説明

スパッタリング装置用の交流電源

【課題】各電極の極性反転時に発生する過電圧を抑制することで、アーク放電の誘発を防止することができるスパッタリング装置用の交流電源を提供する。
【解決手段】直流電力供給源1からの正負の直流出力ライン2a、2b間に、複数のスイッチングトランジスタSW1乃至SW4から構成されるブリッジ回路3を設ける。直流電力供給源1からブリッジ回路3への正負の直流出力ライン2a、2bの少なくとも一方に、直流出力を定電流特性とするインダクタDCLを設け、ブリッジ回路3の入力3a、3bに対して並列にスナバ回路7を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置にバイポーラパルス状に電力供給するスパッタリング装置用の交流電源に関する。
【背景技術】
【0002】
バイポーラパルス状に電力供給する交流電源は、例えば処理基板表面に所定の薄膜を形成するスパッタリング装置に用いられる。この種の交流電源として、直流電力供給源と負荷との間に設けられた4個のスイッチング素子(MOSFET)からなるブリッジ回路を備えたものが知られている。このブリッジ回路の各スイッチング素子を適宜作動させて、出力端(電極)である一対のターゲットに対し所定の周波数で交互に極性を反転させて任意のパルス電圧を印加すると、各ターゲットの極性がアノード電極とカソード電極で交互に切り換えられる。これにより、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマを生成し、各ターゲットをスパッタリングする(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなグロー放電中では、何らかの原因によりアーク放電(異常放電)が発生することが知られている。アーク放電が発生すると、プラズマ(負荷)のインピーダンスが急激に小さくなるため、急激な出力電圧の低下が起こり、それに伴って出力電流が急激に増加する。ここで、ターゲットが、特にアルミニウム等の金属製である場合、高いアーク電流値のアーク放電がターゲット間で局所的に発生すると、ターゲットが溶かされて放出されたものが処理基板表面に付着するというパーティクルやスプラッシュ(数μm〜数百μmの塊)が発生し、良好な成膜ができない。
【0004】
ところで、一般に直流電力供給源からの出力は定電圧特性を有しているため、インダクタンス成分より、容量成分(キャパシタンス成分)が支配的になっている。このため、アーク放電の発生時に、プラズマ負荷側のインピーダンスが小さくなる(場合によっては、数オーム以下まで小さくなる)ことで、出力とプラズマ(負荷)とが結合されて容量成分から急激に出力側に放出される。その結果、電流上昇を効率良く抑制できず、短時間(数μSの間)で過電流が流れる(つまり、アーク放電発生時の単位時間当たりの電流上昇率が高い)という問題がある。
【0005】
このような問題の解決策の1つとして、プラズマのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するインダクタを、直流電力供給源からブリッジ回路への正負の出力のうち少なくとも一方に設け、このインダクタによって直流電力供給源からの出力を定電流特性とすることが考えられる。
【0006】
しかし、直流電力供給源からの出力をインダクタにより定電流特性とすると、プラズマ負荷がインダクタンス成分を有するため、各電極の極性反転時にプラズマ負荷に電流が急激に流れ込むので、その際にスパイク状の過電圧が生じる。このような過電圧は、アーク放電を誘発する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3639605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、各電極の極性反転時に発生する過電圧を抑制することで、アーク放電の誘発を防止することができるスパッタリング装置用の交流電源を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、直流電力供給源と、この直流電力供給源からの正負の直流出力間に接続された複数のスイッチング素子から構成されるブリッジ回路を備え、前記ブリッジ回路の各スイッチング素子の切り換えにより、プラズマに接触する一対の電極に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力を供給するスパッタリング装置用の交流電源において、前記プラズマのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するインダクタを、前記直流電力供給源から前記ブリッジ回路への正負の直流出力のうち少なくとも一方に設け、前記ブリッジ回路の入力に対して並列にスナバ回路を設けたことを特徴とする。
【0010】
本発明では、プラズマのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するインダクタを、直流電力供給源からブリッジ回路への正負の出力のうち少なくとも一方に設けることで、アーク放電発生時の電流上昇を制限することができる。
【0011】
ここで、直流電力供給源からの出力をインダクタにより定電流特性とすると、電極と容量結合しているプラズマ負荷がインダクタンス成分を有するため、各電極の極性反転時にプラズマ負荷に電流が急激に流れ込むのでスパイク状の過電圧が生じる。このような過電圧は、アーク放電を誘発する虞がある。本発明では、各電極の極性反転時の出力電流の立ち上がりをスナバ回路により効果的に制限することで、各電極の極性反転時に発生する過電圧を効果的に抑制でき、アーク放電の誘発を防止することができる。
【0012】
本発明において、前記スナバ回路は、前記インダクタと前記ブリッジ回路の間に設けられ、相互に直列に接続されたダイオード及びコンデンサと、前記ダイオードに対して並列な抵抗とによって構成することができる。
【0013】
この構成によれば、各電極の極性反転時に、直流電力供給源からの電流がプラズマ負荷のインダクタンスに急激に流れ込むことなくスナバ回路のコンデンサに流れ込み充電され、この充電電流によりスナバ回路のコンデンサの電圧が徐々に上がり、このコンデンサ電圧に応じて出力電流が緩やかに立ち上がるので、各電極の極性反転時に発生する過電圧が効果的に抑制される。
【0014】
本発明において、前記スナバ回路は、前記インダクタと前記ブリッジ回路の間に設けられ、相互に直列に接続されたダイオード及びコンデンサと、一端が前記ダイオードと前記コンデンサの間に接続され、他端が前記直流電力供給源と前記インダクタの間に接続された抵抗とによって構成するようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、アーク発生時にもスナバ回路のコンデンサからの放電電流がインダクタを流れるため、スナバ回路の抵抗の抵抗値を小さくすることができる。従って、上記構成で得られる効果に加え、スナバ回路のコンデンサの初期電圧を低くすることができ、上記過電圧を更に低く抑制することができるという効果が得られるので、スナバ回路の損失を下げることができ、当該交流電源の効率を高くすることができる。
【0016】
また、何らかの原因により全てのスイッチング素子がオフとなった場合、インダクタを流れる電流が急激に遮断されるため、過電圧が発生し、この過電圧によってスイッチング素子が故障する可能性がある。そこで、通常は、互いに直列に接続されたダイオードと抵抗とから構成されるフライホイール回路を、スイッチング素子を保護する保護回路として設ける必要がある。本発明の構成によれば、インダクタを流れる電流の急激な変化が生じたとしても、インダクタの持つエネルギーがスナバ回路のダイオード及び抵抗を通して放出されるため過電圧が発生しない。従って、本発明のスナバ回路がスイッチング素子を保護するフライホイール回路として役割を果たすため、フライホイール回路を省略することができ、コストを抑えることができる。
【0017】
また、本発明において、前記ブリッジ回路の各スイッチング素子を切り換える際に前記直流電力供給源の直流出力を短絡させるためのスイッチング素子を更に設けてもよい。これにより、バイポーラパルス状の電力供給の際、スイッチング損失を1個の出力短絡用のスイッチング素子のみで発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態による交流電源E1の構成を概略的に示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態による交流電源E1の出力制御を説明するための図である。
【図3】交流電源E1の一方の電極への出力電圧及び出力電流の波形を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態による交流電源E2の構成を概略的に示す図である。
【図5】交流電源E2の一方の電極への出力電圧及び出力電流の波形を説明するための図である。
【図6】本発明の変形例による交流電源E3の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態による交流電源E1の構成を説明する。この交流電源E1は、例えばスパッタリング装置S内の処理基板に対向させて配置され、プラズマ負荷Pに接触する電極である一対のターゲットT1,T2に対し、所定の周波数でバイポーラパルス状に電力を供給するために用いられるACパルス電源である。ここで、プラズマ負荷Pは、等価回路5によって表すことができる。この等価回路5は、インダクタンス値が20μH〜30μHであるインダクタンス成分Lpを有し、一対のターゲットT1、T2と容量結合している。
【0021】
交流電源E1は直流電力供給源1を備え、この直流電力供給源1は、例えば500VのDC電圧を出力するDC電源によって構成される。直流電力供給源1からの正負の出力ライン2a、2b間には、4個のスイッチングトランジスタSW1乃至SW4からなるブリッジ回路3が設けられている。
【0022】
ブリッジ回路3の各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4のオン、オフの切り換えは、図示省略するドライバー回路によって制御される。例えば、第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4と、第2及び第3のスイッチングトランジスタSW2、SW3とのオン、オフのタイミングが反転するように切り換え制御すると、ブリッジ回路3からの出力ライン4a、4bを介して一対のターゲットT1,T2にバイポーラパルス状に電力供給される。
【0023】
ここで、上記構成の交流電源E1において、直流電力供給源1から電力を供給した状態で各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4を切り換える場合に、それらのスイッチング損失が多大となる。このため、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の耐久性が向上するような構成を設ける必要がある。本実施の形態では、直流電力供給源1からの正負の出力ライン2a,2b間に、出力短絡用のスイッチングトランジスタSW5が設けられている。このスイッチングトランジスタSW5が短絡状態(オン)で、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4の切り換えが行われる。
【0024】
つまり、図2に示すように、一対のターゲットT1、T2にバイポーラパルス状に電力を供給する場合、例えば、時刻t1においてスイッチングトランジスタSW5を短絡状態(オン)とする。この短絡状態により、それまでプラズマ負荷Pに流れていた電流が短絡経路6に流れ込むため、電流がプラズマ負荷Pをバイパスして流れる。
【0025】
そして、スイッチングトランジスタSW5が短絡状態である時刻t2において、第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4をオフし、その後の時刻t3において、第2及び第3のスイッチングトランジスタSW2、SW3をオンする。その後、時刻t4においてスイッチングトランジスタSW5の短絡状態を解除(オフ)する。この短絡状態の解除により、それまで短絡経路6を流れていた電流が、スイッチングトランジスタSW3、プラズマ負荷P、スイッチングトランジスタSW2の順に流れるため、負の極性の出力電流が立ち上がる。ここで、スイッチングトランジスタSW5のオン期間(図2に示す時刻t1〜t4)は、例えば、数μsecである。
【0026】
次に、時刻t5においてスイッチングトランジスタSW5を再度短絡することで、プラズマ負荷Pをバイパスして短絡経路6に電流が流れ込む。そして、時刻t6において第2及び第3のスイッチングトランジスタSW2、SW3をオフし、その後の時刻t7において第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4をオンする。その後、時刻t8においてスイッチングトランジスタSW5の短絡状態をオフする。これにより、それまで短絡経路6を流れていた電流が、スイッチングトランジスタSW1、プラズマ負荷P、スイッチングトランジスタSW4の順に流れるため、正の極性の出力電流が立ち上がる。
【0027】
尚、図2に示す例では、スイッチングトランジスタSW1乃至SW4のオフ、オンを異なるタイミングで行っているが、同じタイミングで行ってもよい。また、第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4をオンからオフに、第2及び第3のスイッチングトランジスタSW2、SW3をオフからオンに各々切り換える場合、第1及び第4のスイッチングトランジスタをオフする前に第2及び第3スイッチングトランジスタSW2、SW3をオンし、その後に第1及び第4のスイッチングトランジスタSW1、SW4をオフしてもよい。つまり、スイッチングトランジスタSW5を用いる代わりに、4個のスイッチングトランジスタSW1乃至SW4を全てオンにすることで短絡状態を形成してもよい。
【0028】
そして、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4のオン、オフのタイミングが反転する上記制御を繰り返すことで、一対のターゲットT1、T2の間に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力供給する。その際、所定圧力に保持されたスパッタリング装置S内にArなどのスパッタガスを導入した状態で、所定の周波数で交互に極性を変えて電力投入される一対のターゲットT1、T2がアノード電極、カソード電極に交互に切り換わり、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマが形成され、各ターゲットT1、T2をスパッタリングできる。このとき、ターゲットT1、T2へ出力する際に発生するスイッチング損失は、短絡用のスイッチングトランジスタSW5のみで発生し、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4では殆ど発生しない。
【0029】
ここで、従来の交流電源のように、直流電力供給源からの定電圧特性を有する出力をターゲットT1,T2に供給すると、グロー放電中に何らかの原因でアーク放電が発生したときにプラズマ負荷側のインピーダンスが小さくなり、大きなアーク電流が発生する。
【0030】
本実施の形態では、このようなアーク電流の発生を抑制するため、正の出力ライン2aに、プラズマPのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値(例えば、5mH)を有するインダクタ(直流リアクトル)DCLを設け、このインダクタDCLにより直流電力供給源1からの出力を定電流特性とした。直流電力供給源1からの出力を定電流特性とするためには、このインダクタDCLのインダクタンス値を1mH以上とすればよい。インダクタDCLを正の出力ライン2aに設けることで、アーク放電発生時の電流上昇率を抑えることができるため、アーク電流の発生を抑制することができる。
【0031】
尚、本実施の形態では、インダクタDCLを正の出力ライン2aに設けているが、これに限定されるものではなく、負の出力ライン2bまたは正負の出力ライン2a、2bに各々設けてもよい。
【0032】
出力ライン2aにインダクタDCLを設けた場合、上述したように、各スイッチングトランジスタSW1乃至SW4を所定の周波数(例えば、5kHz)で切り換えるとき、つまり、各ターゲットT1、T2の極性を反転させるときには、短絡用のスイッチングトランジスタSW5がオン、オフされる。スイッチングトランジスタSW5がオフされると、出力電流が立ち上がる。つまり、スイッチングトランジスタSW5がオフされる直前まで短絡されていた電流が、ターゲットT1、T2と容量結合しているプラズマ負荷Pに流れ込む。プラズマ負荷Pはインダクタンス成分Lpを有するため、急激に電流が流れ込むとスパイク状(定常値の2倍近い値)の過電圧が生じる。このような過電圧は、アーク放電を誘発する虞がある。
【0033】
本実施の形態では、各ターゲットT1、T2の極性反転時の出力電流の立ち上がりを抑制してスパイク状の過電圧を抑制するために、ブリッジ回路3の入力3a、3bに対して並行にスナバ(Snubber)回路7を設けた。このスナバ回路7は、インダクタDCLとブリッジ回路3との間に設けられ、かつ、相互に直列に接続されたスナバダイオードDs及びスナバコンデンサCsを備えている。このスナバコンデンサCsの容量が5μF未満である場合には出力電流の立ち上がりを効果的に抑制することができない可能性があり、20μFを超える場合には自由放電が増える可能性があるため、このスナバコンデンサCsの容量は例えば、5μF〜20μFの範囲とするのがよい。さらに、スナバ回路7は、スナバ抵抗RsをスナバダイオードDsに対して並列に備えている。このスナバ抵抗Rsが放電抵抗として機能するため、スナバダイオードDsの電圧が高くなりすぎることを防ぐことができる。
【0034】
本実施の形態のスナバ回路7によれば、各ターゲットT1、T2の極性反転時にスイッチングトランジスタSW5をオフすると、それまで短絡経路6を流れていた電流がスナバダイオードDsを通ってスナバコンデンサCsに流れ込む。そして、このスナバコンデンサCsの充電電圧の上昇に伴って、ターゲットT1,T2を介してプラズマ負荷Pに流れる電流が徐々に立ち上がる。その結果、図3において破線で囲んで示すように(尚、図3では、一方のターゲットでの出力電圧Vc及び出力電流Icの変化のみを示している。)、各ターゲットT1、T2の極性反転時に出力電流Icの立ち上がりが緩やかになり、その結果各ターゲットT1、T2の極性反転時の過電圧が効果的に抑制されるため、アーク放電の誘発を防止することができる。
【0035】
ここで、各ターゲットT1、T2の極性反転時の過電圧を抑制するためには、スナバコンデンサCsの充電電圧が低くなるように、スナバ抵抗Rsの抵抗値を小さくするのが望ましい。その一方で、スナバ抵抗Rsの抵抗値を小さくし過ぎると、プラズマ負荷Pでアーク放電が発生したときに、スナバ抵抗Rsを介して流れるスナバコンデンサCsの放電電流が大きくなり、過大なアークエネルギがプラズマ負荷Pに供給される。本実施の形態では、スナバ抵抗Rsの抵抗値は、例えば20〜50Ωの範囲とするのがよい。
【0036】
次に、図4を参照して、第2の実施の形態の交流電源E2の構成を説明する。この交流電源E2では、スナバ回路7を構成するスナバ抵抗Rsの一端の接続位置が、上記交流電源E1と相違する。つまり、スナバ抵抗Rsの一端が、直流電力供給源1とインダクタDCLの間に接続されている。このスナバ抵抗Rsの他端は、上記交流電源E1と同様に、スナバダイオードDsのカソードとスナバコンデンサCsの間に接続されている。この交流電源E2におけるその他の構成、スイッチングトランジスタSW1乃至SW4及び短絡用スイッチングトランジスタSW5の切り換え制御は、上記交流電源E1と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0037】
本実施の形態の交流電源E2によれば、各ターゲットT1、T2の極性反転時に、スイッチングトランジスタSW5をオフすると、それまで短絡経路6を流れていた電流がスナバダイオードDsを通ってスナバコンデンサCsに流れ込む。そして、上記第1の実施の形態の交流電源E1と同様に、このスナバコンデンサCsの充電電圧の上昇に伴って、ターゲットT1、T2を介してプラズマ負荷Pに流れる電流が徐々に立ち上がる。その結果、図5において破線で囲んで示すように、出力電力Icの立ち上がりが緩やかになり、その結果過電圧が効果的に抑制されるため、アーク放電の誘発を防止することができる。
【0038】
ここで、本実施の形態では、スイッチングトランジスタSW5がオフする直前のスナバコンデンサCsの電圧が、直流電力供給源1の電圧にクランプされるため、上記第1の実施の形態(図3参照)に比してスイッチングトランジスタSW5のオフ後のスナバコンデンサCsの充電電圧がより低くなり、過電圧を更に抑制することができる。
【0039】
また、何らかの原因によりスイッチングトランジスタSW1乃至SW4が全てオフした場合、インダクタDCLを流れる電流が急激に遮断されるため、過電圧が発生し、この過電圧によってスイッチングトランジスタSW1乃至SW4が故障する可能性がある。そこで、通常は、互いに直列に接続されたダイオードと抵抗とから構成されるフライホイール回路を、スイッチングトランジスタSW1乃至SW4を保護する保護回路として設ける必要がある。
【0040】
本実施の形態では、インダクタDCLを流れる電流の急激な変化が生じても、スナバ回路7のスナバダイオードDs及びスナバ抵抗Rsを通してインダクタDCLのエネルギーが放出されるので過電圧が発生しない。従って、スナバ回路7がスイッチングトランジスタSW1乃至SW4を保護するフライホイール回路として役割を果たすため、フライホイール回路を省略することができ、コストを抑えることができる。
【0041】
また、何らかの原因によりプラズマ負荷Pでアーク放電が発生した場合においても、スナバコンデンサCsの放電は、インダクタDCLを介して行われる。このため、スナバ抵抗Rsの抵抗値を小さくしても、スナバコンデンサCsからの放電電流が過大とならない。従って、スナバ抵抗Rsの抵抗値を上記第1の実施の形態よりも小さい例えば数Ω〜10Ωの範囲とすることができる。これにより、スナバコンデンサCsの初期電圧を低くでき、スイッチングコンデンサSW5のオフ後に生じる過電圧を更に低く抑制することができるので、スナバ回路7の損失を上記第1の実施の形態の75%程度に下げることができるため、電源の効率を高めることができるという効果が更に得られる。
【0042】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。例えば、図6に示す交流電源E3のように、2つのスナバ回路7a、7bを直列に接続する構成としてもよい。この交流電源E3では、正負の両出力ライン2a、2bにインダクタDCL1、DCL2がそれぞれ設けられている。そして、スナバ回路7a、7bを構成するスナバダイオードDs及びスナバコンデンサCsの直列回路に対して並行に、スイッチングトランジスタSW5a、SW5bと抵抗R1、R2とがそれぞれ設けられている。これらの抵抗R1、R2は、各スナバ回路7a、7bへの印加電圧を分圧するための分圧抵抗である。この交流電源E3におけるその他の構成、及びスイッチングトランジスタSW1乃至SW4の切り換え制御は、上記交流電源E2と同様であるため、その詳細な説明は省略する。この交流電源E3によれば、上記交流電源E2により得られる効果に加え、スナバ回路7a、7bに耐圧を持たせることができるという効果が更に得られる。
【符号の説明】
【0043】
E1、E2、E3 交流電源
S スパッタリング装置
P プラズマ負荷
T1、T2 ターゲット(電極)
DCL インダクタ
SW5 短絡用のスイッチングトランジスタ
1 直流電力供給源
2a、2b 出力ライン
3 ブリッジ回路
SW1〜SW4 スイッチングトランジスタ
7 スナバ回路
Ds スナバダイオード
Cs スナバコンデンサ
Rs スナバ抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力供給源と、この直流電力供給源からの正負の直流出力間に接続された複数のスイッチング素子から構成されるブリッジ回路を備え、前記ブリッジ回路の各スイッチング素子の切り換えにより、プラズマに接触する一対の電極に所定の周波数でバイポーラパルス状に電力を供給するスパッタリング装置用の交流電源において、
前記プラズマのインダクタンス値よりも大きなインダクタンス値を有するインダクタを、前記直流電力供給源から前記ブリッジ回路への正負の直流出力のうち少なくとも一方に設け、
前記ブリッジ回路の入力に対して並列にスナバ回路を設けたことを特徴とするスパッタリング装置用の交流電源。
【請求項2】
前記スナバ回路は、前記インダクタと前記ブリッジ回路の間に設けられ、相互に直列に接続されたダイオード及びコンデンサと、前記ダイオードに対して並列な抵抗とを備えたことを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置用の交流電源。
【請求項3】
前記スナバ回路は、前記インダクタと前記ブリッジ回路の間に設けられ、相互に直列に接続されたダイオード及びコンデンサと、一端が前記ダイオードと前記コンデンサの間に接続され、他端が前記直流電力供給源と前記インダクタの間に接続された抵抗とを備えたことを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置用の交流電源。
【請求項4】
前記ブリッジ回路の各スイッチング素子を切り換える際に前記直流電力供給源の直流出力を短絡させるためのスイッチング素子を更に備えたことを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載のスパッタリング装置用の交流電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−206905(P2010−206905A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48667(P2009−48667)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】