説明

シロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子及びその製造方法、シロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子分散液、並びに樹脂組成物

【課題】芳香族セグメントが導入され、かつフルオロアルキル基含有オリゴマーの機能を有する、分散性が高く、耐熱性に優れたナノコンポジット粉末状粒子を提供する。
【解決手段】芳香族化合物及び式(1)のアルコキシシリル基とフルオロアルキル基を含有するオリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を行い得られる、芳香族セグメントを含有し、かつシロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子。


(R1及びR2は、−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC3F7基、Yは水素原子、フッ素原子又は塩素原子、p及びqは0〜10の整数。R3、R4及びR5は炭素数1〜5のアルキル基。mは2〜3の整数。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族セグメントを含有し、シロキサン結合を主骨格とするコンポジット粉末状粒子、その製造方法、該コンポジット粉末状粒子を含有する粒子分散液、樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質の粒子を小さくすると、当初の固体が有している性質とは全く異なる特異な挙動を示す超微粒子が得られることから、粒子が分散媒体中に分散した組成物の中で、粒子径がナノオーダー(数nm〜数百nm)であるようなナノ粒子が注目されている。
分散媒体中に分散した組成物はナノコンポジットと呼ばれている。ナノコンポジットは、光学材料、遮光材料、高強度材料、高耐熱性材料、難燃性材料、カラーフィルターなどに使用されている。
ナノ粒子は、粒子サイズが非常に小さく、比表面積が大きい。このため、凝集集しやすく、分散性に優れたナノコンポジット粒子の開発が要望されている。
また、高分子のナノ粒子についても開発が行われており、塗料、接着剤、コ−ティング材等の用途において用いられており、更に各種の機能を持ったナノコンポジット粒子が研究されている。
【0003】
本発明者らは、先に溶媒や樹脂に均一に分散させることができるナノコンポジット粒子として、フルオロアルキル基含有オリゴマーを用い、イオン性液体を固定化したシリカコンポジット粒子を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270124号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、フロオルアルキル基含有オリゴマーを用いたナノコンポジットの研究を進める中で、アルコキシシリル基を有する特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーと、芳香族化合物とを用いて、溶媒中で該アルコキシシリル基の加水分解反応をすることにより、該芳香族化合物に由来する芳香族セグメントが導入されたナノコンポジット粒子が得られること。該ナノコンポジット粒子は各種溶媒や樹脂にも高分散性を示すこと。また、該ナノコンポジット粒子は、含フッ素オリゴマーに起因する撥水撥油性を有すること。更には該ナノコンポジット粒子は、有機系の材料でありながら、800℃におけて耐熱性を有し、極めて耐熱性に優れたものであることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
したがって、本発明の課題は、芳香族セグメントが導入されたナノコンポジット粉末状粒子であって、かつフルオロアルキル基含有オリゴマーに起因する機能を有し、分散性が高いナノコンポジット粉末状粒子を提供すること。また、更には耐熱性にも優れたナノコンポジット粉末状粒子を提供することにある。また、本発明の課題は、該粉末状粒子を工業的に有利な方法で、かつ高収率で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明(1)は、芳香族化合物及び下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を行い得られる、芳香族セグメントを含有し、かつシロキサン結合を主骨格とする粉末状の粒子であることを特徴とするナノコンポジット粉末状粒子を提供するものである。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
また、本発明(2)は、芳香族化合物及び下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を有することを特徴とするシロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子の製造方法を提供するものである。
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
また、本発明(3)は、前記ナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とする粒子分散液を提供するものである。
【0012】
また、本発明(4)は、前記ナノコンポジット粉末状粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、芳香族セグメントが導入されたナノコンポジット粉末状粒子であって、分散性が高く、優れた撥水撥油性を有し、更に耐熱性にも優れたナノコンポジット粉末状粒子を提供することができる。また、本発明によれば、該ナノコンポジット粉末状粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のナノコンポジット粉末状粒子の構造を示す概略図。
【図2】実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子のSEM写真。
【図3】実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子のSEM写真。
【図4】実施例3及び比較例1で得られたナノコンポジット粉末状粒子のTGA及びDTAチャート。
【図5】1,1’−ビ−2−ナフトールのTGA及びDTAチャート。
【図6】比較例2及び比較例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子のTGAチャート。
【図7】比較例2及び比較例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子のDTAチャート。
【図8】実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子の昇温前と昇温後のFT−IRチャート。
【図9】実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子の昇温前と昇温後のUV吸収スペクトルチャート。
【図10】実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子の昇温前と昇温後におけるメタノール分散液でのナノコンポジット粉末状粒子の濃度と光透過率の関係を示す図。
【図11】実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子の昇温前と昇温後の蛍光スペクトルチャート。
【図12】実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子の昇温前と昇温後におけるメタノール分散液でのナノコンポジット粉末状粒子の濃度と蛍光強度の関係を示す図。
【図13】実施例4で得られたナノコンポジット粉末状粒子のTGAチャート。
【図14】実施例4で得られたナノコンポジット粉末状粒子のSEM写真(昇温前)。なお、写真中の平均粒径はSEMで測定した値である。
【図15】実施例4で得られたナノコンポジット粉末状粒子のSEM写真(800℃昇温後)。なお、写真中の平均粒径はSEMで測定した値である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
【0016】
本発明に係るナノコンポジット粉末状粒子は、芳香族化合物及び下記一般式(1)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「フルオロアルキル基含有オリゴマー」ということもある)及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて反応を行う反応工程を行い得られる、前記芳香族化合物に起因する芳香族セグメントを含有し、かつシロキサン結合を主骨格とする粉末状の粒子であることを特徴とする。
【0019】
反応工程に係る芳香族化合物としては、分子量が2000以下、好ましくは50〜1000の低分子量の芳香族化合物が、芳香族セグメントを収率よく該ナノコンポジットコンポジットに導入できるため好ましく用いられる。
【0020】
反応原料溶液が、前記芳香族化合物を含有することにより該ナノコンポジット粉末状粒子に芳香族化合物に由来する芳香族セグメントを含有させることができ、また、該芳香族セグメントを含有することにより、優れた耐熱性を有する。
【0021】
本発明において、芳香族化合物は、単環式、縮合多環式のものであってもよい。また、ベンゼン環の炭素原子が窒素原子で一部置換されていてもよく、更に4級化されてもよい。また、該芳香族化合物は置換基を有していてもよい。置換基の種類としては、特に制限されるものではないが、例えばフェニル基、アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基又はヨード基が挙げられる。
【0022】
本発明において、好ましい芳香族化合物としては、例えば下記一般式(2)又は(3)で示される。
【0023】
【化4】

【0024】
前記一般式(2)中のXは、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示し、式中のn1は0〜3の整数を示す。
式中、R、R、R及びRは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基の群から選ばれる基を示し、同一の基であっても異なる基であってもよい。また、RとR、及びRとRで互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成していてもよく、該飽和又は不飽和の環は、置換基を有してもよい。前記一般式(2)の式中のR、R、R及びRのアルキル基は、炭素数が1〜6のアルキル基が好ましい。R、R、R及びRに係るアルキル基としては、例えば、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基、n−ヘプチル基、イソヘキシル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0025】
また、RとR或いはRとRが互いに結合して飽和又は不飽和の環を形成している場合、RとR或いはRとRが互いに結合して形成された環としては、飽和又は不飽和の五員環又は六員環が挙げられ、例えば、フェニル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
【0026】
また、RとR或いはRとRが互いに結合して形成された環は、一価の置換基を有してもよく、RとR或いはRとRが互いに結合して形成された環が有する一価の置換基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状であり且つ炭素数が1〜5のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。
【0027】
前記一般式(2)中のAは2価の連結基を示す。2価の連結基としては、例えば炭素数1〜20のアルキレン基、フェニレン基、或いは窒素を含む基が好ましく、また、前記アルキレン基又はフェニレン基は水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。式中のn2は0又は1の整数を示す。
【0028】
前記一般式(3)中のR10は、炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基が好ましい。前記一般式(3)中のXは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく用いられる。前記R10及びXのアルコキシ基及びアルキル基は、水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。式中のn3は0〜4の整数を示す。また、式中のYはアニオン基を示し、該アニオン基はハロゲン原子が特に好ましい。
【0029】
前記一般式(4)中のR11は、炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基が好ましい。R11は、炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基が好ましい。前記アルキル基及びアルコキシ基は、水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。Xは、ヒドロキシル基、ハロゲン原子を示す。式中のn4は0〜2の整数を示す。
【0030】
本発明において、特に好ましい低分子量の芳香族化合物は、1,1−ビ−2−ナフトール(分子量;286)、4,4’−ビフェノール(分子量;186)、ビスフェノールA(分子量;228)、ビスフェノールAF(分子量;336)、セチルピリジニウムクロリド(分子量;340)、ビフェニル(分子量;154)、クレゾール(分子量;108)及びクロルヘキシジン(分子量;505)から選ばれるものが好ましい。
反応工程に係るフルオロアルキル基含有オリゴマーは、下記一般式(1)で表される。
【0031】
【化5】

【0032】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
反応原料溶液が、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するナノコンポジット粉末状粒子となる。本発明のナノコンポジット粉末状粒子が、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有することにより、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が更に高くなり、更には撥水撥油性等の特性も有することができる。
前記一般式(1)中のR、R及びRで示される炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることにより製造することができる(例えば、特開2002−338691号公報参照)。
【0033】
反応工程に係る反応溶媒は、前記フェノール誘導体及びフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解するものが用いられる。反応工程に係る反応溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0034】
本発明の反応工程において、反応原料溶液を調製する際に、フェノール誘導体及びフルオロアルキル基含有オリゴマーを反応溶媒に混合する順序は特に制限されるものではない。
【0035】
反応原料溶液中のフェノール誘導体の含有量は、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー10gに対して、好ましくは0.001〜10モル、さらに好ましくは0.005〜5モル、特に好ましくは0.01〜1モルである。反応原料溶液中の前記フェノール誘導体の含有量が、上記範囲にあることにより、ナノコンポジット粉末状粒子中のフェノール誘導体の含有量が高くなり、耐熱性に優れたものになる。反応原料溶液中に含有させるフェノール誘導体を有する化合物の含有量が、フルオロアルキル基含有オリゴマー10gに対して、0.001モル未満だと、ナノコンポジット粉末状粒子中に含有されるフェノール誘導体の含有量が低くなり易く、耐熱性に優れたものが得られ難い。一方、フェノール誘導体の含有量が、フルオロアルキル基含有オリゴマー1gに対して、10モル以上だと、フルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量が低くなって、種々の分散溶媒又は樹脂材料へのナノコンポジット粉末状粒子の分散性が低くなりやすい。
【0036】
反応工程において、反応原料溶液に加えるアルカリとしては、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基の加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリとしては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げられ、反応性が高い点で、好ましくは水酸化アンモニウムである。
【0037】
反応原料溶液に加えるアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。また、反応原料溶液に、アルカリを混合して、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−5℃未満だと、アルコキシシリル基の加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、ナノコンポジット粉末状粒子の分散安定性が低くなり易い。また、反応原料溶液に、アルカリを混合して、アルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0038】
そして、反応工程を行うことにより、シロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子が生成し、本発明に係るナノコンポジット粉末状粒子を含有する反応液が得られる。
【0039】
本発明のナノコンポジット粉状粒子を含有する反応液は、懸濁液であり、目視にて反応液中に固形物が観察される。また、該反応液を同様に3000rpmで30分間遠心分離処理したときには、ナノコンポジット粒子が固形物として沈殿する。
従って、本発明では、反応工程を行い得られる反応液から、ナノコンポジット粉末状粒子を回収する方法としては、例えば、反応液を遠心加速度800Gで30分間程度の遠心分離処理して目的物を沈殿物として回収し、必要により洗浄し、次いで乾燥して本発明のナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。
【0040】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子において、芳香族化合物の含有率は、好ましくは0.1〜70重量%、特に好ましくは1〜50重量%である。例えば、本発明のナノコンポジット粉末状粒子における芳香族化合物の含有率は、該ナノコンポジット粉末状粒子を熱重量分析することで求めることができる。
【0041】
また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子において、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの加水分解生成物の含有率は、好ましくは1〜98重量%、特に好ましくは10〜95重量%である。本発明のナノコンポジット粉末状粒子におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーの加水分解生成物の含有率は、熱重量分析することで求めることができる。
【0042】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、反応工程においてアルコキシリル基の加水分解により形成されたシロキサン結合を含む。本発明のナノコンポジット粉末状粒子において、Si原子の含有量は、SiO換算で、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10〜90重量%である。本発明のナノコンポジット粉末状粒子におけるSi原子の含有量は、熱重量分析により求めることができる。
【0043】
また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子の他の好ましい物性としては、平均粒径が好ましくは10〜950nm、特に好ましくは50〜900nmである。平均粒径が前記範囲内にあると、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が良好である点で好ましい。
本発明にかかるナノコンポジット粉末状粒子は、芳香族化合物に起因する芳香族セグメントを含有する。図1は本発明のナノコンポジット粉末状粒子の構造の概略図である。芳香族化合物を含む溶液に、前記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを添加し、該アルコキシシリル基を加水分解して生成される該フルオロアルキル基含有オリゴマーの加水分解生成物(図1の(2))は、シロキサン結合を主骨格とし、また、該フルオロアルキル基含有オリゴマーの加水分解生成物(図1の(2))の自己組織化により形成するシロキサンを主骨格とするフッ素系分子集合体がホスト場として作用し、シロキサン結合を介して前記芳香族化合物分子(図1の(3))をゲストとして取り込んで、安定なホスト−ゲスト構造を構築するため、本発明では、ナノコンポジット粉末状粒子(図1の(1))として回収することが可能になるものと考えられる。
【0044】
また、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、有機物を含有するにもかかわらず、800℃において耐熱性に優れる理由は、ナノコンポジット生成反応におけるゾル-ゲルプロセスの段階において生成するヘキサフルオロシリケートが効率よく芳香族化合物と相互作用し、芳香族化合物に不燃性を付与させるものと推定される。
【0045】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されている分散液である。
【0046】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、種々の分散溶媒に対して高い分散性を示す。そのため、本発明のナノコンポジット粉末状粒子を分散溶媒に分散させて得られる分散液、すなわち、本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液では、ナノコンポジット粉末状粒子が凝集せずに分散しているので、目視において固形物が観察されない。
【0047】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る分散溶媒としては、本発明のナノコンポジット粉末状粒子に不活性で、均一分散可能なものであれば特に制限はなく、水又は有機溶媒のいずれでもよく、また、有機溶媒としては、極性有機溶媒又は非極性有機溶媒のいずれでもよい。本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン等が挙げられ、特に本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、イソプロピルアルコールに対して極めて高い分散性を示す。
【0048】
本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液中、ナノコンポジット粉末状粒子の濃度は、用途や使用方法等を考慮して適宜調整すればよく特に制限されるものではなく、多くの場合、0.1〜90重量%である。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子を含有する。言い換えると、本発明の樹脂組成物は、本発明のナノコンポジット粉末状粒子が、樹脂材料に分散されている。そして、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、微細でありかつ樹脂材料への分散性が高いので、本発明の樹脂組成物は、ナノコンポジット粉末状粒子が微細でかつ均一に分散された樹脂組成物である。
【0050】
本発明の樹脂組成物において、ナノコンポジット粉末状粒子を分散させる樹脂材料としては、特に限定はなく、ゴムの組成物として用いる場合には、例えば天然ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム(SBR)、アクロニトリル−ブタジエン系ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン系ゴム(EPPM)、クロロブチレンゴム(CR)、ポリイソブチレンゴム、アルリルゴム、水素化アクロニトリル−ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム、クリリスルホン化ゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性物等が挙げられ、これらは、2種以上のブレンドゴムであってもよい。また、その他シート、フィルム、容器、繊維等の樹脂成型品を得る場合にマトリックスとなる樹脂類としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリールフタレート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂、アルキド樹脂、メラニン樹脂、グアナジン樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、含フッ素樹脂及びそれらの変性物等が挙げられる。
【0051】
本発明の樹脂組成物中、本発明のナノコンポジット粉末状粒子の含有量は、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.5〜40重量%である。
【0052】
また、本発明の樹脂組成物は、他の成分として、ホワイトカーボン、カーボンブラック、ゼオライト、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等の無機質充填剤、ハイスチレン樹脂、リグニン、フェノール樹脂等の有機質充填剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、体質顔料、分散助剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、軟化剤、老化防止剤、可塑剤等を含有することができる。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、例えば、本発明のナノコンポジット粉末状粒子と、所望の樹脂材料とを混合し、溶融ブレンド等することにより、樹脂材料に本発明のナノコンポジット粉末状粒子を分散させて製造される。また、本発明の樹脂組成物は、例えば、所望の樹脂材料を溶媒に溶解させた樹脂溶液に、本発明のナノコンポジット粉末状粒子又は本発明のナノコンポジット粉末状粒子分散液を添加し、混合した後、例えば、フィルム状等所望の形状に成形し、乾燥して、溶媒を蒸発除去することにより製造される。
【0054】
本発明の芳香族セグメントが導入されたナノコンポジット粉末状粒子は、フルオロアルキル基含有オリゴマーに起因する撥水撥油性を有している。更には該ナノコンポジット粒子は、有機系の材料でありながら、800℃程度に加熱処理しても、加熱処理後においてフッ素に起因する高い撥水撥油性を有し、極めて耐熱性に優れたものである。従って、このような特性を有するナノコンポジット粉末状粒子を配合した樹脂組成物は、耐熱性が要求される分野で使用される樹脂組成物として好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(合成例1)
トリメトキシビニルシラン(2.3g)を過酸化ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル(5.1g)を含むAK−225溶液150gに加え、窒素雰囲気下で45Cにて5時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を除去し、次いで蒸留を行うことにより、目的とする一般式(1)に包含されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(略称;RF−VMオリゴマー)3.0gを得た。その結果を表1に示す。なお、AK−225は、旭硝子社製の不燃性フッ素系溶剤であり、その構造式はCFCFCHCl/CClFCFCHClFで表される。
【0056】
【表1】

【0057】
*表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
(合成例2)
【0058】
【化6】

【0059】
1Lの3つ口フラスコに、アクリル酸29.4g(0.41mol)及びAK−225を500mlを仕込み、更に、室温で、ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルペルオキシド([C−O−CF(CF)−CO−O−])の10%AK−225溶液を334g(ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルペルオキシド0.05mol)仕込んだ。その後、撹拌しながら45℃まで昇温し、5時間熟成後、撹拌を止めて、一晩静置した。静置後、濃縮し、AK−225を用いて洗浄し、ろ過を行い、50℃で真空乾燥して、上記一般式(a)で表されるオリゴマー(略称:RF−ACAオリゴマー)を得た。なお、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量は2770であった。
・AK−225:旭硝子社製、不燃性フッ素系溶剤、構造式CFCFCHCl/CClFCFCHClF
{実施例1〜3}
合成例1で調製したRF−VMオリゴマー150mgを含むメタノール溶液12.5mlに、1,1’−ビ−2−ナフトール(東京化成工業社製)60mgを加え、次いで28wt%アンモニア水溶液を添加し、マグネチックスターラーにより1晩攪拌した。更に遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、得られた固形分をメタノールで数回洗浄し、溶媒除去後に、50℃で真空乾燥して目的物(ナノコンポジット粉末状粒子)を得た。
【0060】
各実施例で得られたナノコンポジット粉末状粒子をFT−IRで測定した結果、いずれも1380cm−1、1330cm−1、1218cm−1、1176cm−1、752cm−1に1,1’−ビ−2−ナフトールに起因するピークが確認できた。
{比較例1}
1,1’−ビ−2−ナフトールを添加しない以外は実施例1と同様にして反応を行ってナノコンポジット粉末状粒子を得た。
【0061】
【表2】

【0062】
注)表中の収率はRF−VMオリゴマーと1,1’−ビ−2−ナフトールに基づく収率である。
{比較例2}
合成例2で調製したRF−ACAオリゴマー150mgを含むメタノール溶液12.5mlにテトラエトキシシラン0.3ml及び1,1’−ビ−2−ナフトール(東京化成工業社製)60mgを加え、更に28wt%アンモニア水2.4mlを添加してマグネチックスターラーにより室温(25℃)で4時間攪拌し反応を行った。
【0063】
反応終了後、溶媒を除去し、メタノール中に再分散させてマグネチックスターラーにより一晩攪拌した。更に遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、得られた固形分をメタノールで数回洗浄し、溶媒除去後に、50℃で真空乾燥して目的物(ナノコンポジット粉末状粒子)を得た(収率70%)。
【0064】
{比較例3}
1,1’−ビ−2−ナフトールを添加しない以外は比較例2と同様にして反応を行ってナノコンポジット粉末状粒子を得た。
<物性評価>
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られたナノコンポジット粉末状粒子試料について、平均粒径、Si含有量、F含有量を測定し、また、実施例1〜3及び比較例2では、1,1’−ビ−2−ナフトールの含有量を求めた。
【0065】
また、実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2と図3に示す。
(平均粒径の評価)
得られたナノコンポジット粉末状粒子を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
(Si含有量の評価)
得られたナノコンポジット粉末状粒子についてTGA測定を行った。TGAカーブから、Si含有量(SiO換算)を求めた。
(RF−VMオリゴマー加水分解物の含有量の評価)
得られたナノコンポジット粉末状粒子を熱重量分析して求めた。
(1,1’−ビ−2−ナフトールの含有量の評価)
得られたナノコンポジット粉末状粒子を熱重量分析して求めた。
【0066】
【表3】

【0067】
(分散性の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られたナノコンポジット粉末状粒子の各種分散溶媒に対する分散性を試験した。その結果を表4に示す。なお、評価分散溶媒5mlにナノコンポジット粉末状粒子0.01gを添加し、分散状態を目視で観測して評価した。
【0068】
・ ;良好な分散
・ ;一部分散
×;ほとんど分散しない
【0069】
【表4】

【0070】
注)AK−225(CFCFCHClとCClFCFCHClFの重量比で1:1の混合溶液)
(耐熱特性の評価)
<評価1;TGA、DTA>
実施例3、比較例1で得られたナノコンポジット粉末状粒子のTGAとDTAチャートを図4に示す。なお、1,1’−ビ−2−ナフトールのみのTGAとDTAチャートを図5に示す。
比較例2、比較例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子のTGAとDTAチャートを図6、図7に示す。
【0071】
図4より、RF−VFオリゴマーを使用して芳香族セグメントを導入した実施例3のナノコンポジット粉末状粒子は、芳香族セグメントを導入していないナノコンポジット粉末状粒子(比較例1)に比べ、高温域での重量変化が小さいことから耐熱性に優れていることが分かる。
【0072】
一方、図6及び図7の結果より、RF−ACAオリゴマーを使用して芳香族セグメントを導入した比較例2のナノコンポジット粉末状粒子は、芳香族セグメントを導入していないナノコンポジット粉末状粒子(比較例3)に比べ、高温域での重量変化が返って大きくなり、芳香族セグメントを導入したことによる耐熱性の向上効果が確認できなかった。
<評価2;FT−IR分析>
実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子を室温(25℃)から10℃/minで800℃まで空気雰囲気中で昇温した後のナノコンポジット粉末状粒子のFT−IRチャートを図8に示す。
【0073】
なお、図8に昇温前のナノコンポジット粉末状粒子のFT−IRチャートと1,1’−ビ−2−ナフトールのIRチャートも併記した。
【0074】
図6の結果より、昇温後においてもナノコンポジット粉末状粒子中に1,1’−ビ−2−ナフトールに由来するピークが観察された。
<評価3;UV吸収スペクトル分析>
実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子を室温(25℃)から10℃/minで800℃まで空気雰囲気中で昇温した後と昇温する前の各ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させ、UV吸収スペクトルを測定した。そのスペクトルチャートを図9に示す。また、1,1’−ビ−2−ナフトールをメタールに溶解させた溶液のUV吸収スペクトルチャートも図9に合せて併記した。
<評価4;UV吸収スペクトル分析>
実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子を室温(25℃)から10℃/minで800℃まで空気雰囲気中で昇温した後と昇温する前の各ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させ、UV吸収スペクトル分析により、335nmでの吸収度の光透過率とナノコンポジット粒子粉末状の濃度との関係を求めた。その結果を図10に示す。
<評価5;蛍光スペクトル分析>
実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子を室温(25℃)から10℃/minで800℃まで空気雰囲気中で昇温した後と昇温する前の各ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させ0.20g/dmの濃度の分散液を調製し、蛍光スペクトルを測定した。そのスペクトルチャートを図11に示す。また、1,1’−ビ−2−ナフトールをメタノールに溶解させた溶液では、励起スペクトル極大波長が233nmと275nm、蛍光スペクトル極大波長が360nmで観察された。
【0075】
なお、蛍光スペクトルの測定は、昇温前のナノコンポジット粉末状粒子試料については276nmの励起波長を用い、昇温後のナノコンポジット粉末状粒子試料については276nmの励起波長を用いて蛍光スペクトルの測定を行った。
<評価6;蛍光スペクトル分析>
実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子を室温(25℃)から10℃/minで800℃まで空気雰囲気中で昇温した後と昇温する前の各ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させ、蛍光スペクトル分析により、蛍光波長363nm(励起波長276nm)での蛍光強度とナノコンポジット粒子粉末状の濃度との関係を求めた。その結果を図12に示す。
【0076】
前記評価2〜6の結果から、本発明のナノコンポジット粉末状粒子は、800℃での昇温前では、1,1’−ビ−2−ナフトールに起因する明確なUVスペクトルと蛍光スペクトルが観察されないにもかかわらず、800℃での昇温品においては、1,1’−ビ−2−ナフトールに起因する明確なUV吸収スペクトルと蛍光スペクトルが観察され、更に、UV吸収スペクトルと蛍光スペクトル分析の結果、ナノコンポジット粉末状粒子の濃度と光の透過率或いは蛍光強度との間には明らかな相関が認められた。
【0077】
これらの結果は、RF−VMオリゴマーを用いてコンポジット化を行ったものは、シリカマトリックス中に分子レベルで1,1’−ビ−2−ナフトールが強固にカプセル化されているためによるものと考えられる。
(樹脂組成物)
水8mlにポリビニールアルコールを溶かし、これに、実施例3で得られたナノコンポジット粉末状粒子と、該ナノコンポジット粉末状粒子を室温(25℃)から10℃/minで800℃まで空気雰囲気中で昇温した後のナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させた分散液を添加し、ポリビニールアルコール0.7重量部に対してナノコンポジット粉末状粒子を0.3重量部含有する樹脂溶液を調製した。
次いでシャーレにこれら樹脂溶液を加え、2日間室温(25℃)を自然乾燥、更には1晩真空乾燥し、キャストフィルムを作成した。
得られたポリビニールアルコールフィルムの表面のドデカンと水の接触角を(25℃)で測定した。その結果を表5に示す。接触角は、協和界面科学製のDrop Master.300を使用して測定した。また、シャーレのみのドデカンと水の接触角の測定値をブランクとして併記した。
【0078】
【表5】

【0079】
{実施例4}
合成例1で調製したRF−VMオリゴマー150mgを含むメタノール溶液12.5mlに、4,4’−ビフェノール0.32mmolを加え、次いで28wt%アンモニア水溶液2.4mlを添加し、マグネチックスターラーにより4時間攪拌した。更に遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、得られた固形分をメタノールで数回洗浄し、溶媒除去後に、50℃で真空乾燥して目的物(ナノコンポジット粉末状粒子)を得た(収率26%)。
【0080】
実施例4で得られたナノコンポジット粉末状粒子をFT−IRで測定した結果、4,4’−ビフェノールに起因するピークが確認できた。
【0081】
<物性評価>
実施例1〜3と同様にしてナノコンポジット粉末状粒子試料について、平均粒径、Si含有量、F含有量を測定し、また、4,4’−ビフェノールの含有量を求めた。
【0082】
【表6】

【0083】
(耐熱特性の評価)
実施例4で得られたナノコンポジット粉末状粒子のTGAチャートを図13に示す。なお、4,4’−ビフェノールのみと、芳香族セグメントを導入していないナノコンポジット粉末状粒子(比較例1)のTGAチャートも併記した。
【0084】
図13より、実施例4で得られたナノコンポジット粉末状粒子は、芳香族セグメントを導入していないナノコンポジット粉末状粒子(比較例1)とほぼ同等の重量減少率を示した。通常、有機物を含有させた場合には、ナノコンポジット粉末状粒子(比較例1)に比べて重量減少率が大きくなることから、800℃での加熱処理後においてもナノコンポジット粉末状粒子中に、4,4’−ビフェノールが存在しているものと思われる。
【0085】
また、実施例4で得られたナノコンポジット粉末状粒子を室温(25℃)から10℃/minで800℃まで空気雰囲気中で昇温した後と昇温する前の各ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させ0.20g/dmの濃度の分散液を調製し、蛍光スペクトルを測定した。その結果、昇温する前では蛍光スペクトルが観察されなかったが、800℃での昇温後において、励起スペクトル極大波長が233nm、蛍光スペクトル極大波長が362nmで観察された。
【0086】
また、800℃へ昇温前と昇温後のSEM写真を図14及び図15にぞれぞれ示す。
【0087】
{実施例5〜9}
合成例1で調製したRF−VMオリゴマー150mgを含むメタノール溶液12.5mlに、各種の芳香族化合物60mmolを加え、次いで28wt%アンモニア水溶液2.4mlを添加し、マグネチックスターラーにより4時間攪拌した。更に遠心分離処理して目的物を固形分として分離し、得られた固形分をメタノールで数回洗浄し、溶媒除去後に、50℃で真空乾燥して目的物(ナノコンポジット粉末状粒子)を得た。
【0088】
また、得られたナノコンポジット粉末状粒子をFT−IRで測定した結果、添加した芳香族化合物に起因するピークがそれぞれ確認できた。
【0089】
なお、芳香族化合物は以下のものを使用した。
【0090】
試料A;ビフェノール
試料B;セチルピリジニウムクロリド
試料C;ビスフェノールA
試料D;ビスフェノールAF
試料E;クロルヘキサジン
【0091】
【表7】

【0092】
<物性評価>
実施例1〜3と同様にしてナノコンポジット粉末状粒子試料について、平均粒径、Si含有量、F含有量を測定し、また、各芳香族化合物の含有量を求めた。
【0093】
【表8】

【0094】
実施例5、6、7、8で得られたナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに分散させ、0.20g/dmの濃度の分散液を調製し、実施例4と同様にして、蛍光スペクトルを測定した。その結果、実施例5〜7では、昇温前は蛍光スペクトルが観察されなかったが、800℃の昇温後に実施例5(励起スペクトル極大波長278nm、蛍光波長スペクトル極大波長320nm)、実施例6(励起スペクトル極大波長267nm、蛍光スペクトル極大波長354nm)、実施例7(励起スペクトル極大波長268nm、蛍光スペクトル極大波長373nm)で320〜370nm付近で強い蛍光スペクトルが観察された。また、実施例8では、昇温前でも蛍光スペクトルが観察され、800℃昇温後においても、強い蛍光スペクトル(励起スペクトル極大波長270nm、蛍光スペクトル極大波長350nm)が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の芳香族セグメントが導入されたナノコンポジット粉末状粒子は、分散性が高く、優れた撥水撥油性を有し、更に耐熱性にも優れたナノコンポジット粉末状粒子であり、また、本発明によれば、該ナノコンポジット粉末状粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物及び下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を行い得られる、芳香族セグメントを含有し、かつシロキサン結合を主骨格とする粉末状の粒子であることを特徴とするナノコンポジット粉末状粒子。
【化1】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項2】
前記芳香族化合物が、分子量が2000以下の低分子量の芳香族化合物であることを特徴とする請求項1記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項3】
前記低分子量の芳香族化合物が、1,1−ビ−2−ナフトール、4,4’−ビフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAF、セチルピリジニウムクロリド、ビフェニル、クレゾール及びクロルヘキシジンから選ばれることを特徴とするナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項4】
平均粒子径が10〜950nmであることを特徴とする請求項1乃至3記載のナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項5】
芳香族化合物び下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて、該アルコキシシリル基の加水分解反応を行う反応工程を有することを特徴とするシロキサン結合を主骨格とするナノコンポジット粉末状粒子の製造方法。
【化2】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項記載のナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とする粒子分散液。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか一項記載のナノコンポジット粉末状粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−235943(P2010−235943A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54866(P2010−54866)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】