説明

シートホルダー及びシートホルダーのシートセット方法並びに熱プレス装置

【課題】所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材に対して精度よく転写成形を実施することができるシートホルダー及びシートホルダーのシートセット方法並びに熱プレス装置を提供する。
【解決手段】内側に熱可塑性樹脂シート材Sの保持空間25,35を有する上枠部材20と下枠部材30とからなり、上枠部材20と下枠部材30は合着及び各合接面21,31が離間自在とされ、上枠部材20と下枠部材30の保持空間25,35の外側の各合接面21,31には熱可塑性樹脂シート材Sの成形面以外の部分を挟持する挟持部22,32を有するとともに、挟持部22,32以外の保持空間25,35の外側には合着した上枠部材20と下枠部材30を熱プレス装置に配設する位置決め部26,36が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材のシートホルダー及びシートホルダーのシートセット方法並びに熱プレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク基盤等を製造する際には、熱可塑性樹脂シート材に対して熱プレス装置によって加熱及び加圧を行って微細な凹凸パターンを転写する熱転写プレス成形が実施される。この熱転写成形方法としては、例えば、チャンバー内に転写板等の成形面を有する成形部とロール状のシート材を成形部に供給する供給ローラと供給されたシート材をロール状に巻き取る巻取用ローラを収納し、巻取用ローラがシート材を搬送方向に引っ張った状態でチャンバー内を一定の真空状態に保つことにより、シート材を成形部の成形面に対して密着させて熱転写を行う真空成形が好適に用いられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記熱転写成形方法によれば、成形時においてもシート材の被転写部分に皺や反り、収縮等が発生せず、均一な転写成形を効果的に行うことができる。また、成形後には、巻取用ローラによってシート材が巻き取られるとともに、供給ローラから新たにシート材が供給されて、順次転写成形が実施されるため、連続的に転写成形を行うことができ、作業効率に優れる。
【0004】
しかしながら、上記の如く、供給ローラからロール状のシート材を供給して巻取用ローラでロール状に巻き取って順次転写成形を行う場合、熱プレス装置の成形部分がチャンバー構造であると、シート材の成形面をチャンバー外まで搬送しなければならず、シート材のロスが多くなるという問題がある。
【0005】
また、シート材の成形面の皺や反り、収縮等を抑制することは可能であるが、成形時に加えられる熱や圧力等によっては、成形面の被転写部分の周辺部分でよれ等が発生することがある。このように被転写部分の周辺部分でよれ等が発生すると、巻取用ローラによる巻き取りに不具合が生じたり、成形後の被転写部分のトリミングを精度よく行うことが困難になるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明者らは、熱可塑性樹脂シート材のロスを低減させるために所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材を用い、転写成形に際してその成形面の皺や反り等を抑制すると同時に、成形後の成形面の被転写部分の周辺部分のよれ等も抑制して成形精度を向上させることができるシートホルダーを発明するとともに、そのシートホルダーに効率よくシート材をセットするシートセット方法、並びに、シートホルダーに保持されたシート材に対して均一な転写成形を効果的に実施することができる熱プレス装置を発明するに至った。
【特許文献1】特許第3974118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材に対して精度よく転写成形を実施することができるシートホルダー及びシートホルダーのシートセット方法並びに熱プレス装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材を保持して熱プレス装置に配設するためのシートホルダーであって、内側に前記熱可塑性樹脂シート材の保持空間を有する上枠部材と下枠部材とからなり、前記上枠部材と下枠部材は合着及び各合接面が離間自在とされ、前記上枠部材と下枠部材の前記保持空間の外側の各合接面には前記熱可塑性樹脂シート材の成形面以外の部分を挟持する挟持部を有するとともに、前記挟持部以外の前記保持空間の外側には合着した上枠部材と下枠部材を前記熱プレス装置に配設する位置決め部が形成されていることを特徴とするシートホルダーに係る。
【0009】
請求項2の発明は、前記挟持部の挟持面にズレ止め材が配設されている請求項1に記載のシートホルダーに係る。
【0010】
請求項3の発明は、前記上枠部材と前記下枠部材とを所定位置で合着させる合着部を有する請求項1又は2に記載のシートホルダーに係る。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシートホルダーに所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材をセットするに際して、前記下枠部材内側の保持空間内に収容されかつ該下枠部材の上面と同一高さのシート保持面を有するセットプレートを前記下枠部材に対して配置し、前記下枠部材上面及び前記セットプレートのシート保持面に前記熱可塑性樹脂シート材を配設し、その状態で前記上枠部材を合着してシートホルダーに挟持することを特徴とするシートホルダーのシートセット方法に係る。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシートホルダーに保持された前記熱可塑性樹脂シート材に対して転写成形を行うための熱プレス装置であって、上チャンバーと下チャンバーとからなり、前記上下チャンバーの合着時にその内部が真空吸引手段によって真空状態とされる真空チャンバーと、前記上チャンバー内に設けられ、前記熱可塑性樹脂シート材を加熱または冷却する上側成形面を有する上成形部と、前記下チャンバー内に設けられ、前記熱可塑性樹脂シート材を加熱または冷却する下側成形面と、前記下側成形面の外側に前記シートホルダーの位置決め部と係合可能な係合部とを有し、前記係合部と前記シートホルダーの位置決め部とが係合することによって前記シートホルダーに保持された前記熱可塑性樹脂シート材が前記下側成形面上の所定位置に配設される下成形部とを備えたことを特徴とする熱プレス装置に係る。
【0013】
請求項6の発明は、前記上側成形面と前記下側成形面のいずれか一方または双方に緩衝部材を介して転写板が配置されている請求項5に記載の熱プレス装置に係る。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係るシートホルダーは、所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材を保持して熱プレス装置に配設するためのシートホルダーであって、内側に前記熱可塑性樹脂シート材の保持空間を有する上枠部材と下枠部材とからなり、前記上枠部材と下枠部材は合着及び各合接面が離間自在とされ、前記上枠部材と下枠部材の前記保持空間の外側の各合接面には前記熱可塑性樹脂シート材の成形面以外の部分を挟持する挟持部を有するとともに、前記挟持部以外の前記保持空間の外側には合着した上枠部材と下枠部材を前記熱プレス装置に配設する位置決め部が形成されているため、熱可塑性樹脂シート材の成形面の皺や反り等を抑制するとともに、成形後の成形面の被転写部分の周辺部分のよれ等も抑制することができ、正確な位置に精度よく転写成形することが可能となる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1において、前記挟持部の挟持面にズレ止め材が配設されているため、熱可塑性樹脂シート材の位置ズレを防止するとともにより確実に狭持することができる。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記上枠部材と前記下枠部材とを所定位置で合着させる合着部を有するため、上枠部材と下枠部材とを正確な位置で確実に合着させることができるとともに、上枠部材と下枠部材とが意図せず離間することを防止することができる。
【0017】
請求項4の発明に係るシートホルダーのシートセット方法は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシートホルダーに所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材をセットするに際して、前記下枠部材内側の保持空間内に収容されかつ該下枠部材の上面と同一高さのシート保持面を有するセットプレートを前記下枠部材に対して配置し、前記下枠部材上面及び前記セットプレートのシート保持面に前記熱可塑性樹脂シート材を配設し、その状態で前記上枠部材を合着してシートホルダーに挟持するため、熱可塑性樹脂シート材を皺や反り、たるみ等がない状態で容易かつ確実にシートホルダーにセットすることが可能となる。
【0018】
請求項5の発明に係る熱プレス装置は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシートホルダーに保持された前記熱可塑性樹脂シート材に対して転写成形を行うための熱プレス装置であって、上チャンバーと下チャンバーとからなり、前記上下チャンバーの合着時にその内部が真空吸引手段によって真空状態とされる真空チャンバーと、前記上チャンバー内に設けられ、前記熱可塑性樹脂シート材を加熱または冷却する上側成形面を有する上成形部と、前記下チャンバー内に設けられ、前記熱可塑性樹脂シート材を加熱または冷却する下側成形面と、前記下側成形面の外側に前記シートホルダーの位置決め部と係合可能な係合部とを有し、前記係合部と前記シートホルダーの位置決め部とが係合することによって前記シートホルダーに保持された前記熱可塑性樹脂シート材が前記下側成形面上の所定位置に配設される下成形部とを備えたため、前記シートホルダーに保持された熱可塑性樹脂シート材に対して極めて容易かつ正確に転写成形を実施することができる。
【0019】
請求項6の発明は、請求項5において、前記上側成形面と前記下側成形面のいずれか一方または双方に緩衝部材を介して転写板が配置されているため、作業効率が向上し、経済的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係るシートホルダーの分解斜視図、図2は図1のシートホルダーのシート材保持状態の斜視図、図3は図1のシートホルダーのシートセット方法を表した断面図、図4は熱プレス装置の配置状態を分解して表した概略断面図、図5はシートホルダーが配設された状態を表す熱プレス装置の概略断面図、図6は図5のシートホルダーが配設された状態を表す熱プレス装置の上面図、図7は成形状態を表す熱プレス装置の概略断面図、図8は成形前のシートホルダーの配設状態を表す部分拡大断面図、図9は成形時のシートホルダーの配設状態を表す部分拡大断面図である。
【0021】
図1,2,6に示す本発明の一実施例に係るシートホルダー10は、所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材Sを保持して後述する熱プレス装置100に配設するためのものであって、内側に熱可塑性樹脂シート材Sの保持空間25,35を有する上枠部材20と下枠部材30とからなる。この上枠部材20及び下枠部材30としては、公知のステンレス鋼(SUS)やアルミ等が好適に使用され、それぞれ約1.5mm程度の厚さで形成される。また、熱可塑性樹脂シート材Sは、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等の公知の材料からなり、硬度または柔軟度は特に限定されるものではなく、厚さ0.01〜0.2mmの長方形状あるいは正方形状等の適宜の形状に形成されたシートまたはフィルムが好適に使用される。なお、図中の符号S3は熱可塑性樹脂シート材Sの成形面S1に形成される被転写部分である。
【0022】
上枠部材20と下枠部材30は、合着及び各合接面21,31が離間自在とされ、各保持空間25,35の外側の各合接面21,31には熱可塑性樹脂シート材Sの成形面S1以外の部分S2を挟持する挟持部22,32を有する。実施例では、熱可塑性樹脂シート材Sの長さ方向の両端部分が狭持される。この挟持部22,32には、狭持したシート材Sの位置ずれを防止するために、挟持面22A,32Aにズレ止め材23,33が配設されていることが好ましい。ズレ止め材23,33としては、シリコンゴム等の公知の部材が使用される。
【0023】
また、上枠部材20と下枠部材30には、挟持部22,32以外の保持空間25,35の外側に、合着した上枠部材20と下枠部材30を後述する熱プレス装置100に配設する位置決め部26,36が形成されている。実施例の位置決め部26,36は、上枠部材20と下枠部材30の合着時に連通する貫通穴からなり、保持空間25,35を挟んで2箇所に設けられる。
【0024】
さらに、この上枠部材20と下枠部材30は、互いを所定位置で合着させる合着部27,37を有している。合着部27,37は狭持部22,32及び位置決め部26,36以外の保持空間25,35の外側にそれぞれ形成される。実施例では、上枠部材20の合着部27を貫通穴とするとともに、下枠部材30の合着部37を貫通穴である合着部27に嵌合可能な突部とし、それぞれ保持空間25,35を挟んで2箇所に設けられている。
【0025】
このシートホルダー10にあっては、所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材Sを保持して転写成形を実施可能とするものであるから、従来のようにロール状のシート材を供給して転写成形を実施するものに比してシート材のロスを大幅に低減させることができ、経済的に有利となる。しかも、所定大にカットされたシート材Sの成形面S1以外の部分S2を挟持して保持するように構成されているため、成形面S1に皺や反り、よれ等が発生することを簡易かつ効果的に抑制することができるとともに、成形後の被転写部分S3の周辺部分での皺やよれ等も抑制することができる。
【0026】
ここで、シートホルダー10に対してシート材Sをセットする方法は、図3に示すように、下枠部材30内側の保持空間35内に収容されかつ該下枠部材30の上面30Aと略同一高さのシート保持面51を有するセットプレート50を前記下枠部材30に対して配置し、下枠部材30上面30A及びセットプレート50のシート保持面51に熱可塑性樹脂シート材Sを配設し、その状態で上枠部材20を合着してシートホルダー10に挟持するように構成される。以下、図3を用いて、シートホルダー10のシートセット方法について詳述する。なお、セットプレート50としては、シートホルダー10と同様に、公知のステンレス鋼(SUS)やアルミ等が好適に使用され、図中の符号52はシートホルダー10の下枠部材30の載置部であり、シート保持面51と載置部52との高低差は下枠部材30の厚さと略同一に形成される。
【0027】
まず、図3(a)に示すように、適宜の平坦な場所にセットプレート50が設置され、次いで、図3(b)に示すように、シートホルダー10の下枠部材30を、セットプレート50のシート保持面51が保持空間35内に収容されるように載置部52上に配置される。その際、シート保持面51と載置部52との高低差が下枠部材30の厚さと略同一であるため、下枠部材30内側の保持空間35内に収容されたシート保持面51が下枠部材30上面30Aと略同一高さに構成される。
【0028】
ここで、図3(c)に示すように、所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材Sが略同一高さに構成された下枠部材30上面30A及びセットプレート50のシート保持面51に配設される。その際、シート材Sの長さ方向の両端部近傍である成形面S1以外の部分S2が下枠部材30の狭持面32Aに配設されたズレ止め材33によって保持され、さらに、成形面S1部分がシート保持面51によって下面側から支持される。そのため、シート材Sに皺や反り、たるみ等が生じない。
【0029】
そして、図3(d)に示すように、下枠部材30上面30A及びシート保持面51上にシート材Sが配設された状態の下枠部材30に対して上枠部材20を合着させることにより、上枠部材20の狭持面22Aに配設されたズレ止め材23と下枠部材30の狭持面32Aに配設されたズレ止め材33によってシート材Sの成形面S1以外の部分S2が狭持される。これにより、シート材Sに皺や反り、たるみ等ない状態で、容易かつ確実に保持することができる。なお、上枠部材20と下枠部材30とを合着させる際には、各合着部27,37によって、正確な位置で確実に合着させることができるとともに、上枠部材20と下枠部材30とが意図せず離間することを防止することができる。また、図示しないが、セットプレート50の載置部52の外縁をシートホルダー10の外縁よりも小さくすれば、シート材Sの配設後のシートホルダー10をセットプレート50から容易に取り出すことが可能となる。
【0030】
次に、熱プレス装置100について説明する。図4〜図9に示すように、熱プレス装置100は、シートホルダー10に保持された熱可塑性樹脂シート材Sに対して転写成形を行うためのものであって、真空チャンバー110と、上成形部120と、下成形部130とを備える。図示の例では、熱可塑性樹脂シート材Sの上面及び下面の両面に対して転写成形を行うものとする。図6において、符号105は図示しない公知の真空ポンプ等からなる真空吸引手段の配管である。
【0031】
真空チャンバー110は、上チャンバー111と下チャンバー116とからなり、上下チャンバー111,116の合着時にその内部が真空吸引手段(図示せず)によって真空状態とされる。実施例では、上チャンバー111が下チャンバー116に対して、図示しないシリンダー装置等の適宜の駆動手段により進退自在に構成される。符号112は上チャンバー111の側壁、117は図示しない弾性部材によって常時上側に付勢された下チャンバー116の側壁である。
【0032】
上成形部120は、上チャンバー111内に設けられ、熱可塑性樹脂シート材Sを加熱または冷却する上側成形面121を有し、上チャンバー111の作動に伴って後述する下チャンバー116の下成形部130に対して進退されるように構成される。この上側成形面121としては、例えば、表面に微細な凹凸が刻設されたメッキを施して転写面とする等、適宜の構成とすることができる。また、図示しないが、上成形部120内には、公知の加熱盤、冷却盤、加熱・冷却の両方が可能な盤のいずれかが配置され、成形時にシート材Sに対して加熱を行うとともに、成形後または成形途中から冷却を行うことが可能に構成されている。従って、本発明において加熱または冷却とは、加熱のみ、冷却のみ、加熱と冷却の両方の3タイプを指すものである。なお、図中の符号126はシートホルダー10が配設される際にシートホルダー10の位置決め部26,36と連通する位置に形成された上成形部120の上側係合部、127はロッド部である。
【0033】
この上成形部120では、上側成形面121に緩衝部材123を介して転写板122が配置されていることが好ましい。転写板122としては、表面に微細な凹凸パターンを有し、ニッケル等の熱伝導率が高い金属板で構成された厚さ約0.1〜0.7mm程度の公知のスタンパが好適に用いられる。また、緩衝部材123は、シリコンゴム等の公知の耐熱性を有する板状の弾性部材からなり、厚さ約1.5〜4mm程度に構成される。これにより、上成形面121によって異なる凹凸パターンの転写成形を実施する場合であっても、転写面の交換が容易となり、作業効率が向上するとともに、経済的にも有利となる。
【0034】
下成形部130は、下チャンバー116内に設けられ、熱可塑性樹脂シート材Sを加熱または冷却する下側成形面131を有する。この下側成形面131は、上側成形面121と同様に、表面に微細な凹凸が刻設されたメッキを施して転写面とする等、適宜の構成とすることができる。また、図示しないが、上成形部120と同様に、下成形部130内には、公知の加熱盤、冷却盤、加熱・冷却の両方が可能な盤のいずれかが配置される。なお、図中の符号137はシートホルダー10を所定位置に配設する際にその下面側から支持する第1支持部、137Aは第1支持部に設けられた貫通穴、138は貫通穴137Aに嵌挿され成形時にシート材Sが下側成形面131の転写面に当接するようにシートホルダー10を下面側から支持する第2支持部、139は第1支持部を常時上側に付勢するバネ等からなる付勢部材である。
【0035】
この下成形部120では、下側成形面131に緩衝部材133を介して転写板132が配置されていることが好ましい。転写板132及び緩衝部材133としては、上側成形面121に配置される転写板122及び緩衝部材123と同様の材質や厚さ等で構成される。これにより、下成形面131によって異なる凹凸パターンの転写成形を実施する場合であっても、転写面の交換が容易となり、作業効率が向上するとともに、経済的にも有利となる。
【0036】
また特に、下成形部130は、下側成形面131の外側にシートホルダー10の位置決め部26,36と係合可能な係合部136を有し、係合部136とシートホルダー10の位置決め部26,36とが係合することによってシートホルダー10に保持された熱可塑性樹脂シート材Sが下側成形面131上の所定位置に配設されるように構成される。実施例において、係合部136は、貫通穴である位置決め部26,36に嵌挿可能な突部であり、シートホルダー10の位置決め部26,36に対応して2箇所に形成されている。この係合部136は、成形時に上成形部120の上側係合部126に係合するように構成される。
【0037】
ここで、熱プレス装置100によるシートホルダー10に保持された熱可塑性樹脂シート材Sに対する熱転写成形の一例について説明する。まず、上チャンバー111と下チャンバー116は互いに離間した状態とされ、シート材Sを保持したシートホルダー10が熱プレス装置100の下成形部130上方に搬送される。
【0038】
次いで、図5,6,8に示すように、シートホルダー10のそれぞれ2箇所に形成された各位置決め部26,26,36,36に対して、下成形部130の対応する2箇所に形成された係合部136,136が嵌挿され、シートホルダー10は常に熱プレス装置100の下成形部130上の所定位置に正確に配置される。その際、シートホルダー10は、下面側両端部が第1支持部137に支持され、下側成形面121の転写板122に対してわずかに離間した状態となる。
【0039】
続いて、図示しない駆動手段により上チャンバー111及び上成形部120を下チャンバー116に対して前進させ、上チャンバー111の側壁112と下チャンバー116の側壁117とを合着させて密閉状態とし、図示しない真空吸引手段によって真空チャンバー110内部が一定の真空状態とされる。
【0040】
さらに、駆動手段によって前進方向に加圧して、上チャンバー111の側壁112が下チャンバー116の側壁117の付勢力に抗して前記側壁117を押し下げ、上チャンバー111をさらに前進させる。その際、図7,9に示すように、上成形部120のロッド部127が、下成形部130の第1支持部137を上面側から付勢部材139の付勢力に抗して押圧する。第1支持部137が所定位置まで押し下げられると、シートホルダー10の下面側両端部が第1支持部137に代わって第2支持部138によって支持されるとともに、シートホルダー10に保持されたシート材Sの下面側が保持空間35を介して下成形面131の転写板132上面に当接される。
【0041】
そして、上チャンバー111がさらに前進することにより、上成形面121の転写板122が保持空間25を介してシート材Sの上面側に当接され、所定時間あるいは所定温度に達するまで加圧とともに加熱される。その際、熱可塑性樹脂シート材Sの成形面S1に形成される被転写部分S3は、シートホルダー10が常に下成形部130上の所定位置に正確に配置されることによって、シートホルダー10に対して常に所定位置とされる。そして、熱可塑性樹脂シート材Sがシートホルダー10によって保持されて成形面S1に皺や反り、よれ等が発生しない状態とされているため、均一な転写成形を精度よくかつ効果的に行うことができ、特に、被転写部分S3の周辺部分での皺やよれ等を効果的に抑制することができる。なお、成形終了後または成形途中から、所定時間あるいは所定温度まで冷却が行われ、上チャンバー111を後退させてシートホルダー10を真空チャンバー110内から取り出し、次工程に搬送される。
【0042】
また、上記のように転写成形が行われた熱可塑性樹脂シートSは、被転写部分S3がシートホルダー10に対して常に所定位置とされるため、シートホルダー10に保持されたまま被転写部分S3のトリミングを行うことが好ましい。その際、使用されるトリミング装置(図示せず)においても熱プレス装置100の係合部136と同様にシートホルダー10の位置決め部26,36と係合可能な係合部を設けることにより、シートホルダー10を常に所定位置に配置した状態とすることができる。これにより、シート材Sの被転写部分S3が常にトリミング装置の所定位置に配置され、成形後の被転写部分S3のトリミングを簡単かつ精度よく行うことができる。特に、熱可塑性樹脂シート材Sにより光ディスクまたは光ディスクを構成する一層を成形する場合では、芯ズレを防止することが可能となるため、極めて有効である。
【0043】
なお、本発明のシートホルダー及びシートホルダーのシートセット方法並びに熱プレス装置は、前述の実施例のみに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の一部を適宜に変更して実施することができる。
【0044】
実施例では、シートホルダーの上枠部材と下枠部材の合着部として、下枠部材に突部、上枠部材に貫通穴をそれぞれ2箇所に形成して合着可能に構成したが、上枠部材と下枠部材が位置ズレすることなく合着可能であれば、形状や数等は特に限定されるものではない。例えば、上枠部材側を突部、下枠部材側を貫通穴としてもよい。また、特定の形状(例えば、十字型等)の貫通穴と突部とすれば、それぞれ1箇所に形成した場合でも所定位置で正確に合着させることができる。
【0045】
さらに、実施例では、シートホルダーの上枠部材と下枠部材とを完全に離間させる構成としたが、上枠部材と下枠部材の一端をヒンジ部で連結して離間自在に構成してもよい。
【0046】
また、シートホルダーの位置決め部を2箇所に形成した貫通穴、熱プレス装置の係合部を同じく2箇所に形成した突部としたが、シートホルダーを熱プレス装置に常時所定位置に配設可能な構成であれば、それぞれの形状や数等は特に限定されるものではなく、シートホルダーの位置決め部を突部、熱プレス装置の係合部を貫通穴とする等、適宜に構成することができる。なお、シートホルダーの位置決め部と熱プレス装置の係合部とを特定の形状(例えば、十字型等)の貫通穴と突部とすれば、それぞれ1箇所に形成した場合でも所定位置で正確に合着させることができる。
【0047】
実施例の熱プレス装置では、熱可塑性樹脂シート材の両面に対して転写成形を行う構成としたが、シート材の片面(上面または下面)側のみに転写成形を行う構成とすることも可能である。シート材の上面側のみに転写成形を行う場合を例に説明すると、上成形部は、上側成形面を表面に微細な凹凸パターンを形成した転写面とするかあるいは上側成形面に緩衝部材を介して転写板を配置するように構成され、下成形部は、下側成形面を表面に鏡面加工を施した鏡面とするかあるいは下側成形面に鏡面板を配置するように構成される。この場合、転写面側となる上成形部には加熱及び冷却が可能な盤が配置され、鏡面側となる下成形部には冷却盤が配置される。これにより、シート材の上面側のみに対しても、正確な位置に精度よく均一に転写成形することができる。なお、シート材の下面側のみに対して転写成形を行う場合であっても、転写面側を下成形部として同様に構成することが可能であることはいうまでもない。
【0048】
また、実施例のプレス装置では、上チャンバーを下チャンバーに対して進退可能として、成形時には熱可塑性樹脂シート材の上面側から加圧するように構成したが、これに限定されるものではなく、下チャンバーを上チャンバーに対して進退可能とし、上成形部に対して成形時に下成形部に配設された熱可塑性樹脂シート材を押圧する構成としたり、上チャンバーと下チャンバーを互いに進退可能とし、成形時には熱可塑性樹脂シート材の上下両面側から加圧する構成とすることが可能である。さらに、各チャンバーと各成形部とを個別に作動させる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施例に係るシートホルダーの分解斜視図である。
【図2】図1のシートホルダーのシート材保持状態の斜視図である。
【図3】図1のシートホルダーのシートセット方法を表した断面図である。
【図4】図4の熱プレス装置の配置状態を分解して表した概略断面図である。
【図5】シートホルダーが配設された状態を表す熱プレス装置の概略断面図である。
【図6】図5のシートホルダーが配設された状態を表す熱プレス装置の上面図である。
【図7】成形状態を表す熱プレス装置の概略断面図である。
【図8】成形前のシートホルダーの配設状態を表す部分拡大断面図である。
【図9】成形時のシートホルダーの配設状態を表す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 シートホルダー
20 上枠部材
21 合着面
22 狭持部
25 保持空間
26 位置決め部
30 下枠部材
31 合着面
32 狭持部
35 保持空間
36 位置決め部
S 熱可塑性樹脂シート材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材を保持して熱プレス装置に配設するためのシートホルダーであって、
内側に前記熱可塑性樹脂シート材の保持空間を有する上枠部材と下枠部材とからなり、前記上枠部材と下枠部材は合着及び各合接面が離間自在とされ、前記上枠部材と下枠部材の前記保持空間の外側の各合接面には前記熱可塑性樹脂シート材の成形面以外の部分を挟持する挟持部を有するとともに、前記挟持部以外の前記保持空間の外側には合着した上枠部材と下枠部材を前記熱プレス装置に配設する位置決め部が形成されていることを特徴とするシートホルダー。
【請求項2】
前記挟持部の挟持面にズレ止め材が配設されている請求項1に記載のシートホルダー。
【請求項3】
前記上枠部材と前記下枠部材とを所定位置で合着させる合着部を有する請求項1又は2に記載のシートホルダー。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシートホルダーに所定大にカットされた熱可塑性樹脂シート材をセットするに際して、前記下枠部材内側の保持空間内に収容されかつ該下枠部材の上面と同一高さのシート保持面を有するセットプレートを前記下枠部材に対して配置し、前記下枠部材上面及び前記セットプレートのシート保持面に前記熱可塑性樹脂シート材を配設し、その状態で前記上枠部材を合着してシートホルダーに挟持することを特徴とするシートホルダーのシートセット方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のシートホルダーに保持された前記熱可塑性樹脂シート材に対して転写成形を行うための熱プレス装置であって、
上チャンバーと下チャンバーとからなり、前記上下チャンバーの合着時にその内部が真空吸引手段によって真空状態とされる真空チャンバーと、
前記上チャンバー内に設けられ、前記熱可塑性樹脂シート材を加熱または冷却する上側成形面を有する上成形部と、
前記下チャンバー内に設けられ、前記熱可塑性樹脂シート材を加熱または冷却する下側成形面と、前記下側成形面の外側に前記シートホルダーの位置決め部と係合可能な係合部とを有し、前記係合部と前記シートホルダーの位置決め部とが係合することによって前記シートホルダーに保持された前記熱可塑性樹脂シート材が前記下側成形面上の所定位置に配設される下成形部
とを備えたことを特徴とする熱プレス装置。
【請求項6】
前記上側成形面と前記下側成形面のいずれか一方または双方に緩衝部材を介して転写板が配置されている請求項5に記載の熱プレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−143058(P2010−143058A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322268(P2008−322268)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【出願人】(592199412)安田工機株式会社 (7)
【Fターム(参考)】