説明

ステアリングシャフト支持用軸受

【課題】 アキシアル方向の軸受すき間を小さくすることなく、低コストで悪路走行時に生じる衝突振動やがたつき音を緩和して、不快な音や振動が発生するのを防止することができるステアリングシャフト支持用軸受を提供する。
【解決手段】 車内とエンジンルームとを区画するパネル13と、該パネル13を貫通するステアリングシャフト2との間に介装され、該ステアリングシャフト2を回転可能に支持するステアリングシャフト支持用軸受23であって、40°Cにおける粘度が1000mm2 /secを超え、16000mm2 /sec以下の、ポリαオレフィン系合成油を必須成分とする基油にリチウム石鹸を配合したグリースを封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内とエンジンルームとを区画するパネルと、該パネルを貫通するステアリングシャフトとの間に介装され、該ステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングシャフト支持用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用操舵装置では、ステアリングホイールの動きをステアリングギアに伝達するため、図5に示すような機構が使用されている。
図5において、符号2はステアリングシャフトであり、このステアリングシャフト2は、上部ステアリングシャフト2a、中間ステアリングシャフト2b及び下部ステアリングシャフト2cを備えている。上部ステアリングシャフト2aはステアリングコラム3に回転自在に挿通配置され、ステアリングコラム3はブラケット4を介してインスツルメント5に固定されている。
【0003】
ステアリングコラム3の上端から突出する上部ステアリングシャフト2aの突出端には、ステアリングホイール1が固定され、ステアリングコラム3の下端から突出する上部ステアリングシャフト2aの突出端には、ユニバーサルジョイント6を介して中間ステアリングシャフト2bが連結されている。
中間ステアリングシャフト2bは車内とエンジンルームとを区画するパネル13にステアリングシャフト支持用軸受14を介して回転可能に支持され、下端部はユニバーサルジョイント7を介して下部ステアリングシャフト2cに連結されている。
【0004】
下部ステアリングシャフト2cの下端部はユニバーサルジョイント8を介してステアリングギヤボックス10の入力軸9に連結されており、ステアリングギヤボックス10ではステアリングホイール1の回転運動をラックの直線運動に変換し、左右タイロッド11を介して左右ナックル12を押し引きして、前輪に操舵角を与える。
左右ナックル12はアッパーアーム、ロアアーム及びショックアブソーバ等のサスペション機構(共に図示せず)にハブ及びブレーキ装置等が連結されているナックルアーム(共に図示せず)を介して固定され、ホイールに組み込まれたタイヤ(共に図示せず)に連結されている。
【0005】
図6に、ステアリングシャフト支持用軸受14の詳細を示す。
このステアリングシャフト支持用軸受14は、金属製の内輪17と金属製の外輪20との間に転動体の一例としての複数の円筒ころ18が合成樹脂製の保持器19を介して周方向に転動可能に配設された円筒ころ軸受とされており、軸方向の両端部にはそれぞれゴムシール21が装着されている。
そして、内輪17に中間ステアリングシャフト2bが回転可能に内嵌され、外輪20がエンジンルームと室内とを区画するパネル13に固定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のステアリングシャフト支持用軸受14においては、円筒ころ18の軸方向長さより内輪17及び外輪20の両鍔部間寸法が長く、従って、アキシアル方向にすき間が存在し、また、円筒ころ18と内輪17及び外輪20の各軌道面との間にもラジアル方向のすき間が存在し、ある程度のがたつきを持っている。
ところで、中間ステアリングシャフト2bを回転自在に支持するステアリングシャフト支持用軸受14に対しての荷重や回転条件はさほど厳しくないが、悪路走行時に生じる振動は中間ステアリングシャフト2bに伝わり、上述したアキシアル方向のすき間が存在することで、円筒ころ18と内輪17及び外輪20の両鍔部とが衝突し、がたつき音や衝突振動が発生する場合がある。このため、自動車の運転者等に不快な音や振動を与えてしまうという問題がある。
【0007】
また、円筒ころ18と内輪17の両鍔部間とのアキシアル方向のすき間寸法を小さくすれば、円筒ころ18と内輪17の両鍔部との衝突振動やがたつき音を抑えることができるが、円筒ころ18の軸方向長さと内輪17の両鍔部間の寸法精度を上げると同時にステアリング各部の寸法精度及び組立精度を上げる必要が生じて、コスト高になってしまう。
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、アキシアル方向の軸受すき間を小さくすることなく、低コストで悪路走行時に生じる衝突振動やがたつき音を緩和して、不快な音や振動が発生するのを防止することができるステアリングシャフト支持用軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、車内とエンジンルームとを区画するパネルと、該パネルを貫通するステアリングシャフトとの間に介装され、該ステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングシャフト支持用軸受において、
40°Cにおける粘度が1000mm2 /secを超え、16000mm2 /sec以下であって、ポリαオレフィン系合成油を必須成分とする基油に、リチウム石鹸を配合したグリースを封入したことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記グリースに含有する増粘剤が、ポリマー系合成油であることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、少なくとも内輪及び外輪が合成樹脂製であることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項において、転動体が円筒ころであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、40°Cにおける粘度が1000mm2 /secを超え、16000mm2 /sec以下であって、ポリαオレフィン系合成油を必須成分とする基油に、リチウム石鹸を配合したグリースを封入しているので、アキシアル方向の軸受すき間を小さくすることなく、低コストで悪路走行時に生じる衝突振動やがたつき音を緩和することができ、これにより、不快な音や振動が発生するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態の一例であるステアリングシャフト支持用軸受を示す断面図、図2は図1に示すステアリングシャフト支持用軸受を衝撃音響試験装置に取り付けた状態を示す断面図、図3は本発明例及び従来例におけるアキシアル方向の軸受すき間と騒音レベルとの関係を示すグラフ図、図4は本発明例及び従来例におけるグリースのせん断速度と見かけ粘度との関係を示すグラフ図である。
【0012】
本発明の実施の形態の一例であるステアリングシャフト支持用軸受23は、図1に示すように、合成樹脂製の内輪27と合成樹脂製の外輪24との間に転動体としての複数の円筒ころ32が合成樹脂製の保持器37を介して周方向に転動可能に配設された樹脂製円筒ころ軸受とされており、軸方向の両端部にはそれぞれゴムシール38が装着されている。また、内輪27の外径面の軸方向両端部には、それぞれ鍔部40が形成され、外輪24の内径面の軸方向両端部には、それぞれ鍔部39が形成されている。
【0013】
ここで、この実施の形態では、ステアリングシャフト支持用軸受23に、40°Cにおける粘度が1000mm2 /secを超え、16000mm2 /sec以下であって、ポリαオレフィン系合成油を必須成分とする基油に、リチウム石鹸を配合したグリースを封入している。また、グリースの基油は、ポリマー系合成油で増粘されており、せん断速度が500s-1でのグリースのみかけの粘度が8Pa・s以上、100Pa・s以下とされている。
【0014】
次に、図1と同一構造のステアリングシャフト支持用軸受23を図2に示す衝撃音響試験装置22に取り付け、衝撃音響試験を行った。
この試験装置22は、架台支柱26に支持された固定板25にステアリングシャフト支持用軸受23の外輪24が内嵌固定され、衝撃シャフト28に内輪27が外嵌固定されている。衝撃シャフト28の下端部にはコイルばね29が取り付けられており、コイルばね29のばね力はばね力調整間座30により調整可能になっている。なお、内輪27及び外輪24はアキシアル方向及びラジアル方向共にすき間嵌めとされ、また、軸受の内部すき間についてもアキシアル方向及びラジアル方向共に正のすき間とされている。
【0015】
また、衝撃シャフト28の上端部には、隙間調整間座36が固定されている。隙間調整間座36は、架台支柱26の上端部に設けられた隙間調整ナット31を回して、衝撃シャフト28を内輪27と一体に上下動させ、これにより、円筒ころ32の軸方向長さと、外輪24の両鍔部39間寸法と、内輪27の両鍔部40間寸法との差で生じるアキシアル方向のすき間を調整可能にしている。
【0016】
衝撃シャフト28の最下端部には半球状部33が形成されており、該半球状部33は衝撃カム34に連動している。衝撃カム34は、最小径からパルスモーター35が回転するに連れて、衝撃シャフト28を押し上げ、最大径部分で上記アキシアル方向の調整すき間寸法だけ衝撃シャフト28を押し上げる。
衝撃シャフト28は、衝撃カム34の回転により該衝撃カム34の最大径から最小径に乗り移りことで、衝撃シャフト28がコイルばね29のばね力により急激に上記アキシアル方向のすき間寸法分だけ下方に落ち、その結果、円筒ころ32と内輪27の鍔部40とが当り、衝撃音が発生する。このときの衝撃音を集音マイクで拾い、騒音計により測定した。
【0017】
衝撃試験は、上記アキシアル方向のすき間が0.2mm,0.4mm,0.6mm,0.8mm(隙間調整間座36で調整)の各点で行い、ステアリングシャフト支持軸受23への封入グリースは、表1に示す現行品グリース(従来例)、改良Aグリース(本発明例1)、改良Bグリース(本発明例2)を用いた。
【0018】
【表1】

【0019】
図3は試験結果を示す。
図3から判るように、アキシアル方向のすき間が0.2〜0.4mmと小さいときには、改良Aグリースを用いた本発明例1及び改良Bグリースを用いた本発明例2は、現行品グリースを用いた従来例に対して、騒音レベルが約20%程度低下したが、アキシアル方向のすき間が0.6〜0.8mmと比較的大きいときには、改良Aグリースを用いた本発明例1は現行品グリースを用いた従来例に対して騒音レベルが約10%低下し、改良Bグリースを用いた本発明例2は現行品グリースを用いた従来例に対して騒音レベルが約20%低下した。
このことより、改良Bグリースを用いた本発明例2は、アキシアル方向のすき間寸法にあまり影響を受けることなく、現行品グリースを用いた従来例に対して約20%の騒音抑制効果があることが判る。
【0020】
図4は、各グリースの見かけ粘度を測定したもので、せん断速度を上げていくと現行品グリース、改良Aグリース、改良Bグリースの順に見かけ粘度が小さくなるのが判る。改良Bグリースはアキシアル方向のすき間寸法が大きくなっても騒音抑制効果が低下しないのは、見かけ粘度がせん断速度が速くなってもほとんど変わらず、ダンパー効果が維持されていることによるものである。
【0021】
以上より、40°Cにおける粘度が1000mm2 /secを超え、16000mm2 /sec以下であって、ポリαオレフィン系合成油を必須成分とする基油に、リチウム石鹸を配合し、更に、グリースの基油を、ポリマー系合成油で増粘して、みかけの粘度を8Pa・s以上、100Pa・s以下とした改良Aグリース又は改良Bグリースをステアリングシャフト支持用軸受に封入することにより、円筒ころ32の軸方向長さと、外輪24の両鍔部39間寸法と、内輪27の両鍔部40間寸法との差で生じるアキシアル方向のすき間を小さくすることなく、低コストで悪路走行時に生じる衝突振動やがたつき音を緩和することができ、これにより、不快な音や振動が発生するのを防止することができる。
【0022】
なお、本発明の内輪、外輪、転動体等の構成は上記実施の形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記実施の形態では、ステアリングシャフト支持用軸受として、円筒ころ軸受を例に採って本発明を適用した場合を説明したが、これに代えて、球面軸受や玉軸受等に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の一例であるステアリングシャフト支持用軸受を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の一例であるステアリングシャフト支持用軸受を衝撃音響試験装置に取り付けた状態を示す断面図である。
【図3】本発明例及び従来例におけるアキシアル方向の軸受すき間と騒音レベルとの関係を示すグラフ図である。
【図4】本発明例及び従来例におけるグリースのせん断速度と見かけ粘度との関係を示すグラフ図である。
【図5】自動車操舵装置の一例を説明するための説明図である。
【図6】従来のステアリングシャフト支持用軸受を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0024】
2 ステアリングシャフト
13 パネル
23 ステアリングシャフト支持用軸受
24 外輪
27 内輪
32 円筒ころ(転動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内とエンジンルームとを区画するパネルと、該パネルを貫通するステアリングシャフトとの間に介装され、該ステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングシャフト支持用軸受において、
40°Cにおける粘度が1000mm2 /secを超え、16000mm2 /sec以下であって、ポリαオレフィン系合成油を必須成分とする基油に、リチウム石鹸を配合したグリースを封入したことを特徴とするステアリングシャフト支持用軸受。
【請求項2】
前記グリースに含有する増粘剤が、ポリマー系合成油であることを特徴とする請求項1に記載したステアリングシャフト支持用軸受。
【請求項3】
少なくとも内輪及び外輪が合成樹脂製であることを特徴とする請求項1又は2に記載したステアリングシャフト支持用軸受
【請求項4】
転動体が円筒ころであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載したステアリングシャフト支持用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−2872(P2007−2872A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180838(P2005−180838)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】