説明

ジッタ低減回路および信号伝送装置

【課題】信号のレベルを低下させることなくジッタを低減させるジッタ低減回路およびこれを用いた信号伝送装置を提供する。
【解決手段】ジッタ低減回路10は、入力した信号の信号成分を通過させる第1帯域フィルタ12と、前記第1帯域フィルタ12から出力された前記信号を増幅する増幅器14と、前記第1帯域フィルタ12よりも広い通過帯域幅を有し、前記増幅器14から出力された前記信号の信号成分を通過させる第2帯域フィルタ16とを備えた構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号に生じるジッタを低減するジッタ低減回路および信号伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
信号の送信側と受信側を信号伝送ラインで接続した信号伝送装置において、信号伝送ラインを介して送信側から受信側へ信号を送る場合、信号伝送ラインを伝送する信号に外部から雑音が入ることがある。この雑音が信号に入ると、この信号にジッタが生じてしまう。また発振器で発振される基本波成分を、この発振器の出力信号として用いる場合、発振器からは基本波成分に対する高調波成分も出力されてしまう。したがって、この出力信号は、基本波成分の信号と、高調波成分とを含むものとなるので、この高調波成分によってジッタが生じてしまう。このようなことから、従来では、雑音や高調波成分を除去するために、送信側から出力される信号の信号成分を通過させる通過帯域幅を有する帯域フィルタや、信号の基本波成分を通過させる通過帯域幅を有する帯域フィルタを伝送ライン等に設けて、信号に生じるジッタを低減させていた。
【0003】
なお特許文献1には、水晶フィルタまたはSAWフィルタ(水晶フィルタ等)と、アンプを水晶発振器の後段に設け、水晶発振器の正弦波出力中の高調波成分を水晶フィルタ等で除去して、基本波成分が支配的な正弦波出力とし、パルス変換器からジッタの小さなパルスを出力することが開示されている。
【特許文献1】特開2002−217686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
信号伝送ラインや発振器の後段に帯域フィルタ(水晶フィルタやSAWフィルタ)を設けた場合、特にこの帯域フィルタの通過帯域幅が狭い場合は、挿入損失が大きくなるので、この帯域フィルタの後段に増幅器を接続する必要がある。すなわち増幅器によって、帯域フィルタによる損失分を補っている。
【0005】
ところが帯域フィルタの後段に増幅器を接続すると、帯域フィルタで減衰させた雑音等の不要な周波数成分を増幅器で再度増幅してしまい、この増幅された不要な周波数成分を増幅器の後段に出力してしまう問題があった。このため、この不要な周波数成分によって、増幅器から出力される信号にジッタが生じる問題があった。
本発明は、信号のレベルを低下させることなくジッタを低減させるジッタ低減回路を提供することを目的とする。
また本発明は、このジッタ低減回路を用いた信号伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るジッタ低減回路は、入力した信号の信号成分を通過させる第1帯域フィルタと、前記第1帯域フィルタから出力された前記信号を増幅する増幅器と、前記第1帯域フィルタよりも広い通過帯域幅を有し、前記増幅器から出力された前記信号の信号成分を通過させる第2帯域フィルタと、を備えたことを特徴としている。第2帯域フィルタは広帯域なので挿入損失が小さい。このため第2帯域フィルタは、増幅器から出力される信号に含まれる高調波成分や雑音レベルを低減することができ、また信号レベルが低下するのを僅かに抑えることができる。よってジッタ低減回路の出力信号にジッタが生じるのを防ぐことができる。
【0007】
また前記第1帯域フィルタは狭帯域フィルタであり、前記第2帯域フィルタは広帯域フィルタであることを特徴としている。これにより第1帯域フィルタおよび第2帯域フィルタは、必要な周波数の信号のみを通過させることができる。また第2帯域フィルタを広帯域フィルタとしているので、この第2帯域フィルタで信号レベルが減衰するのを抑えることができ、第2帯域フィルタの出力信号をそのままジッタ低減回路の出力信号にすることができる。
【0008】
また前記第1帯域フィルタおよび前記第2帯域フィルタは、それぞれSAWフィルタおよび水晶フィルタのいずれか一方を用いたことを特徴としている。これにより第1帯域フィルタおよび第2帯域フィルタの周波数温度特性が良くなるので、周囲温度の変化による出力レベルの変化を小さくすることができる。
また前記第1帯域フィルタ、前記増幅器および前記第2帯域フィルタは、1つのパッケージに搭載されたことを特徴としている。これによりジッタ低減回路をモジュールにすることができるので、このジッタ低減回路を様々な装置の伝送回路に容易に実装することができる。
【0009】
また本発明に係る信号伝送装置は、上述したジッタ低減回路を、信号伝送ラインに設けたことを特徴としている。この場合、前記信号伝送ラインは、信号を送信する信号出力部と、前記信号出力部から送信された前記信号を受信する信号入力部とを接続するものである。これにより信号伝送ラインを伝送する信号に雑音や高調波成分等の不要な周波数成分が含まれていても、ジッタ低減回路で不要な周波数成分を取り除いて信号成分のみの信号にすることができ、ジッタ低減回路から出力される信号にジッタが生じるのを防ぐことができる。
【0010】
また前記ジッタ低減回路は、前記信号伝送ラインにおける前記信号出力部よりも前記信号入力部に近い側に設けられたことを特徴としている。ジッタ低減回路から信号入力部までの距離が短くなるので、この間を伝送している信号に不要な周波数成分が入るのを防止できる。したがってジッタ低減回路から出力されたジッタの生じていない信号を信号入力部に入力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係るジッタ低減回路および信号伝送装置の最良の実施形態について説明する。まず第1の実施形態について説明する。図1はジッタ低減回路のブロック図である。図2は第1帯域フィルタのフィルタ特性を示す図である。図3は第2帯域フィルタのフィルタ特性を示す図である。
図1に示されるジッタ低減回路10は、第1帯域フィルタ12、増幅器14および第2帯域フィルタ16をこの順に接続した構成である。第1帯域フィルタ12は、ジッタ低減回路10に入力された信号(以下、入力信号という場合がある)に含まれる雑音や高調波成分等の不要な周波数成分を除去し、入力信号の信号成分、すなわち必要な周波数の信号を通過させる通過帯域幅を有している。なお第1帯域フィルタ12の中心周波数f2は、入力信号の周波数(必要な周波数)f1と同じまたは略同じであればよい。
【0012】
増幅器14は、第1帯域フィルタ12から出力された信号を増幅するものである。第2帯域フィルタ16は、第1帯域フィルタ12よりも広い通過帯域幅を有しており、増幅器14から出力された信号の信号成分を通過させ、この信号に含まれる雑音や高調波成分を除去する構成である。すなわち第2帯域フィルタ16は、必要な周波数の信号を通過させ、不要な周波数成分を除去するものである。なお第2帯域フィルタ16の中心周波数f3は、入力信号の周波数(必要な周波数)f1と同じまたは略同じであればよい。
【0013】
そして第1帯域フィルタ12および第2帯域フィルタ16について詳しく説明すると、次のようになっている。第1帯域フィルタ12は狭帯域フィルタであり、図2に示されるフィルタ特性を有している。この第1帯域フィルタ12は、弾性表面波(SAW)フィルタおよび水晶フィルタのいずれか一方が用いられている。また第2帯域フィルタ16は広帯域フィルタであり、図3に示されるフィルタ特性を有している。この第2帯域フィルタ16は、SAWフィルタおよび水晶フィルタのいずれか一方が用いられている。そして第2帯域フィルタ16は広帯域フィルタなので、挿入損失が小さくなっている。第1帯域フィルタ12および第2帯域フィルタ16として、それぞれSAWフィルタおよび水晶フィルタのいずれか一方を用いているので、各帯域フィルタ12,16の周波数温度特性を向上させることができる。
【0014】
ここで水晶フィルタは、水晶板上に入出力電極を設けた構成である。またSAWフィルタは、入出力電極となるすだれ状電極等を圧電基板上に設けた構成である。そしてSAWフィルタの圧電基板には、水晶やタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛等が用いられる。第2帯域フィルタ16(広帯域SAWフィルタ)に用いられる圧電基板の電気機械結合係数を、第1帯域フィルタ12(狭帯域SAWフィルタ)に用いられる圧電基板の電気機械結合係数よりも大きくすれば、第2帯域フィルタ16を第1帯域フィルタ12に比べて広帯域にすることができる。一例としては、狭帯域SAWフィルタの圧電基板に水晶を用いた場合は、広帯域SAWフィルタの圧電基板にタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム、酸化亜鉛を用いればよい。
このような第1帯域フィルタ12、増幅器14および第2帯域フィルタ16を1つのパッケージに搭載して、ジッタ低減回路10を1つのパッケージで形成することができる。
【0015】
次に、ジッタ低減回路10の動作について説明する。ジッタ低減回路10に入力された信号は、まず第1帯域フィルタ12に入力される。そして第1帯域フィルタ12は、入力信号に含まれる不要な周波数成分を除去するとともに信号成分を通過させて、増幅器14に出力する。増幅器14は、第1帯域フィルタ12から出力された信号を増幅するが、この信号を増幅するときに第1帯域フィルタ12で減衰させた不要な周波数成分も増幅させてしまう。このため第2帯域フィルタ16で、増幅器14から出力された信号に含まれる不要な周波数成分を除去し、信号成分を通過させる。そして第2帯域フィルタ16は、第1帯域フィルタ12よりも広い通過帯域幅を有しているフィルタ、すなわち広帯域フィルタなので、信号レベルが低下するのを抑えることができる。
【0016】
図4はジッタ低減回路の出力特性を示す図である。図4に示されている実線はジッタ低減回路10の出力特性を示し、破線は第2帯域フィルタ16のフィルタ特性を示し、一点鎖線は従来技術の出力特性を示している。ここで従来技術の出力特性とは、帯域フィルタと増幅器を接続した従来技術に係る回路の出力特性である。図4に示されるように、ジッタ低減回路10の出力特性における通過帯域幅は、第1帯域フィルタ12のフィルタ特性と同じになるので、第2帯域フィルタ16の通過帯域幅よりも狭くなり、必要な周波数の信号のみを通過させることができる。またジッタ低減回路10の出力特性における減衰域は、第2帯域フィルタ16のフィルタ特性と同じ特性になるので、増幅器14で増幅された不要な周波数成分を除去することができる。
そして第2帯域フィルタ16から出力される信号はジッタ低減回路10の出力信号となる。この出力信号は、これに含まれる不要な周波数成分が低減されているが、信号のレベルが低下していない。
【0017】
このようなジッタ低減回路10は、増幅器14の後段に挿入損失が小さく広帯域な第2帯域フィルタ16を接続しているので、増幅器14から出力される信号に含まれる高調波成分や雑音レベルを低減することができる。このためジッタの少ない出力信号の波形を得ることができる。また第2帯域フィルタ16を広帯域フィルタとしているので、信号レベルが下がるのを極めて僅かにすることができる。
【0018】
また第1帯域フィルタ12にSAWフィルタまたは水晶フィルタが用いられ、第2帯域フィルタ16にSAWフィルタまたは水晶フィルタが用いられるので、各帯域フィルタ12,16の周波数温度特性が良く、周囲温度の変化による出力レベルの変化を小さくすることができる。
またジッタ低減回路10は、第1帯域フィルタ12、増幅器14および第2帯域フィルタ16を1つのパッケージに搭載したモジュールにすることができるので、例えば信号伝送装置等の信号伝送ラインに容易に実装することができる。
【0019】
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態で説明したジッタ低減回路は、様々な装置に搭載されることができる。このため第2の実施形態では、ジッタ低減回路を設けた装置の一例について説明する。そしてジッタ低減回路は、例えば、通信に用いられる同期信号を伝送するラインに設けることができる。
【0020】
図5は信号伝送装置のブロック図である。信号伝送装置20は、送信側から受信側へデータ信号とタイミングクロック信号を送る同期式の伝送方式である。そして信号伝送装置20は、各信号の送信側となる信号出力部22および受信側となる信号入力部28を有しており、信号伝送ライン32(32a,32b)を介して信号出力部22と信号入力部28が接続されている。この信号伝送ライン32は2本設けられており、一方の信号伝送ライン32aがデータ信号を伝送し、他方の信号伝送ライン32bがクロック信号を伝送している。なお以下では、データ信号を伝送する信号伝送ライン32をデータ信号伝送ライン32a、クロック信号を伝送する信号伝送ライン32をクロック信号伝送ライン32bという。
【0021】
信号出力部22は、出力回路24と発振器26を有している。発振器26は、出力回路24にクロック信号を出力するとともに、クロック信号伝送ライン32bを介して信号入力部28にクロック信号を出力するものである。出力回路24は、信号出力部22に入力されたデータ信号を、クロック信号に同期させて信号入力部28に出力するものである。
【0022】
また信号入力部28は、入力回路30を有している。この入力回路30は、データ信号伝送ライン32aを介して出力回路24と接続されるとともに、クロック信号伝送ライン32bを介して発振器26と接続されている。そして入力回路30は、発振器26から入力したクロック信号に基づいて、出力回路24から入力したデータ信号を読み取るものである。
【0023】
クロック信号伝送ライン32bには、ジッタ低減回路10が設けられている。このジッタ低減回路10は、発振器26からジッタ低減回路10まで送られてきたクロック信号に雑音等の不要な周波数成分が入った場合に、この不要な周波数成分を取り除いて出力する。これによりクロック信号にジッタが生じるのを防ぐことができる。また入力回路30では、ジッタが生じたクロック信号に基づいてデータ信号を読み取ることが少なくなるので、通信エラーを低減することができる。
【0024】
そしてクロック信号伝送ライン32bにおいて、信号出力部22に比べて信号入力部28により近い側にジッタ低減回路10を設けておけば、ジッタ低減回路10から信号入力部28までクロック信号が送られる間に雑音等の不要な周波数成分が新たに入るのを防止できる。これによりジッタ低減回路10から出力されたクロック信号に不要な周波数成分が入り難くなり、クロック信号にジッタが生じるのを防ぐことができる。また入力回路30では、ジッタが生じたクロック信号に基づいてデータ信号を読み取ることが少なくなるので、通信エラーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ジッタ低減回路のブロック図である。
【図2】第1帯域フィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図3】第2帯域フィルタのフィルタ特性を示す図である。
【図4】ジッタ低減回路の出力特性を示す図である。
【図5】信号伝送装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
10………ジッタ低減回路、12………第1帯域フィルタ、14………増幅器、16………第2帯域フィルタ、20………信号伝送装置、22………信号出力部、28………信号入力部、32………信号伝送ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した信号の信号成分を通過させる第1帯域フィルタと、
前記第1帯域フィルタから出力された前記信号を増幅する増幅器と、
前記第1帯域フィルタよりも広い通過帯域幅を有し、前記増幅器から出力された前記信号の信号成分を通過させる第2帯域フィルタと、
を備えたことを特徴とするジッタ低減回路。
【請求項2】
前記第1帯域フィルタは狭帯域フィルタであり、前記第2帯域フィルタは広帯域フィルタであることを特徴とする請求項1に記載のジッタ低減回路。
【請求項3】
前記第1帯域フィルタおよび前記第2帯域フィルタは、それぞれSAWフィルタおよび水晶フィルタのいずれか一方を用いたことを特徴とする請求項1または2に記載のジッタ低減回路。
【請求項4】
前記第1帯域フィルタ、前記増幅器および前記第2帯域フィルタは、1つのパッケージに搭載されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のジッタ低減回路。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のジッタ低減回路を、信号を送信する信号出力部と、前記信号出力部から送信された前記信号を受信する信号入力部とを接続する信号伝送ラインに設けたことを特徴とする信号伝送装置。
【請求項6】
前記ジッタ低減回路は、前記信号伝送ラインにおける前記信号出力部よりも前記信号入力部に近い側に設けられたことを特徴とする請求項5に記載の信号伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−129297(P2007−129297A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318010(P2005−318010)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】