説明

シークイン送り装置を備えたミシン

【課題】シークイン連結体における切断箇所のずれや、縫糸のささくれ、あるいは糸切れを防止する。
【解決手段】縫い動作に伴って先頭のシークインをシークイン連結体(7)から切断するための切断機構(C)において、その切断タイミングとして、縫針(26)が被縫製体(H)に挿針されると略同時にシークインの切断を行うように構成する。例えば、切断機構(C)は、可動刃(21)と、縫い動作に伴って可動刃(21)に当接し該可動刃(21)を所定方向に付勢して該可動刃(21)によりシークインを切断させる当接部材(31)とを含み、当接部材(31)は、縫い動作時に縫針(26)に連動して被縫製体(H)を押え付けるための押え部材(29)に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シークイン送り装置を備え、シークイン連結体からシークインを切断しつつシークインを被縫製体に縫着するミシンに関し、特に、ミシンの縫い動作に連動して送り出されたシークイン連結体からシークインを切断する切断タイミングを早めたことに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すような、従来のシークイン送り装置は、多数のシークイン(スパンコール)を連結してなるシークイン連結体を1個分のシークインのサイズに対応する所定ピッチで送り出す送り機構を備えており、図8には従来のシークイン送り装置の一例がその送り機構の部分を拡大して示してある。従来のシークイン送り装置は、シークイン連結体50を巻回収納したリールから該シークイン連結体50を繰り出して支承板51の上面に載置し、送りレバー52の前進及び後退動作によってシークイン連結体50を所定ピッチで送り出し、ミシンの縫い動作による針棒53の上下動に連動して、送り出されたシークイン連結体50から1個のシークインを切断しつつシークインを被縫製体Hに縫着している。
【0003】
従来のシークイン送り装置を備えたミシンにおいて、シークインの切断は支承板51の端部に回動可能に配置された可動刃54と、支承板51の端部に設けられた固定刃55とによって行われる。縫い動作によって針棒53が下降すると、送り出されたシークインの針通し孔に縫針56が嵌入した後、針抱き57が可動刃54と当接する。図9には針抱き57が可動刃54と当接した状態が示してあり、この状態から更に針棒53が下降することによって可動刃54が回動され、針棒53が下死点に至る少し手前でシークインが切断されてシークイン連結体50から切り離される。従って、図9に示すように、縫針56がかなり被縫製体Hを突き差し抜いた段階で、シークインが切断されるようになっていた。そして、切り離されたシークインは針通し孔に嵌入している縫針56に案内されて被縫製体H上に落下し、以降の縫い動作によって縫い付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2004−167097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のシークイン送り装置を備えたミシンでは、シークインの切断は針棒の下死点付近で、縫針がシークインの針通し孔に深く貫通した状態で切断されることとなる。このとき、ミシンの振動や縫針が被縫製体に挿針するときの撓みなどによって、縫針もしくは縫針に通された縫糸がシークインの針通し孔の周縁と接触することがある。この縫針もしくは縫糸が接触した状態で縫針が下降すると、図10に示すように送り出されたシークインも一緒に下方に押し込まれることとなり、シークイン連結体が引き出されて切断箇所がずれるという不具合があった。また、縫糸が針通し孔の周縁に接触した状態で縫針が下降すると縫糸が擦れて、ささくれが出来たり、切れたりする不具合があった。特にサイズの小さいシークインでは、当然のことながら針通し孔の径も小さくなるため、上記の不具合が発生し易い。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、シークイン連結体における切断箇所のずれや、縫糸のささくれ、あるいは糸切れを防止できるようにしたシークイン送り装置を備えたミシンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るミシンは、シークイン連結体をシークインのサイズに対応する所定ピッチで所定の切断位置に向けて送り出すシークイン送り装置と、前記シークイン連結体の先頭のシークインの針通し孔に縫針が嵌入した後に、該先頭のシークインを前記シークイン連結体から切断する切断機構とを備え、前記切断機構は、前記縫針が被縫製体に挿針されると略同時にシークインの切断を行うように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、シークインの切断を縫針が被縫製体に挿針されると略同時に行うようにしたため、縫針がシークインの針通し孔に貫通後の早いタイミングにてシークインが切断されてシークイン連結体から切り離されることとなり、縫針もしくは縫糸がシークインの針通し孔の周縁に接触していても直ぐにシークインが切断されて、接触が回避される位置にずれる。このように、縫針もしくは縫糸が針通し孔の周縁に接触したとしても、接触している時間は極僅かなものとなるため、シークイン連結体が引き出されて切断箇所がずれることがない。また、縫糸が擦れてささくれが出来たり、切れたりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るミシンが具備するシークイン送りユニットの一例を示す右側面図。
【図2】図1におけるシークイン送り機構の部分を拡大して示す側面図。
【図3】図2に示されたシークイン送り機構の背面図。
【図4】布押えの一例を拡大して示す立体図。
【図5】縫針がシークインの針通し孔に嵌入した後に布押え体の当接部材が可動刃に当接した状態を示すシークイン送り機構の側面図。
【図6】縫針が被縫製体に挿針するのと略同時にシークインが切断されてシークイン連結体から切り離される状態を示すシークイン送り機構の側面図。
【図7】切断機構の別の例を示す略図。
【図8】従来のシークイン送り装置の送り機構の部分を拡大して示す側面図。
【図9】図8に示す従来のシークイン送り装置の動作状態を示す側面図。
【図10】図8に示す従来のシークイン送り装置の動作状態を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1において、Mはミシンヘッド、2は針棒ケース、3は針板である。図示の例では、シークイン送りユニット(シークイン送り装置)1は針棒ケース2の左サイドにのみ装備してある。しかし、これに限らず、シークイン送りユニット1を、針棒ケース2の右サイドに装備してもよいし、左及び右の両サイドにそれぞれ装備するようにしてもよい。針棒ケース2は多針構成からなり、本実施例のようにシークイン送りユニット1を針棒ケース2の左サイドに装着する場合は、針棒ケース2内の最左側の縫針がシークイン縫い用の針として使用される。
【0011】
シークイン送りユニット1は、針棒ケース2の左側面に固定されたベース4と、ベース4に昇降可能に設けられた取付ベース5を備えている。ベース4の上方部には上部ブラケット6が固定してあり、上部ブラケット6にはシークイン連結体7を巻回したリール8が支持してある。取付ベース5には、シークインの送り出しを行うシークイン送り機構9が設けてある。
【0012】
図2は、シークイン送り機構9の部分を拡大して示した側面図、図3はその背面図である。シークイン送り機構9は、取付ベース5の下方に固定された支持プレート10と、支持プレート10の下方に固定された支持ブロック11とを備えている。支持ブロック11の下端にはシークイン連結体7を支承するための支承板12が水平に設けてある。この支承板12上に、リール8から繰り出したシークイン連結体7を、取付ベース5に設けた複数の案内部材、及び、シークイン送り機構9に設けた案内部材13を介して導く。
【0013】
支持プレート10にはモータ14が固定してあり、そのモータ軸15には揺動アーム16が固定してある。揺動アーム16の先端には送りレバー17が軸18により回動自由に支持してある。送りレバー17は、図示しないトーションバネによって先端側が常に支承板12に接する方向に付勢されている。そして、モータ14の駆動により、揺動アーム16を所定角度範囲で往復揺動駆動して、送りレバー17を前進及び後退駆動することで、シークイン連結体7の送り出し動作が行われる。
【0014】
支持ブロック11には規制部材19が設けてあり、規制部材19にはシークイン送り動作が終了した状態の送りレバー17の当接片17aと当接し、送りレバー17の先端の浮き上がりを防止するピン20が固定してある。
【0015】
支持ブロック11の下部には可動刃21がピン22により回動自由に支持してあり、図示しないトーションバネによって常には上向きに付勢され、図3に示す退避姿勢に保持されている。支承板12の端縁(すなわち、所定の切断位置)には、可動刃21と協働してシークインを切断する固定刃23が設けてある。この可動刃21と固定刃23及び後述する当接部材31とで、切断機構Cを構成している。
【0016】
図2において、24は針棒ケース2内の最左側の針棒であり、針棒24の下端には針抱き25によって縫針26が固定してある。27は周知の布押えで、ミシンの縫い動作に伴って上下動され、縫針26が被縫製体Hに挿針されるときに下死点に至って被縫製体Hを押え付ける。なお、周知のように、縫針26(針棒24)の上下動範囲と布押え27の上下動範囲は異なっており、布押え27の下死点は縫針26(針棒24)の下死点よりも高い位置である。図4には布押え27が立体図で示してある。布押え27はベース部材28と布押え体(押え部材)29とで構成してあり、ベース部材28の下端に布押え体29がネジ30にて固定してある。布押え体29の下端部には、縫着するシークインと干渉しないように略半円状の逃し部を備えた押え部29aが形成してある。なお、この布押え体29はシークインのサイズに応じて交換できるようになっている。布押え体29には、可動刃21と当接可能な当接部材31がネジ32にて固定してある。当接部材31には縫針26の貫通を許容する切欠き31aが形成してある。
【0017】
ミシンの縫い動作によって針棒24とともに布押え27が下降すると、当接部材31が可動刃21の上部に当接して該可動刃21を下向きに付勢する。これにより、該可動刃21がトーションバネの弾力に抗して下向きに回動し、固定刃23との協働によって、シークイン連結体7の先頭のシークインを切断する。このシークインの切断が、布押え27が下死点に至り縫針26が被縫製体Hに挿針するのと略同時に行われるように、布押え体29において当接部材31を配置する高さを適切に定める(そのように構成する)。また、当接部材31は、その取付孔が上下に延びた長孔となっていて、布押え体29における当接部材31の取り付け位置を上下に調整可能としており、これにより、縫針26が被縫製体Hに挿針するのと略同時にシークインが切断されるように適切に調整することができるようになっている。なお、針棒24とともに布押え27が上昇すると、可動刃21はトーションバネの復元力により元の退避姿勢に戻る。
【0018】
次に、本実施例によるシークインの切断について詳細に説明する。図2は一つのシークイン送り動作が終了した状態を示しており、シークイン連結体7の先頭の一つのシークインが支承板12から突出している。この状態において下降してくる縫針26、布押え27により次のように作動する。
【0019】
まず、縫針26がシークインの針通し孔に嵌入した後、布押え体29の当接部材31が可動刃21の上部に当接する。このときの状態が図5に示してある。この状態から更に縫針26、布押え27が下降すると可動刃21が下方に回動され、図6に示すように、縫針26が被縫製体Hに挿針するのと略同時にシークインが切断されてシークイン連結体7から切り離される。すると、切り離されたシークインが、その針通し孔に縫針26が嵌入した状態を保ったまま被縫製体H上に落下し、引き続く縫い動作によって縫い付けが行われる。なお、本発明において「縫針26が被縫製体Hに挿針するのと略同時にシークインが切断される」とは、縫針26が被縫製体Hに挿針開始するのと同時にシークインが切断されることを含むのは勿論のこと、縫針26が被縫製体Hに挿針開始するよりも幾分(若しくは適宜に)早くシークインが切断されること、及び縫針26が被縫製体Hに挿針開始したときから幾分(若しくは適宜に)遅くれてシークインが切断されることを含む。
【0020】
本実施例によれば、縫針26が被縫製体Hに挿針されると略同時にシークインが切断されるため、縫針26がシークインの針通し孔に貫通後の早いタイミングにてシークインが切断されてシークイン連結体から切り離されることとなり、縫針26もしくは縫針26に通された縫糸がシークインの針通し孔の周縁に接触していても直ぐにシークインが切断されて、接触が回避される位置にずれることとなる。これにより、縫針26もしくは縫糸が針通し孔の周縁に接触したとしても、接触している時間は極僅かなものとなるため、シークイン連結体7が引き出されて切断位置がずれることがない。また、縫糸が擦れてささくれが出来たり、切れたりすることがない。また、縫針26が被縫製体Hに挿針されると略同時にシークインを切断される構成であるため、切り離されたシークインがその針通し孔に縫針26が嵌入した状態を保ったまま被縫製体H上に落下することを確実にし、切断されたシークインが針落ち位置から幾分ずれる等のトラブルが起こるおそれが全くなく、切断されたシークインの縫い付けを確実に行うことができる。
【0021】
なお、上記実施例において、当接部材31に縫針26の貫通を許容する切欠き31aを形成した形態としたが、切欠きに限らず、孔など他の形状であってもよい。また、シークイン送りユニット1の構成は上記実施例に示す構成に限らず、公知のどのような構成からなっていてよい。
【0022】
また、上記実施例においては、可動刃21を上下方向に回動自由に支持し、可動刃21を回動(下方向に駆動)させてシークインを切断するようにしたが、これに限らず、可動刃21を上下スライド(下方向に駆動)あるいは水平スライド(横方向に駆動)させるなど、他の適宜の移動形態としてもよい。また、別の例として、可動刃21を回動させる駆動源を設けるようにしてもよい。図7はその一例を示す略図であり、可動刃21は電気モータMOによって回動されるように構成される。ミシン主軸の回転角度を検出するための主軸回転角度検出器60により縫針26の位置を検出し、制御回路61は、検出した縫針位置検出データに基づき縫針26が被縫製体Hに挿針されると略同時にシークインの切断を行うようにモータMOの駆動を制御し、可動刃21を駆動する。
【符号の説明】
【0023】
M ミシンヘッド
1 シークイン送りユニット(シークイン送り装置)
C 切断機構
2 針棒ケース
3 針板
7 シークイン連結体
21 可動刃
26 縫針
27 布押え
29 布押え体(押え部材)
31 当接部材
MO モータ
H 被縫製体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シークイン連結体(7)をシークインのサイズに対応する所定ピッチで所定の切断位置に向けて送り出すシークイン送り装置(1)と、
前記シークイン連結体(7)の先頭のシークインの針通し孔に縫針(26)が嵌入した後に、該先頭のシークインを前記シークイン連結体(7)から切断する切断機構(C)と
を備え、
前記切断機構(C)は、前記縫針(26)が被縫製体(H)に挿針されると略同時にシークインの切断を行うように構成されていることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記切断機構(C)は、前記所定の切断位置に配置された可動刃(21)と、縫い動作に伴って前記可動刃(21)に当接し該可動刃(21)を所定方向に付勢して該可動刃(21)により前記シークインを切断させる当接部材(31)とを含み、前記当接部材(31)が、縫い動作時に前記縫針(26)に連動して被縫製体(H)を押え付けるための押え部材(29)に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記当接部材(31)によって前記可動刃(21)を付勢する前記所定方向は、下方向又は横方向である請求項1に記載のミシン。
【請求項4】
前記切断機構(C)は、前記所定の切断位置に配置された可動刃(21)と、該可動刃(21)を駆動するためのモータ(MO)と、前記縫針(26)の位置検出に基づき該縫針(26)が被縫製体(H)に挿針されると略同時にシークインの切断を行うように前記モータ(MO)の駆動を制御する制御手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−245065(P2011−245065A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122104(P2010−122104)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000219749)東海工業ミシン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】