説明

シースルー型光電変換装置およびそれを用いた建材

【課題】 発電効率を低下させることなく、高い電磁波シールド性を持つシースルー型光電変換装置を提供する。
【解決手段】 前面透明導電層3と裏面電極層5とで挟持された光電変換層4を有し、該光電変換層4には光が通過する開口部9が形成され、少なくとも該開口部9を覆う位置に対応して裏面透明導電層7が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置に関し、特に、発電と採光との機能を合わせ持つシースルー型光電変換装置およびそれを用いた建材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する意識の高まりやシステムの低価格化などにより、太陽エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽光発電システムの普及が急激に拡大している。現在普及している太陽光発電システム用の太陽電池モジュール(光電変換装置)の主な形態は、以下の2種類に大別される。
【0003】
すなわち、単結晶シリコンや多結晶シリコンに代表されるような、バルク結晶の太陽電池セルを複数枚接続して構成した結晶系太陽電池モジュールの形態と、アモルファスシリコンや微結晶シリコンに代表されるような、基板上に光電変換層を薄膜として形成した薄膜太陽電池モジュールの形態とである。前者の結晶系太陽電池モジュールは、通常は、単位面積当りの発電量を高めるために、結晶太陽電池セルを隙間なく並べてガラスで封止してモジュール化する場合が多いが、セル間隔を広げて配置することで光透過性のあるシースルー型モジュールとすることもできる。
【0004】
後者の薄膜太陽電池モジュールの代表的な構造としては、サブストレート型とスーパーストレート型との2種類が挙げられる。一般的なサブストレート型の構造は、図4(a)に示すように、不透光性基板101上に、裏面電極層102、光電変換層103、透明導電層104、およびグリッド電極105が、この順に積層されている。この場合、上記グリッド電極105側が光の入射面となる。
【0005】
これに対し、スーパーストレート型の構造は、図4(b)に示すように、透光性基板106上に、透明導電層107、光電変換層108、および裏面電極層109が、この順に積層されている。この場合、上記透光性基板106側が光の入射面となる。
【0006】
一般的には、このスーパーストレート型は、上記サブストレート型と異なり基板が透光性基板106であるため、光電変換層108および裏面電極層109の光透過率を上げることで、透光性基板106側(光入射面側)から薄膜太陽電池モジュールに入射した光の一部を、裏面電極層109を通過して薄膜太陽電池モジュールの裏側へ透過させることができる。
【0007】
また、図4(a)に示す上記サブストレート型においても、不透光性基板101の代わりに透光性基板を使用したり、不透光性基板101に光を透過する開口部を形成したりことで、光透過性のある薄膜太陽電池モジュールを作製することができる。このように光が薄膜太陽電池モジュールの裏側へ透過する薄膜太陽電池モジュールをシースルー型薄膜太陽電池モジュールという。
【0008】
上記のように、光電変換層および裏面電極層の光透過率を上げる手段として、透光性基板上に透明導電層、光電変換層、および裏面電極層を、この順に積層させて、光電変換層と裏面電極層とに複数の透孔や切り溝を形成し、該透孔や切り溝を介した光透過を利用するシースルー型薄膜太陽電池モジュールも知られている。このようなシースルー型結晶系太陽電池モジュールおよびシースルー型薄膜太陽電池モジュールは、発電と採光との機能を合わせ持っている。
【0009】
さらに、特許文献1には、図5に示すように、透光性基板110の少なくとも一部の裏面の表面領域上に、それぞれ透明前面電極層111と光電変換ユニット層112と裏面電極層113とを備える複数の薄膜太陽電池単位セルが集積された集積型太陽電池構造を有しているシースルー型薄膜太陽電池モジュールが開示されている。なお、複数の各薄膜太陽電池単位セルの裏面は、接着層115を介して透明フィルム116により封止されている。
【0010】
そして、該集積型太陽電池モジュールの構造の少なくとも一部において、透明前面電極層111が露出された光透過窓部(シースルー部)114を構成し、該露出された透明前面電極層111は、上記集積型のシースルー型薄膜薄膜太陽電池モジュールの構造における、上記薄膜太陽電池単位セル間の電気の流れを確保している。この特許文献1に記載のシースルー型薄膜太陽電池モジュールは、簡便な方法で作製でき、光透過窓部114を任意のパターンに形成することができるという利点がある。
【0011】
ここまでの説明では、シースルー型薄膜太陽電池モジュール(シースルー型光電変換装置)を発電デバイスという側面からみた場合について述べてきた。これに対して、以下、シースルー型薄膜太陽電池モジュールを建材という側面からみた場合について説明する。
【0012】
シースルー型薄膜太陽電池モジュールは、例えば建築物の窓や壁など、建築デザインとの調和が要求される用途で有用である。特に、近年オフィスビルなどにおいて外壁の一部または全部(全面)がガラスで覆われた建築デザインが増えている。このような建築デザインに、シースルー型薄膜太陽電池モジュールを建材としてガラスの代わりに使用することで、ビルの壁全体のスペースを発電に利用できると同時に、適度な遮光性のある窓として快適なオフィス環境をつくることができる。
【0013】
このように、シースルー型薄膜太陽電池モジュールを建材という側面からみた場合、標準的なガラス建材と同様に、防振性、防音性、断熱性、耐火性、および紫外線遮光性など、用途に応じて様々な機能が要求される。
【0014】
これらの様々な機能に加えて、近年、新たに建材に要求されるようになった機能として、電磁波に対するシールド性(電磁波シールド)が挙げられる。近年、OA機器の誤動作、および携帯電話等の通信手段の電磁環境の悪化などに対処するため、建材の電磁波シールドに対する需要は高まってきている。
【0015】
特に、1999年に周波数2.4GHz帯域の無線LANに関する国際規格であるIEEE802.11bの策定を受けて無線LANの本格普及が始まると共に、通信品質や情報セキュリティ性の向上といった従来とは異なる側面から電磁波シールドの重要性がより一層増してきた。
【0016】
さらに、周波数5GHz帯域の無線LAN規格であるIEEE802.11aについても、当初は使用場所が限定されていたが、2002年8月から屋内外での利用が認められて本格的な普及が始まろうとしている。また、高周波の19GHz帯域については、RCR STD−34という25Mbpsの高速通信用国内規格が近年策定されている一方、60GHz帯域については、ARIB STD−T74という156Mbps以上の高速通信用国内規格が近年策定されている。従って、今後これらの帯域を利用した無線通信機器が増加していくものと予想される。
【0017】
以下、上記無線LANの普及とともに重要性が増してきた電磁波シールドについて、さらに詳細に説明する。
【0018】
上記IEEE802.11b準拠の無線LANおよびbluetooth通信(以下、まとめて「無線LAN」という)は、ISM帯(Industrial Scientific Medical Band:産業科学医療バンド)という2.4GHz〜2.497GHzの帯域使用に限定されている。該帯域は、アマチュア無線、電子レンジ、VICS(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)、および移動衛星通信などの多くのシステムが既に共用している帯域であるため、電波干渉やノイズが発生しやすい。
【0019】
したがって、屋内で無線LANを使う利用者にとって、屋内における無線LAN相互の通信の伝送速度や接続の安定性の向上を図るために、無線LAN以外のISM帯域の電波が屋外から屋内へ侵入することを防ぐことが必要である。
【0020】
また、既に混雑している上記ISM帯域のような帯域以外の高周波帯域についても、今後の無線LANの普及とともに無線LAN通信同士の干渉の問題が増加すると考えられる。例えば、最近のオフィス環境においては、2つ以上の異なる無線LAN通信セグメントが近接して存在するという状況もしばしばある。そして、同じ周波数帯域を利用する互いに異なる無線LAN通信セグメント同士が、相互干渉することを防ぐためにも、電磁波シールドは有用である。
【0021】
また、無線LANにおいては、本質的に電波の外部漏洩による情報セキュリティの脆弱化が避けられない。したがって、無線LAN通信の屋内から屋外への電波漏洩を物理的にシールドすることは、LAN環境のセキュリティ性向上のために非常に有用な手段である。
【0022】
以上述べたように、電磁波シールド性を有する建材は、電磁波伝播の観点から屋内外を切り分けることができるため、屋内から屋外への不要電波の漏洩および屋外から屋内への不要電波の侵入を防止することにより、屋内の無線通信環境を良好にすることができる。
【特許文献1】特開2002−299663号公報(平成14年10月11日 公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、上記した従来の光電変換装置では、発電効率を低下させることなく、高い電磁波シールド性を持たせることは困難であるという問題が生じる。
【0024】
この問題を特許文献1に示すシースルー型薄膜太陽電池モジュールを例に説明する。一般に、高いシールド性を持たせるためには、シースルー型薄膜太陽電池のモジュールの全面にわたって高い導電性を有する必要がある。しかしながら、図5に示す光透過窓部114では導電性を有する層が透明前面電極層111の1層であり、該透明前面電極層111に利用される透明導電膜の導電性は金属等と比較すると低いため、電磁波シールド性は高くない。
【0025】
そこで、同図に示す透明前面電極層111の膜厚を増加させることにより、光透過窓部114を含む全体の導電性を向上させることが考え得る。しかしながら、この膜厚の増加によって、上記透明前面電極層111における光吸収が増加して透光性基板110側から光電変換ユニット層112に到達する光量が減少し、該透明前面電極層111の光透過率が低下するため、発電効率の低下を招いてしまう。
【0026】
一方、光電変換ユニット層112に到達する光量に関係しない裏面電極層113の膜厚を増加させて光透過窓部114以外の部分の導電性を向上させることは可能であるが、光透過窓部114を介した電磁波の透過を低減することはできない。
【0027】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、発電効率を低下させることなく、高い電磁波シールド性を持つシースルー型光電変換装置およびそれを用いた建材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明のシースルー型光電変換装置は、上記課題を解決するために、1対の電極層で挟持された光電変換層を有し、該光電変換層には光が通過する開口部が形成され、少なくとも該開口部を覆う位置に対応して透明導電層が配設されていることを特徴としている。
【0029】
上述したように、発電と採光との機能を合わせ持つシースルー型光電変換装置に高い電磁波シールド性を持たせるためには、光電変換装置全体にわたって高い導電性を有する必要があり、そのためには、電極層の膜厚を増加させる必要がある。しかし、既に述べた理由により、この膜厚の増加が、発電効率を低下させることなく、かつ、高い電磁波シールド性を持たせることを阻害していた。
【0030】
これに対して、上記構成によれば、上記透明導電層は光電変換層に対する光入射に関係のない位置に配設されるため、光電変換層に到達する光量が減少しない。従って、このような透明導電層を設けたことによって、発電効率の低下が生じない。
【0031】
さらに、透明導電層は、少なくとも光電変換層の開口部を覆うような位置に対応して配設されている。従って、開口部に対応した部分の導電性を向上させることができ、開口部を介した電磁波の透過を防ぐことができる。すなわち、開口部においても高い電磁波シールド性を持たせることができる。
【0032】
従って、発電効率を低下させることなく、高い電磁波シールド性を持つシースルー型光電変換装置を提供することができる。
【0033】
また、本発明のシースルー型光電変換装置では、上記開口部が上記1対の電極層のうちの少なくとも一方の電極層に連続して形成されていることが好ましい。該構成によれば、開口部を通過した後の光および/または通過する前の光が電極層によって遮断されることがなく、容易に、シースルー型光電変換装置の裏面側(光入射側とは反対側)へ透過させることができ、採光性能を高めることができる。
【0034】
また、本発明のシースルー型光電変換装置では、上記透明導電層は、上記光電変換層に対して光入射側とは反対側に形成されていることが好ましい。上記構成によれば、透明導電層を上記開口部だけでなく光電変換装置全面に対して配設した場合であっても、光電変換層へ到達する光量には影響を与えることがない。従って、高い発電効率を保つことができる。
【0035】
また、本発明の光電変換装置では、上記開口部の最大対角寸法が、0.6μm以上0.9mm以下であることが好ましい。ここで、最大対角寸法とは、例えば開口部の形状が円形の場合には直径を、楕円形の場合は長径を、多角形の場合は最長の対角線寸法をいう。上記構成によれば、開口部において、波長1.2μm以下の光の透過を損なうことがなく、かつ5GHz以下の周波数帯域の電磁波に対して30dB以上のシールド効果を得ることができる。
【0036】
また、本発明のシースルー型光電変換装置では、上記透明導電層のシート抵抗が、0.2Ω/□以上6Ω/□以下であることが好ましい。上記構成によれば、光透過率が高く、かつ30dBから60dBのシールド効果をもつ透明導電層を得ることができる。
【0037】
また、本発明のシースルー型光電変換装置では、上記光電変換層に対して光入射側とは反対側に透光性基板が配されており、上記透明導電層は該透光性基板上に形成されていることが好ましい。上記構成によれば、光電変換層が透光性基板により保持されるので、光透過率を下げることなく、シースルー型光電変換装置全体の強度を高めることができる。
【0038】
また、本発明のシースルー型光電変換装置では、上記1対の電極層のうちの上記透明導電層と上記光電変換層との間にある電極層と、該透明導電層とは電気的に絶縁されていることが好ましい。上記構成によれば、上記透明導電層が電位的に光電変換層側から独立しているため、上記光電変換層が複数の太陽電池単位セルの集積構造を有する構成であっても上記透明導電層適用することができる。したがって、集積型太陽電池モジュールにおいても、発電効率を低下させることなく電磁波シールド性を高めることができる。
【0039】
また、本発明のシースルー型光電変換装置では、上記1対の電極層のうちの上記光電変換層の光入射側とは反対側に形成されている電極層と、該光電変換層との間に、さらなる導電層が設けられていることが好ましい。1対の電極層のうち、光入射側と反対側に形成されている電極層は、光電変換層から電極を取り出す役割に加えて、光電変換層において光電変換に利用されなかった光を反射して再び光電変換層に戻して変換効率を上げる役割を有している。従って、上記構成のように、該電極層と光電変換層との間に導電層を設けておけば、上記の反射率をさらに高めることができ、変換効率をさらに上げることができる。
【0040】
また、本発明の建材では、上記したいずれかのシースルー型光電変換装置を用いてなることが好ましい。上記構成によれば、高い電磁波シールド性を有するシースルー型光電変換装置を建材として用いるので、不要電波の侵入および漏洩を防止した無線通信環境を実現することができる。
【発明の効果】
【0041】
以上のように本発明のシースルー型光電変換装置は、1対の電極層で挟持された光電変換層を有し、該光電変換層には光が通過する開口部が形成され、少なくとも該開口部を覆う位置に対応して透明導電層が配設されている。
【0042】
従って、発電効率を低下させることなく、高い電磁波シールド性を持つシースルー型光電変換装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の一実施形態について図1乃至図3に基づいて説明すると、以下の通りである。
【0044】
図1は、本実施の形態のシースルー型薄膜太陽電池(シースルー型光電変換装置;以下、単に「光電変換装置」と称する)1を示す断面図である。
【0045】
光電変換装置1は、同図に示すように、前面透光性基板2、前面透明導電層(電極層)3、光電変換層4、裏面電極層(電極層)5、裏面透光性基板(透光性基板)6、裏面透明導電層(透明導電層)7、および絶縁層8を有している。なお、説明の便宜上、光電変換層4に対して、光入射側を前面といい、その反対側を裏面という。また、シースルー型薄膜太陽電池は光透過性を有するため両面から光が入射することができるが、便宜上、太陽に面する側など、ヨリ入射光量の多い側を光入射側と記載することとする。
【0046】
具体的には、光電変換装置1は、前面透光性基板2の一方の面に形成された前面透明導電層3上の少なくとも一部に、光電変換層4および裏面電極層5がこの順で積層されて形成されている。なお、光電変換装置1は、前面透光性基板2側から入射し光電変換層4に到達した太陽光(光)により発電する一方、太陽光の一部が光電変換装置1の裏面側へ透過するいわゆるシースルー型の光電変換装置である。このため、光電変換装置1は、裏面側へ太陽光が透過できるように、上記光電変換層4に開口部9が設けられており、これにより光電変換装置1の裏面側でも採光することができる。
【0047】
上記前面透光性基板2および裏面透光性基板6は、互いに対向して配されており、上記光電変換層4などの他の部材を両側から挟持している。なお、前面透光性基板2および裏面透光性基板6は、光電変換装置1の構造支持体としていずれか一方が適当な強度を有していれば、一方のみでもよく、必ずしも両方を有している必要はない。ただし、光電変換装置1の耐候性、長期信頼性、および外部からの機械的衝撃に対する耐性向上の観点からは、前面透光性基板2と裏面透光性基板6との両方を有していることが好ましい。
【0048】
また、前面透光性基板2および裏面透光性基板6は、必ずしも透光性の基板である必要はなく、不透光性基板であっても、貫通孔を形成する等の方法にて光透過性を持たせたものであれば、光電変換装置1の基板として適用可能である。
【0049】
前面透光性基板2および裏面透光性基板6には、安価なガラスが用いられる場合が多いが、光電変換装置1の全体を構造的に支持できるものであれば、安価なガラスに限定されない。例えばポリイミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、およびPES(ポリエーテルスルフォン)などの耐熱性の高分子フィルムなどを用いてもよい。また、光電変換装置1を屋外で使用する場合には、強化ガラスを用いるか、または、合わせガラス構造、複層ガラス構造などを用いると、風圧、降雹に対する強度が確保できるのでより望ましい。
【0050】
また、前面透光性基板2および裏面透光性基板6は、適当な強度および重量などを備えるために、板厚が例えば0.1mm〜30mm程度であることが適当である。さらに、これらの基板の利用形態に応じて、これらの基板と絶縁膜、導電膜、およびバッファ層等またはこれらが組み合わされたものを用いてもよい。
【0051】
上記前面透明導電層3は、上記前面透光性基板2の光入射側と反対側の面上に形成されており、前面透光性基板2の全面に形成されていてもよいし、一部分に形成されていてもよい。前面透明導電層3は、上記光電変換層4で発生した電力を取り出すための電極の役割を有している。そのため、前面透明導電層3には、抵抗損失をの低減のために高い導電性が要求され、かつ、光電変換層4への光入射量を高めるために高い光透過性が要求される。このため、それらを満たす材料として、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、およびITOなどを用いる場合が多いが、これらの材料にガリウムやアルミニウムなどの不純物を含有させて、さらに導電率を向上させたものを用いてもよい。
【0052】
前面透明導電層3は、スパッタ法、真空蒸着法、EB蒸着法、CVD法、ゾルゲル法、および電析法などにより前面透光性基板2上に形成することができる。
【0053】
導電性の観点からは、前面透明導電層3のシート抵抗が小さいほど、光電変換層4からの電流取り出しにおけるシリーズ抵抗損失が低減し、かつ、前面透明導電層3による電磁波シールドのシールド効果は大きくなるので好ましい。そして、一般的に、前面透明導電層3のシート抵抗は、前面透明導電層3の膜厚の増加に反比例して減少する。すなわち、前面透明導電層3の膜厚を増加させると、前面透明導電層3のシート抵抗が小さくなり好ましい。
【0054】
しかしながら、前面透明導電層3のシート抵抗を小さくするために、無制限に前面透明導電層3の膜厚を増加させると、同時に前面透明導電層3の光透過率の低下を招く。そして、前面透明導電層3の光透過率が低下すると、結果として、光電変換装置1の変換効率が低下するという問題が生じる。
【0055】
従って、導電性だけでなく、光透過性すなわち変換効率の観点も考慮に入れると、前面透明導電層3のシート抵抗は、上述の材料で適切な光透過率を確保できるように、下限を5Ω/□程度とする場合が多い。また、前面透明導電層3の膜厚は、特に限定されるものではないが、導電性および光透過性の観点から10nm〜2μm程度とするのが好ましい。
【0056】
上記光電変換層4は、上記前面透明導電層3上の少なくとも一部に形成されていればよい。光電変換層4は、1対の電極層(前面透明導電層3・裏面電極層5)で挟持されている。光電変換層4は、通常、p型半導体層およびn型半導体層を有するpn接合により形成されるか、またはp型半導体層、i型半導体層、およびn型半導体層を有するpin接合により形成される。しかし、これらに限られず、p型半導体層とn型半導体層とのどちらか一方のみを有するショットキー接合、またはその他公知の半導体接合により形成されていてもよい。また、上記i型半導体層は、光電変換機能を損なわない限り、弱いp型またはn型の導電型を示すものであってもよい。さらに、光電変換層4を上記各半導体接合のうち2つ以上の接合を積層させることにより光電変換装置1を多接合型太陽電池としてもよい。
【0057】
上記各半導体層を構成する材料としては、例えばシリコン等の元素半導体、シリコンに炭素やゲルマニウムまたはその他の不純物が添加されたシリコン合金、ガリウム砒素やリン化インジウムなどのIII−V族化合物半導体、テルル化カドミウムや硫化カドミウムなどのII−VI族化合物半導体、銅−インジウムーガリウムーセレンなどの多元系化合物半導体、または酸化チタン等の多孔質膜に色素等を吸着させたものなどが挙げられる。
【0058】
また、上記p型半導体層は、上記半導体層に、ボロン、アルミニウム等のp導電型となる不純物原子がドープされたものであってもよい。また、上記n型半導体層は、上記半導体層に、リン、窒素等のn導電型となる不純物原子がドープされたものであってもよい。これらの半導体層の製法としては、CVD法、EB蒸着法、真空蒸着法、ゾルゲル法、ならびに上記の半導体を含有する懸濁液を塗布、乾燥および焼成する方法等が挙げられる。また、光電変換層4の膜厚は、特に限定されるものではないが、変換機能を損なわず、製造コストを低減するという観点から、0.1μm〜100μm程度が望ましい。
【0059】
上記裏面電極層5は、上記光電変換層4上に設けられており、上記前面透明導電層3と同様に、上記上記光電変換層4で発生した電力を取り出すための電極である。したがって、前面透明導電層3と同様の材料を使用してもよい。さらに、裏面電極層5は、電極としての機能のほかに、光電変換層4に入射した光のうち光電変換に利用されずに光電変換層4の裏面側に洩れてきた光を反射するような材料を用いることにより、再度光を光電変換層4に戻して変換効率を高める光閉じ込め機能を持たせることができるのでより好ましい。
【0060】
このように光を反射させる材料として、可視光反射率の高い銀、アルミニウム、チタン、およびパラジウム等の金属材料やその合金が用いられ、これらの材料が、スパッタリング法、真空蒸着法、および電子ビーム蒸着法等により光電変換層4の上に形成される。裏面電極層5の膜厚は、特に限定されるものではないが、適切なシート抵抗が得られるように0.1μm〜10μm程度とするのがよい。
【0061】
また、図2に示すように、裏面電極層5の可視光反射率を上げる目的で、裏面電極層5と上記光電変換層4との間に、上記前面透明導電層3と同様の材料からなる裏面導電層(導電層)10を配してもよい。なお、裏面導電層10は、必ずしも透明である必要はない。
【0062】
ところで、導電性の高い金属からなる裏面電極層5は、完全導体板に近似可能であり、全帯域の電磁波をほぼ完全にシールドすることができる。しかし、導電性の高い金属は総じて可視光反射率が高く光をほとんど透過しないため、裏面電極層5を比較的厚い金属層で構成して光電変換装置1の全面にわたって設けた場合には、シースルー型薄膜太陽電池本来の機能である光透過性を損なうことになる。
【0063】
そこで、光電変換装置1では、光透過性を維持するために、前面透光性基板2上に、光電変換層4および裏面電極層5を部分的に設けている。すなわち、図1に示すように、前面透光性基板2側から入射する光(太陽光)の一部を光電変換装置1の裏面側(裏面透光性基板6側)に透過させるために、光電変換層4に開口部9を設けている。さらに、該開口部9は裏面電極層5にも連続して形成されている。
【0064】
また、裏面電極層5として透明導電層を用いたり、金属であっても光透過性を有するように非常に薄い電極層を用いたりする場合等には、裏面電極層5には開口部9を設けなくともよく、この場合でも光電変換装置1に光透過性を持たせることができる。また、前面透明導電層3に開口部9を連続して形成してもよいし、裏面電極層5および前面透明導電層3に開口部9を連続して形成してもよい。
【0065】
開口部9は、例えば前面透明導電層3の上に光電変換層4および裏面電極層5を順次積層したのち、エッチングまたはレーザ等により光電変換層4および裏面電極層5を除去することにより形成することができる。この形成方法に限られず、開口部9は、前面透明導電層3の上に開口部9を被覆するマスクを形成して、前面透明導電層3の全面に光電変換層4および裏面電極層5を順次積層したのちに、上記マスクを除去するなど他の方法により形成してもよい。
【0066】
また、開口部9の形状としては、例えば円形、楕円形、および多角形などを用いることができるが、円形または四角形は、作製が容易なので特に好適である。
【0067】
上記したように、裏面電極層5は導体板に近似したものであるので、ほぼ完全に電磁波をシールドすることができる。これに対して、開口部9を設けると、光透過率は向上するが、電磁波のシールド性は低下する。その理由を以下説明する。
【0068】
開口部9は、電磁波にとってスロットアンテナとして振舞うと考えられる。このため、該開口部9の最大対角寸法を半波長とする電磁波より十分長い波長の電磁波は大きく減衰するため開口部9を通過できないが、開口部9の最大対角寸法を半波長とする電磁波、およびそれより短い波長の電磁波は、ほとんど減衰せずに開口部9を透過する。そこで、開口部形成による電磁波シールド性の低下を抑えるため、本実施の形態の開口部9は、以下のような特徴を有している。
【0069】
上記のように開口部9を有する裏面電極層5は、開口部9の寸法に対して入射する電磁波が長波長であるほど大きく減衰するハイパスフィルタとして作用する。ここで、開口部9の最大対角寸法とは、開口部9が例えば円形の場合は直径を、楕円形の場合は長径を、多角形の場合は最長の対角線寸法をいう。なお、開口部9の形状はこれに限られないが、可視光透過性の高い形状であることが好ましい。
【0070】
上記の開口部9の最大対角寸法をL[m]、電磁波の波長をλ[m]とすると、電磁波の減衰率を示す入射電界強度Ei[V/m]と透過電界強度Et[V/m]との比は、下記の式(1)に示すように表される。
【0071】
λ/2≧L のとき Ei/Et=λ/(2L) …(1)
すなわち、最大対角寸法を半波長とする電磁波は減衰しないが、それより長波長の電磁波は、その波長λに比例して減衰率Ei/Etが増加する。一般的に、電磁遮蔽材の電磁シールド効果SEは、下記の式(2)に示すように、上記減衰率Ei/Etをデシベル換算した値で表される。
【0072】
SE[dB]=20・log(Ei/Et) …(2)
したがって、上記の式(1)および式(2)より、裏面電極層5の開口部9のシールド効果SEは、下記の式(3)で表される。
【0073】
SE[dB]=20・log(λ/(2L)) …(3)
このような開口部9のシールド効果SEを利用すれば、裏面電極層5に開口部9を有する光電変換装置1において開口部9の寸法を適正な範囲に設定することで、特定帯域の電磁波のシールド効果SEを向上させることができる。ここで、無線LANに使用する帯域は、IEEE802.11aが5.15GHz〜5.25GHz、IEEE802.11bが2.4GHz〜2.497GHzであるので、上記開口部9の最大対角寸法Lの下限値は、5.25GHz以下の帯域で高いシールド効果を得られるような寸法にするとよい。
【0074】
上記無線LANの通信環境の確保のためには、DU比(希望波対干渉波強度比)を25dBとれば充分であるといわれている。しかし、上記の式(3)に示すように、高周波数側、すなわち短波長側ではシールド効果が小さくなるので、より好ましくは、遮蔽したい帯域の上限である5.25GHzにおけるシールド効果SEを30dB確保できるように、開口部9の最大対角寸法Lの上限値を設定するとよい。最大対角寸法Lを0.9mmとすれば、上記の式(3)より、波長0.057mの5.25GHzの電磁波に対して30dBのシールド効果を得ることができる。
【0075】
このように、開口部9の最大対角寸法Lを0.9mm以下にすれば、5.25GHz以下の帯域の電磁波に対して30dB以上のシールド効果を得ることができる。
【0076】
これに対して、開口部9の最大対角寸法を0.9mmから限りなく小さくしていくと、開口部9が透過できる電磁波の波長の上限が下がり、波長0.3μm〜1.2μmの太陽光スペクトルの領域(紫外から可視および赤外領域まで)の電磁波、すなわち光透過をも遮ることになる。光電変換装置1の重要な機能の一つである採光性(光透過性)を低下させないために、すなわち、波長1.2μm以下の電磁波に対してシールド効果が作用しないように、開口部9の最大対角寸法Lの下限値を設定する必要がある。
【0077】
最大対角寸法Lを0.6μmとすれば、上記の式(3)より、波長1.2μm以下の電磁波に対するシールド効果はゼロとなる。このように、開口部9の最大対角寸法Lの下限値を0.6μmとすれば、波長1.2μm以下の光透過性が向上するため、採光性の高い光電変換装置1を得ることができる。
【0078】
ここで、特に注目すべきは、光電変換装置1は、図1に示すように、裏面透光性基板6の一方の表面に裏面透明導電層7が形成されていることである。図1に示すように、裏面透光性基板6から見て前面透光性基板2側の面に裏面透明導電層7が形成されていてもよいし、裏面透光性基板6から見て前面透光性基板2とは反対側の面に形成されていてもよいが、光電変換装置1の外部からの機械的衝撃による裏面透明導電層7の損傷を防ぎ耐候性を向上させるためには、前面透光性基板2側の面に裏面透明導電層7が形成されていることが好ましい。
【0079】
なお、裏面透明導電層7には、光透過性の高い材料であればどのようなものでも用いることができるが、上記の前面透明導電層3と同様の材料を用いることが好ましい。また、金属であっても、光透過性を有するように非常に薄く形成することで、上記裏面透明導電層7として用いることができる。
【0080】
また、裏面透明導電層7と上記裏面電極層5との間および開口部9は、後述する絶縁層8により封止されていることが望ましい。該絶縁層8により、前面透光性基板2上に前面透明導電層3、光電変換層4および裏面電極層5が形成されたものと、裏面透光性基板6上に裏面透明導電層7を形成されたものを一体化することができる。ただし、例えば特許文献1に記載のような集積型太陽電池構造を有さない場合は、必ずしも裏面電極層5と裏面透明導電層7とを電気的に絶縁する必要がないので、絶縁層8以外を適用することも可能である。
【0081】
上述したように、従来のシースルー型薄膜太陽電池(光電変換装置)では、発電効率を低下させることなく、電磁波シールド性を向上させることが困難であった。一般に、シースルー型光電変換装置のシールド性を向上させるためには、開口部9を含むシースルー型薄膜太陽電池のモジュール全体にわたって導電性を高める必要がある。したがって、上記開口部9を介した電磁波の伝播を低減するために、従来のシースルー型光電変換装置では、透明前面電極層(本実施の形態では前面透明導電層3)の膜厚を増加させる必要があり、これに伴い、光電変換層に到達する入射光量の減少にともなう発電効率の低下が生じる。
【0082】
しかしながら、光電変換装置1のように、裏面透光性基板6の一方の面に裏面透明導電層7を形成すれば、開口部9については前面透明導電層3および裏面透明導電層7の2層に高い導電性を持たせることができる。さらに、開口部9以外の部分についても、前面透明導電層3、裏面電極層5および裏面透明導電層7の3層に高い導電性を持たせることができる。また、前面透明導電層3は、光電変換層4へ入射光を透過させる役割を持っているが、裏面透明導電層7は、光電変換層4からみて入射光と反対側の面に存在するため、その膜厚や光透過率が直接的に太陽電池の発電効率に悪影響を与えることがない。したがって、前面透明導電層3の膜厚を増加させることなく、光電変換装置1全体にわたって高い導電性を持たせることができるので、発電効率の低下を招くことなく、光電変換装置1の全面にわたって電磁波に対する高いシールド効果を得ることができる。これにより、不要電波の侵入および漏洩を防ぎ、屋内の無線LANの通信環境を良好にすることができる。
【0083】
また、裏面透明導電層7は、必ずしも前面透光性基板2全面を覆うように設けられる必要はなく、図2に示すように、開口部9のみを覆うような位置に対応して設けられていてもよい。
【0084】
同図に示すように、開口部9のみを覆うような位置に対応して裏面透明導電層7を設けた場合でも、開口部9については、前面透明導電層3および裏面透明導電層7の2層に高い導電性を持たせることができ、結果として、特に高い電磁波シールド性が要求される開口部を含む光電変換装置1全体として高い導電性を持たせることができる。
【0085】
以下、裏面透明導電層7の電磁波シールド効果について、詳細に説明する。導電性媒質内を伝播する電磁波は、伝播距離に対してその電界強度が指数関数的に減衰するが、その振幅が1/eになる距離δを表皮深さと呼び、下記の式(4)により求めることができる。
【0086】
【数1】

【0087】
ただし、fは電磁波の周波数[Hz]、μは導電性媒質の透磁率[H/m]、σは導電性媒質の導電率[S/m]である。導電性媒質の透磁率μは、該導電性媒質が上述の材料のような非磁性体の場合は、真空の透磁率(4π×10−7[H/m])が適用できる。
【0088】
したがって、上記の式(4)の示すところは、自由空間から電磁波が導電性媒質に入射した際に、電磁波が導電性媒質内に侵入できる表皮深さは、電磁波の周波数が高ければ高いほど、また、導電性媒質の導電率が高ければ高いほど小さくなるということである。換言すれば、導電性の電磁遮蔽材は、入射する電磁波に対して、所定周波数以上の帯域を減衰させるローパスフィルタとして作用する。上記効果を表皮効果と呼び、導電性媒質の厚さdが表皮深さδより小さい場合、表皮効果による電磁波のシールド効果SEは、下記の式(5)で表される。
【0089】
SE=20log(1+Z0/(2Rs)) …(5)
ただし、Z0は空間の波動インピーダンス[Ω]で、下記の式(6)で表される定数である。
【0090】
【数2】

【0091】
また、Rsは導電性媒質のシート抵抗[Ω/□]である。図3は、上記の式(5)の関係をグラフ化したものである。同図において、縦軸はシールド効果SE[dB]を横軸はシート抵抗Rs[Ω/□]としている。同図によれば、電磁遮蔽材のシート抵抗Rsが小さければ小さいほど、シールド効果SEは大きくなることがわかる。したがって、上述のように、無線LANの通信環境の確保のためには、30dBのシールド効果を得られるように導電性媒質のシート抵抗を設定するとよい。したがって、上記の式(5)によれば、裏面透明導電層7のシート抵抗Rsを6Ω/□以下にすれば、30dB以上のシールド効果を得ることができる。
【0092】
さらに、裏面透明導電層7のシート抵抗Rsを0.2Ω/□にすれば、式(5)によりシールド効果は60dBとなる。このとき、上述の開口部9を有する裏面電極層5のシールド効果30dBと合わせると90dBのシールド効果を有し、電波暗室レベルの高いシールド性能を実現できる。したがって、透明導電層の膜厚増加による透過率の低下を抑えるためシールド効果の上限を90dBとし、シート抵抗Rsは0.2Ω/□を下限値とすることが望ましい。
【0093】
また、図1にハッチングにて示すように、開口部9では前面透明導電層3と裏面透明導電層7との間は、絶縁層8で封止されている一方、開口部9以外では、裏面透明導電層7と裏面電極層5との間は、絶縁層8で封止されている。また、図2に示すように、開口部9を覆うように設けられた裏面透明導電層7は前面透明導電層3と絶縁層8により封止されている。
【0094】
該絶縁層8には、絶縁性、透明性および耐候性が高い透明樹脂として、エチレンー酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)、またはポリビニルブチラールなどが好適に用いられる。また、裏面透明導電層7と裏面電極層5とが電気的に接触しない場合は、絶縁層8に空気層やその他の気体を封入した層を用いることができる。この場合、断熱性や防音性の高い太陽電池モジュールを得ることができる。
【0095】
さらに、絶縁層8として適正な誘電率を有する誘電体層を用いることで、電波吸収機能を持たせることもできる。その際、誘電体層として、例えば誘電率2.7のポリカーボネート等を用いるとよい。
【0096】
なお、裏面透明導電層7を裏面透光性基板6における裏面電極層5とは反対側に配した場合には、裏面透明導電層7と裏面電極層5とが裏面透光性基板6によって絶縁させるため、絶縁層8は不要となる。
【0097】
また、図示しないが、前面透明導電層3に開口部を設けてもよい。この場合も、裏面透明導電層7の膜厚を増加させることによって、電磁波シールド性を高めることができる。
【0098】
また、光電変換装置1を、例えば建築物の窓にガラスの代わりに、すなわち建材(不図示)として用いてもよい。
【0099】
また、上記光電変換装置1では、薄膜太陽電池の場合について説明したが、これに限られず、例えば結晶系太陽電池を適当な間隔で並べてガラスで封止したものであってもよい。
〔実施例〕
以下、本発明の具体的な実施例を示す。前面透光性基板2として板厚1.8mmの青板ガラス板を用い、DCマグネトロンスパッタリング法により青板ガラス板上に膜厚800nmの酸化亜鉛の前面透明導電層3を形成した。
【0100】
その後、前面透明導電層3を形成したガラス板を濃度0.5%の塩酸に浸して前面透明導電層3のエッチングを行ったところ、エッチング後の前面透明導電層3のシート抵抗は16Ω/□、膜厚の平均値は、350nmであった。また、前面透明導電層3が形成された前面透光性基板2の光透過率は85%であった。
【0101】
こうして得られた前面透明導電層3上に、高周波プラズマCVD法を用いてp型シリコン層、i型シリコン層、およびn型シリコン層からなる光電変換層4を、合計膜厚(前面透光性基板2、前面透明導電層3および光電変換層4を合わせた膜厚)が2μmとなるように堆積した。
【0102】
その後、レーザスクライブにより光電変換層4に前面透明導電層3が露出するような開口部9を形成したのち、開口部9の領域をマスクして光電変換層4に裏面電極層5を堆積させた。
【0103】
該開口部9の形状は、対角寸法が0.6mmの正方形であり、開口部9は、青板ガラス板(前面透光性基板2)の全面積に対して開口率が30%となるように形成した。
【0104】
裏面電極層5は、DCマグネトロンスパッタリング法により、膜厚50nmの酸化亜鉛の層と膜厚500nmの銀の層をこの順で堆積させた。
【0105】
裏面透光性基板6は、上記前面透光性基板2と同様にガラス板の上に酸化亜鉛の裏面透明導電層7を形成したものを用いた。裏面透明導電層7の膜厚は2μm、シート抵抗は2.5Ω/□であり、裏面透明導電層7が形成された裏面透光性基板6の光透過率は80%であった。
【0106】
前面透明導電層3、光電変換層4、および裏面電極層5が形成された前面透光性基板2と裏面透光性基板6は、裏面電極層5と裏面透明導電層7が対面するように積層され、両者の間の透明封止樹脂としてはEVA樹脂を用いた。
【0107】
このようにして作製したシースルー型薄膜太陽電池について、米国軍用規格MIL−STD−285に準じてシールド効果を測定したところ、2.4GHz、5、25GHzにおけるシールド効果は、それぞれ65dB、70dBであり、良好な電磁遮蔽性能を示した。
【0108】
なお、前面透光性基板2上に形成される前面透明導電層3をレーザスクライブ等により複数の領域に分割したのち、各領域上に光電変換層4および裏面電極層5を積層した集積型太陽電池構造としてもよい。
【0109】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、GHzの電磁波に対して高い遮蔽能力を有するシースルー型光電変換装置であり、特に、建物の窓や天窓に建材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の実施形態のシースルー型光電変換装置を示す断面図である。
【図2】図1に示すシースルー型光電変換装置の変形例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の裏面透明導電層のシールド効果を示すグラフである。
【図4】(a)は、従来のサブストレート型の薄膜太陽電池の概略構成を示す断面図であり、(b)は、従来のスーパーストレート型の薄膜太陽電池の概略構成を示す断面図である。
【図5】従来のシースルー型薄膜太陽電池の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0112】
1 シースルー型光電変換装置(光電変換装置)
3 前面透明導電層(電極層)
4 光電変換層
5 裏面電極層(電極層)
6 裏面透光性基板(透光性基板)
7 裏面透明導電層(透明導電層)
9 開口部
10 裏面導電層(導電層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の電極層で挟持された光電変換層を有し、該光電変換層には光が通過する開口部が形成され、少なくとも該開口部を覆う位置に対応して透明導電層が配設されていることを特徴とするシースルー型光電変換装置。
【請求項2】
上記開口部が上記1対の電極層のうちの少なくとも一方の電極層に連続して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシースルー型光電変換装置。
【請求項3】
上記透明導電層は、上記光電変換層に対して光入射側とは反対側に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシースルー型光電変換装置。
【請求項4】
上記開口部の最大対角寸法が、0.6μm以上0.9mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシースルー型光電変換装置。
【請求項5】
上記透明導電層のシート抵抗が、0.2Ω/□以上6Ω/□以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシースルー型光電変換装置。
【請求項6】
上記光電変換層に対して光入射側とは反対側に透光性基板が配されており、上記透明導電層は該透光性基板上に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシースルー型光電変換装置。
【請求項7】
上記1対の電極層のうちの上記透明導電層と上記光電変換層との間にある電極層と、該透明導電層とは、電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシースルー型光電変換装置。
【請求項8】
上記1対の電極層のうちの上記光電変換層の光入射側とは反対側に形成されている電極層と該光電変換層との間に、さらなる導電層が設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシースルー型光電変換装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のシースルー型光電変換装置を用いてなることを特徴とする建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−173412(P2006−173412A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365087(P2004−365087)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】