説明

シート状化粧材

【課題】拭き取り性が良好な印象を与える外観を有し、かつ使用時の拭き取り性が良好であるとともに、肌当たりが良好であり、しかもヨレにくい良好な使用感を兼ね備えたシート状化粧材を提供する。
【解決手段】コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとが積層され、ウエブ層Aとウエブ層Bとがその構成繊維が相互に交絡されることにより一体化されて、スパンレース不織布が構成されている。このスパンレース不織布と、熱接着性繊維を含む熱接着性シートとが、ウエブ層A/ウエブ層B/熱接着性シート/ウエブ層B/ウエブ層Aの順に積層されている。積層物における少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様が施された形態で、この積層物が一体化されていることで、シート材が構成されている。このシート材に液状組成物が含浸されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシート状化粧材に関し、特にシート材に液状組成物が含浸されたシート状化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイパーは、人に用いるシート状化粧材であるか、あるいは物に用いるものであるかにかかわらず、見た目で拭き取り性を印象づける必要がある。また、特に人に用いるワイパーの場合は、肌に直接触れるため、不快感を与えない良好な使用感も兼ね備えている必要がある。
【0003】
見た目の印象を向上させるための手段として、ワイパーを構成する不織布の表面に凹凸模様を付与することが考えられる。例えば特許文献1に記載されているように、繊維シートを凹凸もしくは開孔を有する支持体に載置して高圧水流を作用させることにより、水流のエネルギーにより繊維を移動させて、支持体の凹凸に応じた開口模様を付与させた、スパンレース不織布が知られている。
【0004】
しかしながら特許文献1に記載のものでは、ワイパーとしての使用時に、拭き取った汚れが開口部より裏抜けして、拭き取りのためにワイパーに添えている手を汚してしまうことになる。また、目付によっては厚みが薄くなるため拭き取り時に「よれ」が発生し、使い心地が悪くなる。
【0005】
一方、特許文献2に記載されているように、2層以上のシートを重ね合わせエンボス加工により凹凸を付与したものが提案されている。しかし、凹凸を付与した後、更に隣り合う凹凸シートを部分的に圧着もしくは融着していることから、熱圧着工程を2回行う必要がある。従って「よれ」にくくはなるが、風合いは硬くなるため、肌への刺激が強く不快感を与えてしまう欠点を有する。
【0006】
以上の問題点を解決するため、木綿繊維で構成される一対の外層同士の間に熱融着性繊維を含む繊維層を設けて多層構造のシート材を構成し、このシート材の少なくとも片面に熱エンボスロール加工により凹凸模様を付与したシート材が提案されている(特許文献3及び4)。
【特許文献1】特開平3−19950号公報
【特許文献2】特開2000−290899号公報
【特許文献3】特開2006−104629号公報
【特許文献4】特開2006−149444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3、4に記載されたシート材は、使用時の「よれ」や風合いについては問題ないものの、特に敏感肌に対して、清拭時の拭き取り感を維持しつつ肌当たりの改良を行うことが望まれている。
【0008】
本発明は、前記従来技術における問題点を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、拭き取り性が良好な印象を与える外観を有し、かつ使用時の拭き取り性が良好であるとともに、「よれ」にくい良好な使用感を兼ね備え、しかも敏感肌に対しても肌当たりが良好なシート状化粧材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、シートの表層に特定の繊維を使用することにより、肌当たりや拭き取り感など、ワイパーとして機能する化粧材の使用感を改良出来ることを見いだした。
すなわち本発明は、以下を要旨とするものである。
【0010】
(1)コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとが積層され、ウエブ層Aとウエブ層Bとがその構成繊維が相互に交絡されることにより一体化されてスパンレース不織布が構成され、このスパンレース不織布と、熱接着性繊維を含む熱接着性シートとが、ウエブ層A/ウエブ層B/熱接着性シート/ウエブ層B/ウエブ層Aの順に積層され、積層物における少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様が施された形態でこの積層物が一体化されていることでシート材が構成され、このシート材に液状組成物が含浸されていることを特徴とするシート状化粧材。
【0011】
(2)摩擦係数の変動範囲が0.008〜0.015であり、圧縮回復率が45%以上であることを特徴とする(1)のシート状化粧材。
【0012】
(3)液状組成物が含浸したシート状化粧材を得るためのシート材であり、コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとが積層され、ウエブ層Aとウエブ層Bの構成繊維が相互に交絡一体化されてスパンレース不織布が構成され、このスパンレース不織布と、熱接着性繊維を含む熱接着性シートとが、ウエブ層A/ウエブ層B/熱接着性シート/ウエブ層B/ウエブ層Aの順に積層され、積層物における少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様が施された形態でこの積層物が一体化されていることを特徴とするシート材。
【0013】
(4)コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとを積層した積層物に高圧水流を施して、ウエブAとウエブBの構成繊維同士を互いに三次元的に交絡させて積層一体化したスパンレース不織布を形成し、一対のスパンレース不織布と熱接着性シートとを、スパンレース不織布のウエブB側が熱接着性シートに接するように、スパンレース不織布/熱接着性シート/スパンレース不織布の順に積層した積層体を熱エンボス装置に通して、ウエブBに含まれる熱融着性繊維の熱融着成分及び熱接着性シートに含まれる熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化する温度で熱エンボス装置により部分的に熱圧着して、積層一体化するとともに、その一体化物の少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様を付与してシート材を構成し、このシート材に液状組成物を含浸させることを特徴とするシート状化粧材の製造方法。
【0014】
(5)液状組成物が含浸したシート状化粧材を得るためのシート材の製造方法であって、コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとを積層した積層物に高圧水流を施して、ウエブAとウエブBの構成繊維同士を互いに三次元的に交絡させて積層一体化したスパンレース不織布を形成し、一対のスパンレース不織布と熱接着性シートとを、スパンレース不織布のウエブB側が熱接着性シートに接するように、スパンレース不織布/熱接着性シート/スパンレース不織布の順に積層した積層体を熱エンボス装置に通して、ウエブBに含まれる熱融着性繊維の熱融着成分及び熱接着性シートに含まれる熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化する温度で熱エンボス装置により部分的に熱圧着して、積層一体化するとともに、その一体化物の少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様を付与することを特徴とするシート材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様が施されているため、清拭時の拭き取り性が良好な印象を与える外観を有し、かつ使用時の拭き取り性が良好であるとともに、コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aを有するものであるため、肌当たりが良好であり、しかも「よれ」にくい良好な使用感を兼ね備えたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のシート状化粧材は、シート材に液状組成物が含浸されたものである。
まず、シート材について説明する。シート材は、一対の表面層と中間層との3層構造であり、表面層は、コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とする層(上述の「ウエブ層A」)と、構成繊維に熱融着性繊維を含む層(上述の「ウエブ層B」)とが積層一体化したものである。一方、中間層は、熱接着性繊維を含む熱接着性シートによって構成されている。
【0017】
ウエブ層Aは、上記のように、コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨン(以下、「再生コットン」と称することがある)を構成繊維とする。再生コットンを選択する理由は、吸水性、親水性に優れ、肌触りが良好であるためである。また、熱可塑性ではなく、熱エンボス加工により熱硬化することがないため、熱エンボス加工によって本発明のシート状化粧材を形成しても、柔軟な風合いや良好な肌触りを保つことが出来るためである。
【0018】
ウエブ層Aは、原料に30質量%程度ウッドパルプを混ぜると、再生コットンの性質を変えることなく、白度アップが望め、見た目の清潔感がより向上する。その他のレーヨン、一般的なウッドパルプのみを出発原料とするレーヨンは、やや茶色がかっているために本発明の様なシート表面に100%で用いるには清潔感に劣る傾向となり、また、つるつるとした肌触りとなるために拭き取り感に劣る傾向となり、不適当である。
【0019】
同じ製法によるレーヨンでも、出発原料の違いで本発明の効果に対する適、不適がある点については、未だによくわからない部分が多い。しかし、例えば同じレーヨンで、竹を出発原料とするバンブーレーヨンがあり、これは竹の持つ抗菌作用や清涼感を兼ね備えている。このことから、再生コットンについても、同様にコットンの持つ特徴をうまく引き継いでいるものと推察される。
【0020】
たとえば木綿繊維は、扁平形状〜楕円形状を有しており、繊維端部が掻き取り効果を奏し、特に人に用いるワイパー素材としては非常に優れているが、その繊維形状から、ボリューム感を与える事が困難である。ボリューム感に劣ると、使用時に「よれ」が発生し易くなり使い心地に劣る傾向となるので、本発明の素材としては不適当である。
【0021】
ウエブ層Bは、構成繊維に熱融着性繊維を含む。熱融着性繊維と他の繊維との混綿ウエブであることが好適である。他の繊維としては、再生コットンなどのセルロース系繊維等が好適である。
【0022】
熱融着性繊維は、熱融着成分単独からなる単相形態の繊維であっても、熱融着成分が少なくとも繊維表面の一部を形成する芯鞘型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維などの複合形態の繊維であってもよい。熱エンボス加工を施した際の形態保持性や柔軟性や機械的強度などを考慮すると、芯鞘型複合形態の繊維が好ましい。熱融着成分はポリオレフィン系重合体からなることが好ましく、これは柔軟性が良好なためである。ポリオレフィン系重合体としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンとプロピレンの共重合体、またはこれらのブレンド体などが挙げられる。また、芯鞘型複合形態の芯/鞘の組み合わせの例としては、ポリエステル重合体/ポリオレフン系重合体、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン・プロピレン共重合体などが挙げられる。
【0023】
ウエブ層Bに混綿する他の繊維としては、上記のように例えばセルロース系繊維を挙げることができる。セルロース系繊維を混綿することにより、表面のウエブ層Aより吸収した液体をウエブ層Bへ移行させるという導水効果が期待できる。また、ウエブ層Bにおいても吸水性や保液性を良好にすることが出来る。この場合、熱融着性繊維とセルロース系繊維との混綿比率(熱融着性繊維/セルロース系繊維)は、50/50〜70/30質量%の範囲であることが好ましい。熱融着性繊維の比率が50質量%未満であると、本発明の効果を十分に奏しにくくなり、一方70質量%を超えると、セルロース系繊維を混綿することの効果が奏されにくい。また、他の繊維として、太繊度の繊維やスパイラル捲縮を有する繊維を混綿することにより、ウエブ層Bを柔軟で嵩高なものとすることが出来る。
【0024】
本発明においては、ウエブ層Aとウエブ層Bとを積層したうえで、ウエブ層Aとウエブ層Bの構成繊維を相互に交絡させて両層を一体化させることにより、スパンレース不織布とする。このスパンレース不織布において、ウエブA層とウエブB層との積層比率は、シート材表面(ウエブ層A)における上述の凹凸模様の付与性を考慮すると、ウエブ層Bの目付量を1とした場合、ウエブ層Aの目付量は4以下であることが好ましい。ウエブ層Bに占める熱融着性繊維の比率にもよるが、凹凸模様が付与される側のウエブ層Aの目付量を4以下とすることで、明瞭な模様を付与することができる。また、最終的に得られるシート状化粧材の柔軟性を考慮すると、ウエブ層Aよりもウエブ層Bの目付が小さい方が好ましい。
【0025】
次に、一対のスパンレース不織布同士を積層一体化するための熱接着性シートについて説明する。熱接着性シートは熱接着性繊維を含むが、この熱接着性シートは、熱接着性繊維同士が部分的な箇所で熱接着を受けることにより一体化した不織布であることが好ましい。例えば、熱風などにより構成繊維同士の接点で熱接着し一体化したものや、熱エンボス加工により部分的な散点状の熱圧着部を形成することにより一体化したものを挙げることができる。繊維の形態は、短繊維であっても長繊維であってもよい。繊維の形態が捲縮を有する短繊維である場合は、得られるシート状化粧材に嵩高性を与えることが出来る。また長繊維の場合は、得られるシート状化粧材の寸法安定性や機械的強度を向上させることが出来る。熱接着性シートに用いられる熱接着性繊維の成分や繊維形態については、前述したウエブ層Bに用いられる熱融着性繊維と同様のものを使用することができる。
【0026】
本発明のシート状化粧材は、一対のスパンレース不織布と、熱接着性シートとが、ウエブ層A/ウエブ層B/熱接着性シート/ウエブ層B/ウエブ層Aの順に積層されて熱エンボス加工が施されることによって得られる。そして、積層物における少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様が施された形態で、この積層物が一体化される。すなわち、熱接着性シートを用いることで、一対のスパンレース不織布が強固に一体化されるとともに、シート状化粧材の表面に、耐久性に優れた明瞭な凹凸模様を付与することができる。
【0027】
エンボス加工により形成される熱圧着部は、一対のスパンレース不織布同士を、熱接着性シートを介して一体化させると同時に、表面に付与される凹凸模様として機能するものである。その形態は、美観及び意匠性や、拭き取り性能等の機能性などを考慮して、適宜選択するとよい。例えば、個々の熱圧着部の形状を、円形、楕円形、四角形、十字型、花形、星形などとすることができる。これら個々の熱圧着部を千鳥状や幾何学模様的に散点状に付与させるものなどが挙げられる。また、直線状の圧着部で形成されるストライプ状、格子状、チェック柄状のものなどでもよい。なお、シート状化粧材の全体に占める熱圧着部分の面積の比率(圧接面積率)は、積層一体化に必要な接着性と圧接後のシートの柔軟性とを考慮すると、5〜50%の範囲で選択することが望ましい。
【0028】
上述のように、本発明のシート状化粧材は、その少なくとも片面に、熱エンボス加工による凹凸模様が付与されている。これは、エンボスロールを用いた熱エンボス加工による熱と圧力が加わった際、エンボス部(エンボスロールの凸部)の熱が、ウエブ層Bに含まれる熱融着性繊維の熱融着成分と熱接着性シートに含まれる熱接着性繊維の熱接着成分とを溶融もしくは軟化し、このエンボス部に相当する部分が圧着されて、一対のスパンレース不織布同士が熱接着性シートを介して一体化すると同時に、この圧着形態がシート状化粧材の表面(ウエブ層Aの表面)にも賦型されたものである。シート状化粧材の両表面(ウエブ層A)の構成繊維は熱可塑性の繊維ではないため、熱の影響を受けず、熱エンボス加工による形態付与は、単に圧力による付与であるが、ウエブ層B及び熱接着性シートに熱により溶融または軟化する成分が存在していることにより、また、ウエブ層Aとウエブ層Bを構成する繊維同士が相互に交絡一体化したスパンレース不織布を使用していることにより、ウエブ層Bに付与された熱圧着部の形状を、良好にシート材表面(ウエブ層A)に賦型することが可能となる。
【0029】
本発明のシート状化粧材の目付は、一般的に50〜300g/m程度であればよく、この範囲内において用途に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
本発明のシート状化粧材を構成するシート材は、以下の方法によって得ることが出来る。
【0031】
まず、再生コットンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとをそれぞれ準備し、ウエブ層Aとウエブ層Bを積層した積層ウエブをメッシュ状支持体に担持させる。メッシュ状支持体は、シート材にて構成されるシート状化粧材の用途に応じて任意のものを採用すればよい。例えばシート材の表面に開口を付与する場合は、所定の目開きを有する荒目織物(15〜25メッシュ)からなるメッシュ状支持体を用いることが出来る。なお、ここでいうメッシュとは、1インチ当たりの線の数を指し、例えば25メッシュの荒目織物は、1インチ当たり25本の線が存在するものを指す。
【0032】
次いで、積層物側から高圧水流を施すことで、各ウエブ層内の構成繊維同士を三次元的に交絡させるとともに、ウエブ層Aとウエブ層Bとの構成繊維を互いに三次元的に交絡させて、積層一体化したスパンレース不織布を得る。この高圧水流は、孔径0.05〜2.0mmの噴射孔が0.05〜10mmの間隔で一列または複数列配置されている噴射装置を用い、噴射孔から水を1.5〜40MPaの圧力で噴射することにより、得るものである。この高圧水流が保有する運動エネルギーにより、構成繊維が相互に交絡する。
【0033】
次いで、得られた一対のスパンレース不織布と、熱接着性シートとを、各スパンレース不織布のウエブ層B側が熱接着性シートと接するように、スパンレース不織布/熱接着性シート/スパンレース不織布の順に積層して、すなわち、ウエブ層A/ウエブ層B/熱接着性シート/ウエブ層B/ウエブ層Aの順に積層して、熱エンボス装置に通す。熱エンボス装置では、ウエブ層Bを構成する熱融着性繊維の熱融着成分及び熱接着性シートを構成する熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化する温度で、上述の部分的な熱圧着を施す。
【0034】
熱エンボス装置はエンボスロールを備えたものであるが、エンボス部(ロールの凸部)に相当する部位のウエブ層Bの熱融着性繊維の熱融着成分及び熱接着シートの熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化することで、スパンレース不織布同士が熱接着性シートを介して積層一体化するとともに、エンボス部による圧着形状がウエブ層Aにも賦型され、凹凸模様としてシート材の表面に付与されることとなる。熱エンボス装置は、一対のエンボスロールを有するものであってもよいし、エンボスロールと平滑ロールとを有するものであってもよい。一対のエンボスロールを有する熱エンボス装置を用いた際には、シート材の両表面に明瞭な凹凸模様が付与されることとなり、また、エンボスロールと平滑ロールとを有する熱エンボス装置を用いた際には、シート材の一方の表面に明瞭な凹凸模様が付与されることとなる。
【0035】
熱エンボス装置のロール表面温度は、ウエブ層Bの熱融着性繊維の熱融着成分及び熱接着性シートの熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化する温度に設定すればよい。具体的には、線圧や処理速度に応じて、また、表面層をなすウエブ層Aの目付に応じて、適宜設定すればよい。例えば、熱融着成分及び熱接着成分の融点(明瞭な融点がないものについては軟化点を融点とみなす)をTmとした場合、(Tm−15)℃〜(Tm+10)℃の範囲とするとよい。
【0036】
このようにしてシート材が得られるが、本発明のシート状化粧材は、このシート材に液状組成物が含浸されたものである。この液状組成物は、精製水を主成分として、それに、エタノールと粉体とその他の添加剤とを混合したものであることが好適である。
【0037】
エタノールは、本発明のシート状化粧材をワイパーとして用いたときに適度な「拭き取り感」を付与するために用いられる。その配合割合は3〜30質量%であることが適当である。3質量%未満であると、所要の「拭き取り感」を付与することが困難であるとともに、水分の乾きが遅くなる傾向が生じる。反対に30質量%を超えると、エタノール臭が強くなり過ぎたり、人の肌への使用時に刺激感が生じたりする。
【0038】
粉体は、本発明のシート状化粧材の使用時に「さらさらする感じ」を付与するために用いられる。そのための粉体としては、無水ケイ酸、タルクなどを好適に用いることができる。その配合割合は、1〜10質量%であることが適当である。1質量%未満であると、所要の「さらさら感」を付与することが困難である。反対に10質量%を超えると、肌への使用時に白残りする傾向が生じる。
【0039】
その他の添加剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベンなどの防腐剤や、1,3−ブチルグリコールなどの保湿剤や、イソプロピルメチルフェノールなどの殺菌剤や、POE硬化ヒマシ油などの可溶化剤や、ローズマリーエキス、オトギリソウエキスなどの体臭抑制成分や、POE変性シリコーン、ジメチルシリコーン、ベントナイトなどの湿潤剤や、香料などが挙げられる。
【0040】
以上の様にして得られたシート状化粧材は、肌当たり、拭き取り感ともに良好であり、これらは数値としても表すことが出来る。
カトーテック社製の、風合い測定に使用される機器のうち、拭き取り感は摩擦感テスター(型番:KES−SE)、肌当たりは圧縮試験機(型番:KES−FB3)を用いて、それぞれ測定することが出来る。
【0041】
摩擦感テスターは表面のすべりや凹凸を数値化するものであり、特にこの装置を用いて荷重25gfの条件で得られるMMD(摩擦係数の変動範囲)が肌触りと相関が高い。すなわち、MMDの数値の高い方がざらざらしている。MMDがおおむね0.025を超えると、ざらざらし過ぎて肌触りが悪いと評価される。一般的にはつるつるしていた方が肌触りがよいと評価されるが、ワイパー用途に限れば、ある程度の抵抗感は必要となるので、MMDは0.008〜0.015であることが好ましい。同装置を用いて得られるMIU(平均摩擦係数)は、数値の高い方がすべりにくい。しかし、MIUは0.25以下であることがよく、この範囲であることにより適当なすべり感を有することが好ましい。
【0042】
圧縮試験機を用いて圧縮特性を評価することにより、反発力や圧縮の固さなどを表すことができる。本発明においては熱エンボスロールにより凹凸模様を付与するので、固さは素材を変更してもそれ程大きな差には繋がらない。しかし、反発性は、凸部を形成する繊維形状に左右され、円形もしくはそれに近い断面形状であると良好な反発性を有し、肌当たりが良好と評価されやすくなる。具体的には、反発性すなわち圧縮回復率(RC)が45%以上あると、好ましい肌当たりを呈することになる。圧縮固さ(LC)は、数値の高い方が圧縮が固い。圧縮仕事量(WC)は、数値の高い方が圧縮しにくい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例の各種物性値は、それぞれ次の方法により測定した。
【0044】
(1)目付(g/m):タテ10cm×ヨコ10cmの試料片を10点作成し、標準状態の各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して、目付(g/m)とした。
【0045】
(2)表面特性:カトーテック社製の、型番<KES−SE>の摩擦感テスターを用い、感度20g/v、荷重25gfの条件で、平均摩擦係数(MIU)と摩擦係数の変動(MMD)とを測定した。
【0046】
(3)圧縮特性:カトーテック社製の、型番<KES−FB3>の圧縮試験機を用い、標準測定状態で、圧縮固さ(LC)と、圧縮仕事量(WC[gf・cm/cm])と、反発性すなわち圧縮回復率(RC[%])とを測定した。
【0047】
(4)化粧材としての使用感:肌に刺激を感じやすい人15名をパネラーとして、試料で前腕内側部を5往復こすった後、下記の項目について官能検査を行ない、評価した。
[評価項目]
・肌あたりの柔らかさの好み
・汗や汚れが拭き取れた感じ
・化粧材の「よれ」のなさ
[評価基準]
◎:良いと答えたパネラーが11名以上
○:良いと答えたパネラーが6〜10名
△:良いと答えたパネラーが5名以下
【0048】
(実施例1)
まず、液状組成物を準備した。すなわち、エタノールにメチルパラベンとプロピルバラベンと1,3−ブチレングリコールとPOE(60)硬化ヒマシ油と香料とを加えて溶解させ、得られた溶液に精製水と無水ケイ酸(富士シリア化学社製、商品名:サイリシア730、平均粒径3.9μm)とを加えて、液状組成物とした。配合割合は、無水ケイ酸を5.0質量%、エタノールを10質量%、メチルパラベンを0.05質量%、プロピルバラベンを0.05質量%、1,3−ブチレングリコールを0.5質量%、POE(60)硬化ヒマシ油を0.1質量%、香料を0.1質量%、精製水を残部とした。
【0049】
シートは、次のようにして作製した。すなわち、再生コットン(山東高密銀鷹化繊社製 繊度1.6デシテックス、繊維長38mm)を用い、目付15g/mのウエブを作成し、ウエブ層Aとした。
【0050】
熱融着性繊維として、鞘部にポリエチレン(PE、融点130℃)を配するとともに、芯部にポリエチレンテレフタレート(PET、融点260℃)を配した芯鞘型複合短繊維(ユニチカファイバー社製 品番<6080> 繊度2.2デシテックス 繊維長51mm)を準備し、前記再生コットンと質量比50/50の比率で均一に混綿して、目付15g/mのウエブを作成し、ウエブ層Bとした。
【0051】
ウエブ層Aとウエブ層Bとを積層し、この積層物を、移動する25メッシュのプラスチック製織物からなる支持体上に担持し、積層物側から高圧水流処理を施した。詳細には、支持体の上方50mmに位置する、孔径0.1mmの噴射孔が孔間隔0.6mmで一列配列され、かつ、その列を三列備えた高圧水流噴射装置を用い、各々9.8MPaの圧力で水を噴射した。
【0052】
次いで、これにより一体化させた交絡積層体から、マングルロールにて余剰水分を除去し、温度120℃の乾燥機で乾燥し、スパンレース不織布を得た。
【0053】
一方、熱接着性シートとして、鞘部にポリエチレン(融点130℃)、芯部にポリプロピレン(融点160℃)を配した芯鞘型複合短繊維からなる目付20g/mの熱接着性サーマル不織布(レンゴー社製 品番<2662>)を準備した。
【0054】
先に得られたスパンレース不織布2枚を、ウエブ層B側が熱接着性シートと接するようにして、スパンレース不織布/熱接着性シート/スパンレース不織布の順に積層し、これをエンボスロールと平滑ロールからなる熱エンボス装置に通して、一体化することによりシート材を得た。エンボスロールは、斜め格子状の模様を付与できるものであり、圧接面積率38%のものを用いた。熱エンボス加工の条件としては、両ロールの表面温度を116℃、線圧を4N/cmに設定した。
【0055】
得られたシート材は、一方の表面に格子状の凹凸模様が明瞭に付与されたものであった。
【0056】
得られたシート材を、長辺140mm、短辺90mmの矩形状にカットしたうえで、上述の液状組成物を含浸させた。すなわち、容器に貯留した液状組成物をマグネチックスターラーで常に撹拌しながら、スポイドを用いて、シート材の質量の3倍量の液状組成物をこのシート材に撒布した後、均一になるように押し広げて、シート状化粧材の試料とした。
【0057】
得られた試料の測定結果は、表1に示す通りであった。
【0058】
【表1】

【0059】
(比較例1)
実施例1において、ウエブ層A及びウエブ層Bの再生コットンに代えて、平均繊維長25mmの木綿を用いた。それ以外は実施例1と同様にしてシート状化粧材の試料を得た。
得られた試料の測定結果は、表1に示す通りであった。
【0060】
(比較例2)
実施例1において、ウエブ層A及びウエブ層Bの再生コットンに代えて、レーヨン(繊度1.7デシテックス、繊維長51mm)を用いた。
それ以外は実施例1と同様にしてシート状化粧材の試料を得た。
得られた試料の測定結果は、表1に示す通りであった。
【0061】
表1に示すように、再生コットンを用いた実施例1のものに比べて、木綿を用いた比較例1のものやレーヨンを用いた比較例2のものは、ざらざら感が高かった。実施例1のものは、すべり感を有し、敏感肌タイプでも良好に適用できるものであった。
【0062】
圧縮特性については、再生コットンを用いた実施例1のものは、弱い力で圧縮されやすく、また反発性も良好であった。木綿を用いた比較例1のものやレーヨンを用いた比較例2のものは、実施例1ほどの圧縮特性は得られなかった。
【0063】
表面特性と圧縮特性の総合評価としては、再生コットンを用いた実施例1のもののみが良好であり、拭き取り感があり肌に押さえつけた時の柔軟性、反発性(弾力性、肌当たり)の良好なシート状化粧材であった。比較例1、2は、実施例1ほどの総合評価を下すことはできなかった。
【0064】
化粧材としての使用感も、実施例1のものが特に優れ、これに対し比較例1、2のものは、実施例1のものほど優れてはいなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとが積層され、ウエブ層Aとウエブ層Bとがその構成繊維が相互に交絡されることにより一体化されてスパンレース不織布が構成され、このスパンレース不織布と、熱接着性繊維を含む熱接着性シートとが、ウエブ層A/ウエブ層B/熱接着性シート/ウエブ層B/ウエブ層Aの順に積層され、積層物における少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様が施された形態でこの積層物が一体化されていることでシート材が構成され、このシート材に液状組成物が含浸されていることを特徴とするシート状化粧材。
【請求項2】
摩擦係数の変動範囲が0.008〜0.015であり、圧縮回復率が45%以上であることを特徴とする請求項1記載のシート状化粧材。
【請求項3】
液状組成物が含浸したシート状化粧材を得るためのシート材であり、コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとが積層され、ウエブ層Aとウエブ層Bの構成繊維が相互に交絡一体化されてスパンレース不織布が構成され、このスパンレース不織布と、熱接着性繊維を含む熱接着性シートとが、ウエブ層A/ウエブ層B/熱接着性シート/ウエブ層B/ウエブ層Aの順に積層され、積層物における少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様が施された形態でこの積層物が一体化されていることを特徴とするシート材。
【請求項4】
コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとを積層した積層物に高圧水流を施して、ウエブAとウエブBの構成繊維同士を互いに三次元的に交絡させて積層一体化したスパンレース不織布を形成し、一対のスパンレース不織布と熱接着性シートとを、スパンレース不織布のウエブB側が熱接着性シートに接するように、スパンレース不織布/熱接着性シート/スパンレース不織布の順に積層した積層体を熱エンボス装置に通して、ウエブBに含まれる熱融着性繊維の熱融着成分及び熱接着性シートに含まれる熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化する温度で熱エンボス装置により部分的に熱圧着して、積層一体化するとともに、その一体化物の少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様を付与してシート材を構成し、このシート材に液状組成物を含浸させることを特徴とするシート状化粧材の製造方法。
【請求項5】
液状組成物が含浸したシート状化粧材を得るためのシート材の製造方法であって、コットンリンターを出発原料とするビスコースレーヨンを構成繊維とするウエブ層Aと、構成繊維に熱融着性繊維を含むウエブ層Bとを積層した積層物に高圧水流を施して、ウエブAとウエブBの構成繊維同士を互いに三次元的に交絡させて積層一体化したスパンレース不織布を形成し、一対のスパンレース不織布と熱接着性シートとを、スパンレース不織布のウエブB側が熱接着性シートに接するように、スパンレース不織布/熱接着性シート/スパンレース不織布の順に積層した積層体を熱エンボス装置に通して、ウエブBに含まれる熱融着性繊維の熱融着成分及び熱接着性シートに含まれる熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化する温度で熱エンボス装置により部分的に熱圧着して、積層一体化するとともに、その一体化物の少なくとも一方の面に熱エンボス加工による凹凸模様を付与することを特徴とするシート材の製造方法。

【公開番号】特開2009−292750(P2009−292750A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146340(P2008−146340)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】