説明

ストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダ

【課題】リザーバの上方に車体のカウル部が延出する車両に当該ストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダを適用する場合において、リザーバのシリンダボディへの搭載性を向上させること。
【解決手段】シリンダボディ10のシリンダ内孔10a前方部位に、ストロークシミュレータピストン21とこれを後方に付勢するシミュレータ部スプリング22が組付けられている。シリンダボディ10のシリンダ内孔10a後方部位に、マスタシリンダピストン31,41とこれを後方に付勢するマスタシリンダ部スプリング32,42とマスタシリンダピストン31,41の初期位置を規定する位置決め機構60,70が組付けられている。シリンダボディ10の上方に組付けられるリザーバRは、注入口Rdを設けた導入部の下方に脚部Reを有していて、脚部Reはシリンダボディ10の前端部上面に当接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の液圧ブレーキ装置において採用されるマスタシリンダ、特に、ストロークシミュレータを内蔵したマスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
ストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダを採用した車両の液圧ブレーキ装置は、例えば、下記特許文献1に示されていて、外部液圧源(例えば、液圧ポンプ)を含む液圧制御装置により、その正常時においては、マスタシリンダのマスタ液圧室とホイールシリンダとの連通を遮断するとともに、ブレーキ操作部材の動きに応じて、外部液圧源から供給される液圧を調圧して、ホイールシリンダへ供給し、また、液圧制御装置の異常時においては、マスタシリンダのマスタ液圧室とホイールシリンダとを連通させ、ブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧をマスタシリンダのマスタ液圧室からホイールシリンダに供給するように構成されている。
【特許文献1】特表2003−528768号公報
【0003】
上記した特許文献1に記載されている液圧ブレーキ装置において、ストロークシミュレータは、シリンダボディの下部に形成されて前後方向に延びる下部シリンダ内孔にシリンダ軸方向へ移動可能に組付けられて前方にシミュレータ液圧室を形成するストロークシミュレータピストンと、シミュレータ液圧室に設けられてストロークシミュレータピストンを後方に付勢するシミュレータ部スプリングを備えていて、マスタシリンダの下方に設けられている。一方、マスタシリンダは、シリンダボディの上部に形成されて前後方向に延びる上部シリンダ内孔にシリンダ軸方向へ移動可能に組付けられて前方にマスタ液圧室を形成するマスタシリンダピストンと、マスタ液圧室に設けられてマスタシリンダピストンを後方に付勢するマスタシリンダ部スプリングを備えていて、マスタ液圧室がシリンダボディの上方に組付けられたリザーバの液室に対して連通・遮断されるように構成されている。
【発明の開示】
【0004】
上記した特許文献1に記載されているストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダでは、ストロークシミュレータをマスタシリンダの下方に設けることができて、当該ストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダの前後方向の寸法を短く構成することが可能である。しかし、車体への取付部であるシリンダボディの後端部の上方からリザーバの上方に向けて車体のカウル部が延出する車両に当該ストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダを適用する場合には、カウル部の前方にリザーバの注入口を配置する必要があって、リザーバの注入口に至る導入部をカウル部の前方(通常、シリンダボディの前端部より前方であって、リザーバの支持部をシリンダボディに設定することが困難である)にまで延ばして配置する必要がある。かかる構成のリザーバでは、シリンダボディとの取付部から注入口までの前後方向長さが長くなって、注入口に下方の力が作用する際に、リザーバが大きく傾く(倒れる)おそれがある。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、ストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダが、車体に後端部にて組付けられて前後方向に延びるシリンダ内孔を有するシリンダボディと、このシリンダボディの上方に組付けられるリザーバと、前記シリンダボディにおける前記シリンダ内孔の前方部位にてシリンダ軸方向に移動可能に組付けられて前方にシミュレータ室を形成するストロークシミュレータピストンと、前記シリンダボディにおける前記シリンダ内孔の後方部位にてシリンダ軸方向に移動可能に組付けられて前方に前記リザーバの液室に対して連通・遮断されるマスタ液圧室を形成するマスタシリンダピストンと、前記シミュレータ室に設けられて前記ストロークシミュレータピストンを後方に付勢するシミュレータ部スプリングと、前記マスタ液圧室に設けられて前記マスタシリンダピストンを後方に付勢するマスタシリンダ部スプリングと、前記マスタ液圧室内に介装されて前記マスタシリンダピストンの初期位置を規定する位置決め機構を備えていて、前記マスタシリンダピストンと前記ストロークシミュレータピストンがブレーキ操作部材の動きに応じて前後動するように構成されていることに特徴がある。この場合において、前記シリンダ内孔は連通孔を有する仕切り壁によって前方部位と後方部位に区画されていることも可能である。
【0006】
本発明によるストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダを採用した車両の液圧ブレーキ装置では、外部液圧源を含む液圧制御装置により、その正常時に、マスタシリンダのマスタ液圧室とホイールシリンダとの連通を遮断するとともに、ブレーキ操作部材の動きに応じて、外部液圧源から供給される液圧を調圧して、ホイールシリンダへ供給し、また、液圧制御装置の異常時に、マスタシリンダのマスタ液圧室とホイールシリンダとを連通させ、ブレーキ操作部材の操作力に応じた液圧をマスタシリンダのマスタ液圧室からホイールシリンダに供給するように構成される。
【0007】
また、本発明によるストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダにおいては、ストロークシミュレータが、シリンダボディにおけるシリンダ内孔の前方部位にてシリンダ軸方向に移動可能に組付けられて前方にシミュレータ室を形成するストロークシミュレータピストンと、前記シミュレータ室に設けられて前記ストロークシミュレータピストンを後方に付勢するシミュレータ部スプリングを備えていて、液圧制御装置の正常時、すなわち、マスタシリンダのマスタ液圧室とホイールシリンダとの連通が遮断されているときには、ストロークシミュレータピストンがシミュレータ部スプリングに抗して前方に移動することで、ブレーキ操作部材に対しブレーキ操作力に応じたストロークが発生するように構成されている。
【0008】
ところで、本発明によるストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダにおいては、シリンダボディにおけるシリンダ内孔の前方部位に、ストロークシミュレータピストンとシミュレータ部スプリングを配置し、シリンダボディにおけるシリンダ内孔の後方部位に、マスタシリンダピストン、マスタシリンダ部スプリング、位置決め機構を配置する構成が採用されている。
【0009】
このため、車体への取付部であるシリンダボディの後端部の上方からリザーバの上方に向けて車体のカウル部が延出する車両に当該ストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダを適用する場合、カウル部の前方にリザーバの注入口を配置する必要があって、リザーバの注入口に至る導入部をカウル部の前方にまで延ばして配置する必要があり、リザーバのシリンダボディとの取付部から注入口までの前後方向長さが長くなるものの、本発明では、リザーバの注入口を設けた導入部の下方に脚部を設けて、同脚部をシリンダボディの前端部上面に当接させることで、注入口に下方の力が作用する際の荷重を的確に支持することができて、リザーバのシリンダボディに対する傾動量を抑制することが可能である。したがって、本発明では、リザーバに上記した脚部を設けるといったシンプルで安価な構成にて、リザーバのシリンダボディへの搭載性を向上させることが可能である。
【0010】
また、本発明の実施に際して、前記シリンダ内孔が連通孔を有する仕切り壁によって前方部位(ストロークシミュレータピストンとシミュレータ部スプリングが配置される部位)と後方部位(マスタシリンダピストン、マスタシリンダ部スプリング、位置決め機構が配置される部位)に区画されている場合には、マスタシリンダピストンの前方移動時に、仕切り壁の連通孔を通して供給されるブレーキ液によって、ストロークシミュレータピストンが前方に移動される。このため、ストロークシミュレータの作動特性をシミュレータ部スプリングとマスタシリンダ部スプリングの両スプリングによって設定することが可能であり、設定の自由度が増してフィーリングの向上を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明によるストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダSMC(以下、実施形態においては、単にマスタシリンダSMCという)を採用した車両の液圧ブレーキ装置を概略的に示していて、この液圧ブレーキ装置は、マスタシリンダSMCと、各車輪を制動するための4個のブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4を備えるとともに、マスタシリンダSMCと各ブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4間に設けた液圧制御装置100を備えている。
【0012】
マスタシリンダSMCは、図1および図2に示したように、車体VBに後端部にて組付けられて前後方向に延びる段付のシリンダ内孔10aを有するシリンダボディ10と、このシリンダボディ10におけるシリンダ内孔10aの前方部位(図示左方)に組付けられたストロークシミュレータピストン21と、シリンダボディ10におけるシリンダ内孔10aの後方部位(図示右方)に組付けられた一対のマスタシリンダピストン31,41を備えるとともに、ストロークシミュレータピストン21を後方に付勢する大小一対のシミュレータ部スプリング22,23と、後方のマスタシリンダピストン(マスタシリンダ第1ピストン)31を後方に付勢するマスタシリンダ第1スプリング32と、前方のマスタシリンダピストン(マスタシリンダ第2ピストン)41を後方に付勢するマスタシリンダ第2スプリング42を備えている。
【0013】
シリンダボディ10は、ブレーキ液を収容するリザーバRに接続される接続ポート11a,11b,11cを有するとともに液圧制御装置100の管路111,112に接続されるアウトレットポート11d,11eを有しかつシリンダ内孔10aを前方部位と後方部位に区画する仕切り壁11fとこの仕切り壁11fに設けた連通孔11gを有するメインボディ11と、このメインボディ11の前方にOリング12を介して液密的に組付けられてCリング13によって抜け止めされたストッパプラグ14と、メインボディ11の後方に一対のOリング15,16を介して液密的に組付けられてスナップリング17によって抜け止めされたガイドスリーブ18によって構成されている。
【0014】
ストロークシミュレータピストン21は、シリンダ内孔10aの前方部位にプレッシャーカップ24を介して液密的かつシリンダ軸方向に移動可能に組付けられていて、前方にシミュレータ室25を形成している。また、ストロークシミュレータピストン21の前端部には、リテーナ26と当接可能な第1ゴムクッション27が組付けられている。小径のシミュレータ部スプリング22は、ストロークシミュレータピストン21とリテーナ26間に介装されていて、セット荷重がf22に設定されている。大径のシミュレータ部スプリング23は、リテーナ26とストッパプラグ14間に介装されていて、セット荷重がf23(f23>f22)に設定されている。なお、ストッパプラグ14の後端部には、リテーナ26と当接可能な第2ゴムクッション28が組付けられている。
【0015】
シミュレータ室25は、接続ポート11cを通してリザーバRの液室に連通する液圧室であり、接続ポート11cとリザーバRを接続する管路(図示省略)中には、液圧制御装置100の正常時に開き液圧制御装置100の異常時に閉じる常閉型の開閉弁(図示省略)が介装されている。このため、シミュレータ室25は、液圧制御装置100の正常時において容積が増減可能であり、液圧制御装置100の異常時において容積が増減不能である。なお、上記した開閉弁(図示省略)の開閉作動は、後述する電気制御装置ECUによって制御されるように構成されている。
【0016】
マスタシリンダ第1ピストン31は、ガイドスリーブ18内にプライマリーカップ33とプレッシャーカップ34を介して液密的かつシリンダ軸方向に移動可能に組付けられていて、前方に第1マスタ液圧室35を形成し、プライマリーカップ33とプレッシャーカップ34間に大気圧室36を形成している。このマスタシリンダ第1ピストン31は、前端部外周に形成したフックにてガイドスリーブ18の段部に前方へ離脱可能に係合していて、ホルダ51とロッド52を介してブレーキ操作部材としてのブレーキペダル53に連結されており、ブレーキペダル53の動きに応じて前後動するように構成されている。なお、ブレーキペダル53の動きは、ストロークセンサSSによって検出されて電気制御装置ECUに入力されるように構成されている。
【0017】
マスタシリンダ第1スプリング32は、第1マスタ液圧室35に設けられていて、第1位置決め機構60のリテーナ61とストッパ62間に介装されており、セット荷重がf32に設定されている。第1位置決め機構60は、マスタシリンダ第1ピストン31とマスタシリンダ第2ピストン41間の初期離間距離を規定して、マスタシリンダ第1ピストン31の初期位置(図示復帰位置)を規定するものであり、第1マスタ液圧室35内に介装されていて、マスタシリンダ第1ピストン31に組付けたリテーナ61と、マスタシリンダ第2ピストン41と係合するストッパ62と、リテーナ61に対して固定されストッパ62に対して図示位置から前方に所定量移動可能に組付けられたロッド63によって構成されている。
【0018】
第1マスタ液圧室35は、マスタシリンダ第1ピストン31に設けた径方向の連通孔31aとプライマリーカップ33を通して大気圧室36に連通する液圧室であり、マスタシリンダ第1ピストン31が図示位置から前方に移動して、連通孔31aと大気圧室36の連通がプライマリーカップ33によって遮断されることにより、大気圧室36との連通が遮断されて密閉されるように構成されている。大気圧室36は、接続ポート11aに常時連通する液圧室であり、リザーバRの液室に常時連通している。
【0019】
マスタシリンダ第2ピストン41は、メインボディ11内にプライマリーカップ43とプレッシャーカップ44を介して液密的かつシリンダ軸方向に移動可能に組付けられていて、前方に第2マスタ液圧室45を形成し、プライマリーカップ43とプレッシャーカップ44間に大気圧室46を形成している。このマスタシリンダ第2ピストン41は、マスタシリンダ第1スプリング32と第1位置決め機構60を介してマスタシリンダ第1ピストン31に係合していて、ブレーキペダル53の動きに応じてマスタシリンダ第1ピストン31とともに前後動するように構成されている。なお、マスタシリンダ第2ピストン41の受圧面積は、マスタシリンダ第1ピストン31の受圧面積と同じである。
【0020】
マスタシリンダ第2スプリング42は、第2マスタ液圧室45に設けられていて、第2位置決め機構70のリテーナ71とストッパ72間に介装されており、セット荷重がf42に設定されている。第2位置決め機構70は、マスタシリンダ第2ピストン41の復帰位置を規定するものであり、第2マスタ液圧室45内に介装されていて、マスタシリンダ第2ピストン41に組付けたリテーナ71と、仕切り壁11fと係合するストッパ72と、リテーナ71に対して固定されストッパ72に対して図示位置から前方に所定量移動可能に組付けられたロッド73によって構成されている。
【0021】
第2マスタ液圧室45は、マスタシリンダ第2ピストン41に設けた径方向の連通孔41aとプライマリーカップ43を通して大気圧室46に連通する液圧室であり、マスタシリンダ第2ピストン41が図示位置から前方に移動して、連通孔41aと大気圧室46の連通がプライマリーカップ43によって遮断されることにより、大気圧室46との連通が遮断され密閉されるように構成されている。大気圧室46は、接続ポート11bに常時連通する液圧室であり、リザーバRの液室に常時連通している。また、第2マスタ液圧室45は、仕切り壁11fに設けた連通孔11gを通してストロークシミュレータピストン21の後方に形成された液圧室に連通している。
【0022】
ところで、このマスタシリンダSMCにおいては、シリンダボディ10におけるシリンダ内孔10aの前方部位に、ストロークシミュレータピストン21とシミュレータ部スプリング22,23を配置し、シリンダボディ10におけるシリンダ内孔10aの後方部位に、マスタシリンダピストン31,41、マスタシリンダ部スプリング32,42、位置決め機構60,70を配置する構成が採用されている。
【0023】
また、このマスタシリンダSMCにおいては、シリンダボディ10の上部に組付けられるリザーバRとして、接続ポート11aにグロメット81を介して液密的に接続される接続部Raと、接続ポート11bにグロメット82を介して液密的に接続される接続部Rbと、クリップ83を介してシリンダボディ10に連結される取付部Rcを有するとともに、車体VBのカウル部VBaより前方に配置される注入口Rdと、この注入口Rdを設けた導入部の下方に設けた脚部Reを有するリザーバが採用されていて、脚部Reの下端はシリンダボディ10の前端部上面に当接している。
【0024】
また、このマスタシリンダSMCにおいては、シリンダボディ10に連通孔11gを有する仕切り壁11fが設けられていて、この仕切り壁11fによってシリンダ内孔10aが前方部位と後方部位に区画されている。また、ストロークシミュレータピストン21の受圧面積(ストロークシミュレータピストン21が組付けられる部分のシリンダ内孔10aの直径)が両マスタシリンダピストン31,41の受圧面積(マスタシリンダピストン31,41が組付けられる部分のシリンダ内孔10aの直径)に比して小さく設定されている。
【0025】
液圧制御装置100は、それ自体公知のものであり、マスタシリンダSMCと各ブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4を接続する2系統のブレーキ液圧回路110(管路111,112)を備えるとともに、一対の分離弁V1,V2、外部液圧供給源P、圧力制御弁装置Voおよび電気制御装置ECUを備えている。
【0026】
一方の分離弁V1は、常開型の2ポート2位置開閉弁であり、マスタシリンダSMCの第1マスタ液圧室35と両ブレーキホイールシリンダHC1,HC2間を接続する管路111に介装されていて、管路111を連通・遮断可能であり、電気制御装置ECUによって開閉作動を制御されている。他方の分離弁V2は、常開型の2ポート2位置開閉弁であり、マスタシリンダSMCの第2マスタ液圧室45と両ブレーキホイールシリンダHC3,HC4間を接続する管路112に介装されていて、管路112を連通・遮断可能であり、電気制御装置ECUによって開閉作動を制御されている。
【0027】
外部液圧供給源Pは、両分離弁V1,V2が遮断状態にあるときに圧力制御弁装置Voを介して各ブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4に液圧を供給可能なものであり、電気制御装置ECUによって作動を制御される電気モータ121、この電気モータ121によって駆動される液圧ポンプ122およびこの液圧ポンプ122から吐出される圧液を貯えるアキュムレータ123を備えている。
【0028】
圧力制御弁装置Voは、両分離弁V1,V2が遮断状態にあるときに外部液圧供給源Pから各ブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4に供給される液圧をそれぞれ制御する各種の制御弁(図示省略)を有していて、これらの制御弁が電気制御装置ECUによって作動を制御されることにより、通常ブレーキコントロール、アンチスキッドコントロールまたはトラクションコントロールがなされる。なお、電気制御装置ECUには、通常ブレーキコントロール、アンチスキッドコントロールまたはトラクションコントロールに必要な種々な検出信号が入力されるように構成されている。
【0029】
上記のように構成したこの実施形態においては、通常ブレーキコントロール時、液圧制御装置100が正常であれば、ブレーキペダル53が踏み込まれると、電気制御装置ECUによって両分離弁V1,V2が遮断状態とされかつ接続ポート11cとリザーバRを接続する管路に介装した開閉弁(図示省略)が連通状態とされて、ブレーキペダル53の動きに応じて、外部液圧源Pから供給される液圧が圧力制御弁装置Voによって調圧されて、各ブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4へ供給される。
【0030】
また、通常ブレーキコントロール時、液圧制御装置100が異常であれば、ブレーキペダル53が踏み込まれると、電気制御装置ECUによって両分離弁V1,V2が連通状態とされかつ接続ポート11cとリザーバRを接続する管路に介装した開閉弁(図示省略)が遮断状態とされて、ブレーキペダル53の操作力に応じた液圧がマスタシリンダSMCの各マスタ液圧室35,45から各ブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4に供給される。
【0031】
ところで、この実施形態のマスタシリンダSMCにおいては、ストロークシミュレータが、シリンダボディ10におけるシリンダ内孔10aの前方部位にてシリンダ軸方向に移動可能に組付けられて前方にシミュレータ室25を形成するストロークシミュレータピストン21と、シミュレータ室25に設けられてストロークシミュレータピストン21を後方に付勢するシミュレータ部スプリング22を備えていて、液圧制御装置100の正常時、すなわち、マスタシリンダSMCの各マスタ液圧室35,45と各ブレーキホイールシリンダHC1,HC2,HC3,HC4との連通が遮断されているときには、ストロークシミュレータピストン21がシミュレータ部スプリング22に抗して前方に移動することで、ブレーキペダル53に対しブレーキ操作力に応じたストロークが発生するように構成されている。
【0032】
また、ストロークシミュレータピストン21が、一対のマスタシリンダピストン31,41の前方に設けられ、マスタシリンダピストン31,41とストロークシミュレータピストン21がブレーキペダル53の動きに応じて前後動するように構成されている。このため、液圧制御装置100の正常時には、ブレーキペダル53が前方に移動するとき、一対のマスタシリンダピストン31,41が前方に移動するとともに、第2マスタ液圧室45から仕切り壁11fの連通孔11gを通してストロークシミュレータピストン21の後方に形成された液圧室にブレーキ液が流れて、ストロークシミュレータピストン21が小径のシミュレータ部スプリング22に抗して前方に移動する。なお、この作動によって小径のシミュレータ部スプリング22の荷重が大径のシミュレータ部スプリング23のセット荷重以上になると、ストロークシミュレータピストン21が一対のマスタシリンダピストン31,41と一体で両シミュレータ部スプリング22,23に抗して前方に移動する。
【0033】
また、この実施形態のマスタシリンダSMCにおいては、車体VBのカウル部VBaより前方に配置される注入口Rdを有するとともに、注入口Rdを設けた導入部の下方に脚部Re設けたリザーバRが採用されている。このため、車体VBへの取付部であるシリンダボディ10の後端部の上方からリザーバRの上方に向けて車体VBのカウル部VBaが延出する車両(図1参照)に当該マスタシリンダSMCを適用する場合、カウル部VBaの前方にリザーバRの注入口Rdを配置する必要があって、リザーバRの注入口Rdに至る導入部をカウル部VBaの前方にまで延ばして配置する必要があり、リザーバRのシリンダボディ10との取付部Rcから注入口Rdまでの前後方向長さが長くなるものの、リザーバRの注入口Rdを設けた導入部の下方に脚部Reを設けて、同脚部Reをシリンダボディ10の前端部上面に当接させることで、注入口Rdに下方の力が作用する際の荷重を的確に支持することができて、リザーバRのシリンダボディ10に対する傾動量を抑制することが可能である。したがって、リザーバRに上記した脚部Reを設けるといったシンプルで安価な構成にて、リザーバRのシリンダボディ10への搭載性を向上させることが可能である。
【0034】
また、この実施形態のマスタシリンダSMCにおいては、シリンダ内孔10aが連通孔11gを有する仕切り壁11fによって前方部位(ストロークシミュレータピストン21とシミュレータ部スプリング22,23が配置される部位)と後方部位(マスタシリンダピストン31,41、マスタシリンダ部スプリング32,42、位置決め機構60,70が配置される部位)に区画されているため、マスタシリンダピストン31,41の前方移動時に、仕切り壁11fの連通孔11gを通して供給されるブレーキ液によって、ストロークシミュレータピストン21が前方に移動される。このため、ストロークシミュレータ21の作動特性をシミュレータ部スプリング22,23とマスタシリンダ部スプリング42によって設定することが可能であり、設定の自由度が増してフィーリングの向上を図ることが可能である。
【0035】
上記実施形態においては、ストロークシミュレータピストン21の受圧面積がマスタシリンダピストン31,41の受圧面積に比して小さく設定されている場合について説明したが、本発明の実施に際しては、ストロークシミュレータピストンの受圧面積がマスタシリンダピストンの受圧面積と同一に設定されていてもよく、また、ストロークシミュレータピストンの受圧面積がマスタシリンダピストンの受圧面積に比して大きく設定されていてもよい。
【0036】
なお、ストロークシミュレータピストンの受圧面積がマスタシリンダピストンの受圧面積と同一に設定されている場合には、マスタシリンダピストンの前方への移動によってマスタ液圧室がリザーバとの連通を遮断されて密閉された後においても、ストロークシミュレータピストンがマスタシリンダピストンと一体で移動するため、ブレーキペダルが前方に移動する中期および後期においても初期と同様の作動が得られる。
【0037】
また、ストロークシミュレータピストンの受圧面積がマスタシリンダピストンの受圧面積に比して大きく設定されている場合には、マスタシリンダピストンの前方への移動によってマスタ液圧室がリザーバとの連通を遮断されて密閉された後に、マスタシリンダピストンの前方への移動量に比してストロークシミュレータピストンの前方への移動量が少なくなる。このため、この場合には、ストロークシミュレータ部分の軸方向長さを、ストロークシミュレータピストンの受圧面積をマスタシリンダピストンの受圧面積と同一に設定する場合に比して、短縮することができる。
【0038】
また、上記した実施形態においては、接続ポート11cとリザーバRの液室を接続する管路中(図示省略)に、液圧制御装置100の正常時に開き液圧制御装置100の異常時に閉じる常閉型の開閉弁(図示省略)を介装して、液圧制御装置100の異常時には、シミュレータ室25の容積が増減不能となるように構成したが、本発明の実施に際しては、当該常閉型の開閉弁にて仕切り壁11fの連通孔11gを開閉可能に構成して実施することも可能である。なお、当該常閉型の開閉弁にて仕切り壁11fの連通孔11gを開閉可能に構成した場合において、接続ポート11cとリザーバRを接続する管路と、接続ポート11cを無くして、シミュレータ室(25)を空気室として実施することも可能である。
【0039】
また、上記した実施形態においては、連通孔11gを有する仕切り壁11fを設けて実施したが、この仕切り壁11fを無くして、図3に示した実施形態のように構成して実施することも可能である。図3に示した実施形態では、第2位置決め機構70のストッパ72がストロークシミュレータピストン21と係合している。また、図3に示した実施形態では、小径のシミュレータ部スプリング22のセット荷重f22が大径のシミュレータ部スプリング23のセット荷重f23に比して小さく、また、大径のシミュレータ部スプリング23のセット荷重f23が両マスタシリンダ部スプリング32,42のセット荷重f32,f42に比して小さく設定され、両マスタシリンダピストン31,41とストロークシミュレータピストン21がブレーキペダル53の動きに応じて前後動するように構成されている。
【0040】
このため、図3に示した実施形態では、液圧制御装置100の正常時において、ブレーキ操作力に応じたストロークを発生する際に、一対のマスタシリンダピストン31,41とストロークシミュレータピストン21が一体で同時に移動を開始し、その後は、ストロークシミュレータピストン21がフルストロークするまで一対のマスタシリンダピストン31,41とストロークシミュレータピストン21が前方に移動し続けるため、マスタシリンダピストンが前方に移動する状態から前方に移動しない状態に切り替わるといった作動の切り替わりが生じなくて、操作フィーリングを改善することが可能である。
【0041】
また、上記した両実施形態においては、シミュレータ室25に設けた小径のシミュレータ部スプリング22と大径のシミュレータ部スプリング23によってストロークシミュレータピストン21を後方に付勢するように構成して実施したが、ストロークシミュレータピストン21を後方に付勢するシミュレータ部スプリングの構成(個数、形状、配置)は適宜変更可能であり、上記実施形態に限定されるものではない。
【0042】
また、上記した両実施形態においては、マスタシリンダピストンと、マスタシリンダ部スプリングと、位置決め機構がそれぞれ一対であるタンデムマスタシリンダに本発明を実施したが、本発明はマスタシリンダピストンと、マスタシリンダ部スプリングと、位置決め機構がそれぞれ単一であるシングルマスタシリンダにも同様にあるいは適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダを採用した車両の液圧ブレーキ装置を概略的に示した全体構成図である。
【図2】図1に示したストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダの縦断側面図である。
【図3】本発明によるストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダの他の実施形態を示した図2相当の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0044】
10…シリンダボディ、10a…シリンダ内孔、11f…仕切り壁、11g…連通孔、21…ストロークシミュレータピストン、22,23…シミュレータ部スプリング、25…シミュレータ室、31,41…マスタシリンダピストン、32,42…マスタシリンダ部スプリング、35,45…マスタ液圧室、53…ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、60,70…位置決め機構、R…リザーバ、Ra…接続部、Rb…接続部、Rc…取付部、Rd…注入口、Re…脚部、VB…車体、VBa…カウル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に後端部にて組付けられて前後方向に延びるシリンダ内孔を有するシリンダボディと、このシリンダボディの上方に組付けられるリザーバと、前記シリンダボディにおける前記シリンダ内孔の前方部位にてシリンダ軸方向に移動可能に組付けられて前方にシミュレータ室を形成するストロークシミュレータピストンと、前記シリンダボディにおける前記シリンダ内孔の後方部位にてシリンダ軸方向に移動可能に組付けられて前方に前記リザーバの液室に対して連通・遮断されるマスタ液圧室を形成するマスタシリンダピストンと、前記シミュレータ室に設けられて前記ストロークシミュレータピストンを後方に付勢するシミュレータ部スプリングと、前記マスタ液圧室に設けられて前記マスタシリンダピストンを後方に付勢するマスタシリンダ部スプリングと、前記マスタ液圧室内に介装されて前記マスタシリンダピストンの初期位置を規定する位置決め機構を備えていて、前記マスタシリンダピストンと前記ストロークシミュレータピストンがブレーキ操作部材の動きに応じて前後動するように構成されているストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダ。
【請求項2】
請求項1に記載のストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダにおいて、前記シリンダ内孔は連通孔を有する仕切り壁によって前方部位と後方部位に区画されていることを特徴とするストロークシミュレータ内蔵マスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126037(P2010−126037A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304025(P2008−304025)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】