説明

シームレス補強材およびその製造方法

【課 題】ガラス繊維からなる軽量、薄型円筒状シームレス補強材、その製造方法および該補強材を含む繊維強化プラスチック製の耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性および寸法安定性等にすぐれ、肉厚が薄く、軽量の円筒状成形体を提供すること。
【解決手段】1本のガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回してなる筒状であって、目止め剤で少なくとも糸条の交点が固定されていることを特徴とするガラス繊維からなるシームレス補強材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械部品等に使用される、ガラス繊維等の強化繊維からなる円筒状の補強材、その製造方法および該補強材を用いた軽量、薄型で、且つ耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性、寸法安定性等にすぐれた繊維強化プラスチック成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリクス樹脂とを組み合わせた円筒状の複合材料は、軽量、高剛性、高強度であるため、金属に代わる構造材料として、従来、工業用ロール、例えば、製紙、印刷機械の紙、フィルム等の搬送ロールや巻き取りロール等の胴部部品として使用されている。上記強化繊維としては、たとえば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が挙げられ、一方、マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂は、耐熱性が要求される分野には不向きであるが、成形性や硬化後の機械的特性、電気的特性等にすぐれているのでエポキシ樹脂が多用されている。
【0003】
繊維強化プラスチック製円筒状成形体の製造方法としては、従来、成形体の補強材として例えば上記強化繊維等を用いて織編物を製造し、これらの面状物を裁断して形成した円筒体、あるいは上記強化繊維から直接織編成した円筒状の織編物に、例えばハンドレイアップ法、スプレーアップ法、注形法等の方法によって、マトリクス樹脂を含浸させて繊維強化プラスチック製円筒状成形体とする方法等がある。また、上記強化繊維から製造された織物を熱可塑性樹脂フィルムと積層し、この積層体を芯金に巻き付け、積層体が巻き付けられた芯金をオーブンに入れ熱可塑性樹脂を溶融し、織物と熱可塑性樹脂フィルムとを一体化し、これをオーブンから取り出し、冷却後、芯金を抜き取り円筒状成形体を得る方法等が提案されている(特許文献1)。近年、繊維強化プラスチック製円筒状成形体において、軽量化、薄型化を始め、耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性または寸法安定性等の高機能化が求められている。しかしながら、上記の提案は繊維補強材の形態として織物が用いられる限りにおいて、織物の厚さまたは単位面積あたりの重量をより小さくするには製織上自ら制約が生ずる。そのために織物を補強材として用いて成形体を製造する場合にも同様に成形体の肉厚または重量に一定の制約が生ずることになる。例えば極細繊維を用いて軽量および薄型織編物を製造し、この織編物を補強材として用いることにより補強材の軽量化、薄型化を図り、該補強材を用いた成形体の軽量化、薄型化を図ろうとしても、軽量および薄型の織編物を製造する工程において糸切れが多発して織編物の生産性の点で大きな問題となり、軽量および薄型の織編物を得るのが難しい。したがって、プラスチック製円筒状成形体を強化するための、軽量および薄型で且つ寸法安定性等にすぐれた繊維から成る円筒状の補強材が求められている。軽量および薄型で且つ寸法安定性等にすぐれた繊維から成る円筒状の補強材が未だ開発されていないので、このような繊維から成る円筒状の補強材を用いた軽量および薄型で、耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性および寸法安定性等にすぐれた繊維強化プラスチック製円筒状成形体も未だ開発されていない。
【特許文献1】特開平08−294985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス繊維からなる軽量、薄型円筒状シームレス補強材、その製造方法および耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性および寸法安定性等にすぐれ、肉厚が薄く、軽量の、該補強材を含む繊維強化プラスチック製円筒状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意・検討を行った結果、1本のガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回してなる円筒状であって、目止め剤で少なくとも糸条の交点が固定されていることを特徴とするガラス繊維からなるシームレス補強材の開発に成功すると共に、該補強材が上記した種々の問題点を一挙に解決することを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)1本のガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回してなる円筒体であって、目止め剤で少なくとも糸条の交点が固定されていることを特徴とするガラス繊維からなるシームレス補強材、
(2)ガラス繊維糸条を構成する単糸の平均直径が4〜20μmの範囲であることを特徴とする上記(1)に記載のシームレス補強材。
(3)綾角度が10〜85°であることを特徴とする上記(1)または(2)のいずれかに記載のシームレス補強材、
(4)目止め剤がポリイミド樹脂またはフッソ樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシームレス補強材、
(5)複写機の熱定着ロールまたはナス(NAS)電池の筒用である上記(1)〜(4)のいずれかに記載のシームレス補強材、
(6)1本のガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回し、目止め剤で少なくとも糸条の交点を固定することを特徴とするガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材の製造方法、
(7)ガラス繊維糸条を構成する単糸の平均直径が4〜20μmの範囲であることを特徴とする上記(6)に記載のシームレス補強材の製造方法、
(8)綾角度が10〜85°であることを特徴とする上記(6)または(7)に記載のシームレス補強材の製造方法、
(9)目止め剤がポリイミド樹脂またはフッソ樹脂であることを特徴とする上記(6)〜(8)のいずれかに記載のシームレス補強材の製造方法、
(10)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のシームレス補強材とマトリクス樹脂を含む複合材料からなる円筒状の成形体、
(11)マトリクス樹脂がポリイミド樹脂またはフッソ樹脂であることを特徴とする上記(10)に記載の円筒状の成形体、
(12)複写機の熱定着ロールまたはナス(NAS)電池の筒である上記(10)または(11)に記載の成形体、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ガラス繊維からなる軽量、薄型で且つすぐれた寸法安定性を有する円筒状シームレス補強材を提供することができる。また本発明は、ガラス繊維を捲き芯部に巻回するだけであるから簡便で、軽量、薄型で且つすぐれた寸法安定性を有する円筒状シームレス補強材の製造方法を提供することができる。本発明による円筒状の成形体は、ガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材により補強されているために、ガラス繊維自身の特性である寸法安定性、耐熱性等に優れているのみならず、用いられるマトリクス樹脂自身が有する特性をも併せ持つことになる。したがって、本発明は、耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性、機械的強度、自己平滑性、電気的特性、耐候性および寸法安定性等にすぐれ、肉厚の薄い、軽量の、補強材を含む繊維強化プラスチック製円筒状成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明は、1本のガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回してなる円筒状であって、目止め剤で少なくとも糸条の交点が固定されていることを特徴とするガラス繊維からなるシームレス補強材に関する。
【0010】
本発明で用いられるガラス繊維糸条は多数本の単糸から構成され、前記単糸の平均直径は通常約4〜20μm、好ましくは約5〜9μm、さらに好ましくは約4〜6μmであり、糸条を構成する単糸数は通常約50〜1200本、好ましくは約100〜800本である。このようなガラス繊維として、例えばBC2250、C1800、D900、DE300、DE150、DE75、E225、E113、G150、G75、G37等と呼称されるものを挙げることができる。なかでも、C1800、BC2250、D900等が好ましい。原料ガラスの種類としては、Eガラス(無アルカリ)のみならず、例えばシリカガラス、Dガラス(低誘電)、Sガラス(高強度)、Cガラス(アルカリ石灰)またはHガラス(高誘電)等も使用できる。
【0011】
本発明で使用されるガラス繊維糸条は、撚りがかけられていても、いなくてもよいが、撚りがかけられている方が好ましい。撚り数は、100cm当たり通常約20〜200回、好ましくは約40〜150回である。撚りをかけるには、公知の市販の撚糸機を用いて行ってよい。撚り方向として公知の右撚り(S撚り)、左撚り(Z撚り)いずれのものであってもよい。
【0012】
次いで、上記ガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回してなる円筒状のシームレス補強材の製造方法について説明する。
【0013】
本発明に係る筒状のシームレス補強材の製造方法としては、ガラス繊維糸条から構成される筒状物が得られれば特に限定されず、例えばフィラメントワインディング(FW)法等の従来公知の方法により筒状のシームレス補強材を製造してもよいし、または、例えばET調速巻取機(株式会社神津製作所製)等の市販の巻取機を用いて円筒状のシームレス補強材を製造してもよい。なかでも、市販の巻取機を用いるのが好ましい。例えば市販の巻取機を用いれば、巻取機の捲き芯部としてのボビンへのガラス繊維糸条の巻回数を所望によりできる限り少なくでき、しかも織編物の製造工程のように複雑でないため、極細のガラス繊維糸条を用いても糸切れがほとんど発生せず、織編物の形態を経ずともガラス繊維糸条から直接円筒状の薄型シームレス補強材を簡便に得ることができ、また円筒状のシームレス補強材の長さ、直径等の寸法設定の自由度も大きい。例えば市販の巻取機を用いてガラス繊維糸条から成る円筒状のシームレス補強材を作製する場合、ガラス繊維糸条を円筒状に巻回する条件として、用いるガラス繊維のタイプにより違いがあるが、巻回速度が約50〜1000m/min、糸条引き出し張力が約1〜50g、綾角度が約10〜85°であるのが好ましい。巻回時間については、用いるガラス繊維のタイプ、巻回速度、所望する円筒状の補強材の直径および長さ等により異なるが、通常約5秒〜30分である。例えば、ガラス繊維糸条D900 1/0 1Z1本を用いて、巻き取り糸速約200m/min、ワインド数約3.2、糸条の引き出し張力約6gの巻回条件にて、外径約63mmおよびストローク幅約203mmの巻き取りボビンに巻回して、繊維層の厚さ約60μmの補強材を作製する場合、巻回時間は約15秒が好ましい。巻回時間としては、所望の円筒状のシームレス補強材の繊維層の厚さが得られるように適宜設定すればよい。かくして、本発明により軽量且つ繊維層の肉厚が小さい薄型の円筒状のシームレス補強材が得られる。
【0014】
本発明に係る円筒状のシームレス補強材は、具体的には、例えばFW法におけるマンドレルまたは巻取機における巻き取りボビン等の捲き芯部の長さ方向の一端から他端へ、ガラス繊維糸条を、一定の綾角度を持たせて往復動作を所望回繰り返すことにより、捲き芯部の表面に所望の厚さの繊維層を形成させた後、該繊維層を捲き芯部から、分離することによって得られる。例えば巻取機の捲き芯部としてのボビン上にガラス繊維が巻回された状態においてボビンのみを引き抜く等の手段を用いて繊維層を捲き芯部から分離してよい。円筒状のシームレス補強材を構成するガラス繊維糸条が乱れないように少なくとも糸条が交叉する交点を固着させるために糸条に目止め剤としての樹脂を含浸させるのが好ましい。シームレス補強材を構成するガラス繊維糸条に目止め剤としての樹脂を含浸させ、少なくとも糸条が交叉する交点を固着させた後に、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビン上に巻回された繊維層をボビンから分離する等して、円筒状のシームレス補強材を得るのが好ましい。シームレス補強材を構成するガラス繊維糸条に目止め剤としての樹脂を含浸させる方法としては、円筒状のシームレス補強材を構成するガラス繊維糸条が乱れないように少なくともガラス繊維糸条が交叉する交点を固着できれば特に限定されず、公知の方法等を適宜用いてガラス繊維糸条に対して目止め剤としての樹脂の含浸を行えばよい。具体的には、例えば、ガラス繊維糸条を巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回する直前に走行するガラス繊維糸条に目止め剤としての樹脂を予め含浸させながら捲き芯部に巻回してもよいし、または捲き芯部の表面に形成された繊維層上に目止め剤としての樹脂をスプレーで吹付けるかあるいは刷毛で塗布する等の手段を用いて付与してもよい。なかでも、ガラス繊維糸条を捲き芯部に巻回する直前に走行するガラス繊維糸条に目止め剤としての樹脂を予め含浸させながら捲き芯部に糸条を巻回するのが好ましい。
【0015】
円筒状のシームレス補強材作製用に供するガラス繊維については、ガラス繊維に付着している、例えば澱粉を主成分とするバインダーをヒートクリーニング処理等の自体公知の手段を用いて予め除去するのが好ましい。ガラス繊維に付着しているこのようなバインダーが後述する後工程において樹脂との接着性を阻害するおそれがあるからである。ヒートクリーニング処理は、熱風、赤外線、高周波、高圧蒸気、バーナー等の加熱源により通常約100〜600℃程度、好ましくは約300〜400℃の温度に制御された加熱炉に、ガラス繊維を通常約10時間〜2日程度、好ましくは約15時間〜1日程度放置する方法等の自体公知の手段に基づいて行われてよい。ガラス繊維をヒートクリーニング処理するに当たって、ガラス繊維が、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビン上に巻回された状態で処理されるのが好ましい。
【0016】
本発明で用いられる目止め剤用の樹脂としては、耐熱性樹脂であれば特に限定されないが、ポリイミド樹脂、フッソ樹脂、ポリアミド樹脂またはシアネート樹脂等を挙げることができる。なかでも、より好ましくはポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂は、広義のポリイミドを指し、例えば芳香族系ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸系ポリイミド、マレイン酸系ポリイミドまたは熱可塑性ポリイミド(ポリアミドイミドまたはポリエーテルイミド等を例示でき、熱可塑性または非熱可塑性等は問わない。なかでも、非熱可塑性ポリイミド樹脂が好ましく、熱硬化性ポリイミド樹脂がより好ましい。熱硬化性ポリイミド樹脂として、例えばローヌプーラン社製“ケルイミド”もしくは三菱ガス化学株式会社製“BTレジン”等のビスマレイミド型熱硬化型ポリイミド、アメリカ航空宇宙局(NASA)で開発された“PMR−15”もしくは“LARK−160”等のノルボルネン末端反応型熱硬化型ポリイミド、またはHugesエアクラフト社製の”THERMID”、等を好ましく例示することが出来るが、これらに限定されない。本発明に用いられるフッ素樹脂としては、例えば、四フッ化エチレン樹脂(以下、PTFEということがある)、パーフルオロ−アルコキシ樹脂(以下、PFAということがある)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂(以下、FEPということがある)、四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂(以下、ETFEということがある)、フッ化ビニリデン樹脂(以下、PVDFということがある)または三フッ化塩化エチレン樹脂(以下、PCTFEということがある)等を挙げることができるが、なかでもPTFEが好ましい。本発明で用いられる目止め剤用の樹脂としては、前記の耐熱性樹脂に限定されず、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂等を用いることができる。フェノール樹脂として、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂を挙げることができる。不飽和ポリエステル樹脂として、オルソフタール酸系不飽和ポリエステル樹脂、イソフタール酸系不飽和ポリエステル樹脂またはビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0017】
本発明で用いられる目止め剤用の樹脂として、ポリイミド前駆体を用いてもよい。円筒状のガラス繊維糸条からなるシームレス補強材に目止め剤用の樹脂としてポリイミド前駆体を付与する場合、ポリイミド前駆体を溶媒に溶解して用いることが好ましい。ポリイミド前駆体を溶媒に溶かした場合、ポリイミド樹脂前駆体の溶液中の濃度は約10〜75質量%、好ましくは約20〜50質量%である。ポリイミド前駆体としては、ポリイミドに転化されるものであれば、特に限定されず、公知のものを用いてよい。なかでも、熱や化学的にイミド化され、ポリイミドに転化する前駆体が特に好ましい。また、上記ポリイミド前駆体として、例えば、テトラカルボン酸二無水物と(メタ)アクリル基含有アルコールとを反応させてテトラカルボン酸ジエステルを生じさせ、このテトラカルボン酸ジエステルとジアミノ化合物を材料とする縮合重合によって得られるもの、または、テトラカルボン酸二無水物と(メタ)アクリル基を含まないアルコールと反応させてテトラカルボン酸ジエステルを生じさせ、このテトラカルボン酸ジエステルと不飽和二重結合を含有するジアミノ化合物を材料とした縮合重合によって得られるもの等を用いることができるが、これらに限定されない。本発明におけるポリイミド前駆体と共に用いる溶媒は、上記ポリイミド前駆体を溶かす溶媒であれば、特に限定されず、有機溶媒であってもよいし、無機溶媒であってもよい。上記有機溶媒として、例えば、メタノールまたはエタノール等のアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンまたはN−メチルカプロラクタム等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン、ピリジンまたはエチレングリコール等を用いることができる。これらの有機溶媒を、ベンゼン、トルエン、ベンゾニトリル、キシレン、ソルベントナフサまたはジオキサンのような他の有機溶媒と混合して用いてもよい。また、上記ポリイミド前駆体溶液として、例えば、商品名Uイミドワニス(登録商標)Aタイプ、Bタイプ、CタイプまたはDタイプ(ユニチカ株式会社製)、商品名Pyre−ML(登録商標)(Industrial summit Technology株式会社製)等の市販品を用いてもよい。
【0018】
目止め剤用の樹脂のガラス繊維糸条への付与方法として、特に限定されないが、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回させる直前の走行糸条を樹脂が収容された樹脂槽中に浸漬させた後、例えばニップロール等で余剰の樹脂を搾り取り適量の樹脂が付与されたガラス繊維糸条を捲き芯部としてのボビンに巻回させる等の自身公知の方法、または、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回された繊維層に対して刷毛で樹脂を塗布したり、スプレーで樹脂を吹付けたりする等の自身公知の方法で行ってよい。例えば、ポリイミド樹脂を目止め剤として用いる場合、上記ポリイミド樹脂の粘度が円筒状のシームレス補強材を構成するガラス繊維糸条に容易に含浸できるぐらい低い粘度であることが特に好ましい。上記ポリイミド樹脂の粘度が20℃の温度で粘度約100ポイズ以下であることが好ましい。例えば、ポリイミド樹脂を分散剤を用いて分散させたり、乳化剤を用いて乳化させたりすることにより、低粘度化することができる。分散剤、乳化剤としては、公知のものを用いてよい。また、本発明において、例えばポリイミド樹脂を目止め剤として用いる場合、上記ポリイミド樹脂を溶媒に溶かして用いることも好ましい。ポリイミド樹脂を溶媒に溶かした場合、ポリイミド樹脂溶液の濃度は約10〜75質量%、好ましくは約20〜50質量%である。前記溶媒としては、上記ポリイミド樹脂を溶かす溶媒であれば特に限定されず、有機溶媒であってもよいし、無機溶媒であってもよい。例えば、上記ポリイミド樹脂を溶かす溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、カプロラクタム、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グライム、ジグライムまたはトリグライム等を用いることができる。
【0019】
次いで、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回された円筒状の繊維層中の目止め剤としての樹脂を硬化させる。例えば目止め剤としてポリイミド樹脂またはポリイミド前駆体を用いた場合、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回された円筒状の繊維層に付与されたポリイミド樹脂を硬化またはポリイミド前駆体をイミド化・硬化させる。繊維層に付与されたポリイミド樹脂の硬化またはポリイミド前駆体のイミド化・硬化は、特に限定されないが、例えば加熱炉で加熱する等の自身公知の手段を適宜用いて行われてよい。ポリイミド樹脂またはポリイミド前駆体の加熱処理温度は、ポリイミド樹脂またはポリイミド前駆体のタイプによって違いがあるが、通常約50〜450℃、好ましくは約80〜400℃、加熱処理時間は、通常約5分〜36時間、好ましくは約10分〜5時間である。加熱処理温度と加熱処理時間については、ある同一温度にて一定時間を一段階で加熱処理してもよいが、加熱処理温度と加熱処理時間を適宜設定して多段階で処理するのが好ましい。例えば、第一段階が約50〜100℃で約5〜30分、第二段階が約150〜250℃で約15〜60分、第三段階が約300〜450℃で約45分〜5時間のように多段加熱処理するのが好ましい。第一段階が約70〜90℃で約5〜15分、第二段階が約180〜220℃で約20〜40分、第三段階が約340〜380℃で約1〜2時間のように多段加熱処理するのがより好ましい。円筒状の繊維層が、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回された状態で加熱処理されてもよいし、ボビンから繊維層を分離して繊維層のみを加熱処理してもよいが、円筒状の繊維層がボビンに巻回された状態で加熱処理を行うのが好ましい。例えば、巻き取り機の捲き芯部としてのボビンから繊維層を分離して繊維層のみを加熱処理することによって、あるいは繊維層がボビンに巻回された状態で加熱処理され、加熱処理終了後に繊維層をボビンから分離することによって、本発明に係る円筒状のシームレス補強材が得られる。繊維層をボビンから分離し易いように、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビンにガラス繊維糸条を巻回する前に、例えばカプトン等の耐熱性フィルムをボビン表面に予め巻きつけておいてよい。本発明において、例えば目止め剤として、ポリイミド樹脂またはポリイミド前駆体を溶媒に溶かした溶液を用いた場合、ポリイミド樹脂を硬化またはポリイミド前駆体をイミド化・硬化させる前に予め繊維層中の溶媒を除去することが好ましい。具体的には、例えば乾燥機等を用いて、好ましくは用いた溶媒の沸点に近い温度で、約5分〜2時間、好ましくは約30分〜1時間繊維層を乾燥させること等により、繊維層中の溶媒を除去することができる。円筒状の繊維層が、例えば巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回された状態で乾燥処理してもよいし、ボビン表面から繊維層を分離した後に繊維層のみを乾燥処理してもどちらでもよい。なかでも、円筒状の繊維層がボビンに巻回された状態で乾燥処理するのが好ましい。
【0020】
本発明において、例えば巻取機の捲き芯部に巻回するために用いられるガラス繊維糸条の本数は通常約1〜5本、好ましくは1本である。ガラス繊維糸条を捲き芯部の表面に巻回させる際の綾角度は、約10〜85°、好ましくは約30〜60°である。
【0021】
本発明による円筒状のシームレス補強材の肉厚は約20〜150μm、好ましくは約40〜60μmである。補強材の肉厚が約20μm未満であると、補強材を構成する繊維層が粗になりすぎて、補強材の表面の凹凸部が大きすぎたり、補強材の表面に空隙部が多数発生して、後工程において補強材とマトリクス樹脂とを一体化させて作製した円筒状の成形体にボイドが発生して、そのために成形体の強度が低下する等すぐれた品質の成形体が得られない。補強材の肉厚が約150μmを超えると、後工程において補強材をマトリクス樹脂で成型加工して得た円筒状の成形体の軽量化あるいは薄型化を十分に図り難い。
かくして得られた本発明によるシームレス補強材は、軽量、薄型および寸法安定性等に優れているので、工業用ロール、例えば、製紙、印刷機械の紙、フィルム等の搬送ロールや巻き取りロール、複写機の熱定着ロール等の胴部部品またはナス(NAS)電池の筒等の補強材として好適に使用される。中でも、複写機の熱定着ローラ等の胴部部品またはナス電池の筒等の補強材としてより好適に使用される。
【0022】
次いで、本発明による成形体の製造方法について説明する。本発明に係るガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材とマトリクス樹脂とを一体化させて円筒状の成形体を製造する。本発明に用いられるマトリクス樹脂としては、耐熱性樹脂であれば特に限定されないが、ポリイミド樹脂またはフッソ樹脂等が好ましい。より好ましくはポリイミド樹脂である。ポリイミド樹脂として、例えば目止め剤用の樹脂として前記したポリイミド樹脂または前記したポリイミド前駆体を使用することが出来る。本発明に用いられるフッ素樹脂としては、例えば目止め剤用の樹脂として前記したフッ素樹脂を使用することが出来る。本発明によるガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材をセットした型内に上記したマトリクス樹脂を充填した後、型を加熱処理する等の従来公知の方法にてマトリクス樹脂を硬化することによってガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材で強化された円筒状の成形体を得ることができる。加熱処理温度としては、マトリクス樹脂の種類等によって異なるが、通常約50〜450℃、好ましくは約80〜400℃、加熱処理時間は、通常約5分〜36時間、好ましくは約10分〜5時間である。加熱処理温度と加熱処理時間については、ある同一温度にて一定時間を一段階で加熱処理してもよいが、加熱処理温度と加熱処理時間を適宜設定して多段階で処理するのが好ましい。例えば、第一段階が約50〜100℃で約5〜30分、第二段階が約150〜250℃で約15〜60分、第三段階が約300〜450℃で約45分〜5時間のように多段加熱処理するのが好ましい。第一段階が約70〜90℃で約5〜15分、第二段階が約180〜220℃で約20〜40分、第三段階が約340〜380℃で約1〜2時間のように多段加熱処理するのがより好ましい。本発明によるガラス繊維で強化された円筒状の成形体中のガラス繊維の含有量は、マトリクス樹脂の種類によって異なるが、マトリクス樹脂100重量部に対して約5〜250重量部、好ましくは約65〜100重量部である。ガラス繊維の含有量がマトリクス樹脂100重量部に対して約250重量部を超えると樹脂が補強材に均一に含浸した成形体を得にくくなり、ガラス繊維の含有量が約5重量部を下回ると成形体の機械的強度が低下する。マトリクス樹脂およびガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材以外に、所望により従来公知の硬化触媒、充填剤、増粘剤、低収縮剤、内部離型剤または着色剤等が適宜添加されてよい。本発明による円筒状の成形体は、ガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材により補強されているために、ガラス繊維自身の特性である寸法安定性、耐熱性等に優れているのみならず、用いられるマトリクス樹脂自身が有する特性をも併せ持つことになる。マトリクス樹脂が有する特性としては、例えばマトリクス樹脂がポリイミド樹脂の場合、耐熱性、耐衝撃性および耐溶剤性等、フッソ樹脂の場合、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気的特性、耐候性および自己潤滑性等が挙げられる。さらに本発明によるガラス繊維からなる筒状のシームレス補強材が薄型化および軽量化が可能であるから、該補強材により補強された成形体も薄型化および軽量化が可能となる。本発明に用いられるマトリクス樹脂としては、前記の耐熱性樹脂に限定されず、目止め剤用樹脂として前記したフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂等も用いることができる。フェノール樹脂として、目止め剤用樹脂として前記したノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂を挙げることができる。不飽和ポリエステル樹脂として、目止め剤用樹脂として前記したオルソフタール酸系不飽和ポリエステル樹脂、イソフタール酸系不飽和ポリエステル樹脂またはビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0023】
かくして得られた本発明による軽量、薄型および寸法安定性等にすぐれた、且つ、用いられるマトリクス樹脂により異なるが、用いられるマトリクス樹脂独自が有する、例えば耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性または自己平滑性等の特性を併せ持つすぐれた繊維強化プラスチック製の円筒状成形体は、その特性を活かして工業用ロール、例えば、製紙、印刷機械の紙、フィルム等の搬送ロールや巻き取りロール、複写機の熱定着ロール等の胴部部品またはナス(NAS)電池の筒等として好適に使用される。中でも、複写機の熱定着ローラ等の胴部部品またはナス電池の筒等としてより好適に使用される。
以下に本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
ET調速巻取機(巻き取りボビン外径63mm、ストローク幅203mm、神津製作所株式会社製)を用いて、ガラス繊維糸条(D900 1/0 1Z(ユニチカグラスファイバー社製))1本を鉄製巻き取りボビンに巻き取り、重量1.6gの筒状補強材を作製した。ガラス繊維糸条の主要な巻き取り条件として、巻き取り糸速200m/min、綾角度45°、巻き取り時間は15秒間および糸条の引き出し張力6gを採用した。次いで、巻き取りボビンに巻き取って得た円筒状補強材をボビンごと宙吊り状態で加熱炉内において、400℃で15時間加熱処理することによって、ガラス繊維糸条に付着した澱粉を主成分とするバインダーを焼却除去した。次いで、円筒状補強材の円筒形状を保持するために、ポリイミド樹脂 (ユニチカ株式会社製、UイミドワニスDタイプ)を固形分濃度として25質量%になるようにジメチルアセトアミド溶媒を用いて調整したポリイミド樹脂溶液(ワニス)を鉄製巻取りボビンに巻かれた円筒状補強材としてのガラス繊維糸条層に対してスプレーで均一に塗布した後、80℃10分、200℃30分、350℃60分で加熱処理し、ガラス繊維糸条層に塗布されたワニスを硬化、イミド化させた後、鉄製ボビンを抜き取り、円筒形状が保持された(目止めされた)円筒状補強材を得た。得られた円筒状補強材中の形態保持用のポリイミド樹脂付着量は60質量%、円筒状補強材のガラス繊維層の厚さが60μmであった。
次に、外径64mm、肉厚さ100μmの円筒状成形体になるように設計製作された二重管の成型治具を用いて、円筒形状が保持された上記の円筒状補強材にマトリクス樹脂としてポリイミド樹脂(ユニチカ株式会社製、UイミドワニスBタイプ)を含浸させた後、80℃10分、200℃30分、400℃60分で加熱処理してマトリクス樹脂を硬化、イミド化させてガラス繊維から成る円筒状補強材で強化された、外径64mm、肉厚さ100μmの円筒状のポリイミド樹脂成形体を得た。得られた成形体の寸法変化率を下記の方法に基づいて求め、その結果を表1に記載した。
【0025】
[寸法変化率の測定法]
(a) 加熱前の寸法測定
円周方向および幅方向の中心部に各々150mm間隔で直径0.8mmの孔を二つドリルであけて、この二つの孔の各中心部間の長さをX−Yプロッター(武藤工業製:モデルPR8−8CT)を用いて測定した。二つの孔の各中心部間の長さを円周方向および円筒長さ方向について測定し、最小目盛り10μmまで読み取った。ここで、円周方向および円筒長さ方向の各々の長さをA、Bとした。
(b) 加熱後の寸法測定
試験片を150℃に保持した恒温乾燥機内に(a)で加熱前の寸法測定を行った試験片を水平に置いて30分間加熱処理後、取り出してデシケーター内で室温まで放冷後、(a)と同様に二つの孔の各中心部間の長さを円周方向および円筒長さ方向について測定し、最小目盛り10μmまで読み取った。測定した円周方向および円筒長さ方向の各々の長さをC、Dとした。
(c) 加熱前後の寸法変化率の算出
以下の式にもとづいて、筒状の成形体の円周方向および円筒長さ方向の加熱前後の寸法変化率を算出した。
円周方向の寸法変化率(%)={(C−A)/A}×100
円筒長さ方向の寸法変化率(%)={(D−B)/B}×100
【実施例2】
【0026】
ET調速巻取機(巻き取りボビン外径63mm、ストローク幅203mm、神津製作所株式会社製)を用いて、ガラス繊維糸条(D900 1/0 1Z(ユニチカグラスファイバー社製))1本を鉄製巻き取りボビンに巻き取り、重量1.6gの円筒状補強材を作製した。ガラス繊維糸条の主要な巻き取り条件として、巻き取り糸速200m/min、綾角度45°、巻き取り時間は15秒間および糸条の引き出し張力6gを採用した。
次いで、円筒状補強材の円筒形状を保持するために、ポリイミド樹脂 (ユニチカ株式会社製、UイミドワニスDタイプ)を固形分濃度として25質量%になるようにジメチルアセトアミド溶媒を用いて調整したポリイミド樹脂溶液(ワニス)を鉄製巻取りボビンに巻かれた円筒状補強材としてのガラス繊維糸条層に対してスプレーで均一に塗布した後、80℃10分、200℃30分、400℃15時間で加熱処理することによって、ガラス繊維糸条に付着した澱粉を主成分とするバインダーを焼却除去すると同時に、ガラス繊維糸条層に塗布されたワニスを硬化、イミド化させた後、鉄製ボビンを抜き取り、円筒形状が保持された(目止めされた)円筒状補強材を得た。次いで、実施例1と全く同様に行って、ガラス繊維から成る円筒状補強材で強化された、外径64mm、肉厚さ100μmの円筒状のポリイミド樹脂成形体を得た。得られた成形体の寸法変化率を実施例1に記載の方法に基づいて求め、その結果を表1に記載した。
【実施例3】
【0027】
ET調速巻取機(巻き取りボビン外径63mm、ストローク幅203mm、神津製作所株式会社製)を用いて、ガラス繊維糸条(BC2250 1/0 1Z(ユニチカグラスファイバー社製))1本を鉄製巻き取りボビンに巻き取り、重量1.0gの円筒状補強材を作製した。ガラス繊維糸条の主要な巻き取り条件として、巻き取り糸速200m/min、綾角度45°、巻き取り時間は15秒間および糸条の引き出し張力6gを採用した。次いで、巻き取りボビンに巻き取って得た円筒状補強材をボビンごと宙吊り状態で加熱炉内において、400℃で15時間加熱処理することによって、ガラス繊維糸条に付着した澱粉を主成分とするバインダーを焼却除去した。次いで、円筒状補強材の円筒形状を保持するために、ポリイミド樹脂 (ユニチカ株式会社製、UイミドワニスDタイプ)を固形分濃度として25質量%になるようにジメチルアセトアミド溶媒を用いて調整したポリイミド樹脂溶液(ワニス)を鉄製巻取りボビンに巻かれた円筒状補強材としてのガラス繊維糸条層に対してスプレーで均一に塗布した後、80℃10分、200℃30分、350℃60分で加熱処理し、ガラス繊維糸条層に塗布されたワニスを硬化、イミド化させた後、鉄製ボビンを抜き取り、円筒形状が保持された(目止めされた)円筒状補強材を得た。得られた円筒状補強材中の形態保持用のポリイミド樹脂付着量は70質量%、円筒状補強材のガラス繊維層の厚さが40μmであった。
次に、外径64mm、肉厚さ80μmの円筒状成形体になるように設計製作された二重管の成型治具を用いて、円筒形状が保持された上記の円筒状補強材にマトリクス樹脂としてポリイミド樹脂(ユニチカ株式会社製、UイミドワニスBタイプ)を含浸させた後、80℃10分、200℃30分、400℃60分で加熱処理してマトリクス樹脂を硬化、イミド化させてガラス繊維から成る円筒状補強材で強化された、外径64mm、肉厚さ80μmの円筒状のポリイミド樹脂成形体を得た。得られた成形体の寸法変化率を実施例1に記載の方法に基づいて求め、その結果を表1に記載した。
【0028】
[比較例1]
ガラス繊維糸条(D900 1/0 1Z(ユニチカグラスファイバー社製))から成る織物(織物密度;たて60本/25mm、よこ47本/25mm)を裁断して外形63mm、筒長さ203mmの円筒状補強材を作成した。該筒型補強材にポリイミド樹脂(ユニチカ株式会社製、UイミドワニスBタイプ)を外径64mm、肉厚さ100μmになるように調整した二重管の成型治具を用いて含浸させた後、80℃10分、200℃30分、400℃60分で加熱処理してイミド化し、円筒状のポリイミド樹脂成形体を作成した。得られた成形体の寸法変化率を実施例1に記載の方法に基づいて求め、その結果を表1に記載した。
【0029】
[比較例2]
ガラス繊維糸条(BC2250 1/0 1Z(ユニチカグラスファイバー社製))から成る織物(織物密度;たて95本/25mm、よこ95本/25mm)を裁断して外形63mm、筒長さ203mmの円筒状補強材を作成した。該筒型補強材にポリイミド樹脂(ユニチカ株式会社製、UイミドワニスBタイプ)を外径64mm、肉厚さ80μmになるように調整にした二重管の成型治具を用いて含浸させた後、80℃10分、200℃30分、400℃60分で加熱処理してイミド化し、円筒状のポリイミド樹脂成形体を作成した。得られた成形体の寸法変化率を実施例1に記載の方法に基づいて求め、その結果を表1に記載した。
【0030】
【表1】

実施例の成形体が比較例の成形体より寸法安定性において、2倍〜4.5倍優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のシームレス補強材は、軽量で薄型であり、かつ寸法安定性等にすぐれているので、工業用ロール、例えば、製紙、印刷機械の紙、フィルム等の搬送ロールや巻き取りロール、複写機の熱定着ロール等の胴部部品またはナス(NAS)電池の筒等の補強材として有用である。また、本発明の補強材を使用した円筒状成形体は、耐熱性、耐衝撃性、耐溶剤性または自己平滑性等の特性を併せ持つので、例えば複写機の熱定着ローラ等の胴部部品またはナス電池の筒等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本のガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回してなる円筒体であって、目止め剤で少なくとも糸条の交点が固定されていることを特徴とするガラス繊維からなるシームレス補強材。
【請求項2】
ガラス繊維糸条を構成する単糸の平均直径が4〜20μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のシームレス補強材。
【請求項3】
綾角度が10〜85°であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のシームレス補強材。
【請求項4】
目止め剤がポリイミド樹脂またはフッソ樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシームレス補強材。
【請求項5】
複写機の熱定着ロールまたはナス(NAS)電池の筒用である請求項1〜4のいずれかに記載のシームレス補強材。
【請求項6】
1本のガラス繊維糸条を円筒状に綾角度を持たせて複数回巻回し、目止め剤で少なくとも糸条の交点を固定することを特徴とするガラス繊維からなる円筒状のシームレス補強材の製造方法。
【請求項7】
ガラス繊維糸条を構成する単糸の平均直径が4〜20μmの範囲であることを特徴とする請求項6に記載のシームレス補強材の製造方法。
【請求項8】
綾角度が10〜85°であることを特徴とする請求項6または7に記載のシームレス補強材の製造方法。
【請求項9】
目止め剤がポリイミド樹脂またはフッソ樹脂であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のシームレス補強材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のシームレス補強材とマトリクス樹脂を含む複合材料からなる円筒状の成形体。
【請求項11】
マトリクス樹脂がポリイミド樹脂またはフッソ樹脂であることを特徴とする請求項10に記載の円筒状の成形体。
【請求項12】
複写機の熱定着ロールまたはナス(NAS)電池の筒である請求項10または11に記載の成形体。

【公開番号】特開2006−56158(P2006−56158A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241091(P2004−241091)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000115234)ユニチカグラスファイバー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】