説明

ストラットダンパ

【課題】 ストラットダンパにおいて、樹脂ベアリングが破断したときの車両の走行不能を回避すること。
【解決手段】 ストラットダンパ10において、樹脂ベアリング40が、ピストンロッド12の周囲に配置される軸受部51と、軸受部51の周囲に配置されて懸架ばね13を支持するばね受部52とを有し、ベアリング保持プレート32が樹脂ベアリング40の上部を覆うように設けられ、樹脂ベアリング40は、ばね受部52の上面にベアリング保持プレート32の側に突出する突起52Aを設け、破断によって軸受部51から分離したばね受部52の上面の突起52Aをベアリング保持プレート32の下面に当接させて支持可能にするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に用いられて好適なストラットダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
ストラットダンパとして、特許文献1に記載の如く、ダンパのピストンロッドに車体側取付部を備えたマウントを固定し、マウントの下面にベアリング保持プレートを設け、ベアリング保持プレートの下面に樹脂ベアリングを介して懸架ばねを支持してなるものがある。樹脂ベアリングは、ベアリング保持プレートの下面に支持される上ケースと、懸架ばねを支持する下ケースと、上ケースと下ケースの間に介装されるスラストプレート等の軸受体により構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-293589
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のストラットダンパでは、樹脂ベアリングの下ケースを、ピストンロッドの周囲に配置されて上ケースとの間に軸受体を挟む軸受部と、軸受部の周囲に配置されて懸架ばねを支持するばね受部とを有するものにしている。また、軽量化を図るため、下ケースの全体を樹脂成形体としている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のストラットダンパでは、樹脂ベアリングにおける樹脂製下ケースのばね受部が懸架荷重により軸受部との間の薄肉部分等で破断し、該軸受部から分離するおそれがある。樹脂ベアリングのばね受部が軸受部から破断して分離したときには、懸架ばねが脱落し、車両の走行不能を招く。
【0006】
本発明の課題は、ストラットダンパにおいて、樹脂ベアリングが破断したときの車両の走行不能を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ダンパのピストンロッドに車体側取付部を備えたマウントを固定し、マウントの下面にベアリング保持プレートを設け、ベアリング保持プレートの下面に樹脂ベアリングを介して懸架ばねを支持してなるストラットダンパにおいて、樹脂ベアリングが、ピストンロッドの周囲に配置される軸受部と、軸受部の周囲に配置されて懸架ばねを支持するばね受部とを有し、ベアリング保持プレートが樹脂ベアリングの上部を覆うように設けられ、樹脂ベアリングは、ばね受部の上面にベアリング保持プレートの側に突出する突起を設け、破断によって軸受部から分離したばね受部の上面の突起をベアリング保持プレートの下面に当接させて支持可能にするようにしたものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記樹脂ベアリングが軸受部とばね受部との間に脆弱部を設け、脆弱部の破断によって軸受部からばね受部を分離可能にするようにしたものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記樹脂ベアリングがばね受部の上面の突起に、ベアリング保持プレートの下面に当接可能とされる金属体を設けたものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかの発明において更に、前記ベアリング保持プレートが樹脂ベアリングの軸受部から分離したばね受部の上面の突起をガイドするガイド部を備えるようにしたものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかの発明において更に、前記樹脂ベアリングが軸受部に金属製軸受体を着座させてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
(請求項1)
(a)ベアリング保持プレートが樹脂ベアリングの上部を覆うように設けられ、樹脂ベアリングは、ばね受部の上面にベアリング保持プレートの側に突出する突起を設け、破断によって軸受部から分離したばね受部の上面の突起をベアリング保持プレートの下面に当接させて支持可能にした。従って、樹脂ベアリングのばね受部が懸架荷重により軸受部との間の薄肉部分等で破断し、該軸受部から分離したとき、分離したばね受部はその上面の突起をベアリング保持プレートの下面に当接させて支持され、懸架ばねを支持し続ける。懸架ばねの脱落を生ずることがなく、車両の走行不能を回避し、車両を低速走行させて安全に修理工場まで走行させることができる。
【0013】
(b)樹脂ベアリングのばね受部が破断し、軸受部から分離したとき、ばね受部の上面の突起がベアリング保持プレートの下面に当接するに至る間、車高が下がることで、樹脂ベアリングの破損による異常をユーザーに対して視覚的に知らせることもできる。
【0014】
(請求項2)
(c)樹脂ベアリングが軸受部とばね受部との間に脆弱部を設け、脆弱部の破断によって軸受部からばね受部を分離可能にした。従って、樹脂ベアリングの破損時には、ばね受部を必ず軸受部との間の脆弱部で破断させる形態を用意し、上述(a)、(b)を安定的に実現可能にする。
【0015】
(請求項3)
(d)樹脂ベアリングがばね受部の上面の突起に、ベアリング保持プレートの下面に当接可能とされる金属体を設けた。従って、樹脂ベアリングのばね受部が破断し、ばね受部の上面の突起がベアリング保持プレートの下面に当接する転舵時に、突起に設けてある金属体がベアリング保持プレートの下面をこすって異音を発生させる。樹脂ベアリングの破損による異常をユーザーに対して聴覚的に知らせることができる。
【0016】
(請求項4)
(e)ベアリング保持プレートが樹脂ベアリングの軸受部から分離したばね受部の上面の突起をガイドするガイド部を備える。従って、樹脂ベアリングの軸受部から破断して分離したばね受部の上面の突起を、ベアリング保持プレートから外れることなくその下面に確実に当接させて支持できる。
【0017】
(請求項5)
(f)樹脂ベアリングは軸受体を含む全体を樹脂製とするものに限らず、軸受体を金属製にして耐久性を向上することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1はストラットダンパを示す断面図である。
【図2】図2は図1のマウント組立体を示す断面図である。
【図3】図3は図2の拡大断面図である。
【図4】図4は樹脂ベアリングの破断状態を示す断面図である。
【図5】図5は樹脂ベアリングを示し、(A)は断面図、(B)は上面図、(C)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ストラットダンパ10は、図1に示す如く、ダンパチューブ11とピストンロッド12と懸架ばね13を有し、ダンパチューブ11の外周部には下スプリングシート14を取着し、ピストンロッド12にマウント組立体30の構成部品たる樹脂ベアリング40を取着し、懸架ばね13を後に詳述する樹脂ベアリング40の下ケース42のばね受部52と下スプリングシート14の間に支持している。
【0020】
ストラットダンパ10は、ダンパチューブ11の下部に車輪側取付部15を備え、ピストンロッド12に固定してあるマウント組立体30の構成部品たるマウント31に車体側取付部16を備え、車体側取付部16に取付ボルト16Aを取着している。そして、ストラットダンパ10は、懸架ばね13により路面からの衝撃を吸収し、ダンパチューブ11が内蔵する減衰装置17、18により懸架ばね13の伸縮振動を制振する。
【0021】
尚、ストラットダンパ10は、ダンパチューブ11から突出しているピストンロッド12まわりにバンプラバー21を圧入し、ダンパチューブ11のピストンロッド12が貫通している軸封部まわりにバンプストッパキャップ22を固定し、ストラットダンパ10の最圧縮時にバンプラバー21が衝合する当接板22Aをキャップ22に備える。
【0022】
ストラットダンパ10は、図2、図3に示す如く、ピストンロッド12の外端部に車体側取付部16を備えたマウント31を固定し、マウント31の下面にベアリング保持プレート32を設け、ベアリング保持プレート32の下面に樹脂ベアリング40を設け、樹脂ベアリング40の下ケース42のばね受部52に懸架ばね13を支持する。ストラットダンパ10は、ステアリング操舵時に、タイロッド(不図示)を介してダンパチューブ11が回動するため、樹脂ベアリング40の存在により、ダンパチューブ11に固定の下スプリングシート14の回動に懸架ばね13と樹脂ベアリング40の下ケース42をともにスムースに追従させて同期回転させるものである。
【0023】
マウント31は、マウントラバー31Aの中間部に車体側取付部16を組込み、マウントラバー31Aの内径部にカップ状の上面プレート31Bを差し込み、マウントラバー31Aの下部に添設せしめられる平板状のベアリング保持プレート32を上面プレート31Bの底面に溶接等してある。車体取付部16、マウント31の上面プレート31B、ベアリング保持プレート32は鉄等の金属板により構成されている。
【0024】
樹脂ベアリング40は、図5に示す如く、ベアリング保持プレート32の下面に当接して支持される上ケース41と、懸架ばね13を支持する下ケース42と、上ケース41と下ケース42の間に介装されるスラストプレート等の軸受体43により構成される。本実施例では、上ケース41と下ケース42と軸受体43の全てを樹脂により構成してあり、上ケース41の外周に設けた爪41Aにより下ケース42の上面に設けた係止部42Aを係止する等により上下一体物としている。
【0025】
尚、ストラットダンパ10は、マウント31と樹脂ベアリング40を予めマウント組立体30として小組みしてある。マウント組立体30は、マウント31の上面プレート31Bの底面にベアリング保持プレート32を溶接等し、ベアリング保持プレート32の下面に樹脂ベアリング40の上ケース41を接着等して小組みされる。
【0026】
しかるに、樹脂ベアリング40の下ケース42は、ピストンロッド12の周囲に配置されて上ケース41、軸受体43が設けられる環状軸受部51と、軸受部51の周囲に配置されて懸架ばね13を支持する環状ばね受部52とを有する。
【0027】
このとき、マウント組立体30のベアリング保持プレート32は樹脂ベアリング40の軸受部51及びばね受部52の上部を覆うように設けられる(ベアリング保持プレート32は軸受部51の全部及びばね受部52の少なくとも一部を覆う)。そして、樹脂ベアリング40は、軸受部51とばね受部52との間に環状薄肉部分からなる脆弱部53を設けるとともに、ばね受部52の上面にベアリング保持プレート32の側に突出してベアリング保持プレート32の下面との間に一定のクリアランス(例えば10mm)を介する突起52Aを設ける。樹脂ベアリング40は、図4に示す如く、脆弱部53の破断によって軸受部51から分離したばね受部52の上面の突起52Aをベアリング保持プレート32の下面に当接させて支持可能にする。樹脂ベアリング40は、ばね受部52の上面の周方向複数か所、本実施例では4か所に円柱状突起52Aを設け、円柱状突起52Aの頂面を概ね半球面状にしている。
【0028】
樹脂ベアリング40は、ばね受部52の上面の突起52Aの頂面の中央に、ベアリング保持プレート32の下面に当接可能とされる鉄等の棒状金属体52Bを埋込み設ける。
【0029】
ベアリング保持プレート32は、樹脂ベアリング40の軸受部51から破断して分離したばね受部52の上面の突起52Aをガイドするガイド部32Aを備える。ベアリング保持プレート32のガイド部32Aは、ベアリング保持プレート32の外周に沿って下向きに円弧状をなして拡開する湾曲状フランジ部からなる。
【0030】
尚、樹脂ベアリング40のばね受部52は、突起52Aより外周側の下面に懸架ばね13を支持するばね受面52Cを設ける。
【0031】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ベアリング保持プレート32が樹脂ベアリング40の上部を覆うように設けられ、樹脂ベアリング40は、ばね受部52の上面にベアリング保持プレート32の側に突出する突起52Aを設け、破断によって軸受部51から分離したばね受部52の上面の突起52Aをベアリング保持プレート32の下面に当接させて支持可能にした。従って、樹脂ベアリング40のばね受部52が懸架荷重により軸受部51との間の薄肉部分等で破断し、該軸受部51から分離したとき、分離したばね受部52はその上面の突起52Aをベアリング保持プレート32の下面に当接させて支持され、懸架ばね13を支持し続ける。懸架ばね13の脱落を生ずることがなく、車両の走行不能を回避し、車両を低速走行させて安全に修理工場まで走行させることができる。
【0032】
(b)樹脂ベアリング40のばね受部52が破断し、軸受部51から分離したとき、ばね受部52の上面の突起52Aがベアリング保持プレート32の下面に当接するに至る間、車高が下がることで、樹脂ベアリング40の破損による異常をユーザーに対して視覚的に知らせることもできる。
【0033】
(c)樹脂ベアリング40が軸受部51とばね受部52との間に脆弱部53を設け、脆弱部53の破断によって軸受部51からばね受部52を分離可能にする。従って、樹脂ベアリング40の破損時には、ばね受部52を必ず軸受部51との間の脆弱部53で破断させる形態を用意し、上述(a)、(b)を安定的に実現可能にする。
【0034】
(d)樹脂ベアリング40がばね受部52の上面の突起52Aに、ベアリング保持プレート32の下面に当接可能とされる金属体52Bを設けた。従って、樹脂ベアリング40のばね受部52が破断し、ばね受部52の上面の突起52Aがベアリング保持プレート32の下面に当接する転舵時に、突起52Aに設けてある金属体52Bがベアリング保持プレート32の下面をこすって異音を発生させる。樹脂ベアリング40の破損による異常をユーザーに対して聴覚的に知らせることができる。
【0035】
(e)ベアリング保持プレート32が樹脂ベアリング40の軸受部51から分離したばね受部52の上面の突起52Aをガイドするガイド部32Aを備える。従って、樹脂ベアリング40の軸受部51から破断して分離したばね受部52の上面の突起52Aを、ベアリング保持プレート32から外れることなくその下面に確実に当接させて支持できる。
【0036】
尚、樹脂ベアリング40にあっては、下ケース42の軸受部51に着座させる軸受体43として、例えば特開2004-245413に記載の如くの金属製軸受体(上下の金属製ベアリングレースの間に金属製ボールを納めるもの)を採用できる。これによれば、樹脂ベアリング40は軸受体43を含む全体を樹脂製とするものに限らず、軸受体43を金属製にして耐久性を向上することもできる。
【0037】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、樹脂ベアリングは必ずしも上ケースと下ケースと軸受体に分割されていることを必須としない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、ストラットダンパにおいて、樹脂ベアリングが、ピストンロッドの周囲に配置される軸受部と、軸受部の周囲に配置されて懸架ばねを支持するばね受部とを有し、ベアリング保持プレートが樹脂ベアリングの上部を覆うように設けられ、樹脂ベアリングは、ばね受部の上面にベアリング保持プレートの側に突出する突起を設け、破断によって軸受部から分離したばね受部の上面の突起をベアリング保持プレートの下面に当接させて支持可能にする。従って、ストラットダンパにおいて、樹脂ベアリングが破断したときの車両の走行不能を回避することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 ストラットダンパ
12 ピストンロッド
13 懸架ばね
16 車体側取付部
30 マウント
32 ベアリング保持プレート
32A ガイド部
40 樹脂ベアリング
41 上ケース
42 下ケース
43 軸受体
51 軸受部
52 ばね受部
52A 突起
52B 金属体
53 脆弱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパのピストンロッドに車体側取付部を備えたマウントを固定し、マウントの下面にベアリング保持プレートを設け、ベアリング保持プレートの下面に樹脂ベアリングを介して懸架ばねを支持してなるストラットダンパにおいて、
樹脂ベアリングが、ピストンロッドの周囲に配置される軸受部と、軸受部の周囲に配置されて懸架ばねを支持するばね受部とを有し、
ベアリング保持プレートが樹脂ベアリングの上部を覆うように設けられ、
樹脂ベアリングは、ばね受部の上面にベアリング保持プレートの側に突出する突起を設け、破断によって軸受部から分離したばね受部の上面の突起をベアリング保持プレートの下面に当接させて支持可能にすることを特徴とするストラットダンパ。
【請求項2】
前記樹脂ベアリングが軸受部とばね受部との間に脆弱部を設け、脆弱部の破断によって軸受部からばね受部を分離可能にする請求項1に記載のストラットダンパ。
【請求項3】
前記樹脂ベアリングがばね受部の上面の突起に、ベアリング保持プレートの下面に当接可能とされる金属体を設けた請求項1又は2に記載のストラットダンパ。
【請求項4】
前記ベアリング保持プレートが樹脂ベアリングの軸受部から分離したばね受部の上面の突起をガイドするガイド部を備える請求項1〜3のいずれかに記載のストラットダンパ。
【請求項5】
前記樹脂ベアリングが軸受部に金属製軸受体を着座させてなる請求項1〜4のいずれかに記載のストラットダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−223411(P2010−223411A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74581(P2009−74581)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】