疎水化多孔質体である請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−107697(P2012−107697A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256859(P2010−256859)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】