説明

シール材

【課題】低い荷重でシール性を有するとともに、シール面全周領域における締め代のバラツキが生じても安定したシール性を発揮できるシール材を提供する。
【解決手段】リップ部16にはリップ部16の装着溝12の底面12Cに対する傾斜角度を変更させる屈曲部18が形成されているため、相手部材20からリップ部16に反力が作用した場合でも、急激にシール反力が増加することなくリップ部16の撓み量とシール反力とが略比例関係となる。この結果、シール面全周にわたりシール材10の圧縮量に多少のバラツキが生じてもリップ部16の弾性変形によりこれを許容でき安定したシール性を発揮できる。また比較的接触面積の少ないリップ部16によりシールすることにより、少ない締め付け荷重によりシールを実現でき、オープナー開閉装置による自動開閉作業が前提となる半導体ウエハ用の運送・搬送容器のシール材として好適なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンな環境で処理され、製造されることが必要な部品などを製造拠点から他の製造拠点へ輸送するための輸送容器や各プロセス間を搬送するための搬送容器に用いられるシール材に関し、特に、半導体製造プロセスにおいて汚染を嫌うシリコンウエハなどをクリーンルームの外部へ持ち出すときに収容する輸送容器や、クリーンルーム内での各プロセス間の移動の際、汚染防止のために使用する搬送容器において用いられるシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造においては、回路の微細化の進展によって、極めて高い加工精度が要求されてきており、シリコンウエハの大口径化(300mm)の流れから、各製造処理プロセスのみならず、シリコンウエハが置かれるあらゆる環境のクリーン性の向上が求められている。例えば、大口径化し、さらに汚染を受け易くなったシリコンウエハを輸送・転送する際に用いられる容器についても、容器の内部を高いクリーン度に維持することが必要である。そのため、輸送・転送容器には、樹脂やゴム材からなるシール材が組み込まれている。
【0003】
一般的なゴムシール材として、断面略円形や矩形その他相手部材の形状等に合わせて設計された様々な断面形状をしたOリングなどがある。これらは、荷重が加えられ、押し潰されることにより、その反力としての弾性力によりシール機能を発生させる。しかし、半導体製造に用いられるような輸送・搬送容器本体は材料強度(剛性)の高くない合成樹脂で作られており、このようなシール部材を用いた場合、シールに必要とされる反力を発生させるためには、大きな荷重を加えなければならず、そのため容器自体に撓みを生じさせてしまう。その結果、シール材の全周にわたって均一な潰し量を与えることができず、シール材に発生する反力にばらつきが生ずることとなり、潰し量の少ない領域ではシールの反力不足によりシール不良となる問題がある。
【0004】
ここで、例えば、特開平9−45759号公報に記載されたシール材(シール構造)が提案されている。すなわち、成形されたゴム又は熱可塑性樹脂のシール材をシール材装着溝に装着し、突起を形成した相手部材との組み合わせによるシール構造であり、相手部材の突起の作用により、容器の撓みを生じさせることのない低い荷重でシール性を実現しようとするものである。このシール構造の問題は、過度な応力集中により突起とシール材とが固着し易く、容器を開ける際に、シール材が装着溝から脱落し易いという問題がある。また、容器の寸法誤差が大きい場合、締め代(シール材の潰し量)が不足することが起り得るが、僅かな潰し量の減少が著しくシール材の反力を低下させ、全シール面における締め代のバラツキによりシール不良を起こし易いという問題がある。
【0005】
また、図6に示すように、容器を撓ませない程度の荷重でシール性を発揮させるために、断面リップ形状としたシール材50も提案されている。このシール材50は、装着溝52に装着された基部50Aから伸びたリップ部50Bの先端部を相手部材54と接触させ、リップ部50Bの撓みに基づく反力により、低い荷重でも十分なシール性を可能とするものである。また、リップ部50Bは、上述した断面円形や矩形等の通常のシール材に比較して、大きく撓ませることができるので、多少の容器の撓み、寸法誤差による締め代のバラツキを許容できるシール材として考え出されたものである。
【特許文献1】特開平9−45759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種のシール材のリップ部の撓み量(圧縮量)の変化とそれにより発生するシール応力との関係は図7に示すグラフのようになる。すなわち、このシール材は、その撓み(圧縮率)が少ない場合にはシール反力の増加は緩やかであるが、一定以上の撓み(圧縮率)から急激にシール反力が上昇するという性質を有している。このグラフの変局点の前後で、シール反力が大きく異なることは、容器やシール材の寸法誤差、加工精度に伴う締め代のバラツキを許容することが難しくシール性が不安定となってしまう問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情を考慮し、低い荷重でシール性を有するとともに、シール面全周領域における締め代のバラツキが生じても安定したシール性を発揮できるシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、装着溝に装着される基部と、前記基部から斜め方向に延在して形成され弾性変形可能なリップ部と、を有するシール材であって、前記リップ部には、前記リップ部の前記装着溝の底面に対する傾斜角度を変更させる屈曲部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、リップ部にはリップ部の装着溝の底面に対する傾斜角度を変更させる屈曲部が形成されているため、相手部材からリップ部に反力が作用した場合でも、従来のシール材のように急激にシール反力が増加することがなく、リップ部の撓み量とシール反力とが略比例関係となる。この結果、搬送容器やシール材の寸法誤差、加工精度に伴い締め代が変化し、シール面全周にわたりシール材の圧縮量に多少のバラツキが生じても、リップ部の弾性変形によりこれを許容することができ、安定したシール性を発揮することができる。また、従来の断面円形や矩形のOリングと比較して、接触面積の少ないリップ部によりシールすることにより、少ない締め付け荷重によりシールを実現することができ、例えばオープナー開閉装置による自動開閉作業が前提となる半導体ウエハ用の運送・搬送容器のシール材として好適なものとなる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシール材において、前記リップ部は、前記屈曲部から前記リップ部の先端部にわたる第1リップ部と、前記基部から前記屈曲部にわたる第2リップ部と、で構成され、前記第2リップ部の前記装着溝の底面に対する傾斜角度は、前記第1リップ部の前記装着溝の底面に対する傾斜角度と比較して大きいことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、相手部材によるリップ部の圧縮量が小さな領域においては、主として屈曲部を支点として先端部側に位置する第1リップ部の撓みによりその圧縮量が吸収され、シール反力が発生する。このため、リップ部の初期圧縮領域においては、屈曲部により分断されることで従来のシール材のリップ部よりも短くなった第1リップ部により、従来のシール材のリップ部よりも高いシール反力を発生させることができる。また、第1リップ部は従来のシール材のリップ部と比較して弾性変形が困難な状態に至るまでの時間が早くなる。そして、第1リップ部が弾性変形困難な状態からさらに第1リップ部に圧縮力が作用されると、第1リップ部は高いシール反力を発生させようとするが、このシール反力が第2リップ部により吸収される。これにより、シール材のシール反力の急激な上昇を防止することができ、シール材により発生されるシール反力を、シール(密封)に必要な反力領域において圧縮量との関係で適度なもの(傾きの比較的穏やかな比例関係)にすることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のシール材において、前記屈曲部は、複数形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、リップ部に屈曲部を複数形成することにより、リップ部の圧縮量(撓み量)に対するシール反力の傾きを小さくすることができるため、このシール材を、比較的低い反力領域で使用する低荷重シール材として用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低い荷重でシール性を有するとともに、シール面全周領域における締め代のバラツキが生じても安定したシール性を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の第1実施形態に係るシール材について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1及び図2に示すように、本実施形態のシール材10は、装着溝12に装着されるゴム・エラストマー材で構成されている基部14を備えている。この基部14は、装着溝12の一方の側壁12Aを押圧する基部本体14Aと、基部本体14Aと一体形成され装着溝12の他方の側壁12Bを押圧する押圧部14Bと、で構成されている。
【0017】
また、基部14の上端部には、斜め方向に延在する弾性変形可能なリップ部16が形成されている。このリップ部16には、リップ部16の装着溝12の底面12Cに対する傾斜角度を変更させる屈曲部18が形成されている。具体的には、リップ部16は、屈曲部18からリップ部16の先端部にわたる第1リップ部16Aと、基部14から屈曲部18にわたる第2リップ部16Bと、で構成されている。そして、図1に示すように、第2リップ部16Bの装着溝12の底面12Cに対する傾斜角度Yは、第1リップ部16Aの装着溝12の底面12Cに対する傾斜角度Xと比較して大きくなるように設定されている。
【0018】
次に、本実施形態のシール材10の作用について説明する。
【0019】
図1及び図2に示すように、リップ部16には、リップ部16の装着溝12の底面12Cに対する傾斜角度を変更させる屈曲部18が形成されているため、相手部材20からリップ部16に反力が作用した場合でも、従来のシール材のように急激にシール反力が増加することがなく、リップ部16の撓み量とシール反力とが略比例関係となる(図3参照)。この結果、搬送容器やシール材10の寸法誤差、加工精度に伴い締め代が変化し、シール面全周にわたりシール材10の圧縮量に多少のバラツキが生じても、リップ部16の弾性変形によりこれを許容することができ、安定したシール性を発揮することができる。
【0020】
また、従来の断面円形や矩形のOリングと比較して、接触面積の少ないリップ部16によりシールすることにより、少ない締め付け荷重によりシールを実現することができ、例えばオープナー開閉装置による自動開閉作業が前提となる半導体ウエハ用の運送・搬送容器のシール材として好適なものとなる。
【0021】
具体的には、相手部材20によるリップ部16の圧縮量が小さな領域においては、主として屈曲部18を支点として先端部側に位置する第1リップ部16Aの撓みによりその圧縮量が吸収され、シール反力が発生する。このため、リップ部16の初期圧縮領域においては、屈曲部18により分断されることで従来のシール材のリップ部よりも短くなった第1リップ部16Aにより、従来のシール材のリップ部よりも高いシール反力を発生させることができる。
【0022】
また、第1リップ部16Aは従来のシール材のリップ部と比較して弾性変形が困難な状態に至るまでの時間が早くなる。そして、第1リップ部16Aが弾性変形困難な状態からさらに第1リップ部16Aに相手部材20から圧縮力が作用されると、第1リップ部16Aは高いシール反力を発生させようとするが、このシール反力が第2リップ部16Bにより吸収される。これにより、シール材10のシール反力の急激な上昇を防止することができ、シール材10により発生されるシール反力を、シール(密封)に必要な反力領域において圧縮量との関係で適度なもの(傾きの比較的穏やかな比例関係)にすることができる。
【0023】
次に、本発明の第2実施形態に係るシール材について説明する。
【0024】
図4に示すように、本実施形態のシール材30のリップ部32には、複数の屈曲部34、36が形成されている。具体的には、リップ部32には2つの第1屈曲部34と第2屈曲部36がそれぞれ形成されており、第2屈曲部36からリップ部32の先端部にわたる第1リップ部32Aと、第1屈曲部34から第2屈曲部36にわたる第2リップ部32Bと、基部14から第1屈曲部34にわたる第3リップ部32Cと、で構成されている。
【0025】
次に、本発明の第2実施形態に係るシール材30の作用について説明する。
【0026】
図4に示すように、リップ部32に複数の屈曲部34、36を形成することにより、従来のシール材50や第1実施形態のシール材10と比較して、リップ部32の圧縮量(撓み量)に対するシール反力の傾きを小さくすることができるため(図5参照)、このシール材30を、比較的低い反力領域で使用する低荷重シール材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態のシール材の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態のシール材でシールした状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態のシール材及び従来のシール材のシール反力と圧縮率との関係を示したグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態のシール材の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態のシール材及び従来のシール材のシール反力と圧縮率との関係を示したグラフである。
【図6】従来のシール材の断面図である。
【図7】従来のシール材のシール反力と圧縮率との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0028】
10 シール材
14 基部
16 リップ部
16A 第1リップ部
16B 第2リップ部
18 屈曲部
30 シール材
34 屈曲部
36 屈曲部
α 第1リップ部の傾斜角度
β 第2リップ部の傾斜角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着溝に装着される基部と、前記基部から斜め方向に延在して形成され弾性変形可能なリップ部と、を有するシール材であって、
前記リップ部には、前記リップ部の前記装着溝の底面に対する傾斜角度を変更させる屈曲部が形成されていることを特徴とするシール材。
【請求項2】
前記リップ部は、前記屈曲部から前記リップ部の先端部にわたる第1リップ部と、前記基部から前記屈曲部にわたる第2リップ部と、で構成され、
前記第2リップ部の前記装着溝の底面に対する傾斜角度は、前記第1リップ部の前記装着溝の底面に対する傾斜角度と比較して大きいことを特徴とする請求項1に記載のシール材。
【請求項3】
前記屈曲部は、複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシール材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−247870(P2007−247870A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75730(P2006−75730)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【出願人】(000140890)ミライアル株式会社 (74)
【Fターム(参考)】